小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
今回はまだ序章ですけどね。
襲撃事件の翌日は臨時休校となり、私はパパのお見舞い以外はだらだらうにゃうにゃサンドバッグボッコボコと怠惰な一日を過ごした。
たまにはこんな日があっても良いよね。
そして、襲撃事件の翌々日。
普通に学校は再開された。
「皆ーーー!! 朝のホームルームが始まる!! 席につけーーー!!」
「ついてるよ。ついてねーのおめーだけだ」
朝から飯田少年に辛辣でもっともな突っ込みが飛ぶ中、それは現れた。
「お早う」
「相澤先生復帰早えええ!!!」
出勤してきた相澤先生はすっかり包帯お化けになってしまっていた。
さすが今回の事件一番の重傷者。
パパがあんな事になってたら、縛り上げてでも休ませるね私は。
なんとも痛ましい姿だ。
「先生!! 無事だったのですね!!」
「無事言うんかなぁアレ……」
無事って事で良いんじゃないかな。
死んでなきゃ安いもんだよ。
麗日少女にそう言ったら「そういう極論はどうかと思うわぁ……」って言われてちょっと引かれた。
悲しい!!
でも発言は撤回しないぞ!!
「俺の安否はどうでも良い。何よりまだ戦いは終わってねぇ」
自分の安否をどうでも良いって言えちゃう相澤先生は凄いなぁー。
それはそれとして、戦いが終わってないってどういうこっちゃ?
確かにあの手のヴィランは逃がしちゃったけど、そんなすぐにまた襲撃してくるとも思えないんだけど。
「戦い?」
「まさか……!」
「まだヴィランがーーー!!?」
相澤先生の発言にクラスメイト諸君もざわめき出した。
わかってるっぽいのと、わかってないっぽいのが半々くらいだ。
半分もわかってるのがいるって事は本当に何かあるのか?
ムムム。
わからん。
何かあったっけ?
「雄英体育祭が迫ってる!」
「「「「「「「クソ学校っぽいの来たああああ!!!」」」」」」」」
クラスメイト諸君が一斉に叫んだ。
君らそういうの好きね。ほんと。
それにしても体育祭か。
なるほど、ある意味では戦いだね。
これは盲点だった。
「待って待って! ヴィランに侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」
クラスメイト諸君の中の一人がそんな懸念を口にする。
まあ、当然の疑問だね。
「逆に開催する事で雄英の危機管理体制が磐石だと示す……って考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ」
あ、そういう考え方か。
納得。
「何より
「いや、そこは中止しよう?」
ブドウ頭がなんかほざいてた。
「峰田くん……雄英体育祭見た事ないの!?」
「あるに決まってるだろ。そういう事じゃなくてよー……」
ブドウ頭の発言など聞く価値もないので、黙って相澤先生の話を聞いておいた。
「ウチの体育祭は日本のビッグイベントの一つ!! かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ全国が熱狂した。今は知っての通り規模も人口も縮小し形骸化した……」
「そして、日本において今『かつてのオリンピック』に代わるのが、雄英体育祭だ!!」
うん。知ってる。
毎年テレビ中継してるもんね。
つまりマスゴミが来る訳だ。
……テンション下がってきた。
「当然全国のトップヒーローも観ますのよ。スカウト目的でね!」
八百万少女が誰に説明するでもなくそう言ったけど、それに関しては興味ないなー。
「卒業後にはプロ事務所にサイドキック入りがセオリーだもんな!」
「そっから独立しそびれて万年サイドキックってのも多いんだよね。上鳴あんたそーなりそう。アホだし」
「くっ!!」
クール系の少女がチャラい少年の心を無駄に抉る会話をしていた。
でも、クール系の少女が語った内容は何の偶然か私の人生設計そのものだったよ。
私は一生パパのサイドキックとして生きていきたい。
独立とかめんどくさいよー。
「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ」
将来の心配はいらない。
パパに責任取ってもらうから。
「年に一回、計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ!」
相澤先生の言葉を受けて、クラスメイト諸君の眼が燃えている。
熱い勝負の予感がするぜ!
まあ、私には関係ないけどな!
そうして今日のホームルームは終わった。
そして昼休み。
「あんな事があったけど……なんだかんだテンション上がるなオイ!!」
「活躍して目立ちゃ、プロへのどでけぇ一歩を踏み出せる!!」
燃えてるなー。クラスメイト諸君。
「皆すごいノリノリだ……」
緑谷少年が若干気圧されたようになっていた。
そこからは他の皆のように燃えている感じはしない。
仲間か?
そう思ったので話しかけてみた。
「君もアレに付いていけない口かね、緑谷少年?」
「八木さんも?」
「そうだねー。ああいうのは外から見てるのは良いけど、一緒に騒ぐのはどうもねー」
だって、私が燃えて本気出したら、ただの蹂躙にしかならないもん。
一方的なワンサイドゲームでお祭りを台無しにするのは本意じゃないんだ。
「君達は燃えないのか?」
と、そこで飯田少年が話しかけてきた。
「ヒーローになる為在籍しているのだから燃えるのは当然だろう!?」
「いや、私は燃えないかな」
「何故だい!?」
「将来はパパの事務所に就職が決まってるから、体育祭でアピールする必要ない」
「勝ち組確定かい!? でも、それとこれとは違うだろう!!」
尚も飯田少年は食い下がってきたが、私が聞く耳持たないのを見て諦めたのか、矛先を緑谷少年に変えてきた。
「緑谷くん!!」
「いや、僕はちゃんと燃えてるよ!? でも何か……」
「────デクくん、飯田くん、魔美ちゃん」
と、そこで麗日少女が会話に入ってきた。
らしくない闘志に満ち溢れた声で。
「頑張ろうね体育祭……!!」
「顔がアレだよ麗日さん!!?」
緑谷少年の華麗なる突っ込み。
どうした麗日少女?
全然麗らかじゃないぞ。
「皆!! 私!! 頑張る!!」
「おおーーー。けど、どうした? キャラがフワフワしてんぞ!!」
ほら、突然のキャラチェンジにクラスメイト諸君も困惑してるぞ。
で、気になったのでお昼に食堂に行く通り道でその理由を尋ねてみた。
その結果。
「お金……!? お金欲しいからヒーローに!?」
「究極的に言えば……」
緑谷少年が思わず出してしまった驚きの声に、麗日少女は頭をポリポリかきながらそう答えた。
確かにこれは予想外だった。
麗日少女……君は金の亡者キャラだったのか。
「なんかごめんね不純で……! 飯田くんとか立派な動機なのに私恥ずかしい……」
そう言って両手でほっぺたを押さえながら赤くなってしまった。
なんだこれ。
かわいいな。
「何故!? 生活の為に目標を掲げる事の何が立派じゃないんだ?」
「そうだよー。立派な動機さ。ね、緑谷少年」
「うん……。でも意外だね」
そして麗日少女は語ってくれた。
ヒーローを目指した動機を。
「ウチ建設会社やってるんだけど……全っ然仕事なくてスカンピンなの。……こういうのあんま人に言わん方が良いんだけど」
そうだね。
重い感じの身の上話は気が滅入るから、私も聞きたくない。
でも、麗日少女からはそこまで悲壮な感じはしないから、別に聞いてもいいかな。
「建設……」
「麗日さんの個性なら許可取ればコストかかんないね」
「でしょ!? それ昔父に言ったんだよ!」
たしか麗日少女の個性は「無重力」。
手で触れた対象を一時的に無重力状態にしてフワフワ浮かせる個性だったな。
そりゃ建設業に向いてるわ。
むしろ建設業をやる為に生まれてきたような個性だわ。
「でも……父ちゃん達は私に夢叶えてくれる方が何倍も嬉しい……って」
……なるほど。
良い親御さんだ。
ウチの無茶ばっかりして娘を不安にさせる父親に見習ってほしいくらいだよ。
「だから私はヒーローになって、お金稼いで、父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ」
決意のこもった真剣な表情でそう告げる麗日少女は、なんだかとってもかっこよかった。
金の亡者キャラかとか考えてごめんよー。
ヒーロー資格を暴力許可証としてしか見なしてない私なんかよりよっぽど立派だよ君は。
そう思ったのは私だけじゃなかったらしく、
「麗日くん……! ブラーボー!!」
飯田少年はそんな事言い出すし、緑谷少年は感心したように麗日少女を見ていた。
うん。
感動的だった。
実に良い話だった。
という訳で、そろそろ食堂に行こう。
私がそんな事を考えた時。
「おお!! 魔美ちゃんと緑谷少年がいた!!」
廊下の角から高速でパパが現れた。
廊下は走るな!!
病み上がりなんだから、おとなしくしてなさい!!
「ごはん……一緒に食べよ?」
「乙女や!!!」
そして、パパの突然の乙女っぽいセリフと仕草に麗日少女が噴いた。
あれ、今朝私が渡したお弁当……。
ていうか、いい年したおっさんがそんなポーズとってもかわいくないわ!!
そういうのは私の仕事でしょうが!!
と思うも、想像してみたらやっぱりそれは私のキャラじゃないなと思った。
見た目だけならクリティカルヒットなんだけどね。
そして、パパの一緒にご飯宣言を無視する理由もなかった私達は、パパに案内されて仮眠室まで付いて行った。
飯田少年と麗日少女とはお別れだ。
すまんね。
お昼は二人で食べてくれ。
仮眠室に入った途端、パパが煙を噴き出して縮んだ。
マッスルフォームからトゥルーフォームに戻ったのだ。
パパがこんな感じの謎の生態になってからもう六年も経つけど、実は未だに慣れない。
と、そこでふと思い至った事を聞いてみた。
「そういえば活動限界って今どれくらいなの?」
ついこの前までは三時間くらいあった筈だけど、一昨日パパは無理を押して脳みそヴィランと戦った。
最終的に脳みそヴィランは私が処理した訳だけど、その前にパパはちょっと怪我してたし、そもそも無理して動いてた訳だし、その結果、活動限界時間はそれ相応に縮んだ筈だ。
その話をまだしてない事に気づいた。
「ああ。先日の一件で少々無理をしてしまったが、それでもまだ二時間半くらいはあるよ。あの脳無とやらと本格的に戦っていればもっと酷い事になっていただろう。ありがとう魔美ちゃん」
「どういたしまして」
「しかし、もうあんな事はしちゃ駄目だぞ」
「じゃあ、パパももう無理はしないでね」
「いや、それは……」
パパが口ごもった。
これはまたやるな(確信)。
娘に注意するんだったら、まず自分が実践して見せてほしいもんだよ、まったく。
「ンンッ!! それより体育祭の話だ。魔美ちゃんは心配いらないとして、緑谷少年はまだワン・フォー・オールの調整できないだろ。どうしよっか」
あ、無理矢理話題を逸らしたな。
大人は旗色が悪くなるとすぐにこういう姑息な手に出てくる。
汚い。
大人汚い。
「…………あ……。でも一回……! 脳みそヴィランに撃った時、反動がなかったんです」
私が内心で憤慨している間、緑谷少年は真面目に考えていたらしく、そんな事を言い出した。
そういえば君、あの脳みそヴィランとちょっとだけ戦ったんだったね。
……今さらだけどよく生きてたもんだ。
良かった良かった。
「ああ! そういや言ってたな! 何が違ったんだろ」
「違い……。今までと明らかに違うのは……」
「…………初めて、
緑谷少年は自分の拳を見つめながらそう言った。
「ううむ……。無意識的にブレーキをかける事に成功したって感じか。何にせよ進展したね。良かった」
ほんとだね。
怪我の功名とはこの事か。
その調子で早く成長してほしいもんだよ。
切実に。
「……今回は魔美ちゃんが何とかしちゃったけど、私の活動限界はもう戦う度に短くなってるんだ。──ぶっちゃけ、私が平和の象徴として立ってられる時間って、実はそんなに長くない」
パパが真剣な顔でそう言った。
私としてはもっと早く、それこそあいつにやられた時には引退してほしかったんだけどな……。
でもパパは本当の限界まで頑張ろうとしてる。
それを止める気は、もうない。
止めても無駄だとわかってるから。
「君に力を授けたのは、『私』を継いでほしいからだ!」
だからせめて、早く次の平和の象徴が育ってくれれば良いと思ってる。
パパが安心して引退できるように。
私に寄生されて事務仕事に忙殺されるような余生を過ごせるように。
「体育祭……全国が注目しているビッグイベント! 今こうして話しているのは他でもない!! 次世代のオールマイト。象徴の卵。────君が来た!って事を世の中に知らしめてほしい!!」
パパがそう言って緑谷少年に発破をかける中、私もまた緑谷少年に視線を向けた。
この子がパパの後継者だ。
この子が立派に成長し、次代の平和の象徴になれば、パパは心置きなく引退できる。
私は、その日が一日でも早く来る事を願っているよ。
だからこそ悩む。
今度の体育祭において緑谷少年を、いや他の参加者諸君を────本気で叩き潰すべきか否か。
魔美子が本気出したらマジでどうなるんだろう?