小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
よし。
次のターゲットは、あの地味めの少年にしよう。
理由?
あえて言うなら、年若い少年だからかな。
最近の少年少女はヒーロー志望が本当に多い。
誰でも一度はヒーローに憧れる、ヒーローになることを夢見る、とまで言われるくらい多い。
それはもう夏の虫のごとき増殖具合である。
だから、あの少年がヒーロー志望である可能性はそれなりに高い訳だ。
で、そんなヒーロー志望の少年だったら、さっきの不良少年みたいな特殊な例でもない限り、困ってる私を快く助けてくれる筈だ!
そこにつけこんで、あわよくば荷物持ちにしたい、という訳だよ。
どーよ、この完璧な作戦!
さすが私!
という訳で、突撃じゃー!
「おーい! そこの地味めの少年ー!」
まずは挨拶。
元気良くいこう!
天真爛漫な美少女を嫌う人は、あんまりいないからな!
「……え? 僕のことですか?」
「そうそう、君のことだよ。いきなりだけど、君ってヒーロー志望だったりする?」
「ッ!? 僕は……」
「もしそうだったら、ちょっと助けてほしいのだよ! 実はパパとはぐれちゃって、探してるんだけど中々見つからなくてね。そこで聞きたいんだけど、金髪の骸骨みたいな人見なか──」
「僕はッ!!」
わ!?
なんだなんだ、いきなり大声出してどうした少年?
「僕は……ヒーロー志望じゃ……ありません……ッ!」
……えー。
なにその、血を吐くような独白は?
何かあったのん?
「すみません……人探しなら、他の人を当たってください……すみません……」
少年はそれだけ言い残して、ふらふらしながら去って行った。
……えー。
なんだったの?
なんか、傷ついたみたいな顔して帰って行ったけど、私、何かした?
私のせいか?
私のせいなのか?
いやいや、私、何もやってないぞー!
冤罪だー!
きっとアレだよ。
あの少年は、私とは何の関係もない何かのせいで傷心中だったんだよ。
たぶん、勇気を出して好きな女の子に一世一代の告白をしたら振られたとか、そんな感じでしょう。
で、そんな心の余裕がないところに私がマシンガントークをかましたもんだから、うっかり八つ当たり気味の対応になっちゃったんじゃないかなー。
もしそうだとしたら、悪いことしちゃったかな。
まあ、いいや。
あの少年とは縁がなかったということでしょう。
それはもうどうでも良いとして、これからどうしよう?
なんか、立て続けに変な少年達に会ったせいで、本格的にいろいろめんどくさくなってきたなー。
よし。
帰るか。
帰ろう。
一度車を確認して、そこにパパが居なければ、電車だ。
そう思って、駐車場に向けて一歩踏み出そうとした、その時。
──BOOOOM!!!
そんな轟音が私の耳に入ってきた。
爆発音?
結構近い。
事故かな?
それとも、またヴィランが暴れてるとか?
普通にありえる。
この超常社会ってやつは、ヴィランとかいう犯罪者が、ゲームのモンスターの如く無限にポップするからなー。
それこそ、全国に千人以上いるプロヒーローや
治安悪いにも程があるわ。
個人的には、ばっちこいだけどな!
ヴィランとは、害獣であると同時に、ヒーローにとっては飯の種。
私にとっては、合法的に殴れるサンドバッグだ。
特に私には、個性の
……まあ、それもヒーロー資格取ってからの話だけど。
それまでは、合法的に殴ることはできないわな(隠れて殴らないとは言ってない)。
あ!
そうだ。
もしこの爆発音がヴィラン騒ぎだったら、パパが駆けつけてくるんじゃね?
だってあの人、仕事人間(ヒーロー)だもの。
そして、ヒーローはヴィランに対して死肉に群がるハイエナのように寄ってくる。
そんなヒーローほいほいを利用すれば、闇雲に探すよりずっと効率的にパパを発見できるんじゃなかろうか。
懸念はパパが来る前に他のヒーローが片付けてしまうことだけど、やってみる価値はある!
という訳で、事件現場に直行。
野次馬を掻き分けて最前列を目指す。
嵩張る荷物のせいで非常に難航したけど、我が個性の馬力をもってすれば、例え未発動の状態であろうと、バーゲンセールのおばちゃんの群れという危険生物にすら対応可能。
この程度の野次馬相手になら、多大なるハンデを背負っていても負けはしない。
そうして目的地にたどり着いたところで、驚きの光景が私の目に入ってきた。
派手な爆発。
その余波でボロボロになった商店街。
立ち往生するヒーロー達。
そして、その中心で暴れ回る、ヘドロみたいなヴィラン。
あいつ……さっきパパが追いかけて行った奴じゃん。
マジか。
あいつ、パパから逃げ切ったの?
今のパパ相手なら、活動限界である三時間逃げきればクリアとはいえ、それでも結構な難易度だよ?
私くらい強ければともかく、あのヘドロそんな強いようには見えないのに。
にもかかわらず、それを成し遂げたんだとしたら、とんだ大物じゃないか!
やるなヘドロ!
そんな、パパからすら逃げきる大物ヴィランを相手に、ヒーロー達は現状手が出せていない。
最初はヘドロの大物っぷりにビビってるのかと思ったけど、どうも違うらしい。
どうやらあのヘドロ人質を取っているらしく、しかもその人質が爆発する個性で暴れてるもんだから、危なくて近づけないそうだ。
というか、あの人質よく見たら、さっき会った不良少年じゃないか。
今まで好き勝手にしてきた不良行為のバチが当たったのかね。
これが天罰ってやつか、恐ろしい。
私も気をつけないとな。
さて。
この状況、私はどうするべきかな。
ぶっちゃけ、解決するだけなら簡単だ。
私の個性の出力はパパに匹敵する。
だから、適当にあのヘドロをぶん殴れば、たぶんそれだけで倒せると思う。
そうなれば一件落着だ。
ただ、それだとまず間違いなく、私は怒られる。
例えヴィラン相手とはいえ、正当防衛でもない限り、個性で人に危害を加えるのは立派な法律違反。
隠蔽できるような路地裏の乱闘ならいざ知らず、こんな野次馬だらけの場所でそんな事すれば、間違いなく警察のお世話になってしまう。
特に私は危険人物としてマークされてるから、最悪少年院行きもあり得るかもしれない。
それは嫌だ。
じゃあ、見捨てるか?
それはそれで、パパに怒られそう。
パパは正義感の塊だからなー。
解決できる力を持ってるのに何もしなかったってバレたら、家庭内の空気が冷たくなるかもしれない。
それも嫌だ。
はあ。
本当めんどくさいなー。
こういう時、ヒーロー資格みたいな「合法的に殴れる許可証」があれば、こんなに悩まなくて済むのに。
元々、私は個性の副作用もあって、かなり好戦的な性格をしている。
こういう状況で「殴っていいですよ」と言われたら、喜び勇んで突撃するキャラだ。
それで全てが解決するというのに、現実はこうして面倒なルールに縛られて二の足を踏んでいるというのだから、難儀なもんだなー。
そんな感じで悩んでいたら、私の隣に居た誰かがヘドロに向かって突撃した。
なので私は、抜け駆けは許さぬという意志を籠めて、足を引っ掻けて転ばしてやった。
「ぶげっ!」
間抜けな声を上げてスッ転んだのは、なんと、さっき出会った地味めの少年だった。
誰だか確認せずに転ばせたから、まさか君だとは思わなかったよ。
傷心中の筈なのに、こんな所で何してんの、この子?
とりあえず転ばしちまったから、声掛けとくか。
「おーい。大丈夫か少年」
「痛ててて……って、あなたはさっきの!?」
「うん、さっきぶりだね少年。ところで君、こんな所で何してんの?
それに私の気のせいじゃなかったら、君あのヘドロに突撃しようとしてたよね? それって普通に危ない事だし、止めといた方がいいよ」
「ッ!? それは、その、勝手に体が動いて……。それにかっちゃんの苦しそうな顔見たら……」
「かっちゃん? あの不良少年の事かい? 知り合いか何か?」
「……その、幼なじみです」
ふむ。
つまりこの少年は、幼なじみを助ける為に、危険を省みずに飛び出そうとした訳か。
立派なヒーローじゃん。
こうして私と話してる間にも、チラチラと哀れな不良少年の方を気にかけてるし、本当に志しだけなら立派なヒーローだね。
力があっても規則を気にして飛び出せない私とは正反対だ。
そんな事をつらつらと考えていたら、一際大きな爆発音が聞こえてきた。
不良少年、最後の抵抗かな?
遠目に顔を見た感じ、そろそろ冗談抜きで限界っぽい。
それを見た地味めの少年は、ほとんど反射的に飛び出して行ってしまった。
あーあ。
行っちゃった。
これであの少年の未来は、死ぬか怒られるかの二択だな。
かわいそうに。
まあ、分かってて行かせたんだけどね。
私はああいうタイプに弱いんだ。
純粋な正義の味方には、パパの姿を重ねてしまう。
こうなったら、私も腹を括ろう。
今回はその勇気に免じて、地獄のお説教まで付き合ってやるよ、少年。
足に力を籠めてダッシュ。
今にもヘドロの攻撃を受けそうになってた少年の前に飛び出した。
「「「!!?」」」
不良少年、地味めの少年、そしてヘドロ。
三者三様の驚愕の視線が私を射ぬく。
「もう大丈夫」
そんな視線を気にもせず、私は言い放った。
尊敬する父を真似て、安心させるような笑顔を作り、力強い声で宣言する。
「私が来た!!」
その言葉と共に、個性を発動。
右腕の封印を解き、個性という名の悪魔を解き放つ。
その瞬間、私の右腕は瞬く間に黒く染まり、バチバチと黒色のスパークを放ち始める。
私はそのまま、右腕を振り抜いた。
「デビル・スマッシュ!!!」
パパを参考にした私の必殺技の一つ。
本来は真っ直ぐに放つストレートパンチだけど、今回は周りの被害や少年達の安否を考えて、アッパーのような打ち上げる形にした。
私の右腕から放たれた拳圧が暴風となって吹き荒れる。
それは不良少年に取りついていたヘドロをいとも容易く引き剥がし、空に向かって散らしていく。
後で回収するのが大変そうだけど、それは私の仕事じゃないから何も気にする事はない。
少年二人に関しては、不良少年を左手で掴み、地味めの少年は足で踏みつける事によって飛ばされるのを防いだ。
これで死ぬ事はあるまい。
……少年二人はなんか気絶してるっぽいけど、まあ大丈夫だろう。
そこまでは知らん。
やがて風は止み、静寂だけが残った。
私はこれまたパパを参考にし、空に向かって拳を突き上げ、勝利のスタンディングを決めた。
自分で言うのも何だけど、かなりかっこよく決まってる気がする。
「「「「「ウオオオオオオオオオオオ!!!」」」」」
少し遅れて歓声が鳴り響いた。
ヒーローの勝利を称える歓声だ。
私はヒーローじゃないけど、そんな事言うのは野暮だろう。
称賛は素直に受け取っておけばいい。
それにしても、あーあ、思いっきり目立ってちゃったなー。
これは、ヒーローとお巡りさんが冷静になったらしこたま怒られるだろうな。
……考えるだけで嫌になってきた。
今からでも逃走しちゃおっかなー。
そんな事を考えながら、気絶した少年の顔を見る。
不良少年じゃなくて、地味めの少年の方だ。
この子からはパパと似た雰囲気を感じる。
いわゆる、お人好しの正義の味方。
本当のヒーローってやつだ。
ヒーロー志望じゃないって言ってたけど、あれ絶対嘘だろう。
例え本心から言ってたのだとしても、この様子じゃ絶対にヒーローの道を諦められる訳がない。
だとすれば、いずれまた会う事もあるだろう。
私だって私利私欲の為とはいえヒーロー目指してるんだから、再会の時はきっと来る。
もしかしたら、そう遠くない内に。
今回の事は、その時まで貸しにしておいてやろう。
私は無償の救済に生き甲斐を見いだすような真のヒーローじゃないんだ。
この借りは、その内しっかりと返せよ。
そんな事を思いながら、私は冷静になったヒーローとお巡りさんに補導された。
めっちゃ怒られた。
もう規則違反は懲り懲りだぜ。