小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「皆、準備はできてるか!? もうじき入場だ!!」
体育祭開催直前の控え室に飯田少年の声が響き渡る。
今日も絶好調なようでなによりだ。
「コスチューム着たかったなー」
「公平を期す為、着用不可なんだよ」
クラスメイト諸君のそんな会話が耳に入ってくる。
そう。
この体育祭においてコスチュームの着用は禁止。
一部例外を除いて、全員が体操服で参加する事になる。
つまり、今日私が翼を使おうと思ったら体操服を脱ぐか、背中側の布を引き裂くしかない。
まあ、コスチュームの着用は禁止されても、着ける下着の種類まではとやかく言われてないから、私は体操服の下にいつものスク水を着ている。
このスク水は特注品で、コスチューム並みとまではいかなくてもかなりの強度があるから高速飛行にも耐えてくれる。
ほんと便利。
「八木」
と、私が内心でスク水を褒め称えている時、一人の少年が話しかけてきた。
右側は白髪で左側は赤髪の少年。
推薦入試の時にいた氷使いの少年だな。
あ、いや、氷だけじゃなくて炎も使えるんだっけ。
まあ、それはいいとして何の用だろう?
今まで特に接点もなかった筈だけど。
「どうした少年?」
「……客観的に見て、お前は強い。USJでの戦いを見れば、俺より遥か上にいるってわかる」
「? ありがとう」
何が言いたいのかわかんなかったけど、とりあえず褒められたからお礼言っておいた。
「それでも、──お前には勝つぞ」
……なるほど。
宣戦布告がしたかったのか。
たしかに氷使い……轟少年だっけ?
轟少年の眼には凄まじい闘志が宿っている。
なんか体育祭で燃えてるにしては変な感じの闘志だけど、きっと何かしら事情があるんでしょ。
私には関係ないけど。
でも、宣戦布告されたからには答えておこうか。
「その挑戦。受けて立とう」
強者感溢れる見事な解答であろう!
もう決めたからね。体育祭に対するスタンスは。
挑戦くらい受けてやるよ!
「おお!? クラス最強対決かよ!!」
「すげぇ熱いな!! 燃えてきたぜ!!」
クラスメイト諸君がやんややんやと囃し立て始めた。
君らこれ以上テンション上げる気か。
元気で良いな。
「──それと緑谷」
「へっ!?」
ん?
何故か轟少年が今度は緑谷少年に話しかけている。
なんぞ?
「お前、オールマイトに目ぇかけられてるよな」
「!!」
「別にそこ詮索するつもりはねぇが……お前にも勝つぞ」
そうして轟少年は何故か緑谷少年にも宣戦布告をした。
なんでだろうなー。
緑谷少年は私と違ってそこまで目立った事はやってないのに。
せいぜい戦闘訓練の時に爆豪少年と引き分けた事と、ちょくちょく個性の反動で怪我して悪目立ちしてる事くらいでしょ。
爆豪少年との一件が理由なら、爆豪少年にも宣戦布告してなきゃおかしいし。
私と緑谷少年の共通点っていったらパパ関連くらいだから、やっぱりそれかね?
パパ……。
何か轟少年の恨みでも買ったんだろうか?
「……轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのかはわからない。それに現時点で僕は実力なんて大半の人に敵わないと思う。客観的に見ても、僕に対して轟くんが八木さんみたいに名指しで宣戦布告する理由はわからないよ」
なんか急に緑谷少年がネガティブな事言い出した。
いきなりどうした?
「でも……!! 皆、他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって遅れを取る訳にはいかないんだ。──僕も本気で、獲りに行く!」
そう宣言した緑谷少年の眼は燃えていた。
この前のやる気のなさが嘘のようだ。
パパの発破が効いたかな?
まあ、何にせよ良い顔になった。
「皆、時間だ! 行こう!」
飯田少年が皆にそう告げて、選手が始まった。
さて、いよいよ体育祭開幕だ。
◆◆◆
『雄英体育祭!! ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!! どうせてめーらアレだろ!! こいつらだろ!!? ヴィランの襲撃を受けたにも関わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!!』
『ヒーロー科!!! 一年!!! A組だろぉぉ!!!』
マイクさんの実況に合わせて、私はクラスメイト諸君と一緒に会場へと入場した。
人の視線が一杯だ!
わーい!
煩わしい!
「わあああ……。人がすんごい……!」
「大人数に見られる中で最高のパフォーマンスを発揮できるか……! これもまたヒーローとしての素養を身につける一環なんだな」
飯田少年がいつも通り真面目な事言ってる。
そうなんだよなー。
ヒーロー目指す以上、人の目もマスゴミも避けては通れない問題なんだよなー。
私はマスゴミは嫌いだし、人の目もそんなに好きじゃない。
主にうっかり個性の手加減ミスってミンチを作っちゃた時に言い訳ができないって意味で。
でも、それを気にしてやりたい事やらないのも愚かだと思うんだ。
世間がなんだ!!
マスゴミがなんだ!!
私はやりたい事を貫いてやるぞ!!
おー!!
「選手宣誓!!」
お立ち台の上に立つかなり危ないコスチューム(エロさ的な意味で)を着た先生が宣言する。
18禁ヒーロー「ミッドナイト」先生だ。
たしか、USJの時にも見た。
「18禁なのに高校にいてもいいものか?」
「いい」
「静かにしてなさい!! 選手代表!!」
鳥頭の少年とブドウ頭のトークに注意を飛ばして、ミッドナイト先生が代表選手の名前を呼んだ。
「1ーA!! 八木魔美子!!!」
「はーい!」
つまり私の名前をな!
まあな!
私は一般入試、推薦入試ともに一位の超優等生だからな!
選手代表と言えば私でしょうよ。
私はミッドナイト先生のいるお立ち台に登る。
そして備え付けのマイクに向かって宣言した。
「宣誓!! 私はこの体育祭を──」
悩んで、パパに相談までするなんてらしくない事までして決めたスタンスを、今、発表する!
「
言った!
言ってやった!
下手したら体育祭そのものを崩壊させかねない危険発言をかましてやったぞぉー!!
やってやったぜ!!
「これは体育祭!! ビッグイベントであると同時にお祭りの一種!! だったら楽しんでやろうじゃないか!! かかってこいよ!! ライバル共!!」
後ろを振り向き、他の参加者諸君に向けても、指を指して宣言した。
ヘドロ事件以降ちょっとした有名人になっていた私の発言に参加者諸君のテンションは一気に上昇!
歓声まで聞こえてきた。
「「「「「「「「ウ、ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」」」」」」」
歓声というか、もはや絶叫だった。
でも盛り上がったのは確かだ。
熱い宣言をかまして、参加者諸君のモチベーションを向上させる。
これぞ模範的な選手宣誓!
褒めてくれても良いのだよ?
そんな事を思いながらクラスメイト諸君の所へ戻る。
「素晴らしい宣誓だったわ!! さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう!!」
「雄英って何でも早速だね」
ミッドナイト先生の発言に麗日少女の突っ込みが入る。
もちろん、熱狂に紛れてお立ち台の先生まで聞こえる事はなかったけど。
「いわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者がティアドリンク! 涙を飲むわ! さて運命の第一種目!! 今年は……コレ!!」
ミッドナイト先生の声に合わせて、ドラムロールと共に回転していたモニターに表示された文字が止まり、『障害物競争』という文字がモニターに映し出された。
ふむ。
障害物競争か。
推薦入試の時を思い出すね。
あの時は翼で飛んで無双状態だったっけ。
懐かしい。
「計11クラスでの総当たりレースよ! コースはこのスタジアムの外周! 約4キロ!」
4キロか。
それにスタジアムの外周って事なら、完全な直線距離って訳でもない。
翼使ったら何秒かかるかね?
「我が校は自由さが売り文句! ウフフフ……! コースさえ守れば何をしたって構わないわ! さあさあ位置につきまくりなさい!」
ミッドナイト先生の号令を受けて参加者諸君がスタート地点に並ぶ。
誰も彼も、これから始まる第一種目に緊張と興奮が収まらないって感じだ。
良いねぇ! その熱い感じ!
今回は私もそれに混ぜてもらうぜ!
たとえ、それで君達が絶望の底に沈む事になろうともなァ!!
そして今!
運命のぉ!
「スターーーーーーーーート!!!!!」
参加者諸君が一斉にスタートゲートに向かって突撃する。
しかし、そこは比喩でも何でもなく狭き門。
物理的に。
参加人数に対して明らかに小さく作られたそのスタートゲートは、それすなわち最初のふるいだ。
真っ先に飛び出したのは轟少年だった。
氷で他の参加者諸君を足止めしながらトップをひた走る。
足止めされた参加者諸君は、足だの手だの凍らされて身動きとれない。
強いなー。
『さーて実況していくぜ! 解説アーユーレディ!? ミイラマン!!』
『無理矢理呼んだんだろが……!』
なんかマイクさん……マイク先生と一緒に相澤先生の地を這うような低い声が聞こえてきた。
あの重傷で解説とかやらされるのか……!
雄英はブラックすぎる職場だ。
私が実況に耳を傾けてる間に、他のクラスメイト諸君が轟少年の氷結を回避して前に出るのが見えた。
さすがヒーロー科。
普段から動きなれて戦いなれてて轟少年の個性も知ってる分、対応が早いや。
『さあ! いきなりの障害物だ!! まずは手始め……第一関門ロボ・インフェルノ!!』
おお! アレは!
入試の時の巨大ロボじゃないか!
それも結構大漁に!
わー。良いなー。後で全部ぶっ壊しておこう。
そうして私が見ている中で、轟少年が巨大ロボを凍らせて倒した。
文字通り不安定な体勢の時に凍らせて、そのまま倒して後続の壁にした。
轟少年はもちろん一抜けしている。
『1ーA、轟!! 攻略と妨害を一度に!! こいつぁシヴィー!!! すげぇな!! 一抜けだ!! もうなんかズリィな!!』
轟少年やるなー。
凄い凄い。
普通に強いわ。
『……ていうかイレイザー、アレ……』
『……言うな。わかってる』
そうこうしている内に他のクラスメイト諸君も巨大ロボを攻略し始めた。
入試の時は一体ですら私と緑谷少年しか攻略できなかったって聞いたのに、あれだけの数を相手に皆戦えてる。
成長著しいな!
さすが有精卵共!
私はその活躍を、
『八木……動かねぇな』
──スタート地点でストレッチしながら、モニターで見守っていた。
体育祭! ついに開幕!