小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
──緑谷視点
目の前で繰り広げられるオールマイトとオール・フォー・ワンの戦闘は、一挙一動が暴風と衝撃波を発生させる人外の戦いだった。
少し離れた所では、八木さんも同様の戦いを繰り広げている。
オール・フォー・ワンが八木さんにぶつけた脳無もバカみたいに強い。
そんな絶対強者達がぶつかり合う危険地帯の中で、かっちゃんもまた戦っていた。
相手はヴィラン連合の6人。
奴らは撤退しようとしてる。
オール・フォー・ワンが、さっきUSJで脳無の腕がやったのと同じ技で黒霧のワープゲートを無理矢理開けた。
そして、オール・フォー・ワンと脳無がオールマイトと八木さんをくい止めてる間に逃げようとしてる。
その時に無理矢理にでもかっちゃんを連れて行くつもりだ!
オールマイトがかっちゃんを助けようと動いても、オール・フォー・ワンに邪魔される。
八木さんが残していった使い魔達も、無数の白い脳無に足止めされて、かっちゃんを助けには行けない。
こんなピンチに……!! なのに……!!
僕らは、戦う事が許されない……!
『資格未取得者が保護管理者の指示なく個性で危害を加えようとした事。たとえ相手がヒーロー殺しであろうとも、これは立派な規則違反だワン』
『ルールを破るというのなら、その行為はヴィランのそれと同じなのよ』
保須で面構さんに言われた言葉、そして僕らを引き留める為に蛙吹さんが言った言葉が脳裏に蘇る。
それにこれは、規則やルールだけの話じゃない。
僕らは、オールマイトや八木さんに比べて、圧倒的に弱い。
下手に動けば二人の足を更に引っ張る事になる。
せめて……!!
せめて、どこか隙が……!!
一瞬でいい、戦わずにかっちゃんを助け出せる道はないか……!!?
かっちゃんが助かれば、オールマイトも存分に力を……
…………オールマイト。
…………隙。
ハッ!!
「飯田くん、皆!」
「ダメだぞ緑谷くん……!!」
「違うんだよ、あるんだよ! 決して戦闘行為にはならない! 僕らもこの場から去れる! それでもかっちゃんを助け出せる方法が!!」
そうして僕は皆に話した。
何とか知恵を振り絞って考え出した作戦を。
「飯田さん……」
「…………バクチではあるが、状況を考えれば俺達へのリスクは少ない。……何より成功すれば、全てが好転する。────やろう」
飯田くんも納得してくれた。
僕らは覚悟を決めて動き出す。
戦う為じゃなくて、助ける為に。
僕のフルカウルと飯田くんのレシプロで、まず機動力!
そして、切島くんの硬化で、今まで僕らの姿を隠してくれてた壁をぶち抜く!
開けた瞬間、轟くんの氷結が道を形成する。
なるべく高く飛べるように、ジャンプ台としての道を。
氷の上を滑走し、その勢いのまま僕らはヴィランの手の届かない高さから戦場を横断する。
オール・フォー・ワンはオールマイトを食い止めてるし、脳無は八木さんと使い魔を食い止めてる。
これはつまり、逆もまた然り!
戦ってるなら、こっちには来れない!!
そしたら切島くんだ。
僕じゃダメだ。
轟くんでも、飯田くんでも、八百万さんでも……。
入学してから今まで、かっちゃんと対等な関係を築いてきた、友達の呼び掛けなら!!
「来い!!」
かっちゃんは応えた。
個性の爆風で空を飛び、差し出した切島くんの手を掴んだ!
「バカかよ……!」
そう言いながら、かっちゃんは笑っていた。
追って来るヴィラン達は、ヒーロー達が抑えてくれた。
そうして僕らはかっちゃんの救出に成功し、戦場から撤退した。
◆◆◆
──オールマイト視点
「なぁ、あいつ緑谷!! っとに益々お前に似てきとる! 悪い方向に!!」
駆けつけて来てくれたグラントリノに怒られてしまった。
私も驚きだ。
「保須の経験を経て、まさか来ているとは十代……! しかし情けない事にこれで……心置きなく、お前を倒せる!!」
爆豪少年は救出された。
連合はグラントリノが相手をしてくれる。
魔美ちゃんの方が気がかりだが、未だに激しい戦闘音が聞こえてくる以上、倒されてはいるまい。
今はあの子を信じる!
「やられたな。一手で綺麗に形勢逆転だ」
そう言いながら、オール・フォー・ワンが赤黒い爪を伸ばしてくる。
USJの脳無も使っていた個性。
私はそれを咄嗟に避けた。
だが、それが間違いだった。
「!?」
「個性強制発動。『磁力』!」
赤黒い爪がグラントリノによって倒されたヴィランの一人に突き刺さり、その個性が発動した。
磁力の名の通り、ヴィラン連合全員が引き寄せられるように開いたワープゲートへと放り込まれて行く!
「弔。君は戦い続けろ」
クッ!!
またしても逃してしまうとは!!
自分が情けない!!
しかし、貴様だけは逃がさんぞオール・フォー・ワン!!
その意志をもって奴に殴りかかる。
「『転送』+『衝撃反転』! 僕はただ弔を助けに来ただけだが、戦うというなら受けて立つよ」
しかし、あのワープする液体が奴の前に現れ、しかも液体はグラントリノをワープの対象としていた。
突き出した拳はもう止まらない。
咄嗟にできうる限り勢いを殺したが、それでも結構な威力の攻撃がグラントリノに当たってしまった!
「すみません!!」
グラントリノのダメージは大きい。
そして、攻撃の威力を跳ね返されたかのように、殴った腕にまでダメージを受けた。
「何せ僕はお前が憎い。かつて、その拳で僕の仲間を次々と潰し回り、お前は平和の象徴と謡われた。僕らの犠牲の上に立つその景色。さぞや良い眺めだろう?」
再びオール・フォー・ワンの腕が大きく膨らむ。
あの衝撃波が来る!
私は左腕でグラントリノを救出し、右腕で衝撃波を迎え撃った。
「デトロイト・スマッシュ!!!」
私の拳が何とか衝撃波を相殺する。
凄まじい勢いで体力が消費されていくのを感じる……!
だが、倒れる訳にはいかない!!
平和の象徴に、敗北は許されない!!
「心置きなく戦わせないよ。あの子にも言った事だが、ヒーローは多いよなぁ、守るものが」
「黙れ……!!」
貴様がヒーローを語るな……!!
「貴様はそうやって人を弄ぶ! 壊し! 奪い! つけ入り支配する! 日々暮らす方々を! 理不尽が嘲り嗤う!」
そして、魔美ちゃんのような被害者が生まれるのだ!
「私はそれが! 許せない!!!」
その怒りと共に放った拳が、奴の顔に突き刺さった。
マスクが砕け、奴の体が地面に倒れる。
しかし、
「どうした? いやに感情的じゃないかオールマイト」
オール・フォー・ワンをまだ、倒しきれない!
マスクの下から出てきた顔は、目も鼻もない、まるでのっぺらぼうのような有り様だった。
こんな状態でまだ動くか……!
亡霊め!!
「同じような台詞を前にも聞いたな。ワン・フォー・オール先代継承者。
貴様ァ……!!!
「貴様の穢れた口で、お師匠の名を出すな!!」
あの人は、貴様が貶めていい人じゃない!!
「理想ばかりが先行し、まるで実力の伴わない女だった。ワン・フォー・オール生みの親として恥ずかしくなったよ。実にみっともない死に様だった。どこから話そうか」
「黙れぇ!!!」
怒りに駆られて拳を振りかぶる。
そこで奴の右腕が膨らんでいるのに気づいた。
また衝撃波!!
咄嗟に拳の軌道を変え、奴の右腕目掛けて振り下ろす!
「デトロイト・スマッシュ!!!」
「『衝撃反転』!」
「ぐあッ!?」
これはさっきの……!?
フルパワーでも撃ち抜けないか!!
「+『衝撃波』!!」
「ぐっ!!」
次いで衝撃波。
私は避ける事もできず、まともに食らって吹き飛ばされた。
そして、吹き飛ぶ私の直線上に報道ヘリが!
マズイ!!
「俊典!」
「!」
間一髪のところで、飛んで来たグラントリノに救われた。
ありがたい……!
「6年前と同じだ! 落ち着け!! そうやって挑発に乗って! 奴を捕り損ねた!! 腹に穴を開けられた! お前のダメなとこだ! 奴と言葉を交わすな!」
「……はい」
「前とは戦法も使う個性もまるで違うぞ! 正面からはまず有効打にならん! 虚をつくしかねぇ! まだ動けるな!? 正念場だぞ!!」
「……はい!」
まだ体力は残っている。
ワン・フォー・オールの残り火は、まだ燃え尽きてはいない。
私はまだ、戦える!!
「少し悩んでいるよ。弔がせっせと崩してきたヒーローへの信頼。決定打を僕が打ってしまってよいものか……。───でもね、オールマイト。君が僕を憎むように、僕も君が憎いんだぜ?
僕は君の師匠を殺したが、君も僕の築き上げてきたモノを奪っただろう? だから君には可能な限り酷たらしい死を迎えてほしいんだ!」
また奴の腕が膨らんでゆく。
今度は両腕だ!
これまでよりも遥かに強い攻撃が来る!
「でけぇの来るぞ! 避けて反撃を……」
「避けて良いのか?」
何を……ハッ!!
私の後ろには、まだ人が!!
「君が守ってきたものを奪う!」
大きな衝撃波を、体を盾にして何とか受け止める。
ダメージはない。
私の後ろの人々には。
「そら、もう一発だ!」
再び強大な衝撃波が迫る。
まるで私の中の残り火を吹き消すかのように、何度も、何度も。
そして、攻撃が止まった時にはもう、私はマッスルフォームも保てないほど消耗していた。
「まずは怪我をおして通し続けた、その矜持。惨めな姿を世間に晒せ。平和の象徴」
ここには報道ヘリが来ている。
奴の言う通り、この姿は世間に知られてしまっただろう。
「頬はこけ、目は窪み! 貧相なトップヒーローだ! 恥じるなよ! それがトゥルーフォーム! 本当の君なんだろう!?」
煽るようにオール・フォー・ワンが語る。
だが、だからどうした。
この程度で私が諦めるとでも思ったか!!
「身体が朽ち衰えようとも……その姿を晒されようとも……私の心は依然平和の象徴!! 一欠片とて奪えるものじゃあない!!」
私はまだ倒れていない!
ワン・フォー・オールも消えてはいない!
見くびるな、オール・フォー・ワン!!
「素晴らしい! まいった。強情で聞かん坊な事を忘れていた。じゃあ
…………………………は?
「君が嫌がる事をずぅっと考えてた。君と弔が会う機会をつくった。君は弔を下したね。何も知らず、勝ち誇った笑顔で」
「ウソ……」
「事実さ。わかってるだろ? 僕のやりそうな事だ。───あれ? おかしいなオールマイト。笑顔はどうした?」
『どんだけ怖くても、「自分は大丈夫だ」っつって笑うんだ! 世の中、笑ってる奴が一番強いからな!』
脳裏にお師匠の笑顔が過る。
今はもういない、母のように思っていた人の笑顔が。
「き……さ……ま……!」
「やはり楽しいな! 一欠片でも奪えただろうか?」
彼が……お師匠のご家族。
私は、私は、なんという事を……!!
「ム!?」
私が後悔の念に押し潰されてしまいそうになった時、何かが奴目掛けて高速で飛んで来たのが見えた。
オール・フォー・ワンは、その飛んで来た何かをワープでこの場から消した。
そして、轟音と共に見慣れた背中が、魔美ちゃんが現れた。
「ハイエンドをもう制圧したか。想定よりも遥かに早い。やるねチャーミーデビル。だが……」
「ハァ……!! ハァ……!!」
現れた魔美ちゃんは様子がおかしかった。
血走った眼で周囲を睥睨し、呼吸も荒い。
姿もディザスターモードと呼んでいた状態から変わっていた。
全体的なシルエットは変わらないが、右腕から頬にかけて黒い鎧のような甲殻が張り付いている。
あの姿を私は知っている。
あれは、魔美ちゃんが暴走していた時に全身を包み込んでいた鎧だ。
「出力80%といったところかな? この土壇場で更なる力を発揮するとは見事なものだ。───でも、もう限界だろう? 理性を保つので精一杯と見た。暴走したくなければ、そこでおとなしく見ていると良い。まあ、暴れたいというのならば止めないがね!」
そんな煽るようなオール・フォー・ワンの言葉も、もう聞こえていないのかもしれない。
それくらい、今の魔美ちゃんからは冷静さの欠片も感じられなかった。
そして、魔美ちゃんは超高速で動き出し───私の前に陣取った。
まるで、私を守るかのように。
「魔美……ちゃん……」
魔美ちゃんは応えない。
でも、その小さな背中からは、確かに私を守るという意志が伝わって来た。
こんな極度の興奮状態にあって尚、この子は私を守ろうとしてくれている。
「負けないで……! オールマイト……! お願い……! 助けて……!」
今度は後ろから声が聞こえてきた。
私が背中に庇っていた、守るべき誰かの声が。
「なんだ貴様……! その姿はなんだオールマイトォ!!!」
次に聞こえたのは、エンデヴァーの怒鳴り声。
彼に続いて、向こうにいたヒーロー達が続々とこちらに向かって来るのが見えた。
エンデヴァーとエッジショットがオール・フォー・ワンに立ち向かい、他の者達は倒れた者を救ってゆく。
「オールマイト……。我々には、これくらいしかできぬ……。あなたの背負うものを、少しでも……!」
「虎……!」
「あの邪悪な輩を止めてくれオールマイト……! 皆、あなたの勝利を願っている……! どんな姿でも、あなたは皆のナンバー1ヒーローなのだ!」
ああ。
そうだ。
そうだった。
何をやっているのだ私は。
私には戦わねばならない理由があった。
拳を握る理由があった。
悪を挫く為に。
平和を守る為に。
人々を救う為に。
『どんだけ怖くても、「自分は大丈夫だ」っつって笑うんだ!』
そうでした。
私は平和の象徴。
どんなに辛くとも、笑って悪に立ち向かわねばならない。
ただ、それだけの事だった。
私は、涙を流しながら、最後の力を振り絞った。
「ああ……! 多いよ……! ヒーローは、守るものが多いんだよ! オール・フォー・ワン!! ───だから、負けないんだよ」
かき消える寸前のワン・フォー・オールの残り火を、右腕に集中させる。
右腕のみの歪なマッスルフォーム。
これが今の私の全力。
だが、それだけあれば充分だ。
まだ、もう少しだけ、私は戦える。
そうして私は、生涯最後となるだろう戦闘態勢に入った。
まさに総力戦!!