バンドリ短編   作:天城修慧/雨晴恋歌

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白金矽ちゃんの話。



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2/20 一部フラグを改変


お姉ちゃん2

 

 

 

 

ある休みの日のことだった。

 

自室にこもってスケッチブックにお姉ちゃんを描いていると、突然スマートフォンが鳴った。

 

マナーモードにしていたつもりがしていなかったよう。

 

神聖なお姉ちゃんを描くという儀式を邪魔するのはいったい誰なんだ。

 

スケッチブックと鉛筆をほっぽって床でガリガリ騒音を出しているスマートフォンを拾い上げた。

 

イライラしながら、画面もよく見ないまま通話に出る。

 

 

「もしもし、誰ですか」

 

「あの…私よ。その、都合悪かったかしら。邪魔ならいいのよ」

 

「…え、あ、湊さん⁉︎」

 

 

慌てて画面を見ると…湊さん、って書いてある。

 

 

「ごめんなさいごめんなさい、違うんです、そんなつもりじゃなくって、」

 

「…ええ、わかったから落ち着いてちょうだい」

 

 

私には、湊さんに頭が上がらない理由がある。

 

1つ目は、過去にかなり失礼なことをしたこと。

 

お姉ちゃんのキーボードがRoseliaで弾いているときは全然輝いていなくて、私が好きだったお姉ちゃんじゃなくて。

 

いろいろ思うところがあって、直接的な言葉を避けつつ思いを伝えようとはしていたんだけど全然理解しようとしてくれなくて、ぷっちんきて、

 

『リーダーなのにそれか』とか『お姉ちゃんの音を返せ』とか『貴女の都合で私を不幸にしないで』ってわめき散らしてしまった。

 

まあその辺りは…湊さんのお父様への思いが似たようなものだったらしく、こう、心をグッサリえぐってしまったらしくて。

 

簡単に言うとRoselia崩壊の危機が。

 

冷静になって謝り倒していろいろ言ったり言わなかったり、珍しく私から踏み込んで友希那さんに元気になってもらおうと尽力したりして、なんとかいい方向に進んでくれたとはいえ、本当に申し訳ないことをしてしまったのである。

 

もう1つの理由は

 

 

「今日も、これから練習なの。どうかしら」

 

「…毎回、すみません」

 

 

休日にRoseliaの練習がある日には、見にこないかと誘ってくれるのだ。

 

人の目がある方がいい練習になるとか、燐子の音に限って言えばあなた以上に助言できる人がいないとか、理由までつけてくれる。

 

実際私が行ってすることといってもお姉ちゃんの音を聞くことや、求められた時にちょこっと感想を言うこと。

 

あとは…皆様を見ながら絵を描いたり。これがほとんど。

 

それなのに、湊さんは毎回誘ってくださって、…涙が溢れてしまうくらいに嬉しい。

 

「14時から、いつもの場所でやるわ。来たいなら来てちょうだい」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 

通話が終わった画面を見ると、今は13時過ぎ。

 

画材も買いたいしちょこっと早めに家を出ようと、さっきほっぽったスケッチブックを拾った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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お姉ちゃんに先に行ってるねといってから家を出た。

 

聞くとどうやらお姉ちゃんはあこちゃんと一緒に行くらしい。

 

ジェラシージェラシー。

 

お姉ちゃんの妹ポジション(というか実妹)は私のものなのにっ。

 

バカなことを考えながら文房具屋さんで足りない色の絵の具と消耗してしまった鉛筆を買った。

 

うーん今月のお小遣いがもうピンチだ。

 

調子に乗って欲しかった筆をまとめて買っちゃったから、学校に持っていく用のボールペンが切れてしまうかもしれない。

 

どうしようかな、

 

「水彩絵具持ってくとまた風紀委員さんに怒られるし…油絵の具ならセーフ?」

 

「アウトです、一体なにを考えているのですか」

 

ぎょっとして振り返る。

 

ギターケースを背負った、風紀委員さんがいた。

 

青い髪がふわりと広がる。

 

「そういう問題ではないと言ったでしょう、そもそも美術の授業でもないのに絵を描くという行為そのものが…」

 

風紀委員さんの口から聞き慣れた言葉が並ぶ。

 

またお説教コースかなーって思っていると、風紀委員さんが口を噤んでしまう。

 

「どうしたんですか?」

 

「いえ……矽さん。貴女は、どうして絵を描くのですか?」

 

「…なんで、そんなことを聞くんです」

 

いつもなら、『行為そのものがいけないんです。学生の本分は勉強なのですから、』と続くのに。どういう風の吹き回しなんだろう。

 

何か悪いものでも食べたのかな。

 

「貴女は、学校でもRoseliaの練習でも絵を描いています。でも、貴女の笑顔はただ純粋に笑っているようには感じられなくて」

 

「気のせいじゃないですか?私も楽しくなきゃこんなことやってませんよ」

 

「…でも、」

 

「上手くなりたいって気持ちが混ざってますから、それじゃないですか」

 

 

何故だろう、紗夜さんは引くそぶりを見せない。

 

…本当にどうして。風紀委員さん、そういう心情読み取るの下手そうなのに。

 

これは結構私の本質に近いから、あまり見せられるものではないから、隠してるつもりだったのに。

 

 

…ああ、もしかして

 

もしかすると、同類だったりするのかな

 

 

「風紀委員さん、妹さんがいるんですよね。もしかして妹さん、風紀委員さんより優秀ですか?」

 

「っ、なんでそんな」

 

風紀委員さんが狼狽える。

 

この反応は、きっとアタリだ。

 

当たりだというなら、きっと同じ思いのはず。

 

なら、だったら、

 

 

「なら私と一緒です。わたしと、いっしょ」

 

なんだ、そうだったんだ。なら親近感がわくな。

 

はやくいってくれたらよかったのに。

 

もっと早く言ってくれれば、いろいろお話しできたのに。

 

 

「私もなんです。どれだけ頑張ったって、お姉ちゃんに届かない。わかりますよ。風紀委員さんの気持ち」

 

 

風紀委員さん、なんて顔をしてるんだろ。

 

仲間だよ、私たち。

 

なんで怖がるの?

 

 

「追い越される方が辛いんでしょうか、一度も並ばないまま追いつけない方が

辛いんでしょうか。そこはよくわかりません。でも、私たちは」

 

 

「やめてっ」

 

 

ぱちん、と、伸ばした右手を風紀委員さんに払われる。

 

ヒリヒリと焼け付く痛みが幾分か気分を戻してくれた。

 

その手を握り締めながら呟く。

 

 

「…私が絵を描くのは、お姉ちゃんが好きだからです。いつか風紀委員さんたちと頂点に至ってしまうお姉ちゃんに並ぶには、私も至る必要があるんです」

 

「矽さん…」

 

痛みを訴える手を開いて息を吹きかけた。

 

「私にできるのは絵を描くこと。自分に出来ることを続ければ、そうすれば、もしかしたら、お姉ちゃんと、なんて」

 

手のひらを撫でてから、風紀委員さんの私を払った手を優しくとる。

 

「ごめんなさい。……紗夜さんなら、わかってくれるかなって思っちゃったんです」

 

「…いえ、私もすみませんでした。手は、大丈夫ですか?」

 

「痛いです。筆が持てなくなったらどうしましょうか」

 

「…貴女の利き手は左でしょう」

 

「覚えててくれたんですね。嬉しいです」

 

紗夜さんの手を引いて、スタジオの方向に歩いていく。

 

「よかったら、紗夜さんの妹さんのお話、聞かせてくれませんか?」

 

「…まあいいでしょう。私の妹、日菜は…

 

 

妹さんのことを語る紗夜さんの表情を伺う。

 

今の紗夜さんの表情は幾度も見たことがある。

 

妹を想う姉。

 

私は妹。紗夜さんはお姉さん。

 

きっと、何かしら、やっぱり違うのだろう。

 

ちょっぴり残念。

 

いっしょだったら、嬉しかったのにな。

 

そうすれば、溜まった何もかもを軽くしてくれたかもしれないのに。

 

 

 

 

 

 

 

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紗夜さんと一緒に歩いて、Roseliaの練習があるスタジオについた。

 

今日は、順当に行けばあこちゃんを描く順番なんだけど…今日はリサさんの気分だ。

 

…いや、言葉を濁さずに言おう。あこちゃんの気分じゃない。

 

妹っぽさがいけない。紗夜さんとのお話でお腹いっぱい。

 

それに比べてリサさんは圧倒的お母さん力。線を引く時も色を置く時もこう、びゅいん、って感じの……伝わらないか。

 

風紀委員さんにみりんをかけてことこと煮込んで…ってこの表現も伝わらなそう。

 

…ほら、私の本職は絵描きだから。言葉じゃなくて絵で表現するのが本分だから仕方ない。

 

お姉ちゃんの次のページになんとなくの構図を決めて数本線を引いていく。

 

今日の服は色が強いから気持ちだけ面積を意識しながら…

 

 

 

 

 

あれ?うまくいかない?

 

なんだかねっとりしてる。

 

もうちょっと、こう、明るい感じは…ポーズ変えたら変わる?

 

…なんでだろう、いつもならうまくいくんだけど…なんでだろう。

 

ずれてる?私が?リサさんが?風紀委員さんに拒絶されてメンタル弱ってたりするのかな。

 

そうだ、なら楽しいことを考えよう。

 

お姉ちゃんが1人、お姉ちゃんが2人、お姉ちゃんが3人、4、5、6、いっぱい…

 

「えへへ…」

 

「け、矽?大丈夫?」

 

 

気持ち悪い笑い声をあげながら絵を描いていると、リサさんに声をかけられてしまう。

 

そりゃそうか、不審だし。

 

頭でもイっちゃってるんじゃないかと思うよね普通。

 

心なしかリサさんの顔も歪んじゃってる気がする。

 

「大丈夫ですよ。…リサさん、ピースピース」

 

そのちょっと気持ち悪さを押し殺してるような瞳もとっっっっても魅力的なんだけど、やっぱり笑顔が見たいので鉛筆を持っている方の指を2本立てて笑顔を作って見せる。

 

そこはやはりリサさんの才能なのか、すぐにリサさんはだぶるぴーす付きで笑顔を浮かべてくれる。

 

作り物じゃない笑顔をすぐに引っ張り出してくれるのは描く方としても気楽でいい。

 

「さすがリサさん、今日も可愛いですね」

 

「そうかな?ありがと〜!矽も可愛いよ?」

 

「お姉ちゃんとどっちが可愛いですか?」

 

「えーっと…け、矽の方が、」

 

「今日はお姉ちゃんを褒めて欲しい気分です」

 

ふいっと顔を背けてみせるとリサさんがこちらに駆け寄ってこようとするが、アンプと繋がったベースがそれを邪魔する。

 

仕方がないのでスケッチブックを持って私がリサさんの方へ行った。

 

 

 

「右手、どうかしましたか?」

 

スケッチブックをぱらぱらめくって過去のリサさんの絵と何枚か見くらべながらリサさんを凝視する。

 

そのまま何枚かと共通する違和感があれば触れていく。

 

「あー…何日か前に割れちゃって…今はもう治ってるんだけど、やっぱ変かな…」

 

「いえ、そこは、多分、……んー?」

 

私がRoseliaの皆さんにできるアドバイスは、過去の自分が書いた何かしらの雰囲気の中から似通ったものを見つけ出して違和感をなんとか探り当てるという、まあ一般的ではないやり方。

 

普通に記録して管理した方がRoseliaの皆さんの為にはなる。

 

安定性、確実性に欠け、感じたものを持てる技量でできる限り表す『絵』という媒体なので心の中身まで踏み込んでしまったりしてあんまりよろしいものではない。

 

 

とは自分で思っているものの、湊さんにも紗夜さんにも、結構好評だったりするので私もついついスケッチブックをめくってしまう。

 

常識から外れた視点で探れるのは意外と役に立つらしい。

 

 

「んー…」

 

「矽、わからないならいいよ。こういうのにも自分で気づけるようにならないといけないんだし」

 

「…ん」

 

 

「け、矽…?」

 

「…ん」

 

 

 

いやわからない。一枚だけ似通った絵があるけれど、…これ描いたのいつだっけ。

 

その絵とリサさんの体を比べても…怪我してるわけでも髪切ったわけでもないし…

 

表面にある何かじゃない気がするけれど…それ以上のことがわからない。

 

昔のスケッチブックもっと持って来ればよかった。

 

絵の方向性からして違うような気がしないでもない。

 

 

「矽、聞こえてる…?」

 

 

リサさんの手のひらが私の目の前でひらひら揺れる。

 

ふわっと甘い香りが漂って……?

 

香水、かな。いやでも、リサさんってそれくらいしてそうだよね。

 

ちょっといつもより強いような気もするけど…

 

春近くなって汗の匂いが気になるのかな?

 

 

ゆらゆら揺れた手のひらが何かを諦めたように戻って、きっと無意識だろう。お腹を撫でてからまたベースに戻る。

 

 

お腹、お腹……お腹というよりは下腹部。

 

体臭の変化、変わったのは内面。

 

 

 

 

 

「リサさん、妊娠しました?」

 

 

「リサ姉あかちゃんできたの⁉︎」

「不純異性交友なのでは…」

「今井さん…」

「私のリサが…?」

 

「待ってみんな、違うから!矽もどうしてそんな…⁉︎」

 

 

 

 

 

 

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違いました。そんなわけないです。

 

だって過去絵に似通ったものがあったんだし。

 

湊さんの方がよくわかってました。女の子の日らしいです。

 

ホルモンバランスの変化で匂い変わったりするもんね。

 

気分も変わるよね。雰囲気も変わるよね。

 

あんまり踏み込んで欲しくない場所だったよね。

 

 

私が空気をぶち壊してしまったので、とりあえず休憩になった。

 

本当に申し訳ない。

 

 

スケッチブックをしまいこんでぼーっとしていると、あこちゃんが1人でいるのが目に入った。

 

お姉ちゃんはいないのかと見回してみるが…トイレにでも行ったのかな。

 

なんだか寂しそうにも見えたので寄って行ってみる。

 

「あーこちゃん」

 

「あ、けいちゃん…」

 

軽い声で読んでみたものの思っていたよりも重い返事が帰ってきた。

 

「どうしたの?元気ない?」

 

「ううん…矽ちゃん、…好きな人っている?」

 

「好きな人…?」

 

そりゃまた突然な。

 

続けてあこちゃんは理由を口にする。

 

「さっきの、リサ姉にあ、赤ちゃんができたって話でさ、……結婚とか、あこもするのかなって」

 

「なに?結婚したいの?」

 

「ううん。そうじゃなくって…想像できないんの。まだ遠いことみたいで」

 

3年生、そんなことを考える時期か。……私そんなこと言える年してないけど。

 

「でもまあ、アレが来るってことは、子供作れる体になったってことだしね。昔は13歳で嫁いだとも聞くし。でもそういうことは私よりも頼りになる人がいるから」

 

ちらっと紗夜さんの方を見ると、あこちゃんもつられてそっちを向く。

 

目があった紗夜さんに手招きをすると、微妙な表情を浮かべながらもこちらにきてくれた。

 

「…なんです、矽さん」

 

「風紀委員さん、男女の交際についてどう思われます?」

 

「どうしてそんなことを」

 

「あこちゃんが気になるんですって」

 

ぴょこっと視線をあこちゃんに飛ばす。

 

すると風紀委員さんのきつい視線がそちらを向いた。

 

「もしかして宇田川さん、」

 

「わ、違います!そうじゃないんです!」

 

「言葉通り、気になるだけですって。…未来の話ですよ、風紀委員の先輩さん」

 

「はあ……まあ、風紀委員として言うのでしたら、節度を持ったお付き合いをしてください、としか。…誰かを好きになることを縛りはしませんし、……貴女の人生なのですから、選択は貴女がするべきです。ただ…心配する人が沢山いることは覚えておいてください。……これでいいのですか?」

 

「じゃあ、紗夜さんとしてはどうなんですか?」

 

「私は…」

 

「私は?」

 

「私は…まだ、よくわかりません。大学に進学して、働いて、…何処かで出会いがあるのか、無いのか。……宇田川さんはまだ、時間がありますから。未来をそんなに気にやむことはありませんよ」

 

「だって、あこちゃん、どうかな?」

 

紗夜さんに戻していた視線をもう一度あこちゃんに向ける。

 

 

「うん。…うん。ありがとうございます、紗夜さん!」

 

 

…そんなもの。まだ私達は子供なんだから、ちっさなことで心配して、ちょっとのことで希望を持って。そういうことが許される年齢だ。

 

想いを決めるのにも、まだ少し猶予がある。

 

あこちゃんの笑顔を見ながらそんなことを考えた。

 

 

「ちなみに……湊さん!結婚って考えてますか!」

 

大きめに声を張り上げて、少し離れたところの湊さんに声をかける。

 

「私はリサと結婚するわ」

「友希那⁉︎」

 

「あれが未来を決めてる人だよ。…あこちゃんにもきっと、いつかはいい人ができると思うよ」

 

「…けいちゃんはどうなの?」

 

何かを思いついたようなあこちゃんにキラキラした目で問われる。

 

うまいこと話を逸らしたつもりが結局戻ってきてしまった。

 

伝えたくないと言う意味でも、人に聞かせる話ではないと言う意味でも、口にはしないつもりだったのに。

 

 

「…そうだね、私は…私は…」

 

 

「そろそろ、練習しましょう」

 

紗夜さんが少し大きめに声を出す。

 

まるで何かを…私の言葉を遮るようだった。

 

いいのかな、と思ってあこちゃんの方を見る。

 

なにか…失敗してしまったかのような顔をしていた。

 

「……ごめんね、けいちゃん」

 

「…そんな顔をしないでください、貴女は……いえ。」

 

なんでか謝られて、慰められた。

 

そんな顔…?酷い顔してるのかな。

 

「大丈夫、私は大丈夫だよ」

 

無理矢理に笑顔を作ってみる。

 

2人の表情は変わらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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Roseliaの練習は、そのあとは一応何事もなく終わった。

 

帰る段階になって日菜さんが紗夜さんを迎えに来てたり、湊さんがリサさんにベタベタくっつきながら帰ったりしていた。

 

けどまあ気にすることでもないのでお姉ちゃんとあこちゃんと帰り道を歩いていく。

 

 

あこちゃんとお姉ちゃんの話には、度々ゲームの話が混ざる。確か…NFO?だっけ?

 

イベントの話とか、アップデートの話とか。

 

私はそのゲームを私はやっていないのでよくわからないけど、お姉ちゃんとあこちゃんが楽しそうに笑っているだけでなんだか嬉しくなるのでにこにこしながら聴いている。

 

それと同時に、こう、ちょっぴり弾かれてる感も感じてはいるので気分次第ではほんのちょぴっと嫌な気がしたり。

 

そういうほんのちょぴっとでも、積み重なったらどうにかなってしまうのが人間なんだと思う。

 

今日は、たまたま運が悪かった。ただ、確かな要因がいくつも重なってしまっただけ。

 

湊さんへの失言だとか、紗夜さんに拒否されたこととか、リサさんのデリケートな部分に踏み込んでしまったこととか、練習を妨げてしまったこととか、お姉ちゃんのこととか。

 

 

お姉ちゃんと話しているあこちゃんの手が、私の画材を入れたカバンを持った手とぶつかった。

 

気が抜けていた私は、ぽろっと、あっと思う間もなく、そのカバンを手放していた。

 

私の足が落ちて来たカバンをぽーんと蹴り飛ばし、それは柵の下をくぐって、

 

そのあたりで、私の口からやっと声らしきものが出た。

 

そのまま、カバンは側溝と呼ぶには大きすぎる、お世辞にも綺麗だとは言えない用水路の底の水溜りで飛沫を立てた。

 

そこでようやく、現実を認識しはじめる。

 

それはとても大切なものだった。

愛着が湧口ほどに使い込んだ道具。あるいは皆さんとの記録。買ったばかりの画材。お姉ちゃんが作ってくれたペンケースも。

 

そう、取り返しのつかないことをしてしまった。

 

カバンの中身は濡れただけでダメになってしまうものや、汚れで染まってしまうものが入っている。

 

だから柵を越えようとした。それでも、戸惑ってしまった。

 

その間に。

 

お姉ちゃん、あんなに動けたんだなって。

 

ひらり、というほど身軽な動きではなかった。

 

でも、私が止める暇もないくらいに素早く。

 

 

数秒たって、用水路の底の水溜りにもう1つの、今度は大きな飛沫がたった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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自宅の脱衣所の洗面台の前で、小さく長く溜息をついた。

 

カバンとその中身は壊滅的だった。

 

唯一被害を免れたのが、今日買ったばかりでビニールにくるんであった絵の具と鉛筆。

 

 

色鉛筆のセットは機密性の高い入れ物ではないので、鉛筆の木の部分に文字通りドブ臭い臭いが染みついている。

 

スケッチブックの中身は茶色く染まってしまった。

 

布製のペンケースとその中身も同じ。

 

予備や備蓄や換えが効くという意味では、スケッチブックの上の黒鉛と色素の配列以外に被害は無い。

 

浴室とを隔てる扉を超えて聞こえていたシャワーの水音に、私の鳴き声がまざった。

 

汚れてしまったものはもう使えないだろう。

 

服に染み込んだ泥水が、涙の合間に空気を飲み込むたびに香る腐臭で存在を主張する。

 

 

なにが、お姉ちゃんの隣に、だったのだろう。

 

風紀委員さんもそうだった。姉には、きっと並べない。

 

きっと私はいつまでも妹。

 

お姉ちゃんの手を煩わせて、何かあるたびに足を引っ張って。

 

お姉ちゃんを穢しているようでは、私に何が出来るのか。

 

いつのまにか水音が止んでいて、開いていた扉に気づく。

 

バスタオルを掴んで渡そうとして、もう穢れきってしまっていた私の身体に絶望さえ覚えた。

 

 

 

お姉ちゃんは水滴を垂らしながら、私の体を立たせた。

 

ブラウスのボタンを外して、スカートのファスナーを開けて、1枚ずつ私の服を剥いでいる。

 

小学生でも出来ることをお姉ちゃんにやってもらっている。

 

無力感と罪悪感で溺れてしまいそうだった。

 

浴室に連れられて、小さな椅子に座らされて、シャワーのお湯を当てられ、泡立ったタオルで擦られる。

 

私は、子供のように感情を流し続けることしかできなかった。

 

こんなものが私なのなら。

 

もう、この温もりに溶けてしまいたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「矽」

 

泣き続ける矽の体を洗い終えた。

 

シャワーのお湯で纏わり付いた泡を流すと、その下の素肌が顔を出す。

 

「矽」

 

シャワーフックにヘッドを吊るして、冷えないようにお湯をかけ続けながら、矽の体を抱きしめた。

 

「…やめて、おねえちゃん」

 

細く矽が呟いた。

 

「やめない」

 

私はその温もりを抱き続ける。

 

「…私はね、矽がいたから頑張れたの。今までずっと、矽がいてくれたから」

 

矽が幸せにならないなんて許せない。

 

「矽がいたから、お姉ちゃんだから頑張ろうって。矽がたくさん話しかけてくれたから、話すこともそんなに苦手じゃなくなったの。矽が外に誘ってくれなかったら、きっと今より外に出なかったと思う。」

 

矽の幸せが私じゃないなんて許せない。

 

「今の私がいるのは、矽のおかげなの」

 

離れていくなんて、許さない。

 

「ありがとう、矽。妹でいてくれて、ありがとう」

 

私は絶対に離さない。

 

「大好きだよ、矽」

 

 

矽の心は、私のもの。

 

 

「だから、泣かないで」

 

 

私は、想いと言葉の触手で矽の心を縛り付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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お姉ちゃんに抱かれて、言葉を投げかけられるだけで、私の心はまた恋に溺れていく。

 

触れた温もりで思い出した。

 

私の心。はじめての気持ち。

 

 

雫を拭い取って、綺麗な布に身を包んで、自室で筆を持った。

 

ただ線を描いて、色をつけるだけの行為。

 

僅かな色素だけが創り出す境界線。濃淡だけで広がった世界。

 

 

 

 

私は、まだお姉ちゃんを愛することができる。

 

まだ、お姉ちゃんを好きでいられる。

 

自分に言い聞かせるように筆を動かし続けた。

 

 

 

 

 




短め

燐子ちゃんがりんりんじゃない。

妹増えたら変わるよね。

もう1話くらいは続きます。


追記:しゅまほとかお財布持ってなかったんって聞かれたけど、想定ではそれが入るサイズのサブバッグと画材突っ込んだ手提げってつもりだったんです。
気持ちよくなって描写忘れてました。




長め


間空くかもって言った気はするけど矽ちゃんの話。

もうちょっと想いはだらだら増やしても良かったかもしれない。

おそらくつぎのお姉ちゃん3で終わり。

ハッピーエンドになるといいね。今のとこ死んじゃうような構想ではないのでその通りに筆が動いてくれるかどうかだけが懸念事項。








蛇足


今回のチョコレートで再認識したけどりんりんって流されて変なことしたりするけど意外とやってることはなかなかのレベルで。

そんでその、本文にもあったような理由でりんりんよりもうちょこっと成長したら、それで明確な目的を持って動いたら、って感じの変な妄想。

今のところの次話的には幸せに、結ばれ(?)ました、ってオチ。




蛇足2



双子の日でしたね。知りませんでした。

さよひな忘れてました。さよひなどころか別作品のむらだちとか甜花ちゃんも書いてませんでした。

双子好きとしてかなりの失態。


というわけで
自作品はバッドエンド(?)さよひなかこのまま矽ちゃんの続きか発作で書くイヴちゃんです






蛇足3


FGO、紫式部さんが追加されましたね。

容姿も性格も性能もモーションも好きで、何より日本語書いて気持ちよくなる大先輩なのでもうすきすき。

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