バンドリ短編   作:天城修慧/雨晴恋歌

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いやほんと何書いてるのか分からん。

オリキャラ視点。

梶あやか♀
氷川さんと同じクラス

氷川さんキャラ崩壊してるのでは


夏の日の(紗夜×オリ♀)

8月ももうそろそろ終わりを迎え、しかしまだ空の上でお日様はぎらぎらしている今日。花咲川女子学園の夏休みは8月いっぱいまでだが、今日は猛暑の中生徒達が校舎に集っている。

 

学校に集まって先生の話を聞き、その後学校中の掃除を生徒達で行う。

夏休みで惚け切ったカラダにとっては刺激的なことかもしれない。夏休みももう終わり、学業に専念する覚悟はしておきなさい、という事だろう。

 

掃除場所とメンバーの組み合わせはくじ引きで、という訳ではなかった。

各自自分が所属している部活動の部室などが優先され、部活動等に所属していない生徒は教室などと割り振られる。そして私は文芸部の部室が担当になる。

 

「梶さん、私は何をすれば…」

 

「氷川さん、ごめんね、もうちょっとで氷川さんが触っても問題ないレベルまで回復するからっ」

 

今の文芸部の部員は私一人。部屋ひとつを一人だけで掃除するのはどうかという理由で生徒会から同じクラスの氷川さんが派遣されたらしい。

 

が、部室は度々遊びにくる…先輩達が持ち込んで代々受け継がれ部屋中にたっぷりある本を借りに来る友人達によって散らかされている。

図書室には無い本が多く意外と需要があるらしく、面識が無いけど本を求めて来た新しい人と仲良くなれることもある。

 

「やはり私もお手伝いした方が」

 

「お願い、氷川さんは触らないで。その方が私も氷川さんも幸せになれるの」

 

 

『図書室には無い本』

私はちゃんとした文芸部だと思って入部したのだが…入部して1月。活動内容であった読書や文字書きにも慣れて居心地も良く感じてきた頃、先輩が『そろそろコレを受け継ぐときかにゃー?』って言い出して、部屋の奥に積んであるダンボール箱から本を取り出した。

指示に従い開いてみると、女学生がねちょねちょと絡みあっていた。視線を上げて先輩を見る。

『ねぇねぇイイことしよーよ、だーいじょうぶ、ココならバレないって』

空気と肌の温もり、搦めとるような言葉と誘惑に勝てずに、私は……。

 

 

さてそういうことがあり、代々官能小説が受け継がれ買い足され、そういった趣味の女の子が多かったのが文芸部らしい。一部の生徒間ではそういうことも知られているようだが、風紀委員の氷川さんは恐らく知らないだろうし、たっぷりある本なんかは見られるわけにはいかない。

 

 

「氷川さん、もう終わるからっ」

 

来客があって散っていたエロ本を、とりあえずダンボール箱に詰めきった。それを抱えて部室の奥の方、こういうえっちな本を詰め込んだダンボールの山に追加した。

 

 

「終わったよ、これで氷川さんが触っても大じょ…氷川さん?」

 

ダンボールのかたがついた手のひらを撫でながら振り返ると、氷川さんは訝しげな顔でダンボールの山を見ていた。

 

 

「…見せられないものなんですよね。何が入ってるんですか?」

 

「や、やだなー、そんな変なものじゃないよ?ちょっと見せるのが恥ずかしいだけで…ほ、ほら、掃除しようよ、お掃除」

 

 

氷川さんの胸の前でちょいちょいと押し返すような素振りで手を動かす。

 

「結構日頃から掃除はしてるから、今日も床掃いて机拭くくらいで丁度いいと思うよ。…氷川さん、床掃いてくれる?そこに箒あるから。私拭き掃除してるから」

 

氷川さんはしぶしぶ、箒を手に取る。

 

私はバケツに水を入れに部屋の外へ出た。

 

 

 

 

 

バケツの底から半分くらいまで水を満たして、跳ねないように文芸部の部屋まで帰ってきた。

 

「氷川さん、帰ってきたよ……よ?」

 

換気のために開け放たれた扉から部屋に入ると、案の定というかなんというか考えが足りなかったというか。

 

「ちが、これは、」

 

氷川さんは慌てて持っている本をダンボールになおすと、赤くなった顔を誤魔化すように視線を振る。

 

「ふーん…見ちゃったんだ?…たーいへんだ」

 

それを見て、私は一種の威圧…件の先輩の様な雰囲気で行動を起こす。

 

扉を入ってから壁に沿って2歩、バケツを床に置いて、じっくりと動くようにイメージしながら机の上の雑巾を掴もうとして、やめた。

 

ごめんね氷川さん、今じゃないと、落ち着いちゃうと多分マウント取れないから、

 

 

「そっかー、見ちゃったのねー?」

 

ダンボールの前、つまりは部屋の奥から動いていない氷川さんへと近づいて行く。いつもはあまり音を立てないように歩いているけど、踵から先を叩きつけるように一歩ずつ音を立てて。

 

「触らない方が、幸せになれるって言ったのになー」

 

普通の親しさの距離を踏み越え、もっと近くまで。後ずさった氷川さんの踵がダンボール箱にぶつかる。上体を逸らして作った空間をすかさず侵略する。

 

「バラされたら、困っちゃうんだよねー?くち、封じなきゃだけど…」

 

つつっと自分の唇に人差し指を滑らせ、そのまま顎の前で指は待機させる。

 

「氷川さん、風紀委員だもんね。このおくち、ちょっと封じるのは大変かなー?」

 

言葉を紡ぎながら待機させた指を氷川さんの口へ。今まで以上に体を反らせてバランスを崩しそうになった氷川さんの体をもう片方の手で抱く。

 

「あ、あの…」

 

私の腕の中で、先程以上に赤くなった氷川さん。

 

何かを伝えようとして唇が震える。

 

「どうやって塞ごっか。お願いするのもいいけど、こうやって…」

 

唇の先から僅かに舌を出し、チッっと小さく水音を意識させる。

 

そして、ずいと近づける。どこに?聞かなくてもわかる場所に。

 

「直接、ふさいじゃうのもイイかも?………。なーんて冗談!」

 

 

氷川さんの体をかかえたままダンボールの前から遠ざけ、彼女の体が安定したのを確認してから手を離し、一歩分の距離を取る。

 

「悪いけど氷川さんにも共犯者になってもらうね。この場所がなくなるのは私色々と困っちゃう」

 

さ、掃除しよ。

 

呟いて、固まってたままの氷川さんの手に箒を握らせた。

 

私はバケツの水面に雑巾を落とす。

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「そういえば氷川さん」

 

「は、はい⁉︎」

 

掃除を終えてバケツの中の水を捨てて帰ってきて、ちりとりでゴミを集めていた氷川さんに声をかける。

 

「落ち着いてよ、ね?さっきのは冗談だから、何もしないよ」

 

バケツを置き、隣にあるゴミ箱を掴んで氷川さんのところまで持って行った。

 

氷川さんは小さく震えたが、ちりとりの上のゴミは零れることなくゴミ箱の中に入った。

 

「ねえ、ちょっとお話ししたいんだけど時間ある?嫌ならすぐ帰ってもいいから」

 

「…大丈夫です」

 

氷川さんとソファに、机を挟んで向かい合うようにして座った。

 

何代か前の先輩が応接室のものが取り替えられるときにかっぱらってきた、年代を感じる合成革の生地が音を立てた。

 

「さっきはごめんね?冗談のつもりだったんだけど…やりすぎちゃったよね」

 

「いえ、大丈夫です気にしては…」

 

そこで氷川さんは口をつぐんだ。数瞬何かを思案して、顔が赤くなった。

 

「気にしては、いません…」

 

「そ、そう。 …そうだ氷川さん、もうすぐ学校だけど宿題終わった?」

 

「え、ええ。全部終わっていますよ」

 

空気を変えようと持ち出した話題に、氷川さんも乗ってくれたのでそのまま話を続ける。

 

「えっと…作文!現国の作文何書いた?私は適当な三題噺で埋めたんだけど」

 

「…作文?」

 

「あ、あれ、現代文の作文、なんでもいいから原稿用紙5枚くらいって…」

 

すっと氷川さんの、赤かった顔が元の色を取り戻す。元の肌を通り越して青くなりそうだった。

 

「それ、いつ言われました?」

 

「…氷川さん、その日休んでたのかな。…まって誰かに聞いてみる」

 

 

私は置いていた鞄からスマホを取り出した。

 

今日は掃除が終わったら各自帰宅していいことになっているから、掃除が終わっていれば反応してくれるはず。

 

誰に連絡するか逡巡して、1番早く帰ってきそうな燐子ちゃんにSNSアプリで文字を送った。

 

送った文字にはものの数秒で既読がつき、すぐに文字が返ってくる。

 

『氷川さんが現国の作文の課題存じ上げてないんだけど』

『氷川さんが?』

『ほらあれ授業の最後にぽんって言われたじゃん。休んでたりしたっけ?』

『…そうかも。風引いてた時期あったもんね』

『あーじゃあ知らないわけだ』

『私が伝えておけばよかったよね。ごめんねって伝えてくれない?』

『氷川さんも怒ってないからいいんじゃない?…驚いてるけど。』

『ひえぇ…怒られる…』

『大丈夫、燐子ちゃんが怒られそうなら私が守ってあげるから!』

 

 

画面から一度目を離して氷川さんに聞いた。

 

「氷川さんが休んでたときかもしれない。どうしよ、さっきも言ったんだけど、原稿用紙に5枚くらい、何でもいいから意味のある日本語を書いてきなさいって課題なんだけど…氷川さん、こういう自由研究みたいなの苦手だったよね」

 

「…ええ。ですが、課題なのならそうは言っていられません」

 

口ではそう言ったものの、氷川さんの表情筋は正直だった。不安そうな顔になる。

 

「……そうだ、授業してあげる。日本語について適当に。それのレポートみたいなので埋めればいいよ。対価は…ダンボールの中身黙っててくれれば。…。どうかな?」

 

 

氷川さんは逡巡するように目を伏せ、顔を赤くしたりした後、お願いします、と呟いた。

 

 

『燐子ちゃん、氷川さんの作文私が見てあげることになったよ!』

『(…あやかさんが?…官能小説でも書かせるのかな…?)』

『いっひっひ、さよちゃんも毒牙にかけてやるっ!……。まあ文芸部だし適当に文字について語って何かしら書いてもらうよ』

『場所、どうします?図書準備室なら貸せるよ』

『文芸部使うから大丈夫。燐子ちゃんも来る?』

『お邪魔するといけないので遠慮します』

『えー燐子ちゃんに会いたいなー』

『カラダ触られるからヤですっ』

『また本借りにきてね!』

 

投げキッスをしているスタンプを送ると、頬を染めた女の子がハートを浮かべたスタンプが帰ってきた。

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

備品の原稿用紙を何枚か氷川さんに渡して、メモ用の裏紙も束で用意した。

 

「さあ、梶先生の授業を始めます!」

 

「…よろしくお願いします」

 

氷川さんがのってくれたことを嬉しく思いながらまずは、と口を開いた。

 

「じゃあ私が、氷川さんすきです、と言ったとします」

 

好きです、と口にした時に、氷川さんの体が震えた。

 

「今のすき、どう理解しましたか?like?農具の鋤?それとも隙アリ?」

 

「ら、likeです…」

 

「ほとんどの人はそう解釈しますね。でもこれは口頭で述べるから起こる問題です。例えば紙にでも書けば、」

 

ペンを持って裏紙の上を滑らせる。

 

『好き 鋤 隙』

 

「漢字で表記できるので、同じ音でも違う意味を表現できます。…じゃあ、文字は完璧なのか?いいえ。そんなことはありません。」

 

『この先生きのこれるか?……辛い』

 

「これ、氷川さんならどう読みます?」

 

「このさき生き残れるか?……つらい、ですか?」

 

「後出しじゃんけんみたいで悪いけど、私はからいって書いたつもり。この差を表現するには、まずひらがなで書く。でもこれは」

 

『からい→辛い?花蕾?火雷?』

 

「口頭で話した時と同じ問題が起きてしまいます。じゃあ、もう一つ何か別の言葉で言い換える方法」

 

『辛い→しんどい』

 

「でもこの場合…からい、って何に言い換えよっか。氷川さん何かぱっと思いつく?」

 

「…痛い、とか」

 

「いい線行ってる。でも、言葉が違うってことは、何かしら言い表してるモノは違うんだよ。からさは痛みだけど、カレーが辛いのと傷が痛いのは違う」

 

ここで私はペンを置いた。

 

「じゃあ、どうすんの?こうなってくると、相手が何を言いたいのか察する技術がいる。文字なら」

 

『カレーを食べた。とても辛くて汗が止まらなかった』

 

「とかかな?文字なら前後の文のつながり。高度な小説とかになると読みがいるけど…それは例外で。じゃあここで、口頭で述べれば」

 

んんっと小さく喉を鳴らした。

 

「うわ何これ、めっちゃ辛いねんけど。…とか。身振りだとか声の表情。あとはアクセントとかでも判別できる。…さて、この事から言えることは何でしょうか」

 

「……同じ言語のはずですが、使い方は違う?」

 

「うんGood。文字をうまく書くには一定のコツがいる。語彙力とも言うね」

 

『好き 愛してる 初恋 性愛 恋い焦がれる』

 

「似たような意味でもたくさん書き分けが出来て、慣れてしまえば情報は伝えやすい。じゃあ口頭の勉強の仕方は?…と聞かれても、しっかり勉強する人の方が少ないんじゃないかな。会話してれば自然と身についたとか。訂正しやすいし、わからなかったらすぐ聞き返したりできる。上達は楽だし下手でも伝わりやすいかも?」

 

 

ふう、と息をついた。

 

「じゃあ文字の方が伝えやすい?全てにおいてそういうわけではない」

 

『氷川さんが好き』

 

「私、氷川さんのこと好きだよ!…と、……あたしー、紗夜ちゃんのことが、す、き。にゃはは、言っちゃったー。全然違うでしょ?会話はコミュニケーションの道具。感情の機微とか?でも文字にも利点はある」

 

『8月23日、花咲川女子学園で、生徒が別の生徒に性的暴行を加えるという事件が発生しました。容疑者である生徒 は、欲望を抑えられなかったと供述しており』

 

「情報伝達の道具。でも、手紙でコミュニケーションをとることもあれば、電話で情報伝達することもある。どうしよっか、めんどくさいねー。」

 

「……練習、して、誤解がないように心がけるしか、」

 

「うん。結論それしかない。本当に誤解なく伝えるには文字でも、言葉でもダメ。日本語じゃそもそも無理。バベルの塔でも再建してそれをアンテナに頭と頭でびびびって通信するとか?でも、そんなことはまだできそうもないし、私はしないと思う。面白くないもん」

 

『煌めく宝石のような瞳。ずっと見ていても飽きない髪。どちらも綺麗な青緑。肌は白く、赤い鼓動の命の色で染まる頬。その中に、可愛らしい鼻が立ち、下には噛み付けば千切れそうな、柔らかそうな唇が私を誘うように咲いている』

 

「伝えようと絞り出した文字。あるいは…さっきの紗夜ちゃん、とっても可愛かったなー。私が近づくだけで顔赤くしちゃって、背中に手を回したらすーっごく柔らかかったし、顔近づけたらいい匂いがむんむんして、唇を近づけたら子鹿みたいに震えちゃって。…とか、感情むき出しの声。震えて、揺れて、味があるってそういうことじゃないかな。……。あれ、氷川さん、大丈夫?」

 

「…すみません、今は…」

 

 

夢中になって紡いでいた、氷川さんを賛美する言葉。

 

氷川さんは両手で覆った顔をうつ向けていた。はみ出て見える頬は紅葉のように染まっている。

 

「ま、まあ、こんな感じ、かな?どっちでも相手を思いやることが大切だったりするけど…これを聞いての自分の感想とか考察足せばいい感じに、……ご、ごめんね氷川さん?」

 

「き、気にしないでください…」

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「書き、終わりました」

 

「ん」

 

ブックカバーがついた官能小説(真面目な女の子が元気な女の子に告白され、心を開いていき、もっと知らないものを教えて、気持ちいいこと教えてあげる)から目をあげると、氷川さんはペンを置いていた。

 

「どうだった?」

 

「疲れました。勉強以外で短時間でこんなに文字を書いたのは、初めてかもしれません」

 

右手をほぐすようにぐーとぱーを繰り返している氷川さん。

 

「短時間、かー」

 

私は壁にかかっている時計を見やった。長い針は、氷川さんが文字を書き始めてから一周以上回っている。短い針は1を過ぎている。

 

ぐーっと私のお腹が鳴った。

 

「集中してたのかな。…氷川さん、どこかにご飯食べに行かない?一時回ってるし何か食べたーい」

 

「え、あ、もうそんな……」

 

「時間のことはあんまり気にしないで。私も集中して書いてて気づいたら最終下校時刻回ってたこともあるし」

 

ソファーから立ち上がると背中がぼきぼき鳴った。鞄の中に本を突っ込んで大きく伸びをした。

 

「近場でいい?私フライドポテトが食べたい」

 

「…行きましょう」

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

直径15cmくらい、高さは10cmくらい。紙コップのバケモノみたいな容器に金色の山ができる。その見た目は『バケツポテト』なる名前に負けないほどの迫力があった。ほのかに伝わってくる温もりと空腹を攻め殺さんばかりに漂う香り。油と塩と炭水化物の暴力。今ならそれに冷たいジュースが付いてくる。

 

「ふーん♡」

 

バケツを見てたら食べたくなったんだよね。一緒に注文したハンバーガーは早々にお腹に収めて、芋山の一角、頂点に突き刺さった一本をつまむ。

シューストリングポテトの表面がカリッと弾けて、芋の香りがする。

 

「んー♡」

 

一本二本三本と口に入れてもぐもぐして飲み込み、ストローから口の中にオレンジジュースをちゅるっと垂らす。

 

「おいしーいっ♡」

 

今度は贅沢に三本同時に摘んでみたりして、口に入れて前歯に当たるとしっかりとした歯ごたえを感じ、お口の中でもぐもぐすると混ざった油と塩で、もう、もう、

 

「んふー♡」

 

ほくほく顔でもう一本つまもうとして、対面に座っている氷川さんが惚けた顔をしていることに気づく。

 

「氷川さん食べないの?…あ、やっぱりカロリーとか気になる?女の子には敵だよね。でも美味しいから止まらなくって」

 

「い、いえ、そういうわけではないんです。ただ、美味しそうに食べる人だなと」

 

「だって美味しいんだもん。つまんない顔して食べるより美味しそうに食べた方が私も、氷川さんも気持ちいでしょ?きっと」

 

ポテトを一本つまんで氷川さんの口元に持っていく。

 

「氷川さん、あーん、」

 

「さ、流石にそれは…」

 

氷川さんは私の指先からポテト受け取ると、それを口に運んだ。

 

 

「そういえば氷川さんギターやってるんだったよね」

 

「はい。…梶さんは音楽に興味が?」

 

「まあうん、一応、キーボード弾きながら歌ったりはするよ。ただまあ、楽しんでるだけ。氷川さんとは真逆じゃないかな」

 

「……私達の目標はFWFです。ですが、弾くのが楽しくないわけではないですよ」

 

「そうなんだ?風紀委員さんだし、メトロノームのような完璧なリズム、一切のブレを許さないシャープなメロディ、そしてリズムとメロディの調和、完璧こそ全て!みたいな感じだと思ってた」

 

「…それ、褒めてはいませんよね?…確かに正確にとは思っていますが、完璧が全てではないでしょう。完璧が全てなら私がギターを弾く必要性はないのですから」

 

「じゃあ分かり合えなくもないのかな?でも私はこう、リズムとメロディと歌詞で気持ちよくなってるだけだしなぁ。あ、そういえばこの前のライブ見に行ったよ」

 

「そう、なのですか。…気づかなくてすみません」

 

「いーよ、気にしなくて。今日まで氷川さんとあんまり話さなかったしね。…そうだあの曲すっごいカッコよかったよ。Determination Symphony。サビからぎーんって上がってこう、なんていうか…強そう、じゃなくて……うーん…文芸部なのに語彙力が足りない…」

 

右耳の下から髪をかきあげて首を触る。記憶を漁る度に目を閉じた。

 

「たぶん…ギターかベースかキーボードで…恋じゃなくて親愛?多分これモチーフになった人とかいるのかな、多分だけど……この人は、強うそう…じゃなくて、きっと多分、もう2度と負けたりしない。何かあっても彼…彼女?はもう大丈夫。美しい心の持ち主で、信じるものを何か。わかんないけど、私この人多分すっごく好き。叶うなら親密になって色々教えてもらいたいけど、多分誰かがもうその位置にいそう。絶対、この人の物語は、面白いと思うんだけどなあ………欲しい」

 

へえっと口から息を漏らすと、短時間でも回した頭に熱い感覚が残る。

 

目を開いてオレンジジュースを吸うと、冷たく冷えた液体が喉元を冷やす。

 

 

「もうこの人の人生欲しいなぁ…氷川さん、この歌作った人知ってる?多分すっごく良いお話ができそうな……あれ、どうしたの氷川さん」

 

氷川さんは、こう机の上に突っ伏していた。

 

「なにも、きかないでください…」

 

 

「う、うん…ごめんね……ぽ、ポテト食べる?美味しいよ?」

 

「……食べます」

 

 

伏したまま、ということはなく体を起こしてポテトの手を伸ばしたが、目線は合わせてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

食べ終わって、店を後にしたけど…氷川さんが話してくれない。なんだかこのまま別れるのも惜しくてちょっとあるこーとか公園よってかなーい?って誘った。

 

返事はしてくれるものの、自発的には動いてくれない感じ。

 

「あ、あの、氷川さん?やっぱり私何か、」

 

「…梶さんは、何も悪くないんです。…座りましょうか」

 

 

氷川さんは私の手を引いた。公園の端、木の影になっているベンチに座った。

 

蝉の声が聞こえる。夏の終わりが近づき、消え去ってしまう音。

 

それにじって子供の笑い声が聞こえた気がした。

 

「あの歌は」

 

 

氷川さんは口を開いた。なんでだろうか。手が伸びてきて、私の手を掴む。

 

 

「私の歌です」

 

すっと背中になにかが通ったような感覚がした。そう、これはあの先輩のような…

 

「私の人生が、欲しいんでしたよね」

 

逃げられない。魅力の牙が私に突き立つ。

 

氷川さんから逃げようとしても、回されていた手がそれを許さない。

 

「梶さんが言った通りです。私には、大切な人が、いました」

 

氷川さんはそこで言葉を区切った。

 

待って、『いました』?過去形?今は大切ではない、もしくは、その人はもう、

 

でも待って、いつか隣に、みたいなこと、それって

 

「小さい頃から、そばにいたんです。でも、中学生の頃。喧嘩をしました。私が一方的に拒絶したんです。そのままの関係が続き、そして、七夕の日に、あのこは」

 

氷川さんの顔が寄ってくる。木陰にいるせいか肌の色は黒く感じ、でも瞳だけは輝き、揺れている。

 

熱い風を肌で感じた。蒸し暑い夏の空気ではなく、彼女の体温だ。

 

「私は、音を奏でなければいけません。だから、全ては、あげられません。でも」

 

重なっていた手が、離れるのが感覚でわかった。視線を氷川さんの顔に奪われたまま、その手が私の顎に添えられた。

 

「それ以外なら。例えば、…恋心や、言葉、…唇」

 

言葉につられて、彼女の唇を見た。視線の場所を勘付かれたのか、ひかわさんは、笑う。蠱惑的に、儚げに微笑む。

 

言葉と彼女の存在は麻酔のように意識を、悪魔の言葉のように罪の意識を消していき、この手に抱かなければいけないという気持ち、絶対に離れてはいけないという、なにかが溢れる。

 

「あなたになら、あげるのもやぶさかではありません」

 

彼女の唇はもうこれ以上近づかない。でもそれ以外、回された手や密着した体は温もりを増していく。

 

彼女の唇が何かを紡いだ。噛み付けば簡単にかみちぎれそうなほどに柔らかい唇が、私を誘うように歪んだ。

 

私の手はいつのまにか氷川さんのスカートの腰を掴んでいた。

 

ゆらり、と視界が揺れた。私が氷川さんの唇を求めて近づいたのだとは理解できなかった。

 

「あやかさん」

 

氷川さんの表情が変わる。屈託のない笑み。

 

呼気が重なる。もはやその距離に。踏みとどまろうと思った。なんでだろう、こんなに美味しそうなのに。

 

 

もう一度揺れる。視界が変わる。もっと、近くに寄って

 

 

「冗談です」

 

 

私の唇に立てられた人差し指が何かを遮った。

 

風が吹き、肌を撫でると一気に何かが抜け、ふらっと後ろに、ベンチの背中に倒れこんだ。

 

 

「やられたままではしゃくでしたので」

「ふえぇ…」

 

 

 

____________________

 

 

 

「私の妹は、私より何事も上手くこなすんです。それで少し、距離があったんですが、七夕ごろに何とか…復縁?でも、今度は、自分が何なのかわからなくなってしまって」

 

「いやでも、歌の通りなら元気になれたんだよね?」

 

「はい。自慢の妹です。……どうでしたか?私が作った物語は」

 

「…正直すっごく好きかも。欲しい。ただ、私、氷川さんも見ててわかったかもしれないんだけど求められたことしかなくって」

 

「文芸部でのあれはその人の真似ですか?」

 

「うん。文芸部の先輩なんだ。ふつうに仲良くなる方法も教えてくれたから悪い人じゃないんだけど、度々こう、…つまみ食い、されちゃったり」

 

「…そう」

 

「こう、なんていうか、氷川さんとは仲良くなりたいんだけど、どうしたらいいのか分かんないや」

 

「…また、文芸部に伺ってもいいですか?」

 

「いいけど…。嫌なら、会いに来てくれなくても」

 

「いいんです。まだまだ、教えてもらいたいことがあるので」

 

「……それって、日本語について?」

 

「そういうことにしておきましょうか」

 

「そういうことって、…あ、もしかしてあの本とか?それならいくらでも」

 

「私は本より、本物の方が好きです」

 

「え、まってそれって」

 

「もっと知らないことを押しえてください。その代わり私は…」

 

「それって、文字じゃなくて会話ってことだよね?話す日本語、」

 

「求め方でも教えましょうか?」

 

「ねええ、答えてよ…ねえ、氷川さん」

 

「紗夜と呼んでくれてもいいんですよ、あやかさん?」

 

「っ…まって氷川さん、私飲まれてあんなことしようとしちゃったけど、ここ外、…せ、先輩ですら屋内でしてくれたのに、まってまってまって

 

 

 

 

 




短め

いやほんと分からん。ギャグっぽい文とシリアスっぽい感じの切り替えみたいなのをやってみたかったけど空気を変え切るにはメリハリと文章量が足りない気がする


長め

氷川さんとオリキャラの話もう一個書いてて、氷川さんが誘拐されて助けに行くんだけど、氷川さん助からないかも。
なんか幸せな話って思ってるけど主人公ちゃんが不幸になって欲しい欲が湧いてくる。



蛇足。

今回の梶ちゃん、こうなりたい、みたいな欲望が詰まってたり。女の子になって元気に喋って本読んで書いてピアノ弾いてにゃんにゃんしたい。したくない?


先輩さんはモチーフというか雰囲気の参考にした人がいたりいなかったり。ギフテッドな彼女。
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