仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね   作:雨降り

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「龍田さんッ!!絶対に死なないで!!!」

 

目を閉じて、立ち尽くしていた自分の心にこだましたのはそんな言葉だった。轟音を耳にしながら、迫り来る衝撃波に呑み込まれそうになる―――そんなギリギリのところで私は思い出したんだ。

 

―――死ねないッ!

 

私は目を開ける。

そしてついさっきまで諦観していた自分を奮い立たせるように、必死で思考を巡らした。

 

―――なんとか生き残る方法はないか。

 

この身を滅しようと野分が放った――おそらく最大の斬撃…逃げるところなど―――

 

(……あ)

 

そこで私は気が付いた。

そしてすぐに行動に移った。

 

―――やるしかない。

 

私の目に映っていたのは、暴風で粉々に砕かれた窓。

その先には黒煙が舞い、火柱がところ狭しと上がっている。おそらく阿野ちゃんたちが戦っているんだろう…。

 

だからこそ転がるように駆け出した。

そして窓辺に身を乗り出した時―――私はその背中に大きな衝撃を受け、弾き飛ばされた。

 

一瞬、宙を舞う感覚に戸惑う私…だがすぐに理解した。空気がすり抜けるような感触を肌で感じながら、私は手を伸ばした―――何も掴めやしないというのに。

そして迫り来る地表に、私はただただ体を丸めることしか出来なかった。

 

「……ッガァ!!!」

 

…自分の口からこんなにも鈍い音が出るのかと思いながら、私はその身に受けた激しい痛みと衝撃に顔を歪ませる。そして崩落音が私の耳に届いた時、ようやく自分が生きていることを実感した。

 

「阿野ちゃん…青葉ちゃん…」

 

立ち上る猛煙の間に、綺麗な青空が見える。地に完全に背を付けて倒れた私の体は、そんな場違いな―――尊い光景…守るべき日常に身を震わしていた。

 

―――この程度の痛みなら…。

 

私は艦娘だ。

砲弾をその身に受けようと最期まで戦い続けた…誉れ高き艦船の生まれ変わりだ。ならばこんなところで倒れたままというのは―――

 

―――阿野ちゃんたちを守らないと…。

 

私は鈍い音を響かせながら自分の体を起こす。そしてどんな時でも手放さなかった薙刀をしっかりと握り締めると、それで体を支えながら一歩、また一歩と歩みだす。

 

空気が震撼するような爆発音や航空機のエンジン音を耳にしながら、私の進むべきところは決まっていた。だから歩みが止まることはない。

 

「…絶対に守ってみせる」

 

そんな私の小さな呟きは、大きな覚悟を孕んでいた。

 

 

「…ったくよぉ!酷い有り様だぜ、こりゃあ!」

 

俺の言葉に赤城と雲龍が頷く。

その顔はひどく強張ったような表情を浮かべていた。

 

―――まぁ、俺もだけどな。

 

山林を抜け、目の当たりにしたのは黒煙燻る自分たちの鎮守府。木立から見た時とは、その被害の甚大さというのが全く違って見え…これはもう再建不可能なんじゃないかと俺は感じた。

 

絶え間ない爆発音。

黒煙に交じって見え隠れする炎。

瓦解した鎮守府はその内に秘めていた鉄筋コンクリートを剥き出しにして、見るも無残な外観になってしまった。

 

「―――やはり鎮守府の正面で、戦闘が起きているようですね…まずは敵の捕捉、尚且つ迅速な避難ルートの確保が先決です」

 

赤城の凛とした言葉にハッとする。

そして『この時』はまだ無事だった西館の方を指さし、赤城は続けた。

 

「私と雲龍さんで避難ルートを確立、同時に避難誘導を行います。…交戦しているのが同じ鎮守府の仲間であれば、すぐにでも助けに入るべきなのですが―――状況が不透明な上、そうでない可能性のことも考慮するとここは…」

 

「…なーるほど、敵の正体も掴めてないしな…おし!了解だ!戦闘の方は俺に任せときな!」

 

言い淀んでいた赤城の言葉を代弁する。

彼女は凛とした顔をしながらも、どこか心配そうな…申し訳なさそうな顔をしていたが―――なに俺には好都合だ。それに赤城たち空母の航空機の攻撃は、攻撃範囲が馬鹿デカイ―――対して俺は白兵戦で臨むわけだから仲間を守りながら戦うのは俺の方が向いてるだろう。

 

「…申し訳ありません、天龍さん」

 

赤城は俺に一礼すると、すぐに雲龍を引き連れて鎮守府の西館へと走って行った。

 

「…さてと」

 

俺は剣を持つ手に力を込めると、呟いた。

 

「ヒトの鎮守府で―――しかも俺抜きで好き勝手暴れやがって―――俺が直々にブッ飛ばしてやるよ」

 

そのまま俺は剣を力一杯薙ぎ払うと、鎮守府の正面玄関の方へと走りだす―――

 

―――はずだった……。

 

轟音と共に、突如として天高くそびえる光の柱が鎮守府のど真ん中に顕現する。激しい閃光に思わず目を瞑りそうになるが、間髪入れずにその光が横倒し―――西館の方へ倒れるのを見て、俺は叫んでいた。

 

「……っお、おい!!!」

 

俺の叫びも虚しく…それは赤城たちが走って行った西館へと直撃した。大きな崩落音を轟かせながら、ガタガタと崩れ落ちる西館。俺はその光景を呆然と眺めていた。

 

―――そして感じた。

 

体の震えを。

まるで全身の血が煮えたぎるような…強い衝動に俺は駆られる。走り出しそうになる。

 

―――上等じゃねぇか。

 

俺は崩れ逝く西館へ向かって全速力で駆け出した。

 

―――赤城たちは死んでねぇ!この程度の攻撃…数々の修羅場を乗り越えてきた俺たちなら…絶対!

 

どうしてそんなことを言い切れるかなんて野暮なことは聞くな。ただ俺と赤城、そしてこの鎮守府の同胞なら絶対にこの異常事態を乗り切れると俺は確信していた。

 

「…赤城の言う通りだぜ」

 

俺は小さく笑みを溢す。

 

―――赤城が避難誘導をかって出たのは、なにも自分の航空攻撃が仲間を危険に晒すからだけではないのだろう…俺という存在をよく分かってやがる。

 

絶体絶命―――

 

―――そんな状況だからこそ俺は笑う。

 

「三銃士の意地見せてやるよォ!!!」

 

 

「生きていたのか!」

 

嬉しそうな笑みを浮かべながら、そんなことを面と向かって言われれば、誰もが死に別れたと思っていた仲間との再会を思い浮かべるだろう。

 

だが今回の場合それは当てはまらない。

 

龍田は背筋に嫌な汗をかきながらも、手に持った薙刀を大きく横に薙ぎ払った。土煙が上がり、一瞬対峙していた者の浮かべる恍惚の視線から逃れることに成功したがだからどうだと言うのだ…状況は変わらない。

 

「…龍田と言ったな?私の最大の一撃を一体どうやって回避したかは知らないが―――それは称賛に値することだ。そしてそんな貴様に私はしっかりと敬意を払わなければならない…この意味が分かるな?」

 

―――正直、何を言っているのかは不明だが…。

 

龍田は身構える。

そして目を閉じ、息を整えた。

そして自分の心音が直接耳にこだまするのを感じながら、ゆっくりと目を開いた。

 

「あぁ!貴様のその弱々しい姿…脆弱な姿は私の嗜好に合わない―――だが貴様の心…そこまでなりながらも私へと戦いを挑む―――戦いに身を投じる姿は私の愛刀で斬るに値する―――いや斬らなければならないのだ」

 

大きく両手を広げ、それは饒舌に語る野分。

そして直後―――龍田の目には、戦いに悦びを感じる戦闘狂がその手に持った刀から一気に光を放出し、伸縮させる姿が映った。

 

「…ッああああ!!!!」

 

斬り刻まれていく体。

斬られる度に鮮やかな血が飛び散り、痛みに龍田は苦悶の表情を浮かべる。

だがなんとか防御姿勢を取りながら、野分の元へとジリジリと歩み寄る。一歩、また一歩と着実に。

 

そして野分に近付くにつれ、その斬撃は鋭いものになっていく。それでも龍田は…何度もよろめきそうになりながらも、歯を食い縛りながら前へと進んだ。

 

伸縮自在な光は確実に龍田の体力を奪っていく。

 

―――龍田の信念が勝つか、無慈悲な閃光が勝つか。

 

結果は明らかだった。

 

「…あああああぁぁぁッ!!!」

 

遂に野分の猛攻を前に、龍田は前進することが出来なくなってしまった。だが後退出来るわけでもない。必死で身を縮こませるが、肉を抉る鋭い斬撃に成す術もない。

 

「―――動けなくなってしまったか…。この胸躍る時間がいよいよ終わりを迎えようとしているのは、とても残念だが―――仕方ない」

 

野分の冷酷な言葉に龍田は目を見開く。

そして痛みで麻痺してしまったはずの感覚が一気に蘇ってくる。それは迫る死を前に龍田の体が最期の意地を見せようとした結果なのかもしれない。

 

「…フフッ!貴様の最期にはやはりこんな姑息な斬撃では罰が当たる―――私の最大の一撃で葬ってやらねば」

 

野分の刀に光が収束する―――そして龍田は唇を強く噛んだ。

 

―――ごめんね、阿野ちゃん…青葉ちゃん…皆。

 

―――約束、守れないみたい…。

 

龍田は自分の身を消し去ろうと伸び上がる光の輝きを前に笑顔を浮かべた。そしてこれが自分の最期だというなら…せめて六艟らしく華々しく散ってやろう。

 

龍田は握り締めた薙刀を一瞥する。

そしてそれを支えに、ゆっくりと立ち上がる。

 

「まだ立ち上がるか…!見事!」

 

野分の口角が上がる。

そして龍田もまた同じように口角を上げる。

 

―――あの光が大きくなる前に一撃を叩き込めれば、少なくとも阿野ちゃんたちは助かるかもしれない…。

 

―――ここで私がやらなければ…誰が、誰が守るというの?

 

「はあああああああああぁぁぁぁぁッ!」

 

龍田の咆哮が空気を揺らす。

そして走れなくなった体を引き摺りながら野分の元へ。

 

―――分かっている、こんなに遅ければ…野分の元へ辿り着くまでに死ぬなんてこと…でも!それでもッ!

 

龍田はその足を止めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――嫌いじゃないぜ?そういうのッ!!!」

 

―――刹那。

 

「…ば、馬鹿な!?」

 

野分は自身の体を貫く刃…その鋒を目に映していた。

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