噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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1は素数では、ないッッッ!!!
これは、、、恥ずかしい。報告くださった方、ありがとうございます。


石作りの海 その6

ミュッチャー・ミューラーのスタンド、ジェイル・ハウス・ロックは、エンリコ・プッチにとって代えの効かない重要な駒だった。

 

エンリコ・プッチが天国を目指すに当たって必要なものは、ディオの骨と三十六名の極罪を犯した者の魂。他にも必要なものは存在するが、それらはとりあえず刑務所内で行う直近の計画に必要なものである。

 

スポーツ・マックスとミュッチャー・ミューラーは、プッチにとって刑務所で必要な物を集めるために必要不可欠な二枚の手駒だった。スポーツ・マックスのリンプ・ビズキットがディオの骨に生命を与え、ミューミューのジェイル・ハウス・ロックが三十六名の罪人を集めて拘束する。

 

懲罰房に存在した三十六名の極罪を犯した者たち。

なぜ彼らは都合よく懲罰房に一所に纏められていたのか?理由は簡単である。

 

ホワイト・スネイクが刑務所で看守長ミューミューの協力のもとに罪人の罪状の調査を行い、ホワイト・スネイクが秘密裏に極罪を犯した人間にスタンドを与える。

そうすれば、決まって彼らは天から湧いた超常の力でなんとか脱獄できないものかと試みるのである。

 

脱獄を試みた囚人は看守長のミューミューのジェイル・ハウス・ロックに捕まり、脱獄未遂の罪状により自然な形での懲罰房送りとなる。誰も疑わない。ホワイト・スネイクは囚人の記憶をいじる事ができる。罪人に与えたディスクは懲罰房棟に閉じ込めた後で回収すればいい。

いくらエンリコ・プッチが教誨師で地位の高い人間だとは言っても、強権で罪人を懲罰房送りにする事は出来ないのである。

 

このシステムからミューミューが欠けてしまえば、エンリコ・プッチの計画は甚だ支障を来す。

ミューミューが居ないとプッチは罪人を集めることが出来ない。ミューミューのスタンドがあるから罪人を安全に一か所に集めることができ、ミューミューの権限があるから罪人を懲罰房送りにする事が可能なのである。承太郎の記憶を得てからプッチが事態を起こすまでに間が空いていたのは、極罪を犯した罪人たちを懲罰房棟の一か所に纏めるために時間が必要だったからであった。

 

ミューミューはプッチにとって必要な駒であると同時に、致命的な弱点であった。

プッチにとって最も想定外だったこと。それは、ミューミューのその存在が刑務所内で都市伝説として知れ渡ってしまっていたことだろう。プッチの考えではミューミューはその存在さえ隠蔽されていれば、無敵のはずだったのである。

 

しかし刑務所内は閉鎖されているとは言え社会であり、人の噂とは千里を走るものである。プッチの与り知らぬところで、ミューミューの存在は所内の都市伝説と化してしまっていたのだ。矛盾を承知で敢えて言うが、とどのつまりこの世に無敵のスタンドなど存在しないのである。無敵かと勘違いするほどに強力なスタンドはそれなりの数存在するのだが。

 

プッチの目的である天国、未来を知る人類が生まれる世界。

果たして一体どこの誰が、自分に似てはいても自分とは全く違う人間が生きる世界を喜ぶというのだろうか?

たとえ未来を知ることができたとしても、生命は未知への探究心や未来への希望といった生への強い意欲を失い、衰退するだけである。生命とは、刺激がなくわかりきった行動を繰り返させられると飽きるのである。

それは皮肉にも、ミューミューのスタンドの本質である同じ行動を繰り返させて相手に無力感を刷り込む行為に似ている。

 

結局はプッチの理想とは誰も理解も賛同もできない異質なものであり、プッチの正体とは社会や他人を全く理解しようとしない破綻者だったのである。社会を理解できないから、社会にミューミューの噂が広まる可能性を想定できない。プッチなりに行動を起こすに足る正当な理由があったのだとしても、それは全てのテロ行為に同様に言えることなのである。誰だって、自分の行為が正しいと信じているのだから。

 

まだ計画に必要な人数には十名程足りない。しかし刑務所内にプッチの反勢力が存在する今、ここであからさまな行動を起こせば彼がホワイト・スネイクの本体であるとバレてしまう。敵はホワイト・スネイクよりも強く、今度こそ天国への道は閉ざされてしまうだろう。

 

エンリコ・プッチは自室でソファーに座り、必死に苦しい現状をひっくり返す打開策を模索している。

プッチは刑務所側に体調不良を申し出て、自室にこもっていた。体調不良は決して嘘ではない。

 

エンリコ・プッチは指折りで彼に残された手駒を数えた。ミラション、ラング・ラングラー、ヴィヴァーノ・ウェストウッド、ケンゾー、グッチョ、DアンG。これ以上手駒を増やせば、看守であるウェストウッドは別にしても、彼らはホワイト・スネイクに従わずにむしろ協力して脱獄する方向に向かっていくかもしれない。刑務所の防衛の要のミューミューが失踪した今、それは非常にマズイのである。脱走者を出せば周辺の地域に厳重警戒体制が敷かれ、刑務所内では警備レベルが最高まで引き上げられる事になる。そうなれば外部からの圧力もかかり、罪人を秘密裏に集めるどころではなくなる。

 

「41、43、47、53…………クソッッッッッ!」

 

エンリコ・プッチが現状取れる選択肢は二つ。

計画の要であるミューミューを何としても手元に取り戻すか、対象を選ばずに骨を使用して所内で災害(ハザード)を引き起こすか。

所内で災害を起こしてしまえば、恐らくはそれをテロ行為だと判断してアメリカ政府が動く事になるだろう。骨は見境なく人を喰らい、災害は止まることなく極罪を犯した三十六名の魂を内包するまで続くことになる。災害が懲罰房限定であれば、その責任の所在を管理者である看守たちになすりつけることができたはずだった。

 

所内全域で人が消えれば、生き残って姿を眩ましたエンリコ・プッチはテロの重要参考人として国家に追われる事になる。恐らくは広大なアメリカに複数存在する裏社会の処刑人たちも動き出すだろう。刑務所で起こった出来事の精査も入ることに間違いない。

国家が本気で動いてしまえば、さすがのプッチと言えども次に計画を行動に移す時期まで逃げ果せる自信がない。

 

エンリコ・プッチは震える手で二枚のディスクを握っている。プッチはディスクに目を落とした。

 

「……ディオ、私に力をくれ。計画を完遂する力を……。天国へと歩き続ける勇気を……。」

 

 

 

◼️◼️◼️

 

『やあ、ディオ。どうしたんだい?今日の君は不機嫌そうだ。』

『ああ、わかるか。嫌な事があった。誰だって不機嫌になる。恐らくは君だって不機嫌になる。』

 

それは在りし日の記憶だ。ディオがまだ生きていて、プッチがエジプトに住むディオの元を訪ねていた時の記憶。

ディオはソファーに横になっている。

 

プッチはそれを思い返していた。

 

『一体何が?』

『食卓を荒らされたのだよ。……君だって、食事をしようとする時にテーブルをひっくり返す無作法者がいたら腹が立つだろう?』

『食事……。それはつまり?』

『ああ、君の考えている通りだ。』

 

ディオは吸血鬼で、食事とは人間の血液のことである。

ディオは気だるげにソファーから身を起こした。

 

『……それは!』

『ああ。私としたことが噛み付かれてしまった。』

 

ディオの頭部の眼窩から右上半分が消滅して、ソファーにはベットリと血液がこびり付いていた。

 

『君をそんな目に合わせる事が出来る奴が?』

『……私としたことが、見誤ったよ。もともとは私が矢でスタンド使いにした奴らなのだが、私の下に付くのを嫌がった。そいつらは私の手元を離れて、エジプトで無意味に人間を虐殺して回っていた。何も特別な思想に傾倒しているわけではなく、ただ殺したいから殺すという生粋のシリアルキラーだ。そういう奴らは、時折存在する。しかし何者とも相容れない。私の目的は無意味な人間の虐殺ではなく、支配だ。人間は私にとって食事であり、家畜に過ぎない。家畜を無意味に殺して回る害獣がいたら、誰だって腹が立つだろう?私だって腹が立つ。そいつらのスタンドはそこそこ有能で、私に従うのなら生かしておいてやると言ったらこの有様だ。』

『……そんなに強いのか?』

『強いのもあるが、なによりもタチが悪い。漆黒の殺意……目的のためなら手段を選ばない、殺人者の精神性を持った奴らだ。それは正しく扱わないと非常に危険で、社会に破滅を齎すものだ。本来ならばその精神を持つのは裏社会の処刑人にしか許されない。そいつらは私に従うフリをして、平然と寝首を掻きにきた。私は寝入った隙を襲われてこのザマだ。スタンドで言えばそうだな……私の配下でもヴァニラ・アイスに次ぐくらいの実力はあるだろう。』

 

ディオは億劫そうに再びソファーに横になった。今は配下のヴァニラ・アイスに食料の調達を任せている。

ディオは動くのも苦しいほどに疲弊していた。

 

『まあ、普通に戦えばスタンド自体は私の敵ではない。私のザ・ワールドは無敵だ。だが、私以外の存在だったら手に余すだろうね。今は屋敷の地下牢に痛め付けて閉じ込めている。欲しいならディスクにして持っていけばいい。使うのなら本当にどうにもならないときにしておいたほうがいいが。』

『なぜ処分しないんだ?』

『惜しかったからさ。その能力は強力で、その殺意は何者をも喰い殺す。肉の芽を埋め込めばそいつらの支配はできても、最も強みである殺意が失われてしまう。この私に従順でさえあればどれだけ役に立つことか。でも彼らは残念ながら、他者の破滅のみを願う破綻者だった。いわばこのディオ専属の処刑人の、なりそこないだ。』

『……。』

『持って行ってもいいぞ。だが注意しておいた方がいい。そいつらは平然と弱者を装い、同情を乞い、きっと手段を選ばずに君からディスクを取り返そうとする。ウッカリ返してしまったが最後、君はそいつらに喰い殺されることとなる。そいつらは、誰の言葉にも耳を傾けない。』

 

今、エンリコ・プッチの手元には二枚のディスクがある。それは強力すぎて、本来の本体以外の人間には扱えない。

 

メイサ・レイナードとヴィエラ・レイナードのレイナード姉弟、破滅の願いを持つ二人の破綻者。

このグリーン・ドルフィン・ストリート刑務所では毎年複数の人間が不審死や失踪しており、姉弟は事件の裏で暗躍する最悪の囚人だった。

 

ディスクは本当にどうにもならないときのために、エンリコ・プッチが最終手段として隠しておいた切り札だった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「ウラアッッッッッ!!!テメエ、嘘ついてんじゃねえだろうな!」

 

サーレーがエンポリオのおうちのテーブルを蹴っ飛ばそうとした。テーブルは幽霊で、エンポリオにしか扱えない。

サーレーの蹴りはマヌケにもテーブルをすり抜けた。

 

「サーレー、ぬるいわよ。こういう舐めた奴は、体に分からせてやらないと!」

 

徐倫がストーン・フリーで目の前で正座している女性の首を絞め上げる。

正座している女性の顔は鬱血して青くなった。

 

今現在エンポリオのおうちでは、サーレー(チンピラ)徐倫(ヤンキー)が奇跡のコラボレーションを果たしていた。チンピラとヤンキーは、一人のぱっと見か弱そうな女性に寄って集って締め上げている。

 

絵面が、通報案件だった。

 

「ヒイイッッッッッ!」

「……なあ相棒、もう少し声を落としてくんねえか?傷に響くんだよ。」

 

エンポリオ少年のお家で、サーレーの必殺技のチンピラ式開口術が火を吹いた。チンピラ式開口術とはいわゆるチンピラの得意技、恐喝である。

 

サーレーの目前には黒髪の女性が正座し、サーレーと徐倫が挟み込んで女性を脅している。彼らの背後でウェザー・リポートとフー・ファイターズが仲良くキャッチボールをしていて、屋敷にサーレーの怒声が響くたびにズッケェロを看護してるミューミューがビクついている。

 

今このおうちには、エンポリオ、サーレー、ズッケェロ、ウェザー、アナスイ、ミューミュー、徐倫、エルメェス、フー・ファイターズ、黒髪の女性、合計なんと十名もの人間が存在する。大家族だ。少年は以前は三人暮らしだったはずなのだが?

 

どうしてこんなにおかしなことになっているのだろう?なぜこんなにも人間が増えてしまったのか?

エンポリオ少年は首を傾げた。

 

それは、彼らがこうなる少し前の話。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「すまない、徐倫。こちらで少々計算外のことが起きた。お前の親父さんのディスクはまだ俺の手元にある。今は受取手の連絡を待っている状態だ。」

 

サーレーが背中越しに、ベンチに座る徐倫に言葉をかけた。サーレーはベンチの後ろで、地面に座っている。

 

「……何があったの?」

「俺の仲間が負傷した。俺たちの入監を請け負った奴だ。そいつが脱獄の際に、脱獄防止のスタンドとかち合ってしまった。脱獄防止のスタンドの本体はもう捕らえて、手元に置いてある。」

 

今は刑務所の昼休憩の時間だ。ベンチの前ではエートロ(フー・ファイターズ)とエルメェスがキャッチボールをしている。

 

サーレーは刑務所の囚人服を着て、普通に所内をうろついていた。刑務所には千二百人を超える囚人がいて、日夜囚人は入れ替わっている。その全ての人間の顔を覚えた看守など恐らくはいないだろう。万が一看守に囚人でないとバレてしまっても、クラフト・ワークを使用して看守が硬直してる隙に逃げてしまえばいい。

 

「……どうするの?」

「とりあえず向こうと連絡を取る手立てはある。向こうの判断待ちだ。」

「そう……。」

 

予定外の悪い知らせに、徐倫は顔をしかめた。

 

「それで徐倫、一つ提案がある。向こうのアクションを待つ間、お前は戦闘訓練を行わないか?」

「どうやって?」

「俺との実戦訓練だ。お前たちの刑務所の作業の休憩時間に、エンポリオの音楽室で行う。」

「……必要なの?」

「お前には間違いなくスタンドの才能がある。お前の親父さんも、歴戦の戦士だった。スタンドを理解するのには、実戦が一番手っ取り早い。」

 

徐倫は目の前で行われるキャッチボールを眺めている。エルメェスは知らない女と何やら賭けをしているようだ。

 

「……そう。わかったわ。よろしく頼むわね。」

「俺もできればこっちの事件をさっさと片付けてえ。どうにも、きなくせえ。」

 

昨夜イタリアのムーロロに電話した際に、イタリアでパッショーネの人員が不審死したとの報告があった。パッショーネ側で異常があるのなら、サーレーはアメリカにいつまでも滞在しておくべきではない。心配だ。

 

「じゃあ、暇を見つけたら向かうことにするわ。今日はもうすぐ昼休みが終わるから、明日からでも迎えに来てちょうだい。」

 

徐倫の足元にボールが転がってきた。エルメェスかエートロが落としたのだろう。

徐倫はそれを拾って投げ返そうとした。

 

「ああ。じゃあまたな。」

 

サーレーは声をかけて立ち去ろうとした。しかし、サーレーが背を向けている間に異変が起きていた。

 

【金歯カ。セイゼイ、三十ドルトイッタトコロカ。ノコリ五百九十ドル、ドウヤッテ支払ウ?】

「何があったエルメェースッッッ!!!」

 

徐倫が叫び、サーレーは驚いて振り返った。

キャッチボールをしていたはずのエルメェス・コステロの目前には唐突にスタンドが立っていた。それは取立人マリリン・マンソンと呼ばれるスタンドだった。取立人はエルメェスと賭け事をしていたミラションという名の女のスタンドで、ミラションはプッチの依頼で奪われた承太郎のディスクを取り返すためにエルメェスたちに賭け事を申し出ていた。ミラションはエルメェスに千ドルの賭けを持ちかけ、エルメェスはその賭けに敗北したところだった。

徐倫は驚いてストーン・フリーでスタンドに攻撃を仕掛けるが、取立人は取立の最中は無敵である。ストーン・フリーの拳は宙を切った。

 

【足リナイ五百九十ドル、オマエノ肝臓デ支払ウカ?他ニ金ヲ支払ウ方法ガナイナラ、コレヲイタダイテイク。】

 

取立人はエルメェスの腹部にその鉤爪を当て、ピンク色に蠢く肝臓を取り出した。

肝臓を奪われれば、当然生命活動に支障が出てしまう。

 

「ま、待てッッ!それはやめろ!五千ドル、隠してあるんだッッ!」

【ソレハ、サンダー・マックイイーントイウ囚人ノ金ダロウ。他ニ支払イノ方法ハナイカ?】

「ま、待てッッッ!やめろぉぉぉーーッッッ!」

【支払エナイナラ、肝臓ヲイタダクコトニナルガ?】

「五百九十ドルならここにあるぜ。」

 

サーレーは取立人の前に立ち、ポケットから百ドル紙幣を六枚取り出して地面にばら撒いた。

 

「ほら、それを拾ってさっさと消えなよ。」

【……ソレハオ前ノ金ダロウ?エルメェス・コステロノ金デハナイ。エルメェスハ納得シテイナイ。】

「だから俺がたった今この場で、エルメェスを六百ドルで買うって言ってんだよ。ごちゃごちゃつまらねー御託を言ってねーで、それを拾ってさっさと消えなよ。」

 

サーレーは取立人に近付いてメンチを切った。

 

【……イイダロウ。エルメェスモソノ理屈ニ納得シタヨウダ。オツリハ十ドルダ。領収書ハイルカ?】

「いらねーよ。消えな。」

 

取立人はエルメェスに肝臓を返し、十ドル紙幣を残して去っていった。

 

「さて、エルメェス。あいつの本体わかるか?」

 

サーレーは地面に倒れたエルメェスに振り返った。

 

「ああ、なんか黒髪のミラションとか名乗る女が……ってちょっと待て。あたしを六百ドルで買ったってどういうことだ!」

「そのままの意味だ。」

「ふざけんなッッッ!!!勝手なことをすんじゃねェェーーッッッ!!!あたしは売ってねえッッッ!!そーゆーのは、まずは清いお付き合いからだろうがッッッ!段階をすっ飛ばそうとすんじゃねえッッッ!」

 

エルメェスは自分の体を守るように抱いた。これから彼女はきっとサーレーに六百ドル分のサービスをしないといけない。

 

「ちげーよ。お前という戦力を金出して買ったってことだよ。金で済むならそれが手っ取り早い。お前のキッスを傭兵として六百ドル、変なことじゃねえだろ?そんなことよりもさっさとあいつの本体を捕らえに行くぞ。黒幕と繋がってるかも知れねえ。」

「捕まえてどうすんだ?」

 

エートロがサーレーに問いかけた。

 

「お前は確かフー・ファイターズだったな。あの手のスタンドは嵌めれれば無敵だが、普段はほぼ無力だ。捕まえて知ってる限りの情報を吐かせる。そのまま行方不明になってもらう。」

「行方不明って、殺すの?」

 

徐倫がサーレーに質問した。

 

「いいや、殺しはしない。ちょうど今エンポリオのところには、捕らえた他のスタンド使いもいる。そいつは開放する際に黒幕に監禁されていたと告げるように因果を含めている。どうせならそいつも排除を兼ねて俺たちの監視下に置く。」

「……そいつ、女性よ。捕まえて変なことするんじゃないの?」

「しねーよ。尋問するにも場所が必要だろう?」

「……まあいいわ。」

 

徐倫、エルメェス、エートロの三人はミラションを追い、サーレーが三人の後を少し離れて付いていった。

そして、先の場面へと戻る。

 

「だから知ってることをさっさと吐けと言ってるだろーがッッッ!!!チンタラして、すっとぼけてんじゃあねぇッッッ!」

「ヒ、ヒイイイイイッッッ。ごめんなさい、ごめんなさぁいッッッ。何も知りませんんんん。」

「サーレー、そいつが泣いてるからって、手加減をするべきではないわ。そういう奴は平気で嘘を吐く。私がそいつを締め上げて、体にきっちりと聞いてやるわ。」

 

普段は無力なミラションは、追い付いた彼らにアッサリと捕まった。今はエンポリオの音楽室で絞め上げて、知っていることを洗いざらい吐かせている最中だった。

アナスイがソワソワして、横になっているズッケェロに問いかけた。

 

「……なあ、あいつが空条徐倫か。」

「ああ、そうだ。それがどうした?」

「……祝福しろ。」

「オイ、オメー突然何言ってんだ?頭大丈夫か?」

 

アナスイにとって、徐倫はめちゃくちゃ好みだった。アナスイは徐倫の親父の恐ろしさを知らない。

 

「それじゃあ私たちは刑務所の作業に戻るわ。何か進展があったら教えてちょうだい。」

「ああ、了解した。」

 

人知れず密かにテンションが上がったアナスイをよそに、徐倫たちは監獄での作業へと戻っていった。

 

「んで相棒よォー、俺たちは次はどう動くんだ?ムーロロの旦那によりゃあ、イタリアでも事件があったんだろ?あんまこっちでチンタラしてるわけにもいかねえんじゃねえか?」

「……そうだな。」

 

サーレーは悩んだ。ミューミューもミラションも黒幕に繋がる有力な情報を持っていなかった。

 

その目的の一切を隠しているからこそわかることもある。

黒幕は、その手先の誰にも自身の計画の内容を話していない。よほど根が深くて恐ろしい陰謀だということが推測される。目的を誰にも教えていないということは、裏を返せば誰の理解も賛同も得られない計画だということである。

 

現状、刑務所内を徘徊して偶然黒幕とかち合うくらいしか手立てが思い付かない。最悪の場合はこちらの事件を中途で放置して、イタリアにとんぼ返りしないといけない。そのことを考えれば、徐倫を黒幕と渡り合える戦士に仕上げることが現状の最重要事項のように思えた。

 

「焦れるのは分かるが、とりあえず今まで通り所内でスタンド使いを探し出し、そいつらから情報を搾り取る以外に手立てはねえ。ただしイタリアでも状況が動かないとも限らねえ。ズッケェロ、お前は戦闘できそうか?」

「戦闘自体はなんとか可能だが、普段よりも動きはずっと落ちるぜ?脚を撃たれてるしまだ熱もあるし。まあ正直なところ、正面からのガチンコは勘弁願いてえなあ。」

「わかった。これからの方針を告げる。一先ずは夜間の財団からの連絡待ち。所内の警戒と索敵。それと空条徐倫たちの戦闘教練だ。今までとあまり変わらないが、黒幕に繋がる情報が得られなかった以上、仕方ない。」

「了ー解。」

 

ズッケェロは、あくびをした。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「オラァッ!」

「いいぞ。想像以上だ。承太郎さんの絶対的な強さともまた違う。相手によって対応を変化させるしなやかな強さだ。」

 

空条徐倫のストーン・フリーの糸を束ねた拳がサーレーに襲いかかり、クラフト・ワークに固定される前にバラけてサーレーを拘束しに襲いかかった。サーレーはそれを後方に跳躍して回避する。立て続けに徐倫はサーレーを追いかけ、ストーン・フリーの分厚く束ねた拳を叩き込もうとした。サーレーは背後の壁を蹴り、天井を登って上方から徐倫本体を奇襲する。徐倫は糸になって解けて、別の場所で再生した。

徐倫とエルメェスとエートロは、刑務所の休憩時間にサーレーたちと戦闘訓練を行っていた。

 

「ウラッッ!」

「クッ、ハッ!」

 

サーレーのクラフト・ワークが地を蹴ってストーン・フリーに肉薄した。クラフト・ワークのラッシュをストーン・フリーはバラけて避けた。敵の攻撃が少しでも触れたら、そこを固定されて戦闘が甚だ不利になる。徐倫はすでに幾度かサーレーと戦闘を行い、クラフト・ワークの能力の概要を理解していた。

 

「徐倫、お前は強い。お前のスタンドは変幻自在で、お前の発想の速さと理解力は非常に戦闘向きだ。しかしスタンドには相性があり、長所と短所は表裏一体だ。」

「ハッッッッ!」

 

徐倫がクラフト・ワークのラッシュを躱して、糸を回収しようとした。しかしサーレーのクラフト・ワークの足が回収が遅れた徐倫の糸を少しだけ踏んづけていて、そこからクラフト・ワークのスタンドパワーが流れ込んでくる。徐倫はクラフト・ワークに固定された。

 

「オイ、ズリィだろ。なんであいつが徐倫担当なんだ?」

 

アナスイはチラリと自分の教練の担当を確認した。エートロ、見た目が女性でも中身はプランクトンの集合体だ。ヤル気が全く起きない。

アナスイは徐倫を担当することを強く主張したが、サーレーが徐倫の担当を望んだために却下されていた。ちなみにウェザーがエルメェスを担当している。

 

「あんた、なにごちゃごちゃ言ってんの?」

「……いいや、こっちの話だ。」

 

エートロの圧縮水鉄砲をダイバー・ダウンで弾きながら、アナスイが返答した。

 

「長所と短所は表裏一体、お前の糸は束ねれば頑強だが、融通が効かない。ばらければしなやかだが、強度に不安が残る。俺以外の相手であれば、お前はそれを上手く使い分けて戦えただろう。しかし俺には通用しない。ならばそれをどう克服する?」

「くっっ。」

 

徐倫は歯噛みした。

癪だが、年季を重ねた相手の方がスタンド使いとして格上だ。束ねた糸一本一本の細部まで固定エネルギーを流されてしまえば、徐倫のストーン・フリーはバラけた状態ではパワー負けして動けなくなる。糸を束ねて纏めても、相手に自分の糸の一部を確保されている現状ではまともな戦闘にならない。相手が固定と解除を繰り返せば、徐倫のストーン・フリーは戦闘の要所で動きを阻害されて相手の為すがままにされ敗れてしまう。

 

徐倫のストーン・フリーは、サーレーのクラフト・ワークに対してあまり相性が良くなかった。変幻自在に糸を操るストーン・フリーの強みを、相手の固定する能力により潰されてしまっている。

 

「これが本気の戦闘だったら、お前が今覚悟したようにダメージを承知で捕まった糸を引きちぎるしかない。」

 

サーレーが徐倫の糸から足を退けた。

 

「ただしお前一人だったら、だ。」

「私一人だったら?」

 

徐倫はサーレーの言葉の意味を理解できずに、聞き返した。

 

「お前のストーン・フリーも俺のクラフト・ワークも、その真髄は仲間との共闘にある。俺のスタンドもお前のスタンドも応用力が高く、仲間と組み合わせることでどこまででも強くなる。」

「……例えば?」

「お前の絡みつく糸は、俺のクラフト・ワークの固定する力を組み合わせれば相手を雁字搦める鋼鉄の拘束衣と化す。他にもお前が敵の攻撃に晒された時、俺がとっさにお前の糸の一部からでもクラフト・ワークの固定エネルギーを流せばお前の防御力は飛躍的に上昇する。ウェザー・リポートの天候、雨と組み合わせれば、水の染み込んだお前の糸は重量と強度が増し敵の骨を砕く鞭になる。糸を上手く編み込んでハングライダーにすれば、ウェザーの突風と合わせて空を飛ぶことさえも可能になるだろう。」

「……なるほど。」

「訓練とイメージトレーニングを甘く見るな。お前は本番に強いタイプだが、ぶっつけ本番を繰り返していたら早死にすることになる。仲間を大切にしろ。エルメェス・コステロとフー・ファイターズは、連携を深めることでお前を強者たらしめる。」

「……。」

「さて。それでは最後にお前に俺の切り札を見せてやる。スタンドを極めれば、どこまで強くなれるのかだ。俺はまだ半端者だが、お前の成長の目安程度にはなるだろう。」

 

サーレーはそう告げると、クラフト・ワークを具現した。

徐倫は格上の男の切り札と聞いて、どのようなものか見逃さないように注視した。直後に、なにをされたのかわからないうちに徐倫の体は硬直した。

 

「こ、れはッッ……。」

「これが俺の必殺、蜘蛛の巣(ラニャテーラ)だ。俺のクラフト・ワークは、全身から固定のエネルギーを発することができる。原理は簡単、あたり一帯の地面にクラフト・ワークの足の裏からスタンドエネルギーを流し込んだだけだ。それだけだが、非常に使い勝手が良く強力だ。」

 

サーレーの新必殺技のラニャテーラは、非常にタチが悪い。

その能力の効果は敵の行動の阻害であり、効果半径はおよそサーレーの周囲5メートル前後。その能力の概要は自身に有利な土俵を展開して、相手に不利な決闘を強いる短期決戦の必殺技である。

 

クラフト・ワークの周囲の地面に触れれば遠隔のパワーが弱いスタンドは地面に固定されて動きが鈍くなり、近接のパワーのあるスタンドは高確率で本体が巻き込まれる。一旦力で固定を引き剥がしたとしても、サーレーが技を発動している限りは着地すれば再び固定されることになる。

半径5メートルという効果範囲に関しても、クラフト・ワークの精密動作性の苦手さから綺麗な円ではなくいびつな楕円の形をしていて、効果範囲を見切るのが非常に困難である。挙げ句の果てに、技を発する特別なモーションが一切存在しない。

効果が見込めないのは、フー・ファイターズのような特殊極まりないスタンドや、空に浮かぶスタンドくらいである。

 

悪辣な蜘蛛は地に不可視の巣を張り、掛かった獲物を捕食する。

 

「これを最初から使えば、スタンド初心者のお前は俺に手も足も出ずに敗北していただろう。だが俺も所詮は道半ばでしかない。お前の親父さんの承太郎さんは、全てのスタンドの頂点に立つ存在といっても過言ではなかった。お前が今立ち向かっている敵の恐ろしさと普段の訓練の必要性、そして仲間の大切さを忘れるなッッッ!」

「ハイッッ!ありがとうございましたッッッ!」

 

徐倫は、フー・ファイターズに殴られて無様に鼻血を流して倒れた男の真の実力に感服した。

 

ズッケェロは横になりながらサーレーを眺めている。

ズッケェロは看護するミューミューに話しかけた。

 

「信じられないだろうがよぉー、あいつつい最近まではただのチンピラだったんだぜェ。なんかあんな偉そうにしてるけどよォ。」

「は?」

 

 

 

◼️◼️◼️

 

本体

ミラション

スタンド

取立人、マリリン・マンソン

概要

スタンドは取立専門のスタンド。取立中は無敵。本体は今現在、エンポリオハウスでミューミューと仲良くしている。

 

本体

空条徐倫

スタンド

ストーン・フリー

概要

なにかの間違いでチンピラ(サーレー)に弟子入りしたヤンキー兼本来の主人公。

 

本体

サーレー

概要

グイード・ミスタの薫陶を受けることにより、下の人間を育成する能力を密かに受け継いでいた。

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