バンドリ短編   作:天城修慧/雨晴恋歌

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今回は死ネタじゃないです


日菜(猫)(ゆきさよ?)

困った。

 

非常に困った。

 

どうしようか悩んだ末、1人ではどうにもならないとスマートフォンを握った。

 

「もしもし湊さん」

 

『紗夜、どうしたの?』

 

「日菜が……日菜が猫になってしまいました」

 

『にゃんですって』

 

 

にゃーん。

 

 

 

 

 

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『今すぐ行くわ。』

 

スマートフォンをデニムのポケットに入れて、もう一度リビングの扉の陰から中を覗く。

 

髪と同じ色の猫耳と尻尾を生やした日菜が、自分の尻尾の先をぱしぱし叩いていた。

 

そのまま眺めていると、日菜がこちらを向いた。

 

目が合った。

 

駆け出したのはどちらが先だっただろうか。

 

逃げる私。

 

廊下を走って脱衣所の方へと逃げる。

 

日菜は器用に4本足で追ってきた。

 

行き止まりについてしまうとダメなので脱衣所からリビングへ。また廊下へ。

 

…どうして私は逃げているのだろう。

 

そのままぐるぐる逃げているとインターホンが鳴った。

 

「日菜!お客さんが来たから大人しくしなさい!」

 

「にゃう」

 

……意外と聞き分けがいいのね。猫ってそういう生き物なのかしら。

 

玄関まで行って戸を開けると大きめの紙袋を持った湊さんがいた。

 

「…息が上がってるけど、何かあったの?」

 

「…追いかけっこを少し」

 

 

 

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日菜と湊さんが、1mほどの距離で見つめあっている。

 

日菜は警戒しているように見えた。

 

湊さんが日菜を撫でようと近づいた。

 

その分だけ距離を取る日菜。

 

「…手強いわね」

 

「あの、湊さん、これからのことで相談にのって貰いたくて電話したのですが」

 

「まずは日菜の警戒を解くのが先よ」

 

湊さんは持ってきた紙袋をガサガサ鳴らして中に入っていた物を取り出す。

 

「これはお気に召すかしら」

 

取り出した赤い毛糸玉。

 

それを日菜の方へと転がす。

 

「にゃう」

 

日菜は手元に転がってきたそれを確かめるように数回突くと湊さんの方へ転がし返した。

 

 

「…!」

 

湊さんは目を輝かせてもう一度毛糸玉を転がす。

 

「にゃっ」

 

日菜は猫らしい俊敏さで手を伸ばした。

 

日菜が弾き飛ばした毛糸玉は空を舞って、

 

なだらかな弧線を描いて、

 

湊さんの顔に直撃した。

 

 

「ひ、日菜っ!なんてことを!」

 

「いいのよ紗夜、猫がしたことだから」

 

「にゃ」

 

毛糸玉をしまった湊さんはまた新しいおもちゃを取り出す。

 

「これはどうかしら」

 

片手ほどのネズミのおもちゃだ。

 

押すと小さく『ちゅう』と鳴いた。

 

湊さんはそれを日菜の方へ投げた。

 

日菜は軽く握った拳を素早く伸ばして、

 

「にゃう」

 

ネズミは先ほどとにた放物線を描いて、

 

狙い違わず飛んで、

 

『ちゅう』

 

湊さんの顔で動きを止めてぽとりと落ちた。

 

「にゃwwふww」

 

「このっ…!」

 

「湊さん、猫がしたことですから!」

 

 

 

 

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「こうなったらもうアレを…」

 

湊さんは大きく深呼吸をしてから紙袋を鳴らす。

 

日菜はもうすでに素振りのように腕を振っている。

 

湊さんの顔が無事だといいのだけれど…

 

「よく見なさい、日菜」

 

湊さんは布で覆った箱のような物を取り出して日菜の前に置いた。

 

日菜はぶんぶんと腕を振っている。

 

湊さんが布を取り去った。

 

 

「1 /8紗夜ちゃんドールよ!」

 

「にゃっ⁉︎」

 

「待ってください湊さんそれは何なのですか」

 

「この前の日菜の指示通りに作ってあるから完璧よ」

 

「にゃん!」

 

「湊さん、」

 

「Pastel*Palettesの日菜ちゃんドールと同じスケールだからさよひなし放題よ」

 

「にゃ‼︎にゃ‼︎」

 

「あの、」

 

「しかもこれだけじゃないのよ。赤面verに、水着verに、ドレスver、私服ver、」

 

「にゃう‼︎」

 

「湊さん⁉︎」

 

 

湊さんが持ってきた紙袋の中身の大半は紗夜ちゃんドールでした。

 

 

 

 

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「…そろそろいい時間ですね。湊さん、何か作りましょうか?」

 

「あら、いいのかしら。…ならお願いするわ。……そういえば日菜は食べれるのかしら?」

 

「どうでしょう……日菜!」

 

呼ぶとリビングの入り口から日菜が来た。

 

「あーんしなさい」

 

日菜が大きく開いた口の中を覗く。

 

綺麗な歯が生えそろっていた。

 

「歯に変化はないようですが…」

 

「日菜、貴女ご飯は食べられるの?」

 

「にゃーん」

 

………。

 

「今の、YESでしょうか」

 

「おねーちゃんだいすき!かもしれないわ」

 

「それ、日菜の鳴き声ではないのですが…」

 

とりあえず素麺を茹でてみたところ、美味しそうに食べている。箸を使って。

 

「…本当に猫なのかしら」

 

「…さあ」

 

 

 

 

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「そういえば、どうしてこんなことになったのでしょうか」

 

湊さんは日菜の顎の下を撫でながら話す。

 

「何か心当たりはないかしら?例えば何か変なものを食べたとか、」

 

「日菜が変なものを食べるとでも⁉︎」

 

「言葉が悪かったわ。ごめんなさい。謝るから胸ぐら掴まないで」

 

はっ…!日菜を悪く言われた様に感じてつい熱くなってしまった。

 

湊さんから手を離すと飛びのいて逃げていた日菜が戻ってきた。

 

「そうね…好きなものは何かしら?」

 

「日菜が好きなのは私です」

 

「ええ。正しすぎるのだけど、 私の知らないことが聞きたいわ」

 

「飴とガムとジャンクフードが好きです。その他にも味が濃いもの。星もすきみたいです。あと夜。それとアロマとか「にゃう‼︎」…日菜 ?」

 

鋭く鳴いた日菜が私の袖を加えて引っ張っている。

 

 

「…わかった。連れて行って」

 

 

 

 

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階段を駆け上った日菜を追って日菜の部屋の扉の前に立つ。

 

「ここ…なの?」

 

「にゃん」

 

湊さんと一度顔を見合わせてからドアノブを握る。

 

「…っ⁉︎」

 

扉を開くと中からは鼻を突く刺激臭がした。

 

私が部屋に踏み込む前に、日菜が中に入っておくのベランダに繋がった窓を開け放った。

 

 

湊さんと一緒に中に入る。

 

机の上にはガスコンロやビーカー、小さなナイフなど何かを作った痕跡が残っていた。

 

ビーカーには琥珀色の液体が入っていて異臭を放っていた。

 

隣には分厚い本が置いてあった。

 

タイトルは…

 

『…実践黒魔術?』

 

しおりのページには、猫化の秘薬とあった。

 

 

 

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そのページには「完全に猫になる」薬のレシピが書かれていた。

 

恐らくは規定の量を飲まなかったから…ビーカーに残った分だけ中途半端に変化したのだろう。

 

文字列だけのレシピの次のページには解除薬もレシピもあった。

 

「これを飲ませれば日菜は…」

 

「材料もありそうよ」

 

湊さんの方を向くと、机の上のラベルがついた瓶を見ていた。

 

中には何かの根や羽が見える。

 

アロマにも使ったりするのだろうか。

 

かなり品揃えは良さそうだ。

 

 

 

 

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乾燥したなめこ、コオロギの羽、ヒノキの芽など、材料を刻んで煮込むだけだったので私にも作ることができた。

 

でもどうして先に解除薬を作っておかなかったのか。

 

アマガエルの目をナイフの腹で潰しながら考えると後ろで見ている湊さんに声をかけられた。

 

「紗夜…その、よくできるわね」

 

「そうですか?…湊さんは小さい時カエルを踏み潰したりしませんでしたか?」

 

「私にそんな刺激的な経験はないわね。女の子だと少ないんじゃないかしら」

 

「どこから聞いてきたのか、日菜がやりたがったんです。それに一度だけつきあいました」

 

「一度で慣れるものなのかしら…」

 

 

西洋ニンジンの葉、エダマメの根を加えて、

 

 

「生き血……」

 

迷う理由はない。

 

ペーパータオルでナイフを拭って左手の指先を切ろうとして、

 

「紗夜、私がやるわ」

 

「…ですが、そこまで迷惑をかける訳には、」

 

「私の指よりずっと、紗夜の指には価値があるの。…貴女の音が数日でも聞けないのは嫌だわ」

 

「……そこまで言ってくださるのなら」

 

精製水でナイフを洗った後、アルコールの手拭きシートで水分を拭ってから湊さんに手渡す。

 

湊さんはガスコンロの上の鍋まで左手を持って行って、

 

「…っぃ」

 

指の腹から先まで伝って5滴。

 

「紗夜、絆創膏ないかしら」

 

「つばでもつけててください」

 

 

 

 

 

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しっかり煮詰めた腐った魚の様な匂いのする汁を新しいビーカーへ注いで、ベッドの上で、丸くなっている日菜の所へ持っていく。

 

「日菜」

 

起こしてからビーカーを口元に近づけるが、匂いのとおりに不味いのだろう。一口飲むと口を離してしまう。

 

「……ごめんね、日菜、これだけは変わってあげられないの」

 

変われるのなら変わってあげたい。

 

でも、日菜が飲まないと意味がないから。

 

一度湊さんにビーカーを預けてから日菜の頭を撫でる。

 

「頑張って、日菜」

 

日菜の口に片手を突っ込んでこじ開けた。

 

「湊さん今です!」

「ええ、任せて」

 

湊さんがビーカーの中身を日菜の口に流し込んだ。

 

鼻をつまんで無理矢理飲み込ませると、日菜の体が一度大きく震えた。

 

次の瞬間から耳と尻尾が縮み始める。

 

 

 

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机の上の器具の片付けを終えてから。

 

「おねーちゃんひどい!もうちょっと優しく飲ませてくれても良かったのに!」

 

あのあと湊さんは『リサに……にゃーん…ふふっ♡』と言って帰ってしまった。

 

「日菜が飲まないからでしょう。仕方ないわ」

 

「でも、」

 

「日菜におねーちゃんって呼んでもらえないのが嫌だったの」

 

ベッドの上で1/8紗夜ちゃんドールの空き箱で山を作っている日菜が動きを止めた。

 

「おねーちゃん、今なんて…」

 

「一度しか言わないわ。よく聞きなさい」

 

 

 

私は、日菜のおねーちゃんでいられて嬉しいわ。

 

 

 

 




短めに

次はりんあこになりそう





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蛇足


今回、話の方向性かなり変わったじゃないですか。死ネタからちょいアホネタに。

ちょこっと文章のイメージも変えたつもりなんですよ。

死ネタは、ずっと平坦にかきつつふわふわした現実を実感できてない感を。
今回は普通、普通、普通、って並べてるつもりなのにちょっとズレてる感を。

ただ読み返してみると何が違うんやってなったり。




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ほしよんかくていがちゃでいゔちゃんひけませんでした

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