小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!!   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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死闘を終えて……

 保須での戦いから一夜明けて翌日。

 私はヒーロー殺しとの戦いで傷を負って入院した少年達のお見舞いに来ていた。

 おじいちゃん+その他二人と共に。

 私もヒーロー殺しに心臓をぶっ刺されるという致命傷を受けた訳だけど、いつものごとく自前の超再生で即時回復したから問題なしと。

 そもそも回復できるんじゃなきゃあんなマネしないって。

 

 それはいいとして、今回ついて来てるおじいちゃん以外の二人だ。

 一人はプロヒーローの『マニュアル』さん。

 飯田少年の職場体験先のヒーローらしい。

 ちなみに脳無が暴れるあの現場にもいたらしく、その脳無の片方をぶっ飛ばし、もう片方を倒す手伝い(・・・)をした私にお礼を言ってくれた。

 うん。

 正直プロの皆さんが足手まといでしたという本音は私の胸の内にしまっておこう。

 

 もう一人は犬、じゃなかった。

 保須警察署署長の面構(つらがまえ)犬嗣(けんじ)さんだ。

 頭部が完全に犬だから、見ただけで異形型の個性を持ってるんだなぁってわかるわ。

 この人は今回規則違反をやらかした少年達に話があるって事で来てる。

 ヘドロ事件の時に私をしこたま叱ってきた警察の人と同じ立ち位置だね。

 あの時は状況が状況だったから厳重注意で済んだんだっけ。

 懐かしい。

 

 そんな面子を引き連れて少年達の病室に入った。

 

「おお。起きてるな怪我人共!」

「やっ! 私がお見舞いに来たぞ!」

 

「グラントリノ! 八木さん!」

「マニュアルさん……」

 

 病室に居るのは緑谷少年、飯田少年、轟少年の三人。

 緑谷少年と轟少年は手足を軽く切り裂かれたりした程度の軽傷。

 飯田少年は両腕ぐっちゃぐちゃの重傷だ。

 死ななきゃ安いよね。

 いや、今回ばっかりは私の持論ってだけじゃなくてマジでそう思うよ。

 

「君達本当にアレを相手にしてよくそれだけの怪我で済んだね。命があるだけ奇跡だと思った方がいいよ」

「無傷の八木さんに言われたくないんだけど……うん。それは思った。でも多分、僕と轟くんはあえて生かされたんだと思う」

「うん? そうなの?」

 

 気になったから轟少年にも目を向けてみた。

 そしたら神妙な顔で頷かれた。

 マジか。

 あいつに辞書に手加減なんて言葉があったのか。

 私相手には死にかけてまで殺しに来たくせに。

 

「小僧、お前にはすごいグチグチ言いたい。が、その前に来客だぜ」

 

 おじいちゃんに場を譲られて面構さんが前に出た。

 

「保須警察署署長の面構犬嗣さんだ」

「面構!! しょ、署長!?」

「掛けたままで結構だワン。君達がヒーロー殺しと戦った雄英生徒だワンね」

 

 緑谷少年は面構さんの登場に面食らってる。

 わかるよ。

 顔面が犬だからって語尾がワンとか……。

 露骨過ぎて面食らうよね。

 

「ヒーロー殺しだが……。全身ぐちゃぐちゃ、生きているのが不思議なくらいの重傷で現在治療中だワン」

 

 ヒーロー殺しの話から始まって、少年達の顔が緊張で強張った。

 私は「やっちまったな! でも後悔はしていない!」そんな気持ちでそれを聞いていた。

 実際、手加減してられる相手でもなかった。

 たとえあのまま殺しちゃってヒーローになれなくなってたとしても、私はあの時の決断を後悔はしなかったと思う。

 

 なにせこの私を恐怖させた男だもん。

 戦闘で恐怖するなんて初めての経験だった。

 格上相手にした時でも、死にかけた時ですら怖いと思った事はなかったから、てっきり私にはそういう感情が欠落してるもんだと思い込んでた(・・・・・・)んだけどね。

 どうやら違ったらしい。

 

「それはヒーロー殺しを捕らえる為に必要な事だったと理解されているし、怪我を負わせたのもプロに戦闘許可を出された彼女だワン。結果としてヒーロー殺しは逮捕され君達は助かった。よってこれはあまり大きな問題ではないんだワン。……大騒ぎにはなるだろうがね」

 

 「しかし」と面構さんは続けた。

 

「君達がヒーロー殺しと交戦したというのもまた事実。資格未取得者が保護管理者の指示なく個性で危害を加えようとした事。たとえ相手がヒーロー殺しであろうとも、これは立派な規則違反だワン。

 君達三名、及びプロヒーロー、エンデヴァー、マニュアル、グラントリノ。この六名には厳正な処分が下されなければならない」

 

「待って下さいよ」

 

「轟くん……」

 

 面構さんの容赦ない言葉攻めに轟少年が噛みついた。

 だよね。

 納得できないよね。

 

「飯田が動いてなきゃネイティブさんが殺されてた。緑谷が来なけりゃ二人は殺されてた。誰もヒーロー殺しの出現に気づいてなかったんですよ。規則守って見殺しにするべきだったって!?」

 

「結果オーライであれば規則などウヤムヤで良いと?」

 

 面構さんの正論に轟少年はたじろいだ。

 

「人をっ……! 助けるのがヒーローの仕事だろ……!」

 

 それでも何とか言葉を絞り出した轟少年。

 でも、その理屈は通らない。

 だって君はまだヒーローじゃないもん。

 私だってヘドロの時にしこたま怒られたんだから。

 

「だから君は『卵』だ。まったく……。良い教育をしてるワンね。雄英もエンデヴァーも」

「ッ!! この犬……」

「やめたまえ! もっともな話だ!!」

 

 面構えさんに突っかかろうとした轟少年を飯田少年がいさめた。

 ていうか落ち着きなよ。

 これそういう話じゃないから。

 

「まあ、話は最後まで聞け」

 

 おじいちゃんに言われて轟少年はようやくちょっと落ち着いた。

 轟少年ってもうちょっとドライな感じかと思ってたけどこういう面もあるのね。

 初めて知ったわ。

 

 そして面構さんが話を再開した。

 

「以上が警察としての意見。で、処分云々はあくまで公表すればの話だワン」

 

 そ。

 今日の本題はそれなんだよ。

 

「公表すれば世間は君らを勇敢な少年達として誉め称えるかもしれないが処罰はまぬがれない。

 一方で、汚い話公表しない場合、このまま真実を闇の中に葬って最初から彼女が相手していたという事で終わらせてしまえる。

 幸い目撃者は極めて限られている。この違反はここで握り潰せるんだワン」

 

 規則違反や殺人などのヤバい行いは目撃者のいない所でやるべし。

 私の持論の一つだ。

 バレなければ犯罪じゃないとはよく言ったもんだよ。

 今回の話はそれと似たようなもんで、お巡りさんがこの違反自体をもみ消してなかった事にしてくれるって言ってるんだ。

 格別な配慮だよ。

 

「だが、君達の英断と功績も誰にも知られる事はない。どっちがいい? 一人の人間としては前途ある若者の偉大なる過ち(・・・・・・)にケチをつけたくないんだワン!」

 

 英断と功績。そしてケチか。

 結果論とはいえ彼らは人の命を救って私が到着するまでの時間を稼いだ。

 あのヒーロー殺し相手に。

 それは確かに彼らの功績だ。

 それを誉めてもらえないのはちょっと気の毒かね。

 

 ……なんか私だけ世間の称賛を受けるのが申し訳なくなってくるな。

 称賛とかいらないから私の戦闘も隠蔽してくれないだろうか?

 面構さんは大きな問題(・・・・・)じゃないとは言ったけど問題がない(・・・・・)とは言ってない訳だし。

 まあ、無理なんだけどな!

 私の戦闘は近隣住民にがっつり目撃されてるから隠蔽のしようがないんだ!

 

 路地裏から表通りに戦いの場を移したのがまずかったね。

 でも、反省も後悔もしていない!

 実際、ヒーロー殺しみたいなタイプとは狭い場所で戦うよりも開けた場所で戦った方が有利なのは事実なんだから。

 あれは必要な事だった。

 

「まあ、どの道監督不行き届きで俺らは責任取らないとだしな」

「マニュアルさん……。申し訳ございません……!」

「よし! 他人に迷惑かかる! わかったら二度とするなよ!」

 

 飯田少年は一足先にマニュアルさんに頭下げていた。

 

「……よろしくお願いします」

 

 それに倣ってか、他の二人も面構さんに頭を下げてお願いした。

 隠蔽の。

 そう言うとまるで後ろ暗い事してるみたいだね。

 いや、まるでも何もこれは後ろ暗い事だったか!

 アッハッハ!

 

「大人のズルで君達が受けていたであろう称賛の声はなくなってしまうが……。せめて。共に平和を守る人間として、ありがとう!」

 

 そう言って面構さんも頭を下げていた。

 面構さん……!

 あんた良い人だよ。

 

 

 

 こうして。

 保須の事件はその事後処理も含めて全てが終わった。

 少なくとも私達に関する事については。

 

 

 

 でも、この事件の影響。

 余波は終わるどころか社会全体に広がり、また新しい戦いの引き金となった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 ──グラントリノ視点

 

 

 

「緑谷出久! まったく! おかげで減給と半年間の教育権剥奪だ。まあ、結構な情状酌量あってのこの結果だがな。

 とりあえず体が動いちまうようなとこはお前そっくりだよ俊典(としのり)!!」

『申し訳ございません……! 私の教育が至らぬばかりで……! いやはや……』

 

 病院の公衆電話からかけた電話の相手、俊典ことオールマイトは完全にビビって萎縮した声で話していた。

 こいつは昔から変わらん。

 何を俺ごときにビビってんだか。

 

「あれなら小娘の方がよっぽどマシだぞ! 軽く見てやっただけだがちょっと会わない間に個性の扱いが随分と上手くなってやがった。副作用も含めて個性を使いこなしとる。ワン・フォー・オールに振り回される小僧とは大違いだ」

『お、おっしゃる通りです……。しかし、グラントリノは昔から魔美ちゃんに甘……』

「なんか言ったか?」

『い、いえ! 何も言っておりません!!』

 

 ったく。

 

「まあ、今回電話したのは他でもないヒーロー殺しの件だ。実際に相見えた時間は数分もないが……それでも戦慄させられた」

『グラントリノともあろう者を戦慄させるとは……。しかしもうお縄になったのに何が……』

「そんな簡単な話じゃねぇんだよ。──俺が気圧されたのは恐らく強い思想、あるいは強迫観念からくる威圧感だ。誉めそやす訳じゃねえが、俊典、お前が持つ平和の象徴観念と同質のソレだよ」

 

 たとえ間違っていようとも決して折れない強い信念を持つ男だった。

 小娘に絶対的な力の差を見せつけられ、死の寸前まで追い詰められようとも小揺るぎもせず、逆にあの小娘に恐怖を与えた程の狂気的なまでの執念。

 

 そういうのは人を惹き付ける。

 

「安い話カリスマっつー奴だ。今後取り調べが進めば奴の思想、主張がネットニュース、テレビ、雑誌、あらゆるメディアで垂れ流される。今の時代、良くも悪くも抑圧された時代だ。必ず感化される人間は現れる」

 

 ヒーローに憧れ、ヒーローを志す若者共が後を絶たないように。

 ヒーロー殺しに憧れ、悪の道を突き進むような奴が多く出てくるだろう。

 

『しかし個々で現れたところで今回のようにヒーローが……』

「そこで『ヴィラン連合』だ」

 

 甘い事をぬかす俊典に訪れるであろう嫌な未来の話をしてやる。

 

「つながりが示唆されたこの時点の連合は、雄英を襲って返り討ちにされたチーマーの集まりから、そういう思想ある集団(・・・・・・)だったと認知される。

 つまり、受け皿は整えられていた! 個々の悪意は小さくとも、一つの意志の下集まる事で何倍にも何十倍にも膨れ上がる! ハナからこの流れを想定してたとしたら敵の大将はよくやるぜ」

 

 この良いようにしてやられる感覚。

 覚えがあるだろう?

 

「着実に外堀を埋めて己の思惑通りに状況を動かそうというやり方」

『……半ば確信していましたが、やはりですか』

「ああ。俺の盟友でありお前の師、先代ワン・フォー・オール継承者『志村』を殺し、お前の腹に風穴を空けた男。『オール・フォー・ワン』が再び動き始めたとみていい」

 

 俺達にとっての因縁の相手。

 長き時を生きる史上最悪のヴィラン『オール・フォー・ワン』。

 六年前に終わった筈の因縁。

 できる事ならもう二度と聞きたくなかった名前だ。

 

「……お前の事を健気に憧れているあの子にも折を見てしっかり話しといた方がいいぞ。お前とワン・フォー・オールにまつわる全てを」

『……はい』

「それと小娘にもな。あいつはある意味、俺達以上に奴との因縁がある。奴が生きてるって話は聞かせておけ」

『……気は進みませんね』

「それでもだ。奴と再び決戦になるなら小娘の力はいる。六年前のようにな」

『……あの時の事を繰り返したくはないのですが』

「大丈夫だ。お前の娘は強い。強くなった。あの時のようにはならんさ」

『……やはりグラントリノは魔美ちゃんに甘いですね』

 

 うるさいわ。

 

『わかりました。しかと話しておきます』

「おう。任せたぞ」

 

 そう言って俺は電話を切った。

 ここから先はあいつの仕事だ。

 手助けくらいはしてやるが、後継者と娘の事は自分の手で何とかしろ。

 

 そうして俺は待合室で待たせておいた小娘の所に戻った。

 残りの職場体験期間で何を教えてやるかと考えながら。

 

 同時に、再びの決戦に向けて気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 ──死柄木視点

 

 

 

「どこもかしこも……。脳無は二の次かよ」

 

 手にした新聞にはヒーロー殺しの逮捕、そしてそれを成した話題のオールマイトJr.ことあの糞餓鬼に関する事ばかりが大々的に取り上げられ、脳無についてはオマケのように端の方に書かれているだけだった。

 

 俺は新聞をぐちゃぐちゃに握り潰した後、個性で粉々にした。

 

「忘れるどころか、俺らの方がオマケ扱いか」

 

 クエスト失敗だ。

 イライラする。

 何でだ?

 どうしてこうなる?

 

 俺とあいつの何が違う?

 俺もあいつも気に入らないモノぶっ壊してるだけだろ?

 なのに何であいつは持て囃されて、俺は見向きもされない?

 

 イラつくなぁ。

 ひたすらに気分が悪い。

 俺はガリガリと首筋をかきむしった。

 

 

 

 そして俺は少しだけ先の未来で、ヒーロー殺しの残したモノと向き合う事になる。

 

 それはただただ不愉快で、イラついて、ムカついて。

 

 

 

 だからこそ俺に必要なモノだったんだと気づいた。

 

 

 

 でも、それは。

 まだ少しだけ先の話だ。

 




ヒーロー殺し編終了!
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