噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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石作りの地獄 その2

ーークソが!!何が天国だッッッ!何が素晴らしい計画だッッッ!ホワイト・スネイクのクソヤロー、一体この刑務所で何をやらかしやがったんだッッッ!!!

 

ラング・ラングラーは所内の中庭を逃げ回りながら、悪態をついた。

周囲には不可視の敵がたくさん存在し、接近戦が不得手なスタンド使いのラング・ラングラーはそれに上手く対応が出来ない。体の至る所を噛み付かれて流血し、どうにもならなくなった時だけ周囲に手首に仕込んだ金属片を撒き散らしてひたすらに逃げ回っていた。

 

ーークソッッッ!敵がどこにいるのかもわからねえ、捕まったらその度に肉を喰らいつかれて出血が止まらねえ。血も、足りてねえ。最悪だ!ホワイト・スネイクのクソヤローがッッッ!!ぶっ殺してやるッッッ!!!

 

ラング・ラングラーのそれは、ただの痩せ我慢だった。

身体中から出血し、至る所の肉を噛み千切られてそれでも死にたく無い一心で必死に中庭を逃げ回っている。彼には他に何も出来ない。敵は目に見えず、動き回る以外に回避のしようがない。

眩暈がし、走るたびに立ちくらみを起こし、身体中が危険域の信号を発し続けている。それでも立ち止まってしまったら、得体の知れない敵が残さず肉を喰らい尽くそうと無数に覆い被さってくるのだ。

 

ラング・ラングラーは走りながら口から吐血し、それが地面の畑に撒き散らされた。

彼はすでに自分が長くもたないことを理解している。

 

ーークソが!本体が姿を現さねえわけのわからねえ奴に乗せられて、得体の知れない計画なんぞに加担するべきじゃあなかったッッッ!!!

 

死の帳が刑務所を覆い尽くしている。

囚人を拘束するはずの石作りの海(ストーン・オーシャン)は、生者を喰らい尽くす石作りの地獄(ストーン・ヘル)へと変貌を遂げていた。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「おい!オレは反対だぜッッッ!そんな素性のわからねえ奴を、この非常時に仲間内に入れるべきじゃあねえッッッ!」

 

エンポリオの音楽室に、アナスイの怒声が響いた。

素性のわからない奴とはもちろん、サーレーたちが女囚の監房から連れてきた褐色肌の女性のことである。

 

サーレーは少し思考した。

アナスイの言うことも理解できる。確かにこの状況下で生き残っている人間が怪しく無いはずがない。

 

「おい、お前の言うこともわかるが、こいつスタンド使いじゃあなかったぞ。」

 

すでにそれはサーレーが確認済みだった。

彼女は音楽室の外で起きている亡者との戦闘で、スタンドを認識している気配は皆無だった。

 

「アンタ、今の状況がわかってんのかッッッ!外では見えない敵がうろつきまわってて、監獄の人間はおそらく全滅だッッッ!!!こんな状況下で、生き残ってる奴が怪しくないわけがねえだろうがッッッ!!!」

「……じゃあどうすんの?たしかにアンタの言うことは一理あるけど、スタンドも持たないその女を外に放り出したら、そいつ外の奴らに喰われてお終いよ?」

「徐倫……。」

 

徐倫がサーレーに加勢して、ウェザーとエルメェスはことの成り行きを見守っている。

 

エンポリオの音楽室は幽霊であり、多数の人間が周囲を出入りする刑務所でも長年秘匿されてきた。

外で多数の亡者がうろついている現状でも、幸運にも今のところ内部に亡者が侵入してくることは無かった。音楽室の入口には念のため、不可視の侵入者対策で徐倫がストーン・フリーの糸で結界を張っている。

 

「あ……あの……まさか、私が外の事件を引き起こしたとか疑われてるんですか……?」

「い、いや。そんな事はねぇよ。あたしたちも混乱してんのさ。外で何が起こってるのか……。」

 

女性は涙目になり、エルメェスがそれを宥めた。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

メイサは思考している。

 

さて、これからどうすれば面白くなるだろうか?何をするにしろ、弟と接触を取ることが最優先だ。

この緊急の状況下で、プッチが弟を頼らないとは考えづらい。弟のスタンドは強力で、こういった非常事態にさえもいくらでも対処が可能だ。弟にスタンドのディスクを返却しなければ、プッチはすでに弟もろとも死亡しているだろう。

その場合はお手上げだ。スタンドは永遠に返ってこない。素直に諦めて次の機会に獲物を探そう。

 

彼らの会話の流れとしては、彼女は怪しまれていてそれは想定済みだ。

もっともつまらないのは、彼女が自身のスタンドを確保する前に怪しまれて雁字搦めに拘束されてしまうことである。そうなったら彼女は何も出来なくなる。そうなりそうだったら、信頼を得ていないショックを受けたフリをしてこの部屋を出て行けばいい。ここを出て行っても、生きている弟と合流さえ出来れば愉しいパーティーを開催できるだろう。もし弟が死んでいても、お人好しそうなのが何人かいるみたいだし彼女の保護に追いかけて来てくれる可能性は高い。

 

怪しまれている当事者の彼女が下手に会話を誘導しようとすれば、余計に怪しまれるだけだ。

さーて、話の結論はどう落ち着くのかしらね?

 

メイサは緊迫した表情を見せているが、肚の中では笑っている。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「……そういえば、先に話しそびれたが、生きている奴を見かけたぞ。」

 

ウェザーが唐突に彼らの会話に割って入った。

 

「なんだと!?」

 

サーレーがそれに反応した。

 

「ああ。オレとウェザーが監房からここに向かう途中に出くわした。合流を優先させて、そいつらがどうなったのかはわからない。」

 

アナスイが会話を引き継いだ。

 

「いや、それで構わない。それでどういった奴だった?」

「ヤローの二人組だった。金髪の背の高い男が、刑務所の神父を引きずってやがった。神父の生死は不明だ。」

 

ーービンゴ!

 

メイサはその会話を聞きつけ、心の中で小躍りした。

 

「じゃあそいつらが敵なんじゃねーの?」

 

エルメェスが当然行き着く結論を述べた。

 

「たしかにその可能性は高い。だがそれでその女の疑いが晴れるわけじゃあねえ。この刑務所には、ホワイト・スネイクが仕込んだスタンド使いが大勢存在した。」

 

アナスイが懐疑的な意見を述べた。

 

「まあその通りだが、差し当たってはそいつはスタンドを持っていないだろう。」

「そんなに心配ならそう言うアンタが四六時中見張ってればいいじゃない。」

「じょ、徐倫……。」

 

恋慕する徐倫に否定的に扱われ、アナスイはへこんだ。

場の空気は、女性を許容し守ろうという方向へと流れつつあった。

 

ーーうーん、どうしようかね?見張られたらあまり目立つ行動はできないけども、、、。まあ隙が無いわけでもなさそうだし、弱者のフリして泣き落としとかも通用しそうだけど、念のために今のうちにスタンドを回収してしまう方法は何かないかしらね?

 

メイサは会話の流れに耳を傾けながら不安そうな表情をしている。

しかしその顔の裏では、どうすれば彼らを絶望に叩き落とせるかの策略を練っていた。

 

ーーうん、弟が生きてるんなら一つ面白い策略がある。このまま私がここを飛び出せば、こいつらは高確率で私の行動に対してなんらかのアクションを取るだろう。私を分散して探そうとするならば戦力の薄いところから順に仕留めて行けばいい。ここの守りが薄いようなら、真っ先に子供を血祭りに上げてこいつら全員絶望に叩き込んでやろうかね。問題は、弟と接触する手段だ。

 

メイサが思考を続けていると、会話は突然彼女の意図しない方向へと向かっていった。

突如その場で存在感の無かった女性が声を張り上げたのである。

 

「徐倫ッッッ、そこのアナスイとかいう男の言う通りだッ!アンタはもっと警戒するべきだ!そいつはあたしと同じで、どうやって他人を不幸のドン底に陥れてやろうかと四六時中考えてやがるッッッ!!!あたしも同じタイプだからそいつを見てりゃあ、わかるッッッ!そいつの表情は嘘くせえッッッ!!そいつからはドブ川の腐った臭いがプンプンするッッッ!!!そいつはあたし以上の、邪悪だッッッ!!!」

 

大声を張り上げたのは、徐倫と同房のグェスと名乗る女囚だった。

徐倫はグェスのその迫力に気圧された。

 

「グェス……。」

「徐倫、アンタのお人好しは美徳だけど、ここは言わせてもらうッッッ!世の中には悪意が溢れていて、警戒しない人間は根こそぎ剥ぎ取られるッッッ!アンタは警戒しなかったから、男に陥れられてこの刑務所に入れられたんじゃあなかったのかッッッ!」

 

グェスのその言葉には説得力があり、場の空気は一気にメイサを警戒する方に持っていかれた。

メイサはそれを覆すのは不可能だと感じて、歯噛みした。

 

「……ひどい!」

 

メイサは泣き真似をしながら、入口に張られた糸を手探りで掻き分けてエンポリオの音楽室を飛び出した。

 

「おい、待て!」

「ヤメロ!ほっときな。」

「そうは言っても……。」

 

サーレーが女性の後を追いかけようとして、それをグェスが制止した。

 

「考えてもみなよ。刑務所の他の人間がことごとく死んでんのに、あいつはまだ生き残ってるんだぜ?それだけ狡猾な奴が、なんの手立ても無いのに安全なここを飛び出すわけが無いだろう?アイツのことを心配するよりも、警戒しな!次にアイツがその姿を見せた時は、あたしたちを皆殺しにする算段がついた時だって!」

「う……。」

「ヒロイックな気分に浸ってんじゃねーよ!アンタはなにかの目的があって、わざわざ警備の厳重な刑務所に忍び込んだんだろーが!!!目的を見失ってんじゃねーよ!」

「落ち着け。……まあたしかに俺もこの女と同意見だ。相棒、エンポリオやミラションといった非戦闘員も抱えている今、自分から安全地帯を飛び出した奴を助けられるほどにゃあ、俺たちには余裕がないだろう?ここでおとなしくしてる間は特に言うことはなかったが、ここを飛び出した今となっちゃあアイツは不審者だ。」

 

ズッケェロが、声を張り上げて息を切らしたグェスを宥めながらその意見に賛同した。

 

「……。」

「見知らぬ他人を信じてえって気持ちはあるが、この刑務所には邪悪が潜んでいて、俺たちはそいつを外見で見分けられなかったから今こんなことになってるんだろう?」

「……そうだな。ズッケェロ、お前の言う通りだ。」

 

サーレーは目を瞑って、ため息を吐いた。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「うーん。私を探しに出てくるかと思ったけど、守りを固めて来たかあ。思っていたよりもシビアで、厄介だ。」

 

メイサが呟いた。

 

有事に際して明確な行動指針を持たない人間はどれだけ数が居ても脆く、隙を作り易い。

強固な意思を持って統率された集団は、寡兵でも厄介だ。

メイサは今までの経験でそう判断している。

 

今まで侵入していた集団は統率はされていてもお人好しが多く、予想外の事態が起きればとっさの判断でメイサの後を追うか、そうでなければ意見が割れて指揮に混乱をきたすだろうと、メイサはそう考えていた。

しかし予想に反して彼らは即座にメイサを見捨てる判断を下し、仲間内を守りきるという決断を下した。これはメイサにとって予想外だった。こうなると、一方的な狩りではなく互いの命のやり取りをする戦場となる可能性が出てくる。

 

「どーすんだよ、姉ちゃん。」

「そうねー。出来れば手駒が欲しいし、もう一回だけ搦め手を使ってみるわ。あなたは私が侵入して三十秒後に後を追って来てちょうだい。あとは……。」

 

メイサは床に倒れたプッチの頭を足で小突いた。

 

「うぅ……。」

「せっかくこいつの陰謀なんだから、こいつには思う存分に活躍してもらいましょ。なに呑気に寝てるのかしら。私、裏でコソコソ隠れて人を操る策士気取りの奴って大っ嫌いなのよねぇ。」

「姉ちゃん、知ってるか?それって同族嫌悪って言うんだぜ。」

 

メイサはスタンドを発動し、床に転がるエンリコ・プッチの首元を掴んで持ち上げた。

メイサのスタンドは外見がエジプトのアヌビス神に似た犬人で、手には錫杖を持っていた。

 

「アンタも操られたいの?」

「勘弁してくれ。ただの冗談だろ?」

「それにしてもアンタ、ちょっと痛め付けすぎよ。せっかく面白いおもちゃなんだからもっと大切に遊びなさい。」

「姉ちゃんのおもちゃだろ。俺のじゃねえ。それに俺は、わざわざ姉ちゃんのためにこの辺の見えない変てこりんな奴らを掃除しといてやったんだぜ。姉ちゃんは俺に少しは感謝してしかるべきじゃあねーか?」

「まあ、それもそうね。」

 

メイサのスタンドの錫杖が、プッチの腹部に突き刺さった。

 

「さて、簡単に指示を出しとくわ。中には戦闘向けでないスタンド使いもたくさんいるから、いつも通りアンタはそこから狩りなさいな。経験上、動きを見りゃあ大体わかるでしょ。子供もいるし、そこから始末すれば簡単に終わるわ。あとは生き残ったおもちゃを、私が手駒としてもらっていくわ。残った奴らには、アメリカで私たちの出所記念パーティーを大々的に開かせましょう。楽しみね。」

 

多くの大人は、守るべき子供を目の前で虐殺されてしまえば戦意を失う。メイサはそれを理解している。

強者を楽に葬るには、戦う理由を奪ってしまえば良いのである。

 

「了解。」

 

エンポリオの音楽室が、戦場と化す。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「た、助けてくださいっっっ!!!」

 

メイサは怯えた表情をつくりながら、エンポリオの音楽室に入口の糸を掻き分けて侵入した。

 

「あ、あんた……。」

 

徐倫が彼女の表情を確認して、どう対応したものか迷った。

音楽室ではつい先ほど女性を見捨てる合意がなされ、女性は敵である可能性が高いという結論が出たばかりであった。しかし徐倫には、彼女の表情は本当に怯えているようにしか見えない。

 

「待て!徐倫ッッッ!そいつに近付くな!こっちへ来い!」

 

アナスイが判断に迷った徐倫に声を張り上げた。

徐倫は糸の結界を張っていたために入口に一番近い場所にいた。徐倫は糸の結界を回収し、アナスイの言葉に反応して後ずさった。

 

「そんな……。どうして?ひどい……。」

「テメエッッッ!動くな!それ以上徐倫に近付いたら敵対行為と見なし、攻撃を開始するッッッ!」

 

音楽室の中ではサーレー、ズッケェロ、アナスイ、ウェザー、エルメェス、エートロの戦闘要員たちが緊張し、エンポリオ、ミラション、ミューミュー、グェスが隅で後ずさりをしていた。

徐倫は部屋に戻ってきたメイサに一番近い位置にいて、瞬時の判断に迷いどう行動を起こすべきか決めきれないでいた。

 

「襲われたんです!外で!見えない奴らに!私も助けてください!」

 

メイサは泣き真似をしながら徐倫に近付いていく。

 

「徐倫ッッッ!!!こっちに来い!急げぇぇぇっっっ!!!」

 

アナスイが徐倫の身の安全を考えて大声を出した。

 

「……ねえ、あんた。あんたは外で見えない奴らに襲われたって言ってたのに、なんで体から一切出血していないの?」

 

徐倫の疑問に、メイサの足が止まった。

 

「あんた見た目は血塗れで、いかにもひどい怪我をしてそうに見えるけど、実はどこも出血してない。それ全部、他人の血でしょう。」

 

メイサは外で襲われたということに現実感を出すために、己の衣服に死者の血液を塗りたくっていた。

しかし先々で彼らと戦闘になることを想定して、体力を低下させる自身の出血は控えていた。

 

「……私の血ですっっっ!!!外で襲われてっっっ!!!」

「もう一度だけ言うわ。あんたはどこも出血していない。この非常時にこれ以上嘘を付くんなら、あんたは敵だってことよッッッ!!!」

 

徐倫がメイサに宣告し、彼女のストーン・フリーが身構えた。

次の瞬間メイサの背後から犬人が現れ、徐倫のストーン・フリーへと襲いかかった。

犬人は錫杖を構え、ストーン・フリーの腹部を突きにかかった。

 

「あはははははッッッ!!!」

「徐倫ッッッ!!!」

 

ストーン・フリーの腹部の糸が解けて、空洞と化した。犬人の錫杖はストーン・フリーに当たらずに空洞を突き抜ける。

しかし徐倫の背後には、咄嗟に彼女をフォローしようとしたダイバー・ダウンが存在した。

 

「グッ!」

「あっ、馬鹿!」

「ハロー、いい夜だね。ご機嫌かい?」

「……。」

「誰だっっっ!!!」

 

同時に、いくつもの事が起こった。

アナスイのダイバー・ダウンが徐倫に襲いかかり、新たな謎の男が二人、音楽室に侵入してきた。

 

「徐倫、避けろぉぉぉぉぉッッッッ!!!」

「アナスイッッッ!」

 

犬人のスタンドは徐倫の腹部に錫杖を突き立ようとしたために、徐倫の間近にいた。徐倫は錫杖を持った犬人のスタンドを右拳で攻撃して突き放し、声をかけて後ろから攻撃してきたダイバー・ダウンの腕をストーン・フリーの左腕で防御して彼女から攻撃を逸らした。

 

音楽室に侵入してきた男たちは、一人は浅黒い肌の神父で、目が虚ろだ。もう一人は金髪高身長、楽しそうに笑っている。

 

侵入してきた金髪の方の男の目に危険な光が宿り、サーレーはそれを見逃さなかった。それは以前、サーレーがイタリアで処分した殺人鬼のラグランの目付きに少しだけ似ているとサーレーは感じたのである。

金髪の男は周囲を目だけ動かして見渡し、サーレーは駆け出した。金髪の男もエンポリオに目を留めると、駆け出した。

 

「ズッケェロは非戦闘員を守れッッッ!!!ウェザー、音楽室の天候は雨だッッッ!!フー・ファイターズがその危険な女の相手をしろ!ウェザーがアナスイを抑えて、エルメェスが神父の相手だッッッ!!!徐倫は全員の戦闘のフォローをする、つなぎ役(バランサー)だッッッ!!!」

 

状況を俯瞰して、リーダーのサーレーは即座に檄を飛ばした。今、ここは、戦場だ。

ウェザー・リポートのスタンドから雲が噴出し、戦場に雨が降り出した。

 

目の前の人間たちは敵であり、味方であるはずのアナスイは徐倫に攻撃を加えた。おそらくはあの女の能力だろう。

サーレーの上司に、カンノーロ・ムーロロという人物がいた事が幸いした。

サーレーはムーロロのウォッチタワーというスタンドから、群体のスタンドの特色と強みを学んでいる。

 

「フー・ファイターズッッッ!その女が一番危険だッッッ!お前が何が何でも抑えろッッッ!!!なりふり構わずに仕留めに行けッッッ!!!」

【ウオオオオオオオオッッッ!!!】

「はあ?なんだ、そりゃ?」

 

戦場で、同時にいくつもの事態が進行した。

 

金髪の男がスタンドを具現した。それは黒く、目も鼻もない口だけが目立つノッペリとした背の高い人型のスタンドだった。金髪の男は非戦闘員であり最も弱いと推測されるエンポリオに向かって突進し、サーレーがその進路上に割り込んだ。黒く重厚なスタンドとクラフト・ワークが拳を合わせた瞬間、周囲に重低音を撒き散らし、音楽室に火花が散った。

 

「おっ、おおっ!なんだお前?」

「くっ……!貴様ッッッ!」

 

金髪の男はその現象に面白そうな興味深そうな表情を浮かべ、一方のサーレーは金髪の男が自分が何が何でも抑えないといけない敵であることを理解した。

 

「相棒っ!」

「こいつは俺一人で抑える!各自自分の役割を忘れるなっっ!!!」

 

それは戦場で、何よりも役に立つもの。

常に死が隣にあるという緊張感が、戦場で即座にサーレーに的確な指示を出すことを可能にしていた。

 

それはミスタからの、密やかなるサーレーへの贈り物だった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

エートロの皮を被ったフー・ファイターズがメイサのスタンドの犬人に襲いかかり、犬人は錫杖を両手で回してエートロを殴打した。エートロは錫杖に上方から殴打されて床に突っ伏した。

 

「二人目、ゲットー!」

 

メイサは上機嫌に笑い、エートロが立ち上がってメイサに襲いかかった。

予想外の事態に、メイサはとっさに犬人のスタンドの錫杖を盾にして防御した。

 

「は?なんで?」

【ウオオオオオオオオッッッ!!!】

 

フー・ファイターズが人間の皮を脱ぎ捨てて、人ならざるその姿を露わにする。フー・ファイターズはメイサに雄叫びをあげて襲いかかった。戦場は、雨。フー・ファイターズに著しく有利な戦場である。

フー・ファイターズの拳を犬人は錫杖を回して防御して、フー・ファイターズが口から飛ばした水弾を瞬時の反応で首を動かして躱した。

 

「ちょっと……。あんた、何?聞いてないんですけど。」

 

メイサのスタンドは、錫杖で攻撃した相手を強制的に支配下に置くスタンドである。

攻撃を喰らった対象は、メイサの意図を汲んで、死ぬか神経が切れたり筋肉が致命的に断裂したりといった、物理的に行動が不可能になるまで強制的に従わされ続ける。意識が不能になることもない。

彼女は、最悪のスタンドの使い手だった。エンリコ・プッチは今現在、彼女のこの能力で強制的に支配下におかれている。

 

メイサは自身のスタンドを、しばしば拷問用に使用する。

彼女は自身のスタンドを使用して仲間殺しを犯させたり、自分で自身を拷問させたり、死ぬほど酷使させて放置したりといった使用法を好んでいた。非常に強力なスタンドである。

 

ただし、彼女のスタンドにも弱点は存在する。

支配下におけるのは錫杖で直接攻撃を加えた相手だけ。ゆえに彼女のスタンドにとってフー・ファイターズは天敵だった。

 

フー・ファイターズは無数の群体で、多少数操られた程度ではほとんど影響せず、ウェザーの雨の力で今もなお無数にその個体数を増やし続けている。弱点である本体も存在しない。強いて言うなら、ディスクが本体である。フー・ファイターズというスタンドは稀少性が非常に高く、状況によって戦闘力や戦場への貢献度が激変するのである。

 

「ちょっと、何よアンタ。退きなさいよ。」

 

メイサは瞬時の判断で、敵が自分にとって不得手な相手であることを理解した。

犬人が錫杖を回してフー・ファイターズの胴を横薙ぎにする。錫杖はフー・ファイターズの体の中に沈み、絡め取られ、それに手を取られた犬人にフー・ファイターズが近寄って殴打した。

 

【オオオオオアアアアッッッ!!!】

「ちっ!ウゼエウゼエウゼエッッ!!」

 

犬人は錫杖を手放して防御に回った。水を得たフー・ファイターズの拳は重く、その殴打はメイサの骨に響いた。

 

「グッっ!!!」

【私は、徐倫の役に立つっっっ!!!私は、こんな姿の私を仲間として受け入れてくれた者たちのために、戦うッッッ!!!】

 

フー・ファイターズが犬人に両の拳でラッシュを叩き込み、犬人は両手を交差させて防御に徹した。

犬人は必死にフー・ファイターズの拳の一つを弾き返し、フー・ファイターズの腹部に刺さった錫杖を手に取って抜き取った。

 

「アンタがなんなのかわかんないけど、アンタの相手はごめんだわ。」

 

メイサはフー・ファイターズが相手では分が悪いと判断して、他を攻撃して手駒に加えようと戦線を離脱しようとした。

しかし彼女の足には、戦場の中央に陣取るストーン・フリーの糸が纏わりつく。

 

「クソがああッッッ!!!」

【シャアアアアアッッッッ!!!】

 

フー・ファイターズが戦場で吠え猛った。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「ウェザー、済まねえ。」

「意識はあるのか。」

「ああ。だが体の自由がまるで効かねえ。フー・ファイターズがいなければあの女を抑え込むのは困難だっただろう。」

 

ウェザーのウェザー・リポートとアナスイのダイバー・ダウンが拳をあわせ合う。

アナスイのダイバー・ダウンは隙を見つけてウェザーのスタンドの中に潜行しようとしてくるため、ウェザーは非常に気を使う戦いを強いられていた。ウェザーはさらに、フー・ファイターズのフォローでスタンドパワーを使い、室内に雨を降らせ続けている。

 

「なるほど。攻撃した相手を支配下に置くスタンドか。確かに厄介だ。フー・ファイターズに効いてないのは、やつが微小な生物の群体だからか。」

「ウェザー、考察していないで集中しろ!」

 

ダイバー・ダウンの右腕が防御したウェザー・リポートの左腕に侵入し、ウェザー・リポートは右手でそれを弾いた。

 

「いや。俺たちはどうすれば戦局が優位に進むか考えながら戦うべきだ。」

「なぜだ?」

「お前にかけられた能力の解除条件が曖昧だ。最悪敵本体を殺さなければ解けないのなら、俺がここで行うのはお前相手の時間稼ぎだ。無理にお前を倒しに行く必要が無い。」

「だとしても!」

 

ウェザー・リポートの右拳をダイバー・ダウンが防御して、壁までたたらを踏んだダイバー・ダウンは壁に潜行してそのまま床下伝いにウェザーに襲いかかった。

 

「ホラ、集中しろ!」

「いや、大丈夫だ。」

 

ウェザーがダイバー・ダウンの動きに反応しきれずに攻撃を喰らったと思った瞬間、ウェザーの体に糸が巻き付いてウェザーの体をダイバー・ダウンの攻撃圏内から引き離した。

 

「徐倫は戦闘の天才だ。その徐倫に真っ当に師がついたのであれば、彼女は獅子として目を覚ます。」

 

ウェザーはアナスイに向けて笑った。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

エルメェス・コステロとエンリコ・プッチが相対していた。

 

「ちょっとアンタ、神父様が何やってんのさ?」

 

エルメェスは疑わしげにエンリコ・プッチを眺める。

プッチの顔に生気は無く、目も虚ろで一目で精神状態が異常だと判別できる。体のいたるところから出血し、着ているカソックは血に塗れている。

 

「アンタはここにいるってことは敵なの?それともあのアナスイって男みたいに操られてんの?」

 

エルメェスは横目でアナスイを見た。

アナスイはウェザー・リポートと戦っていて、言動はまともであるものの体の自由が奪われているということが判断ができる。ゆえにエルメェスはエンリコ・プッチも操られた善人の可能性を考慮している。何しろ相手は、外見は神父である。

エンリコ・プッチは無言のままスタンドを発現させた。

 

「エルメェスッッッ!!!そいつが私の父さんを嵌めたスタンド使いだっっっ!!!油断するなっっっ!!!」

 

徐倫がホワイト・スネイクを確認し、エルメェスに向けて徐倫の助言が室内に響いた。

プッチの背後からゆらりとホワイト・スネイクが現れ、ホワイト・スネイクとプッチはズッケェロが守る非戦闘員集団に向かって走り出した。

 

「クソがッッッ!!!テメエが黒幕かっっっ!!!喰らいやがれっっっ!!!」

 

エルメェスがホワイト・スネイクの側面から襲撃し、ホワイト・スネイクとキッスは短い時間でいくつもの拳を交わし合う。

 

「ウラ、ウラっっっ!!!」

【……。】

 

エンリコ・プッチは不気味に沈黙し、その右腕には拳が交差する間にキッスのシールが貼られていた。

 

「あたしのシールは元に戻るときに破壊を伴うッッッッ!!!」

 

エルメェスはホワイト・スネイクの二つになった右腕のシールをはがし、エンリコ・プッチの右腕はダメージを負って出血した。

 

「どうだッッッ!!!」

【……。】

 

不気味に沈黙したプッチはダメージも痛みも気に留めず、地を蹴ってキッスに肉薄した。

ホワイト・スネイクの右腕の筋肉が盛り上がり、キッスに向かって拳を振るった。

 

「あ、やべえ。」

 

ホワイト・スネイクの攻撃がなされようとした瞬間、エルメェスの頭部からディスクが排出されてエルメェスの視界を阻害した。

先の攻防でキッスはホワイト・スネイクにシールを貼り付け、ホワイト・スネイクはエルメェスの精神をディスク化していた。

 

「エルメェスッッ!!!」

 

ホワイト・スネイクの腕に糸が幾重にもなって絡まり、攻撃がそれた合間にエルメェスは己のディスクを頭部に押し込んだ。

 

「あっぶねぇぇ。チクショウ!!!」

【……。】

「エルメェス、油断しないで!」

 

エンリコ・プッチは、無言で佇んでいる。

 

 

◼️◼️◼️

 

「なんだ?お前、なんなんだ!?楽しいなあ、おい。」

「……。」

 

金髪の男とサーレーのスタンドは、戦力が拮抗していた。

男のスタンドの右腕の水平薙ぎをクラフト・ワークが左腕上腕で防ぎ、クラフト・ワークの右足のローキックを左足で男のスタンドは小揺るぎもせずに受け止める。クラフト・ワークの右拳と男のスタンドの左拳が交差し、周囲に衝撃波を撒き散らした。

 

サーレーは男の能力の概要をうっすらと理解していた。

男のスタンドはおそらくはクラフト・ワークに真っ向から相反する能力、そして実力も伯仲している。

スタンドエネルギーの消耗が激しいラニャテーラは短期決戦専用の必殺であり、消耗戦には向かない。恐らくは効き目も薄いはずだ。ゆえに発動は下手である。

拳の応酬に集中しなければ、おそらくは容易に敗北が待っている。

 

「俺と撃ち合ってまだ生きてるやつなんざ、ディオのクソヤロー以来だぜ!!!」

 

男の黒鉄のスタンドは獰猛に笑いながら地団駄を踏んだ。周囲の地面が罅割れ、音楽室は揺れた。

罅は周囲に放射状に広がっていき、サーレーの手前でぴたりと止まった。

 

「ほんっと、面白えなあ。お前のスタンド、俺のスタンドの真逆の能力みてえだな。」

 

男のスタンドとクラフト・ワークが幾度となく拳を交わし、そのたびに部屋には衝撃波と重低音が撒き散らされた。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

名前

メイサ・レイナード

スタンド

アビサル・ジョーカー

概要

錫杖を持った、犬の頭部を持つ人型のスタンド。錫杖で攻撃した相手は、深淵の女帝の威光に平伏して強制的に支配下に置かされる。彼女の自分が世界の中心であり、他者の存在は彼女を楽しませる玩具に過ぎないという思想により発現したスタンド。支配された人物は、意識を持ったまま死ぬまで彼女に従い続ける傀儡となる。拷問の用途を兼ねているため、頭部は支配しない。

 

操れる人間に上限がないため、単騎で大規模なテロを起こせる陰謀に適した史上最悪級のスタンドといえる。アヌビス神に似ているのはあくまでも外見だけであり、リコポリスの守護神とは全くの別物。もしかしたら人々から尊崇を集める存在に擬態しているのかもしれない。

 

ディオとの戦闘では、ディオが休息を取っている間に操られていたディオの部下がディオを囲んだせいで、ディオすらも苦戦するはめになった。

実は探知能力も持っており、敵意の匂いを嗅いで追跡することも可能。万能型。

 

本体は黒髪に浅黒い肌で、髪を後ろに一つに縛っている。着ているものは囚人の作業用のつなぎ。

本来の本体以外がスタンドを使用しようとすると、深淵に触れて本体の精神が崩壊する。

彼女のスタンドが水をお湯に変えるスタンドのままなら、フー・ファイターズに容易に勝利出来ていた。本来の強力なスタンドに戻したためにフー・ファイターズに苦戦しているのは、実に皮肉である。

 

名前

ヴィエラ・レイナード

スタンド

レイジ・バイブレーション

概要

顔面に口だけしかないノッペリとした黒鉄のスタンド。全身が振動しており、それに触れたものは崩壊する。能力を加減することによって、対象にミオクロニー攣縮や心室細動といったさまざまな症状を引き起こすことも可能。プッチはこの能力により、癲癇の発作を起こしていた。サーレーのクラフト・ワークの固定の能力とは真っ向から相反する。近接特化のスタンド。

 

本体は金髪高身長。着ているものはメイサと同じく囚人の作業用のつなぎ。

本来の本体以外がスタンドを使用しようとすると、本体が振動により自壊して死亡する。

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