小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
──緑谷視点
僕の無謀な行動にものすごく怒ったヒーロー達からようやく開放された僕は、とても疲れた足取りで家を目指していた。
今日は色々な事があった。
もう激動の一日としか言えないくらいに色々な事があった。
今日以上に濃い一日は、多分もう一生来ないだろう。
来たら過労死する自信がある。
始まりはお昼に学校でかっちゃんに脅されて、「将来の為のヒーロー分析ノート NO,13」を爆破されたところからだった。
原因は、僕がヒーロー育成機関の最高峰「雄英高校」を受験するつもりだというのがかっちゃんにバレた事。
かっちゃんもまた雄英志望で、そして「平凡な市立中学から初めて、唯一の雄英合格者」という箔を自分に付けたかったらしい。
その為には、同じく雄英を受験しようとする僕が邪魔だった訳だ。
個性がなければヒーローになんて成れないだろうし、雄英にも受からないだろう。
なのに、わざわざ「無個性」の僕に脅しをかけてくるんだから、本当にかっちゃんはみみっちい性格だ。
で、その時にかなりショックな事を言われて心を折られかけた僕は、トホトボしながら家路についた。
そしたらヘドロみたいなヴィランに襲われた。
僕はいったい、どれだけ運がないんだろう。
ヒーローを目指してるくせに、世界的に見てもかなり珍しい無個性に生まれた事自体かなり運が悪いのに、その上さらに爆発系幼なじみに虐められ、しまいにはヴィランに襲われる。
ここまでくると、いっそ笑えるかもしれない。
残念ながら、その時の僕にそんな余裕はなく、口を塞がれて息もできない中で、心の中で必死に助けを求める事しかできなかったけど。
でも、ここからが激動の展開だった。
「もう大丈夫だ少年!!」
ヘドロヴィランに襲われていた僕は、あるヒーローに助けられた。
同時にそれは、小さい頃からずっと憧れてきた最高のヒーローとの出会い。
「私が来た!!」
オールマイトとの出会いだった。
その後、オールマイトにとんでもない迷惑をかけてしまった僕は、ひょんな事から彼の秘密を知ってしまった。
不動のナンバー1ヒーロー、平和の象徴として君臨するオールマイトが、ヴィランとの戦いで既に弱りきっているという衝撃の真実を。
驚きすぎて思わず絶叫してしまった。
でも、この直後、それ以上に僕の心を抉る出来事が起こった。
その時、僕はオールマイトに聞いたんだ。
「個性がなくても、ヒーローはできますか!?」
って。
「無個性」は、僕にとっての大きなコンプレックスだ。
ずっとかっちゃんに馬鹿にされ続けてきたっていうのもあるけど、それ以上に「個性がなければ、憧れたヒーローに成れない」っていう事実が、目を背けたくなる程に辛かった。
それでも、半ば諦めていながらも、雄英を志望校にしてみたり、「将来の為のヒーロー分析ノート」を作ってみたりして、僕は未練がましく夢にしがみついていたんだ。
でも、この時、僕の未練は他の誰でもない、憧れ続けたナンバー1ヒーローの手で絶ち切られた。
「プロはいつだって命懸けだよ。
「……夢を見るのは悪い事じゃない。だが……相応に現実も見なくてはな少年」
それが、僕の問いに対するオールマイトの返答だった。
ショックだった。
ため息と一緒に口から魂が抜けそうなくらいショックだった。
でも同時に納得もしたんだ。
最初から分かってた事だったから。
今まで見ないように見ないようにしてきたけど、結局現実は変わらなかった。
それだけの事だって、無理矢理自分を納得させようとしたんだ。
そうしてさらに重い足取りで歩いてた時。
僕は再び衝撃の出会いをしたんだ。
「おーい! そこの地味めの少年ー!」
そんな元気に道溢れるような声で呼ばれた。
振り返れば、長い金髪の凄い美少女がいた。
そして何故か、もの凄い量の荷物を抱えていた。
いつもの僕なら女子との会話なんてキョドってできなかっただろうけど、その時はキョドる元気すらなかったから、普通に返事ができた。
次の言葉で凍りついたけど。
「いきなりだけど、君ってヒーロー志望だったりする?」
頭が真っ白になった。
その子はなんか人探しがどうとか言ってたけど、ほとんど耳に入ってこなかった。
そして僕は、自分はヒーロー志望じゃないと、自分の口で否定した。
それで言い逃げするみたいにそこから逃げた。
あの女の子には悪い事しちゃったと思ったけど、それ以上にもう限界だった。
口に出す事で実感してしまったから。
僕はもう、ヒーローには成れないと。
僕はもう、ヒーローに成るのを諦めてしまったんだと。
そこから先はよく覚えてない。
ふらふらと夢遊病患者みたいにさ迷って、気づいたらそこに居た。
ヴィランが暴れる現場に。
僕にはヒーローの活躍を現場で見て観察する習慣がある。
だから、無意識につい癖で来ちゃったんだと思う。
完全に心が折れて夢を諦めても、体に染み付いた癖までは取れないらしい。
でも、そこで見た光景は、ボウッとしていた頭を覚ますには充分すぎる程衝撃的だった。
そこで暴れていたヴィランは、ヘドロみたいな姿をしていた。
僕がさっき襲われた奴だ。
オールマイトが倒した奴だ。
その筈なのに、ヘドロヴィランは僕の目の前で暴れている。
しかも人質をとって。
最悪だ。
ヘドロヴィランが逃げたのは、多分僕のせいだ。
あの時、オールマイトにどうしても質問がしたくて、飛び去ろうする彼の足にしがみついた。
そして、空中でちょっと揉み合いになった。
あいつはペットボトルに詰められてオールマイトのポケットの中に捕まってたから、それを落としたんだとすれば、間違いなくその時。
僕の心は罪悪感で一杯になった。
僕が余計な事さえしなければ、この事件はとっくに終わってた。
今目の前の悲劇はなかった。
そう思うと、人質になってる人に心の中で謝る事しかできない。
なんとかしたいけど、僕は無力だ。
無個性のデクだ。
しかも、たった今、ヒーローに成るのを諦めたばっかりの。
僕には何もできない。
なのに人質の人と目が合って。
それがかっちゃんだって気づいて。
その助けを求めるような目を見て。
気づいたら体が動いていた。
そして、気づいたら転んで地面に転がっていた。
何が起こったのか分からなかったけど、痛みで冷静になって考えれば、足をかけられたんだと気づいた。
「おーい。大丈夫か少年?」
声をかけられて顔を上げれば、さっき出会ったあの女の子がいた。
彼女は、無謀な特攻をしようとしてた僕を止めてくれたらしい。
それで、色々と質問された。
でも、僕はその間もかっちゃんのあの目が頭から離れなくて、その内容もほとんど頭に入ってこなかった。
返答もしどろもどろだったと思う。
そして、一際大きな爆発音がした。
僕にはそれが、かっちゃんの最後の抵抗のように思えた。
もう限界だと、悲鳴を上げているように聞こえたんだ。
そしたら、やっぱり体が反射的に動いた。
僕は無力なのに。
何もできないのに。
心だって折れてた筈なのに。
それでも、体は動いた。
「何で!! てめェが!!」
「足が勝手に!! 何でって……分かんないけど!!!」
ただその時は。
「君が……
そう言って、憧れたヒーローを真似て、精一杯の笑顔を作った。
その時、
「もう大丈夫」
まるで、ついさっきの出来事の焼き増しのような台詞が聞こえた。
見れば、僕の視線の先にあの女の子がいた。
「私が来た!!!」
声も格好も、全然似てない筈なのに。
僕にはその背中が、オールマイトと重なって見えた。
どこまでも力強くて、安心できる声だと思った。
その直後、彼女は拳の一振りでヴィランを撃退した。
やっぱりオールマイトみたいだ。
それだけを思いながら、僕の意識は途切れた。
◆◆◆
その後、本日二回目の気絶(一回目はヘドロに襲われた時)から目覚めた僕は、ヒーロー達にものすごく怒られた。
確かに、事件を解決してくれたのはあの女の子で、僕がやった事と言えば、後先考えない無謀な特攻でしかない訳で。
ヒーロー達に怒られるのも当たり前の事だった。
そのお説教からもようやく開放されて、僕は今ようやく家路についている。
本当に怒涛の一日だった。
でも、まだ終わってない。
とりあえず、帰ったらオールマイトのホームページから謝罪のメールを送らないと。
「デク!!!」
そんな事を考えていたら、大声で名前を呼ばれた。
正確には名前じゃなくて蔑称だけど、このあだ名で僕を呼ぶ人物は一人しかいない。
「俺は……! てめェに助けを求めてなんかねえぞ……! 助けられてもねえ!! 一人でやれたんだ!!
あのクソ女の助けもいらなかった!!! 無個性の出来損ないが見下すんじゃねえぞ!!
恩売ろうってか!? 見下すなよ俺を!!」
「クソナードが!!」
かっちゃんは、言うだけ言って去って行った。
タフネスだ。
あれだけヘドロにやられた後に、あんな元気がある。なんて。
でも、かっちゃんが言う事ももっともだ。
あの女の子に助けられたのは事実だろうけど、僕が何かできた訳じゃない。
でも、最後にほんのちょっとだけ、ヒーロー気分が味わえた。
これでちゃんと諦めがついた。
これからは、身の丈に合った将来を──
「私が来た!!」
「わ!?」
いきなり現れたのは、画風が違う筋骨隆々の大男。
え!? 何で!?
「オールマイト!? 何でここに……」
「HAHAHA! 何故って? 当然、君を追って来たのさ!! ……少年。君には謝罪と訂正、そして提案をしに来たんだ」
オールマイトは、そう言って話し始めた。
「私はあの時、君達が奮戦する現場に居た。しかし情けない事に、体力の限界を理由に手が出せなかった。私は君に諭しておいて、口先だけのニセ筋になってしまった! 本当にすまなかった」
「そんな……いや、そもそも僕が悪いんです。仕事の邪魔して、無個性のくせに生意気な事言って……最後も結局、あの女の子に助けられただけですし──」
「いいや!! 違うさ!!」
オールマイトは、途中で僕の言葉を遮って、話しを続けた。
「あの場の誰でもない、小心者で無個性の君だったからこそ、あの子もまた動かされた!!」
その言葉に、心が揺さぶられているのを感じる。
「トップヒーローは学生時代から逸話を残している! 彼らの多くがこう結ぶ!! 考えるより先に体が動いていたと!!」
「君もそうだったんだろ!?」
それを聞いている時、僕は何故か、母の言葉を思い出していた。
ずっと昔の記憶だ。
僕が無個性だと分かって、それでも涙を溜めながら、オールマイトのデビュー動画を見続けていた時の記憶。
『ごめんねえ出久……! ごめんね……!』
違うんだお母さん。
あの時、僕が言ってほしかったのは。
「君は、ヒーローになれる!!!」
そう言ってほしかったんだ。
気づけば、涙が溢れていた。
今日初めての嬉し泣きだ。
どん底まで落ちて、心が折れた。夢を諦めた……筈だった。
なのに今は、嬉しくて仕方がない。
諦めてしまった夢を、最高のヒーローになるという夢を。
他の誰でもない、
嬉しくない訳がない。
嬉しさど、涙が止まらない。
「うっ……! うっ……!」
「少年……」
オールマイトが、優しく肩を叩いてくれた。
そのせいで、今までの辛かった分の涙まで溢れてきた。
それに慌てたのか、オールマイトがオタオタし始める。
それを申し訳なく思った僕は、頑張って涙を止めようとして──
「あ! パパついに見つけた!」
すごく聞き覚えのある声を聞いた。
「ま、魔美ちゃん!? いや、あの、パパ今すごく真剣な話しててね! 乱入されると困るんだけど……」
「む~デートの約束をすっぽかした上にこれ以上わがままを言うか! いいから、帰るよ! 荷物持って! 車運転して!」
「いや、魔美ちゃん、ちょっ……!? しょ、少年、せめて連絡先だけでも!!」
ああ。
オールマイトが連行されて行く。
ていうか、パパ?
それにあの子は昼間の。
頭が混乱する中、なんとかオールマイトとの連絡先の交換にだけ成功した。
そうして、激動の一日は過ぎていったのだった。