小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
合宿三日目。
今日も今日とて、続・個性を伸ばす訓練の時間だ!
要するに昨日と同じ地獄絵図である。
「補習組。動き止まってるぞ」
「オッス……!!」
「すいません……。ちょっと眠くて……」
「昨日の補習が……」
「だから言ったろ。キツイって」
昨日ちょっとネットサーフィンに夢中になって夜更かししてしまった私は知っている。
補習組の一人である芦戸少女が部屋に戻って来たのは、草木も眠る丑三つ時。深夜の2時くらいだったという事を。
今日の起床時間が7時だから、約5時間しか寝れてない計算になる。
普段の生活ならそこまで問題はないだろうけど、この合宿の拷問のようなスケジュールをこなすのに睡眠時間5時間は辛いだろう。
「青山、上鳴は
そんな補習組に対して、相澤先生は容赦なかった。
南無。
せめて君達が本格的にくたばらないように祈っといてあげるよ。
「他の連中も気を抜くなよ。ダラダラやるな。何をするにも原点を常に意識しとけ。向上ってのはそういうもんだ。何の為に汗かいて、何の為にこうしてグチグチ言われるか。常に頭に置いておけ」
……原点か。
私は昨日と同じくパンチングマシンを破壊しながら考える。
私がヒーローを目指したのは、個性の副作用である破壊衝動を何とか消化する為に合法的に暴れられる資格が必要だったから。
つまり必要に駆られたからだ。
私が法律を犯さずに生きられる道はヒーローになるしかなかった。
でも、それとは全く別の理由でヒーローを目指そうと思った事が一度だけあった。
それが私のもう一つの原点。
パパにとっての平和の象徴。
ヒーロー殺しにとっての英雄回帰。
そういうのと同じ、私にとっての信念と呼べる部分。
そして、信念を貫くには力がいる。
力なき信念なんて、大きな壁にぶち当たった時、そのまま押し潰されておしまいだ。
あの狂気的に強い信念を持っていたヒーロー殺しでさえ、私という理不尽な暴力に負けて刑務所にぶち込まれた。
私の前に立ち塞がる壁は大きく強大だ。
力はいくらあっても足りない。
だったら向上あるのみ!
相澤先生はとても良い事を言ってくれた。
原点を意識していれば、何の為にこんな事やってるのかをちゃんと理解してさえいれば、このとってもイライラする訓練にも耐えられる!
このパンチングマシン破壊作業が果たして向上に繋がるのかは激しく疑問ではあるけどな!!
でも、きっといつかこの経験が役に立つ時が来る。
そう信じて頑張ろう。
「ねこねこねこ! それより皆! 今日の晩はねぇ、クラス対抗肝試しを決行するよ! しっかり訓練した後はしっかり楽しい事がある! ザ・アメとムチ!」
私が再びパンチングマシンを残骸に変えていた時、ピクシーボブがそんな事を言い出した。
そういえばあったね、そんなイベント。
肝試しかー。
ちょっと楽しみ。
「という訳で! 今は全力で励むのだぁ!!!」
「「「「「「イエッサァ!!!」」」」」」
そんな感じでやる気を出したクラスメイト、及びB組の諸君は厳しい訓練を耐えきった。
私も調節が上手くいかない苛立ちと、個性発動によってもて余した破壊衝動の相乗効果で叫び出したくなったけど、何とか耐えきって訓練を終えた。
そして次は夕飯作りの時間。
本日のメニューは肉じゃが。
昨日のカレーと同レベルくらいの味に仕上がりました。
つまり、そこまで美味しくも不味くもない普通のお味って事だ。
「さて! 腹も膨れた、皿も洗った! お次は……」
「肝を試す時間だー!!!」
そして遂にやって来た肝試しの時間。
芦戸少女が元気にハッスルしていた。
訓練でくたくただろうに、よっぽど楽しみだったんだね。
「その前に大変心苦しいが……補習連中はこれから俺と補習授業だ」
「ウソだろ!!!?」
だがしかし。
ここには無情なる教育の鬼がいた。
相澤先生は捕縛布で補習組を縛り上げ、そのままズルズルと引き摺って行った。
「すまんな。日中の訓練が思ったより疎かになってたのでこっちを削る」
「うわああ!! 堪忍してくれぇ!! 試させてくれぇ!!」
うーわ……。
これは酷い。
上げて落とすなんて、まるで悪魔の所業だ。
アメとムチって話はいったいどこに行ったんたろう?
「はい。という訳で、脅かす側先攻はB組。A組は二人一組で3分置きに出発。ルートの真ん中に名前を書いたお札があるから、それを持って帰る事! 脅かす側は直接接触禁止で個性を使った脅かしネタを披露してくるよ!」
そして遠ざかって行く補習組の断末魔を聞きながら、プッシーキャッツが肝試しのルールの説明を始めた。
何気にこの人達も容赦ないな。
「創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスが勝者だ!!」
これだもんよ。
「やめて下さい。汚い……」
「なるほど! 競争させる事でアイディアを推敲させ、その結果個性に更なる幅が生まれるという訳か! さすが雄英!!」
「二人一組……。あれ? 20人で5人補習だから……一人余る」
くじ引きの結果、余りの枠は緑谷少年が引き当て、一人ぼっちで肝試しに挑む事になってしまった。
ドンマイ。
ちなみに、私は八百万少女とペア。
出発の順番は4番目となった。
そして前の3組が続々と出発し、すぐに私達の番がやって来た。
「八百万少女はこういうの大丈夫なタイプ?」
「いえ……。こういう事は経験がないもので、何とも……」
「奇遇だね。私もだよ」
内緒のヴィジランテ活動時代にリアル肝試しなら経験した事あるんだけど、こういうイベントとしての肝試しは人生初だ。
だからちょっと楽しみ。
私を驚かせたいならヒーロー殺し並みのインパクトが必要だと思うけど、果たしてB組の諸君は何をしてくるのだろうか?
そんなワクワクとした気持ちでコースを進む事しばらく。
なんか焦げ臭い臭いが漂ってきた。
それだけじゃなく妙な煙まで出てくる。
最初はB組の仕掛けかと思ったけど、その煙をちょっと吸い込んだ時点でその考えは捨てた。
「八百万少女!! この煙、有毒だ!! 絶対に吸い込むな!!!」
「え……!? は、はい!!」
私には毒や薬の類いは殆ど効かない。
個性による耐性に加えて、どうも小さい頃に全身薬物で弄くり回されたらしく、その時についた耐性のせいで余程強力な物でもない限り私に毒や薬は効かないのだ。
普段おばあちゃんに処方されてる鎮静剤も、世間一般で麻薬と呼ばれてる薬よりも効果が強い。
それでギリギリ効くくらいだから、こんな有毒ガスくらい何ともない。
でも、それは私に限った話だ。
嗅いでみた感じ、この有毒ガスはかなり身体に悪い感じの臭いがした。
こんなものを特に毒耐性のない他の諸君が吸い込んだらただでは済まないだろう。
幸い八百万少女の行動は早く、創造の個性で直ぐ様防毒マスクを創って装着していた。
良し。
これでとりあえず八百万少女がこのガスにやられる事はないだろう。
「八木さんも早くこれを!」
「私は耐性があるからいらない。それよりそれを他の諸君の分も創れるように準備しておいてほしい。多分このガス結構広範囲に拡散してるから」
「耐性って……」
八百万少女が超生物でも見るような目で私を見て来たけど、今は無視。
とりあえず、これはヴィランによる襲撃と仮定しよう。
それが偶々この山に不法侵入して来て個性をぶっぱなしたいだけのチンピラだったらまだいいけど、ヴィラン連合みたいな組織的なタイプだったら結構マズイ事になる。
でも、戦闘許可は出てない。
となると、まずは救助優先か。
「サモンゲート!!」
私は使い魔を召喚した。
数は体育祭の時に使った召喚できる上限数である100体。
救助優先なら質よりも量があった方が良い。
「散開して他の生徒諸君を救助し、施設まで護送せよ!! 急げ!!」
使い魔に命令を下して方々に散らせる。
これである程度は何とかなるだろう。
次はこのガスの排除だ。
これがあるだけで大分被害が増える。
除去できるならした方が良いに決まってる。
「悪魔の翼! 悪魔の尻尾!」
私は翼と尻尾の個性を解放。
伸縮自在の尻尾を地面に深々と突き刺し、そのまま翼を使って空高く飛び上がった。
上から見ると、広範囲で山が燃えて山火事が発生している事がわかった。
さっきの焦げ臭い臭いの正体はこれか。
有毒ガスなんて攻撃が来てる以上、この山火事も自然発生したとは考え難い。
つまり火事を起こせる奴と有毒ガスを発生させてる奴。
最低でも二人以上のヴィランが来てるって事になる。
ますます組織的な襲撃の可能性が高くなったな。
私はとりあえずこのガスを晴らすべく、上空で大きく翼を広げた。
そしておもいっきり羽ばたいて風を起こす。
これぞ即興で考えた新必殺技!
「デスフェザー・スマッシュ!!!」
悪魔の翼によって巻き起こった暴風は容易くガスを吹き飛ばした。
反動によって私も吹き飛ばされそうになるのを、地面に突き刺した尻尾を支えにして阻止。
さながらお正月の凧上げのような状態で何ともカッコ悪いけど、そんな事気にしてる場合じゃないな。
ガスが晴れたのを確認してから地上に降りる。
さすがに風で炎までは消せなかったけど、ガスが晴れただけでも充分な成果だ。
でも、それも一時しのぎにしかならない。
あのガスが個性による攻撃なら、発生源を潰さない限りまた漂って来るだろう。
その前に使い魔がここら一帯にいる生徒諸君の救助を終わらせてほしいもんだけど……。
『皆!!! ヴィラン二名襲来!! 他にも複数いる可能性アリ!! 動ける者は直ちに施設へ!! 会敵しても決して交戦せず撤退を!!』
突然、頭の中に響くような声が聞こえて来た。
これはマンダレイの個性「テレパス」による通信だ。
マンダレイ達の所にヴィランが出たって事は、やっぱり組織的な襲撃か。
マズイね。
「八百万少女。今の聞いてたよね」
「ええ! 確かに聞きましたわ!」
「じゃあ、やる事はわかってるね。ここら辺の救助活動は使い魔に任せて君は施設に避難……」
そう言いかけたところでヤバイ情報が私に伝わって来た。
これは……本気でヤバイかも。
「八木さん?」
「八百万少女……。事情が変わった。この付近で使い魔が何体かやられたっぽい。近場にヴィランがいる」
「ッ!?」
私は使い魔との遠距離通信とかはできない。
でも、使い魔が消えたって事はわかるし、それがどこら辺で消えたかっていうのもわかる。
それによって知り得る情報もあるのだ。
それによって今回もたらされたのは、かなりの凶報だった。
「今も使い魔達はどんどんやられていってる……。多分ヴィランと交戦してるんだと思う。そうなるともう使い魔による救助活動は当てにできない」
「そんな……!」
八百万少女が顔を青くして戦慄した。
無理もない。
この辺りには先に出発した葉隠少女と耳郎少女、それに肝試しの為に待機してたB組の諸君がいる筈だ。
そんな所にヴィランがいて、使い魔は当てにならない。
それ即ち、彼らに危険が迫っているという事を意味するのだから。
「放置すればこの辺りにはまた有毒ガスが流れて来ると思う。私はとりあえずこの辺りにいる筈の諸君を救出に行くけど、君はどうする? 正直、防毒マスクを創れる君には付いて来てほしいっていうのが本音だけど……」
「当然、私も行きますわ!! ヒーローを目指す身ですもの!!」
「即答か! さすが!」
という訳で、方針は決まった。
まず、機動力のある私が八百万少女を抱えて他の諸君を捜索し、見つけ次第防毒マスクを渡していく。
そうすれば、とりあえず有毒ガスは怖くない。
そして、見つけた諸君には施設を目指して撤退してもらう。
幸い、別方向に向かわせた使い魔達は健在だから、そいつらを盾にすれば施設まで逃げ切れる可能性はかなり高いと思う。
施設まで逃げ切れば、そこには相澤先生とB組の先生がいる。
プロヒーローが二人もいれば、まあ、何とかなるだろう。
そうして直ぐに行動を開始しようとした。
でも、物事っていうのはそう上手くはいかないらしい。
八百万少女を抱えて飛び上がった瞬間。
山火事による明かりで鮮明になった私の視界が、こっちに向かって高速で飛翔してくる何かを捉えた。
そいつはとても見覚えのある外見をしていた。
黒い体。
鍛え上げられた筋肉。
そして何より、───脳みそがむき出しになった異様な外見の頭部。
「脳無……!」
という事は、やっぱりこ襲撃はヴィラン連合の仕業か!
USJの時みたく、脳無で私を足止めする気か?
馬鹿の一つ覚えみたいな事しやがって……!
同じ手を二度食うとでも思ってるのか!!
脳無が空を飛ぶ私達に突撃してくる。
どうやら今回の脳無には飛行能力があるみたいだ。
だが、その程度のパワーアップで私を止められると思うてか!
私は一旦地面に降りる事で脳無の突撃を回避した。
そして、腕に抱えていた八百万少女を解放する。
「八百万少女!! ちょっとだけ予定変更だ!! 私は少しアレの相手をしてくる!!」
「え……!? 今のはいったい……!?」
八百万少女は混乱している!
それも仕方ない。
今回の脳無はやたら素早い。
全身から飯田少年のふくらはぎにあるのとそっくりなエンジンみたいな管が生えてて、それで飛んだり加速したりしてるっぽい。
さらに両腕の先がブレードみたいになってる。
あれで切り裂かれたら、私はともかく八百万少女は真っ二つになりそうだ。
でも、八百万少女の動体視力じゃ、脳無の突撃も、私がそれを回避したのも、一瞬の出来事すぎて理解できなかったんだろう。
自分が命の危機に瀕していたというのもわかっていない。
だが、問題ない!
「大丈夫!! 直ぐにケリをつけるから!! その後は予定通りにいこう!!」
私は脳無を瞬殺するべく、ディザスターモードを発動しようとした。
本来なら、そうポンポン使いたくはない奥の手だけど、今回は時間がないんだから仕方ない。
それに、前回は初めてディザスターモードを戦闘で使ったんだ。
今回はディザスターモード発動状態での戦闘感覚を知った上での使用。
前回よりも上手く扱える自信がある。
なに? 戦闘許可?
そんなものは必要ない!
何故ならこれは正当防衛だからだ!!
相手から仕掛けて来たのなら正当防衛が成立するのだ!!
そんな完璧な理論武装を整えながらも、私がディザスターモードを発動する事はなかった。
脳無の予想外の行動によって、その選択肢を封じられた。
「なッ!?」
脳無は私に再度突撃すると見せかけて寸前で軌道を変え、八百万少女を狙った。
私は慌てて両脚の個性を解放し、超スピードで移動して八百万少女を庇う。
それを見た脳無はまた軌道を変え、私に迎撃される前に離脱。
そして、まるでおじいちゃんのような三次元的な動きで、別の角度から再び八百万少女に襲いかかった。
「そういう事か……ッ!!」
脳無の攻撃から八百万少女を庇い続けながら、私は悟った。
これが今回の私に対する足止め。
馬鹿の一つ覚えのみたいに脳無を放って来た訳じゃなく、実に効果的な作戦を考えた上で、それを実行してきているという事に。
ディザスターモードを使えば、私は極度の興奮状態に陥ってしまう。
その状態では敵を殲滅する事はできても、味方を庇いながら戦うのは難しい。
この至近距離だと、最悪巻き添えにする可能性すらある。
だからこそ機動力重視の脳無で
普段ならこんなシンプルな作戦、私には通用しなかった。
それこそ使い魔を八百万少女の盾にすればそれで済む話だ。
でも、今はその使い魔を方々に放ってしまっている。
新しく使い魔を召喚するには、今召喚してる分を消さなければならない。
要救助者が八百万少女だけじゃない以上、それはできない……!
今、この瞬間も使い魔は誰かを救っているかもしれないんだから。
状況が、立場が、私の行動を縛っている。
多分、私が使い魔を出した後で、なおかつ八百万少女みたいな守らなければいけない対象と一緒にいるタイミングを狙って、この脳無をぶつけて来たんだ。
計算され尽くされた卑劣な作戦。
あいつのやりそうな事だ……ッ!!
「嫌みな事しやがって……ッ!!」
対処不能のピンチって程じゃない。
この程度の策略で潰れるほど私は弱くない。
でも、確実に足止めはされてしまう。
相手の思惑通りになってしまう事に怒りと悔しさを感じながら、私は脳無の攻撃から八百万少女を庇い続けた。
ついに会戦!!