小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
──オールマイト視点
「んー……。相澤くんにも13号くんにも繋がらない」
今日の授業に出られなかった事を不甲斐なく思い、せめて今授業がどうなっているのかだけでも知ろうと思って相澤くん達に電話をかけてみたのだが……何故か繋がらない。
教鞭を放り出した私には、その資格すらないという事だろうか……。
「……いかなる理由であれ、勤務時間外の都合で教鞭を放り出す。とても愚かな事をしていた。終わりがけに行って何を語れよう? 後十分程なら体ももつだろうし」
やはり私が行くべきか?
しかし、今朝魔美ちゃんにも叱られてしまったしなぁ……。
あの時あの子が語った事にも一理ある……どころか、ぐうの音も出ない。
たしかに私はヒーローであると同時にあの子の親なのだ。
親には子供が大人になるまで見守り、育てる義務と責任がある。
特にあの子は私が望んで引き取った子だ。
実の娘以上に、あの子の人生に責任を持たねばなるまい。
それに親に死なれるのはとても辛い。
私もかつて母のように思っていた人を失っているが……あれは今思い出しただけでも胸が張り裂けるようだ。
私はその苦しみを知っている。
だというのに私は無理を重ね、こんな姿になるまで弱ってしまった。
そして今も、それをわかった上で自ら寿命を縮め、命を危険に晒すような行いを続けている。
平和の象徴としてヒーローとしてならばそれは正しいと私は信じている。
だが、一人の親としてはこの上なく無責任な行いだと理解させられた。
……それでも私の歩む道は変わらないだろう。
平和の象徴としての責務も、それに懸ける私の意志も、それほどに重い。
だがしかし、親としての責任があるのも変わらない事実。
ならば今回のような時は行ってすぐ戻るようなあまり意味のない無理はせず、変な意地を張らずに素直に相澤くん達に任せて休んでいた方が良いのではないだろうか?
いや、しかし……。
うーむ。
悩ましい。
「やあオールマイト。悩んでるみたいだね」
そう言って突然部屋に入って来たのは、スーツを来た二足歩行のネズミっぽいお方。
そうつまり。
「校長先生!!」
「yes! ネズミなのか犬なのか熊なのか。かくしてその正体は──校長さ!」
校長は「ハイスペック」という頭が良くなる個性を発現し、人間以上の知能を持つようになったネズミだ。
だからその正体は犬でも熊でもなくネズミ、いや素晴らしきお人《・・》なのだが……。
そういう突っ込みは求められていないだろう。
「本日も大変整った毛並みでいらっしゃる!」
私はスススと低姿勢になり、お世辞を言い始めた。
「秘訣はケラチンさ! 人間にこの色艶は出せやしないのさ! ……その話は後にして、君、コレ!!」
「ムム!!」
そう言って校長が見せつけてきたのは、私が今朝解決したニュース情報の記載されたタブレットだった。
「君が来たというのに未だこの街で罪を犯す輩も大概だが、事件と聞けば反射的に動く君も君さ! 昔から変わってないよね本当」
「ウッ!!」
つい先程重ねた無理の話だ。
心に突き刺さる。
耳が痛い!
「ケガと後遺症によるヒーロー活動の限界。それに伴う『ワン・フォー・オール』後継者の育成。平和の象徴に固執する君が両者とも社会に悟られぬままでいられるのはここしかないだろうと私が薦めた教職だぜ。それに君の娘もちょうど入学する年だったしね。もう少し腰を落ち着かせても良いんじゃないかな」
「現に今回の授業はもう少ししか出られないんだろう。薦めたのはこっちだけどさ。引き受けた以上は教職優先で動いてほしいのさ
「それに君の娘にも言われただろう。一人の親として、あまり無理はするなって」
校長がペラペラと語られた内容はまさに正論だった。
「仰る通りです……。だからこそ今、USJに向かうかどうか悩んでいまして」
「今行ってもすぐ戻るハメになるんだろう? それならいっそここで私の教師論を聞いて今後の糧としたまえよ。その方が君の娘も安心するだろう」
ムムムム。
校長がお茶を淹れ始めた。
腰を据えて話をする気だ。
校長は話し始めると長い。
……相澤くん達にかけた電話。
留守電じゃなくて
「まずヒーローと教師という関係の脆弱性と負担について」
「……先生もお変わりありませんね」
妙な引っ掛かりを覚えながらも、私は校長先生の話を聞く姿勢に入ったのだった。
◆◆◆
──飯田視点
「皆は!? いるか!? 確認できるか!?」
「散り散りにはなっているが、この施設内にいる」
僕の叫ぶような質問の声に、探知系の個性を持った障子くんが答えてくれた。
さっきワープの個性と思われる黒い靄に飲み込まれてしまったクラスメイトの皆は、どうやらどこか未知の場所にではなく、この施設の中にワープさせられたらしい。
……未知の場所。例えば敵のアジトなどに飛ばさなかったのは、ワープの制限か、それとも何かの策略か。
いや、そんな事を考えている場合ではないな。
「物理攻撃無効でワープって……!! 最悪の個性だぜおい!!」
クラスメイトの瀬呂くんが嘆くが、僕も内心は似たような気持ちだ。
目の前の敵だけではない。
奴らの中にはあの底知れない力を持っていた八木くんをも殴り飛ばす程の存在もいた。
直接八木くんと相対し、手も足も出せずに軽くあしらわれた僕は、彼女の圧倒的な強さの片鱗を知っている。
だからこそ、八木くんを殴り飛ばしたあのヴィランの危険性も良くわかった。
あれは僕らが逆立ちしても勝てない相手だ。
そんな者を有する敵を相手にこの状況。
絶望的すぎて嘆きたくなる気持ちは良くわかる。
「委員長!」
「は!」
そんな弱気になりかけた時、僕は13号先生に呼ばれた。
「──君に託します。学校まで駆けてこの事を伝えて下さい」
そして告げられた。
今、僕にできる最善と思われる選択肢を。
「警報鳴らず。そして電話も圏外になっていました。警報器は赤外線式。先輩……イレイザーヘッドが下で個性を消し回っているにも関わらず無作動なのは……。恐らくそれらを妨害可能な個性がいて、即座に隠したのでしょう。とすると、それを見つけ出すより君が駆けた方が早い!」
頭では理解している。
それが最善の選択だと。
だが、
「しかし。クラスを置いて行くなど委員長の風上にも……」
「行って!! 飯田くん!!」
そう言ってくれたのは、麗日くんだった。
「外に出れば警報が鳴る。だからこそ奴らはUSJの中だけで事を起こしたのだろう」
「外にさえ出られりゃ追っちゃこれねぇよ!! お前の足でモヤを振り切れ!!」
障子くん……! 瀬呂くん……!
「救う為に、個性を使って下さい!!」
13号先生……!
「食堂の時みたく……サポートなら私超できるから! する!! から!! ──お願いね。委員長!!」
麗日くん……!!
そこまで言われて……行かない訳にはいかないだろう!!!
「エンジンブースト!!!」
僕の個性「エンジン」を全力で使って走る!
クラスで一番の機動力を持つのは八木くんだが、その八木くんが動けない今、次点の僕が走るのが一番早い!
皆を!! 僕が!! 任された!! クラスを!! 僕が!!
その思いで必死に駆ける。
エンストを起こしては元も子もないので個性の奥の手は使えない。
故に通常状態のトップギア。
最高速度でひたすら駆ける!!
「手段がないとはいえ。敵前で策を語る阿保がいますか」
「バレても問題ないから、語ったんでしょうが!!」
後ろから戦いの音が聞こえてくる。
だが、振り返りはしない。
皆の健闘を無駄にしない為にも、今僕ができる最善を……!
「教師達を呼ばれてはこちらも大変ですので」
そうして走る僕の前に、あの黒いモヤのヴィランが現れた。
バカな!?
奴は13号先生と戦っていた筈!!
もう振り切ったと言うのか!?
僕の個性はスピードがあるが小回りが利かない。
正面進行方向に突如出現した黒いモヤ。
駄目だ!
このままでは避けられない!!
減速を余儀なくされた!
「行け!!」
だが、その黒いモヤは障子くんが体全体を使って覆い隠す事によって封じてくれた。
僕の為に体を張って……!
すまない、障子くん!!
だが、助かった!!
ありがとう!!
「ぬぅ……! 思ったより速い! ちょこざいな……! 外には出さない!!」
それでもヴィランは僕を追って来た。
実体がなくて軽いせいか、黒いモヤの進行速度は僕よりも速い!
「なまいきだぞメガネ……!」
まずい! 追い付かれた!!
正面に再び黒いモヤが展開される!
「消えろ!!」
「くっ!!」
僕は無理矢理体勢を横に崩し、転がるように倒れこむ事でなんとか黒いモヤを回避した。
とっさの行動だったが、上手くいった。
だが、倒れてしまっては次は避けられない!
万事休すか!?
「ム!? 身体を!? しまった!!」
「行けえええ!!! 飯田くん!!!」
その時、黒いモヤが急に僕から離れていった。
視界の中に麗日くんが黒いモヤの発生源のような場所に何かしているのが見えた。
あれは……!?
奴の実体部分か何かか!?
いや、今はそんな事どうでも良い!!
友が作ってくれた千載一遇のチャンス!!
活かさずして何とする!!
「おおおお!!!」
「舐めるなああああ!!!」
だが、それでも奴は諦めずに僕を追って来た。
僕が自動ドアを抜けて外に出るのが早いか。
奴に追い付かれて全てが無になるか。
最後の勝負。
負けられない!!
「ごはっ!!?」
自動ドアを抜け、外に出た瞬間。
奴の苦しむような声が聞こえてきた。
まるでダメージを受けたかのような、そんな苦悶に満ちた声が。
だが、それを気にしている場所ではない。
僕は奴を振り切ったんだ!!
後は一秒でも早く学校へたどり着き、助けを乞うのみ!!
皆! 待っててくれ!!
そうして僕は脚に更なる力を込めて加速した。
◆◆◆
──黒霧視点
「応援を呼ばれる……。ゲームオーバーだ」
私は入口ゲートを抜けて逃げて行ったメガネの子供の姿を思い出し、それを忌々しく思いながら一人ごちた。
あれだけ強力な脳無を二体も投入した今回の計画。
平和の象徴と伝説のヴィランを同時に相手取ると考えれば妥当な戦力なのでしょうが、そこまでした以上は何としても成功させたかった。
故に私もヒーローの卵達相手とはいえ油断せずに全力で事に当たった。
しかし、さすがは雄英。
卵は卵でも金の卵と言うべきでしょうか。
結局、私は出し抜かれ逃走を許してしまった。
……いや、卵達の力だけではないか。
我々は伝説のヴィランの力を少々侮っていたようだ。
「ぐぅ……!」
最後。
メガネの子供を捕らえようとした時、私の実体部分は凄まじい衝撃を受けた。
何事かと視線を向けて見れば、そこには黒い人影のようなモノがいた。
拳を振り抜いたような体勢でいた事から、恐らく私はあの人影に殴られたのでしょう。
気を失いかける程のパワーだった。
アレの存在はあのお方より聞かされた情報にて知っている。
使い魔と呼ばれる伝説のヴィランの個性の一つ。
本体の足止めは脳無が果たしてくれたようですが、使い魔までは止めきれなかったという事でしょう。
使い魔は本体に比べれば大した事がないと聞いていたので、あまり警戒はしていなかったのですがそれが間違いだったという事でしょうね。
本体に比べれば弱くとも、それは比較対象が悪いだけ。
あの使い魔も並みのプロヒーロー以上の戦闘力を持っていた。
そうとわかっていれば、また対処の仕方も変わったのですがね。
今さら言っても詮無き事ですが。
何にしても、今回の計画は失敗。
オールマイトは何故か現れず、応援を呼ぶのを許してしまった。
後数分もすれば、あのメガネの子供の報告を受けて何十人ものプロヒーローが駆けつけてしまう。
当然、その中にはオールマイトの姿もあるでしょうが、他のプロと連携されては、いくら対オールマイト用に改造された脳無でも勝てないでしょう。
ここはもう撤退するしかない。
私は体を襲う痛みに耐えながらワープの個性を使用した。
幸い私を殴った使い魔は生徒の護衛に徹しているのか、すんなりと見逃してもらえました。
この傷ついた体で戦わなくて良いのは正直ありがたい。
そうして私はヴィラン連合のリーダー、
彼が変な癇癪を起こさない事を祈りながら。
黒霧さん、本気を出すも負傷退場に終わるの巻。