無事に年を越したと思いました矢先にインフルエンザで倒れてしまい、救急車で運ばれる羽目となりました。
一方、タスクはアンジュとモモカ、西十郎を連れ、アルゼナルに到着した。
「ここでお別れだね。」
「行くの?」
「あぁ、アーサーやライド達が心配だし、それにまだやるべき事があるから。」
タスクはそう言い、グランビークルに乗る。
「それじゃ!」
「ありがとう、助けに来てくれて…」
「え?」
「あなたがいなければ、死んでた。」
「……震えたよ」
「?」
「あんなに綺麗で…心を掴まれるような歌声、良い歌だった。初めてなのに何故か懐かしくて、嬉しいような、不思議だった。また聞かせてね…」
「えぇ…」
二人は別れを告げる。タスクはグランビークルを発進させ、海の彼方へと消える。
「アンジュリーゼ様を助けてくださって、ありがとうございました!」
モモカも去って行ったタスクに御礼を申し上げる。するとそこにジルがやって来る。
「男に送らせるとは、随分良い身分の脱走犯だな」
「ジル…」
アンジュはジルとタスクの関係をとおうとする。
「教えてほしいことがあるの…」
「良いだろう…ただし!」
しかし、アンジュの腹にジルの拳が当たる。
「反省が終わったらな」
「あ、アンジュリーゼ様〜〜!!」
「小娘の腹を殴るとは…恐ろしい女だ。ジル…話すことがある。」
「?」
「最悪な報告がある……」
西十郎はアンジュを抱え、アルゼナルへと入る。
数時間後ーーー。
「起きろ、アンジュ」
反省房の中で気を失っているアンジュを起こそうとサリアが言う。
「……ダメみたいね」
「はぁ…やって…」
「良いの?」
「早く…」
「イエス マム…」
一緒にいたエルシャがサリアの言うことに従い、バケツ一杯の水をアンジュに掛けた。アンジュはあまりの冷たさに目を覚ます。
「目が覚めた?」
「ここは…うっ!」
「処分を通達するわ。サリア隊 アンジュ脱走の罪により『反省房で一週間の謹慎』。並びに『財産、資産の全てを没収』。勿論、ヴィルキスもよ…」
「ケジメはつけなくちゃね…脱走犯だもの。ねぇ…どうして?どうして脱走したの?」
「え…?」
「私達は赤ん坊の頃からここにいるの…外の世界も知らないし、待っている人もいない、出て行く理由なんてない…外にノーマの居場所なんてない…どうして!?」
エルシャの言葉にアンジュは黙り込む。
「結局…私達とは違うのよ。信じるんじゃなかった……」
サリアはそう言い、エルシャを連れて去る。
「……あ」
全身素肌のアンジュはベンチに置かれていた毛布を体に巻く。
「寒い…」
「ぅるせぇ…」
っと別のベンチから声がする。
「ヒルダ…?」
別のベンチに毛布で身体を覆っているヒルダが横になっていた。
「近寄んな…」
「帰ってきたんだ、あなた…」
「いったた…!」
「大丈夫?」
「近寄んなっつってんだろ!」
ヒルダがアンジュに怒鳴りながら起き上がる。アンジュはヒルダの顔に驚く。顔の所々が誰かに殴られた跡と痣が浮かび上がっていた。
「あ…どうしたのその顔?」
「チッ!」
「何を…されたの?」
「…聞く前に自分に話な。」
「……死刑」
「は?」
「裸にされて、鞭で叩かれて、罵声を浴びせられて、首を吊られた」
「へぇ〜、中々じゃん。」
「で、ヒルダは?」
「ポリ公50人にボコられた」
「まぁ…!」
「全員、再起不能にしてやったけどね…」
「その割には、随分やられたのね?」
「…うっせぇよ。」
ヒルダはそう言いながら、横になる。っと、アンジュが言う。
「お母さんには…会えた?」
「……さぁな。」
「…そう」
アンジュはベンチに毛布と一緒に置いてあった制服を着替える。
数分後、アンジュが制服に着替え終えると、ヒルダが悪夢に魘されているのか、声を上げる。
「うぅ…!嫌だ!嫌だ!ママァ!!ライドォ!」
額から汗を流し、悪夢から解放されたヒルダが覚醒する。アンジュはヒルダの言葉に問う。
「ママ?ライド?」
「…チッ!」
ヒルダは舌打ちする。
「珍しい…落ち込んでるの?」
「あぁ!?んなわけ…!んなわけ……。ママだけは…受け入れてくれると思った」
「え?」
「ママだけは…ノーマの私を許してくれると思ってた。でも…ダメだった……あれが…ノーマってことなんだ。外の世界に…ノーマの居場所なんてなかったんだ。」
ヒルダは先日で自分の身に起こった事を思い浮かべる。10年前、警察官がヒルダの家に訪ねて来た。理由は簡単ーーーシュリーフォークト家にノーマがいるとのことであった。そして案の定、ヒルダがノーマであった。ヒルダの母はお腹を痛めながらも必死に産み、例えノーマである我が娘を守ろうとするが、結局ヒルダは母から引き離されてしまった。それから数年後が立ち、ヒルダはアンジュの協力で脱走したものの、現実を見ることとなってしまった。なんと、信じていた母親は後に産まれた娘ーーー後々ヒルダの妹に彼女と同じ名前をつけていたのであった。ヒルダは信じられないことで、母親から差別され、挙句には母親が警察官に通報、そして殴られる羽目になった…。
その事を知らないアンジュはアルゼナルにいるロザリーとクリスの事を言う。
「……ここにはいるじゃない。あなたの仲間が…」
「仲間?…ヘッ…いねぇよ、そんなもん…」
ヒルダはアンジュが帰ってくる数時間前に遡る。
《ーーー回想ーーー》
アンジュがアルゼナルへと帰還する先日、独房で赤子のような姿のヒルダがロザリーとクリスと話していた。
「帰ってきたんだ」
「なぁ…どうして脱走なんかしたんだよ?何で相談してくれなかったんだよ?私ら友達だろ?」
「……友達と思ってなかったんでしょ?」
「え…!?」
「ヘッ…気付くの遅っ。思ってねぇよ…最初から友達だなんて。うまくやって行くために、アンタ達に合わせてやってただけ…」
ヒルダの企みと本性に驚愕するロザリー。
「マジ…で!?」
「ねぇヒルダ……ペッ!」
クリスは見下すような体勢でヒルダの頰に唾を吹きかけた。
「っ!!」
「…………死ねば良かったのに。」
「く、クリス…!?」
「行こ、ロザリー…」
「は、はい!」
「ゾーラ隊長…心配していたけど。ガッカリだわ…。」
《ーーー回想終了ーーー》
「あ〜あ…な〜んにも無くなっちゃったわ。部屋も金もない……もう頼れるのは“アイツ”くらいしかいなくなった。」
「アイツ?」
「……ライドル・ヴルム・ヴァーレン。私の幼馴染。私はアイツの事を“ライド”って呼んでたけど…アンタには関係ない奴だよ。……でも、裏切られたら…。もういっそのこと、殺してくれないかな〜?」
「ダメよ……死ぬのはダメ。」
「生きろって?」
「……」
「フフッ…ハハハッ!流石は元皇女は言うことが違うな!こんなクソったれなどん底なのに、まだ生きろって訳!?希望だけは捨てずにって……ねぇ!?」
「臭うでしょ…死んだら。」
「はぁ?」
「やめてよ、こんな狭いところで…。」
「それだけ?」
「それだけよ…」
「ハハハッ!どこまで自己中なんだよ?クソったれ!」
「ふんっ…負け犬が何よ。希望ですって?そんな物…本気であると思ってるの?あるのは迫害される現実とドラゴンと殺しあう日常。全く…馬鹿馬鹿しくて笑えてくるわ。偏見と差別で凝り固まった愚民共、ノーマってだけで馬鹿みたいに否定しかできない…マナが使えないのがそんなにいけないの?違ってちゃ、いけないの?全部嘘っぱちなのよ…友情とか、家族とか、絆なんて。あぁ!!」
あまりの事にアンジュは髪を掻き毟る。
「!?」
「友情って素晴らしいとか、絆こそが素晴らしいとか、平気で口走ってた自分を殴りたくなったわ!」
「プフッ、バーカ。」
「ホント…馬鹿よ。どいつもこいつも馬鹿ばっかり。世界は……腐ってるわ。壊しちゃおっか、全部…。」
「はぁ?」
「出来そうじゃない?パラメイルと武器とアルゼナルがあれば。」
「陸まで何千キロあると分かってんのか?燃料切れで直ぐドボンさっ。」
「長時間稼働出来る機体を造ればいいじゃない。」
「食糧どうすんだよ?」
「魚なら、取り放題でしょ?何なら、人間達から奪ってもいい。」
「機材とかは?」
「何とかなるわ。」
アンジュはそう言いながら、鉄柵を掴み、イライラと世界の理と秩序に暴言吐く。
「私を虐げ、辱め、貶めることしか出来ない世界なんて、私から拒否してやる。こんなに腹立たしくて、苛立たしくて、頭にくる世界……」
「“ムカつく”……」
「え?」
「そう言うの…全部まとめて“ムカつく”って言うんだよ。」
「だったら…ぶっ壊してやるわ。こんなムカつく世界、ぜ〜んぶ!」
「ハハッ!いいね!協力してやっても良いぜ、私もぶっ壊したい物があるからさ。」
「何なら、彼等に協力する?」
「彼等?」
「私を助けた“グランセイザー”と名乗っていた連中ーーー。」
その夜、アンジュは母の歌である永遠語り〜光ノ歌〜を歌う。その綺麗な歌は浴場にいるヴィヴィアンとエルシャにも聞こえていた。
「クイズです!この誰は誰が歌ってるのでしょうか?」
「アンジュちゃん♪」
「正解!」
「ん〜〜♪良い歌だにゃ〜♪」
「サリアちゃんに怒られるわよ、アンジュは脱走犯よ、歌くらいで退場されてどうするのって」
「そりゃ、怖い!」
ヴィヴィアンはそう言い、風呂の中へと潜り、言葉を発する。
「おばべりぃ〜〜!わんじゃブゥゥ〜〜!(お帰り〜!アンジュ〜〜!)」
そして、アルゼナルの指令室では、月明かりが照らされる夜を眺め、煙草を吸うジルは煙管を吸う西十郎と話し合っていた。
「……ユーティス・飛鳥・ミスルギ。タスクの両親、ヒルダの男、サリアの男の親族を殺した元第二皇太子。穢れ騎士の一人…強敵になるな。」
「まぁ、アイツらにも深い事情があるのだ。」
西十郎は懐からある物を取り出す。
「何だそれは…?」
「俺達“黄昏の王君”が使う極秘通信機だ。ウチの司令であるアリマがアルゼナルの司令官であるお前と話したいそうだ。」
西十郎はそう言いながら、通信機を起動する。すると通信機からホログラム状で映っているアリマが現れる。
「どうも〜、アルゼナルの司令官。私が黄昏の王君の司令官を務める“アリマ”と申す。つい先日にお越しになったアーサーがすまない事をしたな。」
「アーサー……あぁ、あの若造の事か。」
「そう……早速だが、ジル司令官。我々、黄昏の王君と手を組まないか?」
「何?」
アリマからの突然の同盟宣言、果たして、交渉の結果はどうなったか…。