小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!!   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

40 / 64
職場体験!

 ──オールマイト視点

 

 

 

「あれ? 一年の指名今頃来てますね。二名。八木さんと……緑谷くん来てますよ」

「! へえ! どれどれ……」

 

 セメントスからそう言われて、私は彼の操作していたパソコンに目を向けた。

 指名1位の魔美ちゃんに今頃指名を送りつけて来るのもそうだが、緑谷少年を指名して来たというのが一番気になった。

 なにせ後継として見いだした少年だ。

 どうしても気にかけてしまう。

 

「!? この方は……!!」

 

 そうして覗いたパソコンに表示されてたのは、予想外にしてとてつもなく見覚えのある名前だった。

 見ているだけで足が震えてくる。

 思い出すは青春の日々。

 この方に殴られ、蹴られ、ゲロにまみれた修行時代。

 あれはもうトマウマだ。

 

 それにこの方には魔美ちゃんを引き取った時にも大変お世話になっており、頭が上がらない。

 魔美ちゃんの境遇にどうしようもない憤りを感じ、思わず「私が育てる!!」と言ってしまったはいいが、当時の私はヒーロー活動も奴との対立もあってめちゃくちゃ多忙だった。

 故に、私の仕事中にあの子を預かってくれる信頼の置ける人物が必要であり、この方に随分頼ってしまったのを覚えている。

 もう足を向けて寝られないレベルだ。

 この指名を断る事など私にはできない。

 二人には悪いが……。なんとか職場体験先をこの方の所にするよう説得するしかあるまい。

 幸い魔美ちゃんはこの方になついていたし、緑谷少年にとっては唯一の指名先だ。

 断られる可能性は低い。

 

 私は急いで職員室を後にし、1年A組の教室へと向かった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡すからその中から自分で選択しろ。指名のなかった者は予めこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件、この中から選んでもらう。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なる。よく考えて選べよ」

 

 相澤先生はそう言って私にはやたら分厚いリストを渡してきた。

 この紙の束、果たして何枚あるんだろう……。

 この中から選ばなきゃいけないのかー。

 真面目に考えるのが面倒くさいなー。

 私、実戦経験は内緒の自警団(ヴィジランテ)活動で積んでるから、この職場体験で学ばなきゃいけないのは連携とか立ち回りとかの苦手な部類の体験だ。

 ひたすら面倒くさいしやりたくない。

 でも、やらなきゃいけないよなー。

 将来はパパの事務所唯一のサイドキックとして自由気ままにソロ活動するとしても、依頼とかで他の事務所のヒーローと共闘する事もあるだろうし。

 その時、連携がド下手っていうのは色々とまずい。

 

 せめてある程度気楽にやれる顔見知りからの指名とかないかなー。

 ナイトアイのおじさんとか。

 ああ、いや、駄目か。

 あの人の所行ったら他の百倍キツい事になるのが目に見えてたわ。

 そもそも私あの人に嫌われてるじゃん。

 

「魔美ちゃんやっぱり悩んでる?」

 

 そんな感じでウンウン悩んでいたら、麗日少女が話しかけてきた。

 

「悩んでるぜー。正直、顔見知りの所で楽したいっていうのが本音だよ」

「楽て……。そこは真面目に考えよう?」

 

 真面目に考えてはいるのだよ?

 ただ、職場体験自体あんまり気乗りしないだけだ。

 ヴィランと戦えるかもしれないっていうのは楽しみだけど、たぶん私が単騎で暴れられる事はないだろう。

 連携か見学かの二択だと予想する。

 そうなるとやっぱりできるだけ楽したいという方向に思考が行っちゃって……。

 

「ちなみに麗日少女は決めたのかい? 参考までに聞かせてほしいんだけど」

「ああ。うん。わかった。私は『ガンヘッド』の所行く事にしたよ!」

 

「え? バトルヒーロー『ガンヘッド』の事務所!? ゴリッゴリの武闘派じゃん!! 麗日さんがそこに!?」

「うん。指名来てた!」

 

 そこで近くで私達の話を聞いていた緑谷少年が会話に参加してきた。 

 にしても麗日少女が武闘派ヒーローの所にか……。

 意外な選択だな。

 

「てっきり13号先生のようなヒーロー目指してるのかと……」

「最終的にはね! でも、こないだの爆豪くん戦で思ったんだ。強くなればそんだけ可能性が広がる。やりたい方だけ向いてても見聞狭まる! と」

「……なるほど」

「うわー……。耳が痛いぜ」

「なんで!?」

 

 麗日少女が立派すぎて凄い耳が痛い。

 そうなんだよ。

 私は将来ヴィランをぶん殴る専門のヒーローになりたい訳だけど、ヒーローである以上それ以外の仕事だって絶対しなきやならない。

 災害救助、人質救出、その他もろもろ。

 いっそ私も楽しようとか考えないで、麗日少女みたいに苦手な方面へのチャレンジして、災害救助とかの職場行ってみようかな。

 でもなー。

 うーん。

 

 そんな感じで、麗日少女の話を参考にするつもりがますます悩むハメになり、なかなか決められずに放課後。

 提出期限は今週末。

 つまりあと2日しかないから、もうちょっと急いで考えないとなー。

 

 そう思いながら教室を出ようとした時。

 

「わわ私が!! 独特の姿勢で来た!!」

「ひゃ!?」

 

 パパがお辞儀もどきみたいな謎ポーズで現れた。

 私の前にいた緑谷少年が驚きで変な声出してたよ。

 なんか慌ててるみたいだけどどうしたんだろ?

 

「ど……どうしたんですか? そんなに慌てて……」

「ちょっとおいで。魔美ちゃんもね」

「? わかった」

 

 そんな感じでパパに廊下に連れ出された。

 なんかパパの額に大量の冷や汗が出てるんだけど。

 マジでどうしたんだろ?

 

「君達に指名が来ている!」

「え!? え!? 本当ですか!?」

「えー? そんな事?」

 

 緑谷少年にとっては衝撃の事態でも、私はもう7000件くらい指名貰ってるんだから大した話じゃない。

 でも、パパがこんな事になってるって事は、その指名してきた相手に問題があるのかね?

 

「その方の名は……『グラントリノ』。かつて雄英で一年間だけ教師をしていた私の担任だった方だ」

 

 おお!

 おじいちゃんか!

 なるほど、納得したよ。

 パパはおじいちゃんにビビってるからね。

 だから、こんな反応になってたのか。

 でも、私にとっては吉報だよ。

 最初に考えたように顔見知りの所で気楽にやれそうだ。

 

「ワン・フォー・オールの件もご存知だ。むしろその事で緑谷少年、君に声をかけたのだろう。魔美ちゃんに関してはわからないが」

「そんな凄い方が……!」

 

 緑谷少年がおじいちゃん(オールマイトの先生)という存在に興奮している。

 その興奮が恐怖に変わるまで果たしてどのくらいかかるかな。

 私は戦闘に関しては恐怖を感じないから、おじいちゃんのしごきも普通に耐えられたし怖いとは思わないけど、普通ひたすらボコボコにされたら恐怖を覚えるもんだ。

 緑谷少年も入学前に私にボコボコにされた時は一時期「女の子怖い」としか言わなくなったという前歴があるし、おじいちゃんに対してもそうなるんじゃないかな?

 

「グラントリノは先代の盟友……。とうの昔に隠居されていたのだが……。私の指導不足を見かねての指名か。……あえてかつての名を出して指名をしてきたという事は……怖ぇ怖ぇよ。震えるなこの足め!」

 

 パパがガクガクブルブルしてる。

 ほんと、おじいちゃんに対しては過剰なくらい怯えるよねパパは。

 前に会った時も土下座するくらいの勢いだったし。

 

「とにかく……。君を育てるのは本来私の責務なのだが……折角のご指名だ……。存分にしごかれてくるくく……るといィいィィ」

 

 パパの震えが止まらない。

 それを見て緑谷少年もようやく理解したようだ。

 おじいちゃんがパパにとってどれだけ恐ろしい人なのかという事を。

 

「それで、魔美ちゃんはどうしよっか? 他の指名も貰ってるし、もし嫌なら私が……い、命をかけてでも、せ、せせせ説得するがががが……!!」

「いや、行くよ。私おじいちゃん好きだし。丁度顔見知りの所でもないかなーって思ってたところだったしさ」 

 

 そう告げるとパパはあからさまにホッとした顔になった。

 ほんと、どんだけおじいちゃんが怖いんだか。

 私にとってはちょっと口が悪いだけの普通のおじいちゃんなのにね。

 不思議だ。

 

「あ! それとそうだ。緑谷少年のコスチューム! 修繕されたのが戻ってきてるぞ!」

 

 そして話は緑谷少年のコスチュームの件に移り、その後は特に何事もなく終わった。

 私は相澤先生の所に職場体験の希望先を提出した後は、パパの勤務終了時間まで適当に時間を潰し、車で帰ったのだった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 そして職場体験当日。

 今日は電車での移動だ。

 つまり公共の場だ。

 どうかマスゴミが寄って来ませんように!

 

「コスチューム持ったな。本来は公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」

「はーい!!」

「伸ばすな。『はい』だ芦戸。くれぐれも失礼のないように! じゃあ行け」

 

 そんな感じでクラスメイト諸君はそれぞれの体験先に散って行く。

 そんな中、緑谷少年と麗日少女は去って行く飯田少年の背中を見ながら心配そうな顔をしていた。

 飯田少年は身内をヴィランにやられた直後だからね。

 そりゃ心配か。

 

「飯田くん。……本当にどうしようもなくなったら言ってね。友達だろ」

 

 緑谷少年の言葉に麗日少女はコクコクと頷いていた。

 でも、一方の飯田少年は……

 

「ああ」

 

 どこか影のある顔でそう言っただけだった。

 アレはちょっと危ないかもなぁ。

 仇討ちとか考えてそうな顔だよアレは。

 でも、私が首を突っ込む事でもないか。

 気にしない事にしよう。

 

 

 

 そんな訳で、緑谷少年と共に新幹線に乗って45分。

 過疎化が進んだ寂れた街にやって来た。

 

「オールマイトすら恐れるヒーロー……。『グラントリノ』。聞いた事ない名前だけど、凄い人に違いない!」

 

 緑谷少年は来る途中で私におじいちゃんの事を聞きまくってたけど、どうせ会えばわかる事を説明するのがめんどくさかった私は、「会ってからのお楽しみだぞ」と言って煙に巻いてた。

 結果、緑谷少年は私が焦らしてると判断したのか、おじいちゃんへの期待が高まっていた。

 

「凄い人に違い……ない……」

 

 が、その高まった期待もおじいちゃんの事務所という名の廃墟一歩手前な建物を見た途端に低下してしまった。

 うん。

 前に来た時と大して変わってないね。

 より老朽化が進んだ感じはあるけど。

 

 とりあえず立ち尽くす緑谷少年を引っ張っておじいちゃんの家に入る。

 

「おじいちゃーん!! 来たよー!!」

「……雄英高校から来ましたー……。緑谷出久です……。よろしくお願いしま、ああああああああああああ!!! 死んでる!!!」

 

 玄関開けたらおじいちゃんが赤い液体の中に沈んでいた。

 その腹の下には腸のような物があった。

 確かに一見死んでるね。

 でも、大丈夫。

 

「生きとる!!」

「生きてる!!」

 

 いきなりおじいちゃんが顔を上げた。

 それによって生存確認ができて緑谷少年はホッとしてた。

 大袈裟だなぁ。

 

「……むしろ八木さんはなんで平気だったの?」

「ん? だって血の匂いがしなかったじゃん。血をぶちまけて死んでるのに血の匂いがしないなら生きてるってわかるでしょ」

「血の匂い……! 確かに……!」

 

 納得してくれたようで何より。

 

「で、おじいちゃんは何してたの?」

「いやぁあ。切ってないソーセージにケチャップぶっかけたやつを運んでたらコケたァ~~~! 誰だ君は!?」

「おじいちゃん、ちょっと会わない間にボケた? 私だよー。魔美子だよー」

「何て!?」

「だから魔美子だってばー」

「誰だ君は!?」

 

 ……あれ?

 これもしかしてマジでボケ老人にクラスチェンジしちゃったパターン?

 だとしたら介護施設の手配をしないと。

 後でパパに相談しとこっと。

 

「や……やべぇ……!!」

 

 後ろで緑谷少年が引いてた。

 まさかの展開に開いた口が塞がらない感じだ。

 私だってコレは予想外だったよ。

 

「飯が食いたい。俊典!!」

 

 それはパパの名前だねおじいちゃん。

 いくら親子でもアレと間違えられるのは女の子としてのプライドに関わるよ。

 とりあえず、このおじいちゃんの成れの果ては後で叩いて直すとして、今は注文通りご飯でも作ってあげようかね。

 

「緑谷少年。私はとりあえず冷蔵庫あさってくるから君はパパに連絡入れておいて。場合によっては老人介護施設が必要になると思うから」

「わ、わかった。す、すみません。そういう事でちょっと電話してきますね」

 

 という事で私は冷蔵庫へ、緑谷少年は外で電話してくる事になった。

 たまに思うけど、なんでこの家、玄関とキッチンが同じ場所にあるんだろうね?

 他にも結構部屋あるのに。

 

 

 

「撃ってきなさいよ! ワン・フォー・オール! どの程度扱えるのか知っときたい」

 

 

 

 その時、おじいちゃんが動いた。

 緑谷少年のコスチュームが入ったアタッシュケースを勝手に開けて中を物色してる。

 ……なんか急にいつものおじいちゃんに戻ったな。

 ボケてたのは演技だったのかね?

 これなら叩いて直す必要はないかも。

 

「や……えと……そんな事してる場あ……」

「良いコスじゃん。ホレ着て撃て! ……誰だ君は!?」

「うわああ!!」

 

 訂正。

 やっぱり後で叩いて直そう。

 それはともかく。

 

「っ~~~~……」

 

 緑谷少年がなんか焦ったような、焦燥感に駆られたような顔してる。

 どうした?

 

「僕……早く……早く力を扱えるようにならなきゃいけないんです……! オールマイトには、もう時間が残されていないから」

 

 ああ。

 そこからくる焦りか。

 確かに、パパが戦っていられる時間は残り少ない。

 今のままのペースだと私達の雄英卒業までもつかどうかってところだと思う。

 そりゃ必死にもなるか。

 

「だからこん……おじいさんに付き合ってられる時間はないんです!」

 

 それだけ言って緑谷少年は背を向けて去ろうとした。

 期待してた職場体験先にいたのがまさかのボケ老人じゃこの反応も当然かね。

 少しでも経験を積まなきゃいけない貴重な時間にボケ老人の相手はしてられないか。

 

 でも、どうやらその心配はなさそうだぜ。

 

 

 

 おじいちゃんが突然、目にも留まらぬスピードで跳びはねて、緑谷少年の上を取った。

 

 

 

「だったら尚更、撃ってこいや受精卵小僧!」

 

 

 

 そう言ってニヤリと笑うおじいちゃんの様子には、すでにボケ老人の面影は残っていなかった。

 

 それを見て私は思った。

 

 なんだ。

 やっぱり普通に元気じゃないかおじいちゃん。

 心配して損したよ。

 




まるで本当の祖父と孫娘のようだ……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。