小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!!   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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保須市襲撃事件 パート4

 ヒーロー殺しと私はほぼ同時に相手に向かって突撃した。

 スピードの差で私の攻撃の方が先に届く。

 ヒーロー殺しのナイフを手にした腕を粉砕するつもりで拳を振るう。

 狙い通り、私の拳はヒーロー殺しの右腕を粉砕し、手にしていたナイフはひしゃげながら宙を舞った。

 

「!?」

 

 しかし、ヒーロー殺しはそれにまるで頓着せずに左手で私の眼球を狙って目潰しを繰り出してきた。

 再生持ちでもないくせに、自分の体が壊されてもお構いなしとか……!

 イカれてるな!

 

 私は首を横に倒して目潰しを回避し、お返しに今度は右脚でヒーロー殺しの脇腹を蹴り飛ばした。

 肋骨をへし折ったという確かな手応え、いや、足応えがあった。

 その蹴りの勢いでヒーロー殺しは横に飛んで行く。

 しかし、すぐに体勢を立て直して狂気的な形相を浮かべながら再度私に突進して来た。

 手負いの獣が一番怖いな……!

 

「正さねば……!」

 

 今度は右拳で迎撃するも、ヒーロー殺しは超人的な反射神経で私のパンチを避け、そのまま首筋に噛みつこうとしてきた。

 私はそれを頭突きで阻止。

 脳を揺らされて動きが止まったヒーロー殺しに左のボディブローを炸裂させ、またふっ飛ばした。

 脳と内臓にかなりのダメージが入った筈だ。

 

「誰かが……血に染まらねば……!!」

 

 それでもヒーロー殺しは向かって来た。

 マジかよ……!

 すでに身体はボロボロの筈だ。

 今まで食らわせた攻撃の数々。

 殺さないように手加減はしたけど、それでも大怪我くらいは負わせるつもりで放った。

 右腕は砕け、あばらは折れ、内臓はボロボロ。

 頭蓋はひび割れて脳も揺れてる。

 もう戦えるような身体じゃない。

 いったい何がこいつをそこまで駆り立てる?

 

「ヒーローを……取り戻さねば……!!!」

 

 もういいよ。

 ヒーロー殺し。

 

 もういいから。

 早く眠れ。

 

 私はわざと隙を作って、ヒーロー殺しが手にした最後の武器である小さなナイフを胸で受け止めた。

 ヒーロー殺しは確実に心臓を貫いた手応えを覚えた筈だ。

 普通の人間ならそれで死ぬ。

 殺ったという手応えが、ヒーロー殺しの気を少しだけ緩ませた。

 人が最も油断するのは勝利を確信した時だから。

 

 私はそこに悪魔の連擊を叩き込む。

 

「レギオン・スマッシュ!!!」

 

 悪魔の両腕による連続パンチがヒーロー殺しの身体を破壊していく。

 残っていた左腕、脚、顔面、胴体。

 もう無事な場所を探す方が難しいってくらいにヒーロー殺しの身体を滅茶苦茶にした。

 

 パンチの衝撃でヒーロー殺しは吹き飛び、ビルの壁に再びめり込む。

 全治数年、いや治るかどうかすら怪しい大怪我を負わせたんだ。

 さすがにもう動けまい。

 

 私は胸に刺さったナイフを引き抜き、握り潰した。

 貫かれた心臓や皮膚が超再生で即座に治っていく。

 この程度じゃ私は死なない。

 というか、ろくなダメージにもならない。

 血は流れちゃったけど、それを舐める余裕はもうヒーロー殺しにはないでしょ。

 

 そう思っていた。

 侮っていた。

 私はヒーロー殺しという男を、その執念を甘く見ていたんだと思い知らされた。

 

「正……さ……ね……ば……!!!」

 

 ビルにめり込んでいた筈のヒーロー殺しが地を這う獣のような動きで迫っていた。

 そして地面に落ちた私の血を舐めようとしている。

 人が最も油断するのは勝利した瞬間。

 今度は私がその隙を突かれた。

 

 私はヒーロー殺しをとっさに脚で蹴り飛ばした。

 反射的な迎撃が間に合った事にホッとする。

 下手したら今ので負けてた。

 

 でもそれで安心なんてできない。

 むしろ戦慄させられる。

 なんであの怪我で動けるんだこいつ!?

 ゾンビか!?

 それとも再生持ちか!?

 

 いや、そのどちらでもない。

 ヒーロー殺しの傷は確かにその身体に刻まれている。

 治ってなんてない。

 ただ、傷ついてボロボロの身体を執念だけで動かしてるんだ……!!

 

 ヒーロー殺しが立ち上がる。

 そしてフラフラとした緩慢な、幽鬼のような動きで私に向かって来た。

 壊れた身体を引き摺って。

 それでも、その眼に宿った執念を欠片も薄れさせる事なく。

 

「ヒーローを……! ヒーローを……!! ヒーローを……!!!」

 

 そんな狂気に染まったヒーロー殺しを見ている内に、破壊衝動で興奮していた筈の私の脳はすっかり冷えていた。

 いや、違う。

 個性の副作用をも上回る感情が一時的に破壊衝動を上回っただけだ。

 

 これは……恐怖?

 この私が怯えているのか?

 

 私はかなりドライな性格だ。

 表面上は怒ったり笑ったりできるけど、心の底から怒ったり泣いたりした事はほとんどない。

 自分が殺した人達に対しても、欠片ほどの罪悪感しか抱かないような薄情者だ。

 私の感情が大きく揺れる事はほとんどない。

 

 そんな私が、この男に怯えている?

 戦闘力では圧倒的に私の方が上なのに。

 私が負ける可能性は万に一つしかない筈なのに。

 相手はもう今にも倒れそうなくらい弱ってるのに。

 それでも気圧されてしまう……!

 この圧倒的な気迫に……!!

 こんなの初めての経験だ……!

 

「死ねぇええええ!!! 偽物ぉおおおお!!!」

 

 こいつは危険だ!

 なりふり構わずに排除しなければいけない!

 たとえそれで殺してしまったとしても!!

 

 私は翼を使って上に飛び上がる事でヒーロー殺しの攻撃から逃げた。

 避けたんじゃない。

 奴の攻撃が届かない空中に逃げたんだ。

 

 この私にこんな選択をとらせるなんて……。

 誇っていいよヒーロー殺し。

 あんたは紛うことなき強敵だった。

 

 だから……さっさと消えろ!!!

 私が恐怖なんかに負けて暴走してしまう前に!!!

 

「ダークネス・スマッシュ!!!」

 

 両掌を合わせ、上空から闇の破壊光線をヒーロー殺しに向けて放った。

 あの傷ついた身体では避けきれないほどの広範囲に高出力で。

 

 

 

 闇が、街の一角を消し飛ばした。

 

 

 

 地面はべっこりと凹み、腰の深さくらいの大きなクレーターが出来上がっている。

 大通りとしての面影はもうない。

 けど、ビルや緑谷少年達がギリギリ巻き込まれてないのは最後の理性が仕事をしてくれたからか。

 

 何にせよ、これで終わりだ。

 すでに瀕死の重傷を負っていたところにオーバーキルってくらいのトドメの一撃を放ったんだから。

 普段ヴィランに対して使う「大怪我させちゃっても良いやレベル」じゃなく「殺しちゃっても仕方ないやレベル」の攻撃を。

 「絶対に殺してやるレベル」を使わなかっただけ多少は冷静だったと思いたいね。

 どっちにしろあの大怪我でこの攻撃を受けたんだから多分殺しちゃったと思うけど、正当防衛的な仕方のなかった死という事でなんとか納得させな……い……と……

 

 ……嘘だろ?

 

「ハァ……ハァ……ハァ……!!」

 

 クレーターの中心で、ヒーロー殺しがゆっくりと立ち上がるのが見えた。

 あり得ない……!

 身体はもうボロボロを通り越して生きてるのがおかしいってレベルでぶっ壊れてる筈なのに……!

 それでもヒーロー殺しは、しっかりと二本の足で立っていた。

 そして焦点の合わない目で、私を睨んでいた。

 

 肌が粟立つ。

 心が折れる程の恐怖じゃない。

 トラウマになるレベルの恐怖でもない。

 でも、それは確かに、私の動きを一瞬止めてしまうような明確な恐怖だった。

 

「なんだ!? この状況は!?」

「あの小娘の仕業か? 盛大に暴れてくれたようだな」

 

 そのタイミングでこの場に援軍が駆けつけた。

 おじいちゃんとエンデヴァーさんだ。

 その他にも何人かのヒーローがエンデヴァーさんに連れられている。

 ……ぶっちゃけかなり遅い到着だよ。

 もう色々と手遅れだぜ。

 

「して、あの男はまさかの」

 

 エンデヴァーさんの視線がクレーターの中心にいるヒーロー殺しに向けられた。

 獲物を前にした肉食獣みたいな顔してるよこの人。

 

「ヒーロー殺し!!」

 

 エンデヴァーさんは嬉しそうに炎を放出して戦闘態勢に入った。

 そうして今度は、エンデヴァーさんにヒーロー殺しの視線が向けられる。

 

「エンデヴァー……!」

 

 ぞっとするような目でヒーロー殺しはエンデヴァーさんを見た。

 うわ。

 夢に出そうな顔だ。

 

「待て轟!!」

 

 不穏な気配を察したのか、おじいちゃんが大声を出してエンデヴァーさんを止めた。

 

 

 

「偽物……!!」

 

 

 

 そしてヒーロー殺しは、クレーターの中心からゆっくりと、一歩ずつ、エンデヴァーさんに向かって歩みを進める。

 

 

 

「正さねば……!!」

 

 

 

 鬼気迫るような凄まじい気迫。

 

 

 

「誰かが……血に染まらねば……!!」

 

 

 

 ヒーロー殺しが放つ威圧感を前に、誰一人として動けない。

 

 

 

「ヒーローを……取り戻さねば!!」

 

 

 

 また一歩、ヒーロー殺しが歩みを進める。

 

 

 

「来い!! 来てみろ偽物ども!!」

 

 

 

 化物め……!

 

 

 

「俺を殺していいのは!!! 本物のヒーロー!! オールマイトだけだ!!!」

 

 

 

 そう叫んで……ヒーロー殺しは動きを止めた。

 その眼はもう何も映していない。

 今度こそ……終わった……か?

 

「こいつ……。気を失っている」

 

 立ったまま気絶したヒーロー殺し。

 その事実を他人の口から聞く事ができて、ようやく私はホッとした。

 個性を解除し、戦闘態勢を解く。

 いつもなら余韻でもっと暴れたいって気持ちになるのに、今回はそうはならなかった。

 

 個性(悪魔)の副作用すら超える強烈なインパクトを私の中に残して、ヒーロー殺しとの戦いは終わった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 ──死柄木視点

 

 

 

「オイオイオイふざけんじゃあないよ。何瞬殺されてるあの脳無ども!! なんであの糞餓鬼がここにいる!! 言いたい事が追いつかないぜ! 滅茶苦茶だ!」

 

 俺はイライラしながら首筋をかきむしった。

 

「何で、思い通りにならない」

 

 結局、ヒーロー殺しもあの餓鬼にやられた。

 気に入らない奴だったとはいえ痛い思いしてまで手に入れた駒を簡単にとられるってのは良い気分じゃない。

 

 ニュースで見た。

 あの糞餓鬼、オールマイトの娘なんだってな。

 オールマイト。

 ここでもオールマイトか。

 心底イラつく。

 ああ。ぶっ殺したいなぁ。ぶっ壊したいなぁ。

 なのに何で思い通りにならない?

 

「帰ろ」

 

 俺は持ってた望遠鏡を個性で粉々にしながら隣の黒霧にそう言った。

 

「満足いく結果は得られましたか? 死柄木弔」

「バァカ。そりゃ明日次第だ」

 

 元々はヒーロー殺しのやった事を薄れさせて、塗り潰す為に放った脳無だ。

 脳無が暴れたって事実がヒーロー殺しの印象を薄くすれば一応目的達成。

 クエストクリアだ。

 

 でも、そうはならないような気がした。

 そんな予感がするから尚の事イラつく。

 

 そうして俺は捕まった脳無とヒーロー殺しに背を向けて、アジトへと戻った。

 




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