バンドリ短編   作:天城修慧/雨晴恋歌

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続いて大崎すみれさん。




Roselia人外シリーズ 座敷わらしあこちゃん

 

 

 

 

 

授業中、私はずっと氷川さんの後姿を見ていた。

 

右に一つ、前に二つ先の椅子にある緑の頭。その目が見えないことが、どうしてか心をくすぐる。

 

私を『餌』だと言ってのけた赤い瞳。

今朝、人間らしさに揺れていた緑色。

 

いったい氷川さんは、どれほど私を楽しませてくれるのか。どこまで私は溺れるのか。

 

一限目、二限目、三限目と時間が流れる。間に挟まった十分間の休み時間には何かの用意をしているフリをされたり、頻繁にお手洗いに駆け込んだりで話しかけられなかった。

 

幸か不幸か、四限目の科学の先生は毎回チャイムの数分前に授業が終わる。まじめな氷川さんは、あと数分とはいえ授業中に廊下を走り回れないだろう。

 

つまり、どういうことかというと、

 

 

「逃げないでくださいよ、ご主人さまぁ」

 

ご主人さまという言葉を聞いたとなりのクラスメイトがぎょっとした目をこちらに向ける。

 

緑目の氷川さんは、いくつかの感情でいっぱいいっぱいになってしまったよう、弁明も返事もせずただ揺れる目で私を見つめて立っている。

 

昨夜の圧倒的な、私の力なんて超越した豪胆さとは真逆、私がすべての主導権を握っている感覚にゾクゾクした。

 

隣の人に何でもないよと雑に告げて、乱雑に氷川さんの手をつかんだ。身体にみなぎった力で、氷川さんの体を軽々と引き連れて歩く。

 

解放されていない屋上へ続く階段を駆け上る。人はいないし、注意すれば声も音も響かないからだ。

 

力ずくで引き揚げて、半分投げるように、半分いたわりつつ、彼女の体を壁に押し付ける。

 

「ご主人さま、まず一口、お願いできますかぁ?」

 

私は制服の胸元をぐいっと広げると、左の首筋を氷川さんに差し出す。

 

右の首筋をかまれたら左の首筋も差し出しなさいと、私の心が叫んでいる。

 

息を荒げて口元に押し付けた。

 

しかしどうやら、緑の氷川さんはこれが好きではないようだ。人間相応の力で押し返される。

震える声で、やめてくださいと言われた。

 

昨夜色鉛筆を止めてくれたのだから、ここで私が引かないのは不義理だろう。

 

押し付けていた手を放して、一歩分後ろに下がる。呆けたように息を吐けば、高揚感とともにみなぎっていた力が抜けていく。

 

「じゃあさ、一から説明してくれる?氷川さんが何なのか、私は…どうなったのか」

 

ぼそぼそと、はい、と聞こえた。

 

 

どうやら氷川さんは、吸血をする種族らしい。

世間一般に有名な吸血鬼とは違う点が多く、弱点らしい弱点はない。蝙蝠になったり霧になったりもできない。空は飛べないし寿命が長かったりはしない。鏡に映らないなんてこともない。

 

ただ、血を吸わないと体が血を求める。人間とはかけ離れた力をふるうことができ、長く伸びた牙を突き刺し血を吸う。

 

吸血された対象は、一定の割合で同族になるそうだ。隷属の関係ではなく、あくまで同族になる。同族になる原因はわからず、変化する人間としない人間の差もわかっていない。

 

 

昨夜の私はどうやら運悪く狩の時間にでくわし、幸運にもご主人さまができたわけだ。

 

 

「氷川さんは、きっと私を噛んだことをよくは思ってないと思う。だけどね、私は今のところ嫌じゃないんだ。できるだけ氷川さんに被害者の立場は使わないようにするし、楽になるように、罪悪感が薄れてくれるように頑張る」

 

赤目の氷川さんと緑目の氷川さんは、同じ氷川さんではあるが違うところもあるようだ。赤目の私も、きっと私とはどこか違うんだろう。今の私は、さっきよりも優しい言葉を並べることができた。

 

「でもね…ごめんね、あたしはダメみたいなんだぁ。ご主人さまに、餌だって教えられちゃったから、気が済まない。きっとあたしはそんな娘なの。だからさあ、お願いご主人さま」

 

吸ってよ。

 

熱い空気の振動で氷川さんがまた震える。

 

氷川さんはおびえながら、緑目のまま、観念したようで長い牙を口から出した。

 

こらえきれない私は、すぐに首筋を押し当てる。

 

震えるそれが徐々に突き立つ。

 

彼女が望んでいようがいまいが、私はもう彼女の糧になる快楽から逃れることはできなかった。

 

 

ぱちぱちと意識がスパークする。わずかな時間でもすぐに頂にたどり着く幸せ。

 

意識がなかったので覚えていないが、きっと昨日の十分の一の時間も吸われなかった。

氷川さんが唇を離す。

 

荒い息を吐きながらポケットからハンカチを取り出し、傷口に押し当てる。

しみこんだ血でこの感覚を思い出そうとした低俗な行為だったが、氷川さんは私の手を除けて、止血するためにハンカチの上から強く抑えた。

 

 

「…ありがとう、氷川さん」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

学校でご主人さまではなく氷川さんに別れを告げて家に帰った。

 

昨日今日と続けて血が減ったからか、無性にレバーが食べたくなって近場のスーパーで焼き鳥のレバー串を三本パックに詰めてかごに入れた。

造血に必要なビタミンは何だったか、思い出せず悩んだ末にミックスゼリーを何個かかごに入れた。栄養素は少なそうだけど。

 

 

買い物を終えて家に帰りつく。

諸事情あって今は一人暮らしなので、自宅の中には誰もいない。いないはずなのになぜか気配を感じた。

 

え、いやまってむりむりむり、こわすぎる。

 

泥棒?いや、泥棒ならまだいい。よくはないけど、もっと怖い生き物とか…お化けだったりしたら?

まじむりなんだけど。二日連続とかマジやめてほしい。

 

目を赤くしてみたが、怖さは微塵も薄れなかった。どうやら私の怖がりは本質に染み込んだものらしい。

 

おびえていたままでいても仕方ないので左手に110と入力したスマホを持って、鍵穴にカギを差し込んでみる。

 

差し込んだ音がしたはずだ。それが聞こえたのか、足音が走ってきた。

 

カギを抜いた瞬間、内側からシリンダーが回された。つまり開錠された。

 

大丈夫、気絶する準備はできている。

 

 

私はドアに触れていない。つまり、内側にいる何かが扉を開けた。

 

どんなおぞましいのものが出てくるのか。

 

そう思っていたが、一瞬に視界に映ったのは紫色のふわふわだった。視線を下げると、かわいらしい顔と体がついている。

 

 

「おかえりなさい!」

 

「あ、え、…ただいま」

 

 

 

 

 

 

 

 

「その……あなたは?」

 

赤目の感覚は、この子がどうやらただの人ではないことを伝えてくる。

目の前の赤い着物に花柄の帯を巻いた女の子は、中学生くらいだろうか。氷川さんの例を考えるとこの子が天使でも納得はできる。というかかかわいい。

 

「宇田川あこですっ!」

 

元気にお名前を教えてくれたこのこは、どうやらあこちゃんと言うらしい。和風な姿の中に、アクセントのようについた頭のリボンが揺れる。

 

「こっちに来て!」

 

あこちゃんのかわいい手が私の手をつかんだ。赤目の力なら抵抗できたが、可愛さにやられてついていく。靴を脱ぎおとして、いつも通りリビングに入った。ハズだった。

 

はいった先は、現代日本では珍しい、和風なお部屋になっていた。部屋の真ん中には囲炉裏があり、ぱちぱちと赤い火が燃えている。大きな採光窓があったはずの場所は、障子になっていた。向こう側に透けるのは真っ暗な闇。

着た場所を振り返ってみる。私の背後は板が張られた壁だった。

 

「ここはね、すみれさんのおうちだよ」

 

「…違う、私の家はこんなんじゃない!」

 

部屋の真ん中、囲炉裏の灯を見つめるあこちゃん。背中からは先程までとは違い、確固たる存在感が放たれている。

 

「あこは座敷童なんだ。あこがいれるのはその人の家だけ。あこを見れるのはその家の人だけ」

 

振り返ったあこちゃんの笑顔。かわいらしい顔が、無理矢理に恐怖を感じる表情を映し出している。

 

「お帰り、すみれさん」

 

唇の間から歯が覗いた。

 

 

座敷童は…東北のあたりが発祥の話だったはずだ。が、表記ゆれや、物語によって設定がかなり違う。似たような怪異もあったはずだ。守り神のような存在として描かれることもあれば、無害な子供な時もある。そして、害として描かれることもある。

 

こうなってしまえば、かわいい見た目は信用できない。赤目を維持したまま、カバンと買い物の袋を床に置いた。

 

「…あたしはさ、最近なったばかりの吸血鬼なの。あこちゃんのほうが…先輩なのか「吸血鬼!?カッコイイ…!」

 

「えっと…」

 

「座敷童よりカッコイイ!いいなー、あこも吸ってもらったら吸血鬼になれる!?」

 

あこちゃんが、恐怖なんて微塵もない笑顔で駆け寄ってきた。昨夜の氷川さんを見つけた時の私みたいに飛びついてくる。

身体は軽く、赤目じゃなくても受け止められたかもしれない。

 

「えっと…人間しか吸血鬼にできないから、座敷童はむりかも…ごめんね?」

 

私の言葉を聞いたあこちゃんは、多分顔を曇らせた。かわいいからあんまりわからない。

 

「でもさ、座敷童も、古い日本の伝説で良くない?あこちゃんはなにができるの?」

 

「あこは…なんていうか、『いつの間にかいること』とか『和風っぽい』ことが有名で…その人の家にいたり、日本っぽくするぐらいしか…」

 

ふーん、そんなものなのか。まだ二人しか見てないけど、現実より小説のほうが奇なのかな。

 

「守り神だったり、悪戯したりとかは…」

 

「うーん…驚かせちゃうこともあるけど、いつもはあそぶだけ」

 

「そうなんだ……あこちゃんはなにか好きな遊びあるの?」

 

「NFOっていうゲームが好きだよ!」

 

あらら、思ったより現代的だ。

 

「じゃあ、何かして遊ぶ?ゲーミングPCはないけど、大乱闘するゲームならあるよ。…今ここにはないけど」

 

「す、すぐ戻すから!」

 

 

あこちゃんが指を鳴らす。鳴らそうとした。かすれたような音が出て、同時に部屋がぱっと元に戻った。ついでにあこちゃんの格好もゴスロリっぽい服になっている。というかこれがもとの服で、着物がわらしちゃんの正装なのか。

 

こっちのほうも西洋人形のおばけっぽいな。かわいい。

 

リビングに置いてあるテレビに接続しっぱなしのゲーム機のコントローラーをあこちゃんに渡して、スマッシュするゲームを起動した。

 

「あこちゃんの家ってどのあたり?」

 

「ここから5分ぐらいです」

 

 

案外近いんだな、と思った。よし、6時ぐらいには家まで送ろう。

 

それまでは、私の女神様の力を見せてやろう…

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

あこちゃんの門限がいつかは知らないが、いい時間なのでおうちまで送り届けた。

 

ほんとに歩いて5分ぐらいで、もしかしたら見かけたことがあったかもしれないと思った。

 

家で、親御さんに挨拶くらいしたほうがいいのかなと思ったが、赤い髪のカッコイイお姉さんが出てきた。

 

この状況を何と説明しようかと思った。

 

 

「ただいま!」

 

 

私と氷川さんの関係は、ご主人さまは明確に言葉にしてくれた。でもわらしちゃんは何も言わなかった。

 

でも、あこちゃんが笑っていた。

 

一緒にゲームして、笑いあう関係を、世間一般ではなんというだろうか。なら、言葉は一つしかない。

 

 

 

「こんにちは、あこちゃんの友達です。…遅くまで連れて申し訳ありませんでした」

 

お姉さんは、少し心配していたけど別に問題ないと言ってくれた。

 

 

「すみれさん、またあそぼうね!」

 

あこちゃんが手を振ってくれる。

 

思えば私は、人間関係のことを考えすぎてこっちに転校してからはこんな簡単な関係の、友達はいなかったんじゃあないだろうか。

 

なんだか私もうれしくなった。

 

 

 

「またね、ばいばい!」

 

 

 

 

 

 

 

 




短め

今回は設定固めの要素が大きかった。
あこちゃんと遊びたーい



長め
次回あこちゃん2をやった後にサキュバスちゃんです。あこちゃんとゲームする話。と、サキュバスちゃんと……
ご主人さま、友達と関係性を作って、サキュバスちゃんとどんな関係にするかわっくわくしてる。
R18にならないように頑張ろう。


蛇足

光の女神、パルテナさまを信仰しましょう。
まじ神。
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