噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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この話は、あくまでも創作です。


石作りの海 その1

ここはフランス、パリの中心区から少しだけ外れた人気の無い通り。

男が、二人いた。

 

一人は、パッショーネにちょっかいをかけようとしていた30〜40歳くらいの男。

もう一人は、20代後半と思しき男だ。

区別をつけるために、二人の身体的特徴をあげつらってみよう。

 

二人は共に、がっしりとした非常にいい体格をしていて高身長だ。共に寡黙で、理知的な印象を受ける。ぱっと見で受ける雰囲気自体は似通っていると言えた。

わかりやすい身体的な特徴の違いを挙げるなら、比較的に若い方の男は赤い短髪で年上の男は長い金髪ということだろう。

服装に関して言えば、若い男はまだそんな時期でないにも関わらず、なぜか厚手のロングコートを纏っている。年上の男は普通の長袖だ。

 

この裏通りはなぜか低空に雲が渦巻いており、体感温度が非常に低下している。

金髪の男は、赤髪の男に告げた。

 

「何を迷うことがある?お前は自分の職責を忘れるほど愚かではないだろう?フランシス。」

 

赤い髪の男の名は、フランシス・ローウェン。フランスの裏社会の関係者で、非常に強力なスタンド使いである。

二人は戦いをしていた。フランシスは若干疲弊している。

 

「……。」

「誰しも、大切なものには順番が付けられている。お前は隣人の平穏に価値を見出しているが、それは自身の家族の平穏には変えられない。そうだろう?」

 

金髪の男が続けて告げた。

赤い髪の男はスタンドを現出させており、スタンドが体表から白いものを噴出した。それは雲だ。

高みの雲(ハイアー・クラウド)、赤い髪の若い方の男のスタンドで、自在に雲を生成して操る。

パッと字面で見た印象は、ウェザー・リポートのスタンドの下位互換のような印象を受ける。しかし彼はフランスの裏社会に名高いスタンド使いで、その実力は決してウェザー・リポートにひけを取るものでは無い。

 

「ハイアー・クラウド、高みに存在する上層雲!」

 

赤い髪の男が宣告し、周囲に上層雲が撒き散らされる。

それは高度10000メートルをはるかに超える上空にある雲で、その雲頂の温度は大体、そこの気温に雲の高度1キロメートルあたりー6、5℃をかけたものを足したものである。雲は氷の粒で生成されている。この場合は周囲の気温の低さも相まって、およそー60℃にも達する。

赤い髪の男が生成した雲が、周囲を長時間覆った。通常であれば氷漬けになるか、生きていてもまともに動けないほどに体温が低下しているはずである。

「……そろそろ気は済んだか?」

「くっ……。」

 

金髪の男の声は、極寒の攻撃を受けて平然としている。

あたりを極低温の雲に覆われた中で彼はフランシスに告げた。

 

「さて、お前に残された選択肢は二つだ。なおも逆らってお前の大切なもの、フランスの社会を戦火に晒すか、俺に従うかだ。わかっているだろう?強者には敬意を払う。俺が勝てばフランスの安全は保証しよう。俺が負けても、お前は自分の独断として相手にその首を差し出せばいい。それも守護者の役割の一環だ。どちらにしろ俺に従えば、お前が仮に命を落としたとしてもお前がその全ての愛を捧げたものは守られる。」

 

男はフランスの各所に配下を配置している。男の圧倒的な暴力に抑え付けられている彼らはフランシスに比べれば圧倒的に弱卒だが、一般人を害することに躊躇がない。

フランシスはフランスの裏社会の人間だ。組織に認められた処刑人、社会の守護者で、フランスの街並みと人々の営みの安寧を何物にも代え難く愛している。

やがて雲は晴れて、金髪の男は不敵に笑っている。

フランシスは、決断した。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「どうだった?」

 

女性が話しかける。貫禄があり、そこそこの年齢だ。

その容貌からは、女傑であるのではないかときっと誰もが推測するだろう。

ここはスペインのマドリード市内。スペインの裏組織、アルディエンテの本拠地だ。

 

「だいたい予想通りですねー。ボスのジョルノって人は、そこそこいい男でしたよ。まあボスほどじゃないけど。実動のサーレーさんもちょっと戦いたくないですね。けっこう厄介そう。パッショーネは予想通り、代替わりしてました。サーレーさんの反応からして間違い無いです。サーレーさんは実働一辺倒らしく、情報に関しては脇が甘い人でしたー。ちょっと突いたら面白いようにボロボロ失言してくれましたよ。麻薬チームもキッチリ処刑したみたいだし、あれだったら手を組む価値はあると思いますよー。」

 

メロディオが女性に応えた。女性は、アルディエンテのボスだ。

 

「フーン、あんたがそう言うのならそうなんだろうねぇ。なら最初の予定通り手を組むことにするかい。」

「それをオススメします。そうすればみんなハッピーです。仕事をキッチリこなしたんで、いつも通り私を褒めてください。」

「はいはい。よくやったね。全くあんたは、そろそろいい年なんだから男を捕まえてきなよ。」

 

女性はメロディオを撫でた。メロディオは嬉しそうな表情をした。

 

メロディオは、かつてパッショーネを嫌悪していた。彼女もまた、スペインの処刑人だ。

彼女はパッショーネを毛嫌いしていて潰したかったが、パッショーネはボスの所在もその能力も定かではない。暗殺しようにも不可能で、組織同士の真っ向からの戦争では勝ち目がない。各国の裏組織は、周到にことを進めていたディアボロに初動で遅れをとっていて、気付いたら手出しのできない状況に持っていかれていた。

彼女は勝算のない戦いで命を落とすつもりはない。そうなれば、彼女が守るべきスペインは一層ひどい状況に陥ることになる。

 

彼女はサーレーには何も嘘をついてない。言っていないことがあるだけだ。

アルディエンテはパッショーネを放置していたし、パッショーネを嫌う組織がヨーロッパにたくさんあったのもまた事実だ。

ただし……彼女自身がパッショーネを毛嫌いするその筆頭で、隙さえあればパッショーネのボスを暗殺しようと目論んでいた。

 

イタリアから流れてくる麻薬によってスペインの社会が荒廃するのを見ながら、彼女は内から湧き上がる灼熱の怒りを唇を噛んで耐え忍んだ。裏社会からは、社会の腐敗がよく見える。

麻薬を買う金欲しさの強盗殺人、重度の麻薬中毒者の妄想による突発的殺人、麻薬の幻覚により引き起こされる学校や会社や駅前などでの銃乱射事件。イタリアから麻薬が大量に流れてくるせいで、死ななくても良かったはずのスペインの人間がさまざまな犯罪被害により数多く犠牲になった。メロディオにとってそれは、赦されざる行為であった。

 

彼女は怠け者であっても、自分のボスとスペインを愛している。サーレーたちは少し例外だが、本来ならば社会の守護者、処刑人は本人が自分たちの社会を心の底から愛していて、彼らの社会を本人の序列の最上位に置いていることがその就任の一つの絶対条件なのである。なぜなら、処刑人が社会を心の底から愛していれば、処刑人は絶対に自分の守るべき社会を裏切ることがなくなるからだ。

そしてそれは、戦時下の義務感や洗脳による愛国心ともまた違う。義務感による愛国心では、難しい局面の判断を間違えてやり過ぎる人間が続出することになる。

 

特権とは、貢献に裏打ちされたものである。

社会を裏切るような人間や金で転ぶような人間に、絶対に殺人許可証という特権を与えるわけにはいかない。社会にその心を捧げてこそ、初めてそれは与えられる。

裏社会の組織も彼らを、社会にその心を捧げた神職として扱っている。

 

パッショーネが台頭する以前にも、スペインの社会に麻薬は当然存在した。いくら彼女がスペインを愛している処刑人であったとしても、当然、麻薬を所持する人間を片っ端から虐殺するつもりはない。やりたい奴は勝手にやればいいが、それは表の健全な社会に被害を及ぼさない程度にであるべきだ。彼女たちが本業で動くのは、本当にどうしようもないと判断した最後の手段としてである。社会には時に麻薬がないと生きられないような人間すら存在し、彼女はそんな人間であっても愛していた。

 

彼女たち処刑人が本業で動く条件を具体的に言えば、だいたい二通りに分類される。

表社会で対応が困難かつ放置することで同胞の命が極めて高い確率で脅かされ、本人になんら行動を改める意思が見られない場合。そして、表社会で対応が困難かつ対象の行動から推測される精神が普通の人間から著しく乖離していて、ただの人間社会の害敵でしかないと判断された場合。

サーレーが行った暗殺は、宗教団体が前者にあたり、ラグランは前後者両方にあたる。

 

彼女は社会の矛盾を理解しながら、彼女なりの理想と温厚な性質でスペイン社会の日々を過ごしていた。そしてそんな彼女の理想をあざ笑うかのごとく、イタリアから大量の麻薬が流れてくる。パッショーネから流れてくる麻薬量の多さは段違いだった。メロディオはパッショーネのボスの暗殺を目論むも、敵の所在が定かではなく、やり方を間違えて組織同士で全面戦争になったらスペインの社会は壊滅的な被害を被ることになる。パッショーネはきっと、戦争に何も知らない下っ端を使い捨ててくるだろう。何ら事態は好転しない。メロディオは耐え忍んだ。

 

そして不愉快極まりないパッショーネの所在不明のボスは打倒され、代替わりした。

ゆえにメロディオはジョルノを勇者と評したのである。

 

彼女はパッショーネの麻薬に関する方針とそれを打ち出した人間を憎んでいるのであって、イタリアやパッショーネ所属でも何も知らない人間まで憎んでいるわけではない。ましてや内部で自浄作用を起こし、革命を果たした勇者には好感さえ抱いている。彼女はパッショーネが方針を転換したことを、心の底から喜んだ。

 

実はパッショーネの各組織への同盟内容は、パッショーネから彼らに結構な金が流れるような内容になっている。同盟交渉は彼らに対する前任者がしでかしたことの慰謝料と、パッショーネが麻薬で得た利益の返還という意味合いが大きいのである。

 

今回のパッショーネとの友誼に、アルディエンテでメロディオが駆り出されたのには理由がある。

メロディオはアルディエンテの切り札で、万が一パッショーネが再び麻薬を節操なくばらまくつもりならそのボスの暗殺を視野に入れての行動だった。アルディエンテはもっとも信頼するメロディオに、新たなパッショーネのボスの人となりを見極めさせたのである。

 

そして実はジョルノも、以前のボスの行動がヨーロッパ各地で恨みを買っていたことを理解している。パッショーネ側でもメロディオがスペイン裏社会の切り札だと理解している。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()それと同盟交渉の重要な席を任されているという二つの理由により、彼女のその正体が浮き彫りになっている。彼女はおそらくはスペイン裏社会の切り札、処刑人だ。

 

そしてジョルノはアルディエンテが、パッショーネとの折衝に懐刀のメロディオを持ち出したその意味も理解していた。それはアルディエンテによる、《お前たちにはスペインの社会を乱した前科がある。万が一再び調子に乗るようならば、お前を消すぞ。》という暗黙の脅しを兼ねているのである。

 

アルディエンテのボスはメロディオに絶対的な信を置いている。メロディオは情報さえあれば、それを分析して今までどんな相手でも暗殺してきた。彼女のために命をかけることを躊躇わない部下も多数存在する。

 

そしてもちろん、サーレーも可能な限り分析されている。

彼女にわかったことは、サーレーのスタンドはとっさの反応の良さから恐らくは近距離パワータイプの可能性が高いこと。そしてサーレーのスタンドは足の裏からエネルギーを発して磁石のように床に吸い付いていたことだ。能力の詳細までは当然不明だが、そういうことができるのなら他にも多様な使い道があることが推測できる。メロディオの口を閉じさせたことや、ジャックをあしらったことなんかも合わせて考えればもしかしたら磁石に近い性質を持っているのかもしれない。能力を発動するのが拳に限定されていないということも貴重な情報だ。

それらを総じて、応用力の高いスタンドだと判断できた。メロディオも手の内を多少晒すことになったが、それで得た情報としては上々だ。

 

それらは念を入れての行動だったが、杞憂に終わって安堵している。

 

「でも、イタリアでスタンド使いのトラブルが最近複数件起きてるみたいなんですよね。あの温厚なボスのお膝元で、なんでそんなことになるんだろ?ボスの代替わりから時間も経ったハズだし。」

 

メロディオは、首を傾げた。

 

 

 

 

◼️◼️◼️

 

パッショーネ情報部に、不穏の訪れを予感させる報せが齎された。

スピードワゴン財団の空条承太郎氏が何者かによる襲撃を受け、記憶喪失の仮死状態になっているという情報だった。

それは財団のイタリア支部に知らされ、財団上層部はアメリカという遠い地で起こったそれにどう対応するか考えあぐねているらしい。

 

「……どうしやすか?」

 

パッショーネのネアポリス支部。

椅子に座った情報部のムーロロが、背後に立つボスのジョルノに指示を仰いだ。

情報の詳細のわかる限りはすでに入ってきている。

 

空条承太郎氏が襲撃を受けた地点はアメリカの州立グリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所。彼は轢き逃げ殺人・死体遺棄の嫌疑をかけられた娘の空条徐倫嬢に面会に行った際に、刑務所に潜伏すると思しき何者かによる襲撃を受けた。氏は今現在仮死状態で、財団の庇護下に置かれているということだ。

 

空条承太郎氏は凄腕のスタンド使いと名高く、そう簡単にやられるようなヤワな男ではない。承太郎氏は歴戦の戦士であり、彼がやられるのはあからさまな異常事態である。彼を陥れたものは相当の下準備と実力を持ち合わせていることが伺える。彼がなんらかの陰謀に巻き込まれた可能性は高い。

 

「……少し考えさせてくれ。」

 

ジョルノは情報部の椅子に腰掛けて、天井を仰いだ。

ムーロロの言いたいことは理解している。それはジョルノとムーロロの共通見解だ。

 

州立グリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所は厳重な警備であることが推測される。何しろその名称に重警備と名付けられているのだ。恐らくは所員は機関銃などの武装を所持しているだろうことはその想像に難くない。普通の人間であれば、武装をほどこした刑務所をどうこうしようなどとは考えない。スタンド使いであっても、普通ならば同様だ。

 

しかし彼らは実は何もできないわけではない。彼らは手札を持っている。

 

潜入、潜伏、隠密行動に恐ろしく高い適性を持ち、暗殺に特化したスタンド、ソフト・マシーン。

様々なことに対応できる高い応用力を持ち、近接戦で強力な実力を発揮するスタンド、クラフト・ワーク。

 

彼らは相互の補完性が高く、お互いの弱点を補って戦い抜ける才覚を持った人材だ。ジョルノはそう考えている。

ソフト・マシーンであれば警備の厳重な刑務所に忍び込むことすらも可能であり、彼らを送り込めばスピードワゴン財団の苦境の裏側で暗躍するスタンド使いを暴いて打倒してくれるであろう期待度は高い。

 

パッショーネは社会に強大な影響を持つが、さすがにそれはヨーロッパまでで海を隔てたアメリカの刑務所をどうこうできるほどの権力はない。

並みのスタンド使いが送り込まれても、重警備刑務所の武装に蜂の巣にされるのがオチである。

しかし、彼らはなまじっか手札を与えられてしまっている。サーレーとマリオ・ズッケェロという手札がなければ、ジョルノが迷うこともなかっただろう。

 

パッショーネはスピードワゴン財団の盟友で、財団はパッショーネの恩人でもある。しかし、サーレーとズッケェロの二人はイタリア裏社会の処刑人だ。短期間であればともかく、いつまでかかるか定かでない危険度も不明な任務に二人揃って送り込むことには抵抗がある。

 

できることなら盟友の苦境を助けたい、しかしイタリアの社会を危険に晒してまで行うべきことかと言われると首を傾げざるを得ない。

特に最近は、イタリアでスタンド使いがらみの不穏な事件が複数起きている。

 

「ムーロロ、君はどう考える?」

「……難しいところですね。動かせる人材があの二人きりってのが……。」

 

仮に刑務所に潜入して友人の苦境を助けると決断した時、先も言った通り弱兵は送り込めない。

潜入、潜伏が可能なスタンド使いは他にもいるが、あの二人組ほど連携を深めて様々な事態に対応できるスタンド使いはパッショーネにも存在しない。

まさにあの二人にうってつけの任務なのである。

 

だが、あの二人はパッショーネの伝家の宝刀、手札は手札でもいわゆる実動面での切り札だ。ムーロロも切り札になり得るが、彼はどちらかというと指示を出す側の方が適正が高い。ムーロロという優秀な頭脳さえつければ、彼らは実動で高いパフォーマンスを発揮する。

 

ジョルノはこれまでの暗殺チームの任務の成果の報告を鑑みて、そう判断している。出来ることならあまり長期間手放したくない。

 

「……ミスタの意見も聞いてみようか。」

 

ジョルノ・ジョバァーナは席を立ち、グイード・ミスタの元へと向かった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「いいんじゃねーか。お前の好きに判断しろよ。」

 

ミスタは相変わらずだ。

グイード・ミスタはこの日、パッショーネネアポリス支部の支部防衛チームの戦闘訓練を受け持っていた。

 

「下のやつらも育ってきている。俺だってヌルい仕事ばかりじゃあ、なまって仕方ねえ。」

 

ミスタは好戦的に笑った。

 

パッショーネは前ボスとの騒乱の最中に、暗殺チームが全滅した。

暗殺チーム全滅からサーレーとズッケェロの就任の間には空白の期間があり、その期間は現情報部のカンノーロ・ムーロロと副長のグイード・ミスタが共同で穴を埋めていたという実績が存在する。

 

その時期は、ジョルノがパッショーネのボスとして姿を現して間もない時期であり、ペリーコロの誠意ある説得に納得した多くの幹部がジョルノに恭順を誓ったが、少なくない数の思慮の浅いはねっかえりの下っ端が若いボス、ジョルノ・ジョバァーナを甘く見て社会で好き勝手しようとした時期でもあった。パッショーネにはスタンド使いが多く、その多くは超常の力を得た自身の力を過信している。その最たる原因は前ボスのディアボロが自分を過度に保護し、比較的危険度の低いスタンドを持つ下の人間に対する管理を杜撰にしていたことによるものだった。

彼らを処分していたのはグイード・ミスタとカンノーロ・ムーロロである。

 

苛烈な対応ではあったが、言って聞かない人間に甘く接してのさばらせてしまってはパッショーネはなめられることになる。ジョルノを甘く見るはねっかえりが後を絶たず雲霞のごとく無数に湧き出て、調子に乗った彼らが好き放題することにより社会が乱れる原因となる。

 

そしてそれは裏だけでなく表の社会にも影響することになる。裏とは関係ない一般人にも被害が及ぶことになる。そうなれば、パッショーネはイタリアの社会の嫌われ者になって弾かれる。パッショーネに関わる多くの人間が路頭に迷い、防衛機構の無くなった社会にはさらに性質の悪い悪がのさばることとなる。その悪がスタンド使いだった場合表の人間に対応は困難で、イタリアの社会は荒廃することになる。ゆえに処分は必要不可欠な処置だった。

はねっかえりはサーレーやズッケェロともまたちょっと違い、ジョルノがパッショーネのボスと理解してなおも敵対した奴らである。

 

ミスタとムーロロは相手に何が起きたかすら悟らせず、組織の人間で特にたちの悪いやつらを処分し続けた。たちの悪い人間の中には、パッショーネの禁止事項を無視して勝手に金目当ての暗殺を請け負う外道なども存在した。情報収集特化のウォッチタワーと暗殺に適したセックス・ピストルズ。彼らはイタリアの裏社会で猛威を振るった。

 

そして組織の下っ端の間で凄腕の拳銃使いの噂がまことしやかに流れることになる。たちの悪い人間はいつのまにか社会から消え続け、やがてその都市伝説のような噂が事実だと広まると同時に、下っ端のはねっかえりは沈静化することとなった。

ゆえに拳銃使いのグイード・ミスタは、パッショーネの下っ端のトラウマの象徴だ。

 

つまりサーレーとズッケェロは、パッショーネに最も必要とされた時期は執行人ではない。それを彼らは知らない。

 

彼らはミスタとムーロロが組織内部の危険人物を一掃した後に、そのスタンドが処刑人の適性が非常に高いという理由で、パッショーネからその前任者のムーロロを通じてイタリア裏社会の処刑執行人として精神性を大切に育てようという意図で接されていたのである。これは、語られることのないはずのジョルノのサーレーたちに対する密やかな優しさと、必要な過程だった。彼らに精神が未熟なまま殺人を繰り返させていたら、社会を守る処刑人ではなく社会を害する殺人鬼になってしまう可能性が高い。

 

何をするにしても生きていればこそ。これは一見暗殺チームの教訓にしては矛盾しているようにも感じられるが、処刑人に必要不可欠な意識なのである。矛盾を抱え、迷い、悩み、それでも社会を愛する彼らは社会の矛盾を処理するために行動を起こさねばならない時がある。

 

これらは、社会の暗部の恐ろしい話だ。たとえばの話であるが、歴史上でも暗殺されてその詳細が明かされない有名人や権力者は枚挙にいとまがない。

彼らはなぜ暗殺された?国が総力を挙げて調査を行って、なぜその詳細が明かされない?国の世間に対する公式な発表は本当に正しいのか?そして、得体の知れない大きな力。

 

もしも彼らの正体が実は社会の害敵で、裏社会全体でその暗殺の総意が取れていたのだとしたら?

有名人や権力者というのはメディアに守られて手が出しづらく、社会に与える発言力が大きい。

 

明確な敵という名札を付けず、上手に味方に擬態して潜伏して秘密裏に策を進める破綻者というのは社会にとって非常に対応に困り、厄介なのである。吉良吉影やエンリコ・プッチも、その部類に入る。

それらに対してウォッチタワーというスタンドで正確な情報を入手可能なムーロロが、国の防衛の要としてパッショーネに重用されるのもあまりにも当然の話だった。わかりやすくはっきりと言ってしまえば、パッショーネはカンノーロ・ムーロロという人材に金銭換算で一千億を優に超える価値を見出している。

 

一見眉唾な話だとしても、反社会組織もどこからかは金が入らないと活動できないのだ。それが裏社会の金なのではないかと考えられがちだが、裏社会の怪しげな金の流れなど真っ先に国に精査されている。

裏社会も処刑人も、死者の尊厳と社会の安寧を守るために沈黙する。

 

……口にしない方がいいことも存在する。

とにかく社会の暗部の最奥は、裏にも関わらず表社会以上に厳格に運営されているのである。

 

パッショーネとしてはサーレーとズッケェロが処刑人として相応しい精神を持つと認めたら、首輪を外して重用することを考えている。すなわち今現在はまだ、処刑人見習いという扱いなのである。

本来ならば、処刑人は組織のボスと対をなすほどの最重要職である。なぜなら、裏社会の組織の持つさまざまな特権や利権は、彼らが社会を守るという暗黙の裏付けにより与えられているのだから。それが裏社会の暗殺チームの正体なのである。パッショーネは黄金の魂を持ち人を生かすボスと、漆黒の殺意で隠密に外敵を殺害する暗殺チームの二枚看板で運営されている。

サーレーたちに今までそれを伝えていないのは、単純に伝えてしまうとチンピラの彼らが調子に乗って台無しになってしまう可能性が高かったからである。

 

「お前が財団のやつらを助けたいんなら、俺が一時的にパッショーネの暗殺チームに復帰する。かつてそれを請け負っていた俺が再び請け負うんだったら、ほかのやつらも納得する。社会の秩序は守られるだろ?」

「ミスタ……しかしあなたに汚れ仕事を任せるのは気が進まない。」

「そう言うなよ。たしかに汚れ仕事だが、これはこれで社会を守っているんだという実感と自負を感じられるもんだぜ?」

 

ミスタはいつだってポジティブだ。ミスタは常にジョルノに元気を与えてくれる。

彼がジョルノの仲間であることは、ジョルノにとって何にも代え難い価値がある。仕事に関しては手を抜きがちだが。

 

「ミスタ、あなたは彼らを送り込むことに賛成してるんですね。」

「財団にどデカイ貸しを作れりゃよぉー。パッショーネだって当面は安泰だろ?裏社会の組織の立ち位置は表よりも不安定なんだしよぉ。組織の上に立つんなら未来のことも考えなきゃな。」

 

ミスタは明るく笑った。

ジョルノ・ジョバァーナは決断した。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「サーレー、マリオ・ズッケェロ。君たちに任務を言い渡す。」

 

パッショーネ、ネアポリス支部。

ネアポリスにあるビルのオフィスの一室で、その打ち合わせは行われた。

ジョルノ・ジョバァーナが長机に座り、その両脇にはムーロロとミスタが列席している。

彼らの眼前に座るサーレーとズッケェロは緊張した。

 

「はじめに言っておこう。この任務は、期間も難易度もその全てが不明だ。敵の存在が定かではなく、パッショーネ側としても何が起こっているのかほぼ把握できていない。」

 

サーレーは息を飲んだ。

強大なパッショーネが把握できていないということは、相当ヤバい任務である可能性が高い。

ジョルノが続けて喋った。

 

「つい先日、スピードワゴン財団の空条承太郎氏が何者かに襲撃された。」

「承太郎さんがッッッ……?」

 

サーレーは思わず声を上げた。信じがたい。

サーレーはつい一月ほど前、パッショーネから承太郎との共同任務を言い渡されたばかりである。

 

「空条承太郎氏は亡くなってはいないが、どうやら今現在仮死状態になっているらしい。……ほぼ間違いなく、なんらかのスタンド攻撃によるものだろう。」

「そんな!あの人がやられるなんて……。」

「落ち着いてくれ、サーレー。順を追って、君たちに必要な情報を開示していく。まずは、なぜ君たちが呼ばれたのかだ。空条承太郎氏が襲われた場所は、アメリカのフロリダ州にある州立グリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所。」

「……フロリダ?」

 

ズッケェロがフロリダという言葉に反応した。彼がドナテロ・ヴェルサスを拾ったのも、アメリカのフロリダ州だった。

 

「空条承太郎氏はどうやら、刑務所に彼の娘の面会に行った際に何者かによる襲撃を受けたらしい。敵の所在は定かではないが、刑務所には彼の娘、空条徐倫嬢が囚人として服役している。まずは彼女から情報を得るのが最優先だ。」

「ってーと、ボス、俺たちの次の任務はアメリカってことですか?」

 

ズッケェロがジョルノに問いかけた。

 

「ああ、その通りだ。君たち二人が呼ばれたのはズッケェロ、君のソフト・マシーンであれば厳重な警備の刑務所にすら侵入、潜伏することが可能だからだ。」

「ええッッッ!?マジすか!?」

 

さすがに常識のないズッケェロでも、それがどれだけ無茶苦茶言ってるかくらいは理解できたようだ。

 

「ああ、マジだ。正攻法での面会ではまず間違い無く黒幕に気付かれて、後手を踏むことになる。ゆえに隠密の接触を行う。わかっているとは思うが、刑務所の警備は厳重だ。見つかったら武装した看守に囲まれることになる。絶対に見つからないように行動してくれ。さて、続きを話そう。パッショーネが独自に情報を集めた結果、刑務所建物の内部構造を把握することが可能だった。ムーロロ、地図を。」

「ヘイ。」

 

ムーロロが脇に置いてあるカバンから、建物の構造見取り図を取り出した。

 

「これが州立グリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所の見取り図だ。残念ながら、建物の監視カメラなどの位置までは特定できなかった。この地図を得るためにも、パッショーネの情報部は大きなリスクを負う必要があった。刑務所だからね。警備が厳重なのは当然だ。」

 

ジョルノはしばし思案する。

 

「さて、君たちになぜパッショーネが行動を起こすことにしたかの理由も伝えておこう。空条承太郎氏はサーレーが知っているように凄腕のスタンド使いだ。下手人も手を出すのに大きなリスクを負ったはずだし、リスクに見合うなんらかのリターンがあると考えているはずだ。つまり僕たちは、空条承太郎氏を陥れることによるスピードワゴン財団の乗っ取りを警戒している。彼らは僕たちの友人で、苦境に陥っているのなら助けたいし、ヨーロッパの争いの火種になるのなら早めに潰したい。ゆえに君たちが最初に行うのは、徐倫嬢から少しでも多くの情報を引き出すことだ。」

 

ジョルノはそう告げると、刑務所の見取り図の一箇所を指差した。

 

「ここが、徐倫嬢が収監されている個室だ。刑務所に潜入できたら、隙を見てここに向かってほしい。彼女から聞き取るべき情報は、承太郎氏に起こったことの詳細、敵の有無、敵が予想通りスタンド使いであれば可能な限り情報を得てほしいし、敵の狙いも聞きだせるようなら聞いておいてくれ。とにかく、必要そうな情報を片っ端から聞き出してくれ。」

「ハイ!」

 

これは相当にヤバい任務だ。

サーレーはボスの懐刀として扱われているというメロディオの言葉が事実だったと理解した。

 

「基本、現場でのことは君たち暗殺チームの判断にその全てを任せよう。承太郎氏を助けられそうなら助けて欲しいし、その危険度があまりにも高すぎるようなら得た情報を持ってイタリアに逃げ帰ってもいい。ただし、生存報告としてムーロロに定期連絡だけは怠らないでほしい。そして君たちには、僕たちがこの任務を言い渡したその意味を理解しておいてほしい。」

「意味、ですか?」

 

ズッケェロが疑問に思って、聞き返した。

ジョルノは真面目な表情で、ズッケェロに答えた。

 

「これは、パッショーネの特級極秘任務だ。この任務を知っている人間は、今この場にいる人間以外には存在しない。海外の刑務所に無断侵入して極秘裏に囚人との接触を試みたとなれば、それが相手国にばれてしまえば現場で射殺されてしまっても文句は言えない。君たちの素性がバレてしまえば国際問題にもなる。アメリカの国家の力は強大だ。それを任せ、あまつさえ現場の判断を一任している。僕たちが君たちをどれだけ頼りにしているか、君たちにも理解ができると思う。僕たちの信頼を裏切らないでほしい。わかるかい?」

 

サーレーとズッケェロはジョルノの言葉の意味を頭で噛み砕き、身震いした。

 

「さて。わかってくれたようなら質問を受け付けよう。」

「ボス、刑務所内に敵がいた場合はどうしましょうか?」

 

ズッケェロが手を挙げて元気よく質問した。

 

「それを含めて、君たちに全ての判断を任せる。さすがに僕たちでも、アメリカまではサポートできない。」

「ドナテロやトリッシュちゃんは?」

「トリッシュちゃん?」

 

ズッケェロの質問にジョルノは困惑した。

トリッシュ・ウナはジョルノの仲間だ。なぜそれを今?

 

「ああ、すみません。俺の飼ってる猫の名前です。長期間任務なら、誰かに世話を任せないと。さすがに近所の人間にあまり長期の世話を押し付けるのは……。」

「君たちのところのドナテロは、一時的にミラノ支部防衛チームの預かりにしておこう。話を通しておく。ズッケェロの猫に関しては、預かってくれる人間をパッショーネで見繕っておく。他に質問は?」

 

サーレーがおずおずと、情けない様子で手を上げた。

 

「どうしたんだい?サーレー。」

「……ひが。」

 

サーレーの声は蚊の鳴くような声で聞き取れない。

 

「聞こえない。はっきり言ってくれ。」

「……すいません、ボス。アメリカまでの旅費も、国際電話できる金もありません。それどころかパスポート代を捻出する費用も……。アメリカでの滞在費も……。明日の食費さえも……。なにぶん給料前で……。」

 

サーレーがしょんぼりとした情けない顔で言った。

最近給料を減らされたサーレーは、実はネアポリスまでの旅費もズッケェロへの借金だ。

ジョルノはテーブルでズッこけた。ミスタとムーロロは微妙な表情をしている。

 

「……金の問題なら心配いらない!アメリカ入国まではパッショーネでなんとかするし、電話費用もなんとでもしよう!それとは別に、アメリカドルもそれなりに用意する!危険な任務だから、僕たちの納得できる成果を出せたら報奨金も渡そう!……これで満足かい?」

「何も問題ありません!敬愛するボスのために、全力を尽くす所存ですッッッ!!!」

 

サーレーはキリッとした表情で、とても元気よく返事した。

 

 

 

 

◼️◼️◼️

 

エンリコ・プッチはディオ・ブランドーの友人だ。

 

「2、3、5、7、11、13、17………。」

 

素数はいい。孤独な数字だ。素数は彼に力を与えてくれる。

エンリコ・プッチは州立グリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所の教誨師だ。

プッチは刑務所内の彼に与えられた個室で、ソファーに深く腰掛けてリラックスしていた。

 

彼は、天国を求めている。天国とは、彼の友人ディオ・ブランドーが彼に残した人生の道しるべだ。

彼は、その道程の最大の障害を取り除いたことに安堵していた。

 

エンリコ・プッチが彼の目的を達するにあたって、その最大の障害となるのが空条承太郎だった。

エンリコ・プッチは友人のディオ・ブランドーの宣う天国への道筋を行くために承太郎の記憶を奪う必要があり、それが計画の最大の難所だと、そう考えていた。何しろ相手は、彼の友人ディオ・ブランドーを打倒した男である。

プッチは入念な下準備を行い、作戦を練りに練り上げて、ツテでその場限りの仲間を引き込み、最大限の緊張をして奇襲を行なった。

 

そして、それは達せられた。

あとは承太郎の記憶に沿って行動を起こすだけであり、そこに至る障害はさほど多くないはずだ。

プッチは満足げに笑った。祝杯をあげよう。勝ったも同然だ。エクセレント!

彼はグラスにワインを注ぎ、口に含んだ。

 

エンリコ・プッチにイタリアから得体の知れない二人組が向かってきていることを、知る由はない。

 

 

 

 

◼️◼️◼️

 

名称

州立グリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所

概要

ジョジョ6部、ストーンオーシャンの舞台。何かの手違いで、イタリア在住のチンピラの二人組が送り込まれてしまった。

さて、得体の知れない二人組はここで一体どんな経験をするのだろうか?

 

名前

エンリコ・プッチ

スタンド

ホワイト・スネイク

概要

対象の記憶とスタンドをディスクにすることが可能なスタンド能力者。ディスクは本来の持ち主でない他人に差し込んでスタンド能力者に仕立て上げることが可能。ディオの友人で、彼の言う天国を目指している。ぶっちゃけ、めちゃくちゃ敗北フラグが立っている。

 

補足事項

ドナテロ・ヴェルサスの強盗事件に関しては、本来この時期に起こるはずだった。それがなぜ早い段階で起ころうとしていたのかを補足すると、テンパったドナテロがあまりに怪しかったために警官に職質されて、ドナテロが一度は強盗を断念していたためである。

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