小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
──相澤視点
「相澤くんのウソつき!」
個性把握テストを終え、職員室に戻ろうとしていた俺は、そんな言葉で呼び止められた。
呼び止めた相手は今年教師になったばかりの新米にして、ヒーローとしては不動の頂点に君臨するナンバーワンヒーロー「オールマイト」だった。
「オールマイトさん……見てたんですね」
どうやらこの人は先程の個性把握テストを盗み見ていたらしい。
その行動に違和感はない。
なにせ今年の俺の受け持ちクラスにはこの人の娘である八木がいる。
何も事情を知らなければ公私混同を疑い叱責の一つでもしたかもしれないが、俺は
その事情に鑑みて考えれば、オールマイトの行動に異論を挟もうとは思わない。
少々合理性にはかけるが、最初の授業を見守るくらいの事は許されるだろう。
俺ならば八木を除籍しかねないという懸念を持っていてもおかしくはないからな。
だが、どうも話は俺の予想していなかった方向に進み始めた。
「見込みゼロと判断すれば迷わず切り捨てる。そんな男が前言撤回っ! それってさ! ──君も
てっきり八木の話をしに来たのかと思っていただけに、一瞬誰の話をしているのか分からなかったが……状況から考えて緑谷の事だと理解した。
……何故、オールマイトがあいつに注目する?
「……君も? ずいぶんと肩入れしているんですね? 先生としてどうなんですかそれは」
そう言って少し揺さぶってみると、オールマイトは分かりやすいくらい過剰に反応した。
あいつに何かあるのか……?
その何かは分からないが、オールマイトの態度から見て八木のような問題を抱えている訳ではない事は分かる。
ならば俺は普通に一生徒として接するだけだ。
いつも通りにな……。
「ゼロではなかった。それだけです。見込みがない者はいつでも切り捨てます。半端に夢を追わせる事ほど残酷なものはない」
それだけ告げて、さっさとその場を去る。
誰が相手であろうとこの教育方針は変えるつもりはない。
それこそ八木のような特例中の特例が相手でもな。
八木魔美子。
強力な個性を持ち、戦闘能力だけならば既にオールマイト並みという報告まで上がっている逸材。
だが、同時に個性の副作用のせいで脳に障害を持ち、強烈な破壊衝動を抱えている危険人物。
過去に大事件を起こしたという経歴から、警察や政府の上層部には
その個性は俺でも消せなかった。
個性未発動状態でも驚異的な身体能力を有するという点から考えて、あいつの個性は半分常時発動型……つまり異形型の混じった複合型なんだろう。
俺の個性では異形型の個性は消せない。
そう考えるとあいつの個性を消せなかった理由としてしっくりくる。
そうなってくると、あいつが暴走した時に止められるのはオールマイトくらいしかいないだろう。
上が警戒するのも分からんでもない。
だが、俺はあいつを危険人物として以上に優秀な生徒として認識している。
確かにあいつは危険だろう。
今日だって暴れだした爆豪を相手にとはいえ、躊躇いなく暴力を振るった。
その本質はヒーローではなくヴィランに近いのかもしれない。
それでもあいつは自分の衝動を抑えられていた。
緑谷と違って自分の個性をしっかりと使いこなし、爆豪相手にもきちんと手加減して致命傷を負わないようにしていた。
問題児ではある。
だが、充分に教育可能な範囲内だ。
あいつは育て方次第でヒーローにもヴィランにもなり得る。
ならば俺は教師として、あいつを立派なヒーローに育て上げよう。
破壊衝動があるならば、それをヴィランに向けさせれば良い。
その上で殺さないように手加減する事を教えれば良い。
実に合理的だ。
過去に起こした大事件は確かに問題だろうが、それでもあいつに責任がある訳じゃない。
被害者や遺族からすればやりきれない話だろうが、それによってあいつの人生がねじ曲げられるというのもまた許されてはならない。
ならば過去の出来事は公表せず、このまま闇の中に消し去ってしまえば良い。
無駄に傷口を広げるだけの行いなど、非合理性の極みだ。
これはヒーローとしては許されざる考え方なのかもしれない。
だがそれでも俺は、きれい事で人を傷つけるよりも、合理的な手段でより多くの人々をより効率的に救う道を選ぶ。
それだけの事だ。
それがプロヒーロー『イレイザー・ヘッド』の正義なのだから。
そんな事を思いながら、俺は職員室への道を急いだ。
◆◆◆
慌ただしかった入学初日が終わり、下校時間がやってきた。
私は校門付近において、お疲れモードの緑谷少年を発見したので、労ってやるかと思って話しかける事にした。
「おつかれ! 緑谷少年!」
そう言って緑谷少年の背中を軽く叩く。
「うわッ!? て、八木さんか。うん。八木さんもおつかれ」
思ったよりも威力が高かったのか緑谷少年は体勢を崩しかけたけど、この程度の打撃が入る事は修行時代にはざらだったので、緑谷少年は体勢を立て直して普通に返事をしてきた。
なんだか、少しだけ成長が感じられる。
と、そこで眼鏡少年こと飯田少年が近づいて来た。
そして緑谷少年にとっての死角から迫り、その肩に手を置いた。
「指は治ったのかい?」
「わ!? 飯田くん……! うん。リカバリーガールのおかげで」
緑谷少年は死角からの襲来に少し驚いたみたいだけど、これまた普通に対応していた。
でも、今のは修行が足らんよ。
死角からの接近は気配で感じとらなきゃ。
ちなみに、リカバリーガールとは雄英の看護教諭の名前だ。
治癒系の個性を持ってて、自滅しまくってる緑谷少年はかなりお世話になってるらしい。
ちなみに、私とは昔からの知り合いだったりする。
ぶっちゃけ私の主治医だ。
「八木くん。今日はやられたよ。見事としか言い様のない実力だった! これからも同じ目標を持つ仲間として切磋琢磨していこう! 改めてよろしく!」
「よろしく~」
飯田少年のやたらと熱の籠った挨拶に対して、私は普通に返答した。
そこに今朝私に怯えていた少年の面影はなかった。
強力なライバルの出現に燃えてるのかね?
熱血キャラなのか?
「しかし相澤先生にはやられたよ。俺は『これが最高峰!』とか思ってしまった! 教師がウソで鼓舞するとは……」
違った。
真面目キャラだった。
さすが眼鏡。
眼鏡装備は伊達ではないな!
でも、その話には突っ込みどころがあるので口を挟ませてもらおう。
「相澤先生は多分、半分以上本気だったと思うよ。あそこで不甲斐ない結果出してたらマジで除籍されてたと私は思う」
「ム! しかし、相澤先生は合理的虚偽と……」
「それこそがウソって可能性もあるよね」
飯田少年は「確かに……!」とか言って考え込んでしまった。
緑谷少年は私の言葉を聞いて顔を青くしている。
そうだね。
私の推測が正しいとしたら、一番危なかったのは君だもんね。
「おーい! 三人ともー! 駅まで? 待ってー!」
そうして会話が途切れたところに、新たに話しかけてくる人物が現れた。
たしか、今朝緑谷少年と談笑してた子だ。
「君は、∞女子」
飯田少年は彼女をそう表した。
多分、個性把握テストの時にボール投げで∞という記録を出してたのが原因だ。
あれって多分、私の計測不能よりも高得点だと思うんだ。
そう考えると、この少女は凄いな。
「
「デク!!?」
なんと。
それはそれは。
「緑谷少年。いつ改名したんだ?」
「してないよ!」
「え? でもテストの時爆豪って人が『デクてめぇ!!!』って」
ああ。
不良少年のせいか。
そういえばあの子、今日一日は私と緑谷少年の事を穴が空くほど睨み付けてきてたっけ。
「あの……本名は
「蔑称か」
「えー、そうなんだ! ごめん!」
「でも『デク』って『頑張れ!!』って感じで、なんか好きだ私」
「デクです!!」
「緑谷くん!?」
私が不良少年の事を思い出してる間に、なんか漫才トリオが結成されていた。
楽しそうだなおい。
「浅いぞ!! 蔑称なんだろ!?」
「コペルニクス的転回……」
「コペ?」
「なんじゃそりゃ」
緑谷少年がおかしくなった。
個性の反動が頭にきたのかな?
だったら良いお医者さん紹介できるよ。
私の主治医だけど。
って、もう知り合ってたか!
そんな感じで楽しくだべりながら帰る通学路は、とても楽しかった。
こういう経験は初めてだったけど、良いものだね。
その夜。
友達が出来たとパパに報告すると、とっても喜んでくれた。
その後、明日の授業で使うパパのコスチューム選びに付き合わされた。
それは私の服選びのように長く、途中で「乙女か!」と突っ込みを入れてしまった。
同時に、今度服選びに付き合わせる時はもう少し早く決めてあげようと思った。
◆◆◆
翌日。
午前の授業を終え、午後のヒーロー基礎学の時間。
「わーたーしーがー!!! 普通にドアから来た!!!」
そこには昨日の夜私と相談して、最終的に決定したシルバーエイジのコスチュームに着替えたパパの姿があった。
そう。
今日はついにパパの教師としての初陣だ。
頑張れパパ!!
私は子供を見守る親の心境でいた。
「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作る為、様々な訓練を行う課目だ!! 単位数も最も多いぞ!」
よし。
今のところ噛まずに言えてるな。
「早速だが、今日はコレ!! 戦闘訓練!!」
その言葉にざわめくクラスメイト諸君。
いきなりかという緊張と、ようやくかという興奮が伝わってくる。
「そしてそいつに伴って、こちら!! 入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえた……
「「「「「おおお!!!」」」」」
その言葉にざわめくクラスメイト諸君。
今度は完全に期待と興奮が緊張を押し退けたらしい。
かくいう私だって楽しみだ。
コスチュームなんてテンション上がって当然でしょ!!
「着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!!」
「「「「「はーい!!!」」」」」
そうしていそいそと着替え(更衣室で)コスチュームを装着し終えたところで麗日少女が声をかけてきた。
「わ~魔美ちゃんかわいいね!」
「ふっふっふ、それほどでもある!!」
私のコスチュームは全体的に黒色系で、上半身は丈の短いチアガールみたいな服で腕やおへそを大胆に露出し、下半身はホットパンツ、縞模様のニーソックスにロングブーツという、小悪魔を意識した作りになっている。
私の小柄でロリっぽい体型に加え、さらに金髪ロングヘアーの美少女属性と相まって、まさに小悪魔といった感じだ。
そして要望通りならこのコスチューム、露出の多い見た目に反してとてつもなく頑丈で、たとえ音速で飛行しようとも壊れず、脱げないという優れものなのだ!!
そんな逸品が今ならお値段、学校負担で実質ゼロ円!!
お買い得なんてもんじゃないな!!
あ、ちなみに麗日少女とは名前で呼んでもらえる仲になったよ。
「魔美ちゃんて変な口調だね~」とも言われたけど。
「麗日少女もかわいい……ていうかカッコいいぞ!」
「ありがと~。でも、要望ちゃんと書けばよかったよ……。パツパツスーツんなった……」
「はずかしい」と小声で呟いたのが聞こえた。
その後「魔美ちゃんはなんで平気なんやろ?」とも聞こえた。
私は恥女じゃないぞ!
小悪魔系を目指したらこのスタイルに落ち着いただけだ!
私の個性の印象をマイルドにしようと試行錯誤した結果なんだ!
そんな問答をしながらもグラウンド・βへ。
そこはグラウンドとは名ばかりのビル群だった。
入試会場もそうだったけど、雄英はこういうのにお金かけすぎだと思う。
そしてブドウ頭の視線が鬱陶しい。
いや、私だけじゃない。
奴の視線は全ての女子の間を行ったり来たりしながら、一人一人舐めるように観察していた。
特に露出が激しい私ともう一人の少女に送られる視線が半端ない。
セクハラで訴えるか、それとも試験のどさくさに紛れて抹殺するか。
悩みどころだ。
そうしてブドウ頭の処刑方法を考えていると、他の皆にちょっと遅れて緑谷少年がやって来た。
ジャージっぽい服に、特徴的なマスクを付けたコスチュームを着てる。
ていうか、あのマスク分かりやすいな。
頭の部分の角みたいなパーツが、パパの髪型を意識してるのが一目で分かる。
「やあ! 緑谷少年!」
「あ! デクくん! かっこいいね! 地に足ついた感じ!」
「八木さん、麗日さ……うおおお……!」
緑谷少年の目が、私と麗日少女のコスチュームを見て見開かれる。
私のは露出が激しいし、麗日少女のコスチュームは全身タイツみたいに体にフィットするタイプでボディラインが強調されている。
特に胸。
目のやり場に困るのも納得だ。
「ヒーロー科最高」
「ええ!?」
ブドウ頭が緑谷少年に近づいて何事かほざいていた。
「去れ! ブドウ頭!! 汚らわしい!! ダークネス・スマッシュ!!」
「うわ!? 何すんだ!? 殺す気か!?」
「八木さん!?」
「魔美ちゃん、落ち着いて!! 気持ちはよう分かるけど落ち着いて!!」
麗日少女に宥められて、なんとか矛を納める。
緑谷少年。
君はあんな風にだけはなるなよ。
あれは全女性の敵だ。
ただのヴィランだ。
もしそうなってしまったら、私の手で引導を渡してやる。
「えーと……。ちょっとトラブルがあったみたいだけど気を取り直して……」
「始めようか有精卵共!!! 戦闘訓練のお時間だ!!!」
その一言で、パパの教師としての初めての授業が始まった。
娘としてこの授業はぜひとも成功させてあげたい。
さっきはつい暴走しちゃったけど、今度はできるだけ我慢しよう。
新米教師にトラブル処理までやらせるのは、さすがにかわいそうだ。
……仕方ない。ブドウ頭の抹殺はまた今度にするか。
その事を残念に思いつつ、私は授業に集中した。