小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
──オールマイト視点
圧倒的すぎる魔美ちゃんの活躍を見て、体育祭前に発破をかけた事をちょっとだけ、本当にほんのちょっとだけ後悔しながらも、魔美ちゃんや緑谷少年とお昼を一緒にしようと思って二人を探していた時。
ふと、下り階段の前で見覚えのある特徴的な背中を見かけたので声をかけた。
「よっ! 久しぶりだな! お茶しよ、エンデヴァー!」
「オールマイト……!」
相変わらず燃えるような視線で睨み付けてくるエンデヴァーにちょっとビクッとしながらも、話を続ける。
「超久し振り! 11年前の一件以来かな? 見かけたから挨拶しとこうと思ってね」
「そうか。ならもう済んだろう。去れ」
相変わらずつれないなぁ!
「茶など冗談じゃない……。便所だ。失せろ!」
「つれないこと言うなよー!!」
「ぐっ……」
エンデヴァーの進行方向に回り込んで引き留める。
話したい事があるからね。
ちょっと付き合ってもらいたい。
「君の息子さん。焦凍少年。力の半分も使わずに素晴らしい成績だ。教育が良いのかな」
「嫌みか。貴様の娘はそれ以上だろうが。……奴を娘として扱うなど理解できんがな」
「エンデヴァー」
「……ちっ。結局何が言いたい」
エンデヴァーは魔美ちゃんに恨みを持っている。
十年以上が経っても薄れる事のない恨みを。
それは仕方がない事だけれど、あの子に責任がある訳じゃないんだ。
だから、あんまりあの子を貶めるような事は言わないでほしい。
エンデヴァーもそれはわかってるから、それ以上は言わないでいてくれた。
だから私も本題を話す。
「いやマジで聞きたくてさ。次代を育てるハウツーってのを」
「……? 貴様に俺が教えると思うか? 自分で引き取ったのだから自分で面倒を見ろ」
エンデヴァーが言ってるのは多分魔美ちゃんの事だよな。
私が聞きたかったのは緑谷少年の育て方に関する事だったんだけど……。
伝わる訳ないか。
「相変わらずそのあっけらかんとした態度が癪に障る」
「ごめん……」
真っ向から嫌われるのは、やっぱり傷つくな……。
エンデヴァーはもう何も話すつもりはないのか、私を押し退けて階段を下りて行ってしまった。
でも、去り際に、
「これだけは覚えておけ」
そう言って話し始めた。
「
「……何を…」
とてつもなく怖い顔でエンデヴァーが語る。
その異様な雰囲気に、私は少しだけ気圧された。
「今は下らん反抗期だが、必ず超えるぞ……! 超えさせる……! 貴様も……! あの小娘も……!」
それだけ言い捨てて今度こそエンデヴァーは去って行った。
私はしばらくその場から動けなかった。
エンデヴァーの眼に宿っていた、あの狂気的な感情。
怒りのような。執念のような。ドロドロとした嫌な感じがするナニカ。
彼は歪んでしまったのだろうか。
11年前の事件で。
あるいは私への対抗意識で。
それでも、彼と親しい訳でもなく、むしろ負い目すらある私には彼にしてあげられる事など何もなく。
ただ、その背中を見送る事しかできなかった。
でもねエンデヴァー。
その言い方じゃまるで。
そんな事を思ってしまい、私はどうしようもなく嫌な予感を覚えながらその場を去った。
◆◆◆
パパとお昼を一緒にするべく、お弁当を持って教員用の観客席とか職員室とかを回ってパパを捜索するも見つからなかった。
どこ行ったんだ。まったく。
いい加減探すのがめんどくさくなってきて、もう一人で食べちゃおうかと思い直し、適当な場所でお昼にしようと校内を歩いていた時。
ふと、轟少年を発見した。
あー。
ここ保健室の近くか。
せっかくなので、さっき腕折っちゃったお詫びもかねて声をかける事にした。
「やっ! 轟少年。腕は大丈夫かい?」
「八木……」
轟少年は無表情だった。
この子は何考えてんのかわかんないなー。
でも、とりあえず謝罪くらいは先にしておこうか。
「さっきは腕折っちゃってごめんね。つい力加減ミスっちゃって」
「……競技中の事だ。気にしてない」
そう言う轟少年の声には覇気がなかった。
腕は治ってるみたいだから、多分、というか確実におばあちゃんの治癒を受けたんだろうけど、あれって結構な体力を使うって聞いた事があるから、轟少年は今お疲れモードなんだろう。
なら、そっとしといてあげた方が良いな。
そう判断した私は、一言告げてこの場を去る事にした。
「そっか。じゃあ最終種目で会おうぜ。さらばだ」
「……ちょっと待ってくれ」
「ん?」
それだけ言って去ろうとしたんだけど、轟少年に引き留められてしまった。
なんだろう?
「今、少し時間あるか。話がしたい」
ええー……。
お昼食べたかったんだけど……。
でも、腕折っちゃった負い目もあるしなぁ。
ちょっとくらいなら良いか。
「別に良いよ。でも、早くお昼食べたいから手短にお願い」
「ああ。わかった」
そうして轟少年は話し始め
「え!? 八木さん? 轟くん? なんでこんな所に?」
……ようとして、途中で廊下の角から現れた緑谷少年によって遮られた。
なんと間の悪い事だろうか。
「緑谷……。ちょうど良かった。お前にも聞かせたい話だ」
「えと、あの、状況が呑み込めないんだけど……」
おや?
どうやら間が悪かった訳じゃなさそうだぞ。
むしろ神がかり的なタイミングで現れたのかもしれないなこの子は。
「なんか轟少年、話したい事があるらしいよ。私と君に」
「え? 僕にも?」
「ああ。今、時間あるか」
「う、うん……」
そうして今度こそ轟少年は話し始めた。
とてつもなく重い身の上話を。
「──俺の親父はエンデヴァー。知ってるだろ。万年ナンバー2のヒーローだ」
うん。知ってる。
毎回ヒーローランキングでパパの一個下に名前が乗る人だ。
「お前らがナンバー1ヒーローの関係者なら俺は……尚更勝たなきゃいけねぇ」
……ふむ?
それはお父さんの仇討ち……じゃないけど、そんな感じの理由か?
「親父は極めて上昇思考の強い奴だ。ヒーローとして破竹の勢いで名を馳せたが……それだけに生ける伝説オールマイトが邪魔で仕方なかったらしい。……自分ではオールマイトを超えられねぇ親父は、次の策に出た」
なんか話し続ける轟少年の眼がどんどん濁っていくんですけど……。
今さらながらに気づいた。
これ私が嫌いな鬱系の話じゃね?って事に。
「何の話だよ轟くん……。僕らに何を言いたいんだ……」
緑谷少年も不吉な予兆を感じとってるのか、若干声が震えてるよ。
そして案の定、話は暗い方向に突き進み始めた。
「個性婚。知ってるよな。『超常』が起きてから第二~第三世代間で問題になったやつ。自身の個性をより強化して継がせる為だけに配偶者を選び、結婚を強いる。倫理観の欠落した前時代的発想」
知ってる。
どっかの本に書いてあった。
「実績と金だけはある男だ。親父は母の親族を丸め込み、母の個性を手に入れた。俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げる事で自身の欲求を満たそうってこった。うっとうしい……! そんな屑の道具にはならねえ」
そう語る轟少年の眼は、恨みと怒りでドロドロに濁っていた。
これはアカンわ。
危険人物に近い眼だよこれは。
「記憶の中の母はいつも泣いている。お前の左側が醜いと、母は俺に煮え湯を浴びせた」
そう言って、轟少年は自分の顔の左側にある火傷跡に触った。
「──ざっと話したが、俺がお前らにつっかかんのは見返す為だ。クソ親父の個性なんざなくたって……いや、使わずに一番になる事で、奴を完全否定する」
燃えるように熱くて、凍えるように冷たい決意。
なんて顔してんだろうねこの子は。
とてもヒーロー志望がする顔じゃないよ。
これは復讐者とか、そういう手合の顔だよ。
見た事あるからよくわかる。
「言いたい事はそれだけだ。俺は右だけでお前らの上に行く。時間とらせたな」
そうして轟少年は去って行く。
……重い話だったなぁ。
私の過去話に匹敵するレベルで重かったわ。
そんな重い話を聞いた私の感想は「お昼食べる前に胃にもたれるような話聞かせてんじゃねぇよ!!」ってくらいだったけど、どうやら一緒に聞いてた緑谷少年は違ったらしい。
去って行く轟少年の背中を追って声をかけていた。
「僕は……。ずうっと助けられてきた。さっきだってそうだ。僕は……誰かに助けられてここにいる」
ヘドロの時とか、パパに個性を貰った事とかの話かな。
さっきというと騎馬戦か。
私が声かけたのを助けられたと思ってるのかもしれない。
まあ、緑谷少年はぶっちゃけ弱いからね。
使い魔の一体にすら勝てないくらい弱い。
今はまだ誰かの助けがいる時期だ。
「オールマイト……。彼のようになりたい。その為には一番になるくらい強くならなくちゃいけない」
でも、君は強くなるよ。
だって君はパパが選んだ後継だ。
「君に比べたら些細な動機かもしれない。でも僕だって負けられない。僕を助けてくれた人達に、応える為にも……!」
轟少年とは違う、前向きな決意。
どっちが良いとか悪いとか言うつもりはないけど、こっちの方がヒーローっぽいとは思うよ。
「さっき受けた宣戦布告。改めて僕からも言うよ。──僕も君に勝つ!!」
緑谷少年はまだ弱い。
でも、もう弱いだけの泣き虫じゃない。
強くなり始めている。
決して侮っていい相手じゃない。
これは熱い勝負が見られるかもしれないな。
この情熱が、果たして実力差をひっくり返す程の力となるのかどうか。
「……まあ、頑張りなよ。お二人さん」
そう言って、私はこの場を去って行く。
お弁当を食べるスポットを探して。
「私には二人みたいな信念はないし、必死になって頑張る理由もない」
ただ、去り際にかっこいい事は言っておくよ。
「でも、楽しんで来いって言われたんだ。だから全力でお祭りを楽しむよ。誰が相手だろうと本気で戦う。一番になりたいんだったらかかって来いよ。真っ向から迎え撃ってやるぜライバル共」
背中を向けながら告げた言葉。
これが私なりの宣戦布告だ。
どんな事情を抱えていようと、どんなに大事な目標を持っていようと関係ない。
私は最初に選手宣誓の時に言ったように本気で相手をしてやるだけだ。
決して手は抜かない。
手加減なんてしない。
それだけは誓うよ。
そうして昼休憩は終わっていった。
結局パパは見つからず、私は一人でお弁当を食べましたとさ。
ちょっと寂しい……。