噛ませ犬のクラフトワーク 作:刺身798円
戦闘が終結した後、音楽室の人員は非戦闘員を除きそのことごとくが疲弊しきっていた。
戦闘を行っていたメンツは床に座り込み、動こうとしない。
その中でも特に、互角の敵と長時間戦い続けたサーレー、危険過ぎる敵を前に絶対不通の意志を持って臨んだフー・ファイターズ、フー・ファイターズのサポートのために長時間スタンドを使用し続けたウェザー・リポートの三人の疲労は著しく、戦闘が終結した瞬間気絶するように床に倒れ込んでしまった。
徐倫とエルメェスとアナスイの負担も、軽視できない。可能であれば至急危険な陰謀を遂行せんとするエンリコ・プッチの後を追いたかったが、それは休息を挟まねば不可能だという当然の結論に落ち着いた。
そして、すでに外の石作りの地獄は本体のスポーツ・マックスの亡者を仕留めていたために終焉を迎えていたが、彼らにそれを知る余地はない。徐倫は念のために入り口から見えない何者かが侵入してきた時のために、音楽室の入り口に糸の結界を張っていた。
「じゃあ、連絡は任せたぞ。」
「ああ。」
敵の目的らしきものがようやく判明した。
それはヴィエラ・レイナードという信用のできない人間から齎されたものではあったが、得た情報は上に報告を行うべきだ。パッショーネの情報部はサーレーたちよりも賢く、分析能力が高く、サーレーたちが気付かなかったことや知らない情報を提供してくれるかもしれない。
サーレーは床に倒れながらも意識を繋ぎとめ、ズッケェロにそれだけなんとか指示を出して気絶するように眠りについた。
「ご苦労さん。」
ズッケェロは相棒を労い、パッショーネのカンノーロ・ムーロロへと電話をかけた。
携帯電話は音を立てて鳴り続ける。
「……?」
おかしい。いつまで経っても電話が繋がらない。しかしコール音は鳴っている。相棒はすでに寝息を立てている。
ズッケェロは仕方無しに、代わりにシーラ・Eにパッショーネへの言伝を頼むことにした。
『何の用?アンタたち、今どこにいるの?』
「ああ、済まねえ。お前に伝言を頼みてえんだ。俺たちはムーロロの旦那に任務の定期連絡をするはずだったんだが、なぜか電話が通じねえんだ。だからお前に言伝を頼みてえ。」
『その前に、アンタたち今どこにいるの?』
「ああ、俺たちは今アメリカのグリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所だよ。」
『アメリカの刑務所ッッッ!アンタたち、なんでそんなところにッッッ!!!』
シーラ・Eの素っ頓狂な声に、ズッケェロは己の失態を悟った。明け方であることと緊張で疲弊していて、ズッケェロは頭が回っていなかった。
二人に任された任務はパッショーネの特級極秘任務。その内容は親衛隊のシーラ・Eにも知らされていない。
「……済まねえ。俺のミスだ。これは極秘任務だ。絶対に口外するな。」
『わかったわ。用件を言ってちょうだい。』
「こっちの任務の敵の目的らしきものの情報が入ってきた。黒幕は、現生人類を消滅させて進化した新人類を生み出すのが目的らしい。」
『……ちょっと、アンタ。頭大丈夫?』
これが普通の対応だ。シーラ・Eは二人に任される任務が、危険で恐ろしいものである可能性が高いことは重々理解している。理解した上で、この反応だ。
普通の人間はそんなことが可能だとは考えないし、そんなことを言い出す人間がいたら正気を疑うだろう。
「ああ……それがこっちで起きてることが、想像以上にきなくせえんだ。まあさすがにそれはマユツバで、その情報は敵から仕入れたものなんだが、上に検討だけはするようにお願いしてもらえねえか?」
『きなくさい?一体何が起こってるの?』
シーラ・Eはズッケェロの言葉選びに不穏なものを感じとった。
「……刑務所の人間がほとんど全て死亡した。一夜にして、およそ千三百人に及ぶ人間が失踪したことになる。」
『ちょっと、それ!!!異常事態じゃない!!!一体何が起こったの!!!』
事態が想定よりも遥かに大事になっていることに、シーラ・Eは驚きのあまり声を荒げた。
「……それが、俺たちにも何が起こったのかよくわからねえんだ。黒幕の正体は判明したし、その目的も敵から聞いたものだが聞き出せた。そしてさっきまで、恐ろしい奴らと戦ってたんだ。」
『アンタたち、大丈夫なの?』
「ああ。人員はことごとく疲弊しているが、仲間内には死人は出てねえ。俺たちも早くここから逃げねえと、アメリカの国家に重要参考人として捕縛される可能性が高い。だが、疲れているやつが多過ぎてしばらくは動けねえんだ。今が夜間で助かってるぜ。」
『夜間……ああ。』
シーラ・Eはズッケェロのその言葉で、時差の存在に思い当たった。
「まあとにかく恐ろしい奴らと戦って、なんだかわからない見えない敵が襲って来て、危うく全滅するところだった。サーレーの判断が早くて助かったぜ。お前はムーロロに俺たちの伝言を伝えてくれ。敵の黒幕の名はエンリコ・プッチ。その目的は、信憑性は薄いが人類の根絶だと。」
『わかったわ。』
「それにしても……。」
ズッケェロは憂鬱そうに声を出した。
『どうしたの?』
「重用されるのって、ツレーのな。俺たちはずっと組織でいいポストに就きたかったが、それに伴ってこんなシンドイ任務を任されるんなら、一生チンピラでいいよ。」
『……さすがにそんな任務はほとんど無いわ、多分。私もそこそこ危険な任務はこなしたことがあるけど、そこまで酷いのは任された覚えがない。麻薬チームの処刑くらいかしら。アメリカの刑務所に忍び込めなんてむちゃくちゃね。アンタたち、ついてなかったわね。』
「ま、頑張るしかねーか。」
ズッケェロはカラ元気を出し、シーラ・Eは二人に同情した。
◼️◼️◼️
「くぁーあ。」
明け方の四時半、サーレーはミラションに体を揺すられて起こされた。
体はまだ重く、外は暗い。ウェザーとフー・ファイターズも体が重かった。しかし、動かねばならない。早期に動かないと、アメリカの政府に事態が伝わってしまう。サーレーは重い体に鞭を打った。
「それで、これからどう動くの?」
比較的動ける徐倫が、目を覚ましたサーレーに問いかけた。
「とりあえずは二手に分かれる。俺たちの存在を消すために刑務所の監視カメラの記録を消す役目と、金髪の男が言っていた黒幕の目的のために必要な何かを刑務所内で探す役目だ。」
「あの見えない奴らは大丈夫?」
「ああ……。」
サーレーはそれを思い出して頭が痛くなった。あれの対処も考えないといけない。
スポーツ・マックスの亡者の消滅と共に亡者たちは全て消滅しているが、サーレーたちはそれをまだ知らなかった。
「仕方ない。とりあえず俺が一人で外に出て、見えない奴がどのくらいいるか確認してくるよ。お前たちはいつでも戦闘可能な用意をしておいてくれ。」
【オッケー、あたしたちに任せといて。】
サーレーの言葉に、フー・ファイターズが元気よく答えた。正体むき出しのままで。
……お前その怪物の姿で女性の喋り方をするな。
「ねえ、ごめん、エフ・エフ。その素の姿でエートロの喋り方するの勘弁してくれないかしら。なんか違和感が半端無いわ。」
【えー、なんで?いいじゃん。】
「それよりもフー・ファイターズ。お前、パッショーネに来ねえか?お前の戦いっぷり、気に入ったぜ。」
「テメー、ズッケェロ!私の仲間のエフ・エフを、おかしな組織に勧誘してんじゃねぇッッ!!!」
「パッショーネはおかしな組織じゃねーぜ。」
「お前ら、少しは緊張感を持てッッッ!!!」
サーレーの感じたことを、アナスイが言葉にしてくれた。
ありがとうアナスイ。
「まあ待てよ。人員の処遇は今のうちにどうするか決めといた方がいい話だぜ。」
ズッケェロはそう喋ると、エンポリオたち非戦闘員の方に目を向けた。
「ここから先も戦いになる。コイツらをどこか安全な場所に移しておくべきだろう。あ、相棒は外の確認を頼む。こっちの話はこっちで決めておくからよぉ。」
「……私たちに関しては、すでにどうするか決めている。」
「アン?」
ミューミューがズッケェロに告げた。
「アンタたちが敵を追うにしても、生き延びたアンタたちにアメリカから追っ手がかからないようにする人間が必要だ。それにここにはまだ二人、女囚がいる。」
ミューミューはグェスとミラションに目を向けた。
ミューミューは続けて喋った。
「私はこのグリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所の、看守長だッッッ!!!囚人の身の安全を守り、政府に対して起こったことを説明する義務があるッッッ!!!私たちは政府に出頭して、一連の事件の黒幕が誰かをアメリカに説明する!!!」
「なるほど……グェス、アンタもそれでいいの?」
「あたしがアンタたちについていっても足手まといになるだけだしね。それならせっかく拾った命が保証されるところにいた方がまだマシ。」
「……怖い……お外……怖い……。独房に……引き篭りたい……。」
グェスはミューミューに付き従う判断を下し、非力なミラションは戦場がトラウマになっていた。
「私たちも囚人だけど?」
徐倫がミューミューに笑いかけた。
「……いい。行け。お前らは、行って刑務所をこんなことにしたエンリコ・プッチのクソヤローを仕留めてくれ。」
「……わかったわ。ありがとう。」
「それはそれでいいとしてよぉ。エンポリオはどうするよ。先にイタリアに送るか?」
ズッケェロが会話に割り込んだ。
「ふざけんなッッッ!!!大切なエンポリオを変な組織にくれてやるわけねーだろーが!!!エンポリオは私が、育てるッッッ!!!」
「いやいや、お前が引き取って、エンポリオの戸籍の問題を一体どうすんだ?お前の親父おふくろにも言い訳が必要になるだろう?」
「だったらっっっ!!!せめてスピードワゴン財団で預かるッッッ!!!」
「……お前、財団の直接の関係者でもねーのに勝手にそんな約束していいんか?」
ズッケェロは徐倫に呆れた。
「構わないっっ!!!私が、クソ親父に頭を地面に擦り付けて頼み込んでやるよッッッ!!!」
「……そーかい。」
「……外にはもう何も居ないみたいだ。」
その時、音楽室の外の確認を行っていたサーレーが帰還した。
「……いない?」
「ああ。とりあえず所の内部をある程度探して見て回ったが、特に襲われるようなことはなかった。」
「じゃあ予定通り?」
「ああ。いくつかのチームに分かれて行動を起こす。優先的に所内の探索を行い、その次は所外の探索だ。同時に監視カメラの映像を消すチームも必要となる。念のために二人以上で組んで行動する。何かあったら大声で叫べ。猶予は一時間。それを過ぎたら外に刑務所の悲惨な内情が漏れる可能性が劇的に高くなる。その時間が、俺たちのここからの逃亡開始時間だ。」
「了解した。ならば戦力のない私たちが、監視カメラの記録を消す係を担当しよう。」
ミューミューが志願した。
「……いいのか?」
「ああ。私は看守だから、所内の構造を熟知している。それの一番の適任だ。ただし戦闘力がないから、念のために一名護衛をくれ。」
「了解だ。アナスイ、そっちに回れ。」
「ちっ、仕方ねーな。」
アナスイがミューミューの護衛に回った。
「戦力のバランスを考えて、俺はズッケェロと所内を見て回る。ズッケェロのスタンドはおそらくあの見えない奴らにはほぼ無力だ。エルメェスは徐倫と組んで、ウェザーは相性のいいフー・ファイターズと組むのがいいだろう。エンポリオたちは悪いが、ミューミューについて行ってくれ。本来ならばそこは護衛を増やして然るべきなんだが、済まねえが俺たちには時間も余裕もねえ。」
「うん、大丈夫だよ。」
エンポリオは、気丈に頷いた。
強い少年だ。
サーレーは感心した。
「油断はするなよ。取り敢えずは敵が見当たらなかったってだけで、見えない奴らがすでにいないとは限らない。」
「わかってるわ。」
彼らは迅速に、手分けをして所内の探索を行った。
◼️◼️◼️
「なあ、相棒よぉ。」
探索を行うズッケェロが、悲しそうな目をしてサーレーに話しかけた。サーレーにはズッケェロは所内の探索を行う最中、ずっと何かを考え込んでいるように思えた。
彼らは所の男性用監房の探索を行っていた。
「どうした、ズッケェロ?」
「……俺がさ、ドナテロを拾ったのは、ここフロリダなんだ。」
サーレーはその言葉に、ズッケェロの言いたい事を大まかに理解した。
「……ああ。」
「……アイツはフロリダで強盗を行う寸前だった。アイツは、ここにいたかも知れねえんだよ。」
「……俺たちには時間がない。」
サーレーはズッケェロの言葉を耳にしながら、個人の監房の探索を行った。
「……わかってるよ。でもよ、どうしても頭から離れねえんだッッッ!!!アイツはバカでしょうもねえ奴だが、こんな風に無惨に殺されるほど悪い奴だとも思えねえんだッッッ。アイツは、ここにいたかも知れねえんだよッッッ!!!」
サーレーは探索の手を止めて、ズッケェロと目を合わせた。
「……そうだな。」
「だからさ、せめて俺たちだけでも死んだ奴らのために祈りを捧げねえか?」
「……ハア。仕方ねえな。時間がないから三十秒だけだ。死者の冥福のために、二人で三十秒だけ黙祷を行おう。」
サーレーは優しい眼差しで、ズッケェロを見ていた。彼ら二人は神聖なる処刑人だ。
彼らの祈りは、きっと、いつか、誰かに通じる。
祈りは虚像には通じない。祈りが通じるのは……きっと人だけだ。
◼️◼️◼️
「みんなッッッ!なんか見つけたぞッッッ!!!」
その声を上げたのは、刑務所一階の廊下を探索していたエルメェスだった。
その声に反応して、近くにいた徐倫とウェザーとフー・ファイターズが彼女に近寄ってきた。
【あー、あー。】
「なんだこれ……緑色の赤ん坊?」
ウェザーが疑問の声を上げた。
それは緑色をした赤ん坊だった。
【じゃああたしがあの二人組を呼んでくるね。】
「だから、エフ・エフ……その喋り方は勘弁してって……。」
フー・ファイターズは小走りで、サーレーたちを呼びに行った。ウェザーは念のためにフー・ファイターズの後を追った。
「それにしても、コレ……。」
即座に徐倫がその異変に気付き、エルメェスも連鎖的にそれに気付いた。
徐倫が赤ん坊に近づくと、徐倫の体が縮んだのである。
「……スタンド?」
「どうする、徐倫?」
「そうね。とりあえずはあの二人を待ちましょ。」
やがてウェザーとフー・ファイターズがサーレーたちを連れて戻ってきた。
「どうした、徐倫。何か見つけたんだって?」
「ええ、この子。」
サーレーとズッケェロも緑色の赤ん坊を確認した。
「これは……。」
サーレーが赤ん坊に近付き、その体は縮んでいった。どれだけ進んでもサーレーの体が小さくなるだけで、赤ん坊には永遠に辿り着かない。
「近付くと縮むのよ。私たちも触れなかった……。」
「どうする、徐倫。」
「うん?ならこれでどうだ?」
ズッケェロはそう呟くと、刑務所をどこかへと進んで行く。サーレーは慌ててその後を追った。
ズッケェロは刑務所の中庭に出ると、生えていた草を捩って猫じゃらしのようなものを作り上げた。
「……それでどうするんだ?」
「猫で学んだんだがよぉ。近付けば逃げる相手は、向こうから近付くように仕向ければいいんだよ。」
ズッケェロはそう答えると、赤ん坊の目の前で作り上げたものを左右に振った。
「ホレ、ホレ。」
【あー。】
「……反応してる。」
目の前で左右に動かされる草に、赤ん坊はそれを追いかけて左右に手を動かした。
やがて赤ん坊は警戒心を解き、それをズッケェロは抱きかかえた。
「ホイ、相棒。コイツ、どうするよ?」
「一先ずは俺が預かろう。引き続き、所内の探索を行う。その後は外だ。探索が終わった後に、そのあとどうするか決める。」
「了解。」
ズッケェロはサーレーに赤ん坊を手渡し、引き続き彼らは探索を再開した。
◼️◼️◼️
「……よぉ。元気そうで何よりだ。」
「……お前は。」
探索を続けた結果、外で辛うじて生きている者が見つかったとの報告がサーレーに上げられた。
サーレーは急ぎ、その人物の身元の確認へと向かった。
その人物は建物の影で下半身を失い、息も絶え絶えで横たわっていた。その傷口からは植物が生えている。
それはサーレーと徐倫が戦った囚人、ラング・ラングラーだった。
「……馬鹿げていたよ。おかしな……計画なんぞに……乗るんじゃなかった。ホワイト・スネイクは……何てことをしやがるんだ……。」
「喋るな!死ぬぞ!!!」
「……無駄だよ。こんなんなって……助かるわけねーだろーが。もう痛みもねーし……意識も消えそうだ。」
サーレーだって、本当はラング・ラングラーがもうどうにもならない事を理解していた。
「……何か言い残すことはあるか?」
「……死にたく……ない。」
「徐倫、あいつの手を握ってやってくれないか?」
「ええ。」
徐倫は頷いてひざまずき、死に行くラング・ラングラーの手を握った。
「……せめて、お前が来世で幸せになれる事を祈ってるよ。」
「……ありがとう。」
サーレーは来世など信じていない。
サーレーはラング・ラングラーのために嘘をつき、やがてラング・ラングラーは息を引き取った。
彼らはラング・ラングラーの冥福のために黙祷を捧げた。
◼️◼️◼️
「これからの方針を伝える。」
【あー。】
サーレーが集まった人員に言葉を告げた。その肩には緑色の赤ん坊が乗ってサーレーの髪を引っ張っている。
サーレーたちはその後も探索を行ったが、刑務所から他には何も見つからずにタイムリミットを迎えていた。
「まずは非戦闘員だ。ミューミュー、ミラション、グェスはアメリカ政府に出頭する。一連の首謀者はエンリコ・プッチという神父だと報告する。エンポリオは彼らが出頭する道中で、スピードワゴン財団に身柄を預ける。」
サーレーたちはすでに財団に連絡を入れて、エンポリオの身柄の確保を依頼していた。
「そして、俺たちだ。敵の目的は、この緑色の赤ん坊である可能性が高い。赤ん坊がこちら側にいる以上、恐らくは敵はこちらを襲撃する必要があるはずだ。俺たちは常に周囲の警戒をしながら、敵を探索し、敵が襲ってきたら撃退する。アメリカ政府が動くようなら、間違えて彼らと敵対しないようにすることも考えておく必要がある。」
「了解した。」
ウェザーがそれに答えた。
「神父は酷い怪我を負っていた。すでに死んでいる可能性もあるが、目的の危険性から考えて楽観視はするべきではないだろう。生きていたとしてもそう遠くまでは行っていない可能性が高い。一般人が出血した人間を確認したら、普通だったら救急車を呼ぶだろう。そうなっていないのなら、どこかに隠れ潜んでいる可能性が高い。近場の後ろ暗い場所をメインに捜索を行う。」
「わかったわ。」
徐倫がそれに答え、彼らは刑務所を出発しようとした。
その時、アナスイがサーレーに耳打ちをした。
「……なあ、オレは徐倫と結婚を望んでいる。オレはお前たちに協力したから、お前たちもオレに協力しろ。」
「……お前は本来は受刑者だろう。そういうのは禊が終わってからにしろ。」
「……禊?」
「お前は刑務所の罪人だ。罪をまず禊ぐのが先決だ。それが終わったのなら幾らでも協力してやる。」
「……本当か?オレを祝福してくれるのか?」
アナスイはダメでもともとで言っただけであって、サーレーの答えは彼の予想外だった。
「お前の犯した罪は知らんが、まずはイタリアでお前は犯した罪を禊いだと社会に認められることだ。それさえ終わりゃあ友人として協力するし、幾らでもお前を祝福してやるよ。」
その時、サーレーの携帯電話が鳴った。
「ちょっとスマン。シーラ・E……ああ、組織の人間からだ。」
サーレーは電話の通話ボタンに指をかけた。
「どうした。」
『大変なことになったわ!!!アンタたち、急いでイタリアに帰って来なさいッッッ!!!』
「……何があった?」
『ムーロロが……ムーロロがやられたのッッッ!!!』
「バカな……あの、カンノーロ・ムーロロが……?やられた?」
サーレーには、それはとても信じられなかった。やられた?どういうことだ?まさか……?
カンノーロ・ムーロロは、賢くて強力なスタンド使いのはずだ。
事態は、それを収束させようとした者たちの思惑とは裏腹に進行していた。
ジョルノにはすでにその情報は入っていて、シーラ・Eを本来その件に関わらせるつもりはなかった。アメリカに派遣した二人組みに関しても、ジョルノはどうするか思案中だったのである。
ジョルノは責任ある組織の長として、組織内部の無駄な死人を減らすことを画策していた。
しかし、ズッケェロが誤ってシーラ・Eに連絡を入れてしまったために、それらが水泡と帰していた。
シーラ・Eは独自に捜索を行い、ネアポリスの裏路地でムーロロの遺体を見つけてしまっていたのだ。
「スマン、徐倫。事情が変わった。」
サーレーが緊張した面持ちで徐倫に話しかけた。
「……何があったの?」
「イタリアの俺たちの組織に危機が訪れている可能性が高い。俺とズッケェロは、このままイタリアに帰ることになる。済まない。」
サーレーはうつむいて、徐倫に告げた。
「……サーレー、顔をあげて。私はアンタたちに感謝してる。私だってもう小娘じゃあない。後は私たちに任せといて。」
「ありがとう、徐倫。」
「こちらこそ、ありがとうございました、先生。」
サーレーと徐倫は握手をかわした。
「なんだ、何があったんだ、相棒?」
ズッケェロは緊張してサーレーに問いかけた。
「異常事態だ。詳しくは、帰りの機内で話す。戻ってから戦闘になる可能性が高いから、可能な限り機内で体を休めておけ。」
【あー。】
「あ、そう言えば赤ん坊はどうするの?」
徐倫がサーレーに問いかけた。
「……コイツも俺たちがイタリアに連れて行く。敵の目的がコイツなら、黒幕と引き離してしまう方がいい。」
「そんな……その子も財団に預けた方が……。」
「いや、このガキは俺が連れて行くよ。正体がわからない以上、財団に預けるのは得策じゃない。財団を信用してないわけじゃあないが、真っ当な組織である財団ではどうやってもこのガキが研究対象になるのは避けられないだろう。裏社会ならばコイツでも、受け入れられる。表で祝福できない屍から生まれた子供ならば、裏でこの子を祝福しよう。」
「……。」
「……俺は万年金欠のチンピラで、モテないからな。どうせ結婚できないのなら、この親のいないガキを育てるのも悪かあねえ。」
サーレーは明るく笑った。
本来であれば、生後八日未満の新生児は搭乗させてはいけない。
しかし今は非常時で、対象は普通の赤ん坊ではない。サーレーは決まりごとに目を瞑った。
「……わかったわ。じゃあね。」
「ああ。」
サーレーとズッケェロは徐倫たちに別れを告げた。
◼️◼️◼️
時は少し遡る。
臨時の暗殺チームコンビ、グイード・ミスタとカンノーロ・ムーロロはネアポリスの警戒を行なっていた。
ローマ支部防衛チームのヴェロッティがやられて、続いてネアポリス支部防衛チームのセルツィオもやられた。
二人とも、ジョルノに忠誠を誓う探知タイプのスタンド使いだった。敵を探し出せる探知タイプのスタンドは有用性が高く、彼らはパッショーネでも貴重な存在だった。
ミスタとムーロロはそれらの事件に対して、事件が起きた付近の巡回を増やすことでしか解決の糸口を見出せなかった。
そして、彼らはネアポリスの路地裏で回転木馬に乗った悪魔と鉢合わせてしまう。
ミスタは拳銃を構えた。ミスタは緊張して、汗をかいている。
「……久しぶりだな、グイード・ミスタ。元パッショーネの下っ端よ。キサマも随分と偉くなったものだ。」
「ディアボロッッッ!!!お前がなぜ今ここにいるッッッ!!!」
「なぜ……なぜか。疑問は自分で解き明かすべきだ。」
ディアボロは上を向いて不敵に笑った。
ミスタは小声でムーロロに指示を出した。ムーロロは黙りこくっている。
「奴のスタンドの弱点は、持続力だ。俺が致命の弾丸を撃ち込むから、奴がそれに対処するためにスタンドを使用した直後にお前がトランプでトドメを刺せッッッ!!!」
ミスタが言葉を発するや否や、ミスタの拳銃が弾丸を発射した。
ミスタが発砲すると同時に、ミスタとディアボロにとって予想外のことが起こった。
「…ッッッ?」
「なぜ、なぜだ?ムーロロッッッ!!!」
カンノーロ・ムーロロのウォッチタワーはディアボロを襲わず、その多くがミスタに張り付いた。ミスタは叫びも虚しく複数のトランプに運ばれ、どこへともなく去って行く。
そしてそれと同時に、ディアボロを守護する回転木馬は消滅していった。
一拍おいて、ディアボロはそれら全ての理由を理解した。
「キ……サマッッッ!!!」
ディアボロはカンノーロ・ムーロロを十分に警戒したつもりで、まだムーロロという人間の恐ろしさを十分に理解しきっていなかった。
ウォッチタワーという強力なスタンドが恐ろしいのではない。ウォッチタワーという強力なスタンドを、カンノーロ・ムーロロという判断に優れた有能な人物が運用しているのが恐ろしいのだ。
「なぜだッッッ!!!なぜ貴様はそこまでジョルノ・ジョバァーナに尽くす!!!!」
その逆に、カンノーロ・ムーロロはディアボロという人間をよく理解していた。
ディアボロは用心深く、万全の状態でなければ自ら動いたりしない。ディアボロが姿を見せたということは、彼にはミスタとムーロロを始末する算段がついたということである。ならば相手の思惑に乗っても、最悪の事態は防げない。
ムーロロは相手の思惑通りにことが進むことを避けるために、ミスタを逃がすことと得体の知れない回転木馬を始末することを優先した。回転木馬は射程はあまり長くないらしく、本体は幸運にも近くに潜んでいた。スタンドが見えて、なおかつ隠れ潜むようにしている人間を見つけ出せばいい。ムーロロは有能な情報屋だが、稀代の暗殺者でもある。およそ三十枚のトランプがミスタを逃がし、残りの二十枚が暗殺を請け負っていた。知能の高いムーロロは一瞬で、その判断を下したのである。
「アンタ、一度ジョジョに敗北しときながらまだわかんねえのか。バカな奴だ。」
ムーロロの憐れみの眼差しがディアボロを射抜いた。
「……なんだと!?」
ディアボロは怪訝な表情を浮かべた。
「俺はジョジョのパッショーネに所属して、理解したよ。社会には、愛が必要だ。」
「キサマ、何を言っているんだッッッ!!!」
「アンタが今ここで、コソコソとせざるを得ない理由だよ。パッショーネにゃあ優秀な人材が揃っていて、それを正しく運用していればアンタは今頃誰からも尊敬される裏社会の至高の帝王だったってのにな。今じゃあコソコソ隠れてイタリアに害を為す、ただの害虫だ。悲しいもんだな。」
ムーロロは、空を仰いだ。
ネアポリスの空は曇っていて、灰色だ。空気は湿っている。
「……ッッッッ!!!」
ムーロロは、穏やかな口調でディアボロに告げている。裏路地にはポツポツと雨が降り出していた。
「俺もアンタも社会に愛され祝福されて、この世に生まれ落ちた。愛には愛で返すべきだった。にも関わらず、アンタは自分だけを愛して、イタリアを一切愛さなかった。それどころか、麻薬をばら撒き社会を害するようなマネをし続けた。だからアンタはイタリアの社会に嫌われて、弾かれたんだ。アンタがジョジョに負けたのは必然だったんだよ。」
「ッッッ!!!」
「きっと俺も、イタリアの社会に嫌われて弾かれる寸前だった。そんなバカな俺でもジョジョは拾って、辛抱強く育てて大切に使ってくれた。アンタもコソコソと隠れて慎ましやかに生きてりゃあ、俺たちも探し出してまで始末しようとはしなかったってのに、本当に救いようのねえ奴だ。」
「……キサマ、命が惜しくないのかッッッ!!!」
「俺は先代のパッショーネの処刑人だ。すでに後進は育っている。アンタが粗末に扱って腐らせたおままごとの暗殺チームなんかじゃあねえ。生を知り、死を知り、社会を識る本物の社会の守護者がな。」
ムーロロは、ニヒルに笑った。
誇り高き先代処刑人の心は、すでにイタリアの社会に捧げられている。
当初の標的である片割れのミスタは取り逃がし、守りの要の回転木馬は消滅した。
暗殺チームは、ディアボロにとってどうしようもなく鬼門だった。それも当然だ。暗殺チームの真の役割は社会の守護者であり、ディアボロは社会に害をなす者なのだから。
今この場で完全敗北しているのは、ディアボロだった。
「キサマァァァァァッッッ!!!」
人間の大切なものには、序列が付けられている。
ムーロロのこの場での上位の序列は、ミスタの命と社会を害そうとする得体の知れないスタンドの始末で占められてしまっている。残念ながら、ムーロロの命はその下だ。
ディアボロは、激昂した。
ネアポリスの裏路地に血は流れ、トランプは風に吹かれて消え去っていく。
こうしてイタリアの平穏を守護する聖なる監視塔は倒壊した。
遺体のそばでは、持ち主の居なくなった携帯電話が鳴り続けていた。
◼️◼️◼️
名前
ラング・ラングラー
概要
亡者に襲われた後、ディオの骨に触れてしまった。それらに抵抗して生き残るために必死で自身に能力を使用するも、明け方と共に死亡した。
名前
カンノーロ・ムーロロ
概要
ミスタを救い敵を打破するために、その命を捧げた。
パッショーネのジョルノの腹心中の腹心で、ジョジョを他の誰よりも尊敬し、敬愛している。
名前
ディアボロ
概要
帰ってこれたのには、秘密がある。
名前
緑色の赤ん坊
スタンド
グリーン・グリーン・グラス・オブ・ホーム
概要
猫と同じやり方でズッケェロに拾われた。