小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「「「「「「個性把握テストぉ!?」」」」」」
クラスメイト諸君の驚愕の声がグラウンドに木霊する。
それは芋虫……じゃなかった、相澤先生が言い出したある事が原因だった。
全員をグラウンドに呼び出した相澤先生は、なんと、入学初日からいきなりの個性を使った体力測定をやると言い出したのだ。
これには一同驚愕して、皆の内心を代弁するかのように緑谷少年と談笑していた少女が「入学式は!? ガイダンスは!?」と至極まっとうな突っ込みをしてくれたけど、
相澤先生は「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ」と、とりつく島もない返答した後、「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」とかいう屁理屈を言い出した。
そう屁理屈だ。
しかし私は知っている。
この学校はそういう場所だと。
なにせ、推薦入学者が一般入試を受けられるくらいの自由っぷりだもんなあ!!
既に恩恵を受けている手前、何も言えないぜ……。
ハア。
普通の学校行事……楽しみにしてたんだけどなぁ……。
地味にショックだ。
そんな感じで、私が内心ちょっとブルーになっている間にも、相澤先生の演説は続く。
「中学の頃からやってるだろ? 個性禁止の体力テスト。国は未だに画一的な記録を取って平均を作り続けている。合理的じゃない」
「八木。中学の時のソフトボール投げ何メートルだった?」
おっと。
相澤先生が何故か私に話しを振ってきたぞ。
まあ、聞かれからには真面目に答えようか。
「710メートルです」
「……もう一度言ってみろ」
はて?
聞こえなかったのかな?
相澤先生はその年にして耳が遠くなってるのかもしれない。
かわいそうに。
私は相澤先生に軽く同情しながらも、もう一度はっきりと言ってあげた。
聞き取りやすいようにハキハキと、滑舌の良い美声で。
「710メートルです」
「……個性なしでの話しだぞ」
「はい。そうですけど」
「……ゴリラか?」
失礼な!
こんな美少女を相手に、言うに事欠いてゴリラだと!!
許せん!!
パワハラで訴えてやる!!
とは思ったものの、まあ、相澤先生の気持ちも分からんでもない。
私だって自分のこの力が異常だっていう事は理解してる。
この怪力の正体は、肉体の力というよりは未発動状態でも体に影響を及ぼしてる
相澤先生が悪い訳じゃない。
だから、怒りのままに行動に移すのは止めておいてあげよう。
命拾いしたな相澤先生!!
だが、後でゴリラは訂正しろ!!
「ハア……本当に規格外だな……。まあ良い。じゃあ今度は個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何しても良い、早よ」
そう言って相澤先生は私にソフトボールを渡してきた。
ゴリラ発言を有耶無耶にするつもりか。
良いだろう。
この場はその作戦に乗ってやんよ。
でも、後で職員室行くかんな。
覚悟しておけ!!
そんな物騒な事を考えつつも、このソフトボール投げについて真面目に考える。
何しても良いって言われたし、確実に一番遠くまでボールを運べるのは、翼使ってボールを掴んだままどこまでも飛んで行く作戦だと思う。
でもそれは面倒くさいなぁー。
しかも翼使うんだったら体操服に穴空けないといけないし。
一応、突発的に翼を使わなくちゃいけない事態になった時の為に、服の下には見られても問題ないスク水(肩甲骨が露出してるタイプ:めっちゃ丈夫な特注品)を下着の代わりに着てるけど、態々この場で披露する事もないよね。
決めた。
普通に投げよう。
「悪魔の右腕」
そうして私は個性を解放した。
今回は戦いの為ではなく、ソフトボールを投げる為に。
さあ! 見るが良い!
悪魔の投球フォームを!!
「スマッシュ!!!」
掛け声と共にボールを投げる。
悪魔の怪力で投げられたボールは、もの凄いスピードで大空を駆け抜け、地平線の彼方に消えて行った。
ホームラン!
なんちゃって。
さあ、記録はいくつよ?
「計測不能か……馬鹿力め。学校の敷地外にまで飛ばしたな」
まさかの計測不能が出ました。
これは場外ホームランという扱いで良いんですよね? ね?
ファール扱いは嫌だぞ……。
「……まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
私の懸念は完全にスルーされ、相澤先生は演説を再開した。
心なしか、若干疲れたような顔してる気がする。
そ、そんな顔されたらホームランがどうとか聞けないじゃないか……。
「なんだこれ!! すげー面白そう!!」
「計測不能って、化物かよ……!」
「でも、個性思いっきり使えるんだ! さすがヒーロー科!」
「にしても、あいつやっぱすげーな!! さすがヘドロ事件の英雄!!」
そして私の内心を他所に、クラスメイト諸君がはしゃぎ始めた。
まあ、個性を思う存分使えるのは嬉しいよね。
分かる分かる。
中には私の活躍を見て盛り上がってる子達もいるよ。
そう、何を隠そう私、実はちょっとした有名人なのだ!
ヘドロヴィランの時に思いっきりテレビに映っちゃたからね!
「面白そう……か」
その時、ぼそっと呟かれた相澤先生の声を私の耳が捉えた。
はて?
そこはかとなく不吉なニュアンスが含まれているように感じるのは、私の気のせいだろうか?
「ヒーローになる為の三年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」
気のせいじゃなかった。
相澤先生から謎の威圧感が発せられている!
何これ!?
怖!!
「よし。トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し──除籍処分としよう」
「「「「「はあああああ!!?」」」」」
相澤先生の突然の横暴に、クラスメイト諸君から驚愕とも悲鳴ともつかない絶叫が上がった。
うん。
そりゃ驚くわ。
ちょっとこの先生厳しすぎやしないか?
私は多分、余裕だけど。
「生徒の如何は
これは……とんでもない先生に当たってしまったかもしれない。
私も気を付けないと危ないかもな。
今日の授業では多分大丈夫だけど、その内素行不良とかでふるい落とされそうだ。
注意しておこう。
あ!
ていうかこれ、緑谷少年大丈夫か?
あの子まだ全然個性の制御できてないし、クラスメイト諸君の実力次第では落とされるぞ!
ちょっと心配になって緑谷少年の方を見れば、案の定、顔面を真っ青にして冷や汗をかいていた。
大丈夫じゃないね!?
でも助けてはやれぬ。
自分の力で頑張ってくれ。
大丈夫だ!!
除籍されたからって死にはしない!!
死ななきゃ安いの精神で乗りきってくれ!!
そうして始まった個性把握テスト。
その内容をダイジェストでお送りしよう。
第1種目:50メートル走
「悪魔の左脚。デビル・ダッシュ!!」
「0秒51」
「0秒台!!!?」
片足だけ個性使って、スタートダッシュの踏み込みだけで50メートルを走破してやったよ。
もはや走りじゃないな!
第2種目:握力
「すげぇ!! 540キロて!! あんたゴリラ!? タコか!!」
「タコって、エロイよね……」
クラスメイトの一部がそんな茶番をやっているのを聞きながら、まずは個性なしで計ってみる。
結果は540キロだった。
あそこの腕が六本あって翼みたいになってる少年と同じ数値だね。
で、ここから更に手首から先だけ個性を発動して計ってみた。
メシャッ
「あ」
握力計が潰れてしまった。
──握力:計測不能。
第3種目:立ち幅跳び
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
なにやらクラスメイトのブドウ頭が雄叫びを上げていた。
この種目なら翼を使った方が良いだろうと判断した私は、上着を脱いで上半身だけスク水姿になったんだが……ブドウ頭はそんな私の姿を見て絶叫していた。
普通に気持ち悪かったし、他のクラスメイト諸君もブドウ頭をまるで汚物でも見るような視線で針のむしろにしていた。
あれは少年とすら呼びたくない。
もっと汚らわしいナニカだ。
──立ち幅跳び:計測不能
第4種目:反復横跳び
「悪魔の両脚。デビル・反復横跳び!!」
「ざ、残像が見える!?」
「俺、リアルで残像作れる人間初めて見た!!」
──反復横跳び:10059回
第5種目:ボール投げ
「スマッシュ!!!」
私の記録はデモンストレーションの時と変わらず計測不能。
それは良い。
でもこの種目で、緑谷少年の方に事件があった。
周りが個性を使って良い記録を出しているのを見て焦ったんだろう。
緑谷少年の記録は、まあ、悪くはないけど今一パッとしない感じだったからね。
このままだと最下位もあり得る。
そこで緑谷少年は勝負に出た。
制御できていない、使えば体が壊れる個性を使おうとした。
結果は46メートル。
おかしい。
個性を使ったのなら私並みの記録が出る筈だし、なにより緑谷少年の腕は壊れていない。
どういうこっちゃ?
「個性を消した」
そんな私の疑問に答えてくれたのは、なにやら髪を逆立てながら怖い顔をした相澤先生だった。
それにしても、個性を消した?
個性を奪うっていうのなら知ってるけど、消すなんてものは初めて見たな。
これが相澤先生の個性だろうか?
「消した……! あのゴーグル……そうか……! 見ただけで人の個性を抹消する個性……!! 抹消ヒーロー『イレイザー・ヘッド』!!」
今度は緑谷少年が説明してくれた。
やっぱりあの個性消去は相澤先生の個性だったか。
……私の個性も消せるのかな?
いや、無理か。
それができるんだったら、相澤先生とはもう少し早く出会ってた筈だ。
そして相澤先生は緑谷少年にお説教を始めた。
お説教。
それは悪魔の行為だ。
悪魔の私を震え上がらせるんだから、奴こそが真の悪魔と言っても過言ではないだろう。
「見たとこ……個性を制御できてないんだろう?
また行動不能になって、誰かに助けてもらうつもりだったか?」
「お前のは一人を助けて木偶の坊になるだけ。緑谷出久。お前の力じゃヒーローにはなれないよ」
相澤先生、結構キツイ事言ってるなー。
いや、その通りではあるんだけれども。
でもそれって、これから学んでいけば良いんじゃね? とも思うんだよね。
まあ、相澤先生の教育方針に口を出すつもりはないから黙ってるけども。
「個性は戻した。ボール投げは二回だ。とっとと済ませな」
相澤先生に冷たくそう言われて、緑谷少年は暗い顔でなんかブツブツと言いながら、ボール投げ用のサークルの中に入った。
さて、どうなる事やら。
相澤先生に嫌われたっていうか、目をつけられちゃった以上、注意を無視して個性で自滅しようものなら、マジで除籍されかねない。
かと言って、萎縮して何もしなければ、このまま最下位になって除籍。
緑谷少年、八方塞がりじゃん。
これはマジで駄目かも分からんね。
そして、緑谷少年は選んだ。
第三の選択肢を。
「ワン・フォー・オール」の力が、腕全体ではなく、右手の人差し指一本に集中する。
その指を使ってボールを投げた。
指一本とはいえ、そこは
私程じゃないにせよ、ボールは結構な距離を飛び、割りと優秀な成績を残してた不良少年と同じくらいの記録を残した。
その代償は指一本の骨折。
めっちゃ痛そうだけど、動けない程の怪我じゃない。
「あの痛み…程じゃない!!」
実際、緑谷少年はまだあの時みたいに倒れていない。
「まだ……動けます!」
「こいつ……!」
目に涙を溜めながらも気丈に宣言する緑谷少年を見て、相澤先生もなんか笑ってる。
含みのある感じじゃなくて、楽しんでるような、あるいは喜んでるような、そんな感じの笑みだ。
これは、ちょっとだけ見直したんじゃないかな、相澤先生?
実際、私も凄いと思うよ。
あの追い詰められた状況で、よくこんな手を思い付いたな緑谷少年。
今できる事の中では間違いなく最善の手でしょ、あれ。
天晴れ見事と褒めてあげたくなる。
でも、そんな空気に水を差す不粋な輩がいた。
「どーいうことだこら!!! ワケを言えデクてめぇ!!!」
「うわああ!!!」
私と同じくおとなしく観戦していた筈の不良少年が、突如個性で爆発を起こしながら、緑谷少年目掛けて突撃した。
彼との因縁については私も緑谷少年から聞いて知ってる。
若干重い話で、聞いてて気が滅入ったよ。
その話によると、彼はずっと緑谷少年を見下していたそうだ。
無個性のデクと呼んで憚らなかったらしい。
で、今そのずっと馬鹿にしてた相手があり得ない力を発揮している。
そりゃ混乱するだろうね。
でも暴力はいかんよ。
私は軽く地面を踏み込んで一気に加速し、不良少年の後ろを取った。
個性は使わない。
あれは簡単に人に向けて良いもんじゃないからね。
「必殺! 首トンの術!」
「ぐお!?」
代わりに首の裏をトンとして気絶させる、数多の漫画に描かれていた必殺技を使った。
不良少年はいきなり攻撃されたせいで体勢を崩し、地面に倒れこんだ。
でも気絶はしていないらしく、すぐに立ち上がって今度は私に噛みついてきた。
「邪魔すんな!!! クソ女!!!」
おかしいな。
首トンの術をかけられたら気絶する筈なのに。
やっぱりあれはただの漫画的表現だったのかね。
これなら普通に殴った方が早そうだ。
という訳で、普通に殴って止める事にした。
不良少年の攻撃が私に届く前に拳を繰り出し、顔面を捉える。
「ぐふっ!?」
そのままの勢いで拳ごと不良少年の頭を地面に叩きつけて終了ー。
不良少年は気絶している!
ふ、他愛ないぜ。
「おい。気絶させるな。起こせ」
と思ったら、相澤先生からお叱りの言葉をもらってしまった。
え? 起こすの?
絶対暴れるよこの子。
「その場合は俺が対処する。早くしろ、時間の無駄だ。……それに、今のは爆豪が悪いとはいえ暴力を振るうのは褒められた事じゃない。今後許可のない武力行使は慎むように」
お、おう。
すいませんでした。
とりあえず言われた通りに不良少年の頬っぺたをぺちぺちとして起こした。
案の定暴れた。
その瞬間、相澤先生の包帯みたいな捕縛武器で不良少年はがんじがらめにされたが、相澤先生がちょっと話しただけで表面上は冷静さを取り戻し、静かになった。
……不良少年、思ったより聞き分けが良かった。
ていうか、これなら私の助けはいらなかったな。
余計な事しちまったぜ。
緑谷少年は普通にお礼を言ってくれたけど。
その後も個性把握テストはつつがなく進み、結果発表の時間がやってきた。
「ちなみに、除籍はウソな」
その時、空気が凍った。
「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」
「「「「「「はーーーーーーーーーー!!?」」」」」」
そして上がる絶叫。
そりゃそうだよね。
こんなたちの悪いジョークに付き合わされて寿命が縮むようなプレッシャーをかけられた後でこれだもん。
そりゃ、大声の一つも上げたくなるよ。
「あんなのウソに決まってるじゃない……。ちょっと考えれば分かりますわ」
て言ってる少女もいるけど、果たしてどうかなー。
私的には、相澤先生は結構本気だったと思うんだ。
でも皆それなりに良いとこ見せたから途中で心変わりしてくれた、っていう方が説得力ある気がするよ。
ちなみに表示された順位を見ると、私は一位、緑谷少年は最下位だった。
私の方は当然として、緑谷少年はほんと命拾いしたね。
入学初日からこれじゃあ、これから先が大変そうだ。
頑張れ少年!!
そんなこんなで、雄英最初の授業は終わりを告げた。