噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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スタンド名はオリジナルが好ましいのではないかという御指摘を頂きましたので、1話目に載せたクラフト・ワークとソフト・マシーンの名称を若干変更いたしますね。新しい名称はイタリア語と英語が混在してますが、語学の苦手な作者ですのでどうか許してください。内容には変更点はございません。
イタリア語でboiaは処刑人、drogato は麻薬中毒者のような意味合いです。

変更点
クラフト・ワーク・ディストーション→クラフト・ワーク・ボーイエ
ソフト・アンド・ウェット・マシーン→ソフト・マシーン・ドロガト


レクイエムは、静かに奏でられる

ジョルノ・ジョバァーナは、ヨーロッパの裏社会で誰よりも優先的にナプキンを取ることを許されている。

ジョルノがテーブルに座って右のナプキンを取ったら皆それに倣って右を、左のナプキンを取ったなら左を。

ジョルノはヨーロッパ裏社会の帝王であり、下の者は皆彼に傅いている。

 

それは、この世の超越者の特権だ。

権力をどれだけ持っていようとも、無礼者や暴君にそれは許されない。

ジョルノは裏社会で多大な敬意を集め、誰であろうと彼よりも先にナプキンを取ることは許されない。

イタリアの裏社会でジョルノはまるで、無敵の全知の帝王のように扱われている。

 

しかしジョルノ・ジョバァーナは無敵ではない。

ジョルノ・ジョバァーナは全知ではないし、何もかもを手中に入れた帝王でもない。

 

パッショーネだけでなくヨーロッパの裏社会全体で、ジョルノは最強の帝王のように恐れられているが、それは等身大のジョルノ・ジョバァーナではない。

そういったフリをしているだけだ。ジョルノは、イタリア裏社会の帝王のフリをしているだけである。

 

ジョルノ・ジョバァーナはそう考える。

 

パッショーネは強大な組織だが、当然それはジョルノ一人の力で運営されているものではない。

副長のグイード・ミスタ、ジョルノに忠実なカンノーロ・ムーロロなどの有能な部下たち、取り巻きのシーラ・Eを筆頭とした武力集団、商才のある頼りになる老獪な幹部連、組織でいいポストに就こうと日夜努力を続ける下っ端構成員、友誼を育むヨーロッパ圏内の友好的組織、組織に庇護を求める一般人、そういったパッショーネとそれを取り巻く社会の環境に支えられて、ジョルノはイタリア裏社会の帝王の役割を果たすことを許されているだけだ。

 

そしてジョルノがそこに至る過程で、彼の仲間であるブローノ・ブチャラティ、ナランチャ・ギルガ、レオーネ・アバッキオという彼にとってかけがえのない友人たちの命は失われた。今の住みやすいイタリアは、彼らの血の結晶である。イタリアの平穏を軽視することは、ジョルノにとっては命を賭してくれた彼らへの裏切りにも等しい。

 

ジョルノ・ジョバァーナはそれを知っている。それを決して忘れない。

そして、それはパッショーネが社会に盤石たる最大の理由でもある。

 

ジョルノは日々への感謝を忘れず、彼に油断や慢心はない。ただでさえ盤石な組織の長が、付け入る隙を一切見せないのである。

彼は全知ではないゆえに、仲間が命懸けで遺してくれたイタリアの平穏にかけがえのない価値を見出し、それが失われることを恐れている。

恐怖とは決して悪いものではない。仮に恐怖を持たない種が存在したのなら、彼らはどれだけ強靭な肉体を持っていてもあっけなく絶滅するだろう。例えば屈強な肉体と明晰な頭脳を持った歴代の石仮面の戦士たちが全滅したように。

 

社会とは、矛盾を含んでいる。

裏社会とは、表から脱落した人間の集まりであるにもかかわらず、表の人間の支持を集めないと強い組織になれない。裏であるにも関わらず表に気に入られないとやっていけない。なぜなら、裏よりも表の人数の方が圧倒的に多いから。

裏社会はあくまでも社会という大きな一枚のコインの裏側にあるだけで、それは決して反社会ではない。

 

無い方がいいにも関わらず、裏は存在する。誰にも否定できない。

裏が表のおかげで存在できるのと同様に、表とは裏の存在によって成立しているのである。

 

誰もやりたくなくても、やらないといけない仕事は現実的に存在するのだから。

やりたく無い仕事というものは得てして、多くの場合放置すれば社会に悲劇を生み出すことになる。例えばチョコラータを生かしておいたせいで、罪なきローマの市民が大勢亡くなったように。

表社会においても、テロリストなどの危険度が極めて高い相手に対しては多くの場合苛烈な決定を下される。

 

殺人とは反社会的な行為でありながら、それをチョコラータに対して行っていれば大勢のローマ市民は亡くならずに済んだはずだった。そこには決定的な矛盾が生じている。

 

社会とは、いつも矛盾を抱えて運営されている。その矛盾をうまく処理するのが裏社会の存在意義なのである。サーレーがパッショーネに任された職種は、その最たるものである。

 

どれだけ声高に理想を叫んで裏社会を糾弾しようとも、〝じゃあ嫌なこと全部お前がやれ〟この一言で大概の人間は沈黙する。

それらの仕事を表の人間に任せてしまえば、しばしば汚れ仕事をする人間が表社会の差別や糾弾の対象になり、社会全体のモラル低下の原因となる。モラル低下は、社会に犯罪が蔓延る最大の原因だ。

 

裏ゆえに表よりも緩いところもあるが、裏であるがゆえに表よりも厳しい点も多数存在する。

裏社会にも関わらずジョルノ・ジョバァーナのパッショーネがイタリアで絶大な支持を受けているのは、ジョルノの理想が大多数の表の人間にも共感できる理想だからである。

 

ジョルノは全知ではない。彼はそれを知っている。

ゆえに実は、パンナコッタ・フーゴの処遇に非常に苦慮した。

以前フーゴの処遇にほとんど迷わなかったと言ったな。スマン、ありゃ嘘だった。麻薬チームのマッシモ・ヴォルペの処遇を決めるのは簡単だったのだが。

 

帝王は周囲に威厳を示すために、たとえ偽りだとしても毅然とした態度をとることも時には必要だ。

本当はジョルノにだって迷いや悩みはある。むしろ地位や立場のある人間の方が、社会に対して背負う責任は大きいと言ってもいいだろう。ゆえに迷いや悩みも大きい。

 

ジョルノ・ジョバァーナはパンナコッタ・フーゴの人物像を掴みきれていなかった。

彼がフーゴと過ごした期間はあまりにも短く、ジョルノはフーゴをどういった扱いにするか非常に悩んだ。

フーゴのスタンドは危険極まりない。万が一パッショーネの敵として現れた場合、極めて高い確率でパッショーネの貴重な人員の命が多く喪われることになる。ジョルノにとって、フーゴは扱いが難しい問題だった。

 

しかし、それでも問題をいつまでも先延ばしには出来ない。日々は緩やかでも確実に過ぎていき、問題というものは後回しにするほどに得てして、より致命的になるものだ。

矛盾や苦悩を抱えても、間違えを犯したとしても、それでも先へ進まないといけないのが人間なのである。

 

迷い自体は悪いことではない。人間はいつだって迷うものだ。迷うということは、少しでも良い未来を目指すために必要な過程である。

そして、迷いなき帝王とはそれすなわち傲岸不遜な独裁者である。

 

迷うことは悪いことではない。迷って歩みを止めることこそが、人生の成長の妨げになる。

ジョルノはそう考えている。

ジョルノは対外的にはあたかも全てを理解しているかのような毅然とした態度をとるが、それはあくまでも組織の下の人間の求心力を維持して彼らの不安を取り除くためである。

 

答えのない問題に悩み果てた末に彼が出した解答は、問題の先延ばしによる細やかな経過の観察だった。

パンナコッタ・フーゴは危険な人物ではあるが、ジョルノが最も信頼していたブチャラティチームのリーダー、ブローノ・ブチャラティが守りたいと願ってチームに引き入れた人物でもある。死者の思いを正確に汲み取ることは不可能だが、それでも想像することは可能だ。

 

ブチャラティはきっと、フーゴはイタリアの社会でやっていけるように成長すると考えていたのかもしれない。そうでないかもしれない。

あるいは、ブチャラティはこの上なく優しい人格者でもあった。フーゴがどれだけ危険であっても、彼の庇護をしたいと願ったのかもしれない。そうでないかもしれない。

結局は、わからない。それでも確実に言えることは、ブチャラティにはフーゴを懐に入れる彼なりのなんらかの理由があったということだ。

 

人間の人生には、大切なものに序列がつけられている。

フーゴはもしかしたら過去に凄惨な事件を起こしたことがあるかもしれない。社会の敵なのかもしれない。

ジョルノにとって世界は大切だが、世界よりもイタリア、イタリアよりも地域、地域よりも仲間、そして家族。

多くの人間は大切なものにはそういった序列がつけられている。例えばシーラ・Eにとって姉への愛が最上位に存在したように。そして、本当にそれが大切ならば自分で守らないといけない。

 

それならばジョルノも、わからないなりに彼が信じた人間の判断を尊重することに決めた。

ブチャラティにフーゴを生かすだけの理由があるなら、ジョルノもフーゴに時間を与えてそれを見極めようと。

イタリアの社会は大切だが、仲間はもっと大切だ。ジョルノは決断した。

 

『いいんじゃあねーか?お前がボスだ。俺はお前の判断を尊重するぜ。』

 

悩んだ末に相談したミスタも、ジョルノの判断を尊重してくれた。ジョルノは帝王であり、悩みや弱みを見せることができる人物はほとんどいない。ジョルノにとってミスタは数少ないそういった人物だ。

そしてパンナコッタ・フーゴにはその人物像の予想を立てたジョルノによる試練が与えられた。そしてジョルノの判断の正しさを証明するかのように、フーゴはムーロロのサポートを受けて成長した。ジョルノにとってそれは、望外の喜びだった。

 

フーゴを生かすことに決めたからには、使える人材を最大限に活用すべきだ。

フーゴは賢く、どのような分野もソツなくこなす能力を持っている。幹部候補生にしたのはただ単にフーゴの能力が高かったからであり、それが彼を最大限に活かすことが可能だというそれだけの理由だった。フーゴの組織内での立ち位置自体はジョルノにとって些細なことだった。

今のフーゴは成長し、組織のために役に立ちたいという意志が明確に見受けられる。

 

「もう……今年もこんな時期か。」

 

ネアポリスの図書館で長机に座りながら、ジョルノはつぶやいた。外は小雨が降っている。

珍しく今日のジョルノは、物憂げな気分だった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

珍しくジョルノ・ジョバァーナは、黒のスーツを着こなしている。

普段彼は忙しいが、今日だけは特別だ。毎年この日は、彼は欠かさずに休暇を取っている。

ジョルノは、プライベートジェットでサルディニア島に飛んでいた。

 

「お久しぶりです、ボス。」

「やだなあ。ジョジョって呼んでくれと言ったはずだろ?君が元気にしていることは聞いているよ。是非ともパッショーネのために研鑽を積んで欲しい。」

 

ここには今四人の人物がいる。皆、黒いスーツを着ていた。

サルディニア島の海が一望できる海岸線、波の音が耳に心地よい。

 

今ここにいるのはパッショーネのボス、ジョルノ・ジョバァーナ。パッショーネ副長であり凄腕の拳銃使いと名高いグイード・ミスタ。新進気鋭の歌手、トリッシュ・ウナ。

そして、今年から増えた一人。パッショーネの下っ端であり将来性を見込まれた新人、パンナコッタ・フーゴである。

かれらは裏社会の要人だが、護衛を必要としないほどの実力者でもあり、それが四人も揃っている。

 

「……ジョジョは馴れ馴れしすぎます。僕が今人生を楽しめているのは、あなたの御慈悲だ。」

「君は真面目すぎるな。真面目に日々を過ごすのは素晴らしいことだけど、今日は()が見てるんだ。こんな日くらいは昔に戻ってもいいだろう?」

 

ジョルノは親指を立てて指差した。

周囲に目立たないように、石がおいてある。そこにあるのは墓標だ。

 

『オイ、フーゴ。ジョルノはお前の後輩だろうがッッ!ヘコヘコせずにちったあ威厳ってもんを見せやがれッッッ!』

 

フーゴは、幻聴を聞いた気がした。相変わらず無茶を言う。

今のフーゴとジョルノの立ち位置は、天と地ほど乖離している。フーゴはもう一生ジョルノに頭が上がらないだろう。

フーゴは少しだけ、苦笑した。

 

今日は、命日だ。ここに眠っているのは、レオーネ・アバッキオ。フーゴがパッショーネとの入団の渡りを付けた人間だった。

すぐ後日には、ナランチャ・ギルガとブローノ・ブチャラティの墓参りも控えている。

彼らは前ボスとブチャラティチームが対立した際に、命を落としたブチャラティチームの仲間たちだ。

 

「菊、カーネーション、グラジオラス……。」

 

ジョルノがゴールド・エクスペリエンスで墓に備える供花の花束を創り出した。

トリッシュがそれを受け取り、しゃがんで墓石に添えた。

 

「久しぶりね、フーゴ。少し痩せたかしら?」

「ああ、まあね。気にするほどではないよ。」

 

トリッシュ・ウナが立ち上がりフーゴに微笑みかけた。彼女も以前に比べると随分丸くなったと言えるかもしれない。

フーゴの健康に気をかけている。フーゴはしばらく、パッショーネの追っ手に怯えていた時期があった。

トリッシュは以前は、出会ってすぐのフーゴの洋服で洗った手を拭いていたはずなのだが。

 

「ま、ジョジョは普段はパッショーネのボスだが、裏では普通のガキっぽいトコだってあるんだぜ?」

「まあまあ、ミスタ。そんなことを言ってもフーゴがかしこまるのも仕方ないわ。ジョルノだってボスとしての体裁があるんだし。」

 

ミスタがフーゴの肩を叩き、トリッシュが軽く諌めている。

 

彼らが生きていれば最高だったのだが。ジョルノは墓前に目をやった。

ナランチャがバカを言い、アバッキオが呆れて、ブチャラティがナランチャをからかうミスタを諌めている。それを自分は遠巻きに眺め、フーゴはブチャラティの対外的な体裁のために勉強に励んでいる。テレビには、歌手のトリッシュが映っている。

それはどこまで行っても幻想だ。しかしジョルノは彼らのことが忘れられないし、忘れるつもりもない。

 

「じゃあ、黙祷を捧げようか。」

 

四人はレオーネ・アバッキオに黙祷を捧げると、次の目的地であるローマへと飛んだ。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

夜には、仲間内だけのささやかな宴会が開かれた。

ナランチャが亡くなったのは後日であり、サルディニアからローマに直行すると若干日数が余る。

彼らはローマのそこそこ値の張るホテルに泊まっていた。外が展望できるvip専用のテラスで、彼らは酒の入ったグラスを傾けている。ローマの夜景は美しく、四人は観葉植物の置かれたホテルの屋上でテーブルを囲んでいる。

 

「ギャハハハハ。オメーあの映画見てねえのか?アクションにしては内容はくだんねーけど、コメディーとしてみれば見れねーことは無かったぜ。」

 

ミスタが度数の強い酒を飲みながら、ジョルノに話しかけた。

最近巷で話題になっている映画だ。ジョルノは忙しくて、見ていない。

 

「たまにゃー外で何をやってるのか、見るのも悪くねーぜ。なあ、フーゴ。」

「そうですね。僕も今度スカラ座に歌劇を見に行こうと思ってます。」

 

フーゴはツマミにチーズを食べながら、ワインを飲んでいる。

 

「オメーは相変わらず、なんてゆーかお上品だな。まあそれが悪いってわけじゃねーけどよォ。」

「残念ながら私も忙しくて見逃したわ。その映画、話題になってるから気になってたんだけど……。」

 

トリッシュがジョルノの横に来て、酒をそそいだ。

歌手の彼女は本来ならばクリーンなイメージを保つために裏社会と関わりを持たない方がいいのだが、当人が一向に気にしない。

 

「ま、肩肘はんのもわかるけどよォ、たまにゃ部下に仕事をほっぽり出して外出してもバチはあたんねーぜ。組織にゃ信頼できる人材もたくさんいるだろ?お前はちょっと、働きすぎだな。」

 

ミスタはジョルノに笑顔を向けた。

彼はいつも、ジョルノにとって頼りになる兄貴分だ。サボりすぎる癖があるのがほんの少しだけ玉に瑕だが。

 

「ミスタ、あなたがもっとしっかりジョルノをフォローするべきなんじゃない?」

「おい、そりゃないぜ。俺はしっかりとやってるよ。なあ、フーゴ。」

「フーゴに聞いても彼に分かるわけないでしょう!」

 

ミスタが話題を振り、それにトリッシュが反応して、フーゴはどう答えたものか戸惑っている。

完璧ではない。ブチャラティたちはもういないが、これはこれで幸せな光景だ。

ジョルノは今彼に与えられているものを、感謝して享受した。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

次は、ナランチャの墓参りだ。

アバッキオもナランチャもブチャラティも、パッショーネで葬儀を行い墓自体は別の場所にある。

しかし彼らにとってはここが死者の墓前である。

ローマのコロッセオ近くにある裏通りの一角、そこにジョルノの創り出した花束が置かれた。

 

フーゴは当然彼らの最期を知らない。彼らがどこでどうやって死んだか知る由もない。フーゴはその前にブチャラティのチームを離脱した。

今日ここにフーゴが連れて来られたことの意味を、賢いフーゴは当然理解している。

 

これはジョルノからの暗黙の、お前は仲間だというメッセージである。

 

フーゴはパッショーネに逆らうことを恐れて仲間を捨てて逃げたが、実際はジョルノたちが叛逆者で、ブチャラティチームはボスのディアボロに負ける可能性は高かった。職業軍人でもあるまいし、下っ端のチンピラが自分の命が惜しくて敵わない敵から逃げるのは普通のことだ。結局はフーゴにとって、大切なものの序列の一位が己の命だったという、ただそれだけのことなのである。フーゴ個人が責められるのは、本来ならばおかしな話である。

しかし、罪悪感というものは己から出るものだ。それはなかなか拭えない。

 

「ナランチャは、大学に行くことを望んでいた。」

 

ミスタがつぶやいた。

ナランチャの間際の言葉である。それはフーゴの心に突き刺さった。

フーゴはナランチャの行けなかった大学にパッショーネに通わせてもらっている。

 

チームのために戦ったナランチャは死に、チームを逃げたフーゴは安穏と大学に通って人生を謳歌している。しかもフーゴが大学に通うのは表社会にいた頃とあわせれば二度目だ。

もしこれでまた癇癪を起こして大学を辞めるようなことがあれば、フーゴはきっと自分に絶望して死にたくなる。

 

「……フーゴ、お前を追い詰めるつもりはねえが、お前はそれを知っておくべきだ。」

「……ええ。」

 

ミスタは静かにフーゴに告げた。

賢明なフーゴは、ジョルノの意図もミスタの言う意味もしっかりと理解している。

フーゴを墓参りに連れ出したことはジョルノ・ジョバァーナの慈悲であり、厳しさでもある。

 

フーゴを置いていけば、フーゴは何も知らずに日々を謳歌していただろう。そしてそれを後日知っても、そんなものだときっとそう考えていた。

フーゴを連れていけば、フーゴの罪悪感が刺激される。アバッキオ、ナランチャ、ブチャラティの死がリアルに、身近に感じ取れる。そしてフーゴ自身の彼らへの罪悪感からジョルノやミスタから責められているような感覚を受けるが、フーゴ個人を蚊帳の外にせずに仲間として尊重しているという彼らの明確な意思表示も同時に感じ取ることができる。

 

知らない方が幸せなことであっても、知っておけば未来に対する備えや成長の糧にできるものだ。

少なくともそれを覚えている間は、フーゴは自分が何のために大学に通っているかどうやっても忘れようがない。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

最後に、ブチャラティの亡くなった場所である。そこは、ナランチャの亡くなった場所のすぐ近くだ。

ジョルノが創り出した花束が道端に添えられ、四人は黙祷を行った。

 

ジョルノは今でも時折考える。

彼らを死なせずに済む方法はなかったのか?もっといい戦い方はなかったのか?戦いをやめた方が良かったのではないか?

 

部下には見せられない、これはミスタにさえ見せられないジョルノの弱い一面だ。ミスタはジョルノ以上にブチャラティに近しかったというのに、ブチャラティが死んだ原因であるジョルノが一体どんな顔をしてミスタに相談するというのだ?

いくら考えても明確な答えは出ない。あの時ジョルノは社会に麻薬をばら撒き娘を殺害しようとした顔を知らないボスに憤慨したが、それはブチャラティチームというかけがえのない友人たちの命を犠牲にしてまでも行う価値のある行為だったのか?

 

何回考えてもいつも結局同じ答えにたどり着く。

結局、ジョルノはあの時イタリアの社会に納得が行ってなかったし、目の前で命を奪われようとするトリッシュを助けたかった。

ブチャラティはジョルノのその考えを理解し、賛同して、命を預けてくれたのだ。それはジョルノにとって、何よりの救いでもある。

ならば、悩んでも迷っても矛盾を抱えても、立ち止まっていられない。得た平穏を何よりも大切に扱い、死んだ彼らに恥じないようにその時その時で最善を尽くしていく生き方をするしかない。ジョルノはそう考えている。

 

「それにしてもトリッシュ、ちょっと見ねえうちにずいぶんと綺麗になったな。」

「あら、私は以前は綺麗じゃなかったと?デリカシーが足りてないわ。あなたは相変わらず変な爪の形なのね。」

「そんなことを言ってねえだろうが!ちょっと褒めるとすぐこれかよ!?」

 

黙祷が終わり、彼らはいつも通りに戻った。

ジョルノとミスタはパッショーネの重鎮として、フーゴはパッショーネの下っ端として、トリッシュは有名歌手としての日常が戻ってくる。

ミスタはトリッシュに上手くあしらわれ、フーゴはまだ慣れないのであろう、肩身が狭そうだ。

 

それにしても。

ジョルノ・ジョバァーナには今なお気がかりなことがある。今を以っても解き明かせていない疑問だ。

ポルナレフの入れ替わりのレクイエムが発動した時にブチャラティの体に入っていて、ブチャラティの体の死とともに引き摺られていった人間はいったい誰だったのだろうか?

ポルナレフはディアボロが二重人格だと言っていたが、明確な証拠はない。

 

あの時近くにいた人物は、完全に誰がどこにいたのか把握している、はずだ。

ジョルノはナランチャになり、ナランチャはジョルノ、ブチャラティはディアボロ、ミスタはトリッシュ、トリッシュとディアボロはミスタ、ポルナレフは亀で、亀はポルナレフだ。だれか近くに一般人がいたとも思えない。ならば誰がブチャラティの体と一緒に引き摺られていったのか?ポルナレフの言葉が正しければ、ボスの二人目の人格ということになるが。

気にはなるが、今となっては解き明かしようもない。

 

四人は一通り墓参りが終わると、それぞれの日常に戻った。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「やあ、ムーロロ。今日は変わりはないかい?」

 

ジョルノは携帯を手に取り、腹心の部下へと電話をかけた。ジョルノは組織の長として、部下の報告を受ける義務がある。

今はミスタと二人で、空港のネアポリス行きのプライベートジェットに向かっている。

 

『特に何もありませんね。だいたいいつも通りです。』

「そうか。すぐに戻るよ。」

 

ジョルノは返事を受け取ると、通話を切ろうとした。

 

『あ、ちょっと待ってくだせえ。だいたいいつも通りなんですが……。』

 

何やらムーロロの言葉の歯切れが悪い。何かあったのだろうか?

……もしかしたらジョルノに言いづらい、重大事があるのかも知れない。ジョルノは緊張した。

 

「……一体、どうしたんだい?」

『あ、その、えと、なんて言うべきか……。』

「はっきり言ってくれ。問題は対応が遅れると、被害が拡大することになるだろう。」

『……サーレーのアホがなぜかミラノの高層ビルの上にいて、国の消防に救出されたようで……。すいやせん。俺にもなぜそんなことになってるのか……。取り敢えずパッショーネに国から救出費用の請求書が来ていますが、これ、どうしやしょうか?』

「……彼の給与から天引きしておいてくれ。」

 

 

 

◼️◼️◼️

 

名前

ジョルノ・ジョバァーナ

スタンド

ゴールド・エクスペリエンス

概要

イタリア裏社会の帝王。パッショーネのボス。下っ端のチンピラの間では、彼は生命を司る神のようなスタンド使いだと神格化されており、彼の身の回りは幾人もの死神のようなスタンド使いが彼に心酔して護衛しているとまことしやかに噂が流れて恐れられている。


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