小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
職場体験二日目。
健康優良児な私は朝4時くらいに起き、あまりにも汚いおじいちゃんの家を見かねて掃除とかしてから、朝ご飯の準備を始めた。
私の体力なら飲まず食わず眠らず休まずでも一年くらい戦い続けられるような気もするけど、人間らしい生活は大事だ。
早寝早起きは人間らしい生活の基本。
生活が乱れると破壊衝動が強くなるんだよね何故か。
まあ、私は遅く寝ても早く起きられるから夜更かしする事も多いけど。
そんな感じで、昨日買い出しの時に買ってきたエプロンを付けて、料理の時に邪魔な髪の毛をポニーテールにまとめてから朝ご飯を作っていた時、緑谷少年が深夜特訓から帰って来た。
なんかボロボロだ。
よっぽどハッスルしたと見える。
「お帰りー。緑谷少年」
「え? あ、うん。ただいま八木さん」
それだけ声をかけて料理を再開する。
そしたら今度はおじいちゃんが起きてきた。
「おはよう! そしてどうした!?」
「昨日ちょっと自主トレしてたら夢中になってしまい……」
「お前のボロ雑巾っぷりも気になるが、それよりなんか昨日より部屋が綺麗になっとる! そして良い匂いがする! なにこれ!?」
「あ! 言われてみれば!」
やっと気づいたか男共。
これだからヒーローの男というのはいけない。
生活能力のない奴が多い。
「二人共感謝しなよー。私が朝早く起きてせっせと掃除してあげたんだから。それと今朝ご飯作ってるから、ちょっと待ってて」
「なにその嫁力!」
「あ、ありがとう。そういえば八木さんって意外に料理ができたんだったね……」
意外にとはなんだ! 意外にとは!
君の修行時代もよくお弁当を作ってやっただろうが!
まあ、パパに差し入れるついでくらいの気持ちだったけどさー。
私がそんな事を思っている間に、おじいちゃんと緑谷少年は会話を進めていた。
「自主トレ、グラントリノさんに言われたこと咀嚼して実践してみたんですけど……先はめちゃくちゃ長いですね」
「初めてのチャレンジならそりゃそうだ。仕方あるまいて。ああいった発想はオールマイトからは出にくい。奴は初期から普通に扱えていた為、教育方針が違ったからな。奴は体だけは出来上がっていた」
「オールマイトの学生時代……!!」
「ひたすら実戦訓練でゲロ吐かせたったわ」
「……どこかで聞いたような話です」
そうだね。
修行時代の君に私がやった事だね。
むしろこの話を参考にしてやった事なんだから、覚えがあるのも当然だよ。
「生半可な扱いはできなかった。
おじいちゃんの盟友。
パパがお師匠って呼んでる人の事だ。
ずっと昔にヴィランに殺されちゃったっていうから会った事はないけど、何度もその人の話聞かされたなー。
パパが実の母のように慕ってたって言ってた人だから、私にとってはおばあちゃんに当たるのかもしれない。
「オールマイトの先代……お亡くなりになってたんですか?」
「んあ……?」
緑谷少年の言葉におじいちゃんがすっとんきょうな声を上げた時、ビーという玄関のチャイムを鳴らす音が聞こえてきた。
「宅配でーす。アマゾンさんからでーす」
「あ! 僕、受け取ってきます!」
料理を作りながらチラリとおじいちゃんの方を見ると、複雑そうな顔をしていた。
そういえば、パパはまだ緑谷少年にその話をしてなかったね。
私が勝手にべらべら喋るのも気が引けるから、基本的に私がこういう話を緑谷少年にする事はない。
今は亡き因縁のヴィランの事然りだ。
でも、緑谷少年はパパの後継者なんだから、伝えた方がいいような気もするよね。
まあ、そういうのはパパの仕事だから私は知らないけど。
それはそれとして、アマゾンから送られてきた荷物の正体は。
「電子レンジ……!?」
「昨日何故か壊れちゃったからな! お急ぎ便よ!」
「おじいちゃんまたボケた? 昨日自分で踏み潰してたでしょ。それはともかく、ご飯出来たよ」
そう言って私は出来上がったご飯をテーブルに並べていく。
「よし小僧! 昨日買ってきた冷凍たい焼き食うぞ! 用意だ!!」
「ええ!? 朝からたい焼きですか!?」
「俺は甘いのが好きなんだ!」
ほんとおじいちゃんはたい焼き好きね。
そんな訳で緑谷少年が冷凍たい焼きを新しい電子レンジに突っ込んで解凍する。
そしてレンジで温められるたい焼きを見ながらまた悩んだ顔してた。
考えすぎはいかんと思うけどね。
ずっと課題とにらめっこしてるだけじゃ致命的に視野が狭まるから。
そしてチーンという音が鳴り、電子レンジは仕事をまっとうした。
「うひょー! これよこれ! 時代はアツアツよ!!」
おじいちゃんがホカホカのたい焼きを見て嬉しそうに笑ってるよ。
対照的に緑谷少年は浮かない顔してるよ。
私はそれを見ながらお味噌汁を啜った。
「時間は限られてる……どうすれば……」
「浮かない顔してるな。今はとりあえずアツアツたい焼きを食って……冷たい!!!」
「え!? ウソ!? ちゃんと解凍モードでチンしたんですけど……!」
むむ。
私も後で一つくらい貰おうかと思ってたのに、解凍が上手くいかなかったのか?
電子レンジ……。
仕事まっとうできてないじゃないか。
「バッカ!! お前これでかい皿でそのまま突っ込んだな!? 無理に入れると中で回転しねぇから一部しか熱くならんのだ!! チンした事ないのか!!」
ああ。
電子レンジのせいじゃなくて緑谷少年のせいだったか。
疑ってごめんよ電子レンジ。
「あっ……! ウチの回転しないタイプだったんで……。ごめんなさ…………ハッ!!」
と、そこで何を思ったのか緑谷少年はハッとした様子で顔を上げた。
いきなりどうした?
「あああ!! わかった!! グ、グラントリノさん!! このたい焼きが僕です!!」
「違うぞ! 大丈夫か!?」
「おじいちゃんのボケが移ったか緑谷少年?」
なんか緑谷少年がいきなりとち狂った事言い出した。
認知症って移る病気だったっけ?
「あ、いや、違くて……! そのっ……わかったんです! 今まで使うって事に固執してた! 必要な時に必要な箇所にスイッチを切り替えて! それだと二手目三手目で反応に遅れが出てくる……!!」
なんか語り始めた。
それはたい焼きじゃなくて個性の話か?
たい焼きがヒントになったって事……?
「なら初めからスイッチを、全て付けておけばよかったんだ!! そうだよ……!! 八木さんだって一回だけ全身で個性を使った時があった……!! その時は普段より遥かに強かったじゃないか……!!」
それは私のディザスターモードの事か?
いくらイメージの話とはいえ、たい焼きと同列に並べられるのはもの凄く微妙な気分なんだけど。
「一部にしか伝わってなかった熱が……満遍なく伝わるイメージ……!!」
そうして緑谷少年は個性を発動させた。
今までの緑谷少年や私が使ってるような体の一部で発動する方法ではなく、私のディザスターモードと同じ全身での個性発動。
「全身……! 常時
緑谷少年の全身から緑色のスパークが迸る。
それは今までとは比べ物にならない力を彼に与えるだろう。
もしかしたら個性使ってない状態の私と身体能力では並ぶかもしれない。
「イメージが電子レンジのたい焼きて。えらい地味だがいいのかソレ」
「そこはオールマイトの……! お墨付きです……!」
そういえば、君のワン・フォー・オールに対するイメージは電子レンジの中に入れられた卵だったね。
電子レンジに縁があるな。
「その状態で動けるか?」
「わかっ……りません……!」
「試してみるか?」
「お願いします!」
ここは朝食の席だというのにすっかりやる気になってしまった男共に呆れつつも、私は料理の乗ったテーブルを部屋の隅まで持って行き、その前に陣取った。
「ここには飛んで来ないでよ! せっかく作った料理を台無しにするなら、おじいちゃんだろうと緑谷少年だろうと殴るからね!」
「う、うむ」
「わ、わかった」
私の注意を受けて冷や水をかけられたみたいになった二人だったけど、気を取り直して再開した。
「ワン・フォー・オールを全身に張り巡らせた状態。そいつを維持したまま動けりゃ、体育祭の頃のお前とは一線を画す! とりあえずは三分」
「三分……?」
「その間で俺に───一発でも入れてみな!!」
そうして戦いが始まった。
展開は昨日と同じ。
高速で動き回るおじいちゃんを緑谷少年は捉えられない。
「がっ!!」
あ。発動解けた。
ちょっと小突かれたくらいで崩れる辺り、出来たてホヤホヤって感じだね。
「情けない!! この程度反応できんなら救えるもんも救えんぜ!? これなら初めて相手した頃の小娘のがまだマシだ!!」
私が初めておじいちゃんに稽古つけてもらったのって4歳くらいの頃だっけ。
幼女に負けてるとか緑谷少年弱いなー。
「平和の象徴と呼ばれるような人間はこんな壁トトンと超えてくぞ!!」
挑発なのか激励なのかわからない事言いながらラッシュを続けるおじいちゃん。
緑谷少年はもう何発も殴られて蹴られてる。
これが訓練じゃなかったらとっくに終わってるな。
「おりゃあああ!!」
ここで緑谷少年がおかしな動きに出た。
時間稼ごうとでもしたのか、ソファーの下に飛び込んだ。
そんな、かくれんぼで一番馬鹿な奴が隠れるような場所に……。
「そこで時間を稼ぐのか!? 馬鹿な事を! 見えてるぞ! それじゃあ時間は稼げんぞ!!」
おじいちゃんがソファーに接近して蹴り飛ばそうとした。
その瞬間、下から緑谷少年が殴ったのか、おじいちゃんが蹴る前にソファーが吹っ飛んだ。
そしておじいちゃんの体勢が崩れた瞬間を狙ってたのか、緑谷少年が再び個性を全身で発動させる。
時間は稼げたらしい。
「こりゃやられた」
緑谷少年が空中のおじいちゃんに向けて拳を振るう。
「惜しい」
しかし、やっぱりおじいちゃんには通じない。
個性使った空中移動で避けられて、また緑谷少年は後ろを取られた。
「うぅしろォ!!!」
そこを振り返って反撃……と見せかけて上に飛んだ。
ほほう。
なかなかに良い動き。
「スマッシュ!!!」
そして、天井を蹴って加速し、おじいちゃんに向けて捕まえるような拳を振るった。
かなり良いタイミング。
おじいちゃんはサッと顔を背けて避けたけど、あれはカスったな。
一撃というには弱すぎるけど、当たりは当たりだ。
これは条件達成かな?
「だーーー!」
しかし、緑谷少年は着地を考えてなかったのか、そのまま落っこちて行く。
そんな体勢の崩れまくった隙をおじいちゃんが見逃す訳もなく、横からのタックルで緑谷少年を部屋の隅に向かって吹き飛ばした。
部屋の隅。
そう。私の方へ向かって。
「あ。やべ」
おじいちゃんがやっちまったみたいな顔をしたけど、もう遅い。
私は言ったよね。
ここに飛んで来るなら何人であろうとも殴ると!
「掌底!!」
「ぎゃっ!!!」
飛んで来た緑谷少年の背中を掌で撃ち抜いた。
悲鳴を上げて崩れ落ちる緑谷少年。
グーじゃなくてパーで殴ってあげただけありがたいと思いなさい。
「こ、腰が……!!」
「三分経過だ」
「くっ……そぉ……! あ! 八木さんごめん!」
「いいよ。今のはおじいちゃんの責任だし」
「うぬっ……。すまん」
「よろしい」
そして緑谷少年は腰をさすりながら悔しそうな顔をした。
「保つだけで難しい……。コレ、まだまだ……だ」
いや、初めてにしてはいい線行ってたと思うけどね。
私がディザスターモードを初めて使った時に比べれば全然マシだよ。
あの時は一瞬で暴走しかけて慌てて解除したっけ。
懐かしい。
なんにせよ見込みありと判断したのは私だけじゃなかったらしい。
「いや、分析と予測から虚をつこうという判断。普段から色々考えるタイプだな小僧」
おじいちゃんは結構機嫌が良さそうな感じでそう言った。
これは褒められてるととっていいぜ緑谷少年。
立派な進歩だ。
「よし後は慣れろ! どんどん行くぞ! の前にそういや朝飯の途中だったな」
「忘れてたの? 本当にボケないように気をつけてよね、おじいちゃん」
そんな訳でようやく朝ご飯が再開された。
緑谷少年は食事中もブツブツと言いながらノートを開いて書き込み始めたので叱った。
おじいちゃんはたい焼きを独占しようとしたから怒った。
そして食事の後は訓練再開。
おじいちゃんに言われて私も訓練に参加する事になり、おじいちゃんと交代しながら緑谷少年をボコボコにする訓練という名の拷問が開始された。
職場体験二日目はそんな感じで過ぎた。