噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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休日デートと回転木馬

「俺のそばに近寄るなぁぁぁーッッッ!!!」

 

ミラノの広大なファミリー向け公園に、サーレーの悲鳴がこだました。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

先日のエジプトへの派遣から帰還してサーレーが痛感したことは、イタリアに無事帰ってこれたことへの喜びと生への感謝であった。

もちろん、死ぬつもりでエジプトに向かった訳ではない。しかし、あまりに緊張の続く時間と初めてと言える程に常に死と隣り合わせの戦い、なかなか敵を打倒する手段が見つけられなかったことによりサーレーは常に最悪の事態を想定しながら戦闘を行っていた。最悪の事態とはもちろんなんの役にも立てずに亡き者となることである。

そして、その最悪の事態がいつでも起こりうるという緊張感が彼の集中力を高め、彼を生きながらえさせた。

 

生きて帰れたことは喜ばしいものの、その極度の緊張感と多大なダメージは彼を凄まじく疲労させ、サーレーは帰還してジョルノによる治療を行ってから丸二日間家で寝込むこととなった。家に帰ってからぶっ倒れるように寝込んだサーレーを、相棒のマリオ・ズッケェロは心配して彼の家に付き添った。

 

そして後日、サーレーはその貢献を認められてパッショーネから特別手当が贈られた。

 

『ポルナレフ、あのチンピラを寄越してくれて、助かったぜ。』

 

サーレーは知るよしもないことだが、共闘した空条承太郎からポルナレフへの口添えがあってのものであった。

ポルナレフは、普段はどちらかと言うと辛口な承太郎のその言葉がどれだけ高評価なのかを知っていて、ジョルノにそれを正確に伝えた。そして、その功績に対してパッショーネからサーレーに特別に褒賞金を贈られることになった。

特別手当を送られたサーレーは、使い道に迷った末に彼を心配してくれた相棒、マリオ・ズッケェロと喜びを分かち合うことに決めた。

 

それがつい先日のことだった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

サーレーは今日は特別に何か行うことがある訳ではない。パッショーネからも休養を言い渡されている。

……とはいっても、いつもさほど忙しい訳ではないのだが。

 

まあ、とにもかくにもそのへんは置いといて、今日はサーレーはミラノの街を相棒のズッケェロとブラついていた。特別に目的地を決めていたわけではない。

せっかく臨時ボーナスが渡されたのだ。単純に、いつも共に戦ってきたマリオ・ズッケェロに日頃の感謝の気持ちを込めて、褒賞金で何かを奢りたいと考えていたのだ。

 

「とはいっても、お前なんか行きたいところとか食いたいもんとかあるか?」

 

サーレーがズッケェロに問いかける。

 

「うーん。特になあ。」

 

ズッケェロも特に思いつかない。

二人は基本的に、金のないチンピラだ。昔から収入が安定せず、詳細は省くがあまり褒められたやり方ではない方法で収入を得た時なども、金を雑に消費してきた。

そしてジョルノが組織のボスとして姿を現して以来は、その褒められないやり方の収入も得られなくなり、ここ最近は赤貧の生活が板につきつつあった。持ち物の車は金に困って売り払って、少ない貯金も早い段階で切り崩してしまっている。いきなり臨時ボーナスを渡されても、今更パーッと使う気にもなれない。

 

「以前は金をどう使ってたんだっけか?」

「女と酒と……あとは賭けポーカーとかじゃなかったか?」

「そうだっけか?じゃあ俺たちはもしポルポの遺産を手に入れてたとしても、賭けポーカーで散財してたってことか?ろくでもねえなぁ。」

「多分、だろうなあ。あとは株とかFXとかか。俺が思うに一年くらいで全部すってたと思うぜ。お前は組織に金を納める的なことを言ってたが、俺たちがそんなに組織に従順だったら組織からもっとマシな待遇を受けてたはずだし。事実俺たち今までそういう金の使い方をし続けてきたわけだし。そう考えたらあそこで負けてて良かったよ。もし金を得てたら全部あっという間にすって、それだけでは我慢できずに組織の金に手をつけたり麻薬チームの乗っ取りなんかを考えて、多分死んでたぜ。」

 

サーレーとズッケェロはミラノの街並みをぶらりと歩いている。

二人は目先の快楽に溺れ続けてきたからチンピラなのである。6億もの大金を素直に組織に差し出すとも思えない。

サーレーは組織に金を納めて甘い汁をすする的なことを言っていたが、ブローノ・ブチャラティは日頃の信頼と貢献あってこそ金を収めてパッショーネの幹部に昇進したのである。二人のようななんの功績もないチンピラが大金を組織に納めたところで、出どころを怪しまれるだけでいきなり組織の幹部というのは無理がある。せいぜい与えられても木っ端程度の利権だろう。それを考えれば、二人が金を組織に素直に納めていたか甚だ疑問が残る。

 

二人の脳裏には組織に捕まって拷問される姿がありありと浮かんだ。そちらはものすごくリアルに想像できる。

二人の背筋に冷たいものがつたった。

 

俺たちに勝ってくれてありがとう、ボス。もうホント、死ぬまでついていきます。

 

「うーん、でもどうする?せっかくここまで足を伸ばしたわけだし……。」

 

サーレーがズッケェロに問いかけた。

 

「そういうのはお前が決めておくべきだったんじゃねえか?」

「そうか?」

「だろ?お前が感謝の気持ちで俺に奢りたいって言ったんだから。」

 

そうか。俺が決めておくべきだったか。

サーレーは何をするか考えた。なかなかこれといった案が思いつかない。

 

「ちょっといい店になんか食いに行くか?」

「悪くはねえがメシ時までまだ時間がねえか?」

「じゃあそれまでなんか映画でも見るか?」

「面白いのやってるか?」

「まあ、何をやってるのかだけ確認をしてみようぜ。」

 

二人は話し合った末、ミラノの表通りの映画館へと足を運んだ。

ミラノの街の大きなビルの一階層に映画館は存在した。

 

「ズッケェロ、お前どれか見たいのあるか?」

「そうだなあ……。」

 

二人は映画館のラインナップを見上げた。

アクション映画が三本にホラー映画が二本、あとは恋愛映画をやっているようだ。

 

「俺……実はホラー映画ダメなんだ。」

「お前その顔で?嘘だろう?」

「オイ!その顔ってなんだよ!」

 

ズッケェロはサーレーのあまりの失礼さに憤慨した。

いくら相棒でも言っていいことと悪いことがある。

 

「じゃあアクション映画か?でもどうなんだ、これ?」

 

サーレーはアクション映画の概要を読んだ。

スパイものとチンピラが不思議な力を得て闇の力と戦い抜く話、あとは青年が地球滅亡を回避する内容みたいだ。だが食指がまったく動かない。

 

スパイものに関してはパッショーネでリアルなスパイを何人も見てきている。二人も組織に言いつけられて簡単な諜報活動の経験は幾度かある。今更創作のスパイなんかに興味を持てない。

 

チンピラ奮闘記に関しては、リアルチンピラの二人にとってタイトルがどうにも不愉快極まりない。なにせ『ふたりはチンピラ Max Heart 』である。どうも何かのパクリっぽい。キャッチコピーは、〝ふたりはチンケでピラッピラ!〟だそうだ。まったく意味が理解できない。

まさかピラッピラというのがズッケェロのソフト・マシーンの能力を暗喩しているのだろうか?じゃあクラフト・ワークがチンケだとでも言いたいのだろうか?

 

地球滅亡を回避する映画はポスターからしてどうにもB級臭が拭えない。青年がイマイチ緊張感のない表情で宇宙から青い地球を指差している。なんであんな緊張感のない男に地球の命運を託してしまったのだろうか?もっとマシな人材はいなかったのだろうか?気になるのはその一点だけだ。

 

「お前見たいか、コレ?」

「……全然。」

「となると……。」

 

サーレーとズッケェロは黙って残りの映画のポスターを見た。若い男女が顔を近づけて抱き合っている。

 

「……どうするんだ?男同士でコレを見るのか?」

「なんか他に案あるか?」

「……ない。」

 

二人は今までの自身の人生の実の無さを痛感させられた。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「……。」

「まあまあだったな。」

 

映画館から退出しサーレーは無言だった。ズッケェロは気にしていないようだ。

なんというか、サーレーのなかではやらかした感がハンパない。

男二人で何も考えずに恋愛映画を観るとこんなにも気まずい感覚を覚えるのか。サーレーは痛感した。

 

画面の向こうでは若い男女がイチャコラ付いていて、周りも大半が男女の組み合わせかそうでなければ女性が観覧している。

映画を観ている間、サーレーは二人が周囲にどんな目で見られているのかを考えると肩身が狭かった。恐らくは男性同士の組み合わせ(カップリング)と見られていたのではなかろうか?事実がどうあれ、サーレーにはそうなのではないかと感じられた。

そのせいで映画自体はつまらないことはなかったが、内容はまるで頭に入っていない。

 

「……どうする?ちょっと早いがメシにするか?」

「そうだな。することもねえし。」

 

ふたりはミラノの街をのんびりと歩き、雑誌に載っていた有名な高級リストランテへと向かった。

ミラノの裏通りに高級そうな店が立ち並び、その中のビルの一室にそれは存在した。

 

「お客様がたはご予約はなさってますか?」

 

ーー……そうきたか。

 

高級で人気のある店である。予約制ということは十分に考えられる。

チンピラのサーレーは考えが及んでいないが、二人は実はドレスコードも明らかに店の基準を満たしていない。

 

「……予約がないとダメなのか?」

「申し訳ございませんが。」

「オイ、あっちのテーブル空いてるじゃねえか!」

「すみません。あちらはご予約のお客様がいらっしゃいまして……。」

 

ズッケェロがゴネてみるが相手方の対応はにべもない。

まああまり店側としてもチンピラ然とした二人組を中に入れたくないのだろう。

サーレーは早々に諦めた。

 

「ズッケェロ、行くぞ。」

「オイ、サーレー。こいつ絶対俺たちのことを舐めてるぜ?」

「……いいじゃあねーか。なんか適当に買って、その辺のどっかで食おうぜ。」

 

表の人間とトラブルを起こしたとなれば、組織の二人への心象も悪くなる。

サーレーは納得いってなさそうなズッケェロを諌めた。

 

「チッ。」

 

二人は内心で毒づきながら、近くのファーストフードの店へと向かった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「んでよオー、宅配のダンボールの蓋の裏側にくっついてプレゼント(フォー)ユーってのはどうだ?」

「アリだな。他にもピッツァの宅配とか、天井からズドンってパターンも効果的だろう。」

 

二人は近くのファーストフードの店でバーガーを買って、近くの公園のベンチで頬張りながら駄弁っていた。

いま話しているのは、二人の能力の協力した有効的な活用方法である。

ズッケェロの能力で厚みを無くして、いかに相手の想定外の方法で攻撃を加えるかが話の肝となっている。

 

「天井か。なるほどなあ。お前のクラフト・ワークで建物の天井にくっついて上からズドンか。」

「まあ、そこそこ敵の意表はつけるだろうな。まるでジャッポーネ・ニンジャだ。とは言ってもやはり俺たちには探知タイプが天敵なんだよなぁ。特にお前がさ。」

「そうなんだよなあ。それをどうにかして克服できればなあ。」

 

マリオ・ズッケェロは前回のエジプトの一件で相棒の役に立てなかったことをひどく悔いている。

それをなんとか克服したくて、相棒のサーレーに話を持ちかけたのである。

 

ナイトバード・フライングだけでなく、ナランチャ・ギルガのエアロ・スミスやサーレーがエジプトで戦ったクリーム。そういった視覚に頼らないで戦うスタンドは接近戦があまり得意ではないソフト・マシーンにとって天敵に等しい。

 

「うーん、じゃあいっそのこと逆転の発想をしてみたらどうだ?もう弱点は克服しないでいいや、って。」

「オイ!俺は真面目に相談してるんだぞ?」

「俺も真面目に答えてんだよ。弱点を克服せずに、相手がお前の弱点をつけないような戦闘方法を考えればいいんじゃあないか?」

「んなモンあるか?」

「さあ?」

「さあじゃねえよ!」

 

二人は食事が終わって出たゴミを、公園に設置されていたゴミ箱へと放り込んだ。

 

「まあでも、いい気分転換にはなったよ。スマンな。お前への感謝の気持ちでの奢りのつもりだったが、俺もリフレッシュできた。」

 

サーレーはズッケェロにお礼を言った。

サーレーの精神は疲弊していた。

何も考えずに出かけたことは、彼にとって非常にいいリフレッシュになっていた。

 

「そうかい。」

「ああ。今まで気付かなかったが、どうやら俺はまだ気を張っていたようだ。お前と出かけて丁度よく緊張がほぐれたよ。」

「んでもよォー。」

 

ズッケェロが公園にいた周囲の人間たちを見回した。周囲には男女のペアが多数存在する。サーレーは、ズッケェロのその様子に若干の不穏な空気を感じ取った。それは多分、、、あえてサーレーが考えないようにしていたことである。

オイ、待て、バカ、ヤメロ。

 

「なんかアレだな。俺たちの今日の一日はまるで映画館で見た男女のデートみたいだったな。」

 

サーレーの嫌な予感が見事に的中した。ズッケェロのバカが唐突にとんでもない爆弾をぶっ込んできた。やはりズッケェロはどうしようもないバカである。

 

サーレーもそれは実は薄々感じてはいた。

サーレーはズッケェロに二日間も献身的に看護されていた。さらに今日の二人の行動は恋愛映画を見た後に食事である。この後にどこかのホテルにでもシケ込めば、完璧だ。なにがとは言わないが。

 

だが、世の中には感じていたとしても言葉にしてはいけないことって、あるだろう?まさかこいつわざと言ってんのか?

そういえば、思い当たる節がないわけでもない。確かズッケェロはオスの猫に人間の女性の名前をつけていたはずだ。ひょっとしたらサーレーには理解できないそっち方面のなんらかの特殊な性癖をお持ちなのかもしれない。

 

そっちの方に偏見があるわけではないが、それは友人として付き合うまでである。ノーマルなサーレーは深いお付き合いする気はない。もしかしたらズッケェロは、ずっと相棒のフリをしてサーレーのナニかを付け狙っていたのかも知れない。このままでは、気付いたら朝帰りしているなんて事態も起こりうるのかもしれない。

サーレーの頭を唐突に不穏な妄想が過った。

 

サーレーはゾッとした。サーレーはズッケェロから目を離さずに後ずさる。もしかしたら背を向けたら飛びかかってくるかもしれない。

 

「オ、オイ?相棒?なんで俺から距離を取ってるんだ?」

 

ズッケェロが心底理解できないといった様子で距離をとって警戒するサーレーへと近付いていく。

疑心暗鬼な今のサーレーにはその様子がどうにも演技くさく見えた。

 

「……ズッケェロ、それ以上こっちに来るんじゃあ、ねえ!」

「な、なんだ一体?どうしたってんだ?相棒?敵か?」

「相棒って呼ぶんじゃあねえ。俺はノーマルだ!敵はお前だ!来るな!それ以上俺に近寄ったら、敵対行為とみなす!!!」

「オイ、待てよ!相棒!」

「俺のそばに近寄るなぁぁぁーッッッ!!!」

 

ミラノのファミリー向けの公園に、サーレーの悲鳴がこだました。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

シーラ・Eはその日、パッショーネの書類業務を行っていた。

彼女はパッショーネにとって非常に使い勝手の良い人材である。表の業務も裏の業務も共にソツなくこなす。

 

その日、彼女は普段よりも若干帰宅が遅くなっていた。

彼女は普段はジョルノの親衛隊として、ネアポリスに在住している。

 

普段のように帰り道を帰宅している最中に、彼女は唐突に覚えのない場所に出た。あまりにも突拍子のない場所だ。

彼女はそこそこ場数をこなしたスタンド使いであり、それがなんらかのスタンド攻撃であるとすぐにそう判断をした。

 

ーーここは……なに?

 

得体の知れない。理解が出来ない。

彼女が帰り道に行き当たったのは、回転木馬だ。木馬が回転している。夢のようだ。足が地につかないような感覚を覚えた。視覚のピントが合わず、グラデーションがかったように周囲の景色がハッキリしない。現実感がなく、意味もわからない。当然彼女の帰り道にこんなものがあるわけはない。

 

それは一瞬、彼女に遠い昔の姉との遊園地の記憶を思い起こさせた。

なぜこんなものがこんなところに?どんな能力を?

 

「待っていた。シーラ・E。」

 

男がいた。年齢は30〜40くらいだろうか?そこそこ体格がいい。

グラデーションがかった景色の中で、その男だけが唯一存在感を放っていた。

男は回転木馬の外周の支柱の一つに背を預けて寄りかかっている。

回転木馬はほぼ間違いなくスタンドだ。彼女は警戒した。

 

「あなたは誰?……私になんの用かしら?」

「お前の引き抜きにきた。」

 

決まった。奴はパッショーネの敵だ。

シーラ・Eは飛びかかろうと身構えた。

 

「落ち着け、シーラ・E。お前にとって悪い話ではない。」

「一体なにをッ!!!」

 

男は右手の平を前に差し出した。シーラ・Eはその行動を警戒した。敵はおそらくスタンド使い、なにをしてくるかわからない。

飛びかかることはやめたが、シーラ・Eは最大限に相手の警戒を行なっている。

 

「お前はパッショーネに居るべきではない。俺の下へ来い。」

「……レディをエスコートしたいのなら、最低限自分の素性を明かすべきではないかしら?」

 

シーラ・Eは男を睨んだ。

 

「レディ?お前のような小娘がか?」

 

男は余裕ぶった表情を崩さない。シーラ・Eの言葉を鼻で笑った。

 

「俺の下に来い。ジョルノ・ジョバァーナはお前が敬愛すべき相手ではない。」

「なにをッッ!!!」

「やはりか。お前は俺からのプレゼントレターを放っておいたようだな。」

 

男は少し残念そうな顔をした。

プレゼントレター、覚えがあるのはアレだけだ。

『サーレーは真実に気付いている。』

シーラ・Eが以前どうするか少し迷った末にイタズラと判断して放置していたものだ。

 

「フン、まあいい。しかしお前は使い勝手の良い手駒だ。だから俺の下へ来いと言っている。お前は生かして俺の部下として使ってやろう。」

「私はジョルノ様の親衛隊ッッ!!!ほかの人間の手駒になるとでも……。」

「……なぜお前はジョルノ・ジョバァーナの手駒なんだ?お前はなぜジョルノ・ジョバァーナに忠誠を尽くす?」

 

男は本当に意味がわからないといった様子で、首を傾げた。

 

「ジョルノ様は私の仇を……。」

「わかっているのだろう?ジョルノ・ジョバァーナはたまたまお前の復讐相手と敵対しただけだ。そしてたまたまその過程でお前の復讐相手は惨死した。全ては偶然だ。」

「それでもッッ!私はジョルノ様に恩を返さないといけないッッッ!」

「それだよ、シーラ・E。」

 

男は楽しそうにニヤついている。

 

「ジョルノ・ジョバァーナはお前に全面的な信頼を置いてない。お前は使い勝手はいいかも知れないが、ジョルノ・ジョバァーナの心中の序列としてはあの暗殺チームの二人組よりも下だ。」

「なにを根拠にッッ、そんなことッッ!!!」

 

シーラ・Eの呼吸は若干荒い。頬が上気し、汗をかいている。

 

「やはり、自分でも気付いていたか。お前のその反応が何よりの証拠だ。」

「そんなはず!!!」

「教えてやろう。シーラ・E。なぜお前の序列があの二人よりも下なのか。お前はさっき、『ジョルノに恩を返したい』ではなく、『ジョルノに恩を返さないといけない』と言った。……一体それは誰から押し付けられた義務だ?」

「い、いや、そんなこと……。」

 

男は依然楽しそうにしている。シーラ・Eは相手に心理的に優位に立たれているのを感じた。

 

「言ったんだよ。お前は。お前の行動は全てお前自身の義務感から出たもので、本心からのものではない。だからお前は有能にもかかわらず、心からの信頼をされていない。」

「黙れっっ!!!」

「お前は嘘つきではないし、お前はまじめだ。お前はしっかり仕事をこなすし、周囲の役に立つ。だが、お前は本心を明かしていない。お前は得体の知れない義務感、強迫観念に突き動かされて行動している。本心からの行動をしない人間は、平時にどれだけ役に立っても戦場ではギリギリで迷い、周囲の人間の足を引っ張ることになる。お前は精神的に脆いんだよ。お前は体が頑丈なせいでそれでも生き残り、組織の役には立つと重宝はされている。しかしお前の傷は決して誉ではない。敗走の逃げ傷だ。」

「私はッッ!」

「お前はなんのためにパッショーネにいるんだ?すでに本来の目的の復讐は終わった。ジョルノ・ジョバァーナには本心を明かさない、ゆえに信頼されない。周囲はお前とウマの合わないロクデナシの巣窟だ。……はっきり言おう。お前がパッショーネにいる意味は無い。」

「うわあああああッッッッッ!!!」

 

シーラ・Eは激昂してスタンドを発現させて相手に殴りかかった。

 

「……だから俺の部下になれと言ってるんだ。お前は役に立つ。俺がお前を導いてやろう。お前にとっては悪い話では無いはずだ。」

 

相手は動くそぶりはなかった。にもかかわらず、シーラ・Eのスタンド、ブードゥー・チャイルドの攻撃は相手に当たらなかった。

 

「な、なぜ?」

「なぜ、なぜか。疑問があるのなら自分で明かすべきだ。それがスタンド使い同士の戦いの醍醐味だろう?」

 

男は余裕を崩さずに笑っている。

シーラ・Eはわずかに間迷いながら、それでも決心して宣告した。

 

「……アンタはジョルノ様の敵ねッッッ!!!」

「……否定はしない。」

「私はアンタになんと言われようと、パッショーネの人間だわ!」

「だから?」

「アンタのツラは覚えたわ。覚悟なさい!パッショーネがどれだけ強大か……。」

「クッ、まるで悪役の三下のようなセリフだな。俺がなんの対策もしてないわけがなかろう。」

 

男はそう喋ると、笑いながら親指で後ろの回転木馬を指差した。

 

「ラウンド・ラウンド・アンド・ラウンド・アラウンド。俺の配下のスタンド使いのスタンドだ。攻撃能力は一切無いが、これを一度目にしてしまえば、これのそばにいる間は楽しかったという感情だけが先行して、一切の記憶も意識も残らない。まるで子供の頃遊園地に行って、楽しすぎて具体的になにをしたか思い出せないようにな。これはあの厄介極まり無いカンノーロ・ムーロロの目さえも誤魔化すことさえできる。非常に重宝している。」

 

男は続けて喋った。

 

「とは言っても、俺もパッショーネと全面戦争するつもりは無い。ここでお前を消すのは簡単だが、それをしてしまえば奴らは一層警戒することになる。本気で守りを固めてくるだろう。それは俺にとっても非常に面倒だ。」

 

男はそれだけ告げると、回転木馬のスタンドと共に姿を消した。

後にはシーラ・E一人が残された。

 

さて、私はなぜここに突っ立っていたんだったか?もしかしたら疲れているのかもしれない。

……帰ろうか。少し遅くなってしまった。なにやら理由はわからないがいい気分だ。

明日は休みだからトリッシュ姉様でも誘って休日デートでウィンドウショッピングでも楽しもうか?

 

シーラ・Eは足取り軽く自宅へと帰って行った。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

本体

不明

スタンド

ラウンド・ラウンド・アンド・ラウンド・アラウンド

概要

子供が遊園地に行っても楽しかったという感情だけが先行して具体的な内容をハッキリ思い出せないように、スタンドを目にしたものは夢見心地になってそばにいる間の記憶や意識が一切残らなくなる。あくまでも目にすることが発動条件のため、男は自分に効果が来ないように回転木馬に背を向けていた。隠密行動に特化したスタンド。カンノーロ・ムーロロのオール・アロング・ウォッチタワーとは互いのスタンド同士で矛盾を起こし、群体であるために一体あたりに込められたスタンドパワーの弱いウォッチタワーは敗北して記憶や意識を共有できなくなる。ムーロロのウォッチタワーの天敵。

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