小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!!   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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緑谷出久と八木魔美子

 ヒーローと警察によるお説教をなんとか耐えきった私は、重い足を引きずって、パパの車を目指していた。

 疲れた……。

 戦闘はともかく、お説教は精神的に辛いよ。

 しかも、あれだけ買い込んだ荷物が、パンチの時の衝撃波でどっか行っちゃたんだよ!

 そんな残酷な現実が、私のハートをさらに疲弊させている。

 

 くそう。

 あの時は地面に置いて放置せざるをえなかったとはいえ、なにも半分以上が消える事ないだろ荷物。

 絶対、いくつかは置き引きにあってるって。

 置き引きは犯罪だぞ。

 犯罪者捕まえるのはお前らの仕事だろう。

 仕事しろヒーローと警察。

 

 

 そうして心の中で呪詛を吐きながら歩いていると、私の耳が、なんかやたらとテンションの高い声を聞き付けた。

 む、この声は!

 凄まじく聞き覚えがあるぞ!

 

 すぐに声の下へとダッシュ!

 

「あ! パパようやく見つけた!」

 

 そこには、今日一日探し歩いた父の姿が。

 良かった。

 これで車で帰れる。

 この上、少なくなったとはいえ荷物を抱えて電車に揺られるなんてまっぴらごめんだったんだ。

 良かった良かった。

 

 さあ、帰ろう。

 何故か渋るパパを、有無を言わさずそのまま連行。

 なに?

 真剣な話してる?

 乱入されると困る?

 知った事か!

 こちとらお疲れモードなんだよ!

 つべこべ言わずに荷物を持てい!

 車を運転せい!

 さあ! さあ! さあ!

 

 そうしてパパを引きずって強制連行。

 去り際に話し相手と思われる少年と連絡先の交換だけする猶予を与えた、慈悲深き私に感謝せよ!

 ていうか、話し相手の少年に見覚えがあった。

 昼間の地味めの少年だった。

 なんか予想以上に早い再会だったけど、今はどうでもいいな。

 それより早く帰りたい。

 帰って寝たい。

 

 そんな事を考えていた私は、結局、車の助手席で爆睡したのだった。

 

 

 

 ちなみに、ヘドロを仕留めた一件はパパにも怒られた。

 で、その後褒められた。

 まるで(パパ)みたいだったってさ。

 ふふふ、称賛は素直に受けとっておこう。

 お休みなさい。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 その夜。

 中途半端な時間に寝てしまったせいで深夜に目が覚めた私は、とりあえずトイレに行く為に部屋を出た。

 

 そして、見てしまった。

 

 パパがこそこそと誰かにメールを送っているのを。

 うわ、浮気か! と一瞬思ったけど、考えてみればパパは結婚してないんだから浮気もなにもなかった。

 でも娘の私を差し置いて女とイチャコラするのは見逃せんなぁ。

 そうして、ある日突然「新しいお母さんだぞー」とか言いながら女連れて来たら、その時は全力のデビル・スマッシュをお見舞いしてやろう。

 その時がパパの命日となるだろう。

 

 という訳で、パパが眠りについた隙を見計らって部屋に侵入。

 枕元のスマホを奪取し、メールの内容を確認する。

 小癪にもパスワードをかけてロックしていたけど、私には通じぬ。

 そんなもの、とっくの昔に入手済みよ。

 くっくっく。

 

 そうして調べたメールの内容は、私を驚愕させた。

 

『二日後に、海浜公園に来てくれ』

 

 簡素な内容だけど、問題はそこじゃない。

 これは待ち合わせのメールだ。

 マジかよ……。

 冗談のつもりだった浮気云々が現実味を帯びてしまったぞ!

 これは尾行しなくては(使命感)!

 未来の母親候補を見極めなくては!

 

 

 

 深夜のテンションというやつだろうか。

 この時の私はメールの内容に興奮して、差出人の名前を見るという当たり前の行為をし忘れていた。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 二日後。

 深夜のテンションから完全に開放され、冷静な思考回路を取り戻した私は、「考えてみれば、あれってただの呼び出しメールだったんじゃね?」という、とても冷静な解答を導き出す事ができた。

 それはそれとして、パパの待ち合わせ相手の事は気になったので、こうして海浜公園を目指している。

 尾行とかじゃなくて、普通に歩いて。

 浮気相手じゃないなら、別に尾行する必要はないかなと思って。

 

「ヘイヘイヘイヘイ。何て座り心地の良い冷蔵庫だよ!」

 

 そうして適当に歩く内にパパを見つけた。

 なんか冷蔵庫の上で体育座りしてた。

 そして、この間の地味めの少年が、その冷蔵庫をロープで引っ張っていた。

 ピクリとも動いてないけど。

 

 え? 何やってんの?

 いじめ?

 あ、少年が力尽きて倒れた。

 パパは笑いながら、その惨めな姿をスマホで撮影してる。

 やっぱり、いじめ?

 

 まあ、とりあえず、ここから見てるのもなんだし、声かけるか。

 

「お~い! パパ~!」

「え!? 魔美ちゃん!? 何でここに!?」

「尾行して来ちゃった。テヘッ」

「テヘッじゃないよ!?」

 

 スマホのロック破った事は秘密にしたいから、尾行したという事にしといた。

 それにしても、驚いてる驚いてる。

 てことは、この地味めの少年との逢瀬は私にも知られたくなかったのかね?

 ハッ!?

 まさかのBLという可能性もあるのか!?

 やっぱり浮気か!

 この特殊性癖を隠したかったのか!

 おのれ、パパめ!

 

 ……まあ、冗談はさておき。

 

「で、何やってんの?」

「う、うん……いや、その……ね……」

 

 何故にそんなしどろもどろ?

 なに? 答えにくいのん?

 ……マジで浮気とか言わないだろうな?

 「実は私は……いたいけな少年が大好物なんだ!」とか告白されたら、私は軽く絶望するぞ。

 その後、責任を持ってモンスターと化した父を成仏させてやるぞ。

 

 ……まあ、冗談はさておき。

 

「パパが答えにくいなら、まずはこっちの少年との自己紹介から始めようか。

 始めまして。私の名前は八木(やぎ)魔美子(まみこ)。そこで冷蔵庫の上に乗ってるマッチョマンの娘です。どうぞよろしく」

 

 私の登場からずっと無言だった少年ににこやかな笑顔で挨拶してあげた。

 美少女の笑顔は世界の宝。

 それを間近で拝める君はとても幸運なんだぜ少年。

 その証拠に、少年は顔を真っ赤にして固まってしまった。

 

「あの……! えと……! その……!」

 

 少年。君もしどろもどろか。

 これはあれだな。

 この少年からは女慣れしていない童貞の気配を感じるな。

 でもそれだけじゃなくて、話したい事が多すぎて逆に声が出ないみたいな雰囲気も感じるんだ。

 考えてみれば、私はこの少年にとって命の恩人みたいなもんだし、ナンバーワンヒーロー(パパ)の娘っていうのも衝撃の事実だし、私は美少女だし、混乱するのも分からなくはないな。

 でも、名乗られたら名乗り返すのが礼儀だと、お姉さん思うんだ。

 

「ぼ、僕は緑谷(みどりや)出久(いずく)って言います……。あの、その、こ、この前は危ないところを助けてくれて、ありがとうございました!!」

「うん。どういたしまして~。それにしても緊張しすぎだと思うぞ少年。もっと肩の力抜いていこうや」

 

 地味めの少年改め、緑谷少年との自己紹介を済ませ、本題に戻る。

 

「で、結局パパ達はここで何やってんのさ?」

 

 すなわち、パパへの尋問再開だ。

 さあ吐け! 吐くんだ!

 狙いはなんだ!

 緑谷少年の純潔が欲しいとか言い出したら、全力でぶん殴るぞ!

 さすがにそれは冗談だけども。

 

「ハア……ここまで来たらもう隠し通せないか……。分かったよ魔美ちゃん。真実を話そう」

 

 え? お、おう。

 予想以上に真剣な雰囲気だ……。

 これそんなに真面目な話なの?

 パパ未だに冷蔵庫の上に体育座りしてるから、すごいシュールなんだけど。

 大丈夫だよね?

 これで冗談のつもりだった浮気うんぬんの話が出たら、手加減できる自信がないぞ。

 

「魔美ちゃん。私は彼を……」

 

 彼を……なんだ?

 愛してるのか?

 

「──私の後継にしようと思ってるんだ」

 

 …………ん?

 なんだ、そりゃ?

 

 

 

 そして聞かされたのは、パパの個性の話だった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 ──緑谷視点

 

 

 

 オールマイトが八木さんに「ワン・フォー・オール」の秘密を話している。

 これは実の娘さんにすら秘密にしなければならない、とても重要な話なんだと再認識した。

 それこそ、ナチュラルボーンヒーロー、オールマイトに娘がいるっていう特大ニュース以上に。

 

 ──オールマイト。

 年齢不詳。個性不明。

 そのプライベートも謎に包まれた、不動のナンバーワンヒーロー。

 プライベートが謎に包まれてるから、自分でも重度のオールマイトオタクだという自覚がある僕でも、娘さんの存在を知らなかった。

 言われてみれば同じ金髪だし、超パワーの個性持ちだし、確かに類似点は多い。

 そうと言われれば、素直に納得できる。

 

 でも個性に関しては別だ。

 ちょっと僕の想像を越えすぎていて、説明された後でも理解はできても、納得はできなかった。

 

 

 

 オールマイトと衝撃の出会いをして、連絡先まで交換したあの日の夜。

 オールマイトから送られてきた二通のメールに、僕は興奮と感動を抑えられず、その日はとても疲れていたというのに眠れなかった。

 一通目のメールは、その日起きた出来事に対する謝罪。

 そして、二通目は呼び出しのメールだった。

 

 オールマイトが僕に何の用だろうと怪訝に思ったけど、もう一度生のオールマイトに会えると思えば行かない理由はなかった。

 そうして向かった待ち合わせ場所の海浜公園。

 そこで語られた衝撃の真実。

 

 オールマイトの個性「ワン・フォー・オール」。

 個性を譲渡する個性。

 自分が培った力を次の誰かに託し、その誰かもまた力を培って次の誰かに託す。

 そうして救いを求める声と義勇の心が紡いできた力の結晶。

 それが「ワン・フォー・オール」。

 

 聞いた今でも正直信じられない。

 信じられないけど、オールマイトはその力を僕に託したいって言ってくれたんだ。

 あの時、かっちゃんを助ける為に無謀にも飛び出した僕は「誰よりもヒーローだったから」って。

 

 正直、自信はない。

 それならあの女の子に託せば良いんじゃなんかとも思った。

 でも、オールマイトにここまで言ってもらえて。

 僕なんかに大事な秘密を晒してくれて。

 断る理由なんて、あるわけないだろ!

 

 そうして僕は、オールマイトの後継になる事を決めた。

 笑顔で人々を助ける最高のヒーローになる為に、全力を尽くすと決めたんだ。

 

 けれど力を貰うっていうのは、決して生易しいもんじゃなかった。

 後継になると決めた瞬間から、僕の肉体改造、もとい特訓が始まった。

 海浜公園のゴミを引っ張って掃除する、ヒーローとしての慈善行為とトレーニングを兼ねたハードなメニューが。

 

 そうするのには理由がある。

 オールマイト曰く、「ワン・フォー・オール」は何人もの極まりし身体能力が一つに収束されたもの。

 生半可な身体だと受け取りきれず、四肢がもげ爆散してしまうらしい。

 だからこそ、身体を鍛える為のかわいがりのようなトレーニングが始まったんだけど──そこに彼女が現れた。

 

 

 

 そしてオールマイトは今、僕にしたのと同じ説明を彼女、八木さんにしている。

 まさか実の娘さんにまで秘密の事だとは思わなかったし、それに今気づいたけど、僕がオールマイトの後継になるって事は、本来の後継者と思われる八木さんを押し退ける行為だ。

 八木さんがどんな思いでおとなしく話を聞いているのか、僕には分からなかった。

 

「……なるほど。事情は分かったよ」

 

 そして説明が終わった後に言った、彼女の言葉は、

 

「まあ、知ってたけど」

 

 あまりにも予想外だった。

 

「「ええええええええええええええええええええええええ!?」」

 

 僕とオールマイトの叫び声が重なった。

 声量は圧倒的にオールマイトが上だ。

 さすがナンバーワンヒーロー!

 こんな時ですら凄い!

 

「ま、魔美ちゃん、いったい何時から……!?」

「何時からって……。よく覚えてないけど、結構昔から? ていうか、十年以上も一緒に暮らしててボロが出ない訳ないじゃん。パパおっちょこちょいなんだから。この謎は割と簡単に解き明かした覚えがあるよ」

「オーマイガー……! 親しい友人達しか知らないトップシークレットなのに……!」

 

 オールマイトが項垂れてる。

 冷蔵庫の上で。

 ……うん。

 オールマイト、まだ冷蔵庫から降りてなかったんだ。

 ……なんだろう。

 これを見ると、真面目な雰囲気なんて最初からなかったかのような錯覚に陥りそうになる。

 不思議だ。

 

「まあ、地味めの……じゃなかった。緑谷少年に託すっていう話は初耳だったけど、感想としては、ふーんって感じかな。この少年からはパパと似たような雰囲気を感じたし。意外性がない」

「えー……」

 

 八木さんには本当に、何も気にした様子がない。

 後継者問題って、そんな簡単に割りきれるようなものじゃないと思うんだけど、どうなんだろう?

 

「あ、あの!」

「うん? どうした少年?」

 

 だから僕は訪ねてしまった。

 失礼だとは思いながらも、僕の存在が彼女にどう思われてるのか、どうしても気になって。

 

「八木さんは、その、オールマイトの娘さんなんですよね?」

「そうだよー。血は繋がってないけど」

「え!?」

 

 繋がってないの!?

 さらなる衝撃の事実が発覚した!

 

「で、それがどうしたの?」

 

 そんな衝撃の事実を口にしながらも、八木さんはやっぱり何も気にした様子がない。

 だから血の繋がり云々ではなく、当初の疑問が口から出た。

 

「あの……オールマイトの後継って、本来なら僕なんかじゃなくて八木さんがやるべきだと思うんです。娘さんだし、凄い個性も持ってるし。

 それなのに、僕なんかがその座に座っちゃって、本当に良いんですか?」

 

 それは純粋な疑問だったんだと思う。

 僕からすれば八木さんは、こんな風になりたいと思い描いていたヒーローの理想像そのものだったから。

 強力な個性を持ち、圧倒的な力で悪を打ち砕き、学生時代から逸話を残す。

 それはまさしく、オールマイトの生き写しのようだった。

 そんな完璧な娘さんがいるのに、どうしてオールマイトは彼女を後継にしないのか。

 なんで彼女じゃなくて僕なのか。

 純粋に気になったんだ。

 

「あー……。まあ、私は立派なヒーローとか平和の象徴とか柄じゃないんだよ。大した正義感もないし、器じゃないのさ」

 

 八木さんのそんな言葉に、僕はどこか引っ掛かりを覚えた。

 奥歯に物が挟まったような、釈然としない何かを。

 それが言葉となる事はなかったけど。

 

「まあ、でも、私もヒーローを目指してる事に変わりはないし、君がパパの後継になるなら長い付き合いになるだろうね。改めて、これからよろしく」

 

 そう言って八木さんは手を差し出してきた。

 握手だ。

 とりあえず僕は、彼女に拒絶もされなかったし、嫌われもしなかったみたいだ。

 それに安心しながら、僕は彼女の手を握り返した。

 

 

 

 

 

 あ!

 そ、そういえば、は、初めて女子と、握手してしまった!!

 

 

 

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