小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「……は? 何でこの糞餓鬼までついて来てる?
おい黒霧、どういう事だ?」
「申し訳ありません死柄木弔……。あのままゲートを開けたままでいるよりは、
「ふざけんな。早く追い返せ」
ワープの直後。
その場に待機してたらしい死柄木と黒モヤのヴィランが早速言い争いを始めた。
敵を前にして愚かなり。
良いんだな。
それが遺言で良いんだな。
そんな感じで、まずはあいつらから殴ろうかと思ってた時、その声が聞こえて来た。
『少し待ってくれないかなぁ』
連中のアジトに設置されていたテレビから流れて来た音声。
それは、二度と聞きたくなかった、嫌悪感を覚える男の声。
私の中の警戒レベルが最大にまで上昇した。
『久しぶりだねぇ、八木魔美子ちゃん。想定外の再会だけど、また会えて嬉しいよ』
「……私はちっとも嬉しくない。あのまま死んでれば良かったのに、このくたばり損ないが」
『ハハハ。随分嫌われたものだねぇ。やっぱり僕が憎いのかな?』
憎いに決まってんでしょうが。
あんたはパパの体をあんな風にしてくれた野郎だ。
覚えていない昔の事なんかより、私はその事を今でも根にもってる。
「で? わざわざ話しかけて来て何のつもり? これからあんたの手下をボコボコにするんだから、邪魔しないでほしいんだけど」
『それは困った。できれば弔達に手を出すのはやめてほしいんだ。僕の大切な教え子とその仲間達だからね』
は?
何それ?
「それを聞いて私が止まるとでも? むしろ俄然やる気が湧いてきたわ」
口ではそう言ってみたけど、私の内心は怪訝な気持ちでいっぱいだった。
こいつの性格を考えれば、私にここまで侵入された時点で、ヴィラン連合なんて手駒は切り捨ててくると思ってた。
それが蓋を開けてみれば、まさか交渉じみたマネをしてくるなんて……。
なに企んでやがる?
『血気盛んな事だ。まあ、個性の副作用を考えれば仕方がないか。でも、本当に良いのかい? 君が弔達に手を出すというのなら、僕は彼らを守る為に戦うよ。君と僕がぶつかれば大きな被害が出る。少なくとも、そこの爆豪くんは確実に巻き込まれるだろうねぇ。それでも良いのかな?』
連合を助ける為に、こいつが自ら出向いて来るだと?
……ハッタリか?
昔は手下がミンチにされても何とも思わないような冷血野郎だったくせに。
「……要は停戦しろって事? 私がその提案を呑むと思ってる訳?」
『ああ。思っているよ。何せヒーローは多いもんなぁ。守るものが。君は今回僕が放った脳無に足止めされた。つまり自分の衝動よりも他者を守る事を優先した訳だ。その心意気は立派なヒーローのそれさ。すっかりオールマイトに毒されてしまって悲しいが、それ故に君は動けない。そうだろう? チャーミーデビル』
……チッ。
確かに一理ある。
私が立派なヒーローかどうかはともかくとして、ここで勝手に動いて死人を出すのは色々とまずいし、パパが悲しむ。
何より、私自身こいつと戦って勝てる保証がない。
なにせ、前は暴走モードまで使ったのに負けてるんだから。
私が負けた後、パパがこいつに致命傷を与えるのを見たから、こいつだってさすがにあの頃よりは弱ってると思うけど、こっちだって暴走モードを使う訳にはいかない。
前回よりも戦力が低下してるのは私も同じだ。
戦えば、どうなるかわかったもんじゃない。
こんな交渉をしてきてるって事は、あっちもここで私に暴れられるのは困るって事だ。
お互いに停戦するに足る理由がある。
だったら、ここはおとなしくしといて、救助が来るのを待つのも一つの手か。
……こいつの言う通りにするのは、心底気に食わないけど。
「……チッ!」
私は舌打ちを一つして個性を解除した。
それと同時に合宿先に残して来た使い魔達を消す。
こいつらが撤退した以上、もう向こうでの出番はないだろうから。
代わりに、こっちで働いてもらう。
「サモンゲート」
私はこの場で新たに十体の使い魔を召喚した。
ヴィラン共が警戒態勢を取る。
安心しなって。
戦う為に呼び出した訳じゃないから。
私は、使い魔達に爆豪少年を囲むように指示した。
「……ッ!? 何のマネだ!! クソ女!!!」
使い魔が暴れる爆豪少年を数体がかりで羽交い締めにする。
あーあー。
おとなしくしてなって。
「爆豪少年。ひっっっじょうに気に食わないけど、私はあいつの提案を呑んで停戦する事にした。だから君もおとなしくしといて。それと、その使い魔達は君の護衛だよ」
「ハァ!? ざっけんな!! 護衛なんざいらねぇ!!」
「じゃ。そういう事でよろしく」
「聞けやッ!!!」
爆豪少年の意見を無視してバーのカウンターに座る。
私に戦う意志がなくなったのを確認して、ヴィラン連中が若干肩の力を抜いた。
でも、まだいつでも戦えるように身構えてる。
私がその気になったらどうせ全滅するんだから意味ないと思うけど。
『フフフ。矛を納めてくれてありがとう。やはり無益な争いは避けるに限るねぇ』
「どの口が言うか。言っとくけど、これが甚だ不本意な一時停戦だって事を忘れないように。……そっちから仕掛けて来たら、即開戦だから」
そう言って私は殺意を籠めた視線でヴィラン連中を睨みつけた。
その気迫を受けてヴィラン共が冷や汗を流す。
これだけ脅しとけば、ひとまずは大丈夫かな。
「そこの黒モヤ。お茶。ロイヤルミルクティー1つ」
「……え?」
『出してあげなさい黒霧。お茶一杯でおとなしくしていてくれるなら安いものさ。……そういう事だ弔。君もしばらくはおとなしくしていてくれ』
「……ふざけやがって」
そうしてアジトの中はギスギスとした冷戦状態に突入した。
爆豪少年の暴れる音だけが虚しく響く。
そんな感じで待つ事二日。
つけられたテレビから雄英の謝罪会見が放送された。
私と同じでメディア嫌いの相澤先生が、ただ雄英を責めるだけのマスゴミに頭を下げてる。
先生……!
私はその姿にちょっと感動した。
「不思議なもんだよなぁ。何故
私が相澤先生の勇姿に感動してたら、死柄木が急に喋り出した。
なんだ?
殺伐とした空気に耐えられなくなったのか?
いや、この二日間、トガとか名乗った同い年くらい女の子(破綻者)が空気も読まずに私に話しかけて来たから、若干空気が緩んでたけどさぁ。
「奴らは少ーし対応がズレてただけだ。守るのが仕事だから? 誰にだってミスの一つや二つある。お前らは完璧でいろって? 現代ヒーローってのは堅っ苦しいなぁ」
「うるさいぞ死柄木ー。今、相澤先生の勇姿を見届けてるんだから静かにしろー」
「黙ってろ糞餓鬼。俺は爆豪くんに話しかけてんだよ」
あ、そうだったんだ。
「何? ヒーローのネガティブキャンペーン? それで爆豪少年を勧誘でもするつもりか?」
「ああ、そうだ。勧誘してんだよ。人の命を金や自己顕示に変換する異様。それをルールでギチギチと守る社会。敗北者を励ますどころか責め立てる国民。俺達の戦いは『問い』。ヒーローとは、正義とは何か。この社会が本当に正しいのか、一人一人に考えてもらう。俺達は勝つつもりだ。……人に、ルールに、ヒーローに縛られて苦しむ気持ち。それを変えたいと願う気持ち。彼ならそれを理解できる。俺達の仲間になれる」
あっそ。
「だってさ爆豪少年」
「ハッ! 下らねぇ! 要は嫌がらせしたいから仲間になってくださいだろ!? 無駄だよ! 俺は
ほほう。
パパに憧れるなんて、中々良い心がけじゃないか。
君がヴィランになったら私の手で引導を渡してやろうとか思ってたけど、余計なお世話で終わりそうで良かったよ。
「できれば少し耳を傾けて欲しかったな……。君とはわかり合えると思ってた」
「ねぇわ!」
「アッハッハ! ふられてやんの! ざまぁ!」
思いっきり笑ってやれば、死柄木は殺気の籠った目で私を睨んで来た。
そんなやっすい殺気なんて欠片も怖くないわ!
ヒーロー殺しでも見習うんだな!
と、私が死柄木の睨みを鼻で笑っていた時、アジトのドアがノックされた。
「どーもぉ。ピザーラ神野店ですー」
そして、そんな間の抜けた声が聞こえて来た。
ああ。
「やっと来たか」
「は? お前いつの間にピザなんか頼みやがった」
いんや。
ピザは頼んでないよ。
ただ、
「スマッシュ!!!」
救助は来ると思ってたよ。
アジトの壁をぶち抜いてパパが現れた。
さあ、お掃除の時間だ。
「何だぁ!?」
「黒霧! ゲート……」
「先制必縛! ウルシ鎖牢!!」
お。
私が手を出すまでもなく、木を操るヒーローがヴィラン全員を捕縛してくれた。
中々やるね。
「木ぃ!? そんなもん……」
「逸んなよ。おとなしくしといた方が身の為だぜ」
そんな木の拘束を個性と思われる青い炎で燃やそうとしていたヴィランの一人が、パパ達と一緒に登場したおじいちゃんの蹴りで沈黙した。
おじいちゃんも来てくれたんだぁ!
「パパ! おじいちゃん!」
「魔美ちゃん! 爆豪少年! 無事で良かった!」
パパは私達の無事を確認した後、改めてヴィラン共に向き直った。
「さあ、もう逃げられんぞヴィラン連合!! 何故って!? 我々が来た!!」
「オールマイト……!! あの会見後に……まさかタイミングを示し合わせて……!」
「木の人! 引っ張んなってば! 押せよ!!」
「や~~~!!」
パパ達の突入から僅か数秒。
ヴィラン共はもう制圧されて身動き取れない。
凄いな。
私がやるより早いかもしれない。
さっすがプロ!
「攻勢時ほど守りが疎かになるものだ。ピザーラ神野店は俺達だけじゃない。外はあのエンデヴァーをはじめ、手練れのヒーローと警察が包囲している」
扉をすり抜けるように現れた忍者っぽいヒーローがそう言った。
その人がアジトの扉を開けて、そこから警察の皆さんが突入してくる。
これでアジトは完全制圧だね。
というかエンデヴァーさんも来てるんだ。
保須の時といい、何とも仕事熱心な人だ。
「怖かったろうに……よく耐えた! ごめんな……。もう大丈夫だ魔美ちゃん、爆豪少年!」
「こっ……怖くねぇよ!! ヨユーだクソッ!!」
「私も同じく。こいつら程度なら屁でもないよ。……それより気をつけてパパ。あいつが出て来るかもしれない」
私の言葉を聞いて、パパの表情がより一層引き締まった。
驚いてはいないみたいだし、予想はしてたっぽいね。
「せっかく色々こねくり回してたのに……! 何そっちから来てくれてんだよラスボス……!」
死柄木が苛立たしそうな目でパパを睨んでいた。
でも、その表情にはまだ余裕が窺える。
何かあるな。
あいつの加勢を期待してるのか?
「仕方がない。俺達だけじゃない……そりゃあこっちもだ。……黒霧。持って来れるだけ持って来い!!」
この口調。
自分で何とかする気か?
となると脳無でも持って来る気か?
しかし、死柄木の言葉とは裏腹に、黒モヤのヴィランは動かなかった。
「すみません死柄木弔……。所定の位置にある筈の脳無が……ない……!!」
「!?」
あ、やっぱり脳無だったのか。
でも、それは使えないと。
どういうこっちゃ?
「やはり君はまだまだ青二才だ、死柄木!」
「あ?」
そう言うって事は、パパ達が上手くやったのかな?
「ヴィラン連合よ。君らは舐めすぎた。少年少女の魂を。警察のたゆまぬ捜査を。そして……我々の怒りを!! ……この台詞は前にも言ったが、あえてもう一度言おう。おいたが過ぎたな!! ここで終わりだ死柄木弔!!」
ああ。
確かUSJの時も言ってたね、その台詞。
あの時は脳無の予想外の抵抗のせいで、結局逃がしちゃったんだっけ。
だからこそ、今回は絶対に逃がさない。
そう言ってる訳だ。
「終わりだと……? ふざけるな……! まだ始まったばかりだ。正義だの、平和だの、あやふやなもんでフタされたこの掃き溜めをぶっ壊す……。その為に
死柄木がまた黒モヤヴィランに頼りそうだったから、先に殴って気絶させといた。
まだ私の戦闘許可は解けてないし、大丈夫でしょ。
「糞餓鬼ィ!!!」
「さっき言ったろ。おとなしくしといた方が身の為だって。
それ、こいつらの本名かい? おじいちゃん。
凄いな警察。
敵に回したくないねぇ。
「わかるかね? もう逃げ場はねぇって事よ。なぁ死柄木。聞きてぇんだが、お前さんのボスはどこにいる?」
「……………………………」
おじいちゃんの尋問に死柄木は答えない。
そもそも聞いてもいない。
その顔には、ただただ狂気的な怒りと憎しみ、そして焦りが浮かんでいた。
「ふざけるな……! こんな……! こんな……! また、こんなあっけなく……!」
死柄木はうわ言のような言葉を吐き続ける。
「ふざけるな……! 失せろ……! 消えろ……!」
「奴は今どこにいる!! 死柄木!!」
パパが怒鳴るように死柄木に問いかける。
それがトリガーになったかのように、死柄木は叫んだ。
「お前が!!! 嫌いだ!!!」
その叫びに呼応するかのように、空中に謎の液体が現れる。
そして、───その液体の中から、大量の脳無が現れた。
戦いが、始まった。
決戦開幕!