噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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石作りの地獄 その3

「アッハハァ!!!なんだコレ、なんだコレ、なんなんだコレ?なんだ、なんでだ?なんでこんなにも愉しいんだ?」

 

ヴィエラは笑い、彼のスタンドの哄笑にエンポリオの音楽室は揺れた。

 

黒鉄のスタンドが拳を握って右腕を水平に薙いで、クラフト・ワークがそれを左腕を脇に固めて受け止めた。

固定と振動は反発し合い、拮抗したスタンドパワーは真っ向から矛盾を引き起こして衝撃を撒き散らす。黒鉄のスタンドとクラフト・ワークは、共に弾かれてたたらを踏んだ。

クラフト・ワークが左足を敵の頭部めがけて蹴り回し、黒鉄のスタンドは前頭でそれを弾き返した。弾き返された勢いのままにクラフト・ワークは逆に回転してそのまま右足で回し蹴りを放った。黒鉄のスタンドはそれをしゃがんで回避する。

黒鉄のスタンドは右の貫手をクラフト・ワークの眼球に向けて放ち、それはクラフト・ワークの左腕の甲に逸らされた。逸らされた黒鉄のスタンドの拳が幽霊の音楽室の壁に触れ、壁は幽霊であるにも関わらず罅が入り崩壊していく。

幾度も彼らの間で拳が交わされ、その度に周囲には衝撃が撒き散らされた。

 

「おっもしれえなあ。なあ、お前、名前はなんて言うんだ?」

「……サーレーだ。」

「そうか。」

 

ヴィエラ・レイナードは目の前の敵との戦いに夢中になり、最初の予定である非戦闘員の殺傷を忘れ果てている。

サーレー、ヴィエラ、共に実力の拮抗する敵に出会ったことにより、少しでも相手を上回ろうとそのことだけに集中している。相手を少しでも上回れれば、実力の拮抗している二人のいずれかは大きく勝利に近づくことが出来る。

 

二人の体は音楽室に降りしきる雨を気にもとめず、熱を帯びていく。

その動きは際限なく洗練されていった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

ーークソがッ!クソがッ!クソがッッッ!!!なんだこいつは!!なんなんだッッッ!!!私は一体何を相手にさせられているんだ!?

 

メイサ・レイナードはイラついている。

メイサの目の前には、得体の知れない不気味なスタンドが尋常ではない迫力で陣取っている。

 

「退けッッッ!!!私の邪魔をするな!!!」

【絶対に退かん!!!私は貴様をここで仕留める!!!私は、私の仲間に手出しをさせないッッッッ!!!】

 

メイサの犬人は相手の弱みを突くために、目の前の苦手なスタンドを抜けようと鮮やかにステップを踏んでフェイントをかけた。

スピードはフー・ファイターズよりも犬人の方が若干上だった。フー・ファイターズは対応しきれない。

 

ーー抜けたッッッ!!!

 

目の前の苦手な相手さえ抜ければ、ほかの人間に攻撃を加えていくらでも手駒に加えることが出来る。そうなれば戦力はひっくり返り、勝利したも同然だ。

相手の脇を抜けて勝利を確信したメイサに、信じられない出来事が起こった。

 

「……は?」

【ウシャアアアアアッッッ!!!】

 

犬人の片足が突如水溜りから現れた腕に掴まれ、メイサはそちらへと目を向ける。

水溜りから、二体目の怪物が現れた。メイサは愕然とした。

ウェザーのスタンドエネルギーの込められた雨の力を借りて増殖したフー・ファイターズの分体がメイサの目の前に陣取り、フー・ファイターズは前後二体がかりでメイサを挟撃した。

 

「なんなんだ、なんなんだテメエはッッッ!!!」

【私は徐倫の仲間だッッッ!!!私は徐倫と共にあるッッッ!!!私は徐倫とともに、未来を育むのだッッッ!!!!!!】

 

挟まれた犬人は必死に錫杖を振り回し、二人のフー・ファイターズは連携を取りながら犬人を追い詰めていく。犬人は防戦一方だった。

メイサ・レイナードの強力なスタンド、アビサル・ジョーカーにとって、フー・ファイターズは致命的なほどに天敵だった。

 

「クソがッッッ!!!オイ、クソ神父!!!チェンジだッッッ!!!」

 

メイサは、エンリコ・プッチに向けて叫んだ。

 

 

◼️◼️◼️

 

空条徐倫は、戦場の中央で冷静に戦局を俯瞰していた。

 

ーーサーレーのところは戦力が拮抗している。敵は相当やばい能力で、手出しは不可能。二人の攻撃が交差する度に周囲に衝撃を撒き散らしていることからそれは明らか。しばらくは状況は動かない可能性が高い。フー・ファイターズは相手に対して有利に戦えている。問題なし。エルメェスは神父に対して若干不利。ウェザーもアナスイに対して若干不利。私が最もフォローするべきところは、エルメェス、次いでウェザー。フー・ファイターズの戦局は安定して有利だが、敵の危険度の高さから念のために意識を逸らすべきではない。サーレーのところは、サーレーが敗北した時は私たちの敗走を視野に入れないといけなくなる。あのスタンドは恐らく、サーレー以外のスタンドでは相手取れない。

 

ホワイト・スネイクが犬人のフォローに走り、ストーン・フリーはホワイト・スネイクの進路上に割り込んだ。ストーン・フリーがホワイト・スネイクに対応している間に、後ろからエルメェスのキッスに蹴り潰される。

 

ーーそれにしても……成る程。サーレーの指示が的確だったと言わざるを得ない。あの二人組みのスタンドは非常に強力で、両方とも単騎で戦況をひっくり返す能力を持っている。グェスが私に警戒心を呼び起こしてくれたし、フー・ファイターズが居なければ、私たちはこの戦場で敵の相手にもならなかった可能性すらある。日頃の鍛錬とイメージトレーニングを疎かにするな、エルメェスとフー・ファイターズが私を強者たらしめる、か。戦いには、相性がある。多様な仲間がいれば、いかなる事態にも対応可能だということか。あまりにも当たり前のことだが、実際にそれを体感して痛感させられた……。

 

雨を吸って強度を増した徐倫の糸が束になり、アナスイの首を締め上げた。

 

「おい、徐倫!やり過ぎだ。」

「あっ、ごめん。」

 

アナスイの顔面は鬱血し、ウェザーから徐倫に文句が飛んだ。

戦姫が雨が降る音楽室で、美しく舞っていた。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「いっでえな、クソッッ!!!」

【……。】

 

キッスの右拳がホワイト・スネイクの腹部に襲いかかり、ホワイト・スネイクは右手のひらでそれをいなした。ホワイト・スネイクはそのままキッスの懐に入り、キッスの左肘がホワイト・スネイクの顔面を殴打すると同時にホワイト・スネイクの左膝がキッスの腹部に刺さる。

エルメェスは後退した。

 

「なんなんだ、テメエは。クソッッ!!!」

 

エンリコ・プッチは痛みを感じている。意識も存在する。

しかし彼は、メイサの犬人に操られて血に塗れながら強制的に前に出させられている。

 

痛みを感じてもダメージを負ってもそれを無視して前に出させられるホワイト・スネイクに、エルメェスは甚だ不利な戦いを強いられていた。しかし、だからと言って他の敵とは戦えない。他に彼女が戦えるのは操られたアナスイくらいだ。そのアナスイは、戦場に雨を降らせて力を使用し続けているウェザーが相手をしている。それ以外の敵は、目の前のホワイト・スネイク以上に厄介な敵しかいない。

 

ホワイト・スネイクが地を這う蛇のごとくキッスに迫り、キッスは右足で蹴りを放った。ホワイト・スネイクはそれをスルスルと躱し、キッスに肉薄する。キッスの右拳がホワイト・スネイクの胸を強打した。ホワイト・スネイクは口から血を吐きながらそれに耐え、キッスに向かって頭突きをかました。エルメェスとエンリコ・プッチは同時に額から出血する。

 

「ラアアッッッ!!!」

【……。】

 

頭突きの衝撃から立ち直ったキッスの拳がホワイト・スネイクを連打し、ホワイト・スネイクは両手の平でそれを捌いた。

 

「クソッッ、またコレか。」

 

エルメェスの頭部からディスクが形を成して排出されようとして、キッスは視界を阻害される。エルメェスは慌てて自分の頭部にディスクを押し込んだ。

その時、戦場にメイサの怒号が響いた。

 

「クソがッッッ!!!オイ、クソ神父!!!チェンジだッッッ!!!」

 

ホワイト・スネイクはその声に反応し、エルメェスとの戦闘の離脱を試みる。

 

「しまった!!!待てぇッッッ!!!」

 

エルメェスも戦況を理解している。今現在マトモな戦いになっているのは、サーレーとフー・ファイターズが恐ろしく強力な敵を抑えているからである。

ホワイト・スネイクに離脱され、フー・ファイターズを二体一で陥されてしまったらこの戦場では彼女たちには敗北の未来しか待っていない。エルメェスは大慌てで離れていくホワイト・スネイクの背を追った。

 

ーークソ!間に合わねえッッッ!!!

 

その時ホワイト・スネイクの足に糸が絡まり付き、ホワイト・スネイクがそれに足を取られた隙にストーン・フリーがホワイト・スネイクの正面に回り込んだ。

 

「助かったぜ、徐倫!」

「お安い御用よ。」

 

ストーン・フリーがつなぎで対応しているホワイト・スネイクをキッスは後ろから蹴り倒し、そのまま馬乗りになって連打を加えた。

 

「オラッ、どうだッッッ!!!どうだッッッ!!!」

【……。】

 

エンリコ・プッチは馬乗りされて殴打されているにもかかわらず、反応しない。

ホワイト・スネイクはダメージを無視して強引に腕を振り回し、エルメェスを突き飛ばして立ち上がり体勢を立て直した。

 

「なんなんだ、テメエはッッッ!!!」

 

エンリコ・プッチは沈黙を破らない。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

ウェザー・リポートは絶え間なく音楽室に雨を降らせ続け、著しくスタンドのエネルギーを消耗している。

ウェザーはアナスイとの戦いで、遅れを取っていた。

 

「んでよー、なんか現状を打開する策は思い付いたのか?」

「……いいや。」

 

ダイバー・ダウンがウェザーの腹部に手を置いて、体内に潜行する。ウェザーの臓腑を掻き混ぜようとした。

ウェザーは体表に積乱雲を作り出し、流れる電流がアナスイを硬直させた。その隙にウェザーは退避する。

 

「サーレーとあの男の戦いは現状、介入不可能だ。フー・ファイターズが敵を打倒するか、神父が倒れない限りは戦況は動かないだろう。」

「それをどうにかするって話だろ?」

「現状のままであれば、状況はさほど悪くない。予想外のことが起これば、戦況は簡単にひっくり返る。」

「……まあそうだろうな。」

 

最大の問題は敵方の犬人、黒鉄のスタンド共に単体で戦場を蹂躙できるポテンシャルを秘めた強力なスタンドだということだった。例えばヴィエラがサーレーとの戦いに飽きてしまうようなことがあれば、戦場は容易く彼らにとって最悪の方向へと向かっていく。フー・ファイターズが倒れてしまっても同様だ。

 

ウェザー・リポートが肩でダイバー・ダウンに体当たりし、ダイバー・ダウンは後ろに倒れてそのまま床に潜行した。

下からの攻撃を加えようとするダイバー・ダウンをウェザーは無視して、本体のアナスイに迫っていく。本体に迫るウェザーの右足を床に潜むダイバー・ダウンが右手で掴み、左手で攻撃を加えた。ウェザー・リポートはそれを拳で弾き返した。

 

「それにしても……徐倫。」

 

アナスイは目の端で徐倫の行動を追っていた。

徐倫は必要なときに、必要な戦場に、的確なフォローを行なっていた。

 

「本当に戦闘の天才だったんだな。」

「ああ。」

 

ウェザー・リポートとダイバー・ダウンが拳を合わせ、そのときにメイサの声が響いた。

 

「何をチンタラやってるんだッッッ!!!お前はこっちに来て、こいつの相手をしろッッッ!!!」

「グッ!!!」

 

メイサの命令が飛び、アナスイの意思を無視してダイバー・ダウンは強制的にメイサのフォローに向かおうとした。

ダイバー・ダウンが床を潜行し、アナスイがウェザーの脇を抜け、ウェザーはそれを捉え損なった。

 

「チッ!!!」

「問題ない。」

 

舌打ちしたウェザーに徐倫は声をかけた。

アナスイの首にストーン・フリーの幾重にも束ねられた糸が絡まり、アナスイの動きが止まった。アナスイの血流は止まり、顔面は鬱血した。

 

「グェッ!!!」

「おい、徐倫!やり過ぎだ。」

「あっ、ごめん。」

 

ウェザーはアナスイに追いつき、戦いは再開された。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

ーー一番近いのがサーレーと金髪。あそこは互いに夢中だ。今のところは問題ねえ。次がアナスイとウェザー。そしてエルメェスと神父。一番遠いのが女とフー・ファイターズ。一番タチの悪そうな女の戦場が一番遠いのは、助かっている。

 

ズッケェロは戦場を見渡しながら、敵の戦意がいつ向いても対応できるように警戒している。

最初の金髪の動きと女の言動から、奴らが隙があれば非戦闘員を狙ってくるであろうことは明らかだった。ズッケェロの後ろにはエンポリオ、ミラション、ミューミュー、グェスがいる。ズッケェロは彼らを何が何でも守らないといけない。四人は、恐怖で震えていた。

 

「落ち着け。大丈夫だ。」

 

ズッケェロは慈愛に満ちた表情で、エンポリオの頭を撫でた。

 

「……徐倫お姉ちゃん。」

「大丈夫だ。徐倫は強え。ウェザーも戦士だ。フー・ファイターズも形振り構わず必死で戦ってる。エルメェスは……ちょっと危ねえな。」

 

ズッケェロは片目を眇めて戦況を分析した。

ズッケェロも実は、シャボンを飛ばして戦場をフォローしようとしていた。しかしそれは操られたアナスイには効かず、サーレーの相手の黒いスタンドも体表でシャボンを弾き返した。それ以上遠くの戦場は、非戦闘員を置いてここを離れないとシャボンが届かない。

ズッケェロの役目は非戦闘員の守護であり、よほど戦況が悪くならない限りは任されたここを放置する気は無い。

 

「教えてくれ!どうしてこんなことになってるんだ!なぜこの監獄がこんな酷いことになった!?」

 

ミューミューが震えながらズッケェロに問いかけた。

ミューミューは、自身の守る監獄が凄惨な地獄へと変貌したことに衝撃を隠せなかった。

 

「さあなあ。黒幕の考えてることなんざ、わからねえ。なんで黒幕がこんなことをしたかなんて、俺にゃあわかんねーよ。……だがきっと、一人が勝手に思い込んで独断で行動すると、訳のわかんねえことになるんじゃねーか。知らねーけど。」

「……そうか。」

「ま、これに懲りたら二度と訳わかんねえ計画に加担することはやめるこったな。」

「……そうだな。」

 

ズッケェロはわざと軽く言い、それはミューミューの精神の負担を軽くした。

ミューミューはズッケェロに、感謝した。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「愉しい、愉し過ぎる。なあ?サーレー。」

「……俺はお前にさっさと倒れて欲しいんだがな。」

 

サーレーとヴィエラの実力は現状全くの互角で、二人は目の前の相手以外に何も目に入らない。

彼らは共に、集中を切らしてしまった方が敗北することを理解しているのである。

 

黒鉄のスタンドの喉元を狙う左拳をクラフト・ワークの右手のひらがいなして、クラフト・ワークの左肘が黒鉄のスタンドの顔面を襲う。黒鉄のスタンドはそれを上体を逸らして躱し、そのまま後ろに手をついて体を捻って蹴りを放った。黒鉄の爪先がクラフト・ワークの顎を襲った。クラフト・ワークは首を動かしてそれを躱し、爪先はクラフト・ワークの頬を僅かに掠めていった。そのまま後ろに飛んだ黒鉄のスタンドは勢いをつけてクラフト・ワークに迫り来る。クラフト・ワークも前に出て、二匹の鋼鉄の獣は中間地点で衝突した。

衝撃と重低音がエンポリオの音楽室に鳴り響く。二匹の獣は尋常ではない衝撃に弾かれて、共に後退した。

 

「初めてだぜえ。こんなに手応えのある獲物はよお。」

「……チッ、マジでウゼエ。」

 

サーレーとヴィエラの瞳には共に漆黒の殺意が灯され、サーレーの守護者の殺意とヴィエラの破滅の殺意は互いに眼前の獣を喰い破ろうと荒ぶって揺らいだ。

二人の殺意は円環になって解けない二匹の蛇のようにネットリと絡みつき、互いを滅ぼそうと際限なく二人を高みへと導いていく。集中したサーレー、ヴィエラ共に時間が引き延ばされるような感覚を味わい、相手の攻撃をどんどん遅く感じていった。

石作りの地獄を平然と踏破する二匹の鋼鉄の獣は、互いに相手よりも優れていることを証明しようと黒い殺意に塗れた。殺意は攻撃に宿り、拳が交わるたびにそれは周囲に弾け散る。

 

「ああ、愉しい。愉しいなあ。愛しているぜぇ、サーレー。」

 

ヴィエラのテンションが振り切れ、ヴィエラはそのときに感じたことを思うままに口にした。

サーレーはその言葉に背筋が寒くなり、反射的にお尻を押さえた。

 

「オイオイ、せっかくこんなにも愉しいんだから、真面目にやってくれよ。」

「グッ……。テメエが気持ち悪いことを言うからだろうがッッッ!!!」

 

反射で尻を押さえたクラフト・ワークの顔面を、黒鉄の右拳が強打した。クラフト・ワークはとっさに顔を捻ってダメージを軽減するも、拳がかすめて鼻血を出してよろめいた。

サーレーはクラフト・ワークで出血を止め、クラフト・ワークは歯を食いしばって黒鉄のスタンドの顔面を殴り返した。ヴィエラの奥歯が折れ、ヴィエラは口から折れた歯を吐き捨てた。

 

黒鉄のスタンドがサーレーの心臓を狙って肘を打ち出し、クラフト・ワークはそれに対応して腕を交差して防御した。黒鉄のスタンドは続いて歯茎を剥き出しにしてクラフト・ワークの頭部に噛みかかり、クラフト・ワークは黒鉄のスタンドの腹部を掌底で弾いて距離をとった。

両者は交差するたびに弾かれ、宙に互いの反発するエネルギーが拡散する。

 

「すっげえなあ。何処までも粘るか。お前、本当に大好きだよ。」

「オイ、ヴィエラッッッ!!!お前、何チンタラ遊んでんだッッッ!!!さっさと非戦闘員を殺せッッッ!!!」

「アァ?」

 

詰まらない相手ならそれでもいい。弱点を突いてさっさと楽に殺してやろう。

だが、ヴィエラが漆黒の殺意で殺したいのは目の前の極上の獲物(サーレー)だ。断じて戦意を喪失した詰まらないサーレーではない。

メイサの苛立ちが音楽室に響き、ヴィエラはそれを無視した。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

ーークソがッッッ!!!ヴィエラの馬鹿、何をチンタラやってやがるッッッ!!!

 

音楽室の中央には空条徐倫が陣取っており、上手に戦局を分断しメイサが仲間と合流することを防いでいる。

メイサ・レイナードは二人のフー・ファイターズの挟撃にあい、戦況が彼女にとって著しく悪くなっている最大の原因に毒づいた。

 

ヴィエラである。

ヴィエラのスタンドは強靭で、目の前の強力なスタンドなんぞ無視をして非戦闘員を先に抹殺すれば、戦況はひっくり返るはずだった。守るべき弱い者を先に殺されてしまえば、強者の戦意は喪失するか、そうでなくともひどく動揺して隙ができる。そういうものであり、ヴィエラのスタンド、レイジ・バイブレーションにはそれが可能だった。しかし彼はそれをしない。

敵に僅かでも隙ができれば、彼女のスタンドの強力な能力はあっという間に戦場の趨勢を支配できる。

 

ーーアイツ、遊んでいやがるッッッ!!!

 

メイサの犬人の振り回す腕に糸が絡み付き、犬人は錫杖を取り落とした。動きを阻害された隙にフー・ファイターズの右拳がメイサの顔面を襲った。犬人は必死に片手で錫杖を確保し、もう片方の手で自身の顔面を防御した。しかしフー・ファイターズの逆の拳が犬人の腹部に突き刺さる。犬人の体はくの字に折れ曲がり、メイサは口から涎を垂れ流した。

 

「グウッッ!オイ、ヴィエラ!!!お前何チンタラ遊んでんだッッッ!!!さっさと非戦闘員を殺せッッッ!!!」

 

メイサは苛立ち、メイサの叫びが音楽室に木霊する。

 

「アァ?」

 

ーーアイツッッッ!!!

 

【なにをよそ見をしている?貴様にはそれほどの余裕があるのかッッッ!!!!】

 

フー・ファイターズが吠えて、その肩が隆起した。挟撃するフー・ファイターズは四つの手で犬人にラッシュを叩き込み、危険を察知した犬人は錫杖を捨てて両腕で全力で防御に回った。錫杖はストーン・フリーの糸に絡め取られていく。

 

ーー最悪だッッッ!あいつ、戦闘を本気で愉しんでいやがるッッッ!!!クソッッ、武器を持っていかれた!

 

メイサもヴィエラも、共に快楽主義者である。彼らは目の前の快楽を最大限堪能するためであれば、その他の一切合切を無視をする。なにも眼中に入らない。ゆえに破綻者なのである。

 

普通の人間であれば、どんな人間であっても多少は他者への配慮や最低限守られるべきルールといったものを気にするはずである。たとえ世間的に悪であるとされるディオの部下であっても、主人のディオの意向には逆らわないという暗黙のルールが存在するのである。

しかし彼らにはそれが一切無い。自分の快楽のためであれば、他人が苦痛を感じようが絶望しようが知ったことでは無い。それが彼らの根本の行動原理であり、ゆえに彼らは全ての社会と相容れない。制御不能な力とは、誰にとっても厄種以外の何物でもないのである。

それはもしかしたら、ブチャラティに拾われなかったフーゴの未来の姿だったのかも知れない。

 

メイサは拷問狂だ。メイサにとって他人の苦痛は至高の娯楽である。

メイサは愉しいから他人を拷問し、その行為は他人には奇怪で無意味に映る。そして彼女は拷問に夢中で、弟にそれを邪魔されたら激怒するし、彼の言葉を無視する。

 

ゆえにメイサは、ヴィエラの表情に即座に理解した。ヴィエラは戦闘狂だ。戦闘に夢中になっている。彼女が何を言おうと、もう耳を傾けないだろう。

 

それはメイサどころか、ヴィエラ本人さえも今まで知らなかった彼の一面である。

ヴィエラは常人とかけ離れた精神をしていて、無聊を慰めるために姉の拷問に付き合っていた。他人を蹂躙するときだけ、彼はほんの少しだけ人生の退屈を紛らわせていたのである。

メイサとヴィエラの間に肉親の情は存在しない。彼らは互いに都合がいいから二人一組で行動しているだけであり、愉しみを邪魔するのであれば互いに喰い殺しあう間柄へと変貌する。ヴィエラは退屈しのぎに姉に付き合っていただけだった。

 

そして、ヴィエラが今まで戦ってきた相手は時を止める超越したスタンドを持つディオ・ブランドーという圧倒的格上か、彼の強力なスタンドで簡単に蹂躙できる圧倒的格下かのいずれかだけであった。自分が全力の殺意を向けても死なない初めての相手に出会い、ヴィエラの精神は歓喜に満ち溢れていた。こうなってしまえばもうメイサの言葉はヴィエラには届かない。

 

メイサは自分もそうであるがために、それを即座に理解した。

利のみで繋がる間柄は、利によって切り捨てられるのが自明の理であった。

 

ーークソが!!!この私が、敗走を想定しながら戦わないといけないとはッッッ!!!

 

メイサは歯嚙みをして、犬人は嗅覚で敵意を探知する。

必死にフー・ファイターズの攻撃を捌きながら、メイサは状況の打開策を探った。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「なあ、神父様よぉ。アンタ、なんなんだ?アンタほんとは、アナスイみてえに喋れるんだろう?なんでだんまりなんだ?アンタが黒幕なのか?……オイ、なんか言えよ。」

【……。】

 

エルメェスは額の雨を拭い、二人は距離を少しとって相手の出方を伺っている。

エンリコ・プッチは沈黙し続け、プッチにエルメェスの疑問が飛んだ。

 

エンリコ・プッチは喋らない。プッチは気が狂いそうなほどの痛みと疲労を感じながら、それでも事態が自身の有利に運ぶチャンスが来ることを虎視眈眈と狙っている。喋る体力も惜しい。万が一何某かのチャンスが訪れれば、その時は何が何でも行動を起こさないといけない。

プッチにとって、ディオに指し示された天国は全てだった。

 

「ま、喋らないってんなら、仕留めさせてもらうけどなッッッ!!!」

 

エルメェスがプッチに近寄り、ホワイト・スネイクがキッスを迎撃する。

キッスの拳が握られ、右腕の筋肉が隆起した。

 

「喰らえッッッ!!!」

 

キッスの右拳をホワイト・スネイクは左肘で弾き、ホワイト・スネイクは右腕で逆襲を試みる。

 

「チイッッ!!!ウラッッッ!」

 

キッスはそれを左手を開いて受け止め、キッスはホワイト・スネイクに頭突きを仕返した。

エルメェス、プッチ共々頭部からの出血が一層酷くなる。それは音楽室に降りしきる雨で洗い流され、エルメェスは血を失い僅かに立ちくらみを感じた。

 

ーークソ、このバカ女……。血を流し過ぎれば、万が一にもチャンスが来ても、体が動かなくなる、、、。

 

エンリコ・プッチは、ぼやける意識と地獄の痛みを必死に無視して内心で舌打ちした。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「どう思う?」

「戦局は危うい。どこも必死で、僅かな手違いで優劣は簡単にひっくり返る。精神衛生に悪い。こんな綱渡りの戦場は、できれば今後一切経験したく無い。」

 

ウェザーの質問に、アナスイは仏頂面で答えた。

 

「同感だ。だが相手も必死だし、少なくとも一方的にやられる展開では無い。むしろ僅かといえどこちら側に有利な戦場であることに感謝しよう。」

「まあ、そう考えるしか無いか。」

 

ウェザー・リポートとダイバー・ダウンはがっぷり四つに組み合い、ウェザーとアナスイは内心で溜め息を吐いた。

しかし、それを外面に出すわけにはいかない。最も厳しい戦場のはずのサーレーは集中して顔色ひとつ変えない。他の戦場も簡単なところは無く、誰も泣き言を発しない。彼らが溜め息を吐くわけにはいかない。

 

「で、お前はこの先の戦況をどう考えている?」

「今は拮抗していて、このまま行けば綱渡りでもこちら側が勝利を収める可能性が高い。まあサーレーのところだけは本人になんとかしてもらう他はなさそうだが。だがそれとは別に、、、。」

「……何か気掛かりなことが?」

「外には見えない得体の知れない化け物がウロついていただろう。今はまだそいつらにここがバレていないが、万が一そいつらが此処に大挙して押し寄せたら、戦局が混沌として読めなくなる。」

「……オイ、やめろよ。そんな不吉なことを言うの。」

 

アナスイの背筋を冷たい汗が伝った。或いはそれは音楽室に降りしきる雨の雫だったかも知れない。

ウェザーの言葉はあまりにも不吉で、できれば現状のまま推移して勝利を収めたいというアナスイの希望的観測に影を落とした。

 

「しかし、現状から目を背けるべきでは無い。あらゆる事態を想定しておけば、いかなる事態にも早期の対応が出来るだろう?」

「まあ、そうだがよぉ。」

 

ダイバー・ダウンは細かく動いてウェザーを幻惑し、相手の隙を突いて攻撃を加えようとする。

しかしそれを、戦場の中央に陣取る戦姫は見逃さない。

 

「よく考えたらよォ、これって徐倫の体の一部なんだよな。」

「……ヤメロ、気持ち悪い。」

 

アナスイがダイバー・ダウンの腕に巻き付いた糸に少しだけ興奮し、それにウェザーがドン引きした。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

世界は、単純な善悪二元論では廻っていない。戦場には、常に不確定要素が付き纏う。

この州立グリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所という戦場には、目的を異にする四つの勢力が存在する。

サーレーたち、プッチ、レイナード姉弟、そして四つめの勢力。

陰謀阻止を目論む者、陰謀遂行を目的とする者、目の前の快楽を追い求める二人の破綻者たち、そして……。

 

【闇より、、、生まれし、、、リンプ・ビズキット、、、見つけた、、、見つけたぞッッッ!!!ホワイト・スネイクッッッ!!!】

 

戦場に、亡者の主が姿を現した。

戦場の霧が戦局を覆っていく。

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