小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
奇跡か? 奇跡が起きてるのか?
入試終了から一週間が経った。
この一週間、なんだかパパが過労死しそうな程に疲れている。
4月から雄英に勤務して本格的な教師になるって事は知ってたけど、どうやら諸々の手続きと慣れない書類仕事に追われて衰弱してしまったようだ。
後、入試合格者達への通知も兼ねたVTRとかも録ってるらしい。
本人から聞いた。
マッスルフォームの発動時間も減ってきてるのによくやるよほんと。
さすがの私も、この状態のパパにちょっかいをかける勇気はなかった。
ついでに緑谷少年ともここ一週間連絡をとっていない。
彼はどうやら入試の結果が相当悪かったようで、試験日の夜にまるで遺書のようなメールを送ってきたのだ。
私はそれに当たり障りのない返信をして、それ以降意図的に放置してる。
仕方ないんだ。
今の緑谷少年をつついたら絶対に面倒くさい事になると私の直感がささやいているんだ。
マジで凹んでるだろうけど、まあ、大丈夫でしょ。
受験に失敗したくらいで死にはしないって。
死ななきゃ安い。
これが真理だ。
反論は受け付けない。
そして、その翌日。
「オールマイト!!!」
「誰ソレ!!」
私はここしばらくご無沙汰だった二人と一緒に、いつもの海浜公園に居た。
緑谷少年は涙腺を決壊させながらパパに駆け寄り、おもいっきりフラれていた。
まあ、緑谷少年のゴミ掃除のおかげで、最近デートスポットとしての人気が出て人目があるようになってきたこの海浜公園において、大声でパパのヒーローネームを叫んでしまった緑谷少年に全責任がある訳だけど。
「リピートアフターミー! 人違いでした!」
「人違いでした!!」
という茶番を終えてようやく本題に入る。
まずは、
「合格おめでとう」
「おめでとー」
祝いの言葉からかけるべきだな。
そう。
緑谷少年はあの遺書みたいなメールから一転、奇跡の大どんでん返しによって、見事雄英合格を勝ち取ったのだ!
これは素直に凄いと思う。
推薦、一般と二つの入学資格を持つ私が言っても説得力ないかもしれないけど、雄英入学はそれだけ難易度の高い狭き門なんだから。
そうしてお祝いのハイタッチを済ませ、パパの教師就任に緑谷少年が驚いたと言い、パパのポンコツっぷりを知っている私はそれが心配だという話になって──そして話題はパパから緑谷少年に受け継がれた個性「ワン・フォー・オール」の話に移った。
「ワン・フォー・オール……一振り一蹴りで体が壊れました……。僕にはてんで扱えない」
緑谷少年がそんな弱気な発言を漏らす。
あの映像は私もパパのパソコンを勝手にいじって見させもらったけど、確かに酷いもんだった。
跳躍する為に足を使えば骨折し、例の巨大ロボを倒す為に拳を振るえば、ロボと一緒に拳が粉砕する。
個性の反動に体が耐えられてない。
でもまあ、あの程度の反動ならその内慣れるでしょう。
体を鍛えてパパ並みの筋肉を身につけるだけでも解決しそうだ。
「それは仕方ない。突如尻尾の生えた人間に対して芸を見せてと言っても、操ることすらままならんて話だよ」
「はあ……」
ほら、パパもこう言ってる訳だし。
そんな落ち込むような事じゃないって。
それに、
「大丈夫だって。ぶっちゃけ私の個性の反動の方がもっと酷くてえげつなかったんだから。その私がなんとかなってるんだから君もなんとかなるさ。頑張れ少年」
「や、八木さんもそうだったんだ……」
「意外だ」とか緑谷少年が呟いてる。
正直、君の「ワン・フォー・オール」より私の「悪魔」の方が曲者だと思うぞ。
被害が
いやー、個性が制御できなかった頃は悲惨を通り越して地獄だったなー。悪魔だけに。
「今はまだ100か0か……だが、調整ができるようになれば身体に見合った出力で使えるようになるよ。器を鍛えれば鍛える程、力は自在に動かせる。こんな風にね!」
そういってパパはマッスルフォームに変身し、足下に落ちてた空き缶を握り潰した。
地味なパフォーマンスだと思うけど、私達の励ましを受けた緑谷少年が奮起したから、結果オーライかな。
その直後、パパのマッスルフォームを一般人に目撃され、私達は逃げるようにその場を後にした。
有名人は大変だなー。
そして、こういうところがパパのポンコツたる所以だと思うんだ私は。
……ほんとに大丈夫かなー、パパの教師生活。
何事もなきゃいいけど。
そうして夜は更けていった。
◆◆◆
時は流れ。
春になった。
春。
それは高校生活の始まり。
出会いと別れの季節だ。
もっとも、友達と呼べる相手が緑谷少年と謎の紳士(とその助手の人)しかいない私にとって別れは縁がない。
ただの出会いの季節だ。
新たなる出会いに心踊らせながら、私は雄英校舎を歩いていた。
パパはいない。
いくら親子で同じ敷地内にいるとはいえ、ここでは教師と生徒。
教師の通勤時間と生徒の通学時間が同じな訳ないから、パパがいないのは至極当然だ。
ちょっと寂しい気もするが、仕方あるまい。
途中、教室への道のりにやたらデカい芋虫がいたので廊下の端に蹴り飛ばしつつ、たどり着いたのは一年A組。
今日から私が通う教室だ。
おお。
ドア、でか。
バリアフリーか。
……なんかちょっと感動するな。
今日から私は憧れの……て程でもないけど、女子高生なんだと思うと。
小学、中学とは違うまとも学校に通えるという事実が、柄にもなく私をワクワクさせる。
さあ、このドアの向こうにはどんな出会いが待っているのだろうか。
こんにちは青春!
今この小悪魔系美少女、八木魔美子が会いに行くぞ!!
「おっはようございまーす!!」
「うるっせえぞボケェ!!!」
ドアを開けたらいきなりの暴言。
私のワクワクとした気持ちを返せこのヤロー。
まったく、誰だこんな失礼な事言ったのは!
雄英はいつからヤンキーの通う不良校になったんだ!?
憤慨しながら声のした方を向くと、そこには例の不良少年がいた。
君、受かってたんか。
素行不良で落とされたもんだと思ってたよ。
そして不良少年も私に気づいたのか、途端に眉間に皺が寄り、めっさ不機嫌な感じに顔面が歪んだ。
「テメぇか……」
不良少年はそれだけぼそりと呟いて、そっぽを向いてしまった。
私はそのあまりの失礼な態度にカチンときた。
ので、不良少年の席までつかつかと歩いていき、その頭頂部をアイアンクローで鷲掴みにして、無理矢理こっちを向かせてやった。
「ッ~~~~!!!? 何しやがるテメぇ!!!」
不良少年が声にならない悲鳴を上げながらも、しっかりと文句を言ってくる。
ほう。
中々に根性があるではないか。
頭部が潰れたトマトみたいになる程の力ではないとはいえ、それでもかなりの万力で締め上げているというのに、まだ反抗する気概があるとは。
だが、離してやらない。
「人に暴言吐いたらまずごめんなさいでしょ。それが聞けるまでこの手は離さんぞ!!」
「ふざけんなあ!!!」
不良少年は私の手を掴んでなんとか引き剥がそうと必死に足掻いているけど無駄だ!
君と私では力の差がありすぎるのだよ!
主に単純な腕力の差という意味でな!
そうして抵抗が強くなる程に、頭の締め付けも強くしてやった。
フハハハハハハハハ!
良いのか?
これ以上無駄な抵抗を続ければ、毛根に完治不能のダメージが残ってしまうかもしれんぞ!
本当に良いのか!?
それでも不良少年は反抗的な目付きで睨み付けてくるばかりで、まったく謝罪する気配がない。
頑固だな。
プライドが高すぎるのは如何なものかと思うよ。
素直にごめんなさいすれば、それで済む話だというのに。
「君! さすがにそれはやりすぎだ! もう離してやってくれないか!」
そう思いながらも更に締め付けを強くしていると、横からそんな言葉をかけられた。
声の方に振り返ると、どこかで見たような眼鏡の少年の姿が。
……どこで見たっけな?
ああ、思い出した。
入試の時、緑谷少年に噛みついてた少年だ。
「彼も反省……はしていないかもしれないが、それでも暴力に訴えるのはヒーロー科の生徒として如何なものかと思うんだ。やるのなら話し合いで解決するべきだと俺は思う」
おお。
眼鏡少年、真面目やね。
ふむ。
たしかにその通りだ。
思えば入学のワクワク気分を台無しにされたせいで、私もちょっと感情的になっちゃってたよ。
いやー、失敬失敬。
という訳で、いよいよ限界が近づいて昇天しそうになってる不良少年を解放してあげた。
頭を離した途端に机に崩れ落ちる不良少年。
おーい、生きてるかーい?
頬をペチペチするも反応がない。
なんてこった。
入学初日から死人を出してしまったぜ。
まあ、冗談はさておき。
まずは大事に至る前に止めてくれた眼鏡少年に、お礼と自己紹介でもしようかね。
「いやー、止めてくれてありがとね。私もちょっとムキになっちゃってた。ごめんね」
「い、いや、分かってくれればいいんだ」
「私、八木魔美子。これから一年どうぞよろしく」
「あ、ああ。俺は
眼鏡少年、改め、飯田少年はひきつった表情で私と握手を交わしてくれた。
あのアイアンクローを見た上で握手に応じるとは……。
この子も中々根性あるな。
さすがヒーロー科。
優秀なのが揃ってる。
他の生徒諸君は、そんな飯田少年を見て「勇者……!」とか呟いてるけど。
飯田少年が勇者なら魔王は誰だ?
私か?
悪魔だけに。
……うん。
聞かなかった事にしよう。
「……何これ?」
そんな声を聞いて振り向いてみれば、今まさにドアから入って来たらしい緑谷少年と目が合った。
君も同じクラスか!
普通に嬉しいぜ!
という意味を込めてにっこりと笑いかけてあげたら、なんか怯えてた。
失礼な。
その後、これまたなんか見た事あるような少女がドアから現れて、緑谷少年と談笑を始めた。
……どこで見たっけな?
ああ、思い出した。
入試前にすっ転びそうになった緑谷少年を助けてくれた子だ。
そんな少女に話しかけられて緑谷少年はたじたじのまっかっか。
私という超絶美少女と約一年も一緒にいて、未だに女の子に対する免疫がないのか緑谷少年。
情けないなー。
これだから童貞は。
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここはヒーロー科だぞ」
そんな童貞必死の奮戦は突然乱入してきた声によって中断された。
声のした廊下の方を見ると、なんかデカい芋虫みたいな寝袋に入った不審者がいた。
あれもどっかで見た事あるような気がする。
……どこで見たっけ。
ああ、思い出した。
教室に来る途中で廊下の端に蹴り飛ばした芋虫だ。
あれ人間だったんか。
ゴミか何かだと思ってた。
「ハイ。静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠くね」
そんな事言いながら、不審者は寝袋から出てきた。
小汚ないおじさんだった。
誰これ?
用務員さん?
「担任の
担任!?
やべえ。
私、担任蹴り飛ばしちゃったよ。
絶対怒ってるよ。
その証拠に、なんか鋭い眼光が私を射ぬいてるよ。
やばい!
我が天敵、お説教が襲来する!!
「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」
しかし、私の嫌な未来予想はどういう訳か外れた。
巨体な芋虫、改め、相澤先生はふいっと私から視線を外すと、寝袋の中から体操服を取り出し、それを近くに居た緑谷少年に押し付けてどっか行ってしまった。
言葉通りなら先にグラウンドに行ったんだろう。
え?
怒らないの?
そんな疑問を抱きつつ、雄英での初めての授業が始まった。