Neptune~蒼海の守護者~   作:R提督(旧SYSTEM-R)

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どうも、SYSTEM-Rです。第四章の締めくくりとなる今回は戦闘回となります。ただし、沿岸警備隊側の面々は基本的に登場しません。どちらかというと海軍の方が主役の話となります。ついでに陸軍もちょっと出てきますよ。それではどうぞ。


第四章:落とされた火ぶた(後篇)

 「やっぱ、港の雰囲気ってええもんだでなぁ」

 「そうばい。まぁ、ここでん日々はおいにとってはあまり思い出しとねえもんばってん」

 紀伊利光は、職場の同僚である石見洋介とともに訪れた佐世保港の雰囲気を満喫していた。大阪出身の紀伊にとって、地元長崎出身の石見はここに転勤してきて初めての友人だ。かつて沿岸警備隊で船務士として働いていたという石見の話は、軍隊になじみがない紀伊にとっては常に新鮮そのものだった。

 「何を言うてるんや。そら仕事はきつかったかもしれへんけど、よかったこともようさんあったんやろ。大体、自分は沿岸警備隊の歴史の一部なんやで。なんて言うたって、今じゃ実質女性隊員専用の船になってる沿岸警備艦ふそうの、最後の男性隊員の1人なんやさかいな」

 「ハハハ、まぁな」

 「けど、なんで沿岸警備隊の仕事を辞めてん?職場に対する不満でもあったのか?」

 苦笑いする石見に、紀伊は好奇の視線を向けた。曇り空の下、海鳥が鳴きながら数羽群れになって飛んでいく。

 「第二ん我が家というくらい愛着んあった船や、自分にとってん最高ん仲間やと思うとった人たちから、自分ん意に反して引き離されたけんさ」

 石見の言葉にはやりきれなさや、うっすらとした怒りが込められていた。

 「10年前ん戦争で、当時ん海保に少なからず犠牲者が生まれて、後継者である沿岸警備隊は戦後にそん穴埋めばせんばならんくなった。ちょうど国全体で女性人材ん活用がおめかれ(叫ばれ)とった時期でもあったけん、それで女性んリクルートにばり力ば入れとった。で、そんリクルートんためん対外的アピールん一環として、女性隊員だけで運用する船ば作ろうとかう案が持ち上がって、それにふそうが選ばれたんばい。女は男ば立てるもんという文化が長らく続いてきた九州ん佐世保ば足場にしながら、軍ん主戦力として国防ん最前線で男顔負けにガンガン働く。そがん新しか女性像ん象徴として、政治的にも都合がよかったんやろうな」

 「せやけど、現場で働いとった自分はその方針には納得できへんかったんやな?」

 紀伊の言葉に、石見は一度大きく頷いた。

 「おいがおった頃は、ふそうん男性隊員は後から乗ってくる女性隊員んためん教育係んごたー位置づけやったんばい。やけんどんどん乗員ん男女比率が逆転してきて、最後ん方はさながら共学化したばっかりん元女子高ん雰囲気やった。もちろん、後から乗ってきた女性隊員ん人たちに対しては何一つ個人的な不満はなかし、優れた能力と人間性ば併せ持った素晴らしか人たちやったと思う。おいが嫌やったんは、自分ん居場所がそがん政治的な意図によってどんどん削られていったことなんばい」

 おいは、沿岸警備隊が意識的に女性隊員ん数ば増やしていくことそのものに異論はなか。だばってん、そりゃ常にお互いが共存し続けらるる環境が担保されてこそだ。現場ん実情ば必ずしも反映せんある特定ん意図によって、誰かが排除さるるということはあったらつまらん(あってはいかん)ばい。結果的に、ふそうけんはおいたち男性隊員が排除された。おいたち自身は、彼女たちとともにふそうクルーん一員として共闘することば望んどったんにだ。そがん政治メカニズムば理解しようとするとにきついけん、おいは沿岸警備隊ば離れたんばい。

 「なんちゅうか、聞いとって色々と複雑な気分になるなぁ…。まぁ、その口ぶりからして自分が相当降ろされたことに不満なのは伝わったわ」

 話を黙って聞いていた紀伊も、思わず苦い顔を浮かべた。

 「せやけどふそうのことは前にも自分から聞いたけど、確かに乗れることが誇りちゅう気持ちは分かる気はするわ。日本で初めて生まれた沿岸警備艦、それも全国に4隻しかあらへん船の1つやさかいな。おまけに巷でも話題の美人の宝庫ときたもんや。男の船乗りからしたら、それだけでも乗る価値のある船やわな」

 「まぁ確かにね。あん船に乗っとーんは、揃いも揃うて才色兼備んエリートばっかりだ。仕事は実際きつかったばってん、みんな気さくで裏表ものうて陰口叩くような人もおらんかったけん、そがん面で苦労した記憶は確かになかね」

 頷いた石見の声色からは、先ほどの怒りの色は消え失せていた。

 「そん中でも一番おいが印象に残っとーのが、今ん艦長である真行寺蒼一佐ばい。あん人、艦長に抜擢さるる前は船務長やっとってな。おいにとってん直属ん上官やったんばい。一緒に仕事しとった時は、いつも何かとお世話になっとったんば思い出すわ」

 「あぁ、あのえげつない美人でスタイル抜群の姉ちゃん。こないだどっかの潜水艦を沈めたって話題になっとったな。あないな漫画みたいな若い艦長なんて、現実におるもんなんやな」

 「いや、はっきり言うてあん人は例外中ん例外だぜ。普通どこん国ん海軍や沿岸警備隊でん、あん若さで艦長職ば任さるるなんてことはあり得ん。普通は40代や50代ん経験豊富な人間があてがわるるもんやけんな。ただふそうん場合、独特ん女社会ばまとめ上げつつあんでかか艦ば引っ張っていくるだけんキャプテンシーにあふれた人間は、エリート揃いと言えども実はそがん多うなか。そん中であん人に白羽ん矢ば立てた判断ば、おいは支持するばい」

 石見はそうはっきりと口にした。

 「あん人はよか意味でとんでんなか人ばい。鋼鉄んメンタルに卓越したリーダーシップ、いつも目配りが利いて部下にも優しか。シーマンシップという『船乗りに求めらるる気風』みたいなもんば表す言葉があるったいが、まさにそんシーマンシップが服ば着て歩きよーような人やった。あん人ん下で働くんは楽しかったし、もう少し長う一緒に仕事したかったんやけどな…」

 彼がそう呟いた時、ふと遠くで出港ラッパの音色が響いた。その音に乗って、白い大きな船が一隻こちらに右舷を向けて進んでくる。思わず紀伊が声を上げた。

 「おい、あれふそうやんけ?噂をしたら影やな」

 「本当ばい。まさかこんタイミングで現るるとは」

 石見も同調する。やがて、彼らの右手からも別の艦艇が姿を現した。思わず、その姿を目にした紀伊が歓声を上げる。

 「ハッハッハ、こら凄いもんだな。沿岸警備艦と、海軍のイージス艦の夢の共演やで」

 「あれは国防海軍んはるなや。おいが働いとった時からよう見かけとったばってん、やっぱりイージス艦はいつ見てんかっこよかばい」

 石見はそう吹っ切れたような表情で口にすると、ふと「紀伊、もうちょっとしたらもっと面白かものが見るるぜ」と口元に笑みを浮かべた。

 「おもろいもの?何が見れるんや?」

 「すれ違い敬礼って言うてな、艦同士が行きかう時に乗員が甲板に出てきて、お互いラッパば吹いて敬礼するったい。海軍と沿岸警備隊は微妙にメロディが違うばってん、礼式は基本的にどちらも同じスタイルやけん、お互いがそれぞれん譜面で吹いてんちゃんと成立するごとなっとー。比べてみると面白かぜ」

 「へぇ、お互い色々とよう考えて仕組みを作ってるんやなぁ。せっかくやさかい楽しみにしとくわ」

 紀伊が興味深そうに答える間も、両艦はどんどんとお互いの距離を詰めていく。しかし、その様子を見ていた2人の表情はやがて怪訝そうなものに変わった。敬礼開始の目安である前方45度の位置にお互いが近づいても、どちらの艦艇からもいつまでたっても甲板に人が出てこないのだ。

 「なぁ石見、その敬礼をやる乗員ってのはいつになったら出てくるものなんや?」

 「普通ならとっくに整列しとーはずだぞ。なんでどっちん船からも人が出てこんのや?」

 石見が思わず首をかしげたその直後。

 「国防海軍はるなに敬礼する。吹けー!!」

 「ソッレレソッシッレー♪」

 いきなり、何の前触れもなく「ラッパ気をつけ」のメロディが流れる。

 「うおっ、びっくりした。今のはどっちが吹いてん?」

 「あれは沿岸警備隊んバージョンや。海軍んはメロディはほとんど同じだばってん、節回しが違う」

 石見がそう説明した後少し間があいてから、その言葉通り最初とは少し違ったメロディや号令詞を叫ぶ声が立て続けに聞こえた。

 「吹けー!!」

 「ソッレッソッソシレー♪」

 「礼!!」

 「ソーシソー♪」

 「答礼終わり、礼!!」

 「レッソソソッレッソー♪」

 メロディのやり取りが交わされて間もなく、2隻の戦闘艦はお互いの左側をすれ違っていった。紀伊が感心した表情でその様子を見つめる。

 「おお、あないな風にやるんか。確かに、聞き比べてみるとお互い微妙にメロディがちゃうな。やけど、なんで最後までお互いに人が出てこーへんかったんやろうな?」

 「分からん。艦艇がすれ違う時は必ずあればやるもんだばってん、本来は互いん乗員ば甲板に上げるんは礼式として省いたらつまらんはずだ。お互い礼儀がなっとらんな」

 石見が肩をすくめた時。ふと、ふそうの艦橋構造物の上部で何やら光が点滅し始めた。発光信号だ。思わず、当時身に着けたスキルを使ってそのメッセージを読み取る。

 「何々…。『海自の後継、礼を忘れたか』…?」

 「へぇ、あの光の点滅はそないな意味なのか」

 「おう。発光信号って言うて、お互いにモールスん要領でメッセージば伝えるためんもんや。なんでいきなりあがんこと言い出したんかは分からんが。ぶっちゃけ、礼儀云々ならふそうも言えた口やなかだがな」

 しばらくすると、はるなからも返信があった。

 「『お前が言うな、ラッパ演練の要あり』…。なんじゃそりゃ」

 「なんやそれ。なんであいつら発光信号使うて煽りあいなんかやっとるんや?」

 「知らん、そがんことおいに聞くなや」

 そう吐き捨てた石見にも、そのやりとりの背景に潜む事情はまるで理解できなかった。当然だが、すれ違い敬礼での欠礼も発光信号での煽りあいも、自分の現役時代にはあり得なかったことである。もしそんなことをやっていれば、即座に上官にシバかれていたはずだ。そんな暴挙が海軍と沿岸警備隊の間で公然とまかり通っているなんて、一体何がどうなっているのか。

 (何やってんだあいつら、本当に大丈夫なんかよ…)

 その釈然としない思いは、しばらく彼の胸の中に残り続けていた。

 

 昼11時57分。東京で最も深い駅である地下鉄六本木駅の構内は、フラストレーションに包まれていた。今日は何故か、朝から関東一円でスマホのWi-Fiがまるで繋がらない。ネット通信が使えないので、そのせいで電話でのやりとりが集中してそちらの回線もパンクしているようだ。今の時代、ネット環境から遮断されることはとてつもない不便を強いられることを意味する。おまけに安全確認とやらで一時的に地下鉄も運行を見合わせており、ホームで待ち続ける誰もが時間をつぶす術を失い、内心イライラし始めていた。

 その時だった。突然、ホーム内に何やら場違いなメロディが響き渡り始める。止まっている電車内から繰り返し流れるその音色の正体に、そのうち気づく者たちが現れた。何やら気味の悪い状況に、ホーム上が俄かにざわつき始める。

 「なぁ、あれ地震とかの時にNHKが流すチャイムじゃないか…?」

 そんな声が上がり始める中、チャイムの音は依然として鳴り続ける。状況確認のために駅員が駆け付けた頃、そのメロディはいつしか少しずつながら歪み始め、より一層不気味な雰囲気をこの場にもたらした。そして12時ジャスト、駅員が車内で不審な紙袋を見つけたまさにその瞬間。

 六本木駅構内は、一瞬にして地獄絵図に変わった。止まっていた電車の複数個所に仕掛けられた爆発物が、立て続けに勢いよく炸裂する。その爆発に巻き込まれて一瞬で命を落とす者、血まみれでその場に倒れこむ者、突然の出来事に意味も解らぬままパニックを起こし逃げ惑う者。そこにあったのは、映画さながらの現実だった。

 

 ところ変わって、同じ日に佐賀県付近を航行していたはるなの艦内。司は通路を歩いている途中で、下級兵が2人連れだって何やらひそひそやり取りしているのを目撃した。

 「おうわいら、そがんところでこそこそ何やってんだ?」

 「…!!お疲れ様ですばい、砲雷長」

 彼の声に気付いた2人が、慌てて姿勢を正し敬礼する。

 「実はつい先ほど、たまたまとんでんなかニュースば聞きまして。なんでん、東京ん地下鉄六本木駅が爆破されたとか」

 「六本木駅が爆破されたやと…!?そりゃ本当か!?」

 「本当ですばい。おいん聞いた話じゃ、駅に停車しとった電車がいきなり吹っ飛んだと。現場じゃ死傷者が多数出とって、まさに地獄絵図になっとーらしかですわ」

 「おまけに関東ん方じゃ朝からWi-Fiも電話も通じんで、あっちは今完全に大パニックん状況ばい」

 2人が口々に、青ざめた顔でその知らせを告げる。思わず、司の背筋に寒気が走った。その額から脂汗が垂れる。

 「それが本当なら、国防上シャレにならん事態だぞそりゃ…!!」

 そう彼が呟くや否や、今度は突然艦内全域にアラームが鳴り響いた。艦内無線のスピーカーからアナウンスが流れる。

 「対空戦闘用意!!これは演習に非ず。繰り返す、これは演習に非ず!!」

 「対空戦闘…、それも実戦!?」

 思わず下級兵の1人がそのスピーカーの方を見上げる。だが、そんな彼を司はすかさず叱責した。

 「何しよーったい、戦闘用意がかかったらボーッと突っ立っとー暇はねぇぞ!!急いで各個配置に着け!!」

 「あ、Aye, sir!!」

 彼らが慌てて返事をした時、司は既にCIC目がけて駆け出していた。

 

 「対空目標、いくつだ。どこから飛んできた!?」

 CICに駆け込むや否や、司は室内の部下たちに呼び掛けた。

 「目標数2、東亜方面より飛来。3分後、本艦上空を通過する見込みです」

 ミサイル長・陸奥諒輔大尉が答える。

 「航路解析は済んどーんか!?」

 「本目標は関東方面を指向してます。本艦上空通過後10分以内に、東京23区内に着弾するコースです!!」

 「都内に着弾するやと!?」

 その知らせに、思わず司は素っ頓狂な大声を上げた。その目はすぐに、同じくCICに詰めていた津軽や日向を探し当てる。

 「艦長、副長。呉ん『ひえい(DDG-172)』及び萩んアショアとの共同交戦を具申します。恐らく、都内では空軍のパトリオットはまだ準備できとらんはずばい。あの目標には、本艦単独では対処すべきじゃなか」

 「共同交戦の件はともかく、なぜパトリオットが準備できてないと言い切れるんだ、砲雷長」

 日向が尋ねる。

 「副長はまだご存じんのか。先ほど部下から聞きましたが、東京で地下鉄六本木駅が爆破されたそうですばい」

 「…、なんだと!?」

 「おいは去年まで横須賀におったけん知っとーばってん、六本木は確か都内で一番深か駅やと聞きました。ミサイルが飛んで来たら急いで地下に逃げるのがセオリーばってん、そん六本木が爆破された以上同じことが他ん場所でも起こるかもしれんば踏んで、地下に逃げることば躊躇しとー国民が必ずいるはずばい」

 ただでさえ、関東では通信環境が途絶して大混乱ん状況やし、恐らくあっちでは国防軍も警察もそっちん対応に人員が割かれとーはず。よしんば空軍に指示が出とったとしてん、恐らくあん目標に対処するには間に合わん。何としてん、関東に近づく前に迎撃すべきばい。

 「お前の言う通りなら、これは完全に戦争を仕掛けられてる状況だぞ…!!」

 上官2人の顔があからさまにひきつった。

 「艦長。もしかして、先日の第六十二円竜丸が国内某所に出していたという指令とは、このことだったんじゃ…」

 「クソッタレ、まさかあの事件がこんな形でつながるとは」

 津軽は日向の言葉に忌々しそうな表情を浮かべながら、思わずデスクを一度力いっぱい殴った。まだ確証はないが、まさかこんな形で自分が窮地に立たされるとは。だが、今は後悔していられる余裕もない。対応を急がなければ、あの目標はすぐに上空を通過してしまうのだ。津軽は即座に顔を上げると、CIC各部に命じた。

 「ひえい及び萩のアショアと共同で交戦する。データリンクとSM-3の発射準備急げ!!」

 

 「対空戦闘用意!!脅威目標2、トラックナンバー2438及び39。SM-3発射用意!!」

 山口県萩市にある、国防陸軍萩駐屯地イージスアショアセンター。秋田県にも存在する、「陸上型イージス」と呼ばれるこの施設を管轄する第1イージス連隊の連隊長、周防雄人大佐の対応は素早かった。

 「SM-3諸元入力完了、発射用意よし!!」

 手際よく作業を終えたミサイル長・伊勢雅紀大尉が声を上げる。それに続いて周防が発した命令は奇しくも、同じはるな型イージス駆逐艦の姉妹艦同士である、はるな及びひえいの各CICでのそれと完全に同じタイミングで下された。

 「「「対空戦闘、CIC/はるな指示の目標。SM-3攻撃始め!!」」」

 「「「SM-3発射始め!!Salvo(斉射)!!」」」

 その声とともに、海上および陸上から計6発の弾道弾迎撃ミサイル、SM-3こと「RIM-161 スタンダードミサイル3」が大空へと舞い上がった。3か所の指揮所内に「ミサイルアウェイ」の声が響く。レーダー上では、6発のミサイルが次々に目標に接近していく様子がCGで映し出されていた。最初に目標を捉えたのは、最も近接しているはるなが放った2発だ。

 「インターセプト5秒前、スタンバイ。…、マークインターセプト!!」

 陸奥が、自艦からのミサイルが敵目標を射程に捉えたことを告げる。…、ところが。

 「っ…、躱された!?」

 司・津軽・日向の3名が、予想外の事態に青ざめた。迎撃態勢に入っていたはずのミサイルは、なんと直前で進路を変えられて迎撃に失敗したのだ。明後日の方向に飛んで行った弾頭の映像は、やがて点滅の後レーダーから消えた。恐らく海上に落ちたのだろう。

 「はるなが迎撃失敗だと…!?」

 その事実に直面した周防の額からも汗がしたたり落ちる。艦隊防空を司る船として、極めて高い対空戦闘能力を誇るイージス艦ではあるが、それでも対空迎撃に失敗すること自体は確率としてあり得ないわけではない。だが、これは演習ではなく実戦なのだ。この場面で彼らが外すことが何を意味するか、その重みを彼はよく理解していた。

 「SM-3、コース再確認!!」

 「ハッ!!」

 即座に伊勢に対しコースの確認を命じる。既に敵弾は、はるなの上空を通過してしまった。ここからは、自分たちとひえいで何とかするしかない。

 「本施設及びひえいのSM-3、目標アルファ及びブラボーに全弾照準合ってます」

 伊勢が周防に向けて顔を上げた。

 「迎撃成功までは絶対に油断するなよ。岡山よりも東の空に飛ばさせてはならん。必ず命中させろ」

 その祈りのこもった声を投げかける間にも、上空では依然として計6発のミサイルが火を噴きながら飛び続けていた。やがて、日本に向けて飛んできた2発の弾道ミサイルの前に、彼らから見て左側からは萩駐屯地、右側からはひえいの放ったSM-3が相次いで現れた。伊勢の声に一層力がこもる。

 「インターセプト5秒前、スタンバイ。…、マークインターセプト!!」

 その数秒後、計4発の艦対空・地対空ミサイルは猛然と2つの目標に襲い掛かった。1発ずつなら躱せた敵弾も、両サイドから斬りかかられては流石になす術がない。上空で爆発した対空目標は、昼の空に汚い花火を咲かせた。

 「迎撃成功!!目標アルファ及びブラボー、撃墜しました!!」

 伊勢の報告に、司令室内のあちこちから「よっしゃあ!!」という声が上がる。同様に、迎撃成功を確認したはるな・ひえい両艦のCICも歓喜に包まれた。

 「周辺の残存目標、有無を報告せよ」

 「探知圏内に近づく脅威目標なし。全弾消滅した模様」

 1人冷静に追加で迎撃すべき目標がないか確認した日向に対し、レーダー員が応じる。ようやく胸をなでおろした日向は、一呼吸おいて津軽の方に向き直った。

 「艦長、対空戦闘用具収めます」

 「了解」

 津軽が頷く。「対空戦闘用具収め」の号令の後、ようやくはるなは緊張から一時解放された。思わず日向が大きく息を吐く。

 「危なかったですね…。本艦が初手で外したのは残念ですが、何とか都内への着弾は食い止められてよかった。躱された時は肝を冷やしましたよ」

 「あぁ。だが、撃墜したからと言ってこれで終わりではないぞ。むしろ本番はここからになるだろう」

 津軽はしばし俯いたまま答えた。その顔を上げると、CICにいた面々に告げる。

 「総員、今一度気を引き締めろ。残念ながら我々は今回、外国からの武力による侵犯を許した。ここからの我が国の存亡は、我々自身の働きにかかっていると思え。諸君らのより一層の奮起に期待する。必ずや跳ね返すぞ!!」

 「ハッ!!」

 その返答に頷くと、津軽は艦橋に向かうべくCICを後にした。その去り際、彼から耳打ちされた言葉に司は思わず振り向いたのだった。

 「直近でお前の姉に会う機会があれば伝えておけ。『先般の海上警備行動で、しくじったのは我が方だったと認めよう。ケツは自分で吹く』とな」




冒頭のふそうとはるなとのやり取りと、六本木駅での爆破事件の間は数週間ほど経っている想定です。FFMが既に就役していたり、イージスアショアが出てきたりと割と現実の防衛政策は反映しているつもりです。実際に使われるミサイルが、SM-3になるのかどうかは分かりませんが…。

今回は特に冒頭部分の流れがなかなかうまいこと決まらず、2回ほど書き直しました。女性隊員限定の船として配備されているふそう、しかもその艦長が30歳の若さというぶっ飛んだ設定の今作ですが、少しでもそこに説得力が加わっていれば嬉しいです。

依然として組織間の確執が続いでいる海軍と沿岸警備隊ですが、ようやく津軽が過ちを認めたことで、若干お互いの関係性が改善する余地が生まれてきたかもしれません。次の第五章からは戦闘描写が一気に増えますが、お互いの関係性がうまく改善できるのかのあたりも含めて描いていきたいと思っています。それではまたお会いしましょう。
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