小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
ハイエンドを一秒でも早く倒す為に、私は個性の出力を更に引き上げた。
暴走一歩手前のディザスターモードを超えて、絶対に越えてはならない一線に更に近づく。
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!!
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!
暴れろ!!
暴れたい!!
暴れさせろ!!!
破壊衝動が、それに伴う感情が、止めどなく溢れて来る。
それに何とか蓋をして理性を保つ。
頭が割れそうに痛い。
理性が今にも飛びそうだ。
この衝動に身を任せてしまえば楽になる。
そんな弱音を気力でねじ伏せて、これだけのリスクと引き換えに手にした力をハイエンドに向けて振るう。
そのおかげで何とかハイエンドを倒し、パパの元に駆けつける事ができた。
その時にはパパはもう、公衆の面前でトゥルーフォームになるくらい追い詰められてたけど、死んでないなら安い。
死んでさえいなければ何とかなる。
気を抜いたら暴れ出しそうな体と心を強引に制御し、パパの盾になるように動いた。
衝動に任せてあいつを殴るのは簡単だ。
でも、それをしたら、多分もう戻れない。
ハイエンドとの戦いで気力を使い過ぎた。
理性は吹っ飛ぶ寸前。
私は今、人と悪魔の境界線に立っている。
これが絶対に踏み越えてはならない一線だ。
私がこの線の向こう側に足を踏み入れたのは、過去二回。
戻って来れたのは奇跡に等しかった。
三度目はない。
何故なら、暴れる私を止められる人がいないから。
私を向こう側から連れ戻してくれる人がいないから。
最初に止めてくれたパパも、二度目に止めたあいつも弱くなった。
もう、癇癪を起こした子供のように暴れる事はできない。
取り返しがつかなくなる。
たとえ今から個性の出力を下げたとしても、確実に余韻は残るだろう。
ディザスターモードの余韻ですら結構な反動だった。
その状態で戦えば、暴走一直線だ。
でも、だからといって個性を解除して戦線離脱する訳にもいかない。
それじゃパパを守れない。
私は何の為にこの場に来た?
決まってる。
パパを守る為に来たんだ。
ここで退く訳にはいかない。
「煩わしい」
大きな衝撃波が発生し、オール・フォー・ワンに挑んでいたヒーロー達を吹き飛ばす。
私は翼を盾にして後ろのパパを守った。
オール・フォー・ワンの視線が、こっちに向いたのがわかった。
「まさか君が、その状態で誰かを守る為に動くとはね。そんなにオールマイトが大事か」
ああ。
大事だよ。
私が初めて心を開いた、私を人間にしてくれた、大切な父親だ。
「随分と豪華な盾だな。だが、君の本質は盾じゃない。君は僕が造り上げた最高の
……妖刀か。
たしかに、私にぴったりかもね。
「だが、どんなに切れ味が良くとも刀は受け太刀に弱くすぐに折れてしまう。君も同じだよ。誰かを守るなんて君の本質からかけ離れた事をすれば酷く弱くなる。先日の脳無との戦いでもそうだっただろう? 刀を無理矢理盾に使ったところで、出来上がるのはすぐに折れてしまうような貧相な盾でしかない。それを証明してあげるよ。────『筋骨発条化』『瞬発力』×4『膂力増強』×3『増殖』『肥大化』『鋲』『エアウォーク』『槍骨』」
オール・フォー・ワンの右腕が、歪に巨大化していく。
そうして、体に合わない規格外のサイズの巨腕が完成した。
「衝動に呑まれまいと必死に抗う君の意志を折り、オールマイトを殺そう。その為に、今の僕に掛け合わせられる最高最適の個性達で、君達を殴る」
「ッ!? 魔美ちゃん! 逃げなさい!!」
逃げる訳がない。
オール・フォー・ワンが迫って来る。
巨大な腕が、私を殴ろうと襲い来る。
私はそれを、同じく拳で迎え撃った。
「『衝撃反転』!」
拳の威力が全て自分に跳ね返って来る。
右腕が壊れた。
オール・フォー・ワンの勢いは止まらない。
止められない。
力が足りない。
その瞬間、走馬灯の如く一つの記憶が脳裏を過った。
私がヒーローを目指そうと思った理由。
必要に駆られてじゃない。
私自身の意志でヒーローを目指した切っ掛け。
それは6年前の出来事。
オール・フォー・ワンとの決戦を終えて、死にそうな大怪我を負って、それでもヒーローを続けようとするパパを見て思った事。
───この人を守れるヒーローになりたい。
それが、私の
私にとっての信念。
絶対に折れちゃいけない。
ヒーロー『チャーミーデビル』の柱の部分。
だったら!!!
ここで頑張らないでどうするよ!!!
オール・フォー・ワンに押し負けそうになる刹那。
私は個性の出力を更に上げた。
私を一線の向こう側へ連れて行こうとする悪魔の誘惑が、破壊への衝動が狂おしいくらいに強くなる。
それを気力と根性だけで無理矢理に振り払う。
イメージするのは、かつての強敵ヒーロー殺しの姿。
心の強さだけで私を怯えさせた男の姿。
あいつにできたのなら、私にだってできる筈だ!!
心の強さで限界を超えろ!!
限界の!! 更に向こうへ!!
「プルス・ウルトラ!!!」
個性開放率100%!!!
デッドエンド・モード!!!
私の全身を黒い鎧が包み込む。
今までは制御できずに暴走してしまった状態。
これこそが、個性『悪魔』の真の姿。
それを初めて、自分の意志で制御下におく。
そして残った左腕で、オール・フォー・ワンの巨腕を殴りつけた。
「!!?」
デッドエンドモードの圧倒的な火力は、跳ね返そうとする力を上からねじ伏せて、その巨大な腕を根元から消し飛ばした。
「誤算だった……!! まさか、そこまで……」
その言葉が言い切られる事はなかった。
私の後ろから、パパが飛び出して来る。
「娘にこれだけ頑張らせて……! ここで決めなきゃヒーローじゃないよなぁ!!!」
私はもう動けない。
この状態を維持するだけで精一杯。
気を抜けば一気に悪魔が暴れ出すだろう。
でも、私の仕事は終わった……!
「ユナイテッド・ステイツ・オブ・スマッシュ!!!」
パパの渾身の一撃が、オール・フォー・ワンの顔面に突き刺さる。
そのままの威力でオール・フォー・ワンは地面に叩きつけられ、周囲にはこれまでで最大規模の暴風が荒れ狂う。
風が止んだ時には、地面に出来上がった大きなクレーターと、その中心で倒れるオール・フォー・ワン。
そして、ボロボロの体で尚も立つ、パパの姿だけがあった。
決着を見届けた私は、個性を解除した。
無理をしたツケか、頭が痛んで体が動かない。
そのままフラリと倒れそうになった。
そんな私の体を、パパが左腕で支えてくれた。
そして、パパは残った右腕を空へと突き上げ、勝利のスタンディングを決めた。
勝利の余韻に浸る間もなく、ただその姿を目に焼き付けて、私は意識を失った。
◆◆◆
──オールマイト視点
腕の中に抱えた魔美ちゃんが気を失ったのがわかった。
あれほどの無茶をしたんだ。
気絶くらいで済んだのは、むしろ幸運。
この子はいつも私の無茶を叱るけれど、今回その気持ちが身に染みてわかった。
家族が無茶をして傷つく姿を見るのは、やはり辛い。
私が言えた義理ではないかもしれないが、この子が目を覚ましたらちゃんと叱ろう。
勝手にこの場に来てしまった緑谷少年と一緒に。
そして、それ以上に感謝を伝えよう。
「俊典……」
「グラントリノ。魔美ちゃんを頼みます」
かくいう私もボロボロだ。
本当に魔美ちゃんの事を言えないくらいの無理をした結果。
特に最後の一撃には、全ての力を籠めた。
もう、全て出し切ってしまった。
私の中にあったワン・フォー・オールの残り火は、消えた。
だが、まだこの場を去る訳にはいかない。
今度こそ確実にオール・フォー・ワンが逮捕されるところを見届けなくてはならない。
気を失ってしまったこの子の分まで。
戦えなくなってしまった私に代わって、エンデヴァー達が倒れたオール・フォー・ワンを拘束し、監視する。
その後すぐに警察が到着し、オール・フォー・ワンは
終わった……。
今度こそ、奴との長きに渡る因縁に、一つの決着がついた。
まだやらねばならぬ事はある。
お師匠のご家族、死柄木弔。
新たに知ってしまった真実は、新たなる因縁を生み出した。
だが、『平和の象徴オールマイト』はここで終わりだ。
もう、私の中にワン・フォー・オールはない。
体も衰え朽ち果てた。
戦う力の残されていない私に、『絶対に倒れない平和の象徴』を名乗る資格はない。
だから……
私は報道陣のカメラを指差し、こう言った。
「次は、君だ」
おそらく見ているだろう私の後継者に向けて。
メッセージを送る。
私の時代は終わった。
次は、君の番だと。
そうして、神野における長い夜の戦いは、決戦は、終結した。
神野の悪夢、決着。
次回、最終話。