仲良くなりたいっていう気持ち、忘れちゃダメだよね 作:雨降り
沈黙が執務室内を支配していた。
それは僕の発言によるものだ。長門も陸奥も驚いた顔…というか訳が分からないというような顔をしている。
今、僕の言った言葉は目の前の艦娘に疑問を抱かせている。だからこそ、必ず!必ず僕の発言にあった矛盾点を突き付けてくるはずだ!!食いつけ!!!
長門「どういうことだ?貴方は提督になることを望んでいるのだろう?一体、今の発言は…」
陸奥「妥協案…と言ったわね?それは貴方が提督になるのを諦める代わりにこちらに見返りを求めているように聞こえるのだけど……こちらの代償は何?」
よし!食いついた!まさか長門だけでなく陸奥も食いついてくるとはな…でもこれは好機!!こっからが正念場だ!
「順を追って話すよ」
「まずは…提督になるのを放棄するって件だけど、完全に放棄するって訳じゃない。然るべき時が来たら提督として迎え入れてもらうつもりだ。では、その然るべき時とはいつか?それはここの艦娘に完全に受け入れられたと判断出来た時だ。判断するのは………君たちに任せるよ」
「次に、代償…とはいかないまでも、確かにそちらにも折れてもらうべき点がある。それはつまり僕がこの鎮守府にいることを認めろ……ってこと」
長門「話の途中ですまない。一つ質問させてもらう。放棄の件については分かったが、それまでこの鎮守府にどういう存在として居座るつもりなのだろうか?」
陸奥「何もしないのにこの鎮守府にいるなんて不自然だわ!それこそ動機は?それに、提督としてじゃなくても貴方がここにいるだけで嫌な思いをする子がたくさんいるのよ!?」
「ああ、それについてだが…。仮にここにいることが認められたら僕は何をするのか……これは確かに返答に困るが、強いて言うならこの鎮守府を少しずつ立て直していくつもりだ。今日来たばかりだが、この鎮守府、かなり修繕すべき場所があると見た!それに電気が点いてないのだって、節電と言っていたのを聞く限りギリギリなのではないか?」
陸奥「確かにこの鎮守府はボロボロよ。電気だけじゃないわ…水道、ガスもカツカツな状態よ!だけどね、それでも私たちはなんとか生き抜いてきた!!苦しかったこともあったけど、提督……人間がいたあの頃と比べたら全然幸せだったわ!!!」
長門「陸奥の言う通りだ。私たちは今のままで幸せなんだ。何故それを分かってくれない!?」
陸奥も長門も悲痛な声でそう言った。ここの艦娘にどれだけのことをしたら、ここまで信用が無くなるのか?ほとほと前任は馬鹿野郎だったらしい。
けど、陸奥も長門もこちらの目をみて、しっかりと気持ちを伝えてくれたんだ。僕もしっかり気持ちを伝えよう。
「僕はさ、どうしてもここに来たいんだ…」
「それこそ動機を聞かれると、やっぱり分からない。ただ、自分の気持ちに嘘をつかないで伝えるっていう僕の願いを叶えるのはここだ!って直感的に感じたんだとしか言えない」
「でも、それが君たち艦娘を不幸せにするのなら僕も前任と同じだ。だからこその妥協案!」
「説明が足りなかったね。僕はここの皆に認めてもらえるまで、提督にはならない。そして、この鎮守府を再興させるため尽力する。だけど、僕は艦娘には見えない存在なんだ」
長門「…どういうことだ?」
「簡単な話さ!僕は艦娘の前に出ていかない。姿を見せない。隠れて生活する」
「そして、ここの艦娘に見られずに鎮守府を立て直すため働く。艦娘たちは知らない間に鎮守府が綺麗になっていくのを驚くんじゃないか!?」
陸奥と長門が唖然とした顔でこちらを見ている。構わない、続ける。
「そして、提督業は僕の代わりにしばらく長門が受け持つのだろうが、上層部には僕が無事に着任したと伝える。そうすれば、僕の名で上層部に資源の援助を求めたり、何らかの支援を受けることだって出来るはずだ。長門だって僕を追い出して上層部になんと説明するか実は困っていたんじゃないか?僕が無事に着任したと見せかけ、上層部とは円滑な関係を保つ。だけど、裏では長門、君が好きにしていいんだ。僕を大いに利用してもらって構わない」
「まあ、せっかく長門が作戦を成功させても僕の実績になってしまうのは癪かもしれないが……そこは失敗した時の責任を全て僕が負うということで、おあいこにして欲しい。あ、長門が作戦を失敗させると言ってるわけじゃないよ!?」
長門「・・・」
陸奥「・・・」
陸奥「でも、そしたら貴方はずっと提督になれないんじゃない?だって姿が見せれないなら、艦娘に恐がられることはなくても好かれることもないわよ?」
「ああ、確かにね。でもこの鎮守府、皆がみんな人間に怯えているわけだとは思えないんだ。嫌われているかもしれないけど、人間に危害を加えられるくらい度胸のある艦娘がいると思う。少なくとも僕は二人知ってる。だからそんな度胸のある艦娘なら姿を見せても平気だと思うんだ!それで話を何度もしたり、信頼されるように動いて徐々に信用を勝ち取っていけばいいと思う」
陸奥「確かに、襲われていたわね……」
「それでも…もし、もし僕の存在が気に食わないというなら、その時は追い出せばいい。だから今だけ、この時だけでも信じて僕をこの鎮守府に入れてくれ!!頼む!」
これが…これが僕の精一杯の答えだ。
あとは天に身を委ねる。
長門「・・・」
陸奥「…どうする?長門?」
長門「私はこの鎮守府を、この鎮守府の仲間たちを守る責務がある」
長門「すぐに返答することは出来ない。しばらく時間をもらえないか?」
「もちろん!」
僕は笑顔で答えた。この先の結果がどうなるかは分からないが、少なくとも僕の気持ちは伝わったっていうことだ。僕はそれが嬉しかった。
長門「では、それまでこの鎮守府の空き部屋で待機していてくれないか?もちろん姿は見せないように願いたい。案内は陸奥に頼む!いいか?陸奥?」
陸奥「ええ、構わないわ!」
こうして僕は追い出されそうなところを首の皮一枚で繋がっている状態まで持ってこれた…。ひとまず今日はもう疲れた、寝たい……。
陸奥が僕を空き部屋まで案内してくれた。他の艦娘に見られないよう注意しながら。
陸奥「一ついい?」
ふいに声を掛けられた。
陸奥「どうしてそこまでしてここに来たいの?自分を変えたいって言ってたけど、それは提督になるより大事なの?」
「うん、提督ってのはあくまで変わるためのきっかけだよ。でもこの場所で変わりたいっていうのは紛れもないことだ。まあ、ここに拘る理由が分かってないんだけどさ…本当にそこは直感としか言えないかな。ただ、僕の中では提督の座よりここでの野望達成が上回った、それだけだよ」
陸奥「…そう」
陸奥はその後何も喋らず僕を空き部屋まで案内し、足早にどこかへ行ってしまった。
僕は気が抜け、あまりの疲れにそのまま横になるとそのまま深い眠りに落ちていった。