小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
──ステイン視点
「保須市って、思いの外栄えてるな」
ワープゲートで戻って来た街を見て、何故か俺に付いて来た死柄木がさして興味もなさそうにそう言った。
数分前。
俺は確かにこの男を殺そうとした。
だが、死線を前にして本質を表したこいつを見て気が変わった。
『あんなゴミが祀り上げられてるこの社会を、目茶苦茶にブッ潰したいなぁとは思ってるよ』
傷を負い、首筋に刃を突きつけられた状態で、凶悪に嗤ったこの男。
こいつと俺の目的は対極にある。
それは決して相容れない。
俺達は最終的に必ず敵対する関係だ。
だが、ただ一点。
「
ならばそれが果たされるまでの間、一時的な同盟を結ぶ事は可能だ。
その後に待っているのは殺し合いだろうがな。
こいつの眼に宿っていた、異質ながらも強い「想い」。
歪な信念の芽。
それがどう芽吹いていくのか、少し興味が出てきたというのもある。
始末するのはそれを見届けてからでも遅くはない。
俺はそう判断した。
だが、今やるべきは未来に想いを馳せる事ではない。
俺にはまだこの街で為さねばならない事が残っている。
「この街を正す。それにはまだ犠牲がいる」
この街ではまだ偽物を一人しか粛清していない。
それでは足りないのだ。
人々の心に俺の思想を刻むには、たった一人の犠牲では軽すぎる。
今の社会を変える為には、正しき社会を作る為には、もっと多くの供物がいる。
革命の裏では多くの血が流れる。
流れた血と、その血に染まり汚れ役を担った者の存在が革命を支えるのだ。
「それが先程仰っていた『やるべき事』というやつですか?」
「
「いちいち角立てるなオィ……」
黒霧と名乗ったヴィランは死柄木に比べれば話が通じる。
もっとも、この先も死柄木に付くというのならば、いずれは粛清の対象となるだろうがな。
俺は二人に対して、あるいはこの社会全体に対して宣言するように口を開いた。
「ヒーローとは偉業を成した者にのみ許される称号! 多すぎるんだよ! 英雄気取りの拝金主義者が!」
粛清せねばならない罪深き連中が!
「この世が自ら誤りに気づくまで、俺は現れ続ける」
そう言って俺は再び街の中へ飛び込んで行った。
今日もまた果たすべき使命を全うする為に。
正しき社会の為の供物を、革命の為に必要な血を求めて。
俺は暗がりの中を走り続ける。
◆◆◆
──死柄木視点
「あれだけ偉そうに語っといてやる事は草の根運動かよ。健気で泣けちゃうね」
俺は街の中に消えて行ったヒーロー殺しの背中を見ながらイライラとした気持ちでそう吐き捨てた。
信念がどうとか偉そうに御託並べて斬りかかってきた野郎。
おかげで、あの糞餓鬼につけられた傷がようやく治ってきたってのに新しい傷が出来ちまった。
「……そう馬鹿にもできませんよ。事実、彼が現れた街は軒並み犯罪率が低下しています。ある評論家がヒーロー達の意識向上に繋がっていると分析しバッシングを受けた事もあります」
へー。
「それは素晴らしい! ヒーローが頑張って食いぶち減らすのか! ヒーロー殺しはヒーローブリーダーでもあるんだな! ……回りくどい」
どんなボランティアだよ。
草の根運動で世界を変えるってか。
回りくどい上に遠回り過ぎて目眩がしそうだ。
「やっぱ合わないんだよ根本的に。ムカツクしな。黒霧、
俺は先生から貰った三体の脳無を出すように黒霧に命じた。
あの
「俺に刃ぁ突き立ててただで済むかって話だ。ブッ壊したいならブッ壊せばいいって話。ハハ! 大暴れ競争だ」
俺はアイツが気に入らない。
だからそれをブッ壊してこい脳無。
ヒーロー殺しの信念とやらを。
涙ぐましい努力の果てに得たささやかな成果を。
奪って、壊してこい。
「あんたの面子と矜持、潰してやるぜ大先輩」
そう言って俺は脳無を街に解き放った。
思いの外栄えてる街、保須市。
その分、人も結構いる。
さあて、何人死ぬかな?
俺はワクワクとした気持ちで、観戦の為に望遠鏡を取り出した。
◆◆◆
職場体験三日目。
今日も今日とて緑谷少年をボコボコにする作業が行われた。
叩いて直すならぬ、叩いて鍛える。
刀とかもそんな感じで強くなるんだから緑谷少年だって強くなる筈だ。
実際、緑谷少年はこの三日間で劇的に強くなっている。
「ワン・フォー・オール・フルカウル」と名付けられた例の個性全身発動を身につけた緑谷少年の身体能力は、個性を使ってない状態の私とほぼ同格の域にまで昇華された。
まだ戦闘技術で圧倒的に私が勝ってるから一方的に叩きのめせるけど、もう使い魔くらいなら倒せるかもしれない。
使い魔は高性能だけど、私並みの戦闘技術まで持ってる訳じゃないからね。
そんな感じで適度な休憩を挟みながら私とおじいちゃんの二人で緑谷少年をボコボコにし、緑谷少年が本格的にバテて気絶したら、その空いた時間を使っておじいちゃんの為になる話(ソロヒーローとしての生き方講座)を聞いたりしてる内に時間は過ぎ去り。
現在の時刻は夕方5時。
緑谷少年はまるで暴行を受けた後のように青痣を大量に作ってひっくり返っていた。
「これ以上同じ戦法の奴らと戦うと変なクセがつくかもな」
「クセとか以前にまだまだ慣れが足りないです! もっとお願いします!」
そんな健気でマゾい事を叫ぶ緑谷少年。
一回、私にボコボコにされ続けた修行時代のトラウマが蘇って精神が不安定になってたけど、気にせず叩き続けてたら元に戻ったから何よりだった。
もしかしたら新しい扉でも開いたのかもしれない。
それはそれで問題ないね。
「いや、充分だ。フェーズ2へ行く。職場体験だ!」
そう言って私と緑谷をコスチュームに着替えさせ、おじいちゃんは外に出た。
「つーわけで、いざヴィラン退治だ!」
「おお!」
「ええ!? いきなりですか!?」
嬉しそうな声を出した私と対称的に緑谷少年は気後れしてる。
何故に?
ヒーローの職場体験って、要するにヴィラン退治を経験する為の場でしょうに。
なんで乗り気じゃないんだ?
私なんかテンションが上がって仕方ないのに!
「だぁから俺と小娘とばかり戦ってると全く違うタイプとの戦闘でつまずく! 次は色々なタイプと状況に経験を培うフェーズだ!」
「いや、でも、それなら八木さんとの訓練で充分なんじゃ……? 八木さんてやたらとできる事が多いし」
うん?
褒めてくれてありがとう。
「小娘はタイプ分けすると攻撃寄りの万能型だ。攻めて良し守って良し。近距離主体だが遠距離戦もできる。確かに一見様々なタイプを想定した練習相手には向いてるが、所詮は万能型に区分されるタイプの一人。他のタイプとは根本的な動き方からして違うわ。そもそもお前相手だと引き出しのほとんどを使う必要がないから単純な近距離格闘タイプだろうが」
おじいちゃんは理詰めで緑谷少年を追い詰めた。
そうなんだよなー。
いくら私のできる事が多いからって、本職と比べればやっぱり動き方が違うし、そもそも同じタイプだからって全員が全員同じ動きをしてくる訳じゃない。
喧嘩で強くなりたかったら場数を踏むのが一番だよ。
「……仰る事はごもっともですけど、こう突然だと心の準備が……」
「ヴィランとの戦闘は既に経験してるんだろ。だったら実戦の中でしか学べない事もあると知ってる筈だ。それに職場体験に来てるのはお前だけじゃないんだぞ小僧。小娘の事も考えろ」
「あ! ごめん八木さん……。なんか僕ばっかり見てもらってる上に自分の事だけ考えて文句まで言っちゃって……」
「いやいや別にいいって。そんな事でいちいち卑屈にならんでも」
緑谷少年は私に対して申し訳なさそうな顔をした。
さすがナンセンス界のプリンス。
ナンセンスな事でいちいち凹むね。
「それにそんなでかい
そう言っておじいちゃんはタクシーを呼んだ。
それに三人で乗り込む。
私が助手席で残り二人が後部座席に座った。
「ここいらは過疎化が進み犯罪率も低い。都市部にヒーロー事務所が多いのはそれだけ犯罪が多いからだ。人口密度が高けりゃそれだけトラブルも増える。渋谷辺りは小さなイザコザ日常茶飯事な訳よ」
「渋谷ぁ!? まさかそんなハイカラの街にコスチュームで……!?」
「ヒーロー同伴でなきゃ着られん服だろ? 最高の舞台で披露できるのを喜びんさい」
「そうだぞ緑谷少年。人の目を気にしてたらヒーロー活動なんてできないぞ。私はそれを体育祭で学んだ」
「うっ……!」
緑谷少年は私達の口撃によって沈黙した。
どうせおじいちゃんが言い出した以上、逃れられぬ強制参加の運命だ。
さっさと腹を括る事だね。
しばらくすると緑谷少年は復活したのか、おじいちゃんに質問を浴びせていた。
「ここから渋谷ってなると、甲府から新宿行き新幹線ですか?」
「うん」
「……保須市、横切るな」
ポツリと呟いた緑谷少年の言葉がちょっと気になった。
保須市?
何かあったっけ?
と、一瞬思ったけどすぐに思い出した。
飯田少年の職場体験先だ。
ついでに飯田少年のお兄さんがヴィランに襲われた場所。
仇討ち考えてんのが丸わかりだな。
そりゃ心配にもなるか。
まあ、警察やヒーローの捜索を掻い潜って逃げ続けてる凶悪犯がちょっと探したくらいで見つかるとも思えないし、杞憂に終わるとは思うけどね。
そうしてタクシーで駅まで行って、そこから新幹線に乗って都会へGO!
もう結構いい時間だ。
着く頃には夜だなこりゃ。
「着く頃には夜ですけどいいんですか?」
緑谷少年が私と同じ事思ったのか、おじいちゃんに質問した。
「夜だから良い! その方が小競り合いが増えて楽しいだろ」
「おお! 楽しそう!」
「楽しかないですけど納得です……」
緑谷少年はそれだけ言って黙り込み、スマホを弄り始めた。
ちなみに、席順は男二人が前の席。
私は一つ後ろだ。
首を乗り出して会話に参加した。
「座りスマホ!! まったく近頃の若者は!」
「おじいちゃん、駄目なのは歩きスマホだよ。座りスマホはかなり健全」
「そうか!!」
そうしておじいちゃんに突っ込みを入れている時だった。
『お客様。座席にお掴まり下さい。緊急停止します』
そんなアナウンスと共に新幹線が急に止まり、外壁を突き破ってヒーローっぽい人が車内に飛び込んできた。
何事!?
見たところ何かと交戦して吹っ飛ばされたみたいだけど、大物ヴィランでも出たの……
──そう思って見つめた先には、あの脳みそヴィランこと脳無がいた。
そいつがヒーローの頭を掴んで床に叩きつけるのを見た。
は!?
なんでこいつがこんな所に!?
見たところ、前の奴らとはデザインが違う。
前の奴らは黒い体と圧倒的な戦闘力を持ってたけど、今回の奴は白いしそんなに強い力も感じない。
使い魔が何体かいれば余裕で倒せそうなレベルに見える。
でも、その異様な外見。
脳みそを剥き出しにした姿はUSJの時に見た脳無と同じだ。
「小僧! 座ってろ!!」
そう言っておじいちゃんが脳無に突撃していくのが見えた。
私は慌ててその後を追って飛んだ。
コスチューム着てて良かった!
スムーズに翼が出せる!
そうしておじいちゃんを追っている最中、今度は街の方で大爆発が起こるのが見えた。
どうやらそれなりにでかい事件に当たっちゃったらしいね!
「おじいちゃん!!」
「小娘!! 戦闘許可だ!! お前はあっちを何とかしろ!! こいつは俺がやる!!」
「了解!!」
さすがおじいちゃん!
わかってるね!
パパと違って私の戦闘力をしっかりと評価して戦う許可を出してくれた。
パパは私が強くても守ろうとするけど、おじいちゃんは一緒に戦おうとしてくれる。
どっちも嬉しいけど、私としてはおじいちゃんの選択の方が好みだ。
私は戦わなければ生きていけないからね。
さて。
本来なら資格未取得者である私がヴィラン相手とはいえ個性使って危害を加えるのはUSJの時みたいな例外を除いて禁止されてるけど、保護責任者に許可されたのなら話は別だ。
存分に暴れられる!
覚悟しておけヴィラン共!!
私が行くぞ!!
そうして、突然巻き起こった大事件。
後に保須市襲撃事件と名付けられた大騒動が始まった。
ついに始まったぜ……! 保須市襲撃事件。