小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
──オールマイト視点
「カロライナ・スマッシュ!!!」
手のヴィランを庇うような位置に立った脳みそヴィラン……脳無とやらに必殺のクロスチョップを食らわせる。
だが、緑谷少年の言っていた通り、脳無にはまるでダメージが通ったような様子がない。
「ムッ!!」
それどころか、即座に反撃をしてくる始末。
脳無の抱きつくような攻撃を上体を反らして避け、そのまま土手っ腹に拳をぶち込む。
しかし、
「マジで全っ然効いてないな!!!」
連続で打ち込むも、やはり効いた様子はない。
殴っているのに手応えがなく、ダメージが与えられないとは……!
「効かないのは『ショック吸収』だからさ。脳無にダメージを与えたいなら、ゆうっくりと肉をえぐり取るとかが効果的だね……。それをさせてくれるかは別として」
手のヴィランがペラペラと喋って味方の手の内を明かしてくる。
ブラフかとも思ったが、奴の様子を見る限り本気で言っているように見える。
友達に玩具を自慢したい子供か!?
だが、今は好都合!
「わざわざサンキュー!! そういう事ならやりやすい!!」
その手の相手は倒すより動きを封じるに限る!!
私は脳無の後ろを取って腰を掴み、盛大なバックドロップを決めた。
脳無を地面に埋めて動きを封じるつもりで繰り出したのだが、
「っ~~~~~~~~!! そういう感じか……!!」
地面に埋めた筈の脳無の上半身が、何故か地面から生えて私の胴体を掴んでいた。
見れば脳無が埋まる筈だった地面には黒いモヤのようなモノがあり、脳無の上半身はその中に入っている。
空間を歪める個性……おそらくワープの類いだろう。
相当に希少な個性だ。
なるほど……!
これがあったからこそ、雄英襲撃なんてマネができた訳か……!!
「コンクリに深くつき立てて動きを封じる気だったか? それじゃ封じられないぜ? 脳無はお前並みのパワーになってるんだから。……良いね黒霧。期せずしてチャンス到来だ」
またペラペラと良く喋るヴィランだが、それはそれとして普通にピンチだ!!
どうするか……!
「あイタ!!」
と思ったら、私の胴体を掴んでいる脳無の手の力が握り潰すように強くなった。
なんというパワー!!
しかも、何の偶然か掴まれてる場所が、昔、奴に付けられた古傷の位置だ。
そこは弱いんだ! やめてくれ!
……しかも忠告を無視してここまでの怪我をしてしまった!
魔美ちゃんのお説教が凄い事になりそうだな!
「君ら初犯でコレは……っ覚悟しろよ!!」
痛みを紛らわす為にも虚勢を吐いた。
こんなモノでも素直に苦悶の声を漏らすよりはずっと良い。
平和の象徴が弱味を見せる訳にはいかないのだ!!
「……私の中に血や臓物が溢れるので嫌なのですが……あなた程の者ならば喜んで受け入れる。……ハァ……目にも留まらぬ速度のあなたを拘束するのが脳無の役目。そしてあなたの身体が半端に留まった状態でゲートを閉じ、引きちぎるのが私の役目」
怖い事を言ってくれるじゃないか!
だが君、見たところなにやら弱ってるみたいじゃないか!
ならば、そこを突いて脱出の糸口を探そう!
私が諦めるなどという事はあり得ない!!
「オールマイトォ!!!!」
その時、逃げるように言った筈の緑谷少年がこちらに向かって駆けて来るのが見えた。
私を心配して来てしまったのか……!?
君って奴は……ッ!!
だが、今はまずい!!
「浅はか」
ワープっぽい黒いモヤが緑谷少年に迫る。
感情的になって動いていた緑谷少年にコレを避ける術はない!
助けなければと思うのに私は動けない!
情けない!!
「どっけ!!! 邪魔だデク!!!」
その時、緑谷少年を助けるように黒いモヤを爆破しながら爆豪少年が現れた。
「ぐはッ……!」
そしてそのまま、元々弱っていたと思わしき黒モヤのヴィランを地面に押し付けて拘束してしまった。
なんという行動力!!
プロ顔負けだな!!
「!!?」
そして同時に私を掴んでいた脳無の半身が氷で覆われた。
氷結!?
この個性は……!
轟少年か!!
「てめぇらがオールマイト殺しを実行する役とだけ聞いた」
「だあー!!」
そんなカッコいい登場をした轟少年と同時に、今度は切島少年が現れ、手のヴィランに攻撃を加えていた。
もっとも、それは避けられてしまっていたが。
続々と生徒達が集まっている。
だが、現れたのは生徒達だけではなかった。
突如として空から飛来した魔美ちゃんの使い魔が二体。
一体が脳無の凍った腕を粉砕し、もう一体が私を救出して盾になるように背後に庇った。
プロ顔負けの見事な連携だった……。
「くっそ!! 良いとこねー!!」
「スカしてんじゃねえぞ!! モヤモブが!!」
「平和の象徴はてめぇら如きに殺れねえよ」
「かっちゃん……! 皆……!!」
……情けない事に、生徒達(と使い魔達)のおかげで助かった。
しかし、この状況はマズい!!
「出入口を押さえられた……。こりゃあピンチだなぁ……」
手のヴィランがぼやくようにそう呟く。
やはり不気味な相手だ。
ピンチと言う割に危機感が感じられない。
「このウッカリヤローめ! やっぱ思った通りだ! モヤ状のワープゲートになれる箇所は限られてる! そのモヤゲートで実体部分を覆ってたんだろ!? そうだろ!? 全身モヤの物理無効人生なら『危ない』っつー発想は出ねぇもんなぁ!!」
「ぬぅっ……」
「っと動くな!! 『怪しい動きをした』と俺が判断したらすぐ爆破する!!」
「ヒーローらしからぬ言動……」
爆豪少年が黒モヤのヴィランを脅迫して封じているが、それは危険だ!
あの黒モヤのヴィランは奴らの生命線。
となれば当然、
「攻略された上に全員ほぼ無傷……。凄いなぁ最近の子供は……。恥ずかしくなってくるぜヴィラン連合……! しかもあのウザい奴までまた来てやがるし……!」
「脳無。爆発小僧をやっつけろ。出入口の奪還だ」
最優先で取り戻しに来る!
手のヴィランの指示でワープゲートから体を起こした脳無が立ち上がる。
轟少年の氷結と魔美ちゃんの使い魔による打撃で半身がひび割れながらも止まらない!
「身体が割れてるのに動いてる……!?」
「皆、下がれ!! なんだ!? ショック吸収の個性じゃないのか!?」
私達の見ている前で、壊れた脳無の身体がみるみる内に再生した。
なんだ、これは!?
「別にそれだけとは言ってないだろう。これは『超再生』だな。脳無はお前の100%にも耐えられるよう改造された、超高性能サンドバッグ人間さ」
手のヴィランがまたペラペラと喋るが、悠長にそれを聞いている場合ではない!!
再生を終えた脳無が凄まじい速度で黒モヤのヴィランを押さえつける爆豪少年に迫っている!!
速い!!
とっさに爆豪少年を突き飛ばし、代わりに脳無の攻撃を受けた。
「加減を知らんのか……!」
ガードしたにも関わらずダメージを受けた。
この脳無とやら……本当に強い!!
「仲間を助ける為さ。仕方ないだろ? さっきだってホラそこの……あー……地味な奴。あいつが俺に思いっきり殴りかかろうとしたぜ? 他が為に振るう暴力は美談になるんだ。そうだろ? ヒーロー?」
手のヴィランは濁った眼でそう語る。
その眼は人殺しの中でも特に酷い部類の眼だ。
「俺はなオールマイト! 怒ってるんだ! 同じ暴力がヒーローとヴィランでカテゴライズされ、善し悪しが決まるこの世の中に!!
何が平和の象徴!! 所詮、抑圧の為の暴力装置だお前は! 暴力は暴力しか生まないのだと、お前を殺す事で世に知らしめるのさ!」
本当によく喋る。
中身のない事をペラペラと。
「めちゃくちゃだな。そういう思想犯の眼は静かに燃ゆるもの。……自分が楽しみたいだけの嘘つきめ」
「バレるの早……!」
こいつの眼はニタニタと嗤っている。
人の不幸を嗤えるタイプの最悪な犯罪者だ。
野放しにはできん!
「3対5だ」
「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた……!」
「とんでもねえ奴らだが、俺らでオールマイトのサポートすりゃ撃退できる!!」
「ダメだ!! 逃げなさい!!!」
すっかりやる気になっている生徒達を引き留める。
この戦いは、まだ君達が体験するには早すぎる!
そして危険すぎる!
この場で私以外に戦闘を許可できる者など、せいぜい消滅しても本体に何の影響も出ない魔美ちゃんの使い魔くらいだ!
「……さっきのは俺のサポート入らなけりゃやばかったでしょう」
だが、やはり言葉だけでは納得はさせられないらしい。
轟少年が明らかに納得のいっていない顔で戦闘態勢に入ろうとしている。
「オールマイト、血……。それに時間だってない筈じゃ……!」
緑谷少年は緑谷少年で私の心配をしてしまって逃げる気配がない。
マズいなこれは……。
だが、納得してくれずともここは譲れないんだ!!
「それはそれだ轟少年!! ありがとな!! しかし大丈夫!! プロの本気を見ていなさい!!」
私は心配無用と啖呵を切り、ヴィラン達に向き直った。
確かに時間はもう数分しかない……!
力の衰えは思ったよりも早い!
「脳無、黒霧、やれ。俺は子供をあしらう」
「……死柄木弔。私はそろそろ限界なのですが……」
「ふざけんな。根性見せろ」
「……はい」
しかし、やらねばなるまい!!
「さあ、クリアして帰ろう!」
何故なら私は!
平和の象徴なのだか────
「デビル・スマッシュ!!!」
そう決意を固めかけたところで、凄まじく聞き覚えのある声を聞いた。
その直後、空から高速で何かが落下してきた。
そして、それはちょうど私とヴィラン達の間に落ちた。
「これで……トドメだぁ!!!」
そして、その何かの上に高速の飛び蹴りを浴びせながら飛来したのは、十年もの間共に暮らしてきた私の娘。
それが獰猛な笑みを浮かべながら、物騒な事を口にしていた。
しかも飛び蹴りの衝撃で地面が抉れ、大きなクレーターが出来上がっていた。
「あー!! すっきりしたぁ!!」
そんな言葉が気になって魔美ちゃんが踏み潰しているモノに目を向ければ、それは私が決死の覚悟で迎え撃とうとしていた脳無……によく似た姿をした人物だった。
状況から考えて、まず間違いなく最初に魔美ちゃんを襲ったというヴィランだろう。
それがクレーターの中で、無惨な姿で横たわっていた。
「はー! これだけ思う存分大暴れできたのはいったいいつぶりだろうか? かなり久しぶりな気がするなー」
そしてクレーターの中心で脳無っぽいヴィランを踏みつけている魔美ちゃんは、まるで何かをやりきったような実に清々しい笑顔を浮かべていた。
まるでと言うか……そのものなのだが。
まあ、確かにあの子の体質を思えば無理もない。
大分我慢させた生活を強いてしまっているのは自覚している。
でも、今は真剣なシーンだから、もう少し何とかしてほしかった。
「ん?」
と、そこで初めて私達に気づいたかのように魔美ちゃんの目がこちらに向いた。
正確には私を見ている。
その内にどんどんと視線が険しくなり、私の背筋には冷や汗が滴った。
私は今、魔美ちゃんの忠告を無視してこの場にいる。
そして脳無相手に結構な怪我をしてしまった。
意外と過保護な魔美ちゃんが怒るには充分な条件が揃っている。
マズい!
先程とは別の意味でマズい!
そうして私が硬直している間に、魔美ちゃんの視線は私の反対側。
すなわちヴィラン達の方に向けられていた。
ヴィラン達は魔美ちゃんの登場に対して無言……というより唖然としていた。
私を殺すと息巻いていたところでいきなりのコレでは無理もないが。
まるで狙ったかのようなタイミングだったからな。
「あー……。細かい事情はわからないけど、大体の状況は察したよ。パパがまた無茶をやらかす寸前だったって事はわかった」
……わかられてしまった。
これはもう言い逃れの余地がないな。
「言いたい事も聞きたい事も色々あるけど……。まずはこれだけ言っておこうか」
そう言って魔美ちゃんは笑った。
本人は私を参考にしたと言っていた、まるで天使のように美しい笑顔を浮かべた。
「もう大丈夫。私が来た」
魔美ちゃんは私の娘だ。
この手で守るべき大切な子だ。
なのに、その子が見せた笑顔で、言葉で、不覚にも私は安心してしまったのだった。
魔美ちゃん天使疑惑再び!
パパ相手には本当に優しい子です。