小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
──緑谷視点
蛙吹さん、峰田くんと一緒に水難ゾーンに飛ばされた僕は、その場で待ち構えていたヴィラン達を三人で協力してなんとか撃退し、入口方面に向かって移動していた。
運が良かったとはいえ、こっちの被害は僕の左手の指二本だけ。
かっちゃんと戦った時にも使った「デラウェア・スマッシュ」の反動で親指と中指が折れた。
でも逆に言えば、それだけの被害でヴィラン達に勝てた。
それで僕は勘違いしてしまった。
僕達の力がヴィランに通用したんだと、錯覚してしまったんだ。
「──とりあえず助けを呼ぶのが一番だよ。このまま水辺に沿って広場を避けて出口に向かうのが最善」
そうわかっていた筈なのに。
「そうね。広場は相澤先生が敵を大勢引きつけてくれてる」
その蛙吹さんの言葉に、僕は自分の懸念を吐き出した。
「……敵が多すぎる。先生はもちろん制圧するつもりだろうけど……やっぱり僕らを守る為に無理を通して飛び込んだんだと思うんだ」
あいつらの中には、八木さんを吹き飛ばした奴と似た奴もいた。
いくら先生が個性を消せるって言っても、そいつの個性を消しながら集団と戦い続けるのは無理があると思ったんだ。
「え……? 緑谷バカバカバカ」
「ケロ……」
僕の考えを察したのか、蛙吹さんと峰田くんが不安そうな顔になっていた。
だから僕は安心させるつもりで言ったんだ。
「……邪魔になるような事は考えてないよ。ただ、隙を見て。少しでも先生の負担を減らせればって……」
そう言って僕はチラリと後ろを振り向いた。
そこにいるのは蛙吹さんと峰田くん。
そしてもう一人……というか一体。
八木さんが個性で作った使い魔がいる。
僕達がヴィランを制圧した直後に現れたこの使い魔。
多分、八木さんが僕らを助ける為に送ってくれたんだと思う。
それを知らない蛙吹さんと峰田くんは新手のヴィランだと思ってちょっと慌ててたけど、僕の説明で味方として認識してくれた。
……この使い魔。峰田くんに対してはなんだかやたらと攻撃的だったけど。
でも使い魔が送られて来た事で八木さんの無事を知れたのは嬉しかった。
それにこの使い魔は大きな戦力だ。
八木さんは弱いって言ってたけど、とんでもない。
聞いた話だと個性を使っていない時の八木さんと同じくらいの力があるらしい。
つまり、僕達三人が協力して挑んでもこの使い魔には手も足も出ないって事だ。
それを弱いなんて言ったら、僕達の強さはミジンコ以下って事になる。
そしてその使い魔は現在何も言わずに(そもそも喋れないらしいけど)僕達の後ろについてくるだけ。
多分、僕達を護衛してるんだと思う。
だとしたら、仮に僕達が相澤先生を助ける為に飛び出したとしても、ついて来てくれる可能性は高い。
味方に心強い戦力がいる事も相まって、僕は調子に乗っていたんだと思う。
これなら相澤先生の助けになるんじゃないかと、本気で思ってしまうくらいに。
そうしてたどり着いたセントラル広場。
そこで僕達は絶望を見た。
「クソッ……!」
脳みそをむき出しにした異様な外見のヴィランを相手に相澤先生が戦っている。
その側には三体の使い魔がいた。
彼らは相澤先生のサポートをしながら戦っていた。
でも、戦況は一方的だった。
脳みそヴィランが巨体に見合わないスピードで動き回る。
相澤先生達はそれについていけてない。
それでも何とか戦えているのは、使い魔達が身を呈して相澤先生を庇っているからだ。
脳みそヴィランのパンチが相澤先生に当たりそうになったら、突き飛ばして代わりに受ける。
攻撃を受けたその使い魔の片腕が消し飛んだ。
脳みそヴィランの体当たりが炸裂すれば、相澤先生の手を引いて逃がし、身代わりになる。
攻撃は直撃し、その使い魔は一撃で消滅した。
そうして徐々に使い魔は弱り、数が減り、相澤先生は追い詰められていった。
そしてそれほど時間はかからず、ついに最後の使い魔が倒される。
その直後、相澤先生は脳みそヴィランに押し倒され、片腕をへし折られた。
「ッ!?」
とっさに飛び出そうと体が動いた僕は、僕達の護衛をしていた使い魔に取り押さえられた。
でも、それを振り払う事はできなかった。
使い魔の力に抗えないのもそうだけど、今飛び出しても無駄に死ぬだけだとわかってしまったから。
「ハハハ。脳無相手に思ったより粘ったな。さっすがプロヒーロー。カッコいいぜ」
相澤先生がやられる姿をずっと側で見ていた、全身に手みたいなのを付けたヴィランが、嘲笑うようにそう言った。
僕らはそれでも動けなかった。
「個性を消せる。素敵だけど何て事はないね。圧倒的な力の前ではつまりただの無個性だもの。
あの使い魔とかいう連中がいなければまともに戦う事すらできてなかったもんなぁ」
手のヴィランが相澤先生に近づいていく。
そして右手で相澤先生の左手を触った。
ここからだと何をしてるのかわからない。
でも、それが何か良くない事だというのだけはわかる。
なのに、僕は動けない。
「なぁ。どんな気持ちなんだ? ヴィランにやられて、なぶり殺しにされるのをただ黙って受け入れるしかないヒーローの気持ちってさ?」
「ぐぁ……!!」
脳みそのヴィランが相澤先生の頭を地面に叩きつけた。
どう見ても致命傷としか思えない威力。
このままだと相澤先生は確実に殺される。
僕はもう我慢できずに使い魔の拘束を振り払おうとした。
でも、僕の力じゃ使い魔の力にすら勝てない。
それがどうしようもない現実を突きつけられているようで、涙が出てきた。
「死柄木……弔……」
「黒霧。13号はやったのか?」
その時、死柄木弔と呼ばれたヴィランの近くに、あの黒いモヤのヴィランが現れた。
でも、その様子がなんだかおかしい。
まるで弱ってるみたいだった。
「行動不能にはできたものの、散らし損ねた生徒がおりまして……。例の少女が放った使い魔の妨害もあり、一名逃げられました」
「は? ……いや、そういえばお前の方にも一匹飛んで行ったな。マジかよ。どこまで邪魔するんだよそいつ」
死柄木と呼ばれたヴィランは苛立たしそうに首筋をガリガリとかきむしった後、急にピタリと止まった。
「さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ。あーあ……。
そしてあっさりと。
本当にあっさりとそう言った。
「……? 帰る……? カエルっつったのか今??」
「……そう聞こえたわ」
「やっ、やったぁ! 助かるんだ俺達!」
「ええ。でも……」
ヴィランの言ってる事を理解した峰田くんが狂喜し、どさくさに紛れて蛙吹さんの胸を触って水の中に沈められる中、蛙吹さんは僕に話しかけてきた。
「気味が悪いわ。緑谷ちゃん」
「……うん。これだけの事をしといてあっさり引き下がるなんて」
こいつらオールマイトを殺したいんじゃないのか?
これで帰ったら雄英の危機意識が上がるだけたぞ!
ゲームオーバー?
何考えてるんだ!?
「けどもその前に」
僕の頭が混乱する中。
そいつは、こっちを、向いた。
「平和の象徴としての矜持を少しでも」
そいつの手が蛙吹さんの顔に伸びる。
「へし折って帰ろう」
その時、僕を拘束していた使い魔が凄いスピードで動き、蛙吹さんの腕を掴んで後方の水の中へ放り投げた。
それと同時に死柄木へと拳を突き出す。
「脳無」
たった一言。
死柄木がそう言った瞬間。
目にも留まらないスピードで脳みそヴィランが現れ、使い魔の攻撃からの盾になった。
使い魔の攻撃は、脳みそヴィランに全く効いているようには見えない。
「まだいたのかよこのうざい奴。邪魔だ。脳無、殺れ」
その命令を受けた脳みそヴィランが腕を交差させるようにパンチを繰り出し、それを受けた使い魔は一瞬で消滅した。
この場の最大戦力だった使い魔がこんなにあっさり……!?
ヤバイ!
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!
この場にはまだ峰田くんがいる!
使い魔が逃がしてくれたとはいえ、すぐ近くには蛙吹さんもいる!
重傷を負ってる相澤先生もいる!
今! この場で! 何とかできるかもしれないのは「
「スマッシュ!!!」
ほとんど反射的に手が出た。
狙ったのは死柄木と呼ばれたヴィラン。
あの脳みそヴィランは命令がなければ動かなかった。
なら、司令塔を倒せば何とかなるかもしれない。
とっさにそう考えて体が動いた。
「脳無」
その一言で、当然のように僕の攻撃は脳みそヴィランが盾になる事で止められた。
いつもなら個性の反動で僕の腕はバキバキになる。
でも今回に限って僕の腕は折れてない。
この土壇場で力の制御に成功した。
奇跡が起きた。
なのに。なのに……。
僕の攻撃は、脳みそヴィランに一切通じてなかった。
「良い動きをするなぁ。スマッシュってオールマイトのフォロワーかい?」
呑気な声で死柄木と呼ばれたヴィランが話しかけてくる。
その姿はどう見ても隙だらけで、油断しきってるようにしか見えないのに。
僕には抗えない。
それだけ、この脳みそヴィランが強すぎる。
「まあ、いいや君」
僕から興味を失ったような声で死柄木が言った。
脳みそヴィランが僕の腕を掴んでくる。
ああ……。
これ……死……、
「もう大丈夫……!!」
その時。
声が聞こえた。
声音は全然違うのに、どこかヘドロの時に僕らを助けてくれた彼女と良く似た、人を安心させてくれる声が。
声の聞こえた場所。
USJの入口を見る。
そこには、世界で一番頼りになるヒーローがいた。
「私が来た!!!」
オールマイトが、来てくれた。
「あー。コンティニューだ」
そして、死柄木と呼ばれたヴィランは。
オールマイトの事をどこまでも不気味な目で見つめていた。
◆◆◆
──オールマイト視点
「嫌な予感がしてね。校長のお話を振り切りやって来たよ」
繋がらない電話の違和感は私の中からずっと消えず、校長や魔美ちゃんの言う事を無視してまで来てしまった。
しかし、結果としてはそれで正解だったのだろう。
「来る途中で飯田少年とすれ違って、何が起きているかあらまし聞いた」
まったく己に腹が立つ……!
如何なる理由があったとしても、子供らが怖がっている時に、後輩らが頑張っている時に、自分の娘の窮地に、何も知らずにいた自分に!
しかし……!!
だからこそ胸を張って言わねばならんのだ!!
「もう大丈夫……!!」
私は平和の象徴なのだから!!!
「私が来た!!!」
皆に安心を与え、全てを救わねばならんのだよ!!!
「待ったよヒーロー……。社会のゴミめ」
ドロドロとした暗い感情に満ちた声が聞こえた。
その方向には、全身に手のような装備を付けたヴィランの姿。
その近くには緑谷少年、峰田少年、蛙吹少女、倒れ伏した相澤くん、そして脳みそをむき出しにした異様な外見のヴィランがいた。
彼らに向かって迷わず走る。
まずは一番近くにいた相澤くんを回収し、次にヴィランの近くにいた緑谷少年達を回収。
その時、手のヴィランと脳みそのヴィランに一撃ずついれておいた。
「皆、入口へ。相澤くんを頼んだ。意識がない! 早く!!」
そしてすぐに指示を飛ばす。
相澤くんが一刻を争うような大怪我をしているのもそうだが、生徒達もまた早くこの場から遠ざけねばならない。
飯田少年から、あの脳みそヴィランは魔美ちゃんを殴り飛ばす程の強さを持っていると聞いた。
だとすれば、紛う事なき強敵!
そんな敵との戦いに負傷した相澤くんや生徒達を巻き込む訳にはいかない!
「ああああ……だめだ……ごめんなさい……! お父さん……!」
私の打撃を受けた時、顔面から落下した手のような装備を拾ったヴィランが、まるで情緒不安定になったかのように呻く。
そして、その手を顔に装備し直してから、口を開いた。
「助けるついでに殴られた……。ハハハ国家公認の暴力だ。さすがに速いや。目で追えない。けれど思った程じゃない。やはり本当だったのかな……?」
「弱ってるって話…………!」
どこまでも不気味な笑み。
そして聞き捨てならない事を言った。
私の弱体化の情報をどこで掴んだのか?
だが、そんな事今はどうでも良い。
今大切なのは、守るべき者を確実に守る事だ。
「オールマイトだめです!! あの脳みそヴィラン!! ワン……っ僕の腕が折れないくらいの力だけどビクともしなかった!! 八木さんの使い魔の攻撃も!! きっとあいつ──」
「緑谷少年」
不安に駆られている緑谷少年に声をかける。
情報提供には感謝するが、心配はいらないという意志を込めて、一言。
「大丈夫」
ピースサインを作りながらそれだけ告げて、──私はヴィラン達に向けて突撃した。
──この戦いが終わった後、魔美ちゃんにしこたま怒られるだろうなと思いながら。
そうして何度目かわからない、私の無理で無茶な戦いが始まった。
主人公が出てこない……!