小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!!   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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保須市襲撃事件 パート3

 ──飯田視点

 

 

 

「なりてぇもんちゃんと見ろ!!!」

 

 助けに来てくれた轟くんに一喝されて、ハッと目が覚めるような思いがした。

 

 ヒーロー殺しに挑むも、為す術もなくいとも簡単に打ち倒され、殺されかけた時、緑谷くんが助けに来た。

 その緑谷くんが窮地に陥った時、今度は轟くんが助けに来た。

 

 そして二人は今、僕を守る為にヒーロー殺しと戦っている。

 傷つき、血を流しながら。

 あの怪物を相手に必死で戦っている。

 

 何がヒーロー……!

 

 復讐の為だけに勝手に動いて。

 その結果不様に敗れ、倒れ。

 そして友に守られて。

 血を流させて。

 こんな僕の何がヒーローだ……!

 

『あいつをまず助けろよ』

 

 殺してやると叫んだ僕にヒーロー殺しが言った言葉。

 

『自らを省みず他を救い出せ。己の為に力を振るうな。目先の憎しみに捉われ私欲(・・)を満たそうなど……ヒーローから最も遠い行いだ』

 

 ああ。そうだよ。

 お前の言う通りだヒーロー殺し。

 罪を思い知らせんが為に、復讐の為に僕は兄の名を使った。

 昔から何も変わっちゃいない。

 目の前の事だけ。

 自分の事だけしか見れちゃいない。

 

 僕は彼らとは違う。

 未熟者だ。

 足元にも及ばない。

 立派なヒーローだった兄さんとは似ても似つかない未熟者だ。

 

 それでも!!

 

 今ここで立たなきゃ!! 二度と!! もう二度と彼らに、兄さんに、追いつけなくなってしまう!!

 

「レシプロ・バースト!!!」

 

 ヒーロー殺しの個性によって封じられていた体が動いた。

 その脚で轟くんに迫った刀を蹴り砕く。

 続く二発目の蹴りでヒーロー殺しの頭部を狙う。

 それは腕を盾に防がれてしまったが、奴の武器を折り、蹴り飛ばして距離をとる事には成功した。

 

「飯田くん!!」

「解けたか。意外と大した事ねぇ個性だな」

 

「轟くんも、緑谷くんも、関係ない事で傷つけさせてしまった……。申し訳ない……」

 

 この贖罪は必ずしよう。

 

「だからもう、二人にこれ以上血を流させる訳にはいかない」

 

 僕はもう一度ヒーロー殺しに立ち向かった。

 今度は復讐の為ではなく、助けてくれた友を守る為に。

 お前を倒そう。

 兄の仇としてではなく、一人の犯罪者として。

 

「感化され、とりつくろおうとも無駄だ。人間の本質はそう易々と変わらない」

 

 ヒーロー殺しはさっきと同じ、いや、それ以上に強い殺意を持って僕を見ていた。

 

「お前は私欲を優先させる偽物にしかならない! ヒーローを歪ませる社会のガンだ! 誰かが倒さねばならないんだ!」

 

 それが奴の信念なのだろう。

 決して変わらない、決して折れない、ヒーロー殺しステインという男の芯。

 たとえ許されざる犯罪者であろうとも、その強い信念の下に放たれた言葉には、凄まじい重みがある。

 

「時代錯誤の原理主義だ。飯田。人殺しの理屈に耳貸すな」

 

 轟くんが忠告してくれる。

 だが、

 

「いや、奴の言う通りさ。僕にヒーローを名乗る資格などない」

 

 それでも。

 

「それでも……折れる訳にはいかない……! 俺が折れれば『インゲニウム』は死んでしまう」

 

「論外」

 

 そう吐き捨てて、再びヒーロー殺しが襲ってくる。

 武器が一本折れた事などお構い無しだ。

 今は緑谷くんと最初に襲われていたプロの人がヒーロー殺しの個性によって動けない。

 僕と轟くんの二人で迎撃するしかない。

 

 氷に加えて炎まで使うようになった轟くんはとても強かった。

 だが、奴はそれ以上だ。

 氷も炎も簡単にかわし、反撃に転じてくる。

 圧倒的な戦闘技術。

 まるで八木くんを相手にした時のような、覆しようがない程の力の差を感じる。

 

「馬鹿っ……!! ヒーロー殺しの狙いは俺とその白アーマーだろ! 応戦するより逃げた方がいいって!!」

「そんな隙を与えてくれそうにないんですよ。……さっきから明らかに様相が変わった。奴も焦ってる」

 

 プロの人の忠告を轟くんが拒否した。

 僕も同意見だ。

 奴は僕達を逃がすつもりがない。

 他のプロヒーローが応援に来る前に僕達を殺そうと躍起になっている。

 焦りが、奴を本気にしている。

 

「ッ!?」

 

 いかんレシプロが切れる!

 さっきの蹴りで冷却装置が故障したか……!?

 

「轟くん! 温度の調節は可能なのか!?」

炎熱(ひだり)はまだ慣れねぇ! 何でだ!?」

「俺の脚を凍らせてくれ! 排気筒は塞がずにな!」

 

 レシプロは僕の個性「エンジン」を無理矢理酷使して一時的に高速移動を可能とする技。

 その反動としてエンストを起こすが、冷却すればもう一度使えるようになる!

 

「邪魔だ」

 

 だが、こちらのやりたい事を簡単にやらせてくれる相手ではない。

 ヒーロー殺しの投擲したナイフが轟くんに迫る。

 僕はとっさに右腕を盾にして轟くんを庇った。

 ナイフの刺さった腕に激痛が走る。

 

「ぐぅ……!!」

「お前も止まれ」

 

 さらにもう一本投げられたナイフが右腕の先に突き刺さり、貫通して地面に腕を縫い付けた。

 

「飯……」

「いいから早く!!」

 

 轟くんを急かして早く脚を冷却してもらうように頼む。

 当然、その隙を見逃してくれるヒーロー殺しではない。

 ナイフを手にこちらに向かって来る。

 

「っそ!」

 

 轟くんが焦りながらも脚の冷却をしてくれた。

 それに感謝しつつ、腕に刺さったナイフを口で咥えて引き抜き、ヒーロー殺しに蹴りかかろうとした時。

 

 

 

 ───上から降ってきた闇の光線がヒーロー殺しを襲った。

 

 

 

 こ、この個性は!?

 

「本当に次から次へと……!」

 

 闇の光線をかわしたヒーロー殺しが苛立ちそうな顔で上を見上げた。

 そこには、僕を二度に渡って完膚なきまでに叩きのめした、絶対強者の姿があった。

 

「言われて来てみれば、まさかこんな事になってるとは」

 

 見た目はとても強者には見えない可憐な彼女は、悪魔のような翼をはためかせ、僕達とヒーロー殺しの間に着地した。

 

「何にせよ、もう大丈夫だ少年達よ。何故って?」

 

 彼女は、八木くんはこんな時でも自信に満ちた笑顔で、彼女の父親を彷彿とさせる人を安心させるような笑顔で、そう言った。

 

「私が来た!!」

 

 その言葉は、この絶体絶命の状況で、何よりも頼もしく聞こえた。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 エンデヴァーさんに言われて、スマホの位置情報とにらめっこしながら急行した場所。

 そこでは緑谷少年、轟少年、飯田少年と後なんか知らない人が結構な傷を負いながら一人の男と戦っていた。

 もうそれだけでどんな状況か一瞬でわかったよ。

 

 彼らと対峙している男。

 テレビのワイドショーとかで見た人相書きにそっくりで誰だか一発でわかる。

 

 ヒーロー殺し『ステイン』。

 

 パパが平和の象徴と呼ばれるようになってからの単独犯では、あの『デッドエンド』に次いで第二位の殺人数を誇る大犯罪者。

 大物ヴィランだ。

 そして飯田少年のお兄さんの仇でもある。

 死んではいないけど。

 

 そんな奴と飯田少年含む少年達が戦ってるとなったら、どんな経緯を辿ったのか手に取るようにわかるよ。

 大方、飯田少年がヒーロー殺しを見つけて後先考えずに特攻して、それを緑谷少年が見つけてSOSを出し、それを見た轟少年が駆けつけたとか、そんなところでしょ。

 もう一人の見覚えのない倒れてる人はよくわかんないけど、ヒーローっぽい格好してるし、ヒーロー殺しの標的だったんじゃないかな?

 あの人を殺ろうとしてるところを飯田少年が発見して戦闘にもつれ込んだとか。

 

 まあ、そんな考察は後でいいや。

 今はあいつを倒すのが優先。

 

「八木さん! 気をつけて!! そいつは血の経口摂取で相手の身体の自由を奪う個性を持ってる! それに肉体的な戦闘能力もかなり高い! 油断しないで!!」

「教えてくれてありがとう緑谷少年。でも君、許可なしで戦ったって事は規則違反だからね。後で大人達にたっぷり叱られてきなさい」

「うっ……! ごめん……」

 

 緑谷少年の処遇についてはおじいちゃんに任せるとして。

 個性や戦闘能力についてはワイドショーで推察されてた通りか。

 ぶっちゃけ好みのタイプじゃないなぁ。

 私は戦わないと生きていけない身体だけど、別に戦闘民族って訳じゃないから、強い敵との戦いにワクワクしたりはしない。

 私がヴィランに求める強さはサンドバッグ的な耐久力と、倒した後に爽快感を覚えるくらいの適度な戦闘力だけだ。

 

 それに対してヒーロー殺しはどうだ?

 

 いくら強いといっても頑強になる類いの個性を持ってないなら肉体的な耐久力は無個性と同じ。

 殺さないように手加減しないといけない。 

 相手の身体の自由を奪うという搦め手に近い個性の相手は疲れるから純粋にめんどくさい。

 そのくせ戦闘力は馬鹿高いとなれば倒すのに苦労しそうだ。

 主に殺さないように注意しなきゃいけないって意味で。

 

 おまけに足手まといが三人、いや四人もいるこの状況。

 うわぁ。

 めんどくせぇ。

 でも、見捨てる訳にもいかないよな。

 

「とりあえずここだと狭いし、もっと広い場所でやろうか」

「ッ!!」

 

 ヒーロー殺しにダークネス・スマッシュを再び放って表通りの方に吹き飛ばそうとした。

 拓けた場所なら翼を持つ私が絶対有利。

 見たところ、ヒーロー殺しは遠距離攻撃の手段をあんまり持ってないみたいだしね。

 

 でも、それは避けられた。

 確かに速いね。

 まるで増強系だ。

 

 でも、避けられたなら次の攻撃を当てればいい!

 右脚の個性を解放。

 個性テストの時に50メートル走を0秒台で駆け抜けた翼と片足による超速の踏み込みを使う。

 そして、そのままの勢いでヒーロー殺しを蹴り飛ばした。

 

 悪魔の脚による蹴り。

 かかと落としがギロチンならば、この蹴りもまた重量武器の一撃を思わせる破壊力。

 故にこの蹴りに付けた名前は───

 

「ハルバード・スマッシュ!!!」

 

「がっ……!?」

 

 ヒーロー殺しは圧倒的な速度の差によって避ける事もできずに私の蹴りを食らい、大通りの方にふっ飛んで行った。

 それでもちゃんとガードが間に合ってたのは凄いと思うよ。

 さすが大物。

 緑谷少年に言われた通り、油断はしない方がいいな。

 

 私は飛んで行ったヒーロー殺しを追って表通りに出た。

 そして両腕両脚に加えて翼と尻尾の個性を解放。

 ディザスターモード一歩手前の本気状態でヒーロー殺しと向き合った。

 

 さすがにこの状態だとかなり強めの破壊衝動が脳を侵食して興奮状態になっちゃうなぁ。

 でも、ディザスターモード程じゃない。

 まだ殺さないように手加減できるくらいには冷静だ。

 それでもうっかり殺しちゃう可能性も高いけど、そのくらいのリスクは負わなきゃいけない相手だと判断した。

 血を舐められたらアウトってのが怖い。

 万が一にも負ける可能性があるんだ。

 だったらこのくらいはやらなきゃいけない。

 

「ハァ……ハァ……速いな……そして強い」

 

 蹴られた勢いで向かいのビルにめり込んでいたヒーロー殺しが這い出て来た。

 ガードの上からとはいえ腕の一本くらいは今ので折ったと思ったんだけどな。

 甘かったか。

 そこそこのダメージは与えられたみたいだけど、ヒーロー殺しは健在だ。

 

「ハァ……それに油断もない。隙もない。戦闘力だけならお前も良い(・・)

 

 なんだそりゃ?

 褒めてるの?

 

「だが!! お前からはヒーローの大前提である正義感が感じられない!! (おれ)を前にして怒りもせず、義憤に駆られもしない! あの連中を助けに来たようだが俺の目は誤魔化せん! お前は奴らを心配などしていなかった! お前の眼は奴らを救うべき他者としてではなく、ただの足手まといとして見ていた! 俺を遠ざけたのも奴らを救う為ではなくお前自身が心置きなくなく戦う為! そうだろう!?」

 

 あれま。

 バレてーら。

 この短い時間でよくそこまで私の事を理解できるね。

 素直に凄いと思うよ。

 

「私が来た、だと? ふざけるな!! お前は見せかけだけオールマイト(ヒーロー)を真似た、ただの偽物!! 粛清対象だ!!」

 

 そう叫んで、ヒーロー殺しはその手にナイフを握り締め、その眼に殺意と憤怒を宿して私に向かって来た。

 

「正しき社会の為の、供物となれ!!!」

 

 向かって来る獲物を前に、私もまた脳を汚染する興奮のままに叫んでいた。

 

「だったら、せいぜい頑張ってよね!! 私に殺されないようにさぁ!!!」

 

 正しき社会を目指した悪と、暴れなければ生きていけない正義。

 後から考えても決して相容れる事はなかったであろう私達の戦いが始まった。

 

  

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