小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
緑谷少年がパパの後継者、つまり弟子になってからしばらくが経ち。
私は気が向いた時に、緑谷少年のトレーニングに付き合うようになった。
今日は気分が乗ったので、緑谷少年の様子を見てこようと思う。
一旦家に帰るのが面倒だから、学校から直接行った。
制服美少女な私を拝めるなんて、さぞや眼福な事だろう。
さて、本日の緑谷少年のトレーニングメニューはウォーキングだ。
それだけ聞くと他のメニューより楽そうに聞こえるけど、当然そんな事はない。
本日のメニューはウォーキングだ。
それに間違いはない。
ただし、そこにマッスルフォームのパパをおんぶしながらという注釈が入るだけだ。
「がんばれー! 緑谷少年!」
「ふぐうううううう!!!」
美少女(私)の黄色い声援を受けて、緑谷少年は奮起した。
急に覚醒でもしたかの如く、肉体の限界を突破しながら加速し続け、ウォーキングからランニングへ。
そして光の速度に到達した!
……なんて事はもちろんなく、二、三歩歩くのが限界かなーと思ってたところを、頑張って十歩くらい歩いたけど、そこで力尽きて倒れた。
パパの全体重255キロが緑谷少年に襲いかかる。
緑谷少年は悲鳴を上げた。
「緑谷少年!?」
パパがあわてて頬っぺたをペチペチ叩くけど、反応がない。
これは完全に気絶してますわ。
よっぽど倒れ方が悪かったんかね。
「どうしよう、魔美ちゃん!! 緑谷少年が息していないんだ!!」
しばらく静観してたら、ついにパパが悲鳴を上げ始めた。
ていうか息止まったんか。
もやしだなあ、緑谷少年。
鍛え方が足りんぞ。
救急車を呼ぼうとしているパパを押し退け、緑谷少年の所へ行く。
そしておもいっきり胸を強打!
壊れたテレビだって、叩けば直るんだ。
壊れた人間だって、叩けば直るだろう。
いわゆる気付けというやつだ。
「かひゅっ!」
なんか変な呼吸音が聞こえたけど、とりあえず息は吹き返した。
息してるのなら死ぬ事はあるまい。
死ななきゃ安い。
これは真理だと思うんだ私は。
「おはよう緑谷少年」
目を覚ました緑谷少年に向かってにっこり微笑む。
たしかこの後のメニューは、このままパパを背負いながら海浜公園まで歩いた後、そのままいつものゴミ掃除だった筈。
もやしな緑谷少年からすれば、普通に拷問だろう。
だからせめて、笑顔で激励してあげるべきだ。
「引き続き頑張ってくれたまえ」
「はい……」
うむ。
よろしい。
元気はないけど返事ができるなら、まだまだ行けそうだ。
その調子で更に向こうへ!
プルスウルトラ!
「お、鬼だ……! 魔美ちゃんが教育の鬼になってしまった……! これはまさか、反抗期の前兆か……!」
パパが何やらほざいていたけど、聞かなかった事にしておいた。
◆◆◆
そうして緑谷少年によるゴミ掃除を見守ったり、組み手でボッコボコにしたり、叩いて直したり、お弁当を差し入れたりしている内に、
地獄の十ヶ月(緑谷少年にとっての)は終わりを告げ、ついに受験シーズンがやって来た。
今日は雄英高校一般入学試験当日。
今朝ついにパパから個性を譲渡された緑谷少年は、現在、雄英の正門前で固まっていた。
見るからに緊張でガッチガチになっている。
私の志望校も雄英だから試験を受けに来た訳だけど……いきなり不安になってきたな。
これ、緑谷少年大丈夫か?
落ちるんじゃね?
私の脳裏に修行期間中の緑谷少年の姿が過る。
絶対雄英に入るんだ! とキラキラした目で語っていた君はどこに行ってしまったんだ……。
希望が大きい分、絶望も大きいって言うし、
あれだけ頑張ったのに落第しちゃったら、最悪もう立ち上がれないんじゃないかな?
しかもあれだけ緊張してれば、そうなる可能性は非常に高い訳で……。
ハア。
仕方ない。
出来の悪い弟分の為にも、ここは激励の一つでもしてあげるべきかね。
「おーい! 緑谷少年──」
「どけデク!!」
「かっちゃん!?」
……なんか先を越された。
私よりも先に一人の目付きの悪い少年が緑谷少年に近づき、──そして恫喝だけして去って行った。
それによって緑谷少年はさらに萎縮してしまったようだ。
あーあー。何やってるんだか。
ていうか、今の良く見れば、ヘドロの時の不良少年じゃないか。
ここに居るって事は、あの子マジでヒーロー志望だったんだ。
緑谷少年から話は聞いてたから知ってはいたけど、正直、半信半疑だったよ。
絶対にただのチンピラだと思ってた。
と、今は不良少年より緑谷少年だ。
再び緑谷少年に目を向けた瞬間、彼は足をもつれさせてすっ転んでいた。
何やってるんだ君は。
どこまでやらかしたら気が済むんだ。
試験の前に転ぶなんて、なんとも縁起が悪い。
と思ったら、何やら緑谷少年が浮いた。
そして転ばずに着地した。
何が起こったのかと思えば、どうやらとある少女に助けられていたらしい。
浮かんだのはその子の個性か。
さすがヒーロー志望。
善人だねえ。
「おっおっ、おぉおおお」
と思ったら、今度は緑谷少年奇声を上げ始めた。
いきなりどうした。
まさか、女の子に話し掛けられて興奮したとか、そんな下らん落ちじゃあるまいな?
もしそうなら、童貞を拗らせすぎだぞ。
……とりあえず、何か悪目立ちを始めた緑谷少年に話し掛けるのも嫌になったから、このままおとなしく受験会場に行く事にした。
緑谷少年。
励ましてやる事はできなかったけど、私は影ながら君を応援しているぞ。
「あ……おはよう八木さん」
とか思ってたら、なんと受験会場で緑谷少年の隣の席になってしまった。
この席順は受験番号順だから、なにげにめっちゃ低い確率を引き当てた事になる。
緑谷少年は知り合いを見つけてホッとしたのか、少しだけ肩の力が抜けていた。
いや、まあ、それに関しては良かったんだけども……影ながらなんちゃらとか思った手前、なんか釈然としないなー。
「おい」
とか思ってたら、声をかけられた。
緑谷少年の声じゃない。
もっと低くて不機嫌そうな声だ。
声の方を見てみると、緑谷少年の隣の席(私の反対側)に不良少年の姿を発見した。
その視線がまっすぐに私の事を射ぬいている。
不良少年、君もいたんか。
奇遇やね。
私の感想はそれくらいだったけど、不良少年はそうじゃないみたいだ。
なんかめっちゃ複雑そうな顔してる。
何ぞ?
「……礼は言わねえぞ」
不良少年はそれだけ言ってそっぽを向いてしまった。
なんだったんだ?
と、一瞬思ったけど、考えてみれば私は彼の命の恩人だったという事を思い出した。
ははーん、読めたぞ。
これはお礼を言いたいけどプライドが邪魔して素直になれないという、思春期特有のあれだな。
かわいいところもあるじゃないか、不良少年。
そんな事を考えながら生暖かい目で不良少年を見ていたら、めっちゃ不機嫌そうな目で睨まれた。
こうして見ると、警戒心の高いのら猫のようだ。
怖くもなんともないぞー。
「今日は俺のライブにようこそー!! エヴィバディセイヘイ!!」
そんな茶番をやっている間に、試験の説明が始まった。
解説役の人は出だしで盛大に滑りながらも、一切めげずに説明を続けてくれた。
根性あるな、あの人。
緑谷少年曰く、あれはプロヒーローの『プレゼント・マイク』という人らしい。
覚えておこう。
そしてマイクさんに説明された試験内容はこうだ。
この後、私達は十分間の「模擬市街地演習」とやらをやる事になる。
そこには三種類の「仮想ヴィラン」役のロボットが多数配置されていて、私達はそいつらを自分のやり方で行動不能にさせればいいらしい。
仮想ヴィランには難易度ごとにポイントがあって、行動不能にするとそのポイントが貰える。
そして、最終的に獲得したポイントが多い奴らが合格だ!
でも、会場内には倒してもポイントが貰えない上にめっちゃ強い四種類目の仮想ヴィランが大暴れしてるから気をつけろよ!
試験内容をざっくり纏めるとこんな感じかね。
ゲームか!
説明の途中で眼鏡の少年が大声でマイクさんに質問を浴びせ、その後何故か緑谷少年に噛みつくというアクシデントがあったけど、説明は無事終了した。
最後にマイクさんが、
「かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!! 真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者、と!!
更に向こうへ!! プルスウルトラ!! それでは皆、良い受難を!!」
と言って締めた。
中々に良い演説だったと思うよ。
そして、それぞれの演習会場へ向かって解散。
緑谷少年とは、ここでお別れだ。
「八木さん! お互いに頑張ろうね!!」
別れ際に緑谷少年がそう言って話し掛けて来た。
うん。
そういえば、言ってなかったな。
「ああ、緑谷少年。君は頑張れよ。……でもね。君は一つ大きな勘違いをしているんだ」
「へ? 勘違い……?」
「そう。実は私は……」
そこで一旦溜めを作る。
ちょっと真剣な感じになった雰囲気に、緑谷少年が息を飲んだ。
「推薦入学者だから、既に入学は決まってるんだ」
そして言った。
緑谷少年に伝え忘れていた事を。
私の発言を聞いた緑谷少年はフリーズしてしまった。
この程度で脳の許容上限を越えてしまうとは……。
修行が足らんな。
「え? じゃあなんで一般入試に来てるの?」
なんとか再起動に成功した緑谷少年が、そんな当然の質問を投げ掛けてきた。
まあ、いろいろと事情があるんだけど、そうだな。
一言で纏めるとこうかな?
「冷やかし?」
「帰れ!!!」
おおう。
緑谷少年がキレた。
思えば、この子に怒られるのって初めてじゃね?
そんなどうでもいい事を考えながら、私は試験会場へと向かったのだった。
さて。
久しぶりに存分に暴れるとしようか。
◆◆◆
──オールマイト視点
雄英入学試験が始まる。
私は今、落ち着かない気持ちでモニター室の椅子に座っていた。
気になっているのは当然、「ワン・フォー・オール」を譲渡し、後継者として見出した緑谷少年。
そして……血の繋がらない大切な娘である魔美ちゃんの事だった。
「やあオールマイト。落ち着かない様子だね」
貧乏揺すりが止まらない私を見かねてか、校長が話し掛けてきてくれた。
この人(人じゃないが)は全ての事情を知っている。
故に、私もある程度気を許して話せる。
有り難い事だ。
もっとも、人目のある状況では、あまりぶっちゃけたトークはできないがね。
「ええ。例の少年の事もそうですが、娘の事が気になりましてね」
「ハハ、あの子は変わり者だからね。推薦入学が決まっているのに一般入試も受けたいなんて、本当に変わった子だよ」
そういう校長は言葉の上だけでなく、言葉の裏に秘められた事柄も理解していらっしゃるのだろう。
理解した上で変わり者という表現で済ませてくれている。
本当に有り難い。
魔美ちゃん。
あの子はとても良い子だ。
優しく……はあまりないかもしれんが、家で待っていてくれて、今の私でも食べられるようにご飯を作ってくれて、労ってくれる。
お師匠がそうしたように、私も家庭を持つ事など諦めていたが、あの子のおかげで温もりを感じられた。
──だが、あの子の個性には、とてつもない爆弾が眠っている。
そしてそれは封じられている今ですら、
あれはもはや呪いだ。
あの子の個性は、
それでもあの子は、その呪いの力をヒーローとして人の為に使う道を選んでくれた。
嬉しかった。
本当に嬉しかったのだ。
だからこそ私には、あの子を信じ、教え導く責任がある。
だが、信じる事と心配しない事は、決してイコールではない。
特に今回の試験は魔美ちゃんにとって相性が良い。
いや、良すぎる。
いろんな意味で。
だが、だからこそ、アクセルをかけすぎて暴走しないかとても心配なのだ。
そうして私が気を揉んでいようとも何かが変わる訳もなく。
予定通り試験は開始された。