噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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ここから二、三話は整合性のために比較的原作に近しい展開が続きます。そこから先は、、、。どうなるんでしょう?
それと、今朝方操作ミスで違う投稿をしてしまいました。見た方がもしいらっしゃったら、本当に申し訳ありません。見なかったことにしておいてください。


石作りの海 その3

「それでそのジョンガリ・Aという男をこっちで調べてみた結果、そいつはグリーン・ドルフィン・ストリート刑務所の男囚で、徐倫たちとの面会の直後に行方不明になっているらしい。」

『わかった。こっちでもそのジョンガリ・Aという男の詳細を調べておこう。報告ご苦労だ。引き続き調査を頼んだぜ。』

「おい、オメーちっとは喋んなよ。」

「おい、新参者がでかい顔をしてんじゃねー!ウェザー、テメーもちったあ怒れよ!」

「…………。」

 

エンポリオ少年は、困惑していた。

 

彼の母親は刑務所で少年を産み落とし、少年の母親はそこに潜む邪悪な意思に殺害された。

少年は邪悪な意思に目をつけられた空条徐倫を影からフォローしたいと考えており、懲罰房に収監された徐倫が黒幕に手出しをされないように、彼女を影ながらにひそかに護衛していた。いざという時は音楽室に住み着いたアナスイとウェザーに頼み込んで、黒幕と戦うことを決意していたのだ。それが彼らが二人の侵入者と接触を行うことが可能だった経緯だった。

 

少年は刑務所内に存在する音楽室の幽霊のスタンドに、ウェザー・リポートとナルシソ・アナスイという男たちと三人で住み着いていた。

 

「次の連絡は新しい情報が入ったタイミングか、もしくは遅くとも三日後には連絡をする予定だ。それにしても、ちっ。遭遇したのが黒幕だったんなら、その時に仕留めておくべきだったぜ。」

『もういいか?サーレー。お前は気付いてなさそうだが、この世には時差ってもんが存在するんだぜ?俺はもう眠くって仕方ねえ。次からはちったあ人のことも考えろってんだ。お前の報告はもうわかったから、電話はもう切るぞ。』

「なあ、どうしてそんなに喋んねーんだ?なんかの病気とかか?」

「ヤメロ!テメー勝手にウェザーの帽子を撫で回してんじゃねー!ウェザー、何とか言ってやれよ!」

「…………。」

 

……はっきり言ってしまえば非常に鬱陶しい。

徐倫おねえちゃんに接触した存在が気になってコンタクトを取ってみたところ、エンポリオ少年のお家に新しく二人のオジさんが勝手に住み着くことになってしまった。

……なぜこんなことになってしまったのか?少年は非常に困惑している。

 

オジさんは、すでに少年の家に勝手に住み着いていたウェザー・リポートとナルシソ・アナスイの二人きりでお腹いっぱいだ。

それを四人に増やして、一体少年に何をしろと言うのだろうか?バンドを組めとでも言いたいのだろうか?少年にプロデューサーをしろとでも?

 

「じゃあそっちは任せたぜ!チクショウ、それにしても仕留める絶好の機会だったってのに!俺としたことが、ミスったぜ!なあ!ムーロロ。」

『……zzz。』

「へー、これ暖かくて、フカフカで触り心地もいいんだな。どれどれ。いいな、これ。」

「おい、何やってんだ!持ち主の許可なしに勝手にウェザーの帽子をかぶってんじゃねーよ!テメーには常識ってもんがねーのか!」

「…………。」

 

……勝手に住み着いてしまった。少年の許可無しに。

どうやら彼らも徐倫おねえちゃんの手伝いに刑務所に侵入したようなのだが……。

家主の意向を無視して勝手に住み着くなんて、もしかしたら彼らは全員揃って台所の黒い悪魔の親戚なのかもしれない。道理で少年に家賃を払ってくれそうな気配がないわけだ。彼ら全員一応人の見た目をしているのだが?

 

「こっちにきて思ったんだが、やっぱりイタリアが一番だよ。こっちのメシはあんまり俺に合わねー。イタリアが一番だ。」

『……zzz。』

「なあ、これどこで買ったんだ?カッコいいな。俺にも買ったメーカーを教えてくれよ。」

「おい!なにオレの肩組んでんだ!なんでウェザーだけでなくオレの帽子まで勝手に奪おうとしてるんだ!テメー昨日の深夜に会ったばかりじゃあねーか!どうしてそんなに馴れ馴れしくできるんだ!?常識を考えろ!ウェザー、オメーもちったあ反応しろ!」

「…………。」

 

新たにやってきた二人組は、常識が怪しいアナスイに常識を説かれている……。ひどい……ひどすぎる……。

エンポリオ少年は、ひどく困惑していた。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「んでよぉー。マジメな話、お前らどうすんだ?」

 

ズッケェロが比較的会話の通じそうなアナスイに問いかけた。

 

「アン?なにが言いたいんだ?」

「お前らのこれから、特にこのガキのことだよ。お前らだってわかってんだろ?こんなところにいつまでもガキを閉じ込めておくべきではないってことくらい。」

 

ズッケェロはエンポリオの頭を軽く叩いた。

サーレーは急に真っ当な人間のようなことを指摘した己の相棒に困惑した。

 

「僕はおねえちゃんをッッ!!!」

「まあ待て待て。とりあえずはこの場にいる大人の意見を聞きたいんだ。お前の話は次にキチンと聞くからよぉー。」

 

会話に割り込んできたエンポリオ少年の頭をズッケェロは優しく撫でた。

 

「それは……。」

「いつまでもここにいるべきじゃあねえ。しかし真っ当に戸籍があるとも思えねえ。養育する大人もいねえ。三人まとめて抜け出しても、大人のお前らはお尋ね者だ。少年一人外に出てこの音楽室のスタンドが無くなれば、お前たちは刑務所の脱走未遂かなんかで良くて刑期の延長、最悪の場合射殺される可能性まであるってわけだ。」

「テメー!!何が言いてえ!」

 

痛いところを突いてくるズッケェロに、アナスイは憤慨した。

アナスイは自分の監房に長いこと戻っていなかった。仮に外に逃げることが可能だったとしても、ズッケェロの言葉は否定しきれない。

 

「何って、建設的な意見だよ。こいつは徐倫嬢を助けたいんだろ?んでそれが終わってもお前らには行く宛がねーわけだ。お前だって、罪のない少年がいつまでも刑務所に閉じ込められていることに思うところがないわけじゃねーだろ?」

 

ズッケェロは笑っていた。

 

「それは……。」

「だからそれを全部解決するちょうどいい案が俺たちにあるんだよ。お前ら俺たちに全面的に協力しろ。そしたらお前ら全員まとめて、身柄をイタリアで引き取ってやる。少年の戸籍もキチンと用意する。少年だけ先にイタリアに送ってもいいが、それでは少年は納得しねーんだろ?」

「……そんなことが可能なのか?」

 

寡黙なウェザーが口を開いた。

 

「もちろん大人のお前らは最低限組織の言うことには従ってもらう。俺たちはヨーロッパの裏社会の支配者の勅命で動いている。ことが上手く解決すりゃあ、お前たちの貢献を上に報告して俺がボスに土下座でもなんでもしてやるよ。大人のてめえらには組織の仕事が回されるだろうが、少年の大人になるまでの快適な生活は保証できる。」

「……わかった。受けよう。」

「ウェザー!!!」

 

ウェザー・リポートが肯定の返事をして、ナルシソ・アナスイは相棒の意図を掴みかねた。

 

「落ち着け、アナスイ。こいつが言うことは一理ある。エンポリオの将来が確約されるのなら、俺たち自身の不満は受け入れるべきだ。」

 

ウェザー・リポートは記憶を失っているが、もともとは真っ当な精神をした普通の人間である。

無実の少年が刑務所に込められていることに思うところが無いわけでは無かった。

 

「まっ、先に言っておくが俺たちの組織では指示なしに犯罪行為を行うのは控えてもらう。それとボスの指示は絶対だ。その二つだけ覚えておいてくれ。」

「ズッケェロ!」

 

勝手にことを進める相棒に、サーレーは困惑気味だ。

 

「大丈夫だ、サーレー。ボスは直接殺し合いをした俺たちでさえ救ってくださった。子供を見捨てるとは思えねえ。」

「……それはそうかも知らんが……お叱りは多分俺に来るんだぞ?」

「まあいいじゃねーか。多分そいつらもスタンド使いだろ?だったら使い道は組織でどうにでもなるだろ。」

 

ズッケェロのソフト・マシーンが手を振っていて、その動きをアナスイとウェザーは目の端で追っていた。

一方で、ウェザー・リポートとナルシソ・アナスイも話し合いを行っている。

 

「……しかしウェザー、こいつらが敵でない保証は………。」

「もともとエンポリオは徐倫という女性を助けたいって言って聞かなかっただろう。敵はおそらく非常に邪悪な存在で、放っておいたらエンポリオの命も危険に晒されることになる。音楽室が無くなってしまえば、お前だってどうにもならないだろう?将来も含めて救いの手を差し伸べたいと言ってくれるなら、俺たちの多少の危険は飲み込むべきだろう?」

「……ちっ。」

「話は纏まったようだな。それじゃあお前たちのスタンドを見せてくれるか?」

 

ズッケェロが二人に言葉をかけた。

 

「ふざけんな!なんで昨日今日会ったばかりのやつにスタンドを……。」

「そんなんじゃあお前、負けて死ぬぞ?」

 

ズッケェロが恐ろしく低い声でアナスイに宣告した。

 

「ッッ!テメエッ!!!」

「わかってねーみてーだから言っとくが、ここから先はそう遠からず形振り構わない殺し合いに発展する可能性が高い。相手は最強と言われる空条承太郎さんに手を出すマジにイかれたヤローだ。イかれてるにも関わらず、キッチリ承太郎さんをカタに嵌める計算高さも持ち合わせている。俺たちの組織の見解じゃあ、敵にはよほどの実力と目的があるんだと推測している。多少のリスクを伴おうとも、手札を隠して出し惜しみする局面じゃねーんだよ。それに互いにスタンドを見せ合えば、黒幕のスタンドの姿だけはわかっている今、少なくともお互いが黒幕でないことの証明だけはできるだろうが。」

「……俺のスタンドは天候を操るスタンドだ。」

「ウェザー!!どうしてそいつに素直に従う!そいつが敵にウッカリ能力をバラさねーとも限らねーだろーが!!!」

 

ウェザー・リポートの横に雲の形を模したスタンドが浮かび上がった。

 

「その承太郎さんとやらは俺は知らないが、そいつの話にはそこそこの説得力がある。エンポリオが敵に怯えているのも事実だ。しかし、自分の能力は自分が一番よく知っている。ある程度お前の指示には従うが、自分の判断で動く局面があるのを認めてもらおう。」

「オーケーだ。」

「……オレのスタンドはダイバー・ダウン。物体に潜行する能力だ。」

「了解。俺のスタンドは厚みをなくす能力と、薬物の幻覚を引き起こすシャボンだ。」

 

ズッケェロの横に細い剣を携えたソフト・マシーンが浮かび上がった。

 

「クラフト・ワーク。固定する能力だ。」

 

サーレーのとなりにクラフト・ワークが浮かび上がる。

 

「これで戦闘ができるスタンドは出揃ったわけだ。指示は俺の相棒が出す。」

「オイッッッ!!!」

「アン?どうした?相棒?」

「……お前が勝手に会話を進めていくから、てっきりお前が指揮官の役目をやるもんだと、、、。」

「お前がリーダーだろ?ま、指示はよろしく頼むぜ。」

 

……ここまでの流れに特に異論は無いが、ここ一番で丸投げするのはやめてくれないだろうか?

 

「……そんで?お前らはどう動くんだ?」

 

アナスイがズッケェロに問いかけた。

 

「差し当たってはどっかから囚人服を盗んで、昼間は気付かれないように遠巻きに徐倫を警護するよ。敵が徐倫になんらかの接触をしてくる可能性は高い。そのほかは……まあ臨機応変だな。その時その時で思いつく通りに動く予定だ。」

「看守にお前たちの正体がバレたらどうすんだ?」

「俺のスタンドは潜伏に特化してるからな。少しでも危険を感じたらどっかに隠れるよ。」

 

アナスイの疑問に全てズッケェロが答えている。

……もう俺じゃなくて、お前が指揮官で良くないか?

 

「俺たちはどうすればいい?」

 

ウェザー・リポートがズッケェロに問いかけた。

 

「必要を感じたらサーレーが指示を出す。大人数で動けば、トラブルも多くなりがちだ。基本は俺とサーレーで動き、万が一夜間に俺たちがこの部屋に帰還しなかったら俺たちは敵にやられたモンだと考えてお前たちで動いてくれ。」

「了解した。」

「あの……ちょっといい?」

 

エンポリオ少年が遠慮がちにズッケェロに話しかけた。

 

「どうした?」

「徐倫おねえちゃんには仲間が必要だ。あなたたちが仲間になってくれるというのなら、それはとても嬉しい。でも、他にも希望があると思う。」

「希望?」

「徐倫おねえちゃんにはエルメェスおねえちゃんという友人がいる。彼女もきっと、スタンドに目覚めていると……思う。」

「ふんふん、それで?」

「エルメェスおねえちゃんと接触して、徐倫おねえちゃんの助けになってくれるようにお願いしたい。きっと彼女は、助けになってくれるはずだよ。」

「なるほど。んでどうすんだ?」

「僕がエルメェスおねえちゃんをこの部屋に呼び込んで説得してみるよ。」

 

 

 

◼️◼️◼️

 

エルメェス・コステロは刑務所の医務室で寝込んでいた。

彼女は空条徐倫が落としたペンダントを拾い、手に引っ掛けてしまっていた。その晩から四十二度の高熱を出してダウンし、六日間も寝込むハメになっていた。

彼女は何者かに体を弄られたことにより目覚め、手のひらから得体の知れないシールが生えてきていることに気付いた。剥がしても剥がしても無数に生えてくる得体の知れないシール。

そして彼女はシールの特性に気付く。それは一つの物体を二つにする特性を持つシールだった。

 

それは、キッスと呼ばれる彼女のスタンドの目覚めだった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

エルメェス・コステロはトイレでサンダー・マックイイーンと言う名の男囚と向かい合っていた。

エルメェスはマックイイーンの記憶のディスクを持っている。それは彼女が、マックイイーンを攻撃した時に入手したものだった。彼女は、ディスクをトイレの便器に落っことしていた。

 

「あんた、俺のことを嗅ぎまわってるって聞いたぞ。女に付き纏われるのは、生まれて初めてだァァ。」

 

エルメェスは相手を警戒した。彼女には、今起こっていることをがなんなのか判然としない。

彼女にかろうじてわかっていることは、彼女の手のひらから物体を二つにするシールが出てくることと、手に入れたディスクが恐らくは目の前の男の記憶だということの二点。

 

なぜ記憶がディスクになっているのか?目の前の男が何者なのか?なぜ自分の周りで急に超常の現象が発生するようになったのか?それらは全く以って不明である。

つまり、現実に起こっていることを何とか飲み込んでいるだけで、肝心なことは何もわかっていないも同然なのである。相手を警戒して当然だ。相手がなにかの情報を持っているなら、聞き出したい。エルメェスはマックイイーンに高圧的に問いかけた。

 

「オイ、テメーなんなんだ!テメーの頭から出てきたディスクは一体なんなんだ!答えろッッ!」

「ディスク?……うっ、えっ、うわああぁぁぁん。」

 

マックイイーンはエルメェスの質問に対して、いきなり泣き出してしまった。理由のわからないエルメェスは困惑した。

 

「お、オイ?どうして突然泣く?どうしたんだ?」

「思い出せねえんだよォォ。ディスク……大切なものだった気がするのにィィィ。俺はゴミ人間だぁぁぁ。大金を隠していた気もするんだが、それも忘れちまったぁぁぁ。うわああぁぁぁん。」

「お、落ち着けよ。悪かったよ。アンタ、大丈夫なのか?」

「あんた、俺のことを心配してくれんのか?俺みたいなゴミを?あんたはマジで天使のような人だ。聖人だ。いいなあ。アンタのような優しい人と結婚して、二人で一緒に人生を過ごしてえなあ。」

 

……キモい。なんなんだコイツ?

情緒不安定過ぎる。泣き出したと思ったら、いきなりわけのわからないことを口走り始めた。

エルメェスは引いている。

 

エルメェスは喉から出かかった言葉を飲み込んだ。うっかり口にしたら、また泣き出してしまうかもしれない。せっかく会話が成立しているなら、情報を得るのが最優先だ。

マックイイーンは夢見心地にトイレの中をフラついている。せっかくだから、このまま優しくして知ってることを洗いざらい喋らせてしまおう。エルメェスはそう考えた、矢先だった。

 

「でも、そんなこと有り得ねえんだよなあ。どうせ俺は女に好かれねえ。ああ、そうだ。死のう。」

「オイ!!!テメー、何やってんだぁああぁぁぁッッッッ!!!」

 

マックイイーンは唐突にトイレの配管にベルトをかけて首を吊った。

マックイイーンのいきなりの行動と同時に、エルメェスの首が得体の知れない力で締め付けられる。

 

なぜ?どうして?なんなんだ?

鬱血し朦朧とする頭で、エルメェスは自分に何が起こったのか必死に考える。

 

ーーもしかしてこの得体の知れない男が首を吊ったから、あたしも死にかけているのか?あたしの手に現れたシールと同質の得体の知れない力、、、?

 

『シールッッッ!!!』

 

エルメェスがシールをマックイイーンが首を吊っている縄がわりのベルトにひっつけて、それを剥がした。

ベルトは破壊されて、マックイイーンは地面に落下して、エルメェスの苦しさも無くなった。

 

「ゲホグホ、ゴホッッ。オエっ。」

「ゲホ、ゲホ、テメーふざけんな!何やってんだ!」

「アンタ……ゲホ、助けてくれたのか。ありがとな。」

 

マックイイーンは目に涙を溜めて感謝の意を表している。

 

「テメー、いきなりなんで首吊ってんだ!何がしてーんだ!」

「すまねえ。俺には面会人もいなくて、寂しくて、生きてても意味なんて無えのかなって思ってつい衝動的にやっちまったんだ。でももうやらねえよ。あんたは命の恩人だ。あんたのような素晴らしい人間に救ってもらったんだから、命は大切にしねえとな。命はたった一つしかねえんだから。」

「……衝動的なのか?つまり万引きのようについ手が出ちまったみてーに、他に意味は無いのか?」

「意味?」

 

エルメェスはマックイイーンが何らかの超常の力で、エルメェスを意図的に攻撃したことを疑っていた。

マックイイーンは意味がわからないとばかりに首を傾げている。

 

「オイ、テメーマジで何者だよ?なんか能力、持ってんだろ?」

「何のことだ?それより、俺が間違ってたよ。あんたを見てたら、生きる勇気が湧いてくる。元気が湧いてくるんだ!きっと立派な人生を送ってみせると誓うよ。あんたは素晴らしい人間だ。あんたに出会えてことは、俺の人生の誇りだッッッ!!!」

「お、オイ!べた褒めはやめろよ。素晴らしいって……。」

 

普段はヤンチャであまり褒められることのなかったエルメェスは、マックイイーンの絶賛に顔を赤くした。

キモい男だけど、褒められるのは嫌いじゃない。自分の生き方が肯定されるのは、誰だって嬉しいものだ。

 

「そ、そりゃあたしは確かに素晴らしいし、いい女だろうけどさ……ま、まあ、アンタもあたしみたいに立派な人生を……。」

 

エルメェスはそこで気付いて辺りを見回した。あのマックイイーンという男がいない。どこへ行った?

ドボドボドボと水の流れる音がして、猛烈に嫌な予感がする。エルメェスは近くの水道をのぞいた。

 

「テメー、ふざっけんな!!!!何やってんだぁぁぁッッッッ!!!」

 

マックイイーンは水を張った水道の貯水槽に頭から突っ込んでいた。なんかのコントみたいでシュール極まりない。

絵面はシュールだが、やってることは笑えない。きっと溺死するつもりだ。

直後にエルメェスは口と鼻周りを水に覆われ、エルメェスはマックイイーンの腕にあるリストカット跡に気が付いた。

 

ーーこっ、こいつ、常習者だ!こいつはしょっちゅう自殺未遂を起こして、今あたしはこいつのなにかの能力で攻撃されている。こいつ、関わったらヤバい。

 

エルメェスは慌てて自分の鼻にシールを付けて二つにして、新しく作った鼻で呼吸をした。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!」

 

エルメェスは必死に近くに置いてあったモップをつかみ、マックイイーンを貯水槽から掻き出した。

 

「テメー、ふざけんな!反省したフリをしてまた自殺しよーとすんじゃねー!」

「辛いんだよー。死なせてくれよー。」

「ざっけんな!二度とあたしに関わんな!」

 

エルメェスはマックイイーンの記憶のディスクを拾ってトイレから逃げ出した。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「おねえちゃん、こっち。部屋で話そう。」

 

エルメェスはトイレから監房へと戻る最中だった。

少年がいる。なぜこんなところに?少年はエルメェスを引っ張って、謎の部屋へと連れ込んだ。

 

「こんにちは、エルメェスおねえちゃん。僕の名前はエンポリオ。こっちの彼らはアナスイとウェザーに……。」

「マリオ・ズッケェロだ。よろしくな。」

「俺はサーレーだ。」

 

部屋の中には色々なものが置いてあり、特にピアノが目に付いた。

エンポリオ少年の他におっさんが四人もいて、非常にむさ苦しい。

 

「ここは音楽室の幽霊。僕のスタンド能力だ。僕たちはここで敵を探しているんだ。」

「敵?」

「うん。いきなりこんなことを言っても信じられるかはわからないけど、この刑務所には非常に邪悪な意思を持った敵が間違いなく存在する。徐倫おねえちゃんはその敵に襲撃されたんだ。さっきエルメェスおねえちゃんは掃除人となんかあったでしょう?あいつは多分邪悪な黒幕の手先だ。あいつについて教えて欲しい。もしかしたらあいつから黒幕にたどり着けるかもしれない。敵の名前はホワイト・スネイク。」

「……ディスクならあるけど。」

「それはッッッ!!!」

 

エンポリオ少年がエルメェスに詰め寄った。

エルメェスがディスクをエンポリオ少年に渡した直後、なぜかエルメェスの手から血が流れ出した。

 

「あ、あいつ……。バカな……。」

 

エルメェスは顔色が悪い。少年は何が起きたかわからずに困惑している。

 

「あいつ……電気を流してやがるッッッ!道連れにするスタンドだッッッ!自殺するつもりだッッッ!」

「電流……それならきっと医務室だ!そこには食塩水があるッッッ!電気を流して自殺するつもりなら、電気抵抗を減らすために食塩水を体にかけているはずだっっ!」

 

エルメェスは急いで医務室へと向かった。

彼女は慌てていたため、彼女の上着がほんの少しだけ重くなっていたことに気付かなかった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

マックイイーンは医務室で椅子に座って電気コードを巻きつけていた。左手に食塩水が入ったビーカーを手にしている。

エルメェスは慌てて声をかけた。

 

「ま、待て。落ち着け。お前が自分を傷付けると、あたしにもダメージが来るんだ。やめろ。」

「……。」

「い、生きてりゃいいことある。」

「俺は、ただ掃除してただけなんだ。部屋でショットガンの掃除をしていた。そしたらそれが暴発して、なぜか中に入っていた弾丸が飛び降り自殺の女に当たった。どうやら世間では、俺が女を射殺したことになっているらしい。俺のやったことは悪魔の所業だと裁判所で罵られたよ。」

「……マジ?」

「マジだよ!俺の人生の集約だ!!どうせそんなことばっかりだッッッ!生きててもロクなことがねえ!」

 

マックイイーンは声を張り上げると、体に電流を流すスイッチを入れようとした。

 

「ま、待てッッッ!……頼む、少しだけ待ってくれッッッ……そうだ!あたしが今持っている金を、全部お前にやるッッッ!」

「いや、別にいらないよ。」

「なら、パンティーでどうだッッッ!!!」

 

マックイイーンの動きが止まり、興味を示した。

 

「……本当?本当にくれるの?」

「あなたに特別にあげちゃう。あなたにだけ。毎日が辛いことばかりではないわ。みんな土曜日を楽しみに、憂鬱な月曜を過ごしてるのよ。あなたにも、きっといい日がやってくる。」

「……俺は土曜日に逮捕された。……あんた、自分が助かりたいために適当こいてんだろ。」

「……ああ、そうだよ。誰だって自分の命が一番だ。……それに第一、あたしはあんたの言ってることを疑ってる。あんたは邪悪で、世の中には息を吸うように嘘をつくことができる人間だって存在する。たまたま銃に弾が入ってて、たまたま掃除中に自殺者を射殺した?そんな事ありえねーだろーが!あんたが嘘を言ってるって方が、よっぽど信頼できる!」

「……あんた素敵だな。俺みたいなゴミに本音を喋ってくれている。あんたと一緒に死ねるんなら、それは本望だ。ギャハハハハハ!」

「やめろ!クソがあぁぁぁッッッッ!!!」

 

マックイイーンは体に食塩水をぶっかけて、電流のスイッチを入れようとしている。

慌ててエルメェスはマックイイーンのもとに駆け寄り、シールを投げつけようとした。

その瞬間彼女の背後から突然手が伸びて、細剣がマックイイーンを突き刺した。マックイイーンは電流のスイッチを押すことができずに、ペラペラになってしぼんでいった。

 

「よっ。すまねえな。念のために勝手にフォローさせてもらったぜ。」

「あ、あんたは……。」

 

エルメェスの背後から出てきたのは、部屋にいたマリオ・ズッケェロと名乗る男だった。

 

「それにしてもスタンドって変な能力も多いよなあ。こいつ、ペラペラになったのに、それに関してはあんたにはなんの影響もないんだもんな。道連れは自殺限定なのかな?」

 

ズッケェロはマックイイーンの体を拾ってヒラヒラとたなびかせている。

 

「あんた、どうやって……?」

「ああ、俺の能力と相棒の能力の合わせ技だ。俺がペラペラになって相棒が俺をこっそりあんたの背中の上着に勝手にくっつけたんだ。そこから上着の裏側に忍び込んだ。勝手にくっつくのはまずいかもしれねえが、命の危険があるかもしれないと思って万が一を考えてフォローにな。ま、能力の詳細は追い追いだな。」

 

それは探知タイプが致命的に苦手なズッケェロが、ない頭をひねった末に出した新しいソフト・マシーンの活用方法だった。生物の共生のように、苦手があるのなら克服できずとも他者に守って貰えばいい。

 

ソフト・マシーンとクラフト・ワークのどちらも実は他者との補完性が高く、集団戦に向いている。彼らは今までそれを理解していなかった。彼らはジョルノのパッショーネで過ごして社会の一端を理解し、他者との協力を学ぶことにより進化する。

 

「……。」

「なあ、エルメェス。敵がいることに納得出来たんならあんたも俺たちと一緒に戦ってくれないか?」

「……とりあえずまずは徐倫に会ってからだ。しかし、あたしをこんな目にあわせた奴が存在することは理解できた。」

 

エルメェスはマックイイーンの攻撃を受けて、少なくない血を流していた。

 

「オーケー。待ってるぜ。」

「……そいつ、どうすんだ?」

 

エルメェスはペラペラになったマックイイーンを指差した。

 

「こいつ?あんたすでに記憶の方のディスクを抜いてたろ?それと同じ要領でスタンドのディスクも抜けるんじゃねーか?まあもしもそれがダメなら、このまま下水管にでも流してしまおうか?」

「オエっ。」

 

エルメェスは下水管を流れるマックイイーンを想像して、吐き気を催した。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

名前

エルメェス・コステロ

能力

キッス

概要

シールを貼って、物体を二つにする。シールを剥がして一つに戻る際、それは破壊を伴う。

 

名前

サンダー・マックイイーン

能力

ハイウェイ・トゥ・ヘル

概要

本体が道連れたいと思う人間を、一緒に死に引きずりこむ。あくまでも死限定なので、ズッケェロの能力はエルメェスには影響を及ぼさなかった。

 

名前

エンポリオ・アルニーニョ

能力

バーニング・ダウン・ザ・ハウス

概要

刑務所の女囚が産み落とした子供。物体の幽霊を操ることができる。

少年であるにも関わらず、なぜか縁もゆかりもないスタンド使いのオッサンを四人も囲って養っている。オッサンたちはエンポリオに頭が上がらず、彼らはエンポリオに家賃を払ってくれそうな気配が無い。実は刑務所内で一番の大物なのかもしれない。


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