小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
始まりは中国軽慶市。
発光する赤子が生まれたという事件だった。
それ以降、身体に炎を纏う者、冷気を操る者、手を触れずに物を動かせる者、等々様々な「超常」は発見され、原因も判然としないまま時は流れる。
──いつしか「超常」は「日常」に。
──「
世界総人口の約八割が何らか特異体質となった現在!
混乱渦巻く世の中で!
かつて誰もが空想し、憧れた一つの職業──
──
──しかし、
光ある所には、必ず影が生まれる。
超常の力「個性」によって活躍するヒーロー達がいる一方で、その力で悪事を働く者達、
通称「
超常とは、メリットばかりの夢の力ではない。
強い力には、それ相応の代償がついて回る。
強い個性には、強い
それを、努々忘れてはならない。
──これは、今から十年前の出来事である。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」
倒れるビル。転がる死体。
飛び散った血で真っ赤に汚れた瓦礫の山。
そんな地獄の光景の中で、小さな人影が笑い声を上げていた。
「最高にハイってヤツだぜェエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!」
壊れたように叫びながら、暴れだす人影。
倒れるビル。量産される死体。
そして……死んでいく
後に、「
百名以上のヒーローを殉職させ、万を超える死者を出した、記録に残る中で最悪のヴィラン犯罪として歴史に深く刻まれる事になる。
しかし、これだけの大事件を引き起こしたヴィランの正体は、ついぞ明らかになることはなかった。
──伝説のヴィラン「デッドエンド」。
そう呼ばれるようになった彼と、彼を筆頭としたヴィラン達こそが、
個性溢れる超常社会の、代償。
副作用そのものなのだろう。
◆◆◆
『この番組は、◯◯◯社の提供でお送りいたしました』
「いやー、懐かしい」
史上最強のヴィランと呼ばれた大犯罪者「デッドエンド」の特集──いや御乃巢の大災害の追悼番組か──をテレビで見ていた私は、そんな感想を抱いた。
この特集自体は毎年事件があった日に放送されてるんだけど、ぶっちゃけ見てておもしろいものでもないから、真面目に見たのは凄く久しぶりだ。
本当は
文句があるんだったら、見たいと思わせるくらい番組をおもしろくしろ。
笑いをとれ、笑いを。そしたら、ちゃんと見てやるよ。
まあ、追悼番組でそれやったら不謹慎にも程があるけどな!
「ただいまー」
そんなどうでもいい事を考えていたら、玄関から声が聞こえてきた。
どうやら、パパが帰って来たようだ。
只今の時刻、夜の12時。
今日も残業、お疲れ様です!
「お帰りー」
ソファーに寝転んだまま、返事を返す。
「HAHAHA! 今日も一日働いた! って、また夜更かししていたのか
「パパ、その考え方は古いよー。今時の女子中学生は余裕で深夜まで起きるという生態をしているのだよ」
「ムムム……しかしだな、寝なければ身長も伸びないぞ」
「失礼な、私がチビだと申すか。よかろう、その喧嘩買ったー!」
「ぐはーッ!」
失礼な事を言ったパパに向かって飛び蹴りを食らわせる。
仕事帰りのお疲れモードであることを加味して、めっちゃ手加減してあげた私偉い。
私が本気だったら、飛び蹴り一つで周囲が更地になるぜ。
そんな私の慈悲に感謝して眠るがいい父よ。
永遠に。
「まあ、冗談はさておき。ご飯作ってあるから、暖め直して一緒に食べよー」
「ゲホッ、ゲホッ! いやあの魔美ちゃん? 冗談で済む威力ではなかったのだが……」
「またまたー」
腐っても最強のヒーローが何をおっしゃる。
馬鹿言ってないで、さっさとお皿でもとって来なさい。
「ん~、解せぬ!」
とかなんとか言いながら、パパは台所に消えて行った。
私もすぐに後を追い、晩御飯のハンバーグをレンジでチンして暖め直す。
ご飯を作ってくれる上に、父の遅い帰りを待って一緒に食卓を囲んでくれるなんて、私はなんて良く出来た娘なのでしょう!
パパのパンツと一緒に洗わないで! とか言ってる全国の思春期どもに見習わせたいわー。
「そういえば、さっきまでテレビ見てたみたいだけど、何を見ていたんだい? また取り貯めたアニメかい?」
ハンバーグとご飯の黄金コンボを口に運んでたら、パパがそんな事を聞いてきた。
「いんや、デッドエンドの特集見てた。もう十年になるんだなー、て思って」
あっ、パパがめっちゃ複雑そうな顔になった。
まあそりゃ、あの事件は我が家にとって凄まじく因縁深い事件なんだから、さもあらんって感じだ。
あの事件があったからこそ、私はこの
食卓の空気が一気に重くなった。
これは完全に、話題選びを間違えましたわ。
「「…………」」
そして、謎の沈黙が食卓を包み込む。
これはいかんな。
ご飯は明るい気持ちで楽しく食べなければならんのだ。
何故なら、ご飯が不味くなるから。
せっかくのご飯をわざわざ不味くして食べるなんて、作ってくれた人に失礼。つまり、私に失礼だということだよ!
よし。
ここは、気づかいのできるクールな私が、責任を持って話題を変えてやろう。
「そういえば、パパって明日はオフだよね?」
「え、あ、うむ! 明日は久しぶりに一日休みが取れたぞ!」
「じゃあ、ショッピングに行きたいから付き合ってよ。休日デートしようぜ!」
「もちろん、良いとも!」
やったね!
話題を変えるついでに、言質を取ってやったぜ!
これで明日は、合意の元に、パパを財布兼荷物持ちとして連れ回せる。
災い転じて福と成すとは、まさにこのことよ!
さすが私。
「明日はちゃんと付き合ってよねー。途中で仕事に逃げるとかなしだからね」
「HAHAHA! 大丈夫さ魔美ちゃん! 私はヒーロー! 娘一人笑顔にできないようではヒーロー失格だからね!」
「信用ならないなー。だってパパ、ヒーロー活動という名の仕事に全てを捧げた社畜じゃん」
「社畜!? 初めて言われた、そんなこと!!」
あらやだ。
自覚がなかったのかしら、この人。
確かに、パパは世間から見れば華々しい活躍をする憧れのナンバー1ヒーローなんだろうけど、
娘の視点から見れば、こんな夜遅くまで仕事して帰って来る、立派な社畜でしかないっていうのに。
あーあ。
この分じゃ、明日のショッピングも、どれだけ楽しめるか分かったもんじゃないな。
絶対、途中でヴィランとか現れて中止になるよ。
賭けてもいい。
そうして、楽しく会話を弾ませながら、その日の食事は終わった。
やっぱり、ご飯は誰かと一緒に楽しく食べるのが一番だ。
◆◆◆
そして、翌日。
只今の時刻、午後12時2分。
私は、馴れない街で一人、置いてきぼりにされていた。
「うん。知ってた!」
パパ? 奴は死んだ。
というのは冗談だ。
本当は、たった今コンビニ強盗をやらかしたヘドロみたいなヴィランを追って、マンホールの中に消えて行った。
つまり仕事だ。
昨日、あれだけ自信満々に啖呵切ってたくせに、蓋を開けてみれば、これだよ。
パパの嘘つき!
まだ、5、6店舗くらいしか回ってないのに!
まだ、両手で持てるくらいの買い物しかしてないのに!
ハア。
まあ、こうなっちゃったら仕方がないか。
パパはああいう人間だ。
困ってる人とか、人に迷惑かけてる敵とかを見ると放っておけない、根っからのお人好し、根っからのヒーローだ。
そして、私はそんなパパが嫌いじゃない。
あんな風になりたいとは思わないけど、嫌いではないのだ。
ま、パパが出撃する時、お尻のポケットからこっそりと財布を抜いてやったし、今回はこのお財布に免じて許してやろう。
さて。
じゃあ、私は一人寂しく、お買い物を続行しますかね。
せいぜいパパの財布が空っぽになるくらい買い込んで、悲鳴上げさせてやろう。
その後は、適当に時間が経ったのを見計らって、パパに連絡。
合流して、帰ろう。
という事で、散財の時間じゃー!!
服を見て、小物を買って、ファミレスで一番高いメニューを注文して。
化粧品を買って、可愛いぬいぐるみを買って、ついでに食材の買い足しもして。
そうしてすっかりお財布の中身が寂しくなった頃には、買った荷物も山積み。
もはや、両手で持ちきれる範囲を軽く逸脱して、文字通り、天高くそびえる荷物の山が出来てしまった。
いやー、買った買った。
もう、大人買いってレベルじゃねーな!
これは、貴族の買い物だよ。
さすがは、
諭吉様が群れを成していらっしゃった。
パパってば、高給取りのくせに、仕事、仕事、仕事でお金を使う暇がないから、結果的にめっちゃ溜め込んでるんだよね。
一回、預金通帳を見た時は我が目を疑ったもの。
だから私は、こういうお金を使ってもいい大義名分がある時は、遠慮せずにガンガン使うことにしてる。
この程度のお買い物では、我が家の家計は揺るがないのだよ!
それに、私も高校卒業したら、パパと同じくヒーローデビューするつもりでいるから、そうなればますます磐石。
そうなれば、ちょっとした財閥のお嬢様より良い暮らしできるかもしれない。
まあ、高級レストランとか、高級マンションとかには興味ないから、結局、たまに貴族買いするくらいしか使い道ないだろうけど。
さて。
それなりに満足いくまでショッピングは楽しめた。
そろそろ、パパに連絡を入れよう。
あのマンホールダイブ事件から三時間くらい経ってるし、いい加減向こうも終わってるでしょ。
パパの携帯にコール。
だが、繋がらない。
パパめ。
携帯忘れて行きやがったな。
さて、困った。
パパと連絡がつかないじゃ、どうするべきか。
電車に乗って、一人で帰る?
うーん、でも、一応休日デートという名目だし、それはちょっと気が引ける。
そうじゃなくても、荷物が嵩張るから、電車にはあんまり乗りたくない。
できればパパの車で帰りたい。
じゃあ、歩いて探す?
この土地勘のない街で?
どこに居るのかも分からないパパを?
無理ゲー。
でも、できなくはないか。
パパ、目立つ格好してるから、人に聞けばどっちの方角に居るのかくらい分かる、かも。
もしくは、素直に車で待つか。
でも、待ちぼうけは嫌だなー。
「よし」
決めた。
ちょっとだけ捜索して、ダメだったら大人しく一人で帰ろう。
そうと決まったら、貴族買いした荷物を抱えて動き出す。
とりあえず、適当な通行人に話しかけて、人探し開始だ!
さーて、誰に話しかけるか。
お。
あれでいいか。
「おーい。そこの不良少年!」
「誰が不良少年だ、コラ!!!」
目をつけたのは、とってもガラの悪い金髪の少年。
特に目付きが悪い。
それはもう、ゲロ以下のクズの匂いがするくらいに。
しかも、取り巻きっぽいのを二人も連れてるんだぜ?
これが不良じゃないなら、誰を不良と言えばいいんだ!
ん? 何でそんな不良に声をかけたのかって?
これになら、いくら迷惑をかけても心が痛まなそうだと思ったからだよ。
「ちょっと人を探してるんだけどさー。金髪で骸骨みたいにガリガリの人、知らない?」
「知らねえわ! つーかまず不良を撤回しろ! 俺はヒーロー志望だ!!」
「ああ、そういう冗談はいいから」
「冗談じゃねえよ、クソが!!!」
冗談じゃなかったら、世も末だよ。
君みたいな不良がヒーローになれるんだったら、アメーバだってヒーローになれるさ。
「ていうか、ヒーロー志望だったら困ってる人は助けるものだよ? という訳で、私の人探しを手伝ってくれ! ついでに荷物持ってー。地味に重くてさー」
「何、初対面の人間パシリにしようとしてんだ!! 何様だよ、テメェは!!」
「強いて言うなら、お金持ち様かな」
「知るか!!! 失せろ!!!」
「うわ!」
突然不良少年は私を突き飛ばして、そのまま立ち去ってしまった。
最近の若者はなんて乱暴なんでしょう。
まあ、私の個性だったら、突き飛ばされたくらいじゃ倒れやしないけどさー。
でも、こんな美少女に向かって、その仕打ちは酷くね?
やっぱり、不良はどこまでいっても不良だな。
取り巻き二人は若干申し訳なさそうな顔してたけど。
さて、荷物持ち候補がいなくなってしまったし、次はどうしよう?
なんかめんどくさくなっちゃったなー。
もう、車に戻ろうか?
でも、鍵はパパのズボンのポケットにあるしなー。
うーむ。
こんなことなら、財布じゃなくて鍵をスッとくべきだった。
ハア。
仕方ない。
もうちょっとだけ探すか。
そうして歩くこと、暫し。
私は、緑色の髪をした地味めの少年に出会った。