噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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何でも屋とオアシス

「特に異変が起こってるだとか、交通規制が行われているなんてことはないようだ。イタリアで戦闘が起こっているにしろ、まだ暗闘の域を出ないのだろう。」

 

機内でサーレーが新聞に目を通しながら、ズッケェロに告げた。

彼らはフロリダから空路を乗り継ぎ、ナポリ・カポディキーノ国際空港へと向かう最中であった。フロリダからネアポリスまでは飛行機でも長時間かかり、疲弊しきっていたサーレーの体力も機内で熟睡してある程度は回復していた。

 

「しかしまさか、ムーロロのダンナがやられるとは……。」

「俺だって信じられねぇよ。あのムーロロが……。」

 

ズッケェロは悲痛な面持ちをした。

サーレーにもその気持ちはよくわかる。サーレーもムーロロほど用心深く、抜け目がない男がやられるなんて露ほども考えていなかった。

ムーロロは彼らの友人であり、上司でもあった。

 

「で、どうすんだよ。」

「そうだな。まずは起こっていることの情報を得るのが最優先だ。コイツをどっかに預けて、ボスの下に向かう。」

【あー。】

 

サーレーは機内で、足の上に乗せた緑の赤ん坊を撫でた。

赤ん坊は長時間搭乗させているが栄養が植物と一緒らしく、道中で植物に与える栄養を与えれば特に変調をきたすようなことはなかった。

客室乗務員や周囲の客はその外容を不気味がってはいるものの、特に何か言ってくるようなことはなかった。

 

「おっ、もうすぐ到着だぜ。」

「ああ。」

 

実は、サーレーは一つミスを犯している。

ディアボロは暗殺チームの二人を警戒しており、彼らの不在を知ってイタリアに急襲してきていた。ゆえに、空港は暗殺チームの帰路としてディアボロが最も警戒していた地点だった。サーレーたちは、違う空港に降り立ってから陸路でネアポリスに向かうのがベストだったのである。

空港を出た外の街路の陰には、二つの人影が存在した。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「ターゲットだ。間違いねえ。」

 

(ヘイ)はヨーロッパで何でも屋を営む、一匹狼だった。

彼は写真に写った二人組の確認を行う。

 

茶色い髪に東洋人風の彫りの浅い顔立ち、それらを隠すようにニットを目深に被っている。

黒というのは通り名であり、本名ではない。汚いことを請け負うという意味合いから、黒という通称を自虐で名乗っていた。

黒はオランダ人の父と中国人の母を持つハーフであり、母方の祖国の中国の水が合わずにヨーロッパで何でも屋を営んでいた。

 

何でも屋を銘打ってはいるが、本当になんでもやるわけではない。殺人や誘拐などの人道に悖る行為は御法度だ。危険が過ぎるのである。だいたい恐喝、脅迫、窃盗、情報の売買、裏の物資の流通経路の斡旋あたりを生業としている。

別に後ろ暗いことが好きでこの仕事をしているわけではない。効率よく楽に稼げる仕事を突き詰めていたら、いつのまにかこの職についていただけだ。

 

殺人などの行為は、本気で怒らせてしまう。誰を、ではない。国家や社会といった強大な存在を、だ。

一匹狼の黒がそういった巨大な存在を怒らせて本気にさせてしまえば、長生きすることは不可能である。黒が今生きてお目溢しをされているのは、社会に他にもっと優先する対象があるからである。

黒は分を弁えていた。

 

「うあっ、うあっ、うおおおおっっっ!」

「またか、つくづく妙なのを拾っちまったもんだぜ。」

 

黒は一匹狼だった。それはつい最近までの話である。

今では、先日拾った連れと二人でチームを組んでいる。その男もスタンドが使えて、そこそこ使い道のありそうな男だったのだ。

男は黒に詰め寄り、鼻息を荒くした。何が言いたいのかはだいたいわかっている。

黒は懐に入れた小瓶から角砂糖を取り出した。

 

「仕方ねえな。ほら、一個だけだぜ。」

「うあっっ、うああっっ!!!」

 

黒の連れは首を振った。どうやら一個では足りないらしい。

……この男、なぜか主食が角砂糖のようなのだが、意味がわからない。糖尿で早死にするんじゃなかろうか?

黒は拾った連れの奇妙な言動に頭を痛めていた。

 

「……しょうがねえな。三個やるからそのかわりしっかり仕事しろよ。ほら、行くぞ。」

「あう、うああっっ。」

 

連れは嬉しそうな顔をして、首を縦に振った。

その男は、かつてパッショーネに所属していたセッコという名の男だった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「戦闘の方は、どうだ?」

 

サーレーは相棒に確認をした。

 

「まあ本調子とは言えねえが、危機にいつまでも人任せでサボってるわけにも行かねえだろ?第一、お前も本調子じゃねえだろう?」

【あー。】

 

ズッケェロはそう答えた。

二人は今現在空港の建物を出て、タクシーで目的地に向かうところであった。目的地とは、ボスであるジョルノのいるネアポリスの図書館だ。

 

「それにしてもずっと飛行機に揺られっぱなしで、体が固くなっちまった。」

 

ズッケェロが伸びをして、空港の壁に手をついた。

 

「まあそれは仕方ないが、我慢しろ。さっさと向かうぞ。」

「アレ……オイ!」

「オイ、バカやってる暇はないぞ?一体何やってるんだ?」

「それがよ……体が勝手に動くんだよ。」

 

ズッケェロが唐突に二人の向かう方向とは逆に歩きだし、それに気付いたサーレーがズッケェロに手を伸ばした。

ズッケェロが手をついた空港の壁には、矢印が描かれていた。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「かかった。」

「なあ、黒。俺は何すりゃあいいんだ?」

「お前の仕事は先に指示しておいただろうが。もう忘れたのか?」

 

黒は相棒であるセッコの記憶力の悪さに呆れた。

黒の横に青と白の縞模様をした瘦せぎすでノッポなスタンドが浮かび上がった。

黒のスタンド、トラフィック・レギュレーション。その能力は、建物の壁や地面などに道路交通の標識を浮かび上がらせ、触れた対象に強制的にそれを遵守させるというものであった。能力は標識に触れた人間にさわった人間にも感染する。

黒はスタンドで一方通行の標識を空港の壁に浮かび上がらせ、標的の片割れであるマリオ・ズッケェロがそれに触れた。残りの標的のサーレーもズッケェロに触れて感染したのを確認していた。

 

「俺は誰をやればいいんだ?」

「誰もやらねえよ。お前の仕事は万が一戦闘に突入した際に、俺のサポートをすることだといっただろうが。」

 

敵は二人組みで、依頼者からは敵の足止めというオーダーをもらっている。黒は分の悪い戦いをするつもりはないし、依頼者の指示と黒の理想が一致していたために戦闘を行うつもりはさらさらなかった。黒のスタンドの右手の平の上に赤丸の中に人間が描かれた標識が浮かび上がった。それは、歩行者通行止めの標識だ。

 

「ホラ、これで依頼完了だ。」

 

サーレーとズッケェロは一方向に歩き続け、やがて建物の中へと侵入した。それは、空港に存在する頑丈な飛行機の格納庫だ。黒は入り口のシャッターをスイッチをいじって閉じると、歩行者通行止めの標識を入り口に貼り付けた。これで出口から脱出することは不可能だ。

 

「これであとは見張っているだけで依頼完了だ。」

 

依頼者から前金をもらい、空港の人間はすでに買収してある。パッショーネの依頼だと告げれば、空港の人間は快く協力してくれた。

 

それにしても……黒は依頼に違和感を感じていた。

パッショーネは強大な組織で、依頼があれば黒は請負わざるを得ない。逆らえる相手ではない。

しかし、その強大なパッショーネがなぜたったの二人を足止めするためにわざわざ黒に依頼する必要があるのか?

 

「……ま、気にする必要はねえか。」

 

久々の依頼だったが、依頼主は間違いなくパッショーネの親衛隊の人間だった。ならばあとは黒は依頼をこなすだけだ。

 

「なあ、黒。俺はビデオカメラで奴らの撮影をしておかなくていいのか?」

「……なんでそんな必要があるんだ?」

 

黒は、相棒にしたセッコという名の男の珍妙な言動に呆れていた。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「うおおおおおおッッッ!!!」

「お、おい、相棒。どうするよ?」

「どうするっつったって、体が勝手に意図しない方へ動くんだよ。」

【あー。】

 

サーレーとズッケェロはパニクっていた。緑色の赤ん坊はサーレーの肩で楽しそうに笑っている。

タクシー乗り場へ向かおうという二人の意図に反し、足は勝手にあらぬ方角へと向かっていった。

 

黒のスタンドは標識を遵守させるものであり、一方行にしか進めないだけで止まることは可能なのだが、パニクる二人にはそれが思い付かなかった。とはいえ、たとえ止まっても再び歩き出せば同じ方向にしか進めないわけで、どちらにしろ足止めはされてしまう。

黒の目的が二人の打倒であれば二人にもやりようがあったが、足止めであるために二人はそれに対して効果的な対応が出来なかった。

 

「おい、あの建物に向かってるぜ。」

「どうやらそうみたいだな。警戒しろ。あの建物の中に敵が待ち伏せている可能性は、高い。」

「……ああ。」

 

サーレーが真剣な表情でズッケェロに告げた。

二人の足は勝手に空港内の機体格納庫へと向かっていく。敵の目的が足止めであることを知らないサーレーは、必然的に格納庫で敵が待ち伏せていることを想定した。ズッケェロもそれに同意する。

 

「ここは……。」

「おい、動けるぜ。」

「ああ。」

 

黒の能力にはいくつかのの制限があった。その一つは、一度に守らせることが可能な標識は一つであるということ。ゆえに、二人が格納庫に侵入してその入り口に黒が歩行者通行止めの標識を貼ったあとは二人は自然と体の自由を取り戻した。

 

「んでどうするよ?」

 

ズッケェロがサーレーに問いかけた。

 

「決まっている。敵なら打倒して、さっさとボスの下に向かう!出て来い!貴様がそこにいるのは、わかっているッッッ!!!」

 

サーレーは格納庫の誰もいない暗がりを指差して、ビシッと決め台詞を放った。

 

 

 

 

◼️◼️◼️

 

黒は二人が侵入した格納庫を見ながら、考え事をしていた。

 

ーーうーん、やっぱり違和感は拭えねえな。パッショーネは多分ボスが変わったはずだ。以前はパッショーネからチョコチョコ依頼があったが、ボスが変わってからは俺に仕事が来ることはめっきりなくなった。んで久々に仕事が来たと思ったら、大金を払って見るからにチンピラ二人の足止めだ。アイツらそんなに危険な奴らなのか?それにボスが変わったということは、パッショーネの親衛隊の人員に変更があった可能性も否めねえ。だが依頼主の金払いはキッチリしていた。

 

黒はヨーロッパの情報屋でもある。耳聡く、ヨーロッパで起こる物事の大半は彼の耳に入ってくる。頭の回転も早く、パッショーネの代替わりにしても確信に近い予測をしていた。

 

以前のパッショーネから黒に依頼が入る際、その依頼主は大まかに二通りだった。

一人は、情報部のカンノーロ・ムーロロ。もう一人は、親衛隊のヴィネガー・ドッピオ。

巨大な組織の一枚岩での運営は難しく、以前のその二人はそれぞれ思い思いに時に対立するような形で黒に依頼を行なっていた。黒は時に板挟みになりながらも、どちらからも敵視されずどちらからも使い勝手のいい駒に徹して上手くパッショーネと付き合っていた。

 

それがある時期を境に、黒にパッショーネからの依頼が一切来なくなる。

それはジョルノ・ジョバァーナがパッショーネのボスとして姿を現した後であり、その時期を境にパッショーネの情報は黒に一切入ってこなくなった。黒はそれを、姿を現したジョルノというボスがパッショーネを強固に一枚岩で運営しているのだと、そう理解した。

 

パッショーネは黒にとって上得意様だったが、他にもそれなりの数の顧客がいた。黒はパッショーネの代替わりのことは知らぬ存ぜぬで通し、それらを忘れつつあったタイミングで、パッショーネの親衛隊のヴィネガー・ドッピオから黒に足止めの依頼が舞い込んできた。

 

ーーま、今回も知らぬ存ぜぬで通すのが無難かね。世の中の裏側の深奥なんざ、知ったところで何の得もしねえ。せいぜい本当にヤバイ奴らに敵視されるのがオチだ。

 

黒は幾度も修羅場を潜り抜けている。幾度も悪鬼、魍魎と言えるようなスタンド使いと出くわしていた。

しかしそんな彼にも恐ろしいという感情は当然存在する。当たり前だ。恐怖が無ければ彼は今日まで生きてない。

 

その中でも、特に恐ろしかった記憶が黒の頭を過ぎった。スペインからの来訪者だ。

メロディオと名乗る一見どこにでもいそうなその女は、黒を恐慌のどん底に陥れた。

 

『こんにちはー。ヨーロッパで有名な何でも屋さん。』

 

パッショーネの代替わりという極めて危険な話題を聞き出そうとしたその女に対して黒が警告をしようとした瞬間、黒のスタンドはその能力の一切が無効化された。その時初めて、黒は女の敵意が強烈に自身に向いていることに気が付いた。パッショーネの代替わりの話題はただの挨拶であり、彼女の真の目的は以前のパッショーネに麻薬の密売ルートを斡旋していた黒への警告だった。

 

『……あなたが斡旋した麻薬密売ルートのせいで、何人死んだかわかっているでしょう?スペインだけでも、何も罪のない一般人が少なく見積もっても年間四桁は犠牲になっている。それは死んだ人間だけの数、知らなかったとは言わせない。……やっぱり殺そうかしら。』

 

その後のことは思い出したくも無い。情報屋の黒も噂だけは耳にしていたが、実際にそれの実物を目の当たりにして愕然とする他なかった。その女は、ヨーロッパ社会の裏側で有名な都市伝説となっている存在であった。噂だけが一人歩きし、実態を知る者は誰もいない。皆恐怖のあまり、口を噤んでその存在を忘却の彼方へと追いやるのだ。

あれは黒に分相応という言葉を強烈に植え付ける出来事だった。黒は年下の女に泣いて許しを乞う羽目になった。

 

その女の目は、深淵よりもなお昏かった。

 

「おい、黒。いいのか?奴らが窓から逃げ出したぜ?」

「ハア?」

 

黒は思考から戻り、慌てて格納庫の方へと目をやった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「……どうやら、誰も居ないようだな。」

「……そうだな。」

【キャッキャッ。】

 

サーレーとズッケェロの間には、微妙に恥ずかしい空気が漂っていた。思春期のような、触れるべきでは無いような、ティッシュで包んでそっとしておくべきなような、なんとも言えない空気だ。

サーレーが格納庫の暗がりに向かって見栄を切って、ズッケェロがサーレーの斜め後ろで臨戦のポーズをとった。……そして、暗がりには誰も居なかった。二人は恥ずかしくて目を合わせられない。緑色の赤ん坊だけが、サーレーの肩に乗って嬉しそうに笑っていた。

 

「……んで、どうすんだ?」

「いつまでもこうしては居られない。敵が襲ってきたら返り討ちにする。それまではさっさとボスの下に向かうぞ。」

「……赤ん坊はどうするよ?」

 

ズッケェロが指摘した。それは、サーレーにも頭痛の種だった。

サーレーは赤ん坊をイタリア在住のパッショーネの非戦闘員に一時的に預けるつもりであり、その前に空港からいきなり敵が襲ってくることを想定していなかったのだ。

 

「……とりあえず、襲われたら適宜対応するしか無い。」

「……まあ、そうなるわな。」

 

ズッケェロもため息を吐いた。そうと決まればいつまでもここでチンタラしてるわけにはいかない。

ズッケェロは建物の出口に手をかけた。

 

「……開かねーな。」

「……マジか。閉じ込めるのが目的だったってことか?」

 

出口は格納庫ゆえにシャッターであり、二人が建物内に侵入した際に降ろされていたことを音で理解していた。

しかし二人は今の今まで格納庫内に敵がいることを警戒していたため、それをすっかり失念していた。

 

「となると……。」

 

サーレーは辺りをぐるりと見回した。

格納庫内には何も置かれておらず、壁は分厚いコンクリート造りになっている。

 

「あそこしかねえか。」

 

サーレーは格納庫の上方に付いている天窓に目をやった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

黒が天窓を警戒していなかったのには理由がある。

天窓の位置は高く格納庫内の踏み台に使えそうな物資は外に出していたし、窓の大きさは人が出入りできるほどには大きくなかったのである。

しかし、クラフト・ワークが壁を固定しながら登り、ソフト・マシーンが厚みを無くして二人はそこから脱出してしまった。

 

「おい、奴らはどこいった!」

「建物の屋根の上にいるぜ。何かを探しているみたいに見えるな。」

 

セッコが格納庫を指差した。

 

「何かって、俺たちだよ!ひとまず隠れるぞッッ!!!」

 

黒はセッコの手を引いて、建物の影に隠れた。

 

「なあ、黒。俺たちわざわざ隠れなくてもアイツらを倒しちまえばいいんじゃねえか?」

 

これだからバカは嫌いなんだッッッ!

黒は心中で舌打ちした。依頼主が足止めを指定して依頼するからには、それ相応の理由があるはずである。

黒が今までヨーロッパで何でも屋でやっていけたのは、仕事をしっかりこなすという信頼を得ていたからである。失敗する危険はなるべく犯すべきでは無い。

 

「なあ黒、いいのか?アイツらタクシー乗り場に向かって走っていくぞ?」

「、、、チッ、仕方ねえ。戦闘だ。行くぞ、セッコ!!!」

 

黒は走って空港の物陰から躍り出た。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「待てッッッ!!!」

 

空港の物陰から二人の男が躍り出て、サーレーの行く手を遮った。サーレーは足を止めてその二人を観察した。

一人は東洋人と思しき人間、もう一人は……なんと形容すればいいのだろうか?

サーレーは即座に二人がサーレーたちを足止めしようとした敵であると、そう判断した。

 

【あー。】

「相棒ッッッ!!!俺が奴らと戦うッッッ!!!」

 

緑色の赤ん坊を庇いながら戦う必要のあるサーレーは戦闘に支障があるとそう判断して、ズッケェロが一歩前に出た。

 

「アイツをやればいいんだなッッッ!!!」

「待て!セッコ!!!」

 

黒が拾ったセッコは、黒の制止も聞かずに道路を掻き分けて敵の下へと突貫していった。

黒は、依頼のきな臭さに戦闘に突入することを躊躇していた。

サーレーは地面に潜ったセッコを確認して、防御のために周囲にラニャテーラを発動した。ラニャテーラはネアポリスのコンクリートの道路を強靭に舗装した。

 

「ってことはよォ、俺の敵はオメエだな。」

「……チッ。」

 

コンクリートに潜った敵に対して相棒が能力を発動したことを理解して、ズッケェロは敵の頭数を減らそうと黒の前に立ち塞がった。

ズッケェロの横にソフト・マシーンが姿を現し、細剣が黒へと襲いかかった。黒のスタンドが姿を現し、左手の甲で細剣の軌道を横にズラした。

 

「オラッッッ!!!」

「チッ!!!」

 

細剣が弧の軌道を描き、空間を鋭く翻った。その戦端の軌道は素早く、黒はそれを受けないようにするので手一杯だった。

ソフト・マシーンは近接向きではないのだが、黒のスタンドも近距離戦はさほど強くはない。そのためにセッコという近距離に特化したスタンド使いを護衛として連れていたはずなのだが、セッコは黒の言葉を聞かずに勝手に相手へ向かって行ってしまった。……もうバカを相棒にするのはやめよう。

黒は後悔した。

 

「おあ、ん?おああっっっ?」

 

一方でその頃地中を掻き分けて進んでいたセッコは、敵に向かう最中で唐突に地面を先に進めなくなり困惑していた。

おかしい。いくら能力を使用しても地面が泥化しない。

 

当然それはサーレーのクラフト・ワークがラニャテーラを発動したからであり、サーレーから半径十メートルほどの周囲のコンクリートはクラフト・ワークの固定のエネルギーを流し込まれて固く舗装されていた。

スタンド同士が矛盾すれば、パワーが強い方が勝利する。

 

「オラッッッ!!!」

 

サーレーのクラフト・ワークが、震脚を踏んだ。それは周囲を揺るがし、スタンドパワーが込められたそれはほんの一瞬だけラニャテーラの効果範囲を広げ、地中のセッコは得体の知れないエネルギーに拘束される感覚を味わった。セッコは驚いて慌てて地中から飛び出した。

サーレーのラニャテーラは発動し続けると消耗が激しい。サーレーは地中から敵を炙り出すために震脚を使用した。地中に潜られたらまた防御のためにラニャテーラを発動し続ける必要がある。敵にまた地中に潜られないようにうまく駆け引きをしないといけない。

 

「……てめえ、地中に潜ったらまた今の使ってくるんだろう?同じ手が二度と通用すると思ってんじゃねえ。俺が地上で戦えねえと思ったら、大間違いだッッッ!!!」

 

……バカで助かった。

サーレーは半身になって、左手を緑色の赤ん坊に添えた。右手を前に突き出して、かかってこいのジェスチャーをセッコに示した。

 

「なめやがってッッッ!!!」

「……。」

 

サーレーはなぜだか、目の前の男に負ける気が全くしなかった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

ズッケェロは赤ん坊を守護しながら戦うサーレーを気にかけながら、東洋人と思しきスタンド使いと渡り合っていた。

幸運にも敵は近接にあまり強くないらしく、刺突の一撃が致命的であるソフト・マシーンの細剣への対応で精一杯のように見て取れた。

一つ刺せれば勝利が確定する。ズッケェロは嵩にかかって黒を攻め立てた。

 

「オラッッッ!!!ソラッッッ!!!」

「クッ!!!」

 

細剣の水平の横薙ぎを黒のスタンドはしゃがんで躱した。立て続けにしゃがんだ相手にソフト・マシーンの膝蹴りがとび、黒のスタンドは腕を前方で交差させてそれを防御した。

 

「オラ!喰らいなッッッ!!!」

 

蹴りを防御したことにより若干前かがみになった黒のスタンドに、ソフト・マシーンが細剣を刺突した。

しかし、細剣は突き刺さらない。

 

「なにッッッ!!!」

「やられたぶん、やり返させてもらうッッッ!!!」

 

黒のスタンドは自身の体に一時停止の標識を浮かび上がらせ、そこに細剣を突き立てようとしたソフト・マシーンが一瞬固まった。

黒のスタンドは隙が出来たソフト・マシーンを殴り返した。その拳には、標識が浮かび上がっている。

 

「制限速度、時速二十キロだ。」

「なにッッッ!!!」

 

黒のスタンドがソフト・マシーンに縛りをかけた。ソフト・マシーンは足枷をかけられ、その速度は低下した。

 

「……。」

 

速度が低下したズッケェロは一瞬だけ眼球を動かして周囲を確認すると、次の瞬間に背を向けて逃走を行なった。

黒は相手のその動きに敵の意図を掴みかねて、敵を追いかけるのが遅れてしまった。

黒がズッケェロの背を追って曲がり角を曲がると、そこには一面にシャボンが浮かんでいた。

 

「なっ、何だこれは!?」

 

黒はズッケェロを追いかけるのが物凄く遅くなったわけではない。しかし速度が低下しているはずのズッケェロは曲がり角を曲がると消滅し、代わりに周囲には一面にシャボンが浮かんでいる。

それは黒が危険を認識する間も無く炸裂し、黒の視界がブレた瞬間に足元の排水溝の僅かな隙間から細剣が黒に向かって突き立てようと伸ばされた。

 

「うおおおおおおッッッ!!!」

 

黒は揺れる意識を必死に繋ぎ止めて細剣を横っ跳びに飛んで躱した。ズッケェロの速度に制限をかけていたおかげで辛うじて躱すことが可能だった。黒は慌てて足元の排水溝の位置を確認して敵の攻撃が届かない範囲へと退避した。

排水溝から、声がした。

 

「おい、テメー。倒す前に聞いといてやる。なぜテメーはパッショーネに楯突いた?テメーの仲間がムーロロのダンナをヤッたのか?」

「……は?」

 

黒は困惑した。

黒はパッショーネの依頼でここにいる。……いや待て、それはいい。

 

「……おい、待て。今なんて言った?」

「アン?だからテメーがパッショーネの敵かって聞いてんだよ!」

「いや、違う。それじゃあない。ムーロロさんがヤられた?」

 

黒はヨーロッパで情報屋も兼ねており、自分よりも情報収集能力の高いカンノーロ・ムーロロを情報屋として尊敬していた。

黒はムーロロから依頼を受けることがあったが、同じ情報屋として持ちつ持たれつでやっていた間柄でもあった。ゆえに、ムーロロという化け物のような男がヤられたという言葉が、自分の聞き間違いだとしか思えなかった。

いやそれより、自分が受けたのはパッショーネからの依頼だったはずだ。これはおかしなことになっている。

 

「とぼけてんじゃねえよ。」

「まっ、待てっっっ。俺はパッショーネからの依頼で受けた外注の人間だッッッ。」

「嘘つくな。」

「嘘じゃないッッッ!!!俺はパッショーネの親衛隊の男からお前たちの足止めを金で請け負っただけだッッッ。」

「ハア?」

 

ズッケェロは排水溝からヌルリと出てきて、相手の表情をじっとりと眺めた。嘘をついているようにも見えない。

 

「……それよりも本当なのか?ムーロロさんがヤられたってのは?」

「お前は自分で外注の人間だと言ったはずだ。外の人間がパッショーネの内情を知って、一体どうするつもりだ?」

 

ズッケェロの言葉には迫力があり、黒は自身が失態を犯している可能性が高いことを理解した。

裏の深奥には関わらない方がいい。知らない方がいい。じゃないと、恐ろしい奴らを怒らせてしまう。

 

「……済まねえ。俺の落ち度だ。俺はパッショーネのヴィネガー・ドッピオって親衛隊の男から依頼を請け負っただけだ。アンタがパッショーネの人間なら、俺はもう関わらねえ。どうか逃げ出すのを許してくれ!」

「賢明だ。今イタリアでは裏で暗闘が起こっている。ほとぼりが冷めるまでどっかに避難しといた方がいい。失せな。」

「恩にきる。」

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「テメエッッッ!なめやがってッッッ!」

「なめられる方が悪い。」

【キャッキャッ。】

 

サーレーのクラフト・ワークはセッコの拳を右手のひらで受け流し、すれ違いざまに右回転して左肘をセッコの後頭部に痛打した。

セッコは地面にもんどり打って倒れ、そのままの体勢で左足で蹴りを放った。サーレーはそれを半歩動いて躱し、クラフト・ワークは右手でそのままセッコの左足を掴んで壁に叩きつけた。セッコは慌てて壁を泥化させて防御しようと試み、しかしその瞬間にクラフト・ワークの固定エネルギーを体内に流されて硬直したまま壁に痛烈に叩きつけられた。追撃でクラフト・ワークの前蹴りがセッコの顔面を襲い、セッコは両腕で必死に防御する。セッコは地中にも逃げれない。逃げたらあの変な技で地中に拘束されてしまう。

 

ことここに至って、サーレーは自分のクラフト・ワークが何をしているのかを完璧に理解していた。

何しろ、敵の未来の動きが見えるのである。

 

刑務所での全く余裕のない戦いとは違うが、ここでも守るべき赤ん坊という存在がサーレーに高い集中力を与えていた。

集中したクラフト・ワークは頻繁にサーレーの脳裏に敵の映像を送り込み、もともと近接の強かったクラフト・ワークは未来予知と相まって難攻不落の要塞のごとき防御力を有していた。セッコはサーレーをその場からほとんど動かすことすら出来ず、赤ん坊にも指一本触れられない。一方的に為すがままに攻撃を受けている。

 

「テメエじゃ俺の相手にならねえ。」

「ヒッ。」

 

一歩前に出たサーレーに、手も足も出ないセッコは怯えた。

 

「おい、セッコ。逃げるぞ!」

 

その時別の場所で戦っていた黒とズッケェロがセッコとサーレーの下に現れた。

サーレーの視線がそっちに流れ、セッコはこれ好機とばかりに地面を泥化させてサーレーに投げ付けた。

 

「あっっ!このバカッッッ!!!」

 

投げたコンクリートは尖った矢となり、サーレーの頭部へと向かっていく。サーレーはそれを首を動かして軽く躱した。矢はサーレーの頬をかすめ、血が糸を引いた。

 

【あー!】

 

緑色の赤ん坊がサーレーの傷跡をなぞり、跡は消えていった。

 

「あ……。」

「……躾が、必要みたいだな。」

 

サーレーの額に血管が浮かび上がり、攻撃を認識した緑色の赤ん坊のスタンドがセッコを襲った。

身長が半分になったセッコは、怒ったクラフト・ワークに散々に殴られた。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

名称

スタンド名

トラフィック・レギュレーション

概要

標識を壁や地面、自分などに浮かび上がらせて、それに触れたものに強制的に守らせる。標識に触れた人間にさわった人間も、能力が伝播する。同時に二つ以上標識を出したり、同じ標識を立て続けに出したりはできない。おかしな陰謀に関わらされていることに気付き、依頼を放棄して母方の祖国の中国へと逃亡した。

 

名称

セッコ

スタンド名

オアシス

概要

元パッショーネの人間。チョコラータの相棒だったが、何がどうなったのかヨーロッパの何でも屋に拾われていた。地面を泥化させる能力。サーレーに折檻された後、黒に連れられて中国へ逃亡した。

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