一期か二期かは想定してない
圧倒的予告無視
時刻は夜の8時を過ぎたころ。私は花咲川女子学園に、忘れ物を取りに来ていた。本来防犯の観点から許可なしでは校内に入ることができないのだが、優しい守衛さんに訳を話せば大体入れてくれる。忘れ物を取りに来るのは初めてじゃない。守衛さんにごめんなさいしながらまた入れてもらった。
二学期が始まったばかりの9月。真夏だったとしても暗くなる時間。暑さは感じなかった。見上げると星空。気温自体はたぶん低い。なのに湿度をはらんだ空気が四肢の先にまとわりつく。気分がよろしくない。
なんとなく嫌な予感がした。ちょっと前に夏終わりの怪談スペシャルみたいなテレビ番組をやっていたのを思い出す。ネームバリューのある有名な妖怪から、日本古来のストーリー、自分の身にも降りかかりそうな未知の恐怖をあおるもの。
私は、怪談を聞いたり読んだりするのは好きだ。ただ、それを鑑賞した後思い出して日常生活の中びくびくおびえるのは大っ嫌い。
階段を上っていると、踊り場に全身映りそうな鏡が。得も言われぬ恐怖を醸し出している。もう無理。怖い。鏡を気にしながら先を急ぐと、視界の端で何かが動いた気がした。ひいっと声を出そうとした。かすれた空気の音しか出ない。
窓の外から何かがのぞいている気がする。どこかから視線が突き刺さっている気がする。
ほんとに、むり。
枯れ尾花すら恐怖の中では幽霊になってしまう。響いた自分の足音すら、敏感になった思考に突き刺さる。
電気のついていない廊下を月明かりの中、教室までもう少しというところで。
足音が二つに増えた気がした。後ろのほうで聞こえる気がする。
声が出ない。止まれない。振り向けない。
咽は凍り付いてしまった。立ち止まってしまえば追いつかれる気がする。振り向いてしまって、もしそこに何かがいたら私は…
私は駆け出した。逃げ出してしまった。『逃げている』という感覚はすぐに『追われている』という実感に変わる。
私の想像力が作り出した存在感が膨れあがる。こわい。
ただひたすらに怖くて、安全な保障もない教室に駆け込む。視界の隅でまた何かが揺れた。
蛍光灯のスイッチに飛びついて、がちがちがちと全部押す。
人は暗闇に恐怖を抱く。そこが未知であるからだ。明かりがつけば、大丈夫かなって。
振り向いたら、そこにだれかいるもんだから
「 」
悲鳴を、上げたような気がする。声が出たかどうか、女の子が出していい声だったか、わからない。
「ひ、ひかわさん…」
そこにいたのは、制服を着た氷川さんだった。よくよく見る暇もなく彼女にしがみつく。
「もう、驚かせないでよ…」
「大崎さんはどうしてここへ?」
氷川さんは、その腕で私の体をぎゅうっと抱きしめた。私の脇腹に巻き付き、爪の先が刺さるほど強く。
「忘れ物しちゃったんだ、でも氷川さんがいてよかった、夜の学校、なんだかすっごく怖くって」
「ええ、よかったです。のこのこと一人で来てくれた」
…え?
正面から抱き合っている私から氷川さんの顔の位置、私の首筋のあたりは見えない。
そこに、焼けたような熱と何かが入り込む感覚があった。
何かに侵食される感覚に恐怖が燃え上がって、焼かれた私は氷川さんに抱かれている体を目的もなく暴れさせた。
氷川さんの『拘束』は、本気ではなかったのだろう。簡単にとけた。
私は自分の首筋を触った。ナニカが入った右側。手のひらに何か、液体が触れる。恐怖でかいた冷や汗かと思った。見ると、赤く、紅く、染まっていて、
「ひかわ…さん…?」
彼女のほうに目を向ける。彼女の緑の目はどうしてか赤く、唇の間からは収まりきらない長い牙がのぞいている。
氷川さんは、嗤った。開いた口からのぞいた牙を、赤い舌がなぞる。
「なんで、なんで…」
逃げようと…したのかはわからない。きっと違う。恐怖で足の力が抜けてしまっただけ。氷川さんから離れるように一歩、私の体が後ずさった。
氷川さんはそれをよくは思わなかったようで。長い爪が生えた手が伸びてきて、私の胸元をつかんだ。信じられないほどの大きさの力が私を数瞬の浮遊感にいざなう。
ベクトルの向かった先は教室の後ろに設置されたロッカーたち。
ガツンとぶつかって、少しの間くらくらした。
「力の差が、わかりましたか…?おとなしく、吸われてください」
一般的な吸血鬼の弱点は…太陽の光。今は夜だけど。流れる水。雨の日に氷川さんにエンカウントしたこともある。ニンニク、十字架、聖水、銀、あいにくそんなものを持っていない。
氷川さんが、一歩一歩距離を詰めてくる。
そして…木の杭で胸を刺すこと。
何かの啓示だったのか、ロッカーの中から忘れ物の色鉛筆が転がりだす。色鉛筆の芯はろうや顔料が混ざったものだが…その周りは木製だ。私はそれを拾い上げた。
これを突き刺せば、と思った。思っただけでどうにもならなかったが。
「…そんなもので、私をどうにかできると?」
私によってきた氷川さんは、床に転がっている私の高さに合わせてしゃがみこんだ。
私の手を握ると、その切っ先をきっちり自分の胸に合わせる。
力の差は歴然、つかまれた左腕は自分の意思で動かせる気がしなかった。
氷川さんは、きっとおそらく、その切っ先を自分の胸に。
引こうとして、どうしようもなかった。
私が握った、握らされた色鉛筆は何の抵抗もなく、なぜか制服の胸に沈み始める。
鉛筆の先が氷川さんの胸にあたる。
色鉛筆の柔らかい芯で肉体に突き刺さるかはわからなかったが、いや、きっと刺さらなかったが、どうしても、怖くて、
「やめてっ!」
今度は声が出てくれた。
氷川さんは見透かしたように笑って、私の手を握った手を放す。
私の手から、すぐに色鉛筆が零れ落ちた。
「甘いですね。あのままでいれば、私は死んでいたかもしれませんでしたよ?」
「わたしは、怖がりだから…氷川さんが死ぬかもしれないことが、耐えられなかった」
氷川さんは、優しくいとおしそうに、わたしの首を撫でた。
「貴女は、私の餌です。…いいですね?」
赤い目で見つめられる。その中にいつもの氷川さんの優しさが見えた気がした。だから私は
「…はい、ご主人様」
もしかしたら、魅了か何かにかかっていたのかもしれない。でも、なんでだろう、
やっぱり今になってもわからない。なんで、私はとても幸せを感じているのか。
「やさしく、…お願いします」
氷川さんの顔が近づいて、ふわっと香りが漂った。最近発売された制汗剤の香りだった気がする。
首筋に、何かがはいった。じゅうと焼けるような感覚。
また暴れかけた私の体を、氷川さんが押さえつける。
体の中から何かが抜けていく感覚。
血管迷走神経反射のせいか、それとも血が抜かれているからか、瞼が落ちてくるような感覚と、息苦しさ。
焼けるような感覚が薄れていく。
そして意識が落ちる瞬間に
わたしは、濁流のような、圧倒的すぎる快感に触れた
目が覚めると、私はなぜか自分の家の自分の部屋にいた。ベッドの上に寝かされている。
学校に行った時のせいふくのまま、おなかには布団と色鉛筆のケースが乗っていた。
ケースを開けてみると、36色すべての鉛筆がそろっている。
私がどれを握っていたのかは…覚えていない。
ベッドから立ち上がろうとすると、下着の中に湿った感覚。あわてて抑えると粘性のある音がした。
私は顔を赤くして誓った。明日学校で問い詰めてやると。
体の重さにひかれてベッドに倒れこむ。するとすぐにまた瞼が、今度は感覚ではなく本当に下りてくる。
無理矢理体を起こして、シャワーだけでも浴びようとのそのそ動き出す。
鏡を見てみると、右側の首筋に、二つ赤く蚊に刺されたような跡が残っていた。
目が赤く輝いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
朝の混雑している靴箱で、私はお目当ての緑色の髪を見つけた。
彼女の体にしがみつく。
「ご主人さまっ」
ハートマークを浮かべた感じの声を出してみる。
振り向いた氷川さんの目は緑色で、恐怖…ううん、たぶん後悔と不安で揺れている。
「わたし、すっかりご主人さまの虜になっちゃいました」
続けて言葉を紡いでいると、氷川さんから冷や汗がだらだら垂れ始める。
「謝らなくていいんです。でも…私を虜にした責任、とってくださいね?具体的に言うと、時々吸ってください。とりあえず今日なんてどうでしょう?」
にっこりと笑いかける。
氷川さんの顔はゆがんだ笑顔になった。
私の笑顔は氷川さんに思った通りの言葉を吐かせることに成功した。
短め 続きます。次は座敷わらしあこちゃん。
長め 氷川さんに吸われたーい。詳しい説明はあこちゃん編でするけど、吸血鬼じゃなくって吸血種。
お姉ちゃん4は構想があるから続き確定してちかいうちにできそうだけど触れたくて2はまだまだ
氷川さんのストーカーはボツったし燐子ちゃんの幼馴染もかなり怪しいけど、使いたいネタ書きたいシーンがたくさんあるので形にはする。
蛇足
しゅえ「氷川紗夜吸血種bot」
友人C「友希那さんは猫又で頼む」
しゅえ「ろぜりあ人外シリーズ???座敷わらしあこちゃん???!」
友人C「サキュバスりんりんは譲れない」
しゅえ「となるとリサ姉様は…おぞましそうなのがいいなあ」
友人C「ニャルラトホテプ?」
しゅえ「それはちょっと…?邪神とか祟り神ならストーリーとおるのでは?」
みたいな会話があった。テンションのみでシリーズ化