小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
──飯田視点
僕は職場体験先を兄さんが襲われた街、保須市にあるヒーロー事務所に決めた。
どうしても動かずにはいられなかった。
ヒーロー殺しは神出鬼没。
捜索のノウハウもない一学生でしかない僕が探したところで見つかる可能性は低い。
それでも僕は保須に来た。
どうしても動かずにはいられなかったんだ。
『私怨で動くのはやめた方がいいよ。我々ヒーローに逮捕や刑罰を行使する権限はない。ヒーロー活動が私刑となってはいけない。もしそう捉えられれば、ソレはとても重い罪となる』
『あ! いや! ヒーロー殺しに罪がないとかじゃなくてね! 君、真面目そうだからさ! 視野がガーッとなっちゃってそうで、案じた!』
職場体験先のプロヒーロー『マニュアル』さんにもそう言われて忠告された。
しかし……!
だが、しかし……!
この気持ちをどうしたらいい!?
そんな暗く淀んだ気持ちを抱えながらマニュアルさんに連れられてパトロールをしていた時、街のどこかから爆発音が聞こえてきた。
断続的に聞こえてくる破壊音。
これは事故ではなく、ヴィランが暴れているという可能性が高い。
「マジかよ……! このご時世に馬鹿だな! 天哉くん! 現場行く! 走るよ!」
そんなマニュアルさんの言葉が耳を素通りした。
聞いてしまったのだ。
見てしまったのだ。
探していた奴と思わしき者の声を。姿を。
「騒々しい。阿呆が出たか? 後で始末してやる。ただ今は、俺が為すべき事を為す」
「身体が……動かね……クソ野郎が……!! 死ね……!!」
「ヒーローを名乗るなら死に際の台詞は選べ」
そいつは路地裏でヒーローと思わしき人を手に持った刀で殺害しようとしていた。
それを発見した瞬間、体が勝手に動いていた。
奴に飛びかかっていた。
「ぐっ……!」
そしていとも容易く迎撃された。
攻撃を防いでくれたコスチュームのヘルメットと眼鏡が外れて地面に転がる。
「スーツを着た子供? 何者だ」
その姿を明確に確認して、目の前が真っ赤に染まった。
「消えろ。子供の立ち入っていい領域じゃない」
「血のように紅い巻物と全身に携帯した刃物。ヒーロー殺しステインだな!! そうだな!?」
奴の言葉など耳に入らない。
僕は感情のままに叫んだ。
「お前を追って来た!! まさかこんなに早く見つかるとはな!! 僕は……」
突然目の前に刀を突きつけられ、反射的な恐怖から一瞬思考が止まった。
「その目は仇討ちか。言葉には気を付けろ。場合によっては子供でも標的になる」
なんだそれは?
「標的ですら……ないと言っているのか」
ふざけるな!!
「では聞け犯罪者!! 僕は……! お前にやられたヒーローの弟だ!! 最高に立派な
病院で兄さんに言われた言葉が脳裏に蘇る。
『足の感覚が全くねぇんだ……。ヒーロー……インゲニウムは多分……ここで……お終まいだ』
もうヒーロー活動は叶わないと宣告された兄さんに言われた言葉。
『だからさ……お前が良いなら……この名……受け取ってくんねぇか』
今まではその名を継ぐ決心がつかなかった。
だが、今その覚悟ができた。
「僕の名を生涯忘れるな!! 『インゲニウム』!! お前を倒すヒーローの名だ!!」
兄さんの名も、想いも継いで、僕がお前を倒す!!
「そうか。───死ね」
そう誓った僕をヒーロー殺しは冷たい殺意の宿った眼で見つめていた。
◆◆◆
おじいちゃんに戦闘許可をもらった私は爆発音のした場所に向かって猛スピードで飛翔した。
その途中で使い魔を召喚しておく。
さっき脳無が出てきたって事は、この先で暴れてるのも多分脳無だ。
それがさっきの奴と同レベルなら瞬殺できる自信があるけど、USJの時みたいな強いのがいたらさすがに倒すのに時間がかかると思う。
ディザスターモード使えば話は別だけど、あれは一応禁じ手だからそうポンポン使うつもりはないし。
そうなると私が心置きなく戦う為に市民の盾となる存在が必要になってくる。
そこで使い魔の出番だ。
こういう時は本当に便利ね。
今回召喚したのは三十体。
市民の盾にするだけならそのくらいの強さで充分だし、三十体もいればカバーできる範囲も広い。
それに現場には他のヒーローもいる筈。
これくらいの戦力があれば、たとえ脳無が複数いても大丈夫だと思うよ。
そうしてたどり着いた事件現場。
そこでは二体の脳無が暴れてヒーロー達と交戦していた。
翼が生えた奴と、黒くてムキムキな奴だ。
黒い方はUSJの時に見た奴とよく似てる。
でも、さすがにあの時の奴ほど強そうな感じはしないな。
それでもヒーロー達は大苦戦してる。
やっぱり弱い脳無でも並みのプロヒーローよりは遥かに強いのね。
とりあえず使い魔達に指示を出した。
二十体を交戦領域を中心にして円を描くように展開させてこれ以上被害を拡大させない為の盾に。
残り十体は劣勢のヒーロー達を守るように指示した。
そして私自身も動く。
戦いの定石は弱い方を先に潰して敵の数を減らす事。
という訳で、降下と同時にまずは翼の生えた脳無に狙いを定めて攻撃を食らわせた。
「ギロチン・スマッシュ!!!」
体育祭でも使った、高速回転しながら放つ超威力のかかと落としが翼の脳無に炸裂した。
人目のある場所で殺しはしたくないからそこそこ手加減したけど、それでも大怪我くらいはさせちゃってもいいやという気持ちで放ったギロチン・スマッシュは翼の脳無の脳天に直撃し、地面に叩き落とした。
翼の脳無が落ちた場所は落下の衝撃で地面が凹み、その中心にいる翼の脳無はピクリとも動かない。
USJの時の奴みたいに突如復活しそうな気配もない。
成敗!!
そして仲間がやられた事に気づいたからか、それとも新しい敵の出現に反応しただけか、今度は黒い方の脳無が私に襲いかかってきた。
私はそれを拳で迎撃する。
右脚の個性を解除して右腕の個性を解放。
悪魔の右腕で脳無を殴った。
「デビル・スマッシュ!!!」
やっぱり、なんだかんだで使い慣れてるこの技が一番使いやすい。
高威力のわりに取り回しがきくからね。
でも、それを土手っ腹に食らった脳無は衝撃で吹き飛んだものの膝すらつかなかった。
やっぱりこっちの奴は結構強い。
当然、今の一撃も人目を気にしてミンチにしないように手加減してたんだけど、この分なら本気で殴っても死にはしなさそうだ。
良いね!
最高のサンドバッグ再びだ!
私は翼を解除して地面に降り立ち、脳無と正面から向き合った。
「き、君は……!?」
苦戦中だったヒーロー達が私と使い魔達を見て困惑とも驚愕ともつかない声を出した。
体育祭でやたらと有名になっちゃったから私の顔を知ってそうな人が多い。
だからこそ、まだ学生の私が戦ってる事に驚愕してる。
多分、心の中では強い味方が来たという気持ちと、大人として止めないきゃいけないって気持ちの両方があるんじゃないかな?
こういう時は安心させる言葉をかけるに限る。
私の顔を知ってるって事は、私が
パパの知名度と実績は娘の私に対する信頼にも繋がるくらいに大きい。
だから私はいつも通りにこう言った。
「もう大丈夫ですよ。───私が来た!!」
そして今回はこれに一味加える。
このままだとマジで私のヒーロー名が『オールマイトJr.』になっちゃいそうだから、ちゃんとした自己紹介が必要だ。
「小悪魔系ヒーロー『チャーミーデビル』見参!!」
私は目元にピースサインを添えて決めポーズをとってから脳無に突撃した。
解放している個性は右腕のみ。
でも、こいつが相手ならそれで充分。
何発か撃ち込めばそれで倒せそうだ。
行くぜ!
さっきと違って本気の一撃!!
「デビル・スマッシュ!!!」
クリーンヒット!
手応えありだ!
脳無はパンチの威力で再び吹き飛んだ。
USJの時みたいにショック吸収の個性は搭載してないみたい。
ただ代わりに超再生はちゃんと持ってるみたいで一撃では倒しきれない。
なら、距離を詰めて連擊あるのみ!
殴り続ければいつかは倒せる!
そうしてパンチで空けちゃった距離を再び詰めようと脚に力を込めた時。
「俺達も加勢するぞ!!」
そう言って周りのヒーロー達が脳無に飛びかかって行ってしまった。
ちょ!?
邪魔なんだけど!
でも、悲しいかな。
私は戦闘許可を出されただけの一学生に過ぎず、プロのヒーロー達に向かって邪魔だとか言える立場じゃない。
ヒーロー達の攻撃は脳無に毛ほども効いてないからぶっちゃけ足手まといでしかなんだけど、ここで彼らを無視して暴れたら後で色々と角が立ちそう。
それは非常にめんどくさい。
規則違反をやらかしたヘドロの時みたいな事になりそうだ。
まあ、大きな騒ぎになってたのはここだけだし、もう一体の脳無はおじいちゃんが処理してる筈だから別に時間に追われてる訳でもない。
将来必要になりそうな連携プレーの練習とでも思っておくか。
……サンドバッグを独り占めできなかったのは凄く残念だけど。
そんな感じでヒーロー達の支援という名の妨害を受けつつダラダラと戦う事数分。
やっぱり私は連携プレーが苦手だと再確認した。
未だに脳無を倒せてないのがその証拠だ。
いや、ダメージ自体は蓄積してきてるから後数分もあれば倒せるとは思うんだけど、一人だったら三十秒もあれば片がついたであろう事を考えると何とも言えぬ……。
職場体験の残りの期間でおじいちゃんに連携プレーを習おうかな。
そんな事を思っていた矢先、どこからともなく襲来した炎が脳無を燃やした。
おおう!?
この炎は!!
「ム!? 何故貴様がここにいる小娘!!」
厳つい顔に厳つい声。
轟少年のパパこと、フレイムヒーロー『エンデヴァー』がそこにいた。
めっちゃ不機嫌そうな顔で私を睨んでるよ。
「学生の貴様に戦闘行為は許されていない筈だぞ!!」
「戦闘許可ならもらいました!! 私がここにいるのは合法です!!」
「チッ!! 誰だ! そんな無責任なヒーローは!!」
おい。
ウチのおじいちゃんの悪口はやめてもらおうか。
「まあ、いい。お前が使える戦力だという事は認めてやる。だが、ここは
その上から目線がちょっと気になるけど、まあ、言ってる事自体は正論だ。
この人はナンバー2ヒーロー。
連携が苦手な私なんかよりはよっぽど上手くこの場を仕切ってくれるだろう。
……サンドバッグを譲るのはちょっと嫌だけど、ここは仕方ないか。
どうせヒーロー達の妨害のせいで気持ち良く戦えてはいなかったしね。
「代わりに貴様は
は?
何の話だ?
え? 轟少年ここに来てるの?
というかここ以外でも戦いなんて起こってたの?
私が若干混乱している中、火傷から復活した脳無が呻き声を上げながら襲いかかってきた。
「邪魔だぁ!!!」
そしてエンデヴァーさんの炎を纏った拳に迎撃されていた。
ワオ。
凄いなこの人。
増強系でもないくせして凄いパワー。
こりゃ、この脳無くらい瞬殺だな。
「どうした!! 早く行け小娘!!」
いや、そんな事言われても……。
「私、この街来たの初めてだから江向通りとか言われてもわかんないんですけど」
「……ウチの焦凍はケータイを見てから飛び出して行った。救援要請でも受けたのならば位置情報なり何なりが送られてきている筈だ」
言われてコスチュームの腰についたポーチからスマホを取り出してみると、確かに緑谷少年から位置情報だけの謎のメッセージが送られてきていた。
戦闘中だったから気づかなかったよ……。
ていうか緑谷少年なにしてんの?
おじいちゃんに座ってろって言われてたでしょ。
……いや、今はそれどころじゃないか。
「確認しました。じゃあ私は行くのでアレお願いしますね」
「フンッ! 言われるまでもないわ!!」
そうしてエンデヴァーさんにこの場を任せ、私は翼を出して飛び去った。
緑谷少年達が戦っていると思われる場所へ向かって。
そこで私は、ヒーロー殺しと呼ばれた男と対峙した。
地味にタイトル回収その2。