翌日、ブリーフィングルームにてアンジュとタスク、ジル、ジャスミン、マギー、メイが集まった。
「よく眠れたか?」
「えぇ…」
「それは結構。では、お前に任務を与える。」
「「……」」
「ドラゴンと接触、交渉し、共同戦線の構築を要請せよ。」
「「!!」」
その言葉に二人は驚く。
「どうした?お前の提案通り、一緒に戦うと言うんだ…ドラゴン共と。」
「本気なの?」
「リベルタスに終止符を打つのはドラゴンとの共闘、それが最も合理的で効率的な判断だと確信した。」
「アンジュ!」
タスクはアンジュを見て更なる希望が出た事に歓喜する。
「では、作戦の概要を説明する。」
ジルはそう言うと、デスク表面に地形図が表示される。
「これは?」
「以前、サリア達との戦闘でラグナメイルに打ち込んだマーカーだ。」
「私が作ったんだよ!」
メイがそう言うと、ジルからの作戦が伝えられる。
ドラゴン達を【緑】連邦を【紫】、アウローラ を【青】、ラグナメイルやアルザード帝国を【ピンク】と【赤】として表示する。
先ず、アンジュ達と合同を共にするドラゴンと連邦艦隊が先行し、ラグナメイルとアルザード帝国艦隊と交戦、帝国艦隊が激減した後、アウローラが浮上、艦隊の背後から奇襲を仕掛け、敵勢力の完全排除。いわゆる陽動作戦でもあった。排除した後、残存勢力を持ってアケノミハシラへ突撃、アウラの奪還という事になる。
「でもこれじゃ、ドラゴンや連邦に多大な負担を強いる事になるぞ。」
「陽動と言うのはそう言う役割だ。」
「サリア達とフェリスはどうするの?」
「……どうすると?」
「え?助けないの!?」
「フンッ…持ち主を裏切る“道具”や敵側に寝返った人間は要らん。」
「道具って!?だってサリアよ!」
「全てはリベルタスの為の“道具”に過ぎない。ドラゴン共も連邦もお前も私もね…。」
ジルからの【道具】という言葉に、アンジュはこの作戦の違和感を察知する。
「道具っ!ドラゴンも!?……ねぇ、何を企んでるの!?本当はドラゴンや連邦軍に何をするつもり!?」
「……」
「答えないと命令は聞かないわ!」
「フン…ドラゴン共と強撃?アッハハハハハ!アウローラの浮上ポイントは此処だ!」
デスクに表示されたアウローラのマーカーの位置が変わる。
「ドラゴンと連邦軍がラグナメイルとアルザード帝国と交戦している間に、アンジュ…お前はパラメイル隊と共にアケノミハシラへ突入、エンブリヲを抹殺しろ!」
「はぁ!!?」
「ドラゴンと連邦艦隊は捨て駒か!」
「切り札であるヴィルキスを危険に晒す様な事は出来んからな。」
「冗談じゃないわ!こんな最低な作戦、協力できるわけないでしょ!」
「ならば、協力する気にさせてやる。」
「モモカ!」
「ランス!」
「減圧室のハッチを開けば、侍女と小僧は一瞬で水圧に押し潰される。」
「ジル!あんたの仕業か!?」
「聞いてないよこんな事!」
「アンジュは命令違反の常習犯だ。予防策を取っておいた。」
「アレクトラ…!」
「救いたければ、作戦を全て受け入れ、行動しろ!」
「自分が何をしているのか分かってるの!?」
「リベルタスの前では全てが駒であり道具だ。あの侍女もお前を動かす道具、お前はヴィルキスを動かす道具、そしてヴィルキスはエンブリヲを抹殺する究極の武器。」
「ふざけるな!モモカを解放しなさい!今すぐ!」
「ぐっ!!」
「上官への反抗罪だ!」
「やめろ!アレクトラ!」
「ゔっ!!」
「さて、お前の答えを聞こうか?」
「思ってた通りだ…。」
「さぁ、答えは?」
「くっクタばれ…プッ!」
「痛い目に遭わないといけないようだな。」
「っ!?」
「ガスか!?」
「アンジュ!」
「おぉ!これは!オリオリおじちゃんが言ってたプランB!パクッとな!」
「話はインカムで聞かせて貰った!思ってた通りだ!」
「あの男…何か盛り上がったな、アンジュ…ライド…。」
「すまん、ヒルダ…訳はちゃんと話す。」
「タスク…貴様!」
「出来れば、こんな事したくなかったよ。」
「ヴィルキスの騎士が…リベルタスの邪魔をするのか!」
「俺はヴィルキスの騎士じゃない。アンジュの騎士だ!」
「色気付いたか、ガキがっ!」
「モモカ!」
「アンジュリーゼ様!」
「ごめんね、君達。時期に目が覚めるから。」
「アウローラ、浮上開始。」
「ソナーに反応あり!」
「多分あの船だわ…」
「了解、急行する。」
「海面に出たら、直ぐにパラメイルで脱出するわ!準備を!」
「あぁ!」
「了解!」
「分かった!」
「OK!」
「姉ちゃん!ぐあっ!」
「トウジ!ミクモ!」
「また敵前逃亡か…!」
「ジル!」
「あいつ、自分の足にナイフを!」
「何と言う執念…!」
「逃がさんぞ…アンジュ!リベルタスを成功させるまではな!!」
「リベルタスって私がいないと出来ないんでしょ!なのに、私の意思は無視するの!?」
「道具に意思など要らん!」
「私の意思を無視して、戦いを強要するって…人間達がノーマにさせている事と一緒じゃない!」
「命令に従え!司令官は私だ!」
「人間としては屑よ!」
「退け!アンジュ!コイツをぶっ飛ばす!!」
「待って、ライド!」
「!?」
「ここは私に任せて。」
「良いんだな…」
「……勝負しましょう。サラ子はやアーサーは人質なんて卑怯な真似しなかったわ!」
アンジュはそう言い、懐からナイフを取り出し、構える。
「貴女が勝ったら聞いてあげる。」
「アンジュリーゼ様!」
「タスク、モモカと下がって。皆んなも、邪魔しないで。」
「分かった…。」
「気をつけて、アンジュ。」
「御武運を、アンジュリーゼ様!」
タスク達は下がると同時に、負傷したトウジとミクモも救出するエクエス達。アンジュとジルは互いを睨み合い、互いにナイフの刃を向ける。
「この期に及んで、まだ我儘とはな!」
「傲慢なのはあなたの方でしょ!」
「エンブリヲがいる限り、リベルタスは終わらん!」
「囚われて操られているフェリスのお腹には何も罪のないアーサーの子供が宿っているのに!その為ならどんな犠牲も許されるって言いたいの!?」
「その通りだ!」
「そんなの!そんな戦い!何の意味があるの!?」
「お前なら分かるはずだ!皇女アンジュリーゼ!」
「世界に全てを奪われ!地の底叩き落とされたお前なら!私の怒りが!!そして!皇女と名乗る怪物坊っちゃんの忌子を孕んだ偽りの姫も倒す!!アイツのせいで、10年前のリベルタスは失敗したんだ!」
「え!?」
「10年前、あの坊や…アルトリウスがやってきて、彼の力を見た!凄かった!エンブリヲをやケーニヒスを絶望の淵まで追い詰めていた!だが!先走ったある“身勝手な仲間”と幼少期の偽りの姫とあの娘の親を身を挺して庇い、古の民や仲間は死んだ!だから、あの娘も殺さなければ、アルトリウスの思いや無念も晴らせない!その為、敵であるあの女を!エンブリヲを!倒せる!」
「ぐっ!!フェリスは…敵じゃない!!」
「お前は私だ!お前がエンブリヲと偽りの姫を殺し!リベルタスを成功させるのだ!全てを取り戻す為に!」
「私は…私は!」
「誰かを自分に託すなんて、空っぽなのね、あなた!」
「何が正しいのかって誰にも分からない!けど、あなたのやり方は大嫌いよ!こんな事、絶対にアーサーは喜びもしないし、認めないわ!アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツ!!」
「黙れぇぇええっ!!」
「何故!?…何故分からんのだ!!?」
「あなたのやり方じゃ…フェリスと一緒に“喫茶アンジュ”は作れないし、働けないからよ!」
「何…!?」
「もうやめな…ジル。」
「アンタの負けだよ。最近の若いもん達はアンタよりも意思が強すぎだ。」
「ジャスミン元司令。」
「元司令か…何だ?」
「ジルの処遇は?」
「…取り敢えず、医務室へ運び、拘束してくれ。」
「了解した。」
《オリヴァルト中将!》
「もう中将と言うのはよせ。これからは”新生エクシリア公国連邦の大公”として君臨する。此奴を医務室に、そして拘束してくれ。」
《了解!》
「どうするんだい?これから…」
「私がやるわ。」
「え?」
「あの人のやり方は間違っていたけど、やっぱりノーマの解放は必要だもの!私がやるわ…リベルタスを。」
「っ!」
「私を信じてくれる人と…私が信じる人達と。」
「わぁ!綺麗な空!」
「さぁ、タスク!私を撃って!サラ子達の所へ行かなくちゃ!」
「え!?でも!」
「ピンチにならないと、ヴィルキスは跳べないんだから!ほら!早く!」
「って言われても!」
「じゃあ私やる〜!」
「《っ!?》」
「今のは!?」
「ここにいたのね…アンジュ。」
「サリア…っ!?」
サリアと同時に、天空の彼方からそれは現れた。
巨大にして神々しい、六基のスラスターウィングから放出する蝶の如く光の羽、両肩部分から左右に伸びたアームに接続されている巨大なニードル状の武装、外見を覆う羽衣の様な重装甲をしたアルテギアの強化体ーーー【アルテギア・ゼノムス】であった。アルテギア・ゼノムスに騎乗しているのは操られているフェリスであった。
さらにアルテギア・ゼノムスの真上…そして海面が突如暗くなる。それは神聖にして巨大、幾つもの甲板デッキ、無数の主砲タレットと対空兵器
闇の大聖堂から戦場を観賞するケーニヒス。だがケーニヒスの身体が変わっていた。それは…彼の身体に装着されていた呼吸器がなく、完全な健康体、白く透き通った髪、老化が消え、青年へと若返っていく。
『もうすぐだ…もうすぐ俺の忌まわしきあの悪夢……“10年前のあの日”を抹消する願望が完遂する。我の野望の為、あの忌まわしき存在、待っていろ……【アルトリウス・コールブランド】お前の運命は…既に決まっている。ジュリオとエンブリヲ直属の親衛隊には、立派に働いて貰うぞ。』
青年へと若返ったケーニヒスは喜びを上げると、彼の身体に異変が起き始める。若返ったのは良いが、彼の左眼は頭蓋骨ごと陥没、皮膚は火傷で爛れ、右目でアウローラ や轟天号を見下ろす。さらに彼の右肩と左横腹、左の額から側頭部にかけて、巨大な目が肉の中から現れる。闇の大聖堂内で悍しくたくさんの何かが蠢き、絶望の産ぶ声を上げる…それを見つめる五人の影。
「やれやれ、ケーニヒスの奴め。ザリマン陛下や私達を信用していないのか?」
「ケーニヒスは“怖い”のだ。10年前…彼はあの時、あの場にいたのだから。」
「何故分かるのだ?」
「俺の能力を甘く見るな……奴の大罪は変わらない。12年前…10年前…彼の苦痛は治らない。奴の…彼の血統因子に眠る“あの化物”が“10年前”の様の世界のように…ならなければ良いんだが。それに油断は禁物であり、無駄口を叩くなだったな。分かっているな?」
「ヘイヘイ」
「アルトリウスよ…お前は希望を齎す光?それとも絶望を齎す闇?それか……【全てを拒絶する無】?」
その者は微笑むと、フラッシュが起こり、彼の影だけ形が違った。そしてその者が立ち上がり、闇の中へと消えていった。
正にその頃、海中を突き進む巨大な影、その大きさは1km以上もあった。そして完成したアーサー専用の超巨大戦艦…。
戦艦の格納庫内でアーサーはマスラオに内蔵されているVRシュミレーションシステムで訓練専用のパイロットスーツからある写真付きのペンダントを取り出し、その写真を見て呟き始める。
「皆んなへこたれていると思う。だから俺が…“皆んな”と出会う前の俺が喝を入れないとな!!」
アーサーはそう言い、ペンダント終う。発光する球体型の操縦桿を掴み、指で操作し始める。
「300年前に打ち捨てられたお前の怒りを…ケーニヒス達に絶望を運ぶ死で齎すぞ。マスラオ!」
その言葉にマスラオが反応する。エンジン音が起動し、マスラオから不気味な笑い声が轟かせる。さらにマスラオの背後に複数の機体が配備されており、黄緑色の発光するラインと赤く光るバイザーを輝かせる。