噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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もうすぐ新元号ですねー。
感慨深い。平成にも愛着がありましたが、、、時代は進んでるんですね。


援軍

【あー。】

「オイ、シーラ・E。俺はこいつをしばらく預かってくれって意味合いでお前に預けたんだが?」

 

サーレーがシーラ・Eをジト目で睨んだ。シーラ・Eはサッと目を逸らした。

 

「……仕方ないじゃない。その子アンタたちから離れた後は泣き喚いて、他人に預けようとするとスタンド能力を使って見境なく身長を縮ませようとするのよ。そんなの私に、どうしろって言うの?」

 

サーレーはため息を吐いた。

ディアボロが去った後、サーレーたちはジョルノの取り計らいでネアポリスのパッショーネの息がかかったホテルの一室に集まっていた。

 

戦いが終結した後ジョルノは疲労の極みにあり、ズッケェロに肩を借りても満足に歩けないという有様であった。ジョルノと共に戦闘していたグイード・ミスタも疲労で足取りが覚束ない。サーレーの左腕は敵の攻撃を受けて炭化して関節部から欠落ち、サーレーも連戦の疲労が祟ってしばらくはマトモに動けなかった。唯一動けるズッケェロも決して本調子ではない。

 

結局、しばらく図書館から動けずにいた彼らの移動を取り計らったのは、周辺の避難確認を終えて図書館へと帰還したシーラ・Eであった。

シーラ・Eはジョルノの命令に従い秘密裏にネアポリスのパッショーネの息がかかったホテルを手配し、戦いを終えた戦士たちの一時の休息を護衛していた。

ホテルに辿り着いたシーラ・Eを除く全員は一時の安堵から眠りこけ、彼らが動き出したのは翌日であった。

 

「みっともないところを見せたね。」

「いいえ。本来ならば俺たちがしっかりと護衛しないといけなかったのに、、、。申し訳ありません。」

「気にしないでくれ。あんな強力なスタンドがこの世に存在するなんて誰も思わないし、君たちは戦ってくれた。」

 

ジョルノが二人に告げ、サーレーがそれに答えた。

 

「……さて、互いの持っている情報の擦り合わせと、今後の方針を決めないといけない。、、、シーラ・E、済まないが君は少し席を外してくれ。」

「嫌ですッッッ!!!」

「……。」

 

しばしジョルノと部屋の入り口に立つシーラ・Eは向き合い、ジョルノはシーラ・Eの意思の強さを探った。

 

「シーラ・E。君には向いていない。ここから先の話は、君には聞かせられない。君は戦場を戦う戦士では、ない。」

 

ジョルノはシーラ・Eに向かってはっきりと告げた。

シーラ・Eは自分よりも正しいと感じた相手とは戦えない。ディアボロは本来なら組織の正当なボスであり、ジョルノは武力で組織を簒奪した偽りの王である。殺し合いの場で生き抜ける可能性があるのは、間違っていたとしても矛盾していたとしても、最後まで戦い抜ける人間だけである。

ジョルノは、シーラ・Eを戦場に連れていく気はなかった。

 

「……ジョルノ様ッッッ!!!そんなに、、、そんなに私が頼りありませんかッッッ!!!」

「僕は君に感謝している。君はパッショーネで有用な人材だったし、君は組織のために尽くしてくれた。だが、それとこれとは別の話だ。君は、戦いに生き残った者に従え。」

「何故ですか?せめて、せめて私を連れて行かない理由をお聞かせくださいッッッ!!!」

 

ジョルノは静かにシーラ・Eの目を見て告げた。

 

「結局、君はまだ社会に守られるべき子供だということだ。」

「……ッッッ!!!」

 

ジョルノのその言葉は、シーラ・Eを痛烈に打ちのめした。シーラ・Eは俯いて、やがて部屋を出て行った。

 

「……さて、まずはサーレーの左腕の再生から始めよう。」

 

ジョルノがサーレーに近付き、ジョルノが手に持ったテントウムシのブローチは暖かな黄金の光に包まれた。

ジョルノはそれをサーレーの傷痕に当て、サーレーの腕は再生した。

 

「ありがとうございます。」

「気にしないでくれ。君はもう巻き込まれてしまった。」

「さて、んじゃあ互いにわかっている情報を擦り合わせるとするか。」

 

ミスタが座っていたベッドから立ち上がった。

 

「まずは俺から説明しよう。俺がイタリアで起きたことの情報を一番得ている。サーレー、ズッケェロ、お前らがイタリアを離れた直後に、パッショーネのスタンド使いが二人やられた。やられたのはローマ支部防衛チームのヴェロッティと、ネアポリス支部防衛チームのセルツィオ。二人はパッショーネでも貴重な、スタンドエネルギーを探知する探知タイプのスタンド使いだった。おそらくはディアボロ……昨日の図書館の男だが……そいつにとって、探知タイプのスタンド使いの存在が邪魔だったんだろう。これは俺たちのミスと言えるかもしれない。敵がパッショーネの内情を理解しているとは、想定していなかった。最初にヴェロッティがやられたのが、偶然だと俺たちは考えちまったんだ。そこに敵の何らかの意図が働いているとは考えなかった。後手に回った俺たちは慌てて警邏を増やし、俺とムーロロは警邏の最中にネアポリスでディアボロと遭遇した。ムーロロは身を呈して俺を逃した。」

 

ミスタはそこで一息ついた。ジョルノがミスタの説明を引き継いだ。

 

「ミスタが僕の下に戻った後、パッショーネの各支部が敵に襲撃された。それは本格的にパッショーネを陥落させようとするものではなく、おそらくはパッショーネの戦闘員を各地に防衛のために散らばらせるのが目的だったと推測される。ディアボロの目的が手薄になった僕のいる図書館だと僕は理解し、無駄な死人を減らすために僕はミスタと二人きりで図書館でディアボロを待ち受けた。敵と全面戦争になれば、敵の全貌が見えていない以上被害が想定出来なくなる。そのあとは、君たちも知っている通りだ。」

 

ジョルノがイタリアで起きたことを掻い摘んで説明した。

ジョルノがミスタと二人きりでネアポリスの図書館でディアボロを待ち伏せたのも、この世にスタンドというものが存在するせいである。ディアボロの最大の目的は二人であることに間違いなく、スタンドはものによってはフーゴやチョコラータのスタンドのような単体で大量虐殺が可能なものすら存在するからである。

 

「じゃあ次は俺たちの報告ですね。俺たちはアメリカで刑務所に潜入し、空条徐倫との接触を行いました。所内には何人ものスタンド使いがいて、徐倫たちと協力してそいつらを退けていきました。その際に、所内で得た協力者たちに便宜を図ることを約束してしまいましたが……。」

「それは後回しでいいよ。」

「はい。所内に隠し部屋をつくることが可能なスタンド使いがいて、俺たちは基本そこに潜伏していたんですが……。ある日の夜に唐突に見えない得体の知れない何かが刑務所を襲ってきて、急いで協力者を集めて隠し部屋の防衛を行いました。立て続けに今度は見える敵が部屋の中に侵入してきて、戦いになりました。俺たちはそいつらになんとか勝利して退けたんですが、戦った奴らの一人が、黒幕の目的は現生人類の根絶だと……敵の情報なので信憑性には欠けますが、そいつの言うところによると、刑務所の一連の事件の首謀者の名はエンリコ・プッチ。そこまでわかったところでムーロロに報告を行おうとしたところ、ムーロロへの電話が通じませんでした。」

「あ、俺からも補足させてください。」

 

サーレーがそこまで喋ったところで、横からズッケェロも口を出した。

 

「すみません、ボス。俺が、ムーロロのダンナへの伝言をうっかりシーラ・Eに頼んでしまったんです。その後に俺たちはシーラ・Eからパッショーネの危機を聞きつけて、急いで戻ってきました。アメリカで起きてる件は、空条徐倫と刑務所の協力者たちに任せてきてしまいました。」

「ああ、なるほど。道理でシーラ・Eが僕の下に来てしまったわけだ。」

 

ジョルノは得心した。

ジョルノは彼女をこの件に関わらせるつもりがなかったのだが、なぜか彼女はムーロロがやられたことを知っていて、図書館で敵を待ち受けるジョルノの下に馳せ参じてしまったのだ。そのために、ジョルノはシーラ・Eを避難させるためにすでに完了していた周辺住民の避難確認を彼女に指示することになった。

 

「……すみません。責は負います。」

「いや、もうこんな事態だしこの際不問にしよう。なにはともかく明後日の決闘に勝たなければ何もかもがどうにもならない。君たちを巻き込んだことも、申し訳なく思っている。」

「いえ……。」

「さて、ではわかっている敵の情報を君たちにも教えておこう。図書館で遭遇した男の名は、ディアボロ。パッショーネの前ボスだ。奴のスタンドは未来に向かって時間を消し飛ばす能力だったのだが、、、。」

 

ジョルノはそこまで呟いて考え込んだ。

 

「どうしたんですか?」

「……ディアボロは用心深い男で、勝算のない戦いをする男ではない。以前僕の能力で奴を終わりのない牢獄に捉えたはずなのだが……どうやって戻ってきたのか定かではない。……この世に真の永遠など存在しない。奴が戻ってきたことを考えれば、奴が何らかの新たな能力を獲得した可能性を頭に入れておくべきだろう。」

「なるほど。」

「まあ、はっきりと言ってしまえば、僕たちには勝算がない。奴は勝てる戦いでない限り、姿を現すような男ではない。奴は正式なパッショーネのボスで、君たちはパッショーネが手塩にかけた人材だ。せっかく育て上げた君たちを無為に死なすのは惜しい。君たちはたとえ僕たちが居なくなっても、イタリアという国家に貢献することはできる。……君たちが奴に寝返ったとしても、僕たちは責めない。」

「馬鹿なことを。ボスは帝王らしく、俺たちに戦って死ねとでも笑いながら命令してください。」

 

弱気を見せたジョルノを、サーレーが笑い飛ばした。

 

「ああ、そう言えば。」

「どうしたんだい、ズッケェロ?」

 

ズッケェロが何かを思い出したように声を出した。

 

「ボス……このオッサンを問答無用で処分するのは、勘弁してもらえませんか?」

 

ズッケェロが隣を指し示した。

そこにあったのは、ズッケェロのソフト・マシーンの能力で仮死状態となったジャック・ショーンだった。

 

「僕たちも、向こうの組織にその意図を尋ねる必要がある。しばらくは処分するつもりはない。だが、どうしてだい?」

「このオッサン、俺の攻撃を受ける瞬間に笑ってたんですよ。多分このオッサン、俺がいることに気付いてた。」

「そういえば……。」

 

ズッケェロのその言葉に、サーレーも今の今まで頭から抜け落ちていたことを思い出した。

 

「俺も思い出しました。図書館でその男のスタンドが放った矢は、俺の心臓を貫くはずの軌道でした。でも矢は直前におかしな動きをして、違う場所に刺さりました。」

 

サーレーはコマ送りで、本来の矢の軌道が自身の体の中央線を射抜くものであることを見抜いていた。

 

「……わかった。君たちの話はしっかりと頭に入れておこう。だがなにはともあれ、全ては明後日の戦いに勝って生き残ってからの話だ。」

「「はいッッッ。」」

【あー。】

 

 

 

◼️◼️◼️

 

その日の夜、サーレーとズッケェロはホテルのテラスで高級な酒を飲んでいた。赤ん坊がそばにいるから深酒はするつもりはない。

 

生きてるうちに少しくらい、贅沢したっていいだろう?

彼らは決闘の日付けまでは、各々好きに過ごすことをジョルノから言い渡されていた。

 

「楽しもうぜ。シャバで最後の夜だ。」

【あー。】

「オメーそれこないだも言ってたよな?気に入ったのか?まだ明日もあるし、それ全然面白くねーぞ?オメー、ユーモアセンスゼロだな。」

 

ズッケェロがパスタにフォークを突き立てながら指摘した。

 

「なんだとテメー!」

「ふはっ。」

「あ、シーラ・E。」

 

二人が料理としょうもない会話を楽しんでいると、二人のテラス席のそばにシーラ・Eが近付いてきた。

思い詰めたシーラ・Eは幽鬼のように青い顔をしていた。サーレーはシーラ・Eに頼みがあったことを思い出した。緑色の赤ん坊の世話を誰かに任せないといけない。

 

「オイ、シーラ・E。そういやお前に頼みがあったんだよ。お前こいつまだしばらく預かっといてくれよ。」

「イタリアで何やら異常が起きていることには、私だって気付いているわ。」

 

シーラ・Eは二人が座るテーブル席の椅子を引いて席に座った。シーラ・Eは二人の酒を勝手にグラスに注いで一気に飲み干した。

 

「テメー、俺たちの酒を勝手に飲んでんじゃねーよ。それ、たけーんだぞ?」

 

値が張るとは言っても、それはジョルノから出た金であった。

シーラ・Eはサーレーを横目で睨んだ。

 

「あんたたち、帰ってくる保証はないんでしょう?赤ん坊は自分でどうにかしなさいよ。」

「そう言わずに頼むよ。」

「……私の疑問に答えてくれたら赤ん坊を預かってもいいわよ。」

 

シーラ・Eの目は早くも据わっていた。

 

「お、おう……。」

「ねえ、どうしたら私はジョルノ様とパッショーネのお役に立てるの?私はどうすればよかったの?」

 

それは、シーラ・Eの切実な疑問だった。サーレーとズッケェロは目を合わせて、その疑問にサーレーが答えた。

 

「さあ。」

「私にだってパッショーネに危機が訪れていることがわかる……。イタリアに恐ろしいことが起きようとしてるのがわかる……。私だって、何かの役に立ちたいのよ!!!!私は、どうすればいいの!!」

「こいつを預かってくれれば俺たちは助かるが。」

【あー。】

 

サーレーはテーブルに乗せた緑色の赤ん坊の頭を撫でた。

 

「ふざけないで!私も戦いでお役に立ちたいのよ!!!」

「じゃあボスの言うことを無視して、勝手に俺たちに着いてくればいいんじゃないか?」

「ジョルノ様のお言葉に逆らえるわけないじゃない!!!」

「じゃあ、大人しくしているべきだ。」

 

当然の帰結だった。

結局は、シーラ・Eはその二択から選ぶしかないのだ。この短期間で、ジョルノがシーラ・Eに関する意見を翻すことはまず無い。

 

それは、忠犬と猟犬の決定的な違いだった。

どちらも飼い主に忠実であるが、飼い主の言うことをただ聞いていれば条件を満たす忠犬に対して、戦場を駆ける猟犬はギリギリの局面を自身で見極めて判断しないといけない。猟犬は、組織や社会、自身のボスのためになるとそう判断すればボスの言葉にも諫言や上申を行い、場合によっては指示を無視して独断で行動する。そうあらねば猟犬とは役に立たないのである。

 

暗殺チームの二人はパッショーネにそのように育てられ、そしてそれが彼らなりの組織やボスへの忠誠だった。それがジョルノの言う彼らの首輪を外すという意味合いである。

 

「私だって、お役に立ちたいのよ!!!」

「結局、ボスのおっしゃる通りなんだよ、シーラ・E。大人ならば大切な物は自分で守るし、大切なことは自分で決める。お前が大人ならばそうするべきだ。それを全て組織とボスに委ねている時点で、お前は戦いに来るべきではないんだよ。」

 

シーラ・Eは黙り込み、考え込み、やがて口を開いた。

 

「……その子を渡しなさい。私が預かっておくわ。」

 

シーラ・Eは席を立って去って行った。

それからしばらくして、サーレーの携帯電話が鳴った。

 

「あん、こんな時に誰よ?」

「財団からだ……一体何が……?」

 

それは刑務所でかかってきたスピードワゴン財団からの連絡先だった。

サーレーは発信先に訝しみながら、通話ボタンを押した。

 

「もしもし、どうしました?」

『サーレー、久しぶりというほどでもないか。』

「ウェザー!どうしたんだ?なぜお前がこの番号を?」

 

電話の受け先は刑務所の協力者、ウェザー・リポートだった。

 

『詳しい話は後で話す。とにかく、俺とアナスイは財団のプライベートジェットで至急イタリアに向かっている。』

「なぜ……?」

『プッチがミューラーの記憶を盗み見たんだ。プッチは今現在イタリアに潜伏している。ミューラーの記憶のディスクについてはすでに取り戻している。そこは心配しないでくれ。俺たちはお前らの援軍に向かうよう、徐倫からの指示があった。』

「ちょっと待て……こっちは今状況がよろしくない……。」

『もう遅い。俺たちもすでにアメリカを出立した。俺たちは明日の朝にはそっちに到着する。』

 

サーレーは内心で舌打ちした。今のパッショーネ側は非常時だ。

 

「どうした?」

「どうにも、アナスイとウェザーがこっちに向かっているようなんだ。エンリコ・プッチが俺たちを追ってイタリアに入国したらしい。」

「……よりにもよってこの非常時に……。」

 

ズッケェロも舌打ちをした。

 

「……仕方ない。ウェザーたちはすでにアメリカを発ったようだし、明日にはこっちに到着するそうだ。とりあえず明日になったらボスに面通しをして、それからどうするか相談しよう。」

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「……どうすればいいのかしら。」

【だー。】

 

シーラ・Eはネアポリスの自分の家の中で、緑色の赤ん坊に問いかけた。

彼女の家は襲撃された図書館の近郊にあり、そこはすでに避難警報が解除されて住民も自分の住居に戻っていた。

 

彼女にも危険なことが起こっているのはわかる。

アメリカの刑務所に潜入任務を行なったサーレーたちの報告によると、アメリカでは一夜にして千三百人もの人間が失踪し、イタリアではカンノーロ・ムーロロが暗殺されて各支部も襲撃を受け、ジョルノの本拠地である図書館も襲撃された。挙句に、図書館の破壊痕は尋常なものではなかった。

パッショーネとイタリアに危機が訪れている。不穏な事件も起きている。にも関わらず、彼女は蚊帳の外に置かれている。

ジョルノがそれに彼女を関わらせまいとしていることが、彼女にも理解できた。

 

理屈ではわかっている。

パッショーネとイタリアに危機が訪れても、例えばシーラ・Eがこの赤ん坊を任されたように戦場でなくても出来ることは山ほどある。

……たとえそれでも。

 

「苦しいの……。パッショーネの、イタリアのために戦えないことが、苦しい……。」

 

シーラ・Eは俯いて、赤ん坊を眺め続けていた。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「彼らは?」

「俺たちがアメリカの刑務所で得た協力者たちです。」

「ウェザー・リポートだ。」

「ナルシソ・アナスイ。」

「オイ、お前ら。このお人は組織のボスだ!きちんと敬意を払えや!!!」

「ああ今はいいよ、ズッケェロ。非常時だ。」

 

ウェザーとアナスイは予定通りの時刻にイタリアに到着し、サーレーは二人をボスのジョルノの下へと連れてきた。

ネアポリスにあるホテルの一室で、彼らは面通しを行なった。

 

「……その協力者がなぜ今ここに?」

「そのことについては、別れた後に起こったことの報告も兼ねて、俺が説明する。」

 

ウェザーが部屋の中で一歩前に出た。

 

「刑務所を出て俺たちが別れた後、俺たちは周辺の捜索を行ったがエンリコ・プッチの足跡は掴めなかった。有事であり、危険な目的を持つ敵であることから、徐倫は独断でスピードワゴン財団にプッチの足跡を追う助力を頼んだところ、財団の迅速な調査によりプッチはアメリカ国内からすでに脱出していることが判明した。そしてその直後に、ミューラーたちの護衛を任せていたエルメェスからエンリコ・プッチが襲撃してきたとの連絡がきた。俺たちと徐倫が二手に別れた理由は簡単だ。追っ手の俺たちを分断するために、プッチはアメリカにディスクを全て置いてきたんだ。そのために、徐倫とエルメェスとフー・ファイターズはアメリカで徐倫の父親のディスクを取り返すためにプッチの部下と戦っている。そっちに関してはアメリカにプッチの部下がもうさほど数が残っていなかったため、余剰戦力の俺たちにお前たちの援軍として白羽の矢が立ったというわけだ。」

「……なるほど。理由はよくわかった。しかし、今は時期が悪い。」

 

ジョルノがウェザーの話を聞き、頷いた。

 

「俺たちもアンタたちの組織が危機に瀕しているという話はすでに聞いている。だからいっそのこと、ここは互いに全面的に協力しないか?」

「……しかし、パッショーネの敵は危険な相手だ。おそらくは生死をかけた戦いになる。部外者を戦わせるわけには……。」

「いいや、俺たちは部外者じゃあない。俺たちはエンポリオの未来のことを考え、徐倫の手助けをしてくれたサーレーとズッケェロに感謝している。サーレーは俺たちの将来も組織で引き取る約束をしてくれた。俺たちはもう、あなたたちの組織の一員だ。あなたたちのために、俺が戦いたいんだ。それにここでボスのあなたに恩を売れれば、俺たちの未来も明るいだろう?平穏とは、戦ってでも勝ち取るべきだ。違うか?」

「……ッッッ!!!」

 

ウェザーは、静かに笑った。

社会とは矛盾に満ちている。彼らは戦いを嫌い平穏を愛するがゆえに、戦うのである。

その言葉はジョルノの矜持と共通するものがあり、ジョルノはその表情に覚悟を読み取った。

 

「……キミは?」

「……フン。ここにいることで、察しろ。」

「……君たちに礼は言わない。僕はボスで、君たちは関わってしまった。君たちは組織のために戦い、命をかけて平穏を勝ち取って欲しい。」

「任せてください。」

「了解、ボス。」

「ああ。」

「フン。」

 

ジョルノは笑い、ミスタも笑った。彼らのモチベーションは最高に保たれていた。

 

「ああそうだ、サーレー。組織に新たな人員を迎えるのなら、どこかの経費を削らないといけない。差し当たっては、彼らを独断でパッショーネに引き入れたキミの給料を削ろうと思うんだが?」

「ッッッ!!!」

 

サーレーは驚愕して、反射でジョルノを振り返った。

これ以上給料を減らされたら、生きていけない!

 

「冗談だよ。冗談。」

「ハハッ、さすがボス。相棒よォー。ユーモアってのはこうやるんだぜ?」

「……笑えませんッッッ!!!」

 

ホテルの一室は、笑い声に包まれた。

 

「じゃ、いっちょ決起集会と親睦を兼ねて、軽く酒でも飲むとするか。泣いても笑っても、決闘はもう明日だ。」

 

ミスタがサーレーに命令して、サーレーはホテルのテラス席を手配した。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「私がッッッ……!!!あの男を始末するッッッ!!!あの男は、神からの授かりものを私から奪い去ったッッッ!!!」

 

ディアボロは、目の前の神父に目をやった。神父はディアボロに詰め寄り、目が血走っている。

ディアボロは図書館から拠点に帰還する最中であり、彼は図書館から後をつけられていた。

神父のその執念にはディアボロであっても目を見張るものがあり、暗殺チームは今なおディアボロにとっても警戒の対象だ。

……ちょうどいい。

 

「……いいだろう。これを貴様に渡しておこう。」

「感謝するッッッ!!!」

 

悪意と悪意は、手を組んだ。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「そんなわけで、世にも珍しい女性口調で喋る馬の出来上がりだ。エフ・エフが所構わずに徐倫に話しかけるせいで、徐倫も人目を誤魔化すのに困り果てていた。」

「ハハッ。なんだそりゃあ。ひっでえな。馬って言うか、UMAじゃねえかッッッ!!!」

 

ミスタがウェザーと話しながら、テーブルで笑い転げていた。

どうやらあの後、フー・ファイターズはアメリカの牧場に放置されていた馬の死骸に取り付いたらしい。徐倫たちは、それに乗って広大なアメリカを移動することにしたようだ。

 

「それで、どうなったんだ?」

「とりあえず刑務所で味方につけた奴がアメリカの政府に事件の首謀者を訴え出て、それが正式に認められればプッチは危険なテロリストとして国際指名手配されることになるらしい。アメリカの裏社会が刑務所で起こった出来事の精査に向かったそうだ。どうやらアメリカには、スタンド能力の解析専門のスタンド使いがいるらしい。」

「ほー。アメリカではそんなことになっているのか。」

 

ウェザーがミスタのグラスに酒を注いだ。

その隣では、ジョルノとアナスイとズッケェロが話をしていた。

 

「……んでボス。オレたちが役に立ったら、オレが徐倫と結婚することを許して欲しいんですが……。」

「それには当人の同意が必要だろう?」

「いえ、それはオレにもわかっている。」

「わかっています、だろうが!」

 

ズッケェロがアナスイの脇を小突いた。

 

「……オレにもわかっています。サーレーは、オレたちがイタリアの社会に罪落としが認められたら、オレを祝福して応援してくれると言ってくれた……。」

「ああ、そういうことか。そうだね。君がパッショーネで一人のイタリア人として認められたら、僕も祝福しよう。なんだったらその時はパッショーネで結婚式の段取りをとっても構わない。」

「ありがとうございますッッッ!!!」

 

酒の席は和やかに進み、寡黙で温厚なウェザー・リポートは彼らにすぐに受け入れられた。

アナスイは言葉が悪かったが、ズッケェロが付き添ってフォローしていたことにより席は円滑に進んでいった。

 

サーレーは、穏やかな目で宴会の席を眺めていた。

 

戦いに勝てば今の平穏は守られ、敗北はイタリア社会の混乱と迷走を意味する。

そこにはもちろんイタリアに住む市民も含まれ、敗北したら犠牲の上に築いたイタリアの平穏は砂上の楼閣のように儚く崩れ去るのかもしれない。

 

サーレーは目の前の和やかな酒の席を、守りたい。

たとえうだつの上がらないチンピラと罵られても、愚かな人間とバカにされても、出来ることは残されている。

彼に立派な人生を築き上げることは出来なくても、誰かが築き上げた大切な何かを守る事は出来る。

 

天国は日々のささやかな幸せの中に存在し、神は人の中にのみ存在する。

楽園の守護者である処刑人は、完成に近付いていた。

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