小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
私が合宿所に着いてから待つ事、実に約8時間。
もうすぐ日が沈む夕方になって、ようやく満身創痍のクラスメイト諸君が現れた。
遅いわ!
「やーっと来たにゃん」
そんな年齢を考えるとキツい感じの語尾で言うピクシーボブに同意だ。
すると私の内心を敏感に察知したのか、ピクシーボブが殺気を伴った視線で睨みつけてきた。
なんという勘の鋭さ……!
私は何も考えてませんともお姉様!!
幸い物的証拠は何もなかったので、ピクシーボブの視線はすぐに私から離れてクラスメイト諸君に向かった。
た、助かった……。
「とりあえずお昼は抜くまでもなかったねぇ」
そういえば12時半までに辿り着けなかったらお昼抜きって言ってたっけ。
只今の時刻PM5:20。
まさかの五時間オーバー。
これはクラスメイト諸君が情けなかったんじゃなくて採点基準が厳し過ぎただけだ。
待ってる間にこの課題を出した当人達から聞いた。
「何が二時間ちょっとですか……」
「腹減った……。死ぬ……」
「悪いね。私達ならって意味アレ」
これである。
実に良い性格してらっしゃる。
「まあ、私は3分くらいだったけどな」
「そりゃ、飛べるもんなお前!!」
「魔美ちゃんの裏切り者ォ!!」
「お昼ご飯美味しかったぜ!」
「「「「腹立つ!!!」」」」
あらら。
クラスメイト諸君の反感を買ってしまった。
でも、代わりに晩御飯の手伝いとかしたし、それでチャラって事で。
「ねこねこねこ。この規格外はともかくとして、正直もっとかかると思ってた。私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。良いよ君ら。──特にそこ四人。躊躇のなさは経験値によるものかしらん?」
そう言ってピクシーボブは緑谷少年、爆豪少年、轟少年、飯田少年の四人を指差した。
この四人はUSJ、ヒーロー殺し、ヘドロと特に修羅場慣れしてる面子だ。
それを見抜くとはやるねお姉様。
「三年後が楽しみ! ツバつけとこーー!! プッ! プッ!」
「うわっ!」
そうしてピクシーボブは少年達にツバをつけ始めた。
物理的に。
ツバが飛んでとても汚い。
ああいう大人にはなりたくないな。
「マンダレイ……あの人あんなでしたっけ?」
「彼女焦ってるの。適齢期的なアレで」
そういえば相澤先生はまだ聞いてなかったっけ。
ピクシーボブがこの有り様になってる理由を。
結婚したくてもできないアラサーって大変だよねぇ……。
「適齢期と言えば……」
「と言えばて!!」
緑谷少年がまた地雷踏んでピクシーボブにどつかれてた。
学ばないなー。
「あの、ずっと気になってたんですが……。その子はどなたかのお子さんですか?」
……緑谷少年。
君は地雷を踏み抜く才能でもあるのか?
その子は私が意図的に放置してた子だぞ。
「ああ違う。この子は私の甥だよ。
マンダレイの言葉に対して洸太少年は不機嫌そうな顔になるばかり。
そんな将来は立派な不良に育ちそうな少年に向かって、緑谷少年は果敢にアタックした。
「あ、えと、僕、雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」
緑谷少年の挨拶に対する洸太少年の返答は拳であった。
それもただの拳ではない。
的確に男性特有の人体急所を狙った一撃!
要するに金的である。
「きゅう……」
「緑谷くん!? おのれ甥!! よくも緑谷くんの陰嚢を!!」
「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねぇよ」
「つるむ!? いくつだ君!!」
あーあー。
あんなに幼いのに、まるで爆豪少年のような目付きで睨み付けおってからに。
そんなんじゃ、ろくな大人になれないぞ。
「マセガキ」
「よりによって君が言うか爆豪少年」
「確かに。お前に似てねぇか爆豪?」
「あ? 似てねぇよ!! つーかてめぇら喋ってんじゃねぇぞ舐めプ野郎共!!!」
「悪い」
「あー。こっちの方が重症だ」
「黙れクソ女!!!」
「おい。茶番はいい。バスから荷物降ろせ」
そんな相澤先生の言葉によって、私と轟少年に噛みついてきた爆豪少年はおとなしくなった。
洸太少年と同レベルの目付きの悪さで睨んできたけど。
やっぱり、そっくりじゃないか。
「部屋に荷物を運んだら食堂にて夕食。その後入浴で就寝だ。本格的なスタートは明日からだ。さあ早くしろ」
そんな爆豪少年を無視して相澤先生はクラスメイト諸君を急かす。
私はとっくの昔に荷物を運び終わってるから食堂に直行して料理並べるのを手伝ったりした。
そうしてる内にお腹を空かせたクラスメイト諸君がやって来て、賑やかな食事が始まった。
「魚も肉も野菜も贅沢だぜぇ!!」
「美味しい!! 米美味しい!!」
「五臓六腑に染み渡る!! ランチラッシュに匹敵する粒立ち!! いつまででも噛んでいたい!!」
「ハッ! 土鍋……!」
「土鍋ですか!?」
「うん。つーか腹減りすぎて変なテンションなってんね」
お昼抜きで魔獣の森とやらを抜けて来たクラスメイト諸君は、ひたすら掻き込むように食べまくっていた。
あれだけあった料理がどんどん消えていく。
育ち盛りの空腹とは恐ろしいな……。
胃のほとんどを失ったパパとは比べ物にならない食欲だ。
「というか。君らこの子にも感謝しなよ。暇って事で結構料理も手伝ってくれたんだから」
「「「「ありがとうございます八木様!!!」」」」
「どういたしまして」
どうやらクラスメイト諸君の好感度は大分回復したようだ。
一度置いてきぼりにしてから晩御飯という救いの手を差しのべる。
なんだかマッチポンプのような所業だけど、様付けされるくらい好感度が上がったし、まあ、良いや。
そして食事が終わり、次は入浴の時間だ。
ここで忘れてはならない事は二つ。
一つは男子と入浴時間が同じであるという事。
もう一つは男子の中に嬉々として覗きをするだろう色欲の化身がいるという事だ。
つまり信頼のおけるボディガードがいる。
私の個性には、こんな時の為の便利な機能があるじゃありませんか。
「サモンゲート!」
という訳で、使い魔を十体程召喚して女湯の警備に当てた。
覗きをするような不届き者がいたら躊躇なく抹殺せよという命令を下しておく。
良し。
これで安心して温泉を堪能できる。
私は他の女子の諸君と共に、一日の疲れを取るべく湯船に浸かった。
ぶっちゃけほとんど疲れてなんていないけど、そこは言葉のあやというやつだ。
でも、一応いつでもダークネス・スマッシュを撃てるように、最低限の警戒はしておいた。
◆◆◆
──緑谷視点
「壁とは越える為にある!! プルスウルトラ!!!」
「速っ!! 校訓を汚すんじゃないよ!!」
八木さんの使い魔という鉄壁の守りがあるにも関わらず、峰田くんは覗きを強行した。
個性を上手く使って女湯との間の壁を登って行った。
USJと体育祭で見たんだから、使い魔の強さは身に染みてわかってる筈なのに……。
色欲ってここまで人を突き動かすものなんだ。
案の定、峰田くんは使い魔達に本気で殴られそうになったけど、執念の成せる技なのか、ゴキブリのような動きで何度か回避してひたすらに女湯を目指していた。
凄い執念だけど、それをもっと別の事に使えなかったのかな?
でも、その快進撃(?)も伏兵のように壁の上に現れた洸太くんによって阻止された。
「ヒーロー以前に人としてのあれこれから学び直せ」
「くそガキィイイイイイイ!!!」
洸太くんに突き落とされて峰田くんが落ちて来る。
空中で身動きの取れないところを使い魔達に寄ってたかってボコボコにされていた。
やりすぎなんじゃ……と思うけど、自業自得には違いないし、怒れる八木さんに逆らったら後が怖いから見て見ぬふりをする。
……なんだかヒーローを目指す者として、とても悪い事をしてる気分になった。
「わっ……! あ……」
でも今度は女湯の方に振り向いてた洸太くんがバランスを崩して壁の上から落っこちた。
僕は慌ててフルカウルを使って、洸太くんが地面に激突する前に受け止めた。
なんだか気絶してるように見える。
もしかして、どこか打った!?
僕は急いで温泉から出てマンダレイの所に洸太くんを運んだ。
背後から聞こえてくる峰田くんの断末魔には耳をふさぎながら……。
「落下の恐怖で失神しちゃっただけだね。ありがとう。イレイザーから、一人色欲の権化がいるって聞いてたから見張ってもらってたんだけど……。最近の女の子って発育良いからねぇ」
「とにかく何にもなくて良かった……」
「よっぽど慌ててくれたんだね」
マンダレイに見てもらって、特に外傷とかもない事がわかった洸太くんは今ソファーに寝かされている。
とりあえず何事もなくて安心した。
温泉騒動での怪我人なんて一人で充分だ。
『ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねぇよ』
安心したら一つの疑問がわいてきた。
さっき洸太くんに言われた言葉が脳裏に蘇る。
まるでかっちゃんみたいな鋭い目付きも。
「洸太くんは……ヒーローに否定的なんですね」
「ん?」
僕が子供の頃はただヒーローに憧れてた。
かっこいいって思って、自分もヒーローになりたいって思ってた。
無個性の僕でもそうなんだ。
周りのちゃんとした個性を持った人達は大体がヒーローを目指してた。
かっちゃんもその一人だ。
「僕の周りは昔からヒーローになりたいって人ばかりで……あ、僕も……で、この歳の子がそんな風なの珍しいな……って思って」
「……そうだね。当然世間じゃヒーローを良く思わない人も沢山いるけど……。普通に育ってればこの子もヒーローに憧れてたんじゃないかな」
「普通……?」
「マンダレイのいとこ、洸太の両親ね。ヒーローだったけど殉職しちゃったんだよ」
「え……」
飲み物を持ってきてくれたピクシーボブから語られた衝撃の言葉。
そこでようやく僕は、とても深い場所まで踏み込んだ話をしていると気づいた。
「二年前……。ヴィランから市民を守ってね。ヒーローとしてはこれ以上ない程に立派な最期だし、名誉ある死だった。……でも、物心ついたばかりの子供にはそんな事わからない。親が世界の全てだもんね。……自分を置いて行ってしまったのに世間はそれを良い事、素晴らしい事と誉め称え続けたのさ」
洸太くんを看病しながらそう語ったマンダレイの横顔は、ひどく悲しそうだった。
「私らの事も良く思ってないみたい。けれど他に身寄りもないから従ってるって感じ。……洸太にとってヒーローは、理解できない気持ち悪い人種なんだよ」
……僕らとは経験してきた事が違う。
とても無責任で他人事な言い方になるけど、色々な考えの人がいる。
『救えなかった人間などいなかったかのように、ヘラヘラ笑ってるからだよなぁ』
ショッピングモールで再会したヴィラン、死柄木の言葉が蘇る。
あいつも違う考え方を、違う価値観を持った奴だった。
いや、死柄木だけじゃない。
ヒーロー殺しだってそうだった。
立て続けに続く価値観の相違に、僕は何も言えなかった。
◆◆◆
一夜明けて翌日。
合宿二日目の朝。
只今の時刻AM5:30。
一般的に早起きと呼ばれる時間帯だ。
私は眠そうなクラスメイト諸君と共に合宿所の外に出ていた。
約一名、まるで殴る蹴るの暴行を受けたかのように顔面が腫れ上がってるのがいるけど些細な問題だ。
自業自得。
むしろ、その程度で済んだ事に感謝せよ。
「おはよう諸君。本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は全員の強化、及び、それによる仮免の取得。具体的になりつつある敵意に立ち向かう為の準備だ。心して望むように」
おお!
仮免か!
あれがあれば私の目的である合法的に暴力を振るう事が許可される。
仮免を取得した段階で、私がヒーローを目指す目的の半分以上が達成される訳だ。
これは嫌でも気合いが入るぜ!
「という訳で爆豪。こいつを投げてみろ」
そう言って相澤先生が爆豪少年に放ったのは、どこかで見覚えのあるボールだった。
「これ……体力テストの」
「前回の、入学直後の記録は705.2メートル。どんだけ伸びてるかな」
「おお! 成長具合か!」
「この三ヶ月、色々濃かったからな! 一キロとかいくんじゃねぇの!?」
「いったれバクゴー!」
一瞬、それって私の仕事じゃね? と思ったけど、私が投げたらどうせまた計測不能が出るだけだと思い直した。
それじゃ成長具合なんてわかったもんじゃない。
「んじゃ、よっこら───くたばれ!!!」
私が内心で自分の成長について考えている間に、爆豪少年は体力テストの時もやったように爆風でボールをかっ飛ばした。
「709.6メートル」
「あれ……? 思ったより……」
しかし、結果は前とさして変わらず。
クラスメイト諸君は思ってたのと違う結果に首を傾げてるけど、まあ、こんなもんでしょ。
そう簡単に個性は成長しないさ。
してたら、今頃私の個性はヤバい事になってる、
「約三ヶ月。様々な経験を経て確かに君らは成長している。だが、それはあくまでも精神面や技術面、あとは多少の体力的な成長がメインで、個性そのものは今見た通りでそこまで成長していない。───だから、今日から君らの個性を伸ばす。死ぬ程キツイが、くれぐれも死なないように」
嗜虐的に笑いながら告げられた相澤先生の言葉によって、地獄の強化合宿が幕を開けた。
さて。
私も頑張りますか。
いつかオール・フォー・ワンを相手にするなら、力は少しでも必要だしね。
……でも、私の個性ってこれ以上成長するんだろうか?
成長したらしたで、色々とヤバくない?
そんな一抹の不安を覚えながらも、特訓は開始されたのだった。