バンドリ短編   作:天城修慧/雨晴恋歌

9 / 27
うちの友希那さんなんかおかしい

視点キャラになるとおかしい


affection,sympathy,reverie(りんゆき)

休憩時間に

 

燐子が白桃色のポーチを手にしてスタジオを出て行く。

 

その時、扉の前で数秒だけ私に視線を向けた。

 

それは、なんら特別な意味を持たない行為。

 

私以外は気にも留めないほどに微細なしるし。

 

なんと説明すればいいのか。言うなれば……暗黙の了解、という言葉が近いかもしれない。

 

少し時間を開けてから、リサに適当に言って私もスタジオを出る。

 

目指す先は、1番人気が少ないあの場所。

 

 

静まり返った女性用トイレ。

 

1番奥の個室以外に鍵がかかっていないことを確認してから、一度だけその個室の戸を叩いた。

 

静かに、素早く扉が開いて、中にいた燐子の手が私を個室の中に引き込む。

 

私は後ろ手に扉についた簡素な鍵をかけた。

 

無言のまま、燐子が白桃色のポーチの中から安っぽい砂時計を取り出して壁面に設けられた手荷物置きの上に、時を始めてから置いた。

 

木とプラスチックがたてた硬い音を契機に私は燐子の肩を掴んで、無理矢理にピンク色の唇の隙間へ侵攻を始める。

 

不審に思われない時間の間だけ、

 

私達は唇同士、粘膜同士、あふれた液体をこすり合せる。

 

砂つぶと、衣擦れと、温みの底に。

 

私が燐子を引きずり込んで、沈んでいって、少しの間だけ揺蕩って、

 

蕩けたその底で名残惜しさと背徳感を迎え入れて、

 

波間に浮上しかけた2つの体を、もう一度掴んで、

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

この関係が始まった日のことを、ぼんやりと思い出した。

 

 

あの日はーーリサも紗夜もあこもいなかった。急用があって練習に参加できないという連絡に気付いたのは、スタジオについて燐子と顔を合わせてからだった。

 

1時間刻み、事前予約の貸しスタジオ。

 

 

「…1時間だけ、練習してから帰りましょう」

 

 

 

私達はどちらも社交性があるとは言い難い性格をしている。それに、お互いの分野に詳しい知識があるわけでもない。

 

だからいない3人分以上に会話は少なく、私が何かの気の迷いで燐子の手元を覗き、あんなことをしなければ。

 

きっと何事もなく練習を終えていただろう。

 

 

「あの…友希那、さん?」

 

 

背後から、燐子を抱きすくめるようにして、私は右手をキーボードの上に乗せた。

 

楽譜が読めて、どこを叩けばどの音が鳴るかわかっても、それだけで弾けるものではない。

 

押し込んだ鍵盤の音が、タッチレスポンスで弱く響く。

 

その音に反応するように、燐子が小さく震えた。

 

先程まで鍵盤の上にあった手は、今は胸の前で硬く握り締められている。

 

今度は優しく、鍵盤よりも強く、右手も燐子の体に回す。

 

合意のない行為で、小さく空気を震わせる音がした。

 

不規則な呼吸の音が続いて、黒い髪が私の頬に擦れて、

 

そしてやっと、1時間の十分前を告げる電子音がなった。

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

遊離した私達の口から、こぽこぽと空気が漏れ出る。

 

とっくに砂の落ちきった砂時計を、燐子がポーチに押し込んだ。

 

目を合わせてくれない彼女の口から溢れている情意を拭う。

 

互いの服と髪の乱れを直して、外の気配を探ってから個室の鍵を開ける。

 

長い廊下をたどって、3人がいる場所へ戻る。

 

途中で見た時計は、休憩時間の終わりの5分前を指していた。

 

扉をくぐり、彼女はあこの隣へ行く。

 

それをじっと眺めていると、リサに声をかけられた。

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

少し慌ただしく片付けを終えた私と燐子は、何をするでもなくスタジオの外に立っていた。

 

空はまだ明るいが、何かに弾かれたみたいに人通りは無かった。

 

無言が続く。

 

どちらから声をかけるか探っているわけでは無かった。

 

ただ、何を話したらいいのかわからなかっただけ。

 

 

「…次の練習は」

 

「はい」

 

声をかけると、燐子は返事をしてくれた。

 

短い言葉からは、感情を読み取ることができなかった。

 

「また、みんなで決めましょう」

 

「…はい」

 

 

耐えきれなくて、それじゃあ、と口にして。

 

目を背けて、燐子から離れようとした。

 

私の鞄を掴んだ燐子の手は、それを許してはくれなかった。

 

 

「…友希那さん」

 

 

私は何も言わなかった。

 

俯いている彼女の表情はよくわからない。

 

燐子は私の手を取り、自分の体に触れさせる。

 

腰から、肩の下まで撫でさせる。

 

探るように、私の体に手を回す。

 

なんとなくの予想はついた。

 

何を求める行動かも、想像できる。

 

だけど私は、どこかで燐子を傷つけてしまうかもしれないから。

 

燐子のことを、きちんと理解できるかわからないから。

 

燐子の手を引いて、私はトイレの1番奥の個室に入った。

 

私は、燐子にエゴを押し付けることに決めた。

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

5人での練習が終わってから、私はリサと一緒には帰らなかった。

 

あの日と同じ道をたどって、私達は燐子の家へ向かった。

 

彼女のご両親は家にいなかった。

 

私は燐子の部屋に通されて

 

幾度目だろう。

 

私は燐子をベッドに押し倒して、無理矢理に唇を奪う。

 

肩を掴んで強く押し付けて、

 

抵抗するようなそぶりを見せても強く強く、呼吸を塞ぎ続ける。

 

私は…私が。私が燐子を犯している。

 

そのシチュエーションは変わらなくていい。

 

燐子の行動ひとつで私の現状とこれからの全てが瓦解する。

 

でもそれでいい。

 

もし、燐子が嫌になった時に、

 

誰かに送った数文字のメッセージで、誰かに見せた僅かなサインで。

 

簡単に、あっけなく、壊して、無くしてしまえる関係でいい。

 

 

ゆがんだ形の慕情

言葉にしない共感

 

いつまで続いてしまうのか

いつまで、続いてくれるのか

 

願わくば、彼女に幸せがあらんことを。

 

それだけは、心から願える。

 

あと少し望むのなら、その隣に私がいることを。

 

例えそれが夢想だとしても

 

 

 




短め

ゆきりん。りんゆき。
相思相愛以上、友達未満?
求めるものは同じなのに構図は犯罪者と被害者っぽく

長め

予告とかしない方がいいのではと思い始めた。詳しくはブラックドットで語ってるけど数個ボツになりそうな話が。

というわけで気の向くままに書いてます。ごめんなさい。


蛇足


うちの友希那さん、何がおかしいてネタ話に出したちょっとキャラ崩壊かなって思って書いた友希那さんが一番友希那さんっぽいの。

これ、ゆきりんで書くよりりんさよで書いた方がよかったかもしれない。

ばってん紗夜さん出したら常識をもうちいと知識して書かないかんけん、たるいんよ。

紗夜さんの常識に囚われたチキンっぽさも大好きよ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。