小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
長い!!
ひたすらにしぶといというか、もはや敬意を表したくなるレベルで頑丈だった脳みそヴィランをついに打ち倒した私は、何か偉業をやり遂げたみたいな達成感と充実感に支配されていた。
個性の副作用による破壊衝動がこんなにおとなしくなったのは初めての事だよ。
やりきった感が凄い。
いわゆる賢者タイムというやつだと思う。
そんな感じで脳みそヴィランの墓標になりそうなクレーター中で感動を噛み締めていた私だけど、ふと上を見上げた時にパパの姿を発見した。
「ん?」
って思ってよくよく観察してみると、その全身に無視できないレベルの怪我をしている事までわかった。
パパめ……!
休んでなさいって言ったのに、結局来ちゃったのか!
親としての責任がどうたら言って、無理しないでって伝えた筈なのに!!
許せん!
後でオハナシしなくては。
しかも最悪な事に、パパを傷物にしてくれたヤローがいるっぽい。
状況から考えて、多分あのもう一人の脳みそヴィランだろう。
でも、最初の位置関係的に考えて、アレは相澤先生とぶつかってると思ったんだけどな?
だからこそ相澤先生の所に使い魔を派遣した訳だし。
私の個性はあくまでも「使い魔を作って命令できる」というだけの能力であって、使い魔が見知った情報を共有したり、遠距離から通信したりする事はできない。
つまり私の下を離れて活動する使い魔の動向はわからないんだ。
せいぜい消滅した事はわかるって程度しか把握できない。
ちょっと不便だけど、使い魔が私の意志に反するような事をする事はないから、大した問題がある訳ではないんだけども。
で、私の知覚している限り、使い魔は十体中四体が消滅してるけど残り六体は健在。
しかもその内二体は私の目の前にいるし。
私は十体全部を相澤先生の盾にする為に派遣した。
だから使い魔が全滅しない限り相澤先生は健在で、今もこっちの脳みそヴィランとバトッてるもんだとばかり思ってたんだけど……。
どうやら何かすれ違いが発生したみたいだ。
私の認識してないところで事態は予想外の方向に展開し、巡り巡ってパパが脳みそヴィラン+αと戦う寸前に私が到着という状況に着地したらしい。
なるほど。
さっぱりわからん。
でも、今がどういう状況なのかだけはわかった。
「あー……。細かい事情はわからないけど、大体の状況は察したよ。パパがまた無茶やらかす寸前だったって事はわかった」
それだけわかれば充分だ。
「言いたい事も聞きたい事も色々あるけど……。まずはこれだけ言っておこうか」
これはヒーローを目指す上でパパから教わった事だ。
たとえ私が暴力許可証目当ての似非ヒーローであったとしてもヒーローはヒーロー。
仕事としてプロのヒーローを目指す以上、その頂点であるパパから教わった事は実践した方が良い。
パパ曰く、ヒーロー足る者、人々に安心を与える存在でなくてはならないそうだ。
だから助けるべき人々の前では、嘘でもハリボテでも「頼りになる理想のヒーロー」であらねばならない、らしい。
この世界で人々に最も頼りにされているヒーローとは、それすなわちパパだ。
つまり、パパの真似をするのが一番良いという事だろうと私は判断した。
「もう大丈夫。私が来た」
私はどこまでもパパを真似て、笑顔を作りながらそう宣言した。
でも、今回に関してだけは真剣に心を込めて。
私はパパや緑谷少年みたいに、不特定多数の人々を助ける事には興味を感じない。
でも、本当に大事な人は意地でも助ける。
他にも顔見知りくらいだったら片手間に助けてあげても良いかなーって思ってる。
つまり、何が言いたいかと言うと……。
これからお前らをぶっ飛ばすという事だよ!! ヴィラン共!!
私は軽くジャンプしてクレーターから飛び出し、パパの隣に着地した。
「パ~パ~! 私、休んでなさいって言ったよね」
そして笑顔のまま怒りに満ちた声でパパを恫喝する。
今の弱りきったパパにあの脳みそヴィランの相手はキツい。
あくまで私が倒した奴と今目の前にいる奴が同格だと仮定した場合の話だけど。
それでも私の直感的にも、パパが手傷を負っているという客観的事実から考えても、あの脳みそヴィランがやたら強いのは確定だと思う。
そこに、ただでさえ衰弱してる上に活動限界ギリギリの状態のパパをぶつけたところで勝算は薄いし、よしんば勝てたとしても、相応の代償としてまた命を削る事になるだろう。
だから、ここは私が連中と戦うのが最善。
ヒーロー資格のない私が暴れるのは問題かもしれないけど、ここはUSJという隔離施設の中。
いくらでも隠蔽できるし、なんなら結果だけ改竄してパパの手柄という事にしちゃえば良い。
そうすれば無問題だ。
……でも、それで素直に引き下がるパパじゃないのは良くわかってる。
「ウッ!! それに関してはマジでごめん!!」
「悪いと思ってるんだったら素直に下がって。あいつらは私がやるから」
失態につけこんでの恐喝。
まあ、でも滅茶苦茶な事言ってる自覚はある。
さあ、パパはこれに対してどう返してくるか。
「……悪いがそれはできない。ここで戦うのは大人の、プロの仕事だ。魔美ちゃんは他の生徒達と一緒に逃げなさい」
ハイ。予想通り。
これだよ。
パパは私の事を使える戦力としてでも危険人物としてでもなく「守るべき子供」として見てくれている。
それ自体はとっても嬉しいんだけど、今は逆効果だ。
この場で一番強いのは私なんだから、今は私にパパを守らせてほしいんだけどなぁー。
まあ、パパの性格を考えれば無理な話か。
パパは力の強さで救う人を判断してる訳じゃないからね。
これは説得は無理かな。
「緑谷少年! 敵の能力教えて!」
私は背後で空気になっていた緑谷少年に敵の情報を催促した。
こういう分析力に関しては、緑谷少年の右に出る者は少ない。
もう反射的に考え出して分析を開始するタイプだからね緑谷少年は。
「え……? あ、はい!! あの脳みそヴィランの今わかってる能力は『ショック吸収』と『超再生』の二つ、あるいはそれ以上の個性を持ってるって事。ショック吸収はオールマイトの力でもビクともしなかったし、超再生は身体が半分壊れてても一瞬で再生した。あとは普通に速くて強い!
黒いモヤの奴はワープゲート。モヤに触れると問答無用でどこかに飛ばされるし、モヤ部分に物理攻撃は効かない。でも、実体の部分があるらしくて、そこになら攻撃が通る。
死柄木……手のヴィランはよくわかんないけど、相澤先生の腕に手を乗せて何かしてたから、多分手から何かやる感じの個性だと思う」
「おい!? 緑谷!? 何言われるがまま喋ってんだ!!」
「はっ!? しまった! つい!!」
説明ありがとう緑谷少年。
後は他のクラスメイト諸君と一緒に下がっていてくれたまえ。
何故かこの場には緑谷少年だけでなく、爆豪少年と氷使いの少年、あとツンツン頭の少年がいるんだよな。
彼らの事は残った使い魔とパパに守らせれば良いや。
「魔美ちゃん……!? 何を!?」
「聞かなくてもわかるでしょ。説得しても聞いてくれないんだったら勝手にやる。パパだって私の忠告を無視して勝手にやったんだから良いよね?」
「ムム!! それを言われると痛い!! だが、しかし駄目だぞ!! 危険すぎる!!」
危険すぎるのはパパの方だって言ってんだよ!!
でも、もう良い。
説得は諦めた。
パパが手を出す暇もないほど迅速に速攻で連中を殲滅する。
そう決めた。
今、決めた。
私は改めて敵の姿を見やる。
苛立たしそうなで表情で首筋を掻きむしってる、全身に手みたいな装備付けたヴィラン。
なんかちょっと元気がない黒いモヤのヴィラン。
そしてどこまでも無表情で何考えてるのか全くわからない脳みそヴィラン。
連中は連中で、さっきからなんか話し合ってた。
「おいおいマジかよ。あの脳無全然足止めできてないじゃねえか。使えねえ」
「死柄木弔。ここはもう撤退した方がよろしいかと。オールマイトと例の少女。二つを同時に相手にしては勝ち目はありません」
「ふざけんな。せっかく目の前にラスボスがいるんだぜ。このままノコノコと帰れるかよ。それにあっちのガキが戦うんなら脳無と連戦って事だ。消耗してるなら充分勝ち目はあるだろうが」
「ムゥ……」
と、何だか聞き分けのない子供と、それに手を焼く保育園の先生を彷彿とさせるやり取りをしていた。
……いや、それを言ったらこっちも大差ないか。
うん。
ブーメランを投げるのはやめておこう。
連中もこっちと同じで、話しながらも警戒した様子でこっちを見てたんだけど、……どうやら方針が固まったらしい。
動く気配を感じた。
「脳無。奴らを殺れ。オールマイトが最優先だ。邪魔する奴は全員殺せ」
手のヴィランがそう言って命令を下し、そして脳みそヴィランが動き出した。
まるで命令がないと動けないロボットだな。
こっちに来た脳みそヴィランも、今思い出すとなんか予め決められたプログラムみたいな動きしてた気がする。
あいつらマジで人間じゃないのかもしれない。
手のヴィランの宣言を聞いたこっちサイドの全員が戦闘態勢を取る。
パパはもちろんの事、クラスメイト諸君まで逃げるのではなく戦うつもりらしい。
ヒーロー志望っていうのは無茶をするのが好きなのかよ!?
そう突っ込みを入れたいレベルの無謀さだ。
そんな彼らよりも早く、私は個性を発動した。
いつも使ってる手足や翼だけの限定的な解放じゃない。
それだとあいつらを即行で倒すのは不可能だ。
倒す事自体はできなくはないだろうけど、相応の時間がかかる。
それじゃ駄目だ。
だから、私は個性の奥の手を使った。
ずっと昔に考えて作り出した必殺技。
でも、あんまりにも危険すぎるからずっとお蔵入りさせてた禁断の大技。
その封印を解く。
破壊衝動によって理性を侵食する私の個性「悪魔」。
それを、私の理性が保てるギリギリの範囲まで解放する。
個性発動部位は全身。
それによって私の新雪のように白かった肌は褐色に染まり。
長い金髪は銀色に。
青かった瞳は血のような紅に変わった。
そして、悪魔のような翼が生え、悪魔のような尻尾が生え、頭部からはまさに悪魔を思わせる大きな角が生えてきた。
全身からバチバチと黒色のスパークが迸る。
個性の副作用により、視界が興奮と衝動で真っ赤に染まる。
でも、大丈夫。
ギリギリ理性を保てている。
出力の調整には成功している。
ここで理性を失えば、私は直ぐ様暴走するだろう。
パパが弱っている以上、それを止められる者はもういないかもしれない。
そこまでのリスクを負って発動させたこの技。
当然、そのリスクに見合った圧倒的な力を私に与えてくれる。
それはもはや、「悪魔」を超えた「魔王」の力。
故に私は、この技をこう名付けた。
「ディザスター・モード!!!」
突如として豹変した私を、ほぼ全員が驚愕の眼差しで見つめてくる。
だが、その中にあって唯一、一切動揺していない者。
感情の窺えない脳みそヴィランは、受けた命令を遂行する為、私には目もくれずにパパに向かって突撃を開始した。
私はそれを真っ向から迎え撃った。
脳みそヴィランの拳と私の拳がぶつかり合う。
まるで、私がUSJに来てから最初に受けた攻撃を彷彿とさせる光景だが、結果はあのときとは真逆。
私の拳を相殺しきれなかった脳みそヴィランが、凄まじい勢いで後方へ吹き飛ぶ。
「「!!?」」
その時、脳みそヴィランはちょうど手のヴィランと黒モヤのヴィランの間を通過した。
二人が驚きと恐怖の視線を私に向けるのを完全に無視し、私は翼に力を込めて、吹き飛んだ脳みそヴィランを追う為に飛翔した。
脳みそヴィランは両足を地面に突き立て、その抵抗で私の攻撃の勢いを殺して減速していた。
私はそんな脳みそヴィランに音速を超えるスピードで迫り、目にも止まらぬ連続攻撃を食らわせる。
ショック吸収には限度がある。
私の方に向かって来た脳みそヴィランにも似たような個性があったけど、攻撃し続けてたら最終的には倒せた。
吸収しきれない程の火力と、再生する暇も与えない程のラッシュ。
それができれば、力業でこいつらを倒せる!!
「これで終わりだぁ!!!」
既にボロ雑巾のようになってしまった脳みそヴィランに、私はトドメの一撃を撃ち込む。
食らえ!!
これが魔王の一撃!!
「サタナエル・スマッシュ!!!」
悪魔の脚で地面を踏み締め、その運動エネルギーを脚から腰へ、腰から腕へと伝達。
腰の入った必殺の右ストレートが、脳みそヴィランの土手っ腹に炸裂した。
その衝撃を今度こそまともに食らった脳みそヴィランは、ついさっきとは比べ物にならない勢いで吹き飛び、USJを覆っているドーム状の外壁を突き破って空の彼方に消えて行った。
私の脳が破壊の快感と興奮に酔いしれる。
さっきは事後に賢者モードになったけど、ディザスター・モードを使ってより破壊衝動が高まっている今は、そうはならなかった。
あの程度じゃ足りない!! もっと!! もっとだ!! もっと壊したい!! そう心が叫んでいる!!
それを振り切るように、私はディザスター・モードを解除した。
余韻でまだ興奮状態が続いてるけど、暴走の危機は去った。
そして最後に一言。
「勝ったぁ!!!」
私の勝利の雄叫びがUSJに木霊した。
魔 王 降 臨 !!
ちなみに、暴走状態はもっと強いです。