噛ませ犬のクラフトワーク 作:刺身798円
まあ、いいか。
「うーん、臭いがする。棒で打たれて逃げ回った、負け犬の臭いが。」
姉のメイサが呟いた。
「ヒャハハハ、それ、どんな臭いだ?俺も嗅いでみてえぇぇーーッッッ。」
弟のヴィエラが馬鹿笑いをする。
夜間に刑務所の食堂席に座る彼らの名はレイナード姉弟。周囲の人払いはホワイト・スネイクがすでに済ませている。彼らは本来ならば、プッチが己の計画の完遂の過程のどこかでどさくさに紛れて処分しようと考えていた駒である。それを今、プッチはリスクを犯して秘密裏の夜間の接触を行うハメになっていた。
彼らは生粋の殺人鬼であり、プッチがスタンドを奪った後も精神の箍が外れた彼らはアメリカで殺人を犯して回り、プッチの根回しでここグリーン・ドルフィン・ストリート刑務所に収監されていた。
死刑制度の存在するフロリダで彼らが死刑を宣告されていないのは、プッチが姉弟が犯した殺人の死体の隠匿を行なったせいだ。プッチは彼らを有事の最後の切り札として確保しておきたがり、最悪の二人はそれを知っていて好き勝手に殺人を犯していた。
「ねえ、プッチ。私たちの仲じゃあない。どう?私にスタンドを返す気にならない?いいじゃない?アンタがスタンドを返してくれるなら、私がアンタの敵を始末してあげる。私たち、ずっと一緒だったじゃない?私、どうしてもあなたの役に立ちたいの。無力なままあなたの役に立てないのが苦しいのよ。」
「おお、姉ちゃんの心を射止めるとは、神父様やるねえ!結婚式はいつだい?神サマとは離婚しちまいな。こりゃもうスタンドを返すっきゃねえだろう。」
ーーコノクソドモガッッッ、ダカラコイツラニ会イタクナカッタンダッッッッッ!!
メイサがホワイト・スネイクにしなだれかかり、ホワイト・スネイクは内心で罵った。
メイサには今現在水をお湯に変えるほぼ無力なスタンドを与えてあり、それにより姿の見えるホワイト・スネイクが会話を行なっている。ヴィエラも同様だ。
「コーヒーを飲むのには便利だけど、やっぱり元のスタンドを返してほしいわ。」
メイサが水をお湯に変え、刑務所の厨房から盗み出したマグカップのコーヒーに口をつけた。
姉のメイサと弟のヴィエラのレイナード姉弟。
彼らはホワイト・スネイクの仲間のフリをして、虎視眈々とプッチを喰い殺す機会を狙っている。決してプッチの仲間などでは無い。
プッチがここまで二人を生かしておいたのは、空条承太郎を陥れ損ねた場合にスター・プラチナに対する逃亡の捨て駒にするためだった。彼らであればきっと、空条承太郎相手でも時間稼ぎが可能だっただろう。
彼らはホワイト・スネイクの本体がエンリコ・プッチであることを知る唯一の人間であり、それを隠匿する代わりにホワイト・スネイクは二人が直接喰い殺した死体の後片付けをさせられていた。彼らの記憶を弄る事も下手だ。下手にホワイト・スネイクの本体の正体を隠蔽したら、知能の高い彼らは独自にプッチの正体を嗅ぎつけてそれをバラしてしまう。言い含めておかないとプッチの手駒も彼らの殺意の標的にされてしまう。
リスクを犯してでも手綱を握っておかないと、彼らは何をしでかすかわからないのである。
危険を承知で彼らをここまで生かしたのも、今回のような非常事態に対応するためである。
ためであるのだが、、、なるべくならやはり使いたくない。プッチは彼らの本性を知っている。彼らはディスクを返した途端嬉々としてプッチに襲いかかり、プッチの計画が失敗に終わったことを死体を指差しながら嘲笑うだろう。そして二人は刑務所を脱獄して、アメリカで無数の死と凄惨な戦いの狂宴が待っている。
真に恐ろしい敵は敵だと悟らせない。味方だと擬態する。例えば吉良吉影が、杜王町で平然と一般人を装っていたように。
姉弟はパッと見はモデルのような外見で、姉のメイサは黒髪ショートに褐色の肌、艶やかで男好きのする体型をしている。弟のヴィエラは金髪高身長、引き締まった体つきで少しディオに似た精悍なイケメンだ。
真っ当な人間の多くが彼らのその外見に好感を抱くが、一皮剥けばその下には悪魔も裸足で逃げ出す残虐性を秘めている。
彼らはプッチが何らかの計画を進行している最中だと理解しており、その高い知能からプッチの計画に支障が出ていることを理解していた。さもなければ、プッチが嫌っている彼らを訪ねることは有り得ない。
「ねーえ、プッチ。わかってるでしょう?私に任せてくれれば、全てが上手くいくわ。私がウブなあなたをリードしてあげる。計画を全て、私に委ねてしまいなさいな。私は尽くす女よ?」
ホワイト・スネイクは首を振った。
危なかった、気の迷いだ。姉のメイサの言葉は甘い蜜のようにホワイト・スネイクの耳朶に絡みつく。
しかしそれは失策だ。そこまであからさまに誘惑してしまっては、自分が危険な生物だと自白しているようなものだ。神の法を尊ぶプッチに、誘惑は通用しない。
もともとプッチは二人をまだ使うには早いと判断している。プッチに手駒はまだ残されている。今日ここに呼んだのは、姉弟が使えるかの確認のためだ。
【……オ前タチノ出番ハナイ。】
「わかっていないのねえ、プッチ。あなた、計算が出来るだけの馬鹿なのかしら?あなたは最強の空条承太郎を倒してしまった。次に現れるのは、
メイサの視線が真正面からホワイト・スネイクを射抜き、その瞳の昏さにホワイト・スネイクは寒気を感じた。
【……馬鹿ゲテイル。ソンナ奴ハ、コノ世ニ存在シナイ。】
「真っ向な戦いならね。だから、あんたが自分でやったんじゃない。空条承太郎に真っ向からは敵わないから、策を練って陥れて。次はあんたがそれをやられる番なのよ。猟師が罠を張って鉄砲を持って危険生物のあんたを狩りに来たわ。山狩りの時間よ。バァン!だからホラ、ヤられる前にヤらないと。ホラ、ホラ。私たちならそれが可能よ。」
メイサが手を上下に動かしてホワイト・スネイクを煽った。
ヴィエラはその様子をニヤつきながら見守っている。
本当に不愉快極まりない奴らだ。
こいつらは、的確にプッチの不安を嗅ぎつけてエグってくる。不安に駆られたプッチが彼らにディスクを返せば、二人はプッチを頭から丸齧りにしてくるだろう。計画は台無しだ。それどころかプッチは間違いなく殺される。
【何ト言オウガディスクヲ返ス気ハ無イ。計画モ順調ダ。オ前タチヲ呼ンダノハ、久々ニ確認ノタメニ顔ヲ見タカッタダケダ。】
「はい、ウッソー。私たちが使えるか確認に来たの丸わかりなんだけどー。ねー、ヴィエラ。」
「ああ、バレバレだぜ。あんたは自分のことと計画のことだけを考えている。計画が上手くいっている間は、俺たちのことを気にも止めないだろう。最近コソコソしてると思ったら急に会いに来て、わかりやすいったら無いぜ?神父様、そんなんで罪人たちの告解を秘匿できるのかよ?あんたがコソコソと隠して可愛がっている、スポーツ・マックスってチンピラを消してやってもいいんだぜェー。」
【キ……サマッッッ……!!】
スポーツ・マックスとの接触も見られていた。最悪だ。
リンプ・ビズキットが骨に力を与えなければ、全ての計画がおじゃんだ。スポーツ・マックスはスタンド使いだが、ガチンコの戦闘向きのスタンドではない。コイツらに命を付け狙われてしまっては堪らない。先行きに不安は多いが、早急に骨にリンプ・ビズキットのスタンドパワーを流し込むしか無い。
「ホラホラァーッッッ、怖い顔をして。この世は天国よ、神父様。計画を失敗することばかりを考えないで、仲間を信用して協力することが大切だわ。私たちが力を合わせれば、乗り越えられない困難なんて、無いッッッ!!!」
「イエスッッッ!俺たちはずっと仲間だ。俺たちはアンタの忠実な部下だし、俺たちの間にはなんでも乗り越えられる絆が存在するッッッ!三人の信頼パワーで、非業の死を遂げたディオ様の敵討ちをしよう!」
【ヤメロッッッ!キサマラガ天国ヤ私ノ友人ヲ騙ルナッッッ!クソッッッ……。】
姉弟はホワイト・スネイクを左右から挟み込み、親しげにホワイト・スネイクの肩に手を置いた。
本当にふざけた奴らだ。彼らの言葉には嘘しかなく、彼らの言葉はプッチの神経を逆撫でする。そしてその裏には、ドス黒い殺意が渦巻いている。
エンリコ・プッチは長年の付き合いでそれを痛感させられていた。
ーークソッッ……確認ノタメトハイエ、コイツラニ会イニ来タノハ間違イダッタッッッ!!!
悪魔の囁きは人を堕落させ、破綻者の嘯きは人を破滅させる。
二人の破綻者は不安を自在に操り、プッチを破滅のレールに乗せようと嘲笑っていた。
しかし、そっちに進む先は奈落の底だ。エンリコ・プッチは今までの彼らとの付き合いでそれをよく理解している。
【計画ガ上手クイッテイナイコトハ認メヨウ。ダガ、オ前タチニ出番ハ来ナイ。】
「あら、すぐに来るわよ。」
「そうだぜ。アンタそんな簡単な事もわからないで、陰謀を完遂させられるとでも思ってんのか?」
【何ヲ……。】
「膵臓付近、右肩、左眼窩下。」
メイサ・レイナードはホワイト・スネイクを指差して、その言葉は今度こそエンリコ・プッチの心胆を寒からしめた。
見破られてしまっている。
「アンタ、敵に負けたんだろ。痛みを明確に庇ってる。歩き方に違和感があるぜ。本体が来ずに回りくどいやり方をしたのも、万全で無い今、スタンドを持っていても俺たちに殺されるって不安があったからだろう?」
ヴィエラ・レイナードの言葉が、用はここまでと去り行くホワイト・スネイクの心に突き刺さった。しかし、それは失策だった。
ホワイト・スネイクは、彼らの能力を見誤っていた。二人の破綻者は刑務所に最近唐突に現れた新顔が空条徐倫と時折接触を取っていることを知りながら、肚の中でほくそ笑んでいた。
プッチは理解していない。
実はプッチも彼らも、己の理想や欲望のために他者の存在を無視する
彼らは社会を育めないから、同じ穴の狢同士であっても手を取り合えないのである。
◼️◼️◼️
一方でサーレーは、エンポリオの音楽室で思考を重ねながらスピードワゴン財団の連絡を待っていた。
サーレーは思考が苦手だ。頭が痛くなる。サーレーは、策を練り彼らに指示を出すムーロロの偉大さを痛感していた。
現状手詰まりで敵の行動待ちのように思えるが、実はそうではない。一つだけ、敵を炙り出せる策が存在する。
それは捕らえたミラションに偽の承太郎のディスクを渡して解放して、ミラションへの黒幕の接触を待つという、いわば囮捜査だ。偽物はトラクターから入手した適当なスタンドのディスクを使えば良い。
しかし、この策には難点がある。ミラションの身の安全の保証が難しく、ディスクに恩義を感じているフー・ファイターズが恐らくはいい顔をしないのだ。敵のその全貌がわからない状況で、仲間割れは最悪の事態に繋がりうる。そのリスクを考えれば、この策は見送る他にない。
ーーどうする?ムーロロに電話して事件の黒幕を炙り出す知恵を拝借するべきか?
しかし、イタリアのパッショーネ側でも異変が起こっている。ムーロロは決して暇ではないだろう。
敵の目的も朧な現状、向こうの人間の予測に頼るのはあまり良い手立てだとは言えない。目的がわからない以上、敵の次の手の予測がつかないのだ。的外れな推測に頼ることは非常に危険である。こっちで起こることはこっちにいるサーレーたちがその場その場で柔軟に対応するしかない。
サーレー側は彼らの本拠地のイタリアで異変が起っていて、プッチ側は計画の要であるミューミューが失踪しスポーツ・マックスは存在が危険人物に漏れてしまっている。
サーレー側は黒幕の正体を掴みあぐね、プッチ側はプッチの暗躍のさらに裏で彼に敵対する得体の知れない天敵との遭遇を嫌っている。
サーレー側もプッチ側も手詰まりに近いにも関わらず、時間に追い立てられている状況だった。
そんなサーレーをよそに、携帯の着信音が鳴り響いた。
それはサーレーの見覚えの無い着信で、スピードワゴン財団からの接触だった。
『もしもし、パッショーネ所属のサーレーさんの携帯でよろしいですか?』
「ああ、アンタは財団の関係者か?」
『ええ。パッショーネからあなた方が承太郎氏の精神のようなものを取り返したという報告を受けて、連絡させていただきました。』
「ああ。それはディスクで、俺の手元にある。俺は今刑務所内で、承太郎さんの娘も所内にいる。」
『ええ、こちらでもそれは把握しています。そちらの状況をお伝え願えますか?』
「潜入を請け負った人員が負傷している。あまり無理をさせたくない。どうにかなるか?」
『……分かりました。明日どこか中庭などの空の開けた場所に出てください。回収はこちらで行います。……可能ですか?』
◼️◼️◼️
「15673……は違う。7の倍数だ。素数じゃあない。15677も……61の倍数だ。クソッッッ!!!!」
エンリコ・プッチは、自室で焦っていた。先程から爪を噛みすぎて、手からは血を垂れ流している。
「15679……は素数だ。15683は……。」
プッチの目的である天国へ行く手段、それの過程に必要な極罪を犯した三十六名の魂。
エンリコ・プッチはミューミューとの接触によって囚人の罪科の情報を得ており、ミューミューのジェイル・ハウス・ロックの協力は彼の最終目標への過程において必要不可欠なものだった。ミューミューとスポーツ・マックスは計画の最重要人物だった。
今現在、懲罰房に存在する極罪を犯した者は二十五名。それは、プッチの手駒であるはずのケンゾーとDアンGも含めた数である。プッチの部下のラング・ラングラーとレイナード姉弟(ラング・ラングラーもレイナード姉弟も部下とは言っても一切プッチに忠誠を誓っていないが)とスポーツ・マックスを含めても、二十九名。残念ながら、必要数に足りてない。
重警備刑務所と言っても、中に閉じ込められている囚人全員が殺人を犯しているわけではない。ホワイト・スネイクで殺人を犯した者の調査自体は可能だが、時間がかかる上に彼らを捕らえて懲罰房に閉じ込める権限をプッチは持ち合わせていない。重罪人にスタンドのディスクを与えて逃亡を唆しても、ミューミューがいない現状、刑務所側が敗北して罪人の逃走を許す可能性は高い。それどころか、プッチ自身がスタンドを与えた者に敗北する可能性すらも。
そして刑務所にはプッチの強力な敵対勢力が存在し、プッチはつい最近そいつらに手酷く敗北したばかりである。
スポーツ・マックスの存在は配下の危険人物にバレていて、早急に行動を起こすかリンプ・ビズキットのディスクを回収しないと危険な状況だ。そしてリンプ・ビズキットのディスクを回収しても、次にいつリンプ・ビズキットを操れるプッチに従順な部下が現れるか不透明だ。
ミューミューは失踪し、スポーツ・マックスは破綻者に付け狙われている。ミューミューとスポーツ・マックスの二人のスタンドさえ確保出来ていれば、プッチには一旦逃走してほとぼりが冷めた頃に他の刑務所で行動を起こすという選択肢も有り得た。
破綻者は不安を操り人間を追い詰め、判断を誤らせる。
レイナード姉弟と接触したプッチは二人にこれでもかと現状を突き付けられ、先に何が起きるかわからない道を選択してしまった。プッチにはつい先日ミューミューに引き続きミラションまでもが失踪したという不安もあった。
懲罰房棟には今現在、二十六名しか極罪人の魂が存在しない。増えた一名は、役目を終えたスポーツ・マックスである。
ミューミューとミラションの失踪を受けて、プッチは今朝方早急なスポーツ・マックスとの接触を行なった。それはプッチにとって、予定外のことだった。
本来ならば、プッチは三十六名が懲罰房棟に集まってから骨に生命を与える予定だったのだ。本来の予定よりも先倒しで生命を与えられてしまったディオの骨は、今朝方それを持て余したプッチによって懲罰房棟に放たれた。今現在懲罰房棟がどうなっているのかプッチにもわからない。魂が足りない骨がどういった行動を起こすのかも。
スポーツ・マックスについては、その役目を終えたために足りていない骨の定員数を少しでも満たすためにホワイト・スネイクが懲罰房に呼び出して捨て置いていた。リンプ・ビズキットは戦闘力がないために敵への刺客にはなり得ない、そう判断したプッチの苦し紛れの行為だった。
リンプ・ビズキットは死者を蘇らせるが、スタンド自体に戦闘力が存在しない。その真実は本体の死後も発動を続ける凶悪極まりないスタンドなのだが、それは本体のスポーツ・マックスが死なない限り判明しないことなのである。ゆえにプッチはそれを知らない。
リンプ・ビズキットというスタンドはゾンビを蘇らせることができるが、本体のスポーツ・マックスがやられてしまえばそれは何の意味もなさない。そして蘇ったゾンビは血と肉に飢えておりその標的は見境がなく、プッチが襲撃される可能性も十分に存在する。こんなスタンド、普通は使い道があるとは思えないのである。
敵に関する現状は、敵対勢力と繋がっている可能性が高い空条徐倫にラング・ラングラーを刺客として焚き付けたところだ。ラング・ラングラーはプッチに従順ではないが、二人の破綻者と比べれば圧倒的に扱い易い。
ラング・ラングラーが一人で勝利を収められるのなら、それに越したことはない。が、、、正直、あまり期待は出来ないだろう。ケンゾーとDアンGも骨への生贄に使ってしまった。プッチに残された手札はもう残り少ない。
プッチは手から流れる血を気にも止めずに、部屋を立ってうろつきながら必死に何が起こるかわからない先々の思考を行なった。
エンリコ・プッチは不安で先のことを考えるあまり、現状において一つ大切な可能性を見落としてしまっている。先のことに腐心しすぎる人間は、多くの場合目の前の現実に足下を掬われるのだ。
この門をくぐる者は、一切の希望を捨てよ。
地獄の門番であるミューミューの失踪は、地獄の釜の蓋を開けることだった。
◼️◼️◼️
「太陽は、暖かい。レロレロ。」
【ハア、、、ハア、、、。赦さねえ、赦さねえ、赦さねえッッッ!!!ホワイト・スネイクッッッッ!!!俺をこんな目に合わせやがって!!!絶対に赦さねえぞッッッ!!!闇より、、、、生まれし、、、リンプ・ビズキット、、、。ホワイト・スネイクを、噛み殺せッッッ、、!】
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「ふーん、じゃあ私が、ディスクを持って中庭に向かえばいいの?」
「ああ、お前に任せたい。先方に確認を取った結果、承太郎さんの娘であるお前の顔は知っているとのことだ。」
サーレーがスピードワゴン財団と連絡を取った結果、ディスクはなんらかの手段で財団側が刑務所の中庭から回収するとの返答をもらっていた。そしてサーレーは刑務所の囚人ではないためにチェックを行う中庭への経路を通過することができず、それを正式な囚人である空条徐倫に任せる運びとなっていた。
今現在は刑務所の休憩時間であり、サーレーは運動場のベンチの前で徐倫と接触を行なっている。サーレーの顔はすでに黒幕に割れており敵に襲撃される可能性も存在したが、敵が襲撃してくる危機は同時に敵を倒す好機でもある。制限時間が不透明な現在、サーレーは事態を動かすためにリスクを飲み込むという判断を下していた。
「わかったわ。任せてちょうだい。」
サーレーは懐から承太郎のディスクを取り出して、徐倫に手渡そうとした。
「危ない!サーレー!」
その瞬間に徐倫が何かに反応し、サーレーを突き飛ばした。サーレーはとっさの徐倫の言葉に反応し、急いでクラフト・ワークで自身の防御を行なった。サーレーは衝撃を受けることを覚悟した。
ネチョッ。
「なんだ、コリャ?」
「あ、ゴメン……。」
サーレーは何かが付いた頭部に触れた。……なんかネバネバしてる、変な液体。なにこれ?
サーレーは何となくそれの匂いを嗅いだ。クンクン、臭い。
「クセエッッッ!これ、ツバじゃあねえか!徐倫、テメエなんのために俺を突き飛ばしたんだ!」
「いや、なんか、ホント、ゴメン。なんか飛んできたから危ないと思ってとっさに……。」
徐倫は、可愛く舌を出した。
それはラング・ラングラーが能力を発動するために飛ばしたツバであり、本来ならば徐倫のズボンについていたはずのものだ。徐倫はとっさにサーレーを突き飛ばし、彼女のズボンにそれが付くのを防いでいた。
「誰だ!俺にツバを飛ばした奴は!」
「なんか四つん這いの変な奴。あっちに走って逃げてったよ?」
「ヤロウ!誰にツバを飛ばしたか思い知らせてやる!十倍返しにしてやる!」
「……それって相手に十回ツバを吐きかけるってこと?」
徐倫が呆れながらラング・ラングラーが逃げた方向を指差し、サーレーはツバを吐いた相手を走って追いかけた。
◼️◼️◼️
ーーなんだこれはッッッ!?剥がれないッッッ!
接近戦が苦手で嵌め手で相手を絡め殺すラング・ラングラーは、ツバを吐いた後能力が効果を発揮する時間を稼ぐために逃走を試みていた。
しかし、どうにもおかしい。ラング・ラングラーの逃走する先の扉が頻繁に開かないという事態に陥っている。挙句に足には何やら強靭な糸が纏わり付いており、それは硬くて引きちぎれない。重力を奪ったはずの相手はなぜか平気で走って追いかけて来ている。敵にスタンドで金属片を打ち出しても、そのことごとくを無傷で弾き返されてしまう。
ーークソッッッ、ここも開かない!なぜだ!?
ラング・ラングラーは迫り来るサーレーから逃げるために扉に手を掛けるが、やはりそこも開かない。
サーレーは敵の逃走経路を予測して、敵が逃走に用いるであろう扉を先回りして固定して開かないようにしていた。
そして徐倫は密かに床に近い位置に糸を貼り、サーレーが伸ばした糸に固定のスタンドパワーを流し込んでそれは触れれば相手を捕縛する罠と化していた。徐倫の糸の一部にでも触れていれば、サーレーはそこからスタンドエネルギーを流し込んで固定の能力を伝えることができる。ストーン・フリーの本体は、糸の大部分を束ねていれば動くことが可能だった。
徐倫のストーン・フリーとサーレーのクラフト・ワークは、驚異的なまでにスタンドの相性が良かった。チンピラとヤンキーは、相性抜群だった。
「もう逃げられねえぜ。」
「この技、使えるわね。」
ラング・ラングラーは部屋の中央でサーレーと徐倫に挟撃されてしまっている。
徐倫がラング・ラングラーの足に纏わりつく強靭な糸を引っ張り、ラング・ラングラーはそれに足を取られて床に滑ってスッ転んだ。
「喰らいやがれッッッ、クソ野郎がッッッ!!!」
ーーダメだ、やられる!
サーレーが走って向かってきて、近接戦が苦手なラング・ラングラーは敗北を覚悟した。
「ペッ、ペッ、ペッ、ペッ。」
「……真面目にやりなさいよ。アンタなんかソイツにスタンド攻撃受けたんでしょう?」
サーレーがラング・ラングラーにツバを飛ばし、徐倫はサーレーの行動に呆れ返った。
「やられたら、やり返すッッッ!舐められるわけにはいかねえッッッ!」
ーーなんなんだ、コイツらは!?……臭い。
ラング・ラングラーはサーレーの不可思議な行動に困惑した。
サーレーがラング・ラングラーに振り向いた。
「オイ、テメエ。さっさと俺にかけたこの妙ちきりんなスタンド能力を解きやがれ!それでなかったことにしてやる!」
「ちょっと対応が温くない?コイツ、敵よ?」
徐倫がサーレーの対応のぬるさに疑問を感じて問いかけた。
「ミューミューやミラションが何も知らされてない以上、どうせコイツも敵の正体や目的を知らされていない使い捨ての末端だ。黒幕にいいように操られている都合のいい駒でしかないだろう。シャバでコイツが何をしでかしたのか知らねえが、刑務所にいる以上は大勢の合意と現行の法の下に罪科を真っ当に償わせようってことだろう。なら俺にそれに異論を挟む余地はねえ。」
「……まあそうね。」
「オイ、テメエ、いいな?一度だけ見逃してやる。次に逆らったら容赦しねえ。わかったか!」
サーレーがラング・ラングラーに宣言し、床に倒れたラング・ラングラーは何か少し考え込んだ。
考えた末に一つの結論を出し、ラング・ラングラーは口を開いた。
「……ホワイト・スネイクは天国とやらを目指している。俺を見逃すというのなら、その分の見返りの情報だ。」
「「天国ゥ!?」」
胡乱な言葉が出てきた。天国を目指すとは、どういった意味なのだろうか?
「……俺にもそれが何なのかはわからない。だが以前、ホワイト・スネイクがうっかり口を滑らせたのを覚えている。」
ラング・ラングラーはホワイト・スネイクに一切忠誠を誓っていない。知っていることをバラしてしまってもラング・ラングラーは困らない。ホワイト・スネイクの人格から鑑みるに、どうせロクな目的ではないだろう。
逆らったところで本人が痛い目を見るだけだ。馬鹿げている。
ラング・ラングラーはサーレーに彼が知っている情報を伝えた。
「成る程な……。」
「サーレー、何かわかったの?」
サーレーがしばし考え込み、何やら納得したように頷いた。
「敵の目的が判明した。奴は十億円を狙っている。」
「十億円!?どこから出てきたの!?」
「なんだと!?それは本当なのか?」
徐倫に加え、ラング・ラングラーまでもがサーレーの唐突な推測に驚愕した。
「ああ、間違いねえ。恐らくは奴は、死んだディオという男の隠し財産を狙っているのだろう。きっとそれは十億円くらいあるはずだ。奴はそれで豪勢に暮らし、札束風呂のような天国のごとき生活をおくろうって魂胆だ。」
「……マジで?」
徐倫が疑わしそうな目付きでサーレーを見た。
「ああ、大マジだ。だが十億円は、絶対に渡さねえッッッ!」
「……まあ、いいか。とりあえずアンタ、もうホワイト・スネイクに協力するのはやめなさい。天国が何なのか知らないけど、どうせアンタにとってロクなことにならないわよ。」
徐倫がラング・ラングラーに宣言した。
「いいだろう。……どうにも俺では役者不足のようだ。俺の能力はそっちの男には大して効いてないみたいだし、敵わない相手に逆らって痛い目を見るのも馬鹿げている。ホワイト・スネイクに従う義理もない。」
ラング・ラングラーはそれだけ告げると、男囚の監房へと戻って行った。
◼️◼️◼️
本体
ラング・ラングラー
スタンド
ジャンピング・ジャック・フラッシュ
概要
ツバを飛ばし、それに触れた人間の重力を奪う。サーレーはクラフト・ワークで足を地面に固定して、敵を追いかけた。