Neptune~蒼海の守護者~ 作:R提督(旧SYSTEM-R)
中篇その2を書き終えた後、書きたかった話の流れを忘れてしまったために、ずっと執筆ができずにいたのですが、やっと思い出せたため更新しました。まさか6年も間が空くとは思わなかったよ、畜生め。
今回は、最終決戦の決着偏となります。本来ならもっと早く世に出ていたはずの、本戦闘のクライマックスとはどのようなものなのか…。それではどうぞ。
「敵艦隊、針路120度へ変針!!エスペランサ隊とアサシン隊、全機ロックオンされている模様!!」
東亜艦隊の動きは、ふそうのCICでも即座に感知した。手元のレーダーの映像に目を落としながら、葛城が声を上げる。
「転舵…?なんでわざわざこのタイミングで…?」
船務長からの報告に、蒼は思わず首を傾げた。敵艦隊の唐突な行動。その意図が読めない。
「敵側からすると、やはりエスペランサ隊とアサシン隊に左右両方向から狙われているのが、よほど嫌なんでしょうか?」
「いや、ないとは言いませんが恐らくそれだけではないでしょう。護衛の5隻はいずれもVLS艦です。VLSから艦対空ミサイルを撃てる以上、少なくとも航空隊へ艦首を向ける必要はない。何か他に意図があるに違いありません」
沢渡の呟きに河内が応じる。こういう時に、海軍士官が同乗していると何かと役に立つのは間違いない。海軍艦隊の一員として行動していても、あくまでふそうクルーは沿岸警備隊員だ。今回は武装強化によりSSM-1Bを搭載しているとはいえ、普段のふそうは非ミサイル艦。VLSもキャニスターもアスロックランチャーも持たないこの艦とその乗員にとって、ミサイル戦闘は文字通りほぼ未知の領域なのだ。
(敵艦隊の狙い…。いったい何があるというの…?)
蒼の眉間に、また一つしわが増えた。
一方、上空では。
「クソッ、ロックオンの警報が鳴りやまない…」
エスペランサ1のコックピット内で、高橋は焦りを隠せずにいた。空母艦載機を乗りこなす自分も、しょうかくが活動するエリアの近くで防空識別圏に侵入した未確認機があれば、スクランブルで出動することはある。そんな時、機内で一番聞きたくないのがロックオンの警報音だ。自身の生命が危険に晒されていることを示す、その一番忌避すべき音を聞かされ続けて、彼の血圧は上がり、脈拍はどんどん早まっていた。日々過酷な訓練を耐え抜いて築き上げた、空軍士官としての鋼のメンタルを備えていなければ、すぐにでも恐怖に飲まれていたかもしれない。
「どこだ、どこから狙われてる!?」
RWR(レーダー警戒受信機)の画面に目を落とす。次の瞬間、高橋の目は驚きで大きく見開かれた。
「発信源は…、南寧!?護衛の5隻からじゃないだと!?」
手元の計器は紛れもなく、自分たちに照準を合わせているのが敵旗艦、南寧であることを示していた。
「エスペランサ1、アサシン1。こいつは南寧からだな。全機に同じエミッターがかかってやがる」
浦賀が無線機の向こうから声をかけてきた。彼の声にも、普段とは明らかに違う焦りの色が浮かんでいる。
「まさか、相手の旗艦から直接狙われるとはな。すぐに艦隊に報告する」
高橋はそう答えると、すぐに無線を切り替えた。
「マイティクレーン、エスペランサ1。現在、各機をロックオンしているのは護衛の5隻ではありません。南寧です。10機全て、同一エミッターがかかっています」
「10機とも南寧がロックオンしてるだと!?」
その一報に、思わず声を上げたのはしょうかくのCDCに詰めている伊賀だった。肥後も思わず唇をかむ。
「単艦でまとめて10機を撃ち落とそうとしてくるとは…。やはり、刃海級の防空能力は分析通り、相当なものなのは間違いないらしい」
「しかし群司令、エスペランサ隊とアサシン隊が狙っている周囲の5隻が、敢えて自分でSAMを撃ち返さずに転舵してきているということは…」
「あぁ…」
伊賀の問いかけに応える肥後の目は、CDC内の大型モニターに映し出された、第2護衛隊群に対して直角に位置取りを変えようとする、敵艦隊の姿を捉えていた。単に、航空隊の照準を狂わせるというだけではない。自艦の舷側を敢えて我が方の正面に向け、キャニスターの発射口を正対させる。敵艦隊が何をやろうとしているか、本当の狙いは明らかだった。
「こいつは…、令和の丁字戦法だな」
そう呟くや否や、肥後は即座に全艦に向け命令を発した。
「のわき及びしらゆき、対空戦闘用意。敵はSAM(艦対空ミサイル)で我が航空隊を、SSM(艦対艦ミサイル)で本艦隊を同時に狙ってくるつもりだ。のわきとしらゆきは、艦隊に向けられたSSMの迎撃に。ひえい及びはつづきは、エスペランサ隊及びアサシン隊に向けられたSAMの迎撃に備えろ。各艦、SM-2発射用意!!」
「「了解!!」」
ヘッドセットの向こうからは、緊張感のある声が聞こえてきた。事態は今や、一刻を争う状況だった。
敵の護衛艦が、第2護衛隊群にSSMを撃つこと。その護衛艦5隻に対して、航空隊がJSMを撃つこと。さらにその航空隊に対して、南寧がSAMを撃つこと。そのSAMとSSMの両方を、第2護衛隊群が迎撃すること。数秒後か、十数秒後か。いずれにせよ、これらはほぼ同時に起こる。恐らくこれらはほぼ同時に起こるだろう。そのどれが成功裏に終わるかが、この戦闘のカギを握ることになるのだ。そして肥後にとってはもう1つ、そこに備える上で重要なファクターの確認が必要だった。
「オーシャンクイーン、マイティクレーン。前部VLSは依然として使用可能か?」
被弾したはるなを預かる津軽に問いかける。
「マイティクレーン、オーシャンクイーン。前部VLS、AWS、Link16、機関部には異常なし。SAM発射可能です」
津軽はそう応じた一方、「ですが…」と付け加えた。そこに続く報告が、一見ネガティブな内容でありながら、決着のために大きなカギを握るものになるとは、この時の津軽自身もまだ気づいていなかった。
「既に艦内火災鎮火済ですが、既報の通り本艦は右舷弾薬庫を1か所潰されました。残弾の補給にも時間がかかります。AWSおよびデータリンクによる、他艦への目標情報提供は可能ですが、ひえいやはつづきと同様のAAW移行は困難と判断します」
「艦隊全体が対空戦闘に入った…。こういう時、対空戦が不得手な沿岸警備艦としては、出来ることがほぼないのが悔しいわね…」
蒼はCICのモニターを見ながら呟いた。事前に日向から「今回は対空目標には構わなくて結構」と言われていたことは、もちろん頭にはある。だからこそ、得意の対潜戦で遠征82と83を葬ることに集中したのだから(まぁ、海軍艦艇ですらない船が、海軍顔負けのレベルで対潜戦闘を得意としていること自体、かなり異例のことではあるのだが)。
だがそれは、第2護衛隊群に対して東亜側がかけていた拘束を解くうえでは、非常に重要な役割ではあったとはいえ、戦闘全体の中ではあくまでもone of themに過ぎない。そして、この最終盤の対空戦闘においては、門外漢のふそうは完全に蚊帳の外にも見えた。
しかし、このCICには諦めの悪い者たちがいた。今回のために追加搭載した、それにもかかわらずまだ動いていない兵装を動かすために、乗り込んできた者たちが。
「いえ、艦長。出来ることならあります」
河内が蒼に対して、真剣な顔で向き直った。
「今なら、本艦のワンビーによる攻撃が南寧に対して通る可能性がある」
「えっ…?」
「南寧は今、我が航空隊10機を単艦で同時に処理しようとしている。捜索・追尾からSAMの射撃管制まで、FCSには相当な負荷が掛かっているはずです。今ワンビーを撃ち込めば、対艦ミサイルへの対応に割けるリソースは平時より大幅に減る。少なくとも、中距離から十分な迎撃を重ねる余裕はないはずです。終末段階まで持ち込めれば、CIWSに賭けざるを得なくなる可能性が高い」
ふそう臨時ミサイル長の言葉は、一言発するごとに普段にはない熱を帯びていった。
「そして、我が艦隊に出ている指示はあくまで『敵艦隊から発射されたミサイルの迎撃』です。ミサイルを発射した母艦を直接叩く指示は、南寧に関してはまだ出ていない。ならば、対空戦闘に加われない本艦こそ南寧を叩くべきでしょう」
「…、どれくらいで撃てる?」
「既にレーダー上、トラッキングは出来ています。射撃解さえ作れれば、すぐにでも」
河内の言葉を受けて、蒼の目が一瞬葛城の方に向いた。葛城がそれに気づき、無言のまま一度大きく頷く。若きエリート艦長の口元に刹那、不敵な笑みが浮かんだ。
「…。やはり、あなたを乗せて大正解だったようね。河内少佐」
蒼は即座に覚悟を決めた。うなずくや否や、すかさずしょうかくにいる肥後に具申を入れる。
「マイティクレーン、ネプチューン。敵旗艦南寧に対する、本艦のワンビーによる対水上戦闘実施許可を願います」
「…。ネプチューン、マイティクレーン。攻撃を許可する、直ちに発射準備に移れ」
恐らく、予想外の意見具申に一瞬虚を突かれて、伊賀と顔を見合せたのだろう。一拍遅れて、肥後から攻撃許可の返答が来る。蒼に、最早友軍の対空戦をただ見守るという選択肢は存在しなかった。
「艦橋、とーりかーじ、270度ヨーソロー!!対水上戦闘、ワンビー発射用意!!目標、南寧!!」
しかし、事前の予想に反してことはそう上手くは運ばなかった。
「ミサイル士、射撃解はまだ完成しないの!?」
「ダメです、まだ解得られず!!」
沢渡の問いかけに、長門が焦りを隠せない表情で応じた。どちらの額からも、脂汗がしたたり落ちている。
河内の説明通り、ふそうの側ではレーダーに南寧の概略位置は既に入っている。しかし、SSM-1Bに渡すためには、単なる方位や概略座標だけでは足りない。少なくとも目標の現在位置、針路、速力、運動傾向を十分な精度と更新率で確定し、ミサイルを終末誘導圏まで送り込めるだけの攻撃用トラックが必要だ。
ところが現状、南寧はふそうから見て遠距離にいるうえ、海面近くの目標であるために、レーダー地平線の制約も受けている。敵艦隊も転舵中で目標運動が変化しており、上空の航空隊も回避・攻撃準備中で、ふそうへ安定した直接照準情報を提供できていない。このため、レーダーでは見えているのに射撃解が作れない、という窮地に立たされていたのだった。
最早、双方のミサイル群はいつ発射されてもおかしくない状況だ。ふそうのCICには、一刻の猶予も残されていなかった。にもかかわらず、ふそうは思わぬ形で足踏みを強いられている。誰も予想していなかった落とし穴だった。
(やっぱり、緊急の突貫工事で乗せた装備じゃ上手くいかなかったってこと…?)
蒼は唇をかんだ。本来、法執行や救難を主任務とする沿岸警備艦に、対艦ミサイルを常時搭載する必要はない。それはふそう本来の任務を考えれば、極めて合理的な運用だった。
とはいえ、海軍の補助戦力としてともに戦場に出る上では、ミサイルを搭載しない艦艇であることは非常に大きな弱点でもある。だからこそ、それを最大限埋めるためにもキャニスターを追加搭載し、運用に必要な改修と安全措置も施し、実際に扱う海軍要員まで乗艦させた。対策は可能な限り万全にしたはずだったのだ。それが、肝心の本番で機能しなくなるとは。
「クソッ、なんでだ…。1秒たりとも無駄にできないってのに…」
焦りといら立ちを隠せない長門の声につられて、思わず蒼は彼の方に目を向けた。その口元は、自然と彼の心の内を音声に変換し、独り言としてCIC内に響かせる。
「いいか、考えろ…。どうやったら射撃解を完成させられる?必要な攻撃用トラックの情報を、どうやって手に入れたらいい?どうやって…」
その瞬間。蒼の脳内に、ある会話が突然再生された。河内、長門、岩城の3人を、初めてMOSAD派遣において受け入れた時、岸壁で司と交わした、あの言葉。
「いざとかう時はそっちんイージスシステムにも頼らせてもらうけん。バックアップ頼んだばい」
「任せとけ」
(イージスシステム…?…、それだわ!!)
蒼は眼を見開いた。即座に、眼前の長門に対して声を上げる。
「ミサイル士、一旦そこで手を止めなさい。考えがあるわ」
「えっ…!?」
思わず、驚きの表情を浮かべて振り返った長門を尻目に、蒼は返す刀で、今度は岩城の方に顔を向ける。
「掌通信士、ただちにはるなに打電!!南寧の最新目標トラックを、Link16経由で送信するよう要求して!!急いで!!」
「CIC、通信室。ふそうより緊急入電!!」
思わぬ一報に、はるなのCICにいた司、津軽、日向は同時に振り向いた。
「内容は!?」
「南寧に対するワンビーの最新目標トラックを、Link16にて大至急共有せよとのことです!!」
日向の問いかけに通信員が答える。
(姉貴…、本当にこんはるなんイージスシステムば頼ってきよった…。あがんふそうと揉めに揉めとった、こんはるなを…)
司は目を見開いた。思えば、長征2901の事件以来、ふそうとはるなは因縁の艦であり続けた。第六十二円竜丸事件で柳田が負傷してからは、その関係は最悪と言ってよかった。佐世保ですれ違っても、互いに登舷礼をせずラッパだけを鳴らす――そんな異常な関係にまで落ち込んでいた。
だが、タンカー「天津号」での共同作戦をきっかけに、海軍と沿岸警備隊はようやく雪解けを果たした。そして今この瞬間、それは両軍種間で最も関係が冷え切っていた、この両艦の間でもついに現実になったのだ。
「艦長…」
とっさに、その眼は津軽の方に向く。津軽もまた、これまで沿岸警備隊に対して見せてきたような不遜な態度を、完全に消し去っていた。本艦隊のもう一つのイージス艦であるひえいは、航空隊に向けられたSAMの迎撃準備に入っている。他艦への目標情報提供という、イージス艦にとってのもう一つの重要な仕事は、今この瞬間そのひえいの姉でもある、このはるなにしか担えないのだ。そして、「目標情報提供なら可能」という報告は先ほど津軽自身が肥後に対して行った。その相手がふそうであれ、例外ではない。
「副長、南寧に対する最新の攻撃トラックは維持できてるな?」
「はい、いつでも提供可能です」
津軽の問いかけに、日向は力強く頷いた。
「ただちにふそうに対して送信しろ。南寧に対してワンビーを通すなら、チャンスは今しかない。1秒たりとも無駄にするな」
「了解!!」
日向が答えたのを見て、津軽はヘッドセットのマイクを口元に近づけた。
「通信室、CIC。即時共有するとふそうに伝えろ、今すぐにだ」
「報告!!はるなより南寧の最新トラック受信!!」
岩城が声を上げたのとほぼ同時に、ふそうのCICにはるなから提供された、最新の攻撃用トラックが表示された。ほんの少しだけ間を開けて、今度は長門が振り返る。
「艦長、射撃解完成!!ワンビー攻撃可能です!!」
「了解」
蒼が応じたその直後、葛城が声を上げた。
「南寧、前部VLS開放!!SAM発射する模様!!その他周囲5隻にも熱源反応!!」
ついに、敵艦隊が牙を剥いてきた。時間がない。蒼は一度大きく息を吸い込むと、今までにないほど大きな、それでいていつも通り明瞭でよく通る声で最後の攻撃命令を下した。
「対水上戦闘、目標南寧。ワンビー攻撃はじめ!!」
「1番発射用意…、てぇっ!!」
そこからの数十秒間は、オペレーション・イーグルの中でも最大規模と呼べる、大花火大会となった。敵艦隊からは、エスペランサ隊とアサシン隊を狙った南寧のSAMと、艦隊そのものを狙った護衛艦5隻からのSSMが。エスペランサ隊とアサシン隊からは、護衛5隻の前甲板VLSを狙ったJSMが。第2護衛隊群からは、敵SSMとSAMをそれぞれ迎撃するためのSAMが、相互にほとんど間を置かず、次々と発射される。
「全機、発射即敵ミサイル回避!!全弾かわし切れ!!」
高橋は、操縦桿を握りしめながら叫んだ。そんな彼の下にも、南寧から発射されたSAMは情け容赦なく向かってくる。チャフは先ほど撒いた。基地攻撃のための残弾を思えば、ここで選択できるのは味方艦隊の迎撃弾が敵SAMを捕捉するまで、生き残ることことだけだ。
高橋は機体を大きくバンクさせた。敵レーダーに対して可能な限り直角になるよう針路を変え、一気に高度を落とす。だが、無情にも敵弾はそれをあざ笑うかのように、なおも自機に向かってくる。流石に厳しいか、と高橋が脳裏に家族の顔を思い浮かべた、次の瞬間。
「ズドォォォォン!!!!」
次の瞬間、後方で強烈な閃光が走った。ほぼ同時に衝撃波が機体を揺さぶり、高橋は反射的に身をすくめる。ふと振り向くと、さっきまで追いかけていた敵のミサイルがどこにもない。代わりにそこにあるのは、真っ黒な煙の塊と炎だけだ。呆気にとられた彼の耳に、ひえい・はつづきからの通信が届く。
「ターゲットkill!!敵SAM、全弾迎撃成功!!エスペランサ隊及びアサシン隊、ロストなし!!」
思わず息をのんだ彼の視界の下の方から、またも別の爆発音が響く。その視線の先に見えたのは、左右両方向から前甲板VLS周辺へJSMを撃ち込まれ、激しい二次爆発と火災を起こした、南寧を除く護衛艦5隻の姿だった。
「報告!!敵航空隊向けSAM、全弾迎撃されました!!」
「本艦隊所属艦、敵JSMの攻撃により本艦を除き全艦戦闘不能!!」
「敵艦隊へ発射したSSM、第一波の迎撃は突破しましたが、その後全弾撃墜されました!!」
相次いで届くネガティブな報告に、南寧のCICにいた楊と曹は揃って歯ぎしりをした。まさか自分たちが仕掛けた攻撃が、ことごとく日本側に対応されただと。対空戦と対水上戦の二正面に持ち込んだところまでは、完璧にこちらの想定通りだった。しかも、2隻いた相手のイージス艦のうち1隻は、遠征83の攻撃により手負いの状態だ。戦況は、明らかにこちらが優位を掴んでいたはずだった。それなのに…。
だが、彼らには残念ながらいつまでも顔をしかめている余裕はなかった。レーダー上には、既に新たな脅威目標が表示されていたからだ。CIC内から声が上がる。
「敵艦隊先頭の巡視船より小型目標分離、本艦に向け高速接近中!!」
「何っ!?」
慌てた2人が、同時にモニターに目を向ける。報告通り、その映像はふそうから発射されたSSM-1Bが、まっすぐ南寧に向けて突っ込んでくる様子を示していた。
「あの船、まさかSSMを追加で…!?」
楊があっけにとられたように目を見開く。それに比べると、曹の方はまだ冷静だった。
(護衛が全て消えた以上、本艦はいま丸裸だ。SAMによる再交戦態勢を整える時間はない。主砲も間に合わない。それならば…)
彼は即座に、直接CIC内に命令を下した。
「CIWS、AAWオート!!総員、衝撃に備え!!」
…、判断そのものは、決して間違えていなかった。むしろ、海軍軍人としては極めて教科書通りで、真っ当な策でもある。だが不幸なことに、曹は一つ重要なことに気づいていなかった。彼がその命令を口にしたタイミングが、ほんの少しだけ遅かったということに。南寧のCIWSが猛烈な火線を吐き出す。タングステン弾がワンビーの進路上へ次々と送り込まれるが、迎撃は間に合わない。弾幕を突き抜けたSSM-1Bは、そのまま南寧へと肉薄した。
最後に海軍の基本戦術へ立ち返った大型駆逐艦は、最後まで定石破りを続け、味方のイージス艦から「目」を借りた沿岸警備艦に、ついにその喉元を食い切られたのだった。
「報告、ワンビー弾着!!敵旗艦・南寧、レーダーより消失!!」
葛城の声が響き渡ってから、ほんの一瞬だけ静寂に包まれた後。ふそうのCIC内は、歓喜の雄叫びに包まれた。
「いやったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
普段は冷静な我那覇が、今までに誰も見たことがないレベルで叫んだかと思うと、近くにいた灰原にそのままの勢いで、全力で抱き着く。その横で、大げさなほどにガッツポーズを決めたり、感極まって涙を流したりする曹士の姿も見えた。長門は一気に脱力してため息をつき胸をなでおろすと、上官である河内や沢渡と、安堵の笑みを浮かべながら握手を交わした。
蒼はそんなCIC内の様子を見ながら、自分もまた安堵の笑みを浮かべていた。この戦闘における、彼女にとっての最も重い一撃は、最後には友軍の手も借りつつも成功に終わった。そしてこの瞬間、彼女はふそう就役以来初となる、対艦ミサイル攻撃を成功させた艦長となったのだ。真行寺蒼のキャリアに、そして日本国沿岸警備隊の歴史に、新たな一頁が刻まれた瞬間だった。
だが、そんな彼女の耳に再び音声が届いた。それは、ようやく敵艦隊が壊滅し、本来の任務目標である上海のロケット軍基地へのルートを開けてもらった高橋と、エスペランサ隊及びアサシン隊を見送る肥後との交信だった。
「マイティクレーン、エスペランサ1。敵艦隊、全艦戦闘不能を確認。上空航路クリア、これより上海への攻撃に向かいます」
「エスペランサ1、マイティクレーン。了解、後もう少しの辛抱だ。全機任務の成功と、無事の帰投を祈る。全員、一人残らず本艦まで帰ってこい」
“Roger that!!”
音声はそこで途切れた。蒼の口元の笑みが、ほんの少しだけ引き締まる。ヘッドセットを外すと、彼女は一度手を叩いて声を張り上げた。
「はい、みんなそこまで。敵艦隊を破って喜ぶのは分かるけど、まだ用具収めの号令をかけた覚えはないわよ。エスペランサ隊とアサシン隊の仕事はまだ終わってないわ。彼らの無事を祈りつつ、ちゃんと最後まで見届けなさい」
「Aye, ma’am!!」
その後、ほどなくして決着はついた。上海郊外のロケット軍基地を強襲したエスペランサ隊とアサシン隊計10機は、それぞれ最後の一発として残っていたJSMを基地に向け発射。同基地の戦闘能力をほぼ完全に奪い、爆炎を背にしょうかくへと帰投した。日本国防海軍が、日本国防空軍及び日本国沿岸警備隊との統合作戦として発動した「オペレーション・イーグル」は、日本側の完全勝利で幕を閉じたのだった。
【朗報】ふそうとはるな、最後の最後でやっと協力に成功する。
思えばこの2隻、本文中でも述べてますが同じ作戦で海に出る時も、ほぼずっと連携が失敗して空振り続きだったんですよね。で、そのたびに感情面が悪化して関係がどんどん冷え込む悪循環。そりゃ冷戦にもなるわけだ。
でも、本当はそれぞれがそれぞれなりに、日本の海を守るために力を持ち、発揮する者同士。軍種の枠を超えて力を合わせた時は、これだけ大きな仕事が一緒に出来るわけです。「だからこそ、喧嘩してないでちゃんと仲良くしようね?」というのがこの作品に込めたかったメッセージですね。まぁ、現実世界における海自と海保は、昔と比べたらだいぶいい関係にはなっているようですけども。
次回はエピローグとなります。書きたい描写がいくつかあるので、それらがうまくまとまれば1本のみの更新で幕切れになりますね。エピローグの展開は頭にちゃんと入っているので、今回ほどお待たせしないと思いますw それではまたお会いしましょう。